第1 第27回国民審査の実施概要
1 審査期日及び審査対象
第27回最高裁判所裁判官国民審査は,第51回衆議院議員総選挙と同日の令和8年2月8日に執行された。
日本国憲法79条2項及び最高裁判所裁判官国民審査法2条1項により,最高裁判所の裁判官は,任命後初めて行われる衆議院議員総選挙の際に国民審査に付される。
今回の対象者は,第50回衆議院議員総選挙が執行された令和6年10月27日より後に任命された高須順一最高裁判所判事及び沖野眞已最高裁判所判事の2人であった。
高須判事は令和7年3月27日に,沖野判事は同年7月24日に任命された。
国民審査法14条及び15条によれば,投票用紙には審査対象となる裁判官の氏名が印刷され,罷免を可とする裁判官には「×」を記載し,罷免を可としない裁判官には何も記載しない。
同法32条1項は,罷免を可とする投票が罷免を可としない投票を超える裁判官を罷免されるものとする一方,投票総数が同項所定の選挙人名簿登録者総数の100分の1に達しない場合を除外している。
2 期日前投票及び不在者投票の期間
第51回衆議院議員総選挙の期日前投票期間は令和8年1月28日から2月7日までであったが,第27回国民審査の期日前投票及び不在者投票の期間は同年2月1日から2月7日までであった。
この期間は,国民審査法16条の2及び埼玉県選挙管理委員会の第51回衆議院議員総選挙・第27回国民審査案内で確認できる。
第2 審査対象となった2人の最高裁判所判事
| 氏名 | 任命日 | 所属小法廷 | 生年月日 | 法律上の定年退官日 |
|---|---|---|---|---|
| 高須順一最高裁判所判事 | 令和7年3月27日 | 第二小法廷 | 昭和34年10月9日 | 令和11年10月8日限り |
| 沖野眞已最高裁判所判事 | 令和7年7月24日 | 第三小法廷 | 昭和39年1月12日 | 令和16年1月11日限り |
1 高須順一最高裁判所判事
高須順一最高裁判所判事は,法政大学法学部を卒業し,弁護士,日本弁護士連合会司法制度調査会委員長及び法政大学大学院法務研究科教授等を経て,令和7年3月27日に最高裁判所判事に任命された。
令和7年2月14日の閣議では,同人を最高裁判所判事に任命することが決定された。
① 最高裁判所の公式プロフィール
② 高須順一最高裁判所判事任命の閣議書(令和7年2月14日付)
2 沖野眞已最高裁判所判事
沖野眞已最高裁判所判事は,東京大学法学部を卒業し,学習院大学法学部教授,一橋大学大学院法学研究科教授,東京大学大学院法学政治学研究科教授並びに同研究科長兼法学部長等を経て,令和7年7月24日に最高裁判所判事に任命された。
令和7年6月6日の閣議では,同人を最高裁判所判事に任命することが決定された。
① 最高裁判所の公式プロフィール
② 首相官邸「令和7年6月6日(金)定例閣議案件」
③ 沖野眞已最高裁判所判事の就任記者会見(令和7年7月24日実施分)関係文書
④ 沖野眞已最高裁判所判事任命の閣議書(令和7年6月6日付)
3 法律上の定年退官日
裁判所法50条は,最高裁判所の裁判官が70歳に達した時に退官すると定めている。
年齢計算ニ関スル法律は年齢を出生の日から起算し,民法143条2項を準用するため,法律上は70歳の誕生日の前日に70歳へ達する。
このため,高須判事の法律上の定年退官日は令和11年10月8日,沖野判事の法律上の定年退官日は令和16年1月11日となる。
これらは現行法及び裁判所が公表する生年月日から算定した日であり,将来の個別の人事発令を引用したものではない。
第3 第27回国民審査の審査公報
1 審査公報に掲載された事項
国民審査法53条に基づき,都道府県選挙管理委員会は審査対象裁判官の氏名,生年月日,経歴その他の事項を掲載した審査公報を発行する。
岐阜県選挙管理委員会が発行した第27回国民審査の審査公報には,高須判事及び沖野判事の経歴,最高裁判所において関与した主要な裁判,裁判官としての心構え等が掲載されている。
審査公報は各裁判官の公表資料を一覧するための資料である。
個別の裁判における判断を確認するときは,審査公報の要約だけでなく,判決又は決定の本文を確認する必要があるため,最高裁判所裁判官国民審査の判断方法も参照されたい。
2 最高裁判所から送付された掲載文
最高裁判所は,令和8年1月26日付けの最高裁広第19号「最高裁判所裁判官国民審査公報掲載文について(送付)」により,中央選挙管理会へ2人の掲載文を送付した。
同文書及び審査公報掲載文原稿用紙には,起案日及び決裁日が令和8年1月26日,施行日が同月27日と記載されている。
この送付文書及び原稿用紙は,最高裁判所が中央選挙管理会へ送付した掲載文に関する資料である。
都道府県選挙管理委員会が有権者向けに発行した審査公報そのものとは区別する必要がある。
第4 第27回国民審査の確定結果
1 2人はいずれも罷免されなかった
中央選挙管理会は,令和8年2月13日付け中央選挙管理会告示第20号により,高須判事及び沖野判事について,いずれも罷免を可とする投票が罷免を可としない投票より少数であるため,罷免されないと告示した。
同告示は,官報令和8年2月13日号外特第7号8頁に掲載されている。
2 裁判官別の投票結果及び罷免可率
総務省「第51回衆議院議員総選挙・第27回最高裁判所裁判官国民審査結果調」の裁判官別結果は,次のとおりである。
| 裁判官 | 罷免を可とする投票 | 罷免を可としない投票 | 記載無効 | 計 | 罷免可率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 高須順一 | 7,664,301票 | 46,489,132票 | 319票 | 54,153,752票 | 14.15% |
| 沖野眞已 | 7,436,291票 | 46,717,272票 | 189票 | 54,153,752票 | 13.73% |
表の罷免可率は,総務省資料の票数を基に,「罷免を可とする投票÷(罷免を可とする投票+罷免を可としない投票)×100」で本記事において計算し,小数第3位を四捨五入したものである。
裁判官ごとの記載無効票は,この計算の分母に含めていない。
3 全国の投票率及び無効投票
全国の選挙当日有権者数は103,211,200人,投票者数は55,461,023人,投票率は53.74%であった。
前回の第26回国民審査の投票率は53.64%であった。
投票総数は55,444,187票,有効投票数は54,153,752票,無効投票数は1,290,435票であり,無効投票率は2.33%であった。
これらの「投票者数」「投票総数」「有効投票数」は総務省資料上の別個の集計項目であるため,同じ数値として扱わない。
4 罷免可率を見る際の留意点
罷免可率は,投票用紙に「×」が記載された割合であり,裁判官に対する支持率,思想評価又は個々の投票理由を直接示す数値ではない。
総務省の集計表から確認できるのは投票の分布であり,投票者が「×」を記載した理由までは確認できない。
西川伸一「最高裁判所裁判官国民審査および国民審査公報の実体分析」は,過去の国民審査では投票用紙上の氏名の掲載順による「順序効果」が指摘されてきたと整理している。
したがって,第27回の2人の罷免可率の差だけから,個別の判決,経歴又は人物評価が差を生じさせたと推測することはできない。
第5 在外投票を可能にした令和4年改正
1 最高裁令和4年5月25日大法廷判決
最高裁令和4年5月25日大法廷判決(令和2年(行ツ)第255号,令和2年(行ヒ)第290号・第291号・第292号,民集76巻4号711頁)は,在外国民に国民審査権の行使を全く認めていなかった当時の国民審査法について,憲法15条1項及び79条2項・3項に違反すると判断した。
同判決は,在外国民が次回の国民審査で審査権を行使できないことが違法であるとの確認請求を認容し,立法不作為に関する国家賠償請求について各原告に5000円を認めた。
2 改正法及び第27回の在外投票
判決後の第210回国会で,最高裁判所裁判官国民審査法の一部を改正する法律(令和4年法律第86号)が成立し,令和4年11月18日に公布され,令和5年2月17日に施行された。
この改正により,在外投票,洋上投票等による国民審査が可能となった。
衆議院調査局の資料によれば,改正後初めて在外投票が実施されたのは,令和6年10月27日執行の第26回国民審査である。
第27回国民審査では,在外選挙人名簿登録者数が103,380人,投票者数が24,484人,投票率が23.68%であった。
第6 関連記事
① 国民審査の根拠,投票方法及び歴代の実施状況は,最高裁判所裁判官国民審査を参照されたい。
② 審査公報,裁判所の公式プロフィール及び判決・決定の確認方法は,最高裁判所裁判官国民審査の判断方法を参照されたい。
③ 在外国民審査権判決及び令和4年改正の詳細は,最高裁判所裁判官国民審査の合憲性を参照されたい。
④ 前回の対象裁判官及び結果は,令和6年10月27日執行の第26回最高裁判所裁判官国民審査を参照されたい。
⑤ 高須判事及び沖野判事の所属小法廷は,最高裁判所第二小法廷及び最高裁判所第三小法廷を参照されたい。
⑥ 最高裁判所判事の任命関係資料は,最高裁判所判事任命の閣議書を参照されたい。
第7 出典・参考資料
1 法令及び告示
① 日本国憲法79条。
② 最高裁判所裁判官国民審査法(昭和22年法律第136号)2条,14条~16条の2,22条,32条,33条,35条及び53条。
③ 裁判所法(昭和22年法律第59号)50条。
④ 年齢計算ニ関スル法律(明治35年法律第50号)。
⑤ 民法(明治29年法律第89号)143条2項。
⑥ 最高裁判所裁判官国民審査法の一部を改正する法律(令和4年法律第86号)。
⑦ 中央選挙管理会告示第20号(官報令和8年2月13日号外特第7号8頁)。
2 裁判例
① 最高裁判所大法廷令和4年5月25日判決(令和2年(行ツ)第255号,令和2年(行ヒ)第290号・第291号・第292号,民集76巻4号711頁,裁判所ウェブサイト)。
3 裁判所,内閣及び選挙管理委員会の資料
① 最高裁判所「高須順一裁判官」。
② 最高裁判所「沖野眞已裁判官」。
③ 高須順一最高裁判所判事任命の閣議書(令和7年2月14日付)。
④ 首相官邸「令和7年6月6日(金)定例閣議案件」。
⑤ 沖野眞已最高裁判所判事任命の閣議書(令和7年6月6日付)。
⑥ 沖野眞已最高裁判所判事の就任記者会見(令和7年7月24日実施分)関係文書。
⑦ 岐阜県選挙管理委員会「第27回最高裁判所裁判官国民審査公報」全2頁。
⑧ 埼玉県選挙管理委員会「第51回衆議院議員総選挙・第27回最高裁判所裁判官国民審査」。
⑨ 最高裁判所「最高裁判所裁判官国民審査公報掲載文について(送付)」(最高裁広第19号,令和8年1月26日決裁)及び審査公報掲載文原稿用紙全4頁。
4 統計及び国会資料
① 総務省「第51回衆議院議員総選挙・第27回最高裁判所裁判官国民審査結果調」PDF146頁~151頁(資料上の144頁~149頁)。
② 衆議院調査局「政治改革に関する動向」PDF13頁(資料上の230頁)。
5 文献
① 西川伸一「最高裁判所裁判官国民審査および国民審査公報の実体分析―国民審査の実質化をめざして―」『政経論叢』79巻3・4号,明治大学政治経済研究所,2011年,161頁~230頁のうち161頁~164頁を確認。