弁護士法(昭和8年5月1日法律第53号)


弁護士法(昭和24年6月10日法律第205号)(現在の弁護士法です。)によって廃止された,弁護士法(昭和8年5月1日公布の法律第53号)(いわゆる「旧弁護士法」です。)の条文は末尾のとおりです。
○旧弁護士法は,弁護士法(明治26年3月4日公布の法律第7号)(いわゆる「旧々弁護士法」です。)と比べて以下の点が異なりました。
① 弁護士の職務について,従前は法文上,訴訟に限定していたのを,あらゆる法律事務に拡張したこと。
② 女性に弁護士資格を認めたこと。
③ 弁護士試補制度が設けられたこと。
○弁護士による法律事務の独占は,昭和11年4月1日施行の法律事務取扱ノ取締ニ関スル法律(昭和8年5月1日法律第54号)によって定められました。

弁護士法(昭和8年5月1日法律第53号)

第一章 弁護士ノ職務及資格

第一条
弁護士ハ当事者其ノ他ノ関係人ノ委嘱又ハ官庁ノ選任ニ因リ訴訟ニ関スル行為其ノ他一般ノ法律事務ヲ行フコトヲ職務トス

第二条
1 左ノ条件ヲ具フル者ハ弁護士タル資格ヲ有ス
一 帝国臣民ニシテ成年者タルコト
ニ 弁護士試補トシテ一年六月以上ノ実務修習ヲ了へ考試ヲ経タルコト
2 前項第二号ノ実務修習及考試二関スル事項ハ司法大臣之ヲ定ム

第三条
1 弁護士試補タルニハ成規ノ試験二合格スルコトヲ要ス
2 前項ノ試験二関スル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム

第四条
左二掲グル者ハ前二条ノ規定二拘ラズ弁護士タル資格ヲ有ス
一 判事又ハ検事ダル資格ヲ有スル者
二 三年以上専任行政裁判所長官又ハ専任行政裁判所評定官タリシ者
三 三年以上陸軍法務官又ハ海軍法務官タリシ者

第五条
左二掲グル者ハ弁護士タル資格ヲ有セズ
一 禁錮以上ノ刑二処セラレタル者
二 懲戒ノ処分ニ因リ免官若ハ免職セラレタル者、本法ニ依リ除名セラレタル者又ハ弁理士法若ハ計理士法ニ依リ業務ヲ禁止セラレタル者ニシテ免官、免職、除名又ハ業務禁止後二年ヲ経過セザル者
三 禁治産者又ハ準禁治産者
四 破産者ニシテ復権ヲ得ザル者

第六条
1 外国ノ弁護士タル資格ヲ有スル外国人ハ相互ノ保証アルトキニ限リ司法大臣ノ認可ヲ受ヶ外国人又ハ外国法二関シ第一条ニ規定スル事項ヲ行フコトヲ得但シ前条二掲グル者ハ此ノ限二在ラズ
2 第十八条第二項、第二十条及第二十三条乃至第二十六条ノ規定ハ前項ノ認可ヲ受ケタル者二之ヲ準用ス
3 司法大臣必要ト認ムルトキハ第一項ノ認可ヲ取消スコトヲ得

第二章 弁護士名簿

第七条
弁護士タルニハ弁護士名簿二登録セラルルコトヲ要ス

第八条
弁護士名簿ハ之ヲ法務庁ニ備フ

第九条
弁渡士タラントスル者ハ其ノ入会セントスル弁護士会ヲ経由シテ司法大臣二登録ノ諸求ヲ為スベシ

第十条
1 弁護士弁護士会ノ所属ヲ変更セントスルトキハ新ニ入会セントスル弁護士会ヲ経由シテ司法大臣ニ登録換ノ請求ヲ為スベシ
2 前項ノ登録換アリタルトキハ弁護士ハ直ニ旧所属弁護士会ニ之ヲ届出ヅベシ

第十一条
弁護士所属弁護士会ヲ退会セントスルトキハ其ノ弁護士会ヲ経由シテ司法大臣二登録取消ノ請求ヲ為スベシ

第十二条
弁護士会ハ会ノ秩序又ハ信用ヲ害スル虞アル者ノ登録若ハ登録換ノ請求ノ進達ヲ拒絶シ又ハ退会ヲ命ズルコトヲ得

第十三条
1 前条ノ規定ニ依リ登録若ハ登録換ノ請求ノ進達ヲ拒絶セラレ又ハ退会セシメラレタル者ハ司法大臣二不服ノ申立ヲ為スコトヲ得
2 前項ノ場合二於テ司法大臣ハ審査委員会二諮問シテ登録若ハ登録換ノ請求ノ進達ヲ命ジ又ハ退会ノ命ヲ取消スコトヲ得

第十四条
審査委員会二関スル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム

第十五条
左ノ場合二於テハ司法大臣ハ弁護士名簿ノ登録ヲ取消スベシ
一 弁護士国籍ヲ喪失シタルトキ
ニ 弁護士第五条各号ノ一ニ該当スルニ至リタルトキ
三 第十一条ノ規定ニ依リ登録取消ノ請求アリタルトキ
四 弁護士退会セシメラレ又ハ除名セラレタルトキ
五 弁護士死亡シタルトキ
六 総会ノ決議ニ因リ弁護士会解散シタルトキ

第十六条
弁護士名簿ノ登録、登録換及登録取消ハ司法大臣之ヲ其ノ弁護士所属ノ弁護士会二通知スベシ

第十七条
登録二関スル事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム

第三章 弁護士ノ権利及義務

第十八条
1 弁護士ノ事務所ハ所属弁護士会ノ地域内二之ヲ設クベシ
2 弁護士ハ如何ナル名義ヲ以テスルモ二個以上ノ事務所ヲ設クルコトヲ得ズ但シ他ノ弁護士事務所二於テ執務スルコトヲ妨ゲズ

第十九条
弁護士事務所ヲ設ケタルトキハ直二之ヲ司法大臣及所属弁護士会二届出ヅベシ事務所ヲ移転シタルトキ亦同ジ

第二十条
弁護士ハ誠実二其ノ職務ヲ行上職務ノ内外ヲ問ハズ其ノ品位ヲ保持スベシ

第二十一条
弁護士又ハ弁護士タリシ者ハ其職務上知得シタル秘密ヲ保持スル権利ヲ有シ義務ヲ負フ但シ他ノ法令ニ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限二在ラズ

第二十二条
弁護士ハ所属弁護士会ノ会則ヲ遵守スベシ

第二十三条
弁護士ハ正当ノ理由アルニ非ザレバ法令ニ依り官庁ノ命ジタル事項及会則ノ定ムル所二依リ所属弁護士会ノ指定シタル事項ヲ行フコトヲ辞スルコトヲ得ズ

第二十四条
弁護士ハ左二掲グル事件二付其ノ職務ヲ行フコトヲ得ズ
一 相手方ノ協議ヲ受ケテ賛助ヲ為シ又ハ其ノ委嘱ヲ承諾シタル事件
二 相手方ノ協議ヲ受ケタル事件ニシテ其ノ協議ノ程度及方法ガ信頼関係二基クモノト認メラルルモノ
三 公務員トシテ職務上取扱ヒタル事件
四 仲裁手続ニ依リ仲裁人トシテ取扱ヒタル事件

第二十五条
弁護士ハ係争権利ヲ譲受クルコトヲ得ズ

第二十六条
弁護士ハ事件ノ委嘱ヲ承諾セザルトキハ速二其ノ旨ヲ委嘱者ニ通知スベシ若シ通告ヲ怠リタルトキハ之ガ為生ジタル損害ヲ賠償スル責ニ任ズ

第二十七条
1 弁護士ハ報酬アル公務ヲ兼ヌルコトヲ得ズ但シ帝国議会若ハ地方議会ノ議員卜為リ又ハ官署若ハ公署ヨリ特ニ命ゼラレ若ハ嘱託セラレタル職務ヲ行フハ此ノ限二在ラズ
2 弁護士ハ所属弁護士会ノ許可ヲ受クルニ非ザレハ商業其ノ他営利ヲ目的トスル業務ヲ営ミ若ハ之ヲ営ム者ノ使用人ト為リ又ハ営利ヲ目的トスル法人ノ業務執行社員、取締役若ハ使用人ト為ルコトヲ得ズ

第二十八条
前条ノ規定ハ実務修習中ノ弁護士試補二之ヲ準用ス

第四章 弁護士会

第二十九条
1 弁護士会ハ法人トス
2 弁護士会ハ弁護士ノ品位保持及弁護士事務ノ改善進歩ヲ図ルヲ以テ目的トス

第三十条
弁護士会ハ地方裁判所ノ管轄区域毎二之ヲ設立スベシ但シ弁護士会二属スル弁護士三百以上アル場合二於テ其ノ中百名以上ノ者ハ同一地方裁判所ノ管轄区域内二別二弁護士会ヲ設立スルコトヲ得

第三十一条
1 弁護士会ヲ設立セントスルトキハ会員ト為ルベキ弁護士ハ会則ヲ定メ司法大臣ノ認可ヲ受クベシ
2 弁護士会ノ設立アリタルトキハ前項ノ弁護士ハ当然旧所属弁護士会ヲ退会シ其ノ会員ト為ルモノトス
3 第十条ノ規定ハ前項ノ場合二之ヲ準用ス
4 弁護士会会則ヲ変更セントスルトキハ司法大臣ノ認可ヲ受クベシ

第三十二条
1 司法大臣弁護士会ノ設立ヲ認可シタルトキハ弁護士会ノ名称、事務所ノ所在地及設立ノ年月日ヲ告示スベシ
2 司法大臣弁護士会ノ名称又ハ事務所ノ所在地ノ変更ヲ認可シタルトキハ変更ノ告示ヲ為スベシ

第三十三条
弁護士会ノ代表者ハ一人トス但シ代表者差支アル場合二於テ之二代リテ弁護士会ヲ代表スベキ者ヲ置クコトヲ妨ゲズ

第三十四条
弁護士会ハ司法大臣ノ監督ヲ受ク

第三十五条
第三十一条二規定スル場合ヲ除クノ外弁護士名簿二登録又ハ登録換ヲ受ケタル者ハ当然其ノ入会セントスル弁護士会ノ会員卜為リ登録換ヲ為ス場合ニハ旧所属弁護士会ヲ退会スルモノトス

第三十六条
弁護士法第十一条ノ規定二依ル請求二因リテ登録ヲ取消サレタルトキハ当然所属弁護士会ヲ退会シタルモノトス

第三十七条
弁護士会ハ弁護士試補ノ実務修習ヲ担当ス但シ司法大臣別段ノ規定ヲ設ケタルトキハ此ノ限二在ラズ

第三十八条
1 弁護士会ハ官庁ヨリ諮問ヲ受ケタル事項二付答申ヲ為スベシ
2 弁護士会ハ司法事務二関シ官庁二建議ヲ為スコトヲ得弁護士ノ利害二関スル事項二付亦同ジ

第三十九条
弁護士会会則ハ左ノ事項ヲ記載スベシ
一 名称及事務所ノ所在地
二 会ノ代表者其ノ他ノ機関ノ組織及職務権限二関スル規定
三 会議二関スル規定
四 弁護士試補ノ実務修習二関スル規定
五 弁護士ノ報酬ニ関シ標準ヲ示ス規定
六 会員ノ風紀保持ニ関スル規定
七 無資力者ノ為ニスル法律相談及訴訟扶助二関スル規定
八 答申及建議ノ決議ニ関スル規定
九 会員卜委嘱者トノ間ニ於ケル紛議ノ調停二関スル規定
十 弁護士名簿ノ登録及登録換ノ請求ノ進達ニ関スル規定
十一 入会及退会ニ関スル規定
十二 懲戒ノ申告ニ関スル規定
十三 会費ノ徴収ニ関スル規定
十四 資産ニ関スル規定

第四十条
1 弁護士会ハ毎年定期総会ヲ開ク
2 弁護士会ハ必要アル場合二於テ臨時総会ヲ開クコトヲ得

第四十一条
弁護士会ハ総会ノ日時、場所及議題竝二役員選挙ノ日時及場所ヲ予メ司法大臣二申告スベシ

第四十二条
司法大臣ハ弁護士会ノ総会又ハ役員選挙ノ場所二臨席シ又ハ所部ノ官吏ヲシテ臨席セシムルコトヲ得

第四十三条
弁護士会ハ遅滞ナク総会ノ決議竝二役員ノ就任及退任ヲ司法大臣二申告スベシ

第四十四条
左ノ事項ハ総会ノ決議ヲ経ベシ
一 会則ノ変更
二 予算及決算

第四十五条
弁護士会ノ会議法令若ハ会則二違反シ又ハ公益ヲ害スルトキハ司法大臣ハ其ノ決譲ヲ取消シ、其ノ議事ヲ停止スルコトヲ得

第四十六条
弁護士会ハ弁護士ト委嘱者トノ間二紛議ヲ生ジタルトキハ当事者ノ請求ニ因リ其ノ調停ヲ為スコトヲ得

第四十七条
1 弁護士会ハ司法大臣ノ認可ヲ受ケ同一地方裁判所ノ管轄区域内ニ於ケル他ノ弁護士会ト合併スルコトヲ得
2 弁護士会合併シタルトキハ合併二因リテ解散シタル弁護士会所属ノ弁護士ハ当然旧所属弁護士会ヲ退会シ合併後存統シ又ハ合併二因リテ設立シタル弁護士会ノ会員ト為ルモノトス
3 第十条第一項ノ規定ハ前項ノ場合二之ヲ準用ス

第四十八条
司法大臣弁護士会ノ合併ヲ認可シタルトキハ合併後存続スル弁護士会二付テハ変更ノ告示ヲ為シ、合併二因リテ解散シタル弁護士会二付テハ解散ノ告示ヲ為シ、合併二因リテ設立シタル弁護士会二付テハ第三十二条第一項二規定スル告示ヲ為スベ

第四十九条
1 弁護士会合併ヲ為サントスルトキハ其ノ債権者二対シ異議アラバ一月ヲ下ラザル期間内二之ヲ述ブベキ旨ヲ催告スベシ
2 債権者ガ前項ノ期間内ニ異議ヲ述べタルトキハ弁護士会ハ之ニ弁済ヲ為シ又ハ相当ノ担保ヲ供スルニ非ザレハ合併ヲ為スコトヲ得ズ
3 合併ニ因リテ解散シタル弁護士会ニ属スル権利義務ハ合併後存統シ又ハ合併ニ因リテ設立シタル弁護士会之ヲ承継ス

第五十条
1 弁護士会ハ左ノ事由二因リテ解散ス
一 総会ノ決議
二 合併
2 前項第一号ノ総会ノ決議ハ司法大臣ノ認可ヲ受クベシ
3 民法第七十三条乃至第七十六条、第七十八条乃至第八十条、第八十二条及第八十三条竝二民法施行法第二十六条及第二十七条ノ規定ハ弁護士会ノ清算二関シ之ヲ準用ス

第五十一条
司法大臣ハ弁護士会ノ解散ノ決議ヲ認可シタルトキハ解散ノ告示ヲ為スベシ

第五十二条
弁護士会ハ共同シテ特定ノ事項ヲ行フ為規約ヲ定メ司法大臣ノ認可ヲ受ケ聯合会ヲ設立スルコトヲ得

第五章 懲戒

第五十三条
1 弁護士本法又ハ弁護士会会則二違反シタルトキハ検事長ハ司法大臣ノ命二依リ又ハ其ノ認可ヲ受ケテ懲戒開始ノ申立ヲ為スベシ
2 弁護士会ハ会則ノ定ムル所二依リ懲戒ヲ求ムル為司法大臣又ハ検事長ニ申告ヲ為スコトヲ得

第五十四条
弁護士ノ懲戒ハ其ノ所属弁護士会ノ地域ヲ管轄スル控訴院ニ於ケル懲戒裁判所之ヲ行フ

第五十五条
1 懲戒ハ左ノ四種トス
一 譴責
二 千円以下ノ過料
三 一年以下ノ停職
四 除名
2 前項ノ過料ノ裁判ノ執行ニ付テハ非訟事件手続法第二百八条ノ規定ヲ準用ス

第五十六条
1 懲戒ノ訴追ヲ受ケタル弁護士ハ其ノ裁判確定スルニ至ル迄弁護士会ヲ退会シ又ハ弁護士名簿ノ登録換ヲ請求スルコトヲ
2 弁護士会ハ懲戒ノ訴追ヲ受ケダル弁護士ヲ退会セシムルコトヲ得ズ

第五十七条
懲戒ノ事由アリタル時ヨリ三年ヲ経過シタルトキハ懲戒開始ノ申立ヲ為スコトヲ得ズ

第五十八条
本法二規定スルモノノ外懲戒二付テハ判事懲戒法ヲ準用ス

附則(抄)
本法ハ昭和十一年四月一日ヨリ之ヲ施行ス


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