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令和8年5月に判決書が電子判決書(電磁的記録)となったことを契機に,判決情報を集約してデータベース化する枠組みが整備された。
民事裁判情報の活用の促進に関する法律(令和7年法律第49号)は,民事裁判情報の適正かつ効果的な活用の促進を図るため,国の責務及び法務大臣による基本方針の策定を定めるとともに,民事裁判情報を加工して第三者に提供する業務等を行う法人の指定に関する制度を創設するものである。
これは,記録そのものの保存期間の制度とは別の層に位置づけられる。
本記事では,両者の違いと,弁護士実務から見た留意点を説明する。
第1 記録の保存期間とは別の制度である
裁判記録の保存期間は,最高裁判所の事件記録等保存規程が定める。
これは,記録という物(電磁的記録を含む。)をいつまで保存し,いつ廃棄するかという制度である。
これに対し,民事判決情報のデータベース化は,判決書に記録された情報を集約し,加工して利用に供する制度である。
記録の保存期間が延びたり縮んだりするものではない。
保存期間そのものについては,mints後の裁判記録の保存期間で説明している。
第2 制度の骨格
民事裁判情報の活用の促進に関する法律は,次の事項を定める。
①民事裁判情報の適正かつ効果的な活用の促進という目的
②国の責務
③法務大臣による基本方針の策定
④民事裁判情報を加工して第三者に提供する業務等を行う法人の指定に関する制度
判決書が電磁的記録となったことにより,紙の判決書を個別に収集する場合と比べて,情報を集約することが技術的に容易になった。
当事者の氏名を記号に置き換えるなどの措置を講じた上で利用に供することが想定されている。
第3 電子化を前提とした記録保存の議論との関係
裁判所の常設委員会では,電子化後の記録保存の在り方が現に検討課題となっている。
第3回委員会(令和6年12月20日)の議事要旨によれば,記録を含めたデジタル化及び民事判決のデータベース化が今後順次行われる予定であることが事務局から説明されている。
その上で,デジタル化により特定の語による記録の抽出(特別保存に付すべき記録の選別)が技術的に可能となる面はあるものの,最終的に残すかどうかの判断を完全に機械的に行うことは困難である旨の意見が示されている。
また,同委員会では,最初から確定的な選別ができないものについて,暫定的に保存期間を延長し,まず広く記録を残した上で重要性を精査するという運用の可能性も議論されている。
これらは委員会での意見交換の段階のものであり,制度として確定したものではない。
第4 電子データ固有の長期保存の課題
紙の記録では,庁舎の保管スペースの制約が廃棄の一因とされてきた。
電子化は,物理的な保管スペースの制約を緩和する一方で,記録媒体やファイル形式の陳腐化への対応といった,電子データ固有の長期保存の課題を新たに生じさせるものと考えられる。
この点をめぐっては,裁判記録の適正なデジタルアーカイブの実現に向けた課題を論じる研究も公表されている。
これらは学術上の見解であり,制度の内容そのものを示すものではないが,電子化後の記録保存が今後の検討課題を含むことを裏づけている。
第5 弁護士実務から見た留意点
①判決情報のデータベース化は,記録の閲覧・複写の制度とは別である。
事件記録が必要な場合は,従来どおり閲覧・複写・証明の請求による。
②データベースに載ることを前提に,当事者の氏名等の秘匿・閲覧等制限の要否を,従来より意識して検討する場面が増え得る。
③依頼者への説明では,「判決が公開されるか」と「記録が保存されるか」を分けて説明する。
④制度の具体的な運用(対象範囲,加工方法,提供先)は,基本方針及び指定法人に関する公表資料で確認する。
秘匿と閲覧等制限の申立ては,mintsで閲覧等制限を申し立てる方法及びmintsにおける当事者間秘匿で説明している。
第6 関連記事
①mints後の裁判記録の保存期間
②令和6年全国統一運用・裁判所の特別保存制度
③民事事件記録の閲覧・謄写手続
④mintsで閲覧等制限を申し立てる方法
⑤榎本光宏 最高裁判所デジタル審議官「裁判所のデジタル化の現状と将来」の論評
出典・参考資料
①民事裁判情報の活用の促進に関する法律(令和7年法律第49号)
②最高裁判所事件記録等保存規程
③裁判所の常設委員会第3回(令和6年12月20日)議事要旨