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民事訴訟の和解案・和解条項案の作り方-確認・給付・清算・執行のチェックリスト(AI作成)

第1 和解案と和解条項案は分けて作る

本記事は,民事訴訟の係属中に解決条件を検討し,裁判所へ提出する和解条項案を作成する場面を扱う。
調査の基準日は令和8年9月9日であり,同日に施行されている民事訴訟法,民法及び民事執行法並びに同日までに確認できた裁判所公表資料を基礎とする。

1 和解案は「何を交換して事件を終わらせるか」を決めるもの

和解は,当事者が互いに譲歩して争いをやめることを約することによって効力を生ずる(民法695条)。
裁判所は訴訟のどの段階でも和解を試みることができる(民事訴訟法89条)。

和解案は,金額だけを示す書面ではない。
誰が,誰に対し,何を,いつまでに行うか,その代わりに何を免除し,どこまで紛争を終了させるかという解決条件の組合せである。
最初に,①対象となる請求及び反対請求,②支払額その他の給付,③履行時期及び方法,④同時履行又は先履行の関係,⑤不履行時の処理,⑥放棄又は清算の範囲,⑦別訴,保全,担保及び供託等の処理を一枚の条件表に整理するとよい。

2 和解条項案は「合意を実現できる文言」にするもの

訴訟上の和解が電子調書に記録されると,その記載は確定判決と同一の効力を有する(民事訴訟法267条)。
しかし,抽象的な約束が書かれていれば,どのような内容でもそのまま強制執行できるわけではない。

和解条項案では,合意内容を,①確認条項又は形成条項,②給付条項,③期限・条件等の付款,④違反時の条項,⑤請求放棄・清算・費用,⑥関連手続の処理という順序で,特定可能な文言へ変換する。
司法研修所民事弁護教官室の「民事弁護実務の基礎~はじめての和解条項~」は,まず和解対象の権利関係を定め,給付請求権の存在を明らかにする確認条項又は形成条項を置いた後に,給付条項を置くという論理的順序を示している(6頁~7頁)。

3 依頼者の承認と代理権を最後に確認する

訴訟代理人が和解をするには特別の委任が必要である(民事訴訟法55条2項2号)。
実務上は,委任状に和解の特別授権があることだけでなく,金額,支払時期,非金銭条項,清算範囲及び不履行時の効果について,依頼者が最終案を理解して承認したことを確認する。
法人その他の団体では必要な内部決裁の有無を確認し,訴訟当事者でない保証人,共同債務者その他の者にも義務又は利益を及ぼすのであれば,その者を合意の当事者又は利害関係人として参加させる必要があるかを検討する。

第2 条項は七つの層に分けて点検する

1 当事者及び対象を特定する

最初の層は,誰と誰の間の,どの権利関係を解決するかの特定である。
事件番号及び訴訟物だけで足りるか,契約日,事故日,物件目録,対象製品,対象行為又は債権発生原因まで書く必要があるかを検討する。
当事者が複数いる場合は,全員の関係を一括して書かず,原告と各被告,被告相互,当事者と利害関係人のどの関係を処理するのかを分ける。

2 確認条項又は形成条項を置く

既に存在する権利義務を明らかにする場合は「支払義務があることを認める」等の確認条項を用いる。
和解によって契約を終了させ,所有権を移転し,債務を免除するなど法律関係を変動させる場合は,その変動を端的に示す形成条項を用いる。

賃貸借契約を和解時に終了させるなら「合意解約したことを確認する」ではなく,原則として「合意解約する」と現在形で書く。
終了日は,賃料と賃料相当損害金の境界にもなるため明示することが多い(前記司法研修所教材18頁~21頁)。

3 給付条項は主語,相手方,目的物及び給付文言を明確にする

金銭なら金額,物なら物件,行為なら行為内容を特定し,義務者と権利者を明示する。
給付文言は「支払う」「明け渡す」「登記手続をする」のように端的に書く。
前記司法研修所教材は,金銭給付について「支払う」と明記し,「支払うこととする」「支払うものとする」「支払わなければならない」という表現は,給付意思が不明確となって強制執行できない可能性があるとしている(7頁~8頁)。

4 期限,方法,費用及び履行順序を決める

支払期限は年月日又は各回の期日で特定し,振込口座及び振込手数料の負担も決める。
物の引渡し,建物の明渡し,登記書類の交付その他の反対給付がある場合は,一方が先に履行するのか,同時に履行するのか,条件成就後に履行するのかを明記する。

条件を付けるときは,誰が,どの資料により,いつ条件成就を確認するのかまで決める。
「協議の上」「誠実に対応する」とだけ書くと,合意はできても履行内容及び強制執行の対象が定まらないことがある。

5 不履行時の効果を独立して書く

金銭債務の遅延損害金を債務名義に含めたい場合は,元本,利率,始期及び終期を条項に書く。
分割払いでは,どの程度の遅滞で期限の利益を失うかと,当然に失うのか債権者の請求によって失うのかを分けて決める。

「2回以上怠ったとき」は,連続2回か通算2回かが明確でない。
各回の額が異なる場合の「2回分」も曖昧になり得るため,「支払を怠り,その額が金○円に達したとき」のように金額で特定する方法がある(前記司法研修所教材11頁~13頁)。

6 請求放棄,清算及び費用を分ける

「原告は,その余の請求を放棄する」という条項は,訴訟上の請求の残部を処理する。
清算条項は,和解条項に定めたもの以外の債権債務を当事者間に残すか否かを処理する。
両者は役割が異なるため,機械的に一つの定型句へまとめない方がよい。

訴訟費用について合意がなければ各自の負担となる(民事訴訟法68条)。
ここでいう各自負担は折半ではなく,各当事者が支出した費用を自ら負担し,相手に償還を求めないという意味である(前記司法研修所教材14頁~15頁)。

7 関連する手続及び資料の処理を残さない

和解が成立しても,関連する保全事件の申立てが当然に取り下げられるとは限らない。
仮差押え又は仮処分の取下げ,保全執行の取消し,担保取消しへの同意,供託金の帰属及び払戻し,別件訴訟の取下げ,登記又は行政手続等を個別に確認する必要がある(前記司法研修所教材33頁~35頁)。

第3 金銭支払条項の作り方

1 一括払いの基本形

単純な金銭請求事件では,次の順序が基本となる。
① 被告が,原告に対し,対象となる債務又は解決金の支払義務があることを認める。
② 被告が,金額,期限,口座及び手数料負担を定めて支払う。
③ 支払を怠った場合の残金及び遅延損害金を定める。
④ 原告がその余の請求を放棄する。
⑤ 当事者間の清算範囲を定める。
⑥ 訴訟費用を定める。

裁判所で成立する訴訟上の和解について,公正証書で用いる「直ちに強制執行に服する旨陳述した」という執行認諾文言を付け加える必要はない。
訴訟上の和解の記載は民事訴訟法267条により確定判決と同一の効力を有し,執行認諾文言は執行証書となる公正証書の要件だからである(民事執行法22条,前記司法研修所教材15頁~16頁)。

2 分割払いは合計額と各回を照合する

分割払いでは,①支払総額,②初回から最終回までの回数,③各回の支払額,④最終回の端数,⑤各支払期限,⑥口座,⑦手数料負担を照合する。
月末払いの場合は,最終日が休日であるときの扱いを合意するかも検討する。

期限の利益喪失後に支払う金額は,元の確認額から既払金を控除した残金なのか,和解による減額前の金額なのかを明記する。
一部を期限どおり支払えば残額を免除する設計では,免除の条件と,条件不成就時に復活又は存続する債務額を別の項で示す。

3 和解成立前までの利息及び遅延損害金を忘れない

神戸地方裁判所平成16年3月11日判決(平成15年(レ)第75号・敷金返還請求控訴事件,同附帯控訴事件)は,55万円の支払義務,その余の請求放棄及び相互の清算条項がある事案で,既発生の遅延損害金を別に受け取るつもりであったとの主張を退けた(裁判所掲載PDF)。
この裁判例からは,和解成立前までの元本,利息及び遅延損害金のどこまでが和解金に含まれ,どこからが放棄され,和解後の不履行について何が発生するかを,成立前に計算表と条項案の双方で照合するという確認課題が導かれる。

第4 非金銭給付条項の作り方

1 明渡し,収去及び撤去

土地又は建物の明渡しでは,物件目録で目的物を特定し,明渡期限,収去又は撤去する物,残置物,鍵の引渡し,公共料金,原状回復,明渡しまでの使用損害金及び明渡完了の確認方法を検討する。
金銭支払と明渡しを交換条件にする場合は,明渡先履行,金銭先履行又は同時履行のいずれかを明示する。
敷金又は保証金がある場合は,その返還,充当又は放棄を清算条項に埋没させず独立して処理する(前記司法研修所教材21頁~28頁)。

2 登記手続

登記条項では,対象不動産,登記の種類,登記原因及びその日付,抹消対象となる受付年月日及び受付番号,登記費用並びに必要書類を特定する。
登記手続を命ずる和解条項がある場合,原則として和解の記録時に登記義務者の意思表示がされたものとみなされる(民事執行法177条,前記司法研修所教材31頁~32頁)。

条件又は期限を付けた登記条項は,条件成就又は期限到来の立証が別に必要となることがある。
実務上は,実際の登記申請に使える文言であるかを,登記原因証明情報,登録免許税その他の実行手続と一体で確認する。

3 不作為,秘密保持及び廃棄

販売,使用,公表その他の行為をしない義務は,対象行為,対象物,期間,地域,例外及び対象者を特定する。
資料又は製品を廃棄する義務では,対象を目録化し,期限,方法及び完了報告の資料を定める。

秘密保持条項では,秘密情報の定義,既に公知の情報,法令又は裁判所・行政機関の命令に基づく開示,弁護士・税理士その他の専門家への開示,開示先にも守秘を求めるか,存続期間及び違反時の処理を検討する。
東京地方裁判所知的財産権部の和解条項例は,非使用,廃棄,不開示,金銭給付,請求放棄及び清算を組み合わせる例として参考になるが,知的財産事件用の文例である。他の事件ではそのまま転用せず,対象となる権利及び行為に応じて組み直す。

第5 清算条項は最も慎重に作る

1 「誰と誰の間」を明記する

清算条項では,原告と被告の間だけか,複数の原告・被告の全組合せか,利害関係人との関係も含むかを明記する。
和解当事者でない共同債務者,使用者,保険者その他の者に対する請求を残す場合は,その請求を明示的に留保することを検討する。

最高裁判所第一小法廷平成10年9月10日判決(平成9年(オ)第448号・民集52巻6号1494頁)は,共同不法行為者の一人との訴訟上の和解について,被害者に他の共同不法行為者の残債務も免除する意思が認められるときは,その者にも免除の効力が及ぶとした(裁判所掲載PDF)。
共同不法行為者との示談及び求償については,共同不法行為の連帯責任と連帯債務も参照されたい。

2 「何に関する債権債務か」を定義する

全面清算なら「本和解条項に定めるほか何らの債権債務がない」とし,限定清算なら「本件契約に関し」「令和○年○月○日の事故に関し」など対象を特定する。
ただし,「本件に関し」という語だけで,潜在している損害,将来発生する損害,別契約,別訴又は第三者との関係まで当然に明確になるわけではない。

札幌高等裁判所令和7年2月14日判決(令和5年(ネ)第86号・損害賠償請求控訴事件)は,じん肺の管理区分を前提とする先行和解後に死亡損害が発生した事案で,先行和解の清算条項にいう「本件に関し」の範囲を,前訴の経過,紛争の実情,和解成立の経緯及び当事者の合理的意思等から検討し,死亡損害の差額請求を妨げないと判断した(裁判所掲載PDF)。
したがって,既知の損害だけを清算するのか,将来損害まで清算するのか,特定の請求権を留保するのかを明示しておく。

なお,同判決に対する上告等の最終結果は,この記事の確認日現在,裁判所公表資料から確認できていない。

3 履行と清算の効力発生時期をそろえる

和解成立時に直ちに全債権を清算するのか,和解金の全額支払,明渡し又は資料廃棄等の履行完了を条件として残債務を免除するのかでは,未履行時の結論が異なる。
債権者側では,減額又は免除を履行完了の条件にかからせる設計を検討する。
債務者側では,何をすれば免除が確定するかを客観的に判定できるようにする。

第6 裁判所を介した成立方法を選ぶ

1 ウェブ会議等を利用する和解

裁判所は,当事者の意見を聴いて相当と認めるとき,音声の送受信により相手方の状態を相互に認識しながら通話できる方法で和解期日を行うことができ,その方法で参加した当事者は期日に出頭したものとみなされる(民事訴訟法89条2項・3項)。
この方法を利用する場合は,裁判所の運用及び期日の指定を個別に確認する。

2 和解条項案の書面による受諾

当事者の一方が出頭困難な場合,裁判所又は受命裁判官・受託裁判官が提示した和解条項案をあらかじめ書面で受諾し,他方当事者が期日に出頭して同じ条項案を受諾すれば,和解が成立したものとみなされる(民事訴訟法264条1項)。
双方が出頭困難な場合についても,同条2項の要件を満たす書面受諾の仕組みがある。

3 裁判所が定める和解条項

当事者双方が共同で書面により申立てをし,裁判所等が定める和解条項に服する旨を陳述した場合,裁判所等は事件の解決に相当な和解条項を定めることができ,その告知により和解が成立したものとみなされる(民事訴訟法265条)。
いずれの方法でも,実務上は,受諾前に最終の条項案,別紙及び計算表が同一版であることを確認する。
口頭で合意したつもりの条件が条項案から抜けていないか,裁判所による修正が清算範囲又は不履行時の効果を変えていないかを一項ずつ確認する。

第7 最終チェックリスト

1 合意内容

① 対象となる請求,反対請求,契約,事故,物件及び期間を特定したか。
② 金銭以外の希望条件を全て条件表に入れたか。
③ 依頼者は金額だけでなく,放棄及び清算の範囲も承認したか。
④ 訴訟代理人の特別授権及び必要な内部決裁を確認したか。
⑤ 訴訟当事者でない者を参加させる必要はないか。

2 給付及び不履行

① 義務者,権利者,目的物及び給付文言が明確か。
② 期限,場所,方法及び費用負担が明確か。
③ 先履行,同時履行又は条件付履行の関係が明確か。
④ 分割金の合計,回数,各回の金額及び最終回を照合したか。
⑤ 遅延損害金の元本,利率,始期及び終期を定めたか。
⑥ 期限の利益喪失事由と,その効果が当然発生か請求時発生かを定めたか。
⑦ 非金銭義務の対象,期間,例外及び完了確認方法を定めたか。

3 紛争の終了範囲

① その余の請求放棄と清算条項を区別したか。
② 誰と誰の間の清算かを明記したか。
③ 既発生の利息及び遅延損害金を処理したか。
④ 将来損害,潜在損害,別契約及び第三者に対する請求を含めるか留保するかを決めたか。
⑤ 免除又は清算の効力発生を履行完了にかからせる必要はないか。
⑥ 訴訟費用及び和解費用を処理したか。

4 事件終了後の実行

① 保全事件,保全執行,担保及び供託を処理したか。
② 別件訴訟,審判,審決又は行政手続を処理したか。
③ 登記,引渡し,廃棄,通知及び公表等に必要な別紙を添付したか。
④ 和解条項案,別紙及び計算表の版が一致しているか。
⑤ 任意履行がなかった場合に,執行対象を特定できるか。

和解を依頼者と検討する際の一般的な考え方については,弁護士依頼時に知っておいてほしい大切なことも参照されたい。

第8 出典・参考資料

1 法令

① e-Gov法令検索「民事訴訟法」55条,68条,89条,264条,265条及び267条(令和8年9月9日現在施行中の条文を確認)。
② e-Gov法令検索「民法」695条及び696条(令和8年9月9日現在施行中の条文を確認)。
③ e-Gov法令検索「民事執行法」22条,27条,171条~173条及び177条(令和8年9月9日現在施行中の条文を確認)。

2 裁判例

① 最高裁判所第一小法廷平成10年9月10日判決・平成9年(オ)第448号・損害賠償請求事件・民集52巻6号1494頁。
② 神戸地方裁判所平成16年3月11日判決・平成15年(レ)第75号・敷金返還請求控訴事件,同附帯控訴事件。
③ 札幌地方裁判所令和5年2月3日判決・令和2年(ワ)第2916号・損害賠償請求事件。
④ 札幌高等裁判所令和7年2月14日判決・令和5年(ネ)第86号・損害賠償請求控訴事件。

3 裁判所公表実務資料

① 司法研修所民事弁護教官室「民事弁護実務の基礎~はじめての和解条項~」令和7年2月版,4頁~35頁。
② 東京地方裁判所知的財産権部「和解条項例」(令和8年9月9日確認)。