東京地方裁判所民事第27部は,交通事故に関する民事訴訟を取り扱う専門部であり,通常「交通部」と呼ばれている。
本記事では,交通部の担当範囲,2026年4月現在の係構成,新受件数の推移,交通事件共通書式,民事訴訟のデジタル化後の証拠提出及び関係文献を整理する。
担当裁判官,書式及び提出方法は変更され得るため,実際の手続では東京地裁の交通部案内及び担当係の案内も確認する必要がある。
第1 東京地裁民事第27部(交通部)の役割と現在の体制
1 担当する事件
東京地方裁判所民事第27部は,同裁判所の民事訴訟事件係で受け付けた事件のうち,交通事故に関する事件を取り扱う専門部である。
もっとも,車両が関係する事故のすべてが交通部の担当になるわけではない。
東京弁護士会LIBRA2021年11月号の交通部特集は,走行中の車両に石が当たって乗客が負傷した事故,停止中の電車又はバス内での転倒及び駐車中の車両の開放ドアとの接触等について,車両の運行に起因しない事故として交通部の取扱対象外となる例を挙げている。
個別事件の担当部は,事故と車両の運行との関係及び東京地裁の事件配てんに従って決まるため,類似事例だけで断定すべきではない。
2 現在の係構成と2021年時点の体制
東京地裁の担当裁判官一覧によれば,2026年4月24日現在,民事第27部では12名の裁判官が,1係~7係及びA係~E係の12の単独係を担当している。
合議事件については,甲及び乙の合議係が掲げられている。
これに対し,LIBRA2021年11月号が示す2021年4月時点の体制は,裁判官14名,書記官17名,速記官2名及び事務官3名であり,単独12係及び合議5係であった。
したがって,2021年の人数及び係数は当時の状況を示す資料であり,現在の所属人数と混同してはならない。
第2 新受件数の推移と終局状況
1 確認できた主な新受件数
東京地裁交通部の新受件数は,発足後に増減を繰り返しており,一貫して増加してきたわけではない。
確認できた主な時点は,次のとおりである。
| 年度 | 新受件数 | 内訳・資料上の位置付け |
|---|---|---|
| 1962年度 | 428件 | 交通部発足年度 |
| 1970年度 | 2184件 | 発足後の当時のピーク |
| 1983年度 | 457件 | 大幅に減少した時期 |
| 2008年度 | 1369件 | ワ号1313件,レ号56件 |
| 2012年 | 1778件 | LIBRA2013年8月号 |
| 2014年 | 1891件 | 2013年の1844件から約2.5%増 |
| 2016年度 | 2091件 | ワ号1956件,レ号135件 |
| 2019年 | 2190件 | LIBRA2021年11月号 |
| 2020年 | 1940件 | 2019年から11.4%減 |
1962年度,1970年度,1983年度,2008年度及び2016年度の数値は法曹時報69巻7号73頁~74頁により,2012年の数値はLIBRA2013年8月号により確認した。
2014年の数値は『交通関係訴訟の実務』56頁により,2019年及び2020年の数値はLIBRA2021年11月号により確認した。
2021年以後の部別新受件数について,同じ定義で連続比較できる公表系列は確認できなかったため,推計値は掲げていない。
本ブログの次のX投稿には,2018年1月から2020年9月までの東京地裁本庁の通常部・専門部別訴訟事件概況の画像を添付している。
東京地裁本庁の通常部・専門部別訴訟事件概況(平成30年1月から令和2年9月まで)を添付しています。 pic.twitter.com/2uhYyJXHTw
— 弁護士 山中理司 (@yamanaka_osaka) July 22, 2021
2 2017年当時に指摘された増加要因
法曹時報69巻7号74頁は,2016年度まで新受件数が増加していた背景として,次の事情を指摘している。
- ① 損害保険会社の保険金支払査定が厳しくなる一方,当事者の権利意識が高まったこと。
- ② 高次脳機能障害に伴う高額の将来介護費等,示談では解決しにくい問題を含む事案が増加したこと。
- ③ 弁護士費用補償特約の普及により,少額の請求を含めて訴訟及び控訴を利用しやすくなったこと。
ただし,これは2017年に公表された分析であり,その後の新受件数の増減を同じ要因だけで説明するものではない。
3 2020年の終局状況
二弁フロンティア2022年4月号によれば,2020年の既済件数は1838件であった。
終局区分は,判決15.5%,和解72.7%及び取下げその他11.8%であり,当時は和解による終局が大きな割合を占めていた。
この数値も2020年の状況を示すものであり,現在の終局割合を示す統計として扱うべきではない。
第3 交通事件共通書式と一覧表を用いた審理
1 現行の交通事件共通書式
裁判所ウェブサイトの民事訴訟(交通事件)で使う書式には,東京地裁及び大阪地裁が作成した共通書式が掲載されている。
2026年5月14日版の共通書式は,次の4シートからなる。
- ① 事案の概要
- ② 損害額一覧表
- ③ 治療費等集計表
- ④ 相続等一覧表
同じページには,訴状記載例,共通書式の記載例,主張一覧表及びマニュアルも掲載されている。
旧東京地裁書式を保存して使用するのではなく,提出時点で裁判所ウェブサイトに掲載されている版及び担当係の指示を確認する必要がある。
2 共通書式の目的と使用上の注意
共通書式詳細マニュアルによれば,共通書式は,必要事項の入力による基本的主張の整理,主張及び書証の漏れの防止,自動計算並びに当事者と裁判所とのExcelデータ共有を通じて,争点整理及び和解協議を円滑にすることを目的としている。
もっとも,共通書式は法的評価を代替するものではない。
自動計算の結果だけに依存せず,損害項目,充当関係,過失相殺,素因減額及び計算の前提に争いがある場合は,主張欄又は別紙で根拠を明確にする必要がある。
3 2021年に導入された一覧表審理
令和3年度専門訴訟担当裁判官事務打合せ協議結果要旨8頁によれば,東京地裁交通部は2021年から,審理の早期の段階で定型の一覧表を使用する運用を始めた。
一覧表には,主張の漏れを防ぎ,主張,争点及び証拠を可視化し,ウェブ会議で画面共有しながら審理方針を議論できるという利点があるとされた。
同資料の作成時点では,提訴時から新書式が使われる割合は約1割であったが,提訴後に作成を促すことにより,合議事件では全件,単独事件では多い係で約70%~80%に達していたとされる。
現在は全国各地の地方裁判所で一覧表を利用した審理が推進されており,東京及び大阪の書式は共通書式へ更新されている。
第4 証拠提出と民事訴訟のデジタル化
1 2026年5月21日以後に提起された事件
裁判所の民事訴訟デジタル化案内によれば,2026年5月21日に施行された改正民事訴訟法等により,民事訴訟手続は全面的にデジタル化された。
弁護士等の訴訟代理人には,裁判所のシステムを利用したオンライン手続が義務付けられている。
これに対し,2026年5月20日以前に提起された訴えについては,引き続き旧制度に基づき書面で審理及び送達を行うため,事件の提起日を確認する必要がある。
2 電子カルテ等を提出するときの注意点
デジタル化後は,訴状,準備書面及び証拠の写し等をオンラインで提出することができる。
しかし,電子カルテの元データを形式を問わずそのまま提出すれば足りるという意味ではない。
提出するものが書面の写しか電磁的記録そのものか,裁判所のシステムが対応するファイル形式か,必要部分を特定できるか,頁番号等によって主張と証拠の対応関係を示せるか及び可読性が確保されているかを確認する必要がある。
大量の診療録を提出する場合でも,証拠全体を未整理のまま提出するのではなく,争点との関係及び引用箇所を明示することが重要である。
3 2021年当時の東京地裁交通部資料
令和3年度専門訴訟担当裁判官事務打合せ協議結果要旨11頁は,電子カルテについて,いったん紙に出力して頁番号を付し,その後にPDF化して提出するという当時の運用を紹介していた。
この記載は2021年当時の実務を示す歴史資料であり,2026年5月21日以後に提起された事件の現行ルールをそのまま示すものではない。
東京地裁交通部が2021年から2022年に公表した「書証の提出等について」及び「送付文書の交付について」は,当時の刑事記録,診療録,頁付け,翻訳及び送付文書の取扱いを確認する資料として有用である。
書証の提出等について(東京地裁民事第27部(交通部)の文書)を添付しています。 pic.twitter.com/yo5w5q2Wuk
— 弁護士 山中理司 (@yamanaka_osaka) February 4, 2022
送付文書の交付について(2021年3月の東京地裁民事第27部(交通部)の文書)を添付しています。 pic.twitter.com/FAdY5Is4Ml
— 弁護士 山中理司 (@yamanaka_osaka) February 4, 2022
もっとも,現在の提出方法については,これらの旧資料だけで判断せず,裁判所のデジタル化案内及び担当係の指示を確認すべきである。
第5 東京地裁交通部の裁判官等が関与した主な記事・書籍
1 記事及び座談会
- ① 東京弁護士会LIBRA2013年8月号「東京地裁書記官に訊く―交通部編」
- ② 東京弁護士会LIBRA2021年11月号「東京地裁書記官に訊く―交通部編(2021年版)―」
- ③ 二弁フロンティア2022年4月号「交通事故訴訟の最新の運用と留意点―東京地裁民事第27部(交通部)インタビュー―」
- ④ 『法律のひろば』2026年4月号「交通損害賠償の現在とこれから」
2026年4月号の特集には,東京地裁民事第27部の裁判官らによる座談会が掲載されている。
もっとも,記事又は座談会の各発言が,東京地裁又は民事第27部の公式見解を示すとは限らない。
2 主な書籍
- ① 佐久間邦夫・八木一洋編『交通損害関係訴訟〔補訂版〕』青林書院,2013年7月刊
- ② 森冨義明・村主隆行編著『交通関係訴訟の実務』商事法務,2016年9月刊
- ③ 加藤新太郎・谷口園恵編『裁判官が説く民事裁判実務の重要論点[交通損害賠償編]』第一法規,2021年3月刊
第1の書名は『交通損害関係訴訟〔補訂版〕』が正しく,第2の書名と取り違えないよう注意を要する。
これらは東京地裁交通部の在籍経験者等が関与した実務書であるが,各記述が裁判所又は民事第27部の公式見解を示すものではない。
第6 過失相殺率の認定基準及び関連記事
1 別冊判例タイムズ39号
判例タイムズ社は,2026年3月30日,別冊判例タイムズ39号『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準〔全訂6版〕』を刊行した。
共通書式詳細マニュアルも同書を「緑の本」として参照している。
旧版である別冊判例タイムズ38号だけを現行資料として扱わないよう注意を要する。
2 関連記事
第7 出典
1 裁判所及び弁護士会等の資料
- ① 東京地方裁判所「民事第27部(交通部)」
- ② 東京地方裁判所「東京地方裁判所(民事部)担当裁判官一覧」(2026年4月24日現在)
- ③ 裁判所「民事訴訟(交通事件)で使う書式」及び「共通書式詳細マニュアル」
- ④ 裁判所「改正民訴法等で変わる民事訴訟手続の概要」
- ⑤ 東京弁護士会LIBRA2013年8月号「東京地裁書記官に訊く―交通部編」
- ⑥ 東京弁護士会LIBRA2021年11月号「東京地裁書記官に訊く―交通部編(2021年版)―」
- ⑦ 第二東京弁護士会『NIBEN Frontier』2022年4月号「交通事故紛争の現在と未来」
- ⑧ 最高裁判所事務総局民事局「令和3年度専門訴訟担当裁判官事務打合せ協議結果要旨」8頁及び11頁
- ⑨ 法曹時報69巻7号,2017年,73頁~74頁
- ⑩ 『法律のひろば』2026年4月号「交通損害賠償の現在とこれから」
2 書籍
- ① 佐久間邦夫・八木一洋編『交通損害関係訴訟〔補訂版〕』青林書院,2013年
- ② 森冨義明・村主隆行編著『交通関係訴訟の実務』商事法務,2016年,56頁~69頁
- ③ 加藤新太郎・谷口園恵編『裁判官が説く民事裁判実務の重要論点[交通損害賠償編]』第一法規,2021年
- ④ 東京地裁民事交通訴訟研究会編『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準〔全訂6版〕』別冊判例タイムズ39号,判例タイムズ社,2026年