第1 修習専念資金の位置付け
1 第71期以降の貸与制度
裁判所法67条の3は,最高裁判所が,司法修習生の申請により,修習のため通常必要な期間,修習専念資金を無利息で貸与することを定めている。
修習専念資金は,司法修習生が修習に専念することを確保するための資金であり,修習給付金の支給を受けてもなお必要なものと位置付けられている。
本記事は,令和8年8月28日現在の法令,最高裁判所規則及び最高裁判所の公開資料に基づき,第71期以降の修習専念資金について説明するものである。
第70期以前の「修習資金」は経過措置により従前の制度が適用されるため,本記事の金額,保証及び返還条件をそのまま当てはめることはできない。
2 修習給付金との違い
修習給付金は裁判所法67条の2に基づいて支給される給付金であるのに対し,修習専念資金は返還義務を伴う貸付金である。
無利息であることは,元本を返還しなくてよいことを意味せず,保証方法によっては保証料も差し引かれる。
| 項目 | 修習給付金 | 修習専念資金 |
|---|---|---|
| 法的性質 | 支給 | 無利息貸与 |
| 申請 | 給付金の種類ごとに所定の届出等が必要 | 貸与申請及び保証が必要 |
| 返還 | 過払等を除き通常は返還しない | 原則として据置期間後に返還する |
| 税務 | 基本給付金及び住居給付金には課税関係が生じる | 無利息による利息相当額の課税に注意を要する |
修習給付金の課税関係は「司法修習生の給費制,貸与制及び修習給付金(AIリライト)」にまとめている。
修習専念資金を借りるかどうかは,必要資金,保証料,将来の返還額及び税務上の取扱いを含めて個別に判断する必要がある。
第2 貸与額と12万5000円への変更
1 基本額は一貸与単位期間10万円
司法修習生の修習専念資金の貸与等に関する規則3条1項は,基本額を一貸与単位期間につき10万円としている。
貸与単位期間は,通常修習期間を開始日又は毎月の応当日から次の応当日の前日までに区分した期間であり,単純な暦月と一致しない場合がある。
最高裁判所の第79期向け案内では,貸与期間は最大13貸与単位期間とされている。
各期の貸与期間,申請期限及び交付日は変わり得るため,申請時には必ず「これから司法修習生になる方,司法修習中の方へ」の当該期用資料を確認すべきである。
2 12万5000円へ変更できる場合
貸与額は,申請者が規則3条2項各号のいずれかに該当し,額の変更を申請した場合,一貸与単位期間につき12万5000円となる。
対象となるのは,次のいずれかの場合である。
① 配偶者がある場合であり,届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。
② 満22歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある子がある場合である。
③ 一般職の職員の給与に関する法律11条2項の扶養親族のうち,同項1号の子を除く者がある場合である。
配偶者又は上記年齢の子については,申請者向けFAQが,その収入又は所得の多寡を問わないと説明している。
他方,③の親族には年齢,生計及び所得等の要件があるため,単に親族を援助しているだけで12万5000円になるとは限らない。
3 増額事由を失った場合
12万5000円の貸与を受ける要件を失った場合は,直ちに要件喪失届出書を提出しなければならない。
原則として,要件を失った日の属する貸与単位期間の次の貸与単位期間から基本額へ変更され,要件を失った後の差額が既に交付されたときは直ちに返還する必要がある。
扶養状況に変更が生じた場合には,事実を証する資料の提出を求められることがある。
増額申請をした時点だけでなく,貸与期間中も要件を満たしているかを確認する必要がある。
第3 貸与申請と貸与の終了
1 申請方法と申請時期
貸与申請は,最高裁判所に貸与申請書を提出して行い,司法修習生の採用申込みをした者も申請できる。
第79期は電子申請が案内されているが,必要書類及び申請方法は期ごとに更新されるため,「申請必要書類一覧」を確認する必要がある。
申請が貸与単位期間の初日にされた場合はその貸与単位期間分から,それ以外の日にされた場合は次の貸与単位期間分から貸与される。
遅れて申請した場合に,既に経過した貸与単位期間分まで当然に遡って貸与される制度ではない。
2 申請の撤回
貸与申請は,所定の撤回書を提出することにより,いつでも将来に向かって撤回できる。
撤回日の属する貸与単位期間の途中で撤回した場合は,原則として次の貸与単位期間から貸与が終了する。
必要額が途中で減少した場合は,無利息であることだけを理由に借入れを継続するのではなく,将来の返還負担も踏まえて撤回を検討できる。
既に交付された元本の返還義務は,申請を撤回しても消滅しない。
3 貸与終了事由と返還明細書
撤回のほか,罷免,死亡,保証人を欠いた後相当期間内に新たな保証人を立てないこと及び提出書類の虚偽記載等は,貸与の終了事由となる。
貸与終了時には,貸与総額が被貸与者及び保証人に通知される。
被貸与者は,原則として最後の貸与単位期間の末日までに返還明細書を提出しなければならない。
返還明細書の未提出は,最高裁判所の請求により期限の利益を失い,返還未済額の全部の返還を求められる事由となるため,貸与金を受領しただけで手続が完了したと考えてはならない。
第4 人的保証と機関保証
1 いずれの保証も連帯保証であること
申請者は,自然人2人又は最高裁判所の指定する金融機関1社のいずれかを保証人に立てなければならない。
人的保証と機関保証のいずれも,保証人は被貸与者と連帯して債務を負担する。
人的保証を選択する場合は,自然人2人の保証書及び印鑑登録証明書等が必要となる。
申請者向けFAQは,保証人候補者について修習専念資金の返還を保証する資力を有するかが審査されるため,提出書類がそろっていても保証人として認められないことがあると説明している。
2 機関保証の保証料
最高裁判所が指定する機関保証の保証会社は,株式会社オリエントコーポレーションである。
令和8年8月28日現在の保証料は,貸与額1000円当たり53円であり,10万円の貸与では5300円となる。
保証料は貸与金から差し引かれて最高裁判所から保証会社へ支払われるため,10万円の貸与決定を受けても手取額は10万円にならない。
貸与期間中に支払われた保証料によって完済まで保証されるが,貸与終了後に人的保証から機関保証へ変更する場合等には別の計算及び一括払が必要となることがある。
3 代位弁済後も債務は残ること
期限の利益を失った場合に最高裁判所が保証会社へ履行を求めると,保証会社が最高裁判所へ代位弁済する。
この場合でも債務が消えるわけではなく,被貸与者は保証会社に対して,弁済額,求償費用及び遅延損害金を直ちに支払う必要がある。
機関保証は,自然人2人へ保証を依頼しなくてよいという利点がある一方,保証料が発生し,代位弁済後は保証会社から求償される。
人的保証と機関保証は,手続負担,保証料及び関係者への影響を比較して選択すべきである。
第5 据置期間と返還
1 5年据置後の10年年賦返還
規則7条によれば,返還期限は通常修習期間の終了した月の翌月から起算して5年を経過した後,10年以内で最高裁判所が定める日とされ,返還方法は年賦の均等返還である。
修習専念資金貸与要綱16条は,年賦金の返還日を原則として毎年7月25日としている。
最高裁判所は,毎年7月10日頃までに届出住所へ納入告知書を送付すると案内している。
納入告知書が届かない場合でも返還期限は当然には延びないため,届かないときは「据置期間・返還期間中の手続案内」に従って最高裁判所へ照会する必要がある。
2 繰上返還
修習専念資金は,残額の一括返還,複数年分の一時納付又は期限未到来の1年分の納付により繰上返還できる。
繰上返還には申請が必要であり,原則として納入告知書の発送予定日の2週間以上前までに申請書を提出する。
複数年分又は1年分を繰上返還すると,その後の納付期限は原則として順次繰り上がる。
申請により納付期限を繰り上げない取扱いもあるため,繰上返還後の返還日程を確認すべきである。
3 住所等の変更届
返還明細書の提出後,氏名,住所,電話番号,メールアドレス,職業又は勤務先に変更があった場合は,最高裁判所へ届け出なければならない。
人的保証の保証人又は保証人候補者の氏名若しくは住所の変更及び所定の信用状態の変化についても届出が必要であり,修習専念資金貸与要綱30条2項は,変更等が生じた日から2週間以内の届出を求めている。
返還期間は長いため,修習終了後に転居又は転職した場合も届出を忘れないことが重要である。
通知が届かなかったことだけで,返還期限又は延滞利息の発生が左右されるものではない。
第6 期限の利益の喪失と延滞利息
1 返還未済額の全部を求められる場合
正当な理由なく期限までに返還しなかった場合,返還明細書を期限までに提出しなかった場合,保証人を欠いた後相当期間内に新たな保証人を立てなかった場合等には,最高裁判所の請求により期限の利益を失うことがある。
強制執行,滞納処分,競売開始,破産手続開始又は再生手続開始の決定等があった場合は,規則8条2項により直ちに返還未済額の全部を返還しなければならないことがある。
貸与要綱は,督促又は請求後も履行されない場合に法的措置をとることを定めている。
人的保証の場合は保証人への請求,機関保証の場合は保証会社への請求が行われ得るため,返還困難が見込まれるときは期限前に猶予手続を検討すべきである。
2 年14.5%の延滞利息
正当な理由なく返還期限までに返還しなかった場合は,返還期限の翌日から返還日まで,返還すべき額につき年14.5%の延滞利息が発生する。
返還期限後に猶予が承認された場合でも,承認までの期間について延滞利息の納付が必要となることがある。
無利息なのは期限どおり返還する元本についてであり,延滞した場合まで無利息ではない。
猶予の可能性がある場合も,自動的に期限が延びると考えず,所定の期限までに申請する必要がある。
第7 返還期限の猶予と返還免除
1 猶予が認められ得る事情
裁判所法67条の3第3項は,災害,傷病その他やむを得ない理由によって返還が困難となった場合又は最高裁判所が定める経済的困難事由がある場合に,返還期限を猶予できるとしている。
最高裁判所のFAQは,その他やむを得ない理由の例として,育児休暇・休業又は介護により一定期間収入を得られない場合を挙げている。
経済的困難事由の基準は,給与所得以外の所得がない給与所得者では,返還期限前1年間の収入金額が300万円以下であることである。
給与所得者以外では,同期間の総収入金額から必要経費を控除した額が200万円以下であることが基準となる。
対象期間中に法科大学院での修学のための借入金を返還した場合は,所定の範囲でその返還額を控除できる。
もっとも,配偶者又は3親等内の親族からの借入金は控除対象から除かれ,自動車ローン又は住宅ローン等は法科大学院での修学のための借入金には当たらない。
2 申請期限と猶予期間
最高裁判所の手続案内は,猶予を受けようとする年の5月31日までに,猶予申請書,申述書及び事由を証する資料を提出するよう案内している。
期限後も申請自体は可能であるが,承認まで時間を要し,返還期限後に承認された場合は延滞利息が生じ得る。
猶予期間は1回につき1年以内で,猶予事由が継続すると見込まれる期間である。
再申請により延長できるが,猶予期間は通算5年を超えることができない。
3 死亡又は障害による返還免除
裁判所法67条の3第4項は,被貸与者が死亡し,又は精神若しくは身体の障害によって返還できなくなったとき,最高裁判所が修習専念資金の全部又は一部の返還を免除できるとしている。
死亡又は障害があれば当然に全額免除となるのではなく,所定の申請書及び返還不能を証する資料を提出し,審査を受ける必要がある。
最高裁判所は審査上必要と認める場合に医師の診断を求め,その医師を指定できる。
免除の対象,範囲及び必要資料は個別事情によるため,該当する可能性がある場合は早期に最高裁判所へ確認すべきである。
第8 税務及び社会保険上の留意点
1 無利息による利息相当額の課税
大阪地裁令和4年12月22日判決(令和3年(行ウ)第48号)は,修習専念資金を無利息で借りたことによる利息相当額1万1286円を経済的利益として雑所得の総収入金額へ算入した更正処分について,取消請求を棄却した。
大阪高裁令和5年7月26日判決(令和5年(行コ)第15号)も控訴を棄却し,最高裁第二小法廷令和5年12月22日決定は上告受理申立てを受理しなかったため,控訴審判決が確定した。
控訴審判決は,修習専念資金に係る利息相当額は,所得税法上の学資金に当たらず,雑所得の総収入金額へ算入されると判断した。
したがって,元本が無利息であることだけから,税務上も何らの所得認識がないと決め付けることはできない。
上記判決の利息相当額は,当該納税者の貸与額,期間及び当時の計算基準に基づくものであり,すべての被貸与者に同額が生じることを意味しない。
確定申告の具体的な計算は,対象年分の資料と税務上の取扱いを確認して行う必要がある。
2 修習給付金と社会保険を混同しないこと
修習専念資金は返還義務のある貸付金であり,基本給付金及び住居給付金とは法的性質が異なる。
他方,第79期向け修習給付金案内は,基本給付金及び住居給付金を雑所得として扱い,健康保険及び年金等の社会保険上の手続が必要となる場合があると説明している。
健康保険の被扶養者から外れるかどうかは,加入する保険者の基準,見込収入及び個別事情によって判断される。
修習給付金を受ければ全員が一律に被扶養者資格を失うと断定せず,加入先の健康保険組合又は全国健康保険協会及び市区町村へ確認すべきである。
社会保険の詳細は「修習給付金と社会保険との関係」,国民年金の免除・猶予は「司法修習生の国民年金保険料の免除及び納付猶予」を参照されたい。
これらの制度は所得,世帯及び加入歴等により結論が変わるため,過去の特定年度の保険料試算を現在の負担額として用いることはできない。
第9 申請前と返還中の確認事項
1 申請前に比較すべき事項
修習専念資金は無利息であるが,借入れである以上,将来の元本返還が必要である。
申請前には,少なくとも次の事項を比較すべきである。
① 修習給付金,自己資金及び必要生活費を踏まえた実際の不足額である。
② 人的保証を依頼できるか,機関保証の保証料を負担するかという保証方法である。
③ 5年据置後に10年間の年賦返還を継続できるかという将来の資金計画である。
④ 無利息による利息相当額の税務及び修習給付金に伴う社会保険手続である。
貸与単位期間ごとに申請状況を確認したい場合は,「司法修習生に対する修習専念資金の貸与申請状況」を参照されたい。
統計は各期の利用状況を示すものであり,特定の司法修習生が借りるべきかどうかを直接決める資料ではない。
2 返還中に行うべき確認
返還中は,納入告知書の到着,年賦金の返還期限及び届出住所が最新であるかを毎年確認する必要がある。
返還が困難となる可能性が生じた場合は,期限後まで待たず,猶予事由,所得基準,必要書類及び申請期限を確認すべきである。
第70期以前の修習資金は,「司法修習生の修習資金の返還方法」及び最高裁判所の第70期以前向け資料を確認する必要がある。
第71期以降の修習専念資金と旧制度の修習資金は,名称が似ていても貸与額及び適用規定が異なる。
第10 出典・参考資料
1 法令及び最高裁判所規則
e-Gov法令検索「裁判所法」67条,67条の2及び67条の3
最高裁判所「司法修習生の修習専念資金の貸与等に関する規則」
最高裁判所「修習専念資金貸与要綱」
2 最高裁判所の手続案内及びFAQ
最高裁判所「司法修習生に対する修習専念資金の貸与制の概要」
最高裁判所「これから司法修習生になる方,司法修習中の方へ」
最高裁判所「申請必要書類一覧」
最高裁判所「修習専念資金貸与FAQ―申請に関する事項」
最高裁判所「機関保証について」
最高裁判所「据置期間・返還期間中の手続について」
最高裁判所「修習専念資金貸与FAQ―据置期間・返還期間中の方へ」
最高裁判所「第79期向け司法修習生の修習給付金案内」
3 裁判例
大阪地裁令和4年12月22日判決・令和3年(行ウ)第48号・税務訴訟資料272号順号13795
大阪高裁令和5年7月26日判決・令和5年(行コ)第15号・税務訴訟資料273号順号13866
最高裁第二小法廷令和5年12月22日決定・税務訴訟資料273号順号13915
4 関連記事
司法修習生の給費制,貸与制及び修習給付金(AIリライト)
司法修習生に対する修習専念資金の貸与申請状況
修習給付金と社会保険との関係
司法修習生の国民年金保険料の免除及び納付猶予
司法修習生の修習資金の返還方法