目次
1 総論
2 平成23年11月1日配信の記事
3 給与制から貸与制に移行した理由
4 給費制を維持すべきとの見解から述べられた意見
5 関連記事その他
1 総論
平成23年3月11日に東日本大震災が発生しました。
また,法務省の「法曹の養成に関するフォーラム」(平成23年5月25日初開催)は,平成23年8月31日,司法修習生に対する経済的支援の基本的な在り方は,「貸与制を基本とした上で,個々の司法修習終了者の経済的な状況等を勘案した措置(十分な資力を有しない者に対する負担軽減措置)を講ずる。」等とする第一次取りまとめを行いました(法務省HPの「法曹の養成に関するフォーラム」の「第一次取りまとめ」及び「概要」参照)。
そのため,平成23年11月採用の新65期以降については特段の法改正はなされませんでしたから,新65期から司法修習生の修習資金貸与制が開始しました。
2 平成23年11月1日配信の記事
・ 時事通信社2011年11月1日配信の記事には以下の記載があったみたいです(弁護士作花知志のブログ「司法修習生の給与制が廃止へ」参照)。
「給与制廃止を了承 民主党
民主党は11月1日,司法修習生に月額約20万円を支給する『給費制』を廃止し,無利子の『貸与制』に移行する政府方針を了承することを決めた。党の判断を一任されていた前原誠司政調会長が同日の政調役員会で報告した。
前原氏は記者会見で廃止理由について,『私も父を亡くしてから奨学金を活用し,中,高,大学と学ばせてもらった。借りたものは返済することが法曹界に限らず基本だと思う』と説明。経済的な困窮者には返済猶予措置を講じると強調した。
政府は貸与制移行のための法案を今国会に提出する方針だが,民主党内には給費制存続を求める意見も強く,法務部門会議で議論していた。」
3 給与制から貸与制に移行した理由
・ 平成29年4月18日の参議院法務委員会における国会答弁資料によれば,給与制から貸与制に移行した理由は以下のとおりです。
① 司法修習生の増加に実効的に対応する必要があったこと
② 司法制度改革の諸施策を進める上で限りある財政資金をより効率的に活用し,司法制度全体に関して国民の理解が得られる合理的な財政負担を図る必要があったこと
③ 公務員ではなく公務にも従事しない者に国が給与を支給するのは現行法上異例の制度であること
等を考慮すれば,給費制を維持することについて国民の理解を得ることは困難であった。
4 給費制を維持すべきとの見解から述べられた意見
「法曹の養成に関するフォーラム」の「第一次取りまとめ」4頁及び5頁には,「給費制を維持すべきとの見解(貸与制導入に支障があるとの見解)」として以下の趣旨の意見が表明されたと書いてあります。
① 法科大学院在学中の学費・生活費及び司法試験合格までの生活費の負担に加え,貸与制導入による経済的負担の増大により,資力に乏しい者が法曹になれなくなるおそれがあること。
② 上記同様,貸与制導入による経済的負担の増大は,法曹志願者が大幅に減少している現状において,とりわけ社会人出身者や他学部出身者を含む法曹志願者減少を更に拡大させ,人材の多様性を確保できなくなるおそれがあること。
③ 給費制は法曹の公共的使命の自覚を促し,弁護士の公共心や強い使命感の醸成を制度的に支え,弁護士の社会への貢献・還元に資するものであること。
④ 給費は,司法修習生が司法研修所長や配属地の高裁長官らの監督に服して修習に専念すべき義務を負い,兼職禁止や守秘義務等の公務員同様の身分上の制約を受ける代償であること。また,司法修習の実態は訴状や判決文の原案作成,被疑者の取調べ,接見など労働に近く,全国各地への任地配属に伴う経済的負担(例えば,転居費用など)も大きいこと。
5 関連記事その他
(1) 日弁連が平成21年8月20日付で発表した「「司法修習生の修習資金の貸与等に関する規則(案)」に対する意見書」に,修習資金貸与制に関する問題点が一通り記載されています。
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 修習資金の返還の猶予
・ 修習資金の返還の免除
・ 修習資金貸与金の返還を一律に免除するために必要な法的措置,及びこれに関する国会答弁
・ 修習資金貸与金の返還状況
平成29年4月18日の法務省の国会答弁資料からの抜粋です。