修習専念資金


目次

1 総論
2 修習給付金及び修習専念資金の金額の根拠
3 修習専念資金に関する契約書
4 修習専念資金の貸与事務
5 日本学生支援機構の奨学金に関する札幌高裁令和4年5月19日判決
6 修習資金利用者に対する請求書の誤送付,及びプライバシー権に関する最高裁判例
7 奨学金の返済に充てるための給付は原則として非課税の学資金であること
8 授業料等の返還に関する最高裁判例
9 金銭消費貸借契約及び仮差押命令に関するメモ書き
10 関連記事その他

1 総論
(1) 修習専念資金の額は原則として月額10万円ですが,司法修習生が扶養親族を有し,貸与額の変更を希望する場合,月額12万5000円となります(裁判所HPの「司法修習生に対する修習専念資金の貸与制の概要」参照)。
    ただし,配偶者又は子に収入がある場合でも,扶養加算は認められるみたいです(裁判所HPの「修習専念資金貸与FAQ ~これから貸与を受ける方へ~」参照)。
(2) 司法研修所の公式見解によれば,修習給付金は必要経費のない雑所得ですから,例えば,神戸修習であった71期の司法修習生の場合,平成31年度の税金及び国民健康保険料は最大で23万9100円+24万4160円=48万3260円となります(「修習給付金に関する司法研修所の公式見解を前提とした場合の,修習給付金に関する取扱い」参照)。
    また,修習専念資金を借りなくても健康保険の被扶養者から外されます(「修習給付金を受ける司法修習生の社会保険及び税務上の取扱い」参照)。
    そのため,司法修習終了翌年の税金及び国民健康保険料の支払資金を確保するという趣旨からしても,無利息の修習専念資金を借りておいた方がいいと思います。

2 修習給付金及び修習専念資金の金額の根拠

・ 「裁判所法の一部を改正する法律案【説明資料】」(平成29年1月付の,法務省大臣官房司法法制部の文書)の「修習給付金及び修習専念資金の金額について」には,修習専念資金に関して,以下の記載があります。

    修習専念資金については「司法修習生がその修習に専念することを確保するための資金であって,修習給付金の支給を受けてもなお必要なもの」として司法修習生の希望者に貸与することを予定しており,その額については月額原則10万円程度を想定している。
    これは,司法修習生の修習実態等に鑑みたものであり,司法修習生の通常の支出のうち修習給付金では賄われない費用としては,前記の「修習実態アンケート」(日弁連)及び平成27年度の「家計調査」(総務省統計局)等によれば,以下のとおり,おおむね10万円程度が想定される。
(内訳)合計10.2万円
・社会保険料(約1.6万円)
・所得税・住民税等(約0.5万円)
・勉強会参加費を除く交際費(約1.7万円)
・奨学金返済費用(約0.6万円)
・教養娯楽費(旅行費・月謝類等。ただし,書籍費を除く。)(約1.5万円)
・理美容・嗜好品等(約1.4万円)
・自動車等関係費(約0.7万円)
・仕送り金(約0.3万円)
・家具家電・衣服購入費等(約1.9万円)
※ 社会保険料は,平成28年度の国民年金保険料月額。所得税・住民税等は,修習給付金の金額水準に基づく所得税の試算値。勉強会参加費を除く交際費及び奨学金返済費用は,「修習実態アンケート」に回答した全ての司法修習生の平均値。教養娯楽費,理美容・嗜好品等,自動車等関係費及び仕送り金は,「家計調査」における単身世帯の消費支出の平均額。家具家電・衣服購入費は,修習の開始に伴って必要となる初期購入費用(家具家電10万円,衣服費15万円)を月割で按分した金額として,日弁連が推計した金額。
    なお,現行貸与制では,司法修習生がその収集に専念することを確保するための資金として,月額23万円(基本額)が希望者に貸与されている。貸与制度は,修習給付金の創設に伴い,貸与額等を見直した上で併存することになるが,新制度の創設に伴って司法修習生の経済状況や生活実態に変更が生ずるわけではないから,現行貸与制下の貸与額そのものは引き続き相当性が認められる(注5)。現行貸与制下の貸与基本額である23万円から修習給付金の基本額である13.5万円を控除した金額とほぼ一致する10万円を修習専念資金の額とすることは,このような観点からも合理的といえる。
(注5)第69期の司法修習生1,788名のうち貸与申請者は1,205名(67.39%)であり,貸与申請者のうち基本額である月額23万円の貸与を申請した者が894名(74.19%)である(このほか,月額18万円が51名(4.23%)。なお,月額23万円を基礎に,一定要件を満たして加算が認められた月額25.5万円が235名(19.50%),月額28万円が25名(2.07%)となっている。)。司法修習生ごとに貸与を要する事情や使途は様々と思われるが,こうした実績に照らす限り,月額23万円程度が修習期間中の生活の基盤確保に一般的に必要な金額水準になっていると見ることができる。

3 修習専念資金に関する契約書

・ 以下の契約書を掲載しています。
① 修習資金貸与金事務管理システム用サーバ機等の賃貸借等に関する,最高裁判所と東京センチュリー株式会社の契約書(平成31年4月1日付)
→ 令和元年10月31日付の変更契約書が別にあります。
② 修習等資金の貸与に関するデータ入力及び通知書等作成発送等業務委託に関する,最高裁判所と東京ソフト株式会社の請負契約書(平成31年4月1日付)
→ 令和元年10月 4日付の変更契約書が別にあります。
③ 修習資金貸与金事務管理システムの運用保守等に関する,最高裁判所と株式会社プロフェース・システムズの請負契約書(平成31年4月1日付)
→ 令和元年10月31日付の変更契約書が別にあります。


4 修習専念資金の貸与事務
・ 最高裁判所の令和4年度概算要求書(説明資料)655頁には,「修習専念資金の貸与事務に必要な経費」として以下の記載があります。
<要求要旨>
(ア) 貸与申請書受付及びデータ入力・貸与決定通知等印刷・封入・封緘等業務委託経費
    修習専念資金を司法修習生に貸与するに当たり,多数の貸与審査を円滑かつ迅速に行う前提として,大量の申請書等の短期間かつ集中的な処理を行うために要する費用である。委託する具体的な業務内容は,郵便で送付された貸与申請書及び加算額に係る疎明資料等関係書類の仕分け作業,貸与申請書(額の変更申請等含む。)等に基づくデータ入力作業(司法修習生の氏名,振込先口座番号,貸与額等)である。
    また,貸与申請した司法修習生及び2人の保証人に対し貸与決定通知書等の文書を,貸与を受けている司法修習生に対し返還明細書を,修習専念資金の貸与総額が確定した後,貸与を受けていた修習生及び2人の保証人に対し貸与総額通知書を,それぞれ送付する必要がある。さらに,貸与終了後に被貸与者から提出される変更事項の届出に基づくデータ修正作業及び最初の年賦金を納付すべき被貸与者に対する年賦金通知書送付作業を行う必要がある。
    これらの大量の送付事務及び貸与終了後の修正を短期間で処理するためには,職員による作業のみでは不可能であり,文書の印刷・封入・封緘・及びデータ修正等の作業を業者に委託し,効率的な事務処理を行うことが不可欠である。
    そこで,令和4年度においても,これに必要な経費を要求する。
(イ) 修習専念資金貸与金事務管理システム
    修習専念資金貸与金事務管理システムは,司法修習に際し,修習専念資金の貸与を希望する者(以下「被貸与者」という。)に修習専念資金を貸与する制度が導入されたことにより,その被貸与者に貸与金を交付する修習専念資金の貸与業務及び貸与終了後の債権管理業務を行うこととなるため,官庁会計システム汎用媒体インターフェースに対応し,歳入及び歳出業務のタンキングデータを作成すること及びその他の貸与管理事務等の効率化を図りつつ,誤入力等による過誤を防止することを目的とするシステムである。

    本システムは,平成22年度予算において,開発経費が認められ,平成27年度にリース契約によりサーバ機器等を更新し,現在までリースにより運用するとともに,安定的な稼働を維持するために必要な運用保守を行っており,令和3年度中に,最高裁判所内の他部署で使用しているサーバ機器等のリースアップと時期を合わせてサーバ統合を行うため,サーバ機器等への移行作業及び現行サーバ機器の撤去等を予定している。
    また,令和4年度秋以降に,最高裁判所データセンタにおける通信の暗号化等によるセキュリティ強化のため,認証方法がLDAP認証からLDAPS認証に変更になることやMicrosoft Edge(Chromium 64 ビット版)機能のアップデートに対応するためシステムの改修を予定している。
    そこで,令和4年度に要する本システムの運用・保守経費,機器等のリース経費及び改修にかかる経費を要求する。

5 日本学生支援機構の奨学金に関する札幌高裁令和4年5月19日判決
(1) 札幌高裁令和4年5月19日判決は以下の判示をしており,結論として,日本学生支援機構の控訴を棄却するとともに,附帯控訴に基づき,悪意の受益者の起算点を本来の保証債務を超えた部分の支払日としました。
① 保証債務の履行は、自己の債務の履行であるとともに、他人のための事務でもあるから、事務管理が成立することがあり得るとしても、保証債務が存在しないのにこれが存在すると誤信して弁済した場合は、他人のためにしたとはいえず、非債弁済として不当利得となると解すべきであるから(なお、乙26参照)、事務管理は成立しないというべきである。
② 分別の利益を有する共同保証人が存在する場合、当該共同保証人は、何らの行為の必要もなく当然に分割された額についてのみ保証債務を負うことは、被控訴人A及び亡Cの各支払の当時、通説であってほぼ異論をみない
③ 控訴人(山中注:日本学生支援機構)は、不当利得の発生根拠となる事実関係を全て知っており、法律上の根拠も認識していたのであり、分別の利益について保証人の主張を要すると認識したことについてやむを得ないといえる特段の事情があるとはいえないから、被控訴人A及び亡Cからそれぞれ本来の保証債務を超えた部分の支払を受けた時点において、不当利得の発生について民法704条の「悪意の受益者」であるというべきである。
④ 分別の利益は、数人の共同保証人がある場合に、保証人の債権者に対する関係における問題であって、保証人と債務者又は保証人相互の内部関係についてはかかわりがないものである(最高裁昭和46年3月16日第三小法廷判決・民集25巻2号173頁参照)。 
(2) 日本学生支援機構HPの「分別の利益」(令和4年10月10日までにリンク切れとなりました。)の以下の記載は,前述した札幌高裁判決と異なる説明をしていることになります。
・ 保証人は、返還者本人が貸与を受けた奨学金(第二種奨学金の場合は、利息、延滞している場合は、延滞金を含む)を返還するという、返還者本人と同一内容の債務(保証債務)を負うことになります。
→ 札幌高裁判決によれば,保証人は2分の1についてのみ保証債務を負担します。
・ 保証人は、本機構からの請求に対し、請求額を2分の1にすることを申し出る(抗弁を主張する)ことができます。
→ 札幌高裁判決によれば,分別の利益発生について保証人の何らかの行為は不要です。
・ 保証人が本機構に返還した金額については、法的に有効であり、返還があった奨学金について、本機構の請求権がなくなっているため、本機構としては、返金の要求には応じかねます。
→ 札幌高裁判決によれば,保証人が本機構に返還した金額のうち,2分の1を超える部分に対する弁済は無効であって,保証人は,本機構に対し,返金の要求をすることができます。
(3) 以下の資料を掲載しています。
・ 札幌地裁令和3年5月13日判決(奨学金の保証人が提訴した,日本学生支援機構に対する不当利得返還請求訴訟の判決)
・ 札幌地裁令和3年5月13日判決に対する日本学生支援機構の控訴理由書(令和3年7月20日付け)
(4) 主債務者である破産者が免責決定を受けた場合に、免責決定の効力の及ぶ債務の保証人は、その債権についての消滅時効を援用することができません(最高裁平成11年11月9日判決)。


6 修習資金利用者に対する請求書の誤送付,及びプライバシー権に関する最高裁判例

(1) 裁判所HPの「修習資金の返還に関する納入告知書の誤送付について」に以下の記載があります。
    司法修習期間中に修習資金の貸与を受けていた方(以下「被貸与者の方」といいます。)のうち,その返還期を迎えた方(修習期65期から68期)に対して,先般納入告知書を送付しましたが,そのうち一部の方(862名)については,事務手続上の誤りにより,現在お住まいの住所等ではなく,以前届け出て頂いていた住所等に発送したことが判明しました。
(2)ア 大学が講演会の主催者として学生から参加者を募る際に収集した参加申込者の学籍番号,氏名,住所及び電話番号に係る情報は,参加申込者のプライバシーに係る情報として法的保護の対象となります(最高裁平成15年9月12日判決)。
イ 通信教育等を目的とする会社が管理している未成年者の氏名,性別,生年月日,郵便番号,住所及び電話番号並びに保護者の氏名は,プライバシーに係る法的保護の対象となります(最高裁平成29年10月23日判決)。

7 奨学金の返済に充てるための給付は原則として非課税の学資金であること

(1) 奨学金の返済に充てるための給付は、その奨学金が学資に充てられており、かつ、その給付される金品がその奨学金の返済に充てられる限りにおいては、通常の給与に代えて給付されるなど給与課税を潜脱する目的で給付されるものを除き、これを非課税の学資金と取り扱っても、課税の適正性、公平性を損なうものではないと考えられます(国税庁HPの「奨学金の返済に充てるための給付は「学資に充てるため給付される金品」に該当するか」参照)。
(2) 日本学生支援機構HPに「企業の奨学金返還支援(代理返還)への対応」が載っています。

8 授業料等の返還に関する最高裁判例

(1) 授業料等の返還に関する最高裁判例としては,平成18年12月22日付で,学納金返還請求事件に関するものが三つ(平成16(受)2117平成17(受)1437及び平成17(受)1762)あり,不当利得返還請求事件に関するものが二つ(平成17(受)1158及び平成18(受)1130)あります。
(2) 最高裁平成22年3月30日判決は,専願等を資格要件としない大学の推薦入学試験に合格した者が入学年度開始後に在学契約を解除した場合において,いわゆる授業料等不返還特約が有効と判断しました。

9 金銭消費貸借契約及び仮差押命令に関するメモ書き

(1)ア 消費貸借契約は原則として要物契約です(民法587条)が,「書面でする消費貸借は、当事者の一方が金銭その他の物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。」という諾成的消費貸借契約(民法587条の2)は,令和2年4月1日以降に認められるようになりました。
    ただし,貸主の貸付をなすべき債務の履行としての金員給付義務が借主の担保供与義務の履行の提供の有無にかかわりなく発生し,借主が右担保供与義務の履行の提供をして金員給付を請求するときは,貸主は金員給付義務につき履行遅滞の責に任ずべき諾成的消費貸借契約においては、借主の担保供与義務は先給付となるものではありませんでした(最高裁昭和48年3月16日判決(判例秘書に掲載))。
イ 契約ウォッチHPに以下の記事が載っています。
① 金銭消費貸借契約(金消契約)とは?分かりやすく解説!
② 【民法改正(2020年4月施行)に対応】金銭消費貸借契約のレビューポイントを解説!
(2) 事前求償権は、事後求償権と別個の権利ではあるものの(最高裁昭和60年2月12日判決参照),事後求償権を確保するために認められた権利であるという関係にあるから、委託を受けた保証人が事前求償権を被保全債権とする仮差押えをすれば、事後求償権についても権利を行使しているのと同等のものとして評価することができます(最高裁平成27年2月17日判決)。
(3) 仮差押命令は,当該命令に表示された被保全債権と異なる債権についても,これが上記被保全債権と請求の基礎を同一にするものであれば,その実現を保全する効力を有します(最高裁平成24年2月23日判決。なお,先例として,最高裁昭和26年10月18日判決参照)。

10 関連記事その他

(1) 法務省の法曹養成制度改革連絡協議会の第8回協議会(平成29年10月11日開催)資料4-6「新旧対照条文(司法修習生の修習資金の貸与等に関する規則)」が載っています。
(2) 平成29年11月13日付の司法行政文書不開示通知書によれば,「外国籍であり,通称の印鑑及び口座しか持っていない場合における,修習専念資金の貸与申請方法が分かる文書」は存在しません。
(3)ア  最高裁昭和50年11月6日判決は,いわゆる継続的保証契約に基づく連帯保証人に対する請求を一部認容した前訴判決が金額的な有限責任を定めた趣旨であるとされた事例です。
イ 最高裁平成6年12月6日判決は,根保証契約の保証の限度額が明示されなかった場合に右限度額が同時に設定された根抵当権の極度額と同額であり両者が併せて右同額の範囲内で債務の支払を保証又は担保するものとされた事例です。

(4)ア 参議院HPに参議院議員前川清成君提出貸金業規制法に基づく消費者金融業者に対する行政指導、行政処分等に関する質問に対する答弁書(平成18年3月17日付)が載っています。
イ 以下の記事も参照してください。
・ 修習専念資金の貸与申請状況
・ 修習資金貸与金の返還状況
・ 修習給付金を受ける司法修習生の社会保険及び税務上の取扱い
・ 司法修習生と国民年金保険料の免除制度及び納付猶予制度
・ 司法修習生の給費制,貸与制及び修習給付金


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