生活保護受給者と,修習給付金及び修習専念資金との比較


目次

1 生活保護受給者の権利及び義務
2 生活保護に基づく支給の種類
3 生活保護で支給される金額の例
4 修習給付金及び修習専念資金との比較
5 生活保護に関するメモ書き
6 関連記事

1 生活保護受給者の権利及び義務
・ 大阪府門真市HPの「生活保護受給者の権利と義務」(リンク切れ)によれば,以下のとおりです。
(1) 生活保護受給者の権利
① 不利益変更の禁止(生活保護法56条)
   正当な理由なく、保護費を減らされたり保護を受けられなくなったりするなどの不利益を受けることはありません。
② 公課及び差押えの禁止(生活保護法57条及び58条)
   保護により支給された金品には、税金をかけられたり、差し押さえられたりすることはありません。
(2) 生活保護受給者の義務
① 譲渡禁止(生活保護法59条)
   保護を受ける権利を他人に譲り渡すことはできません。
② 生活上の義務(生活保護法60条)
   常に能力に応じて勤労に励み、支出の節約を図り、その他生活の維持、向上に努めなければなりません。
③ 届出の義務(生活保護法61条)
   世帯に収入があったときや世帯員の状況に変化があったときは、福祉事務所へすみやかに、正しく届け出なければなりません。
④ 指示等に従う義務(生活保護法62条)
   福祉事務所が最低生活の保障と生活の向上や自立のために必要な指導・指示をしたときは、これに従わなければなりません。

2 生活保護に基づく支給の種類

(1) 生活保護受給者の場合,以下のように,生活を営む上で必要な各種費用に対応して扶助が支給されます(厚生労働省HPの「生活保護制度」参照)。
① 生活扶助:日常生活に必要な費用(食費・被服費・光熱費等)
② 住宅扶助:アパート等の家賃
③ 教育扶助:義務教育を受けるために必要な学用品費
④ 医療扶助:医療サービスの費用
⑤ 介護扶助:介護サービスの費用
⑥ 出産扶助:出産費用
⑦ 生業扶助:就労に必要な技能の修得等にかかる費用
⑧ 葬祭扶助:葬祭費用
(2) 生活保護受給者の場合,居住移転の自由に対する制約はありませんし,働いて得た収入のうち,必要経費及び基礎控除額等を差し引いた分は手元に残ります。

3 生活保護で支給される金額の例

(1)   生活保護で支給される金額は,1級地1,1級地2,2級地1,2級地2,3級地1,3級地2の6段階となりますところ,例えば, 東京都特別区,横浜市,さいたま市,大阪市,京都市,神戸市及び名古屋市は1級地1に該当します。
   そして,平成28年4月現在, 1級地1に居住する3人世帯(夫婦子1人)(33歳,29歳,4歳)の場合,生活扶助として16万110円が支給され,住宅扶助として最大6万9800円が支給されますから,合計22万9910円となります(厚生労働省社会・援護局保護課の,平成28年5月27日付の「生活保護制度の概要等について」右下13頁(PDF15頁)参照)。
(2) 布施弘幸行政書士事務所HPの「生活保護 金額 自動計算」を使えば,都道府県,市町村,世帯構成等を入力することで,生活保護費を計算することができます。

4 修習給付金及び修習専念資金との比較

(1) 33歳の司法修習生,29歳の専業主婦及び4歳の子供という家族構成の場合,毎月17万円の修習給付金(うち,住居給付金は毎月3万5000円),及び毎月12万5000円の修習専念資金(うち,2万5000円は扶養加算)の合計29万5000円を支給してもらえます。
(2) 扶養家族のいない,神戸地裁配属の71期司法修習生の場合,最大で,平成30年分所得税が7万7100円となり,平成31年度住民税が16万2000円となり,平成31年度国民健康保険料は24万4160円となります(「修習給付金に関する司法研修所の公式見解を前提とした場合の,修習給付金に関する取扱い」参照)から,ひと月当たりの負担額は,48万3260円÷12月=4万272円となります。
   これに対して生活保護受給者の場合,国民年金保険料を支払う必要がありませんし,自分で医療費を支払う必要がありませんし,所得税,住民税及び国民健康保険料を支払う必要はありません。
   そのため,夫婦で3万2680円の国民年金保険料(平成30年度の金額です。日本年金機構HPの「国民年金保険料」参照)及び医療費の自己負担をも考慮すれば,平成28年4月時点において最大で毎月22万9910円を支給してもらえる,東京23区における3人暮らしの生活保護受給世帯の方が手取り額が多いかもしれません。
(2) 生活保護受給者の場合,支給された生活保護費を返還する必要はないのに対し,司法修習生の場合,貸与された修習専念資金を返還する必要があります。

5 生活保護に関するメモ書き

(1)  生活保護処分に関する裁決の取消訴訟は,被保護者の死亡により当然に終了します(朝日訴訟に関する最高裁大法廷昭和42年5月24日判決)。
(2)ア 生活保護法による保護を受けている者が同法の趣旨目的にかなった目的と態様で保護金品又はその者の金銭若しくは物品を原資としてした貯蓄等は,同法4条1項にいう「資産」又は同法8条1項にいう「金銭又は物品」に当たりません(最高裁平成16年3月16日判決)。
イ  生活保護法62条3項に基づく保護の廃止の決定に先立ち,処分行政庁による被保護者に対する同法27条1項に基づく指示が生活保護法施行規則19条により書面によって行われた場合において,当該書面に,指示の内容として,被保護者の特定の業務による毎月の収入を一定の金額まで増収すべき旨が記載されているのみで,被保護者の保有する自動車を処分すべきことも指示の内容に含まれているものと解すべき記載は見当たらないといった事情の下においては,処分行政庁が被保護者に対し従前から増収とともにこれに代わる対応として上記自動車の処分を口頭で指導し,被保護者がその指導の内容を理解しており,当該書面にも指示の理由として従前の指導の経過が記載されていたとしても,上記自動車の処分が当該指示の内容に含まれると解することはできません最高裁平成26年10月23日判決。なお,同判決の解説として「京都市伏見福祉事務所長生活保護廃止決定事件」参照)。
(3) マネーファクトHPに「生活保護受給者がお金を借りる最終手段!受給中でも借りられる?」が載っています。
(4) 交通事故による被害者は,加害者に対して損害賠償請求権を有するとしても,加害者との間において損害賠償の責任や範囲等について争いがあり,賠償を直ちに受けることができない場合は,他に現実に利用しうる資力がないかぎり,傷病の治癒等の保護の必要があるときは,同法4条3項により,利用し得る資産はあるが急迫した事由がある場合に該当するとして,例外的に保護を受けることができるのであり,必ずしも本来的な保護受給資格を有するものではありません(最高裁昭和46年6月29日判決)。
(5) 最高裁平成24年2月28日判決は生活扶助の老齢加算の廃止を内容とする生活保護法による保護の基準の改定が生活保護法3条又は8条2項の規定に違反しないとされた事例です。
(6)ア 平成26年7月1日以降,生活保護法78条に基づく徴収金(不実の申請その他不正な手段により生活保護を受けたような場合の徴収金)は非免責債権となっています(生活保護法78条4項・破産法97条4号及び253条1項1号)。
イ 平成30年10月1日以降,生活保護法63条に基づく返還請求権(急迫の場合等において資力があるにもかかわらず,保護を受けた場合の返還金)は非免責債権となっています(生活保護法77条の2・破産法97条4号及び253条1項1号)。
(7)ア 生活保護法による医療扶助をもらっている場合,市区町村長に対し,「生活保護法による医療扶助の診療報酬明細書、施設療養費明細書、訪問看護療養費明細書及び調剤報酬明細書」の開示請求ができると思います(東京都豊島区の生活保護法による医療扶助の診療報酬明細書等の開示に関する要綱参照)。
イ 令和3年に改正された個人情報保護法が令和5年4月1日に施行されましたから,任意代理人でも個人情報開示請求ができるようになりました(愛知県稲沢市HPの「個人情報保護法改正に伴う個人情報の開示請求の手続きの変更について」参照)。


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