司法修習を終えた者が判事補に任命されるのは,通常,修習を終えた年の一括採用による。
もっとも,いったん弁護士等になった者が,その後に判事補への任官を希望することもある。
本記事は,修習終了後3年未満の時期に判事補へ任官した裁判官,すなわち弁護士を1年ほど務めた後に1年後輩の司法修習生と一緒に判事補になった裁判官を整理し,その任命の仕組みと,下級裁判所裁判官指名諮問委員会における審査の扱いを,裁判所法及び委員会の議事要旨によって説明する。
第1 「修習終了後3年未満の判事補への任官」とは
1 「修習終了後3年未満」という区分の意味
判事補は,司法修習生の修習を終えた者の中から任命される(裁判所法43条)。
その多くは,修習を終えた年に,同期の修習生とともに一括して判事補に採用される。
これに対し,修習を終えた後にいったん弁護士等になり,その後に改めて判事補への任官を希望する者もいる。
下級裁判所裁判官指名諮問委員会の運用では,こうした任官希望者のうち,修習終了後3年未満の時期に判事補への任官を希望する者は,実務経験を積んだ弁護士等の任官(いわゆる弁護士任官)とは分けて扱われ,「司法修習生から判事補への任命のパターンに準じて」審査される。
本記事の表題にいう「修習終了後3年未満の判事補への任官」とは,この区分に当たる任官を指す。
2 判事補が任命される仕組み
(1) 内閣による任命と最高裁判所の指名
判事補を含む下級裁判所の裁判官は,最高裁判所の指名した者の名簿によって,内閣が任命する(日本国憲法80条1項,裁判所法40条1項)。
その任期は10年であり,再任されることができる。
したがって,誰を判事補として任命するかは,まず最高裁判所が誰を指名するかによって決まる。
(2) 下級裁判所裁判官指名諮問委員会の役割
最高裁判所が下級裁判所裁判官を指名するに先立ち,その指名の適否を審議するのが,下級裁判所裁判官指名諮問委員会である。
同委員会は,下級裁判所裁判官指名諮問委員会規則(最高裁判所規則第6号。平成15年5月1日施行)により,最高裁判所に置かれている。
最高裁判所は,任官希望者について,その者を指名することの適否を委員会に諮問しなければならず(規則3条1項),委員会は,指名の適否を審議して最高裁判所に意見を述べる(規則2条)。
委員会は,裁判官,検察官,弁護士及び学識経験のある者のうちから最高裁判所が任命する委員11人で組織され,各高等裁判所の所在地には,指名候補者に関する情報を収集する地域委員会が置かれる(規則5条,6条,12条,13条)。
委員会の庶務は,最高裁判所事務総局総務局が処理する(規則18条)。
第2 1年後輩の司法修習生と一緒に判事補になった裁判官
1 該当する裁判官
次の裁判官は,いずれも弁護士を1年間ほど務めた後,1年後輩の司法修習生と一緒に判事補になった。
| 修習期 | 氏名 | 備考 |
|---|---|---|
| 56期 | 渡辺美紀子裁判官 | 平成29年4月1日から令和4年4月7日まで司法研修所刑裁教官 |
| 57期 | 浅海俊介裁判官 | |
| 57期 | 市原志都裁判官 | |
| 58期 | 高田美紗子裁判官 | |
| 現行60期 | 平山俊輔裁判官 | 任官のタイミングは新61期と一緒 |
| 70期 | 塚原明日香裁判官 | 判事補任官時の氏名。のちに山田明日香に改姓し,令和8年3月31日に依願退官して弁護士となった(弁護士としての氏名は塚原明日香)。任官の経緯は第3を参照 |
2 判事就任資格が同期と同じになる理由
判事は,裁判所法42条1項各号に掲げる職の一又は二以上に在ってその年数を通算して10年以上になる者の中から任命される。
同項が掲げる職には,「判事補」(1号)と「弁護士」(4号)が含まれる。
弁護士など同項2号から5号までの職に在った年数は,司法修習生の修習を終えた後の年数に限って通算される(同条3項)。
上記の各裁判官は,修習を終えた後に弁護士を1年ほど務めているから,その弁護士としての期間も判事就任資格の通算年数に算入される。
そのため,判事補としての任官が1年遅れても,弁護士としての1年間と判事補としての期間を通算すれば,同期の判事補と同じ時期に通算10年の資格を満たす。
その結果,これらの裁判官は,任官前の弁護士経験がある関係で,判事就任資格については他の同期の判事補と同じとなり,同期と一緒に判事になった。
第3 平成31年1月の任官候補者に関する指名諮問委員会の説明
1 第87回委員会の議事要旨
平成30年12月21日に開催された第87回下級裁判所裁判官指名諮問委員会の議事要旨の2頁及び3頁には,平成31年1月の修習終了後3年未満の判事補への任官候補者について,次の記載がある。
庶務から,修習終了後3年未満の者の判事補への指名の適否の審査及び情報収集は,司法修習生から判事補への任命のパターンに準じて行うこととされていること,具体的には,最高裁判所から提出された資料に基づいて審議することとし,地域委員会に対しては,特に情報収集の依頼はせず,実務修習地及び所属弁護士会所在地を管轄する地域委員会に指名候補者の名簿及び履歴書を送付することとされている旨の説明がされた。
さらに,今回の修習終了後3年未満の判事補への任官候補者1人については,9月の委員会後に任官希望が出され,これを受けて諮問がされた関係で,本日の委員会より前に情報収集に関する審議を行う機会がなかったため,委員長の了解を得て,実務修習地及び所属弁護士会所在地を管轄する地域委員会に対し,名簿及び履歴書を送付したこと,本日までに地域委員会から特段の情報は寄せられていないことが報告された。
作業部会における検討結果を踏まえ,指名候補者1人について,判事補に任命されるべき者として指名することの適否について審議され,審議の結果,指名することが適当であると最高裁判所に答申することとされた。
この記載からは,修習終了後3年未満の判事補への任官候補者の審査が,弁護士任官の一般的な選考とは異なり,新任判事補と同じ枠組みで進められること,また,この候補者が9月の委員会の後に任官希望を申し出た1人であったことが分かる。
2 塚原明日香裁判官の判事補採用
この答申を経て,平成31年1月16日,70期の塚原明日香裁判官が判事補に採用された。
同裁判官は,判事補任官後に山田明日香に改姓し,令和8年3月31日に依願退官して弁護士となった。
第4 平成31年1月以降の該当例
「修習終了後3年未満の判事補への任官候補者」は,下級裁判所裁判官指名諮問委員会において毎年審議される定例の議題ではなく,該当する任官希望者が現れた場合に限って取り上げられる。
これは,実務経験を積んだ弁護士等が任官を希望する弁護士任官(各年の委員会で「弁護士任官希望者」等として諮問されるもの)とは別の類型であり,混同されやすい。
第87回委員会(平成30年12月21日)から第125回委員会(令和8年4月10日)までの議事要旨を通覧すると,「修習終了後3年未満の判事補への任官候補者」が議題として現れるのは,この平成31年1月の候補者に関する第87回委員会及び第88回委員会(平成31年2月22日)に限られる。
この点から,本記事では,塚原明日香裁判官が,議事要旨で確認できる範囲における直近の該当例であり,令和8年4月までに新たな該当者は現れていないものと整理する。
各回の議事要旨は,下級裁判所裁判官指名諮問委員会のページで確認することができる。
第5 関連記事
判事補の採用及び弁護士任官については,次の記事も参照されたい。
出典
1 法令
2 公文書・資料