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就業規則による定年制の新設――既存の従業員に適用できるか,労働契約法10条と合理性の判断要素(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 対象

本記事は,これまで定年の定めがなかった会社が,就業規則で定年制を新しく設け,既に働いている従業員にも適用しようとする場面を扱う。
常時10人以上の労働者を使用する使用者は,退職に関する事項について就業規則を作成して届け出なければならないが(労働基準法89条柱書・3号),それより小さな会社では,就業規則がなく,定年の定めもないまま年月が経っていることがある。
その会社が就業規則を初めて作り,あわせて定年を定める場合には,施行の時点で定年年齢に近い従業員や,既に定年年齢を超えている従業員がいることが少なくない。

本記事は,最高裁判例,労働契約法とその施行通達,高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下「高年法」という。)及び厚生労働省の資料を,e-Gov法令検索,裁判所HPの裁判例検索及び厚生労働省の法令等データベースで確認して整理したものである。
基準日は2026年9月13日である。

2 結論

結論を先に示すと,次のとおりである。
①定年の定めがないことは終身雇用を保障するものではなく,就業規則で新たに定年を定めても既得権の侵害にはならない(最高裁大法廷昭和43年12月25日判決)。
②もっとも,既存の従業員に定年の定めを及ぼすには,その就業規則の条項が合理的なものであることを要し,就業規則が既にある会社で定年の条項を加える場合は労働契約法10条の問題となる。
③合理性は,不利益の程度,必要性,内容の相当性,経過措置や代償措置,労働組合等との交渉の経緯などを総合して判断され,施行後すぐに定年に達する者への配慮を欠いたり,特定の者を退職させる狙いがうかがわれたりすると,否定される方向に働くと考えられる。
④定年は60歳を下回ることができず(高年法8条),65歳未満の定年とする場合は65歳までの雇用確保措置が必要である(同法9条1項)。
⑤過半数代表者からの意見聴取と周知の手続も,合理性の判断で考慮され得る。

第2 定年制の新設と就業規則の拘束力

1 秋北バス事件

(1) 事案

最高裁大法廷昭和43年12月25日判決(昭和40年(オ)第145号,民集22巻13号3459頁,秋北バス事件)は,定年制の新設を正面から扱った最高裁判例である。
会社には一般の従業員について50歳の停年の定めがあったが,主任以上の職にある者には停年の定めが適用されていなかった。
会社は,昭和32年4月1日に就業規則を改正して主任以上の職にある者の停年を55歳と定め,既に55歳に達していた従業員に対し,同月25日付で解雇を通知した。

(2) 判断

同判決は,就業規則は合理的な労働条件を定めている限り法的規範としての性質を持つとした上で,次のように述べた。
「新たな就業規則の作成又は変更によつて、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいつて、当該規則条項が合理的なものであるかぎり、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないと解すべきであり、これに対する不服は、団体交渉等の正当な手続による改善にまつほかはない。」
さらに,「新たな停年制の採用のごときについても、それが労働者にとつて不利益な変更といえるかどうかは暫くおき、その理を異にするものではない。」とした。

同判決は,定年の定めがないことの意味について,「労働契約に停年の定めがないということは、ただ、雇用期間の定めがないというだけのことで、労働者に対して終身雇用を保障したり、将来にわたつて停年制を採用しないことを意味するものではなく」と述べ,新たに停年を定めても既得権侵害の問題は生じないとした。
また,定年制は,人事の刷新や経営の改善等のために行われるものであって,「一般的にいつて、不合理な制度ということはできず」とした。
その上で,再雇用の特則が設けられて苛酷な結果を緩和する途が開かれていたこと,現にその従業員にも嘱託として再雇用する旨の意思表示がされていたこと等を総合して,改正後直ちに適用されて解雇される者との関係でも条項は不合理ではなく,信義則違反や権利濫用にも当たらないとした。
なお,同判決は,この条項を定年に達したことを理由とする解雇の定めと解し,これに基づく解雇は労働基準法20条の解雇の制限に服するとも述べている。

(3) 現在の目で読むときの注意

同判決が55歳の停年を「低きに失するものとはいえない」と評価したのは昭和32年当時の事案についてであり,現在は高年法8条により60歳を下回る定年を定めることはできない(後記第4の1)。
また,同判決の後,最高裁は合理性の判断方法を具体化しており,現在は後記第3の1の考慮要素に沿って判断することになる。

2 労働契約法との関係

(1) 条文の構造

労働契約法7条は,労働契約を締結する場合に,使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていたときは,労働契約の内容はその就業規則で定める労働条件によるとする。
定年制を新設した後に採用する従業員については,この7条により,周知された合理的な定年の定めが労働契約の内容となる。
これに対し,同法9条本文は,「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。」と定め,ただし書で10条の場合を除いている。
同法10条本文は,変更後の就業規則を労働者に周知させ,かつ,就業規則の変更が「労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき」は,労働契約の内容である労働条件は変更後の就業規則に定めるところによるとする。

(2) 就業規則がある会社で定年の条項を加える場合

厚生労働省の施行通達(平成24年8月10日基発0810第2号「労働契約法の施行について」)は,「法第10条の『就業規則の変更』には、就業規則の中に現に存在する条項を改廃することのほか、条項を新設することも含まれるものであること。」としている。
したがって,就業規則は既にあるが定年の定めがなかった会社が定年の条項を加える場合は,10条の問題となる。
同通達は,10条は就業規則の変更による労働条件の変更が労働者の不利益となる場合に適用されること,合理性を基礎付ける事実の主張立証責任は使用者側が負うことも明らかにしている。

(3) 就業規則が全くなかった会社で初めて作成する場合

就業規則が存在しなかった事業場で初めて就業規則を作成した場合について,同通達は,7条は労働契約の成立場面について適用されるものであり,「既に労働者と使用者との間で労働契約が締結されているが就業規則は存在しない事業場において新たに就業規則を制定した場合については適用されないものであること。」としている。
他方で,同通達は,この場合に10条が適用されるとまでは述べておらず,9条と10条の文言も「就業規則の変更」である。

もっとも,秋北バス事件判決をはじめとする最高裁判例は,「就業規則の作成又は変更」を対象として合理性の判断枠組みを示している。
同通達も,9条と10条は確立した最高裁判所の判例法理に沿って規定したもので,「判例法理に変更を加えるものではない」としている。
そうすると,就業規則を初めて作成して定年を設ける場合も,既存の従業員との関係では,10条の直接の適用によるか判例法理によるかは別として,同じ考慮要素による合理性の審査を受けると考えるのが自然であり,本記事ではこの前提で整理する。

3 定年の新設は不利益といえるか

(1) 裁判例の扱い

秋北バス事件判決は,定年制の採用が不利益な変更といえるかどうかの判断を留保したまま,合理性の問題として判断した。
京都地方裁判所平成15年1月29日判決(平成13年(ワ)第1104号)は,それまで有期的任用であった者について65歳の定年を定めることは不利益な変更ではないとする一方,定年を70歳から65歳に引き下げることは不利益な変更であり,「定年年齢が同一であっても,事柄の実質はまったく異なっている」とした。

(2) 本記事の整理

定年の新設が不利益といえるかどうかは,その従業員の従前の雇用がどのようなものであったかによって変わる。
期間の定めなく雇用され,定年の定めもなかった従業員にとっては,定年の新設は一定の年齢で雇用が終わるという終期を新たに設けるものであるから,不利益な変更として合理性が問われると考えられる。

第3 合理性の判断

1 考慮要素

(1) 判例の考慮要素

最高裁第二小法廷平成9年2月28日判決(平成4年(オ)第2122号,民集51巻2号705頁,第四銀行事件)は,55歳から60歳への定年延長に伴う就業規則の変更の効力が争われた事件で,合理性の判断方法を次のように示した。
「右の合理性の有無は、具体的には、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである。」
同判決は,その前提として,合理的なものであるとは,就業規則の作成又は変更が,その必要性及び内容の両面からみて,労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても,なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいうとしている。

(2) 労働契約法10条との関係

労働契約法10条の考慮要素は,この判例法理に沿って規定されたものである(前記第2の2の施行通達)。
同通達によれば,10条の「労働組合等」には,過半数組合や過半数代表者だけでなく,少数労働組合や,労働者の意思を代表する親睦団体等も広く含まれる。

2 定年制の新設に当てはめる場合

(1) 不利益の程度

定年制の新設で特に問題となるのは,施行の時点で既に定年年齢を超えている者や,間もなく定年年齢に達する者への影響である。
秋北バス事件では,改正後直ちに解雇される者への適用も認められたが,それは,再雇用の特則が設けられ,現に嘱託として再雇用する旨の意思表示がされていたこと等を総合した結論である。
施行時に定年年齢を超えている者を即日退職扱いにしたり,数か月後に退職させたりする設計は,不利益の程度が大きく,後記(3)の経過措置を欠く限り,合理性を否定する方向に強く働くと考えられる。

(2) 必要性と内容の相当性

定年制は一般的には不合理な制度ではないとされているが(秋北バス事件判決),合理性を基礎付ける事実の主張立証責任は使用者側にあるから,その会社で今定年を設ける必要性は,使用者が具体的に説明できるようにしておく必要がある。
内容の相当性では,定年年齢の水準と,定年後の再雇用の有無及び条件が中心となる。
秋北バス事件判決も,「再雇用の特則が設けられ、同条項を一律に適用することによつて生ずる苛酷な結果を緩和する途が開かれている」ことを合理性を認める事情の一つに挙げていた。
65歳未満の定年とする場合は高年法9条1項の雇用確保措置が法律上必要であり(後記第4の1),その内容は合理性の判断でも考慮されると考えられる。

(3) 経過措置と,特定の者への不利益の集中

最高裁第一小法廷平成12年9月7日判決(平成8年(オ)第1677号,民集54巻7号2075頁,みちのく銀行事件)は,55歳以上の行員を対象とする賃金減額の事案で,「一方的に不利益を受ける労働者について不利益性を緩和するなどの経過措置を設けることによる適切な救済を併せ図るべきであり、それがないままに右労働者に大きな不利益のみを受忍させることには、相当性がないものというほかはない。」とした。
定年制の新設でも,不利益は施行時に高年齢である一部の従業員に集中するから,施行日を先に置く,施行時の年齢に応じて適用年齢を段階的に定める,一定の年齢以上の者には別の上限年齢を定めるといった経過措置が考えられる。

前記京都地方裁判所平成15年1月29日判決は,定年の引下げで不利益を受けるのが事実上原告1人であることを大学側が十分に承知していたとして,「実質的には,原告に対する期限付解雇の様相を帯びていると見る余地すらある」と述べ,変更を無効とした。
特定の従業員を辞めさせる目的で定年制を設けたとみられる場合は,制度の形をとっていても,合理性は認められにくいと考えられる。

(4) 労働組合等との交渉

みちのく銀行事件判決は,行員の約73%を組織する労働組合が変更に同意していても,不利益の程度や内容を勘案すると,その同意を大きな考慮要素と評価することは相当でないとした。
定年制の新設でも,多数の従業員が賛成していることだけで合理性が基礎付けられるわけではなく,不利益を受ける者への説明と協議の経過が問われると考えられる。
過半数代表者の選出と意見聴取の手続は,後記第5の2で扱う。

3 個別の同意と,賃金・退職金に波及する場合

(1) 個別の同意を得る場合

労働契約法8条は,労働者と使用者は合意により労働条件を変更することができるとしており,個々の従業員の同意を得て定年を定めることもできる。
最高裁第二小法廷平成28年2月19日判決(平成25年(受)第2595号,民集70巻2号123頁,山梨県民信用組合事件)は,賃金や退職金に関する労働条件の変更への同意の有無について,同意する旨の行為の有無だけでなく,その行為が「労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否か」という観点からも判断すべきとした。
同判決の判示は賃金や退職金に関するものであるが,定年制の新設について同意書を取る場合も,不利益の内容を説明し,判断に必要な情報を提供しておかなければ,同意があったと評価されないおそれがあると考えられる。

(2) 賃金・退職金に波及する場合

最高裁第三小法廷昭和63年2月16日判決(昭和60年(オ)第104号,民集42巻2号60頁,大曲市農協事件)と第四銀行事件判決は,賃金,退職金など労働者にとって重要な権利,労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については,「高度の必要性」に基づいた合理的な内容であることを要するとした。
定年制の新設が,退職金の算定期間の打切りや,定年後の賃金の大幅な引下げを伴う場合には,この基準も意識する必要がある。

第4 法令上の制約

1 高年法

(1) 60歳を下回る定年は定められない

高年法8条本文は,事業主が定年の定めをする場合には,「当該定年は、六十歳を下回ることができない。」と定めている。
例外は,坑内作業の業務に従事している労働者に限られる(同条ただし書,同法施行規則4条の2)。

(2) 65歳未満の定年とする場合の雇用確保措置

同法9条1項は,65歳未満の定年の定めをしている事業主に,65歳までの安定した雇用を確保するため,定年の引上げ,継続雇用制度の導入,定年の定めの廃止のいずれかの措置を講じることを義務付けている。
継続雇用制度には,特殊関係事業主(当該事業主の経営を実質的に支配することが可能となる関係にある事業主等)が引き続いて雇用する制度も含まれる(同条2項)。
したがって,定年制を新設して60歳から64歳までの定年とする場合には,継続雇用制度等をあわせて設けなければならない。
厚生労働省の「高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者雇用確保措置関係)」(令和7年3月31日改訂)は,当分の間60歳以上の労働者が生じない企業であっても,これらの措置を講じていなければならないとしている(A1-2)。

(3) 雇用確保措置を欠く場合の効力

同Q&Aは,高年法は個別の労働者に65歳までの雇用義務を課すものではなく,継続雇用制度を導入していないことから直ちに60歳定年による退職が無効となるものではないとの考え方を示す一方,高年法違反として公共職業安定所を通じた調査や,助言,指導,勧告及び企業名の公表の対象になるとしている(A1-3)。
大阪地方裁判所平成21年3月25日判決(平成19年(ワ)第4864号)も,同法9条について「直截的に私法的効力を認めた規定とまで解することはできず」とした。
もっとも,定年制を新設する際に雇用確保措置を欠けば,行政上の指導の対象となるだけでなく,前記第3の2の合理性の判断でも不利に働くと考えられる。

(4) 70歳までの就業確保措置

同法10条の2第1項は,65歳以上70歳未満の定年を定める事業主等に,70歳までの就業確保措置を講じるよう努める義務を課している。
65歳の定年を新設する場合も,この努力義務の対象となる。

2 男女で異なる定年

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律6条4号は,定年について,労働者の性別を理由とする差別的取扱いを禁止している。
また,就業規則の変更で女子47歳・男子57歳の定年を定めた事案で,女子従業員に対する不合理な性別による差別として民法90条により無効とした裁判例もある(静岡地方裁判所沼津支部昭和48年12月11日判決,昭和47年(ヨ)第59号)。
その控訴審である東京高等裁判所昭和50年2月26日判決(昭和48年(ネ)第2679号)も,控訴を棄却した。

第5 手続

1 作成・届出と意見聴取

定年の定めは退職に関する事項に当たるから,常時10人以上の労働者を使用する使用者は,就業規則に定めて行政官庁に届け出なければならない(労働基準法89条柱書・3号)。
就業規則の作成又は変更に当たっては,過半数組合,これがなければ過半数代表者の意見を聴き,届出にはその意見を記した書面を添付しなければならない(同法90条)。
労働契約法の施行通達は,労働基準法89条・90条の手続の履行は10条の効果を生じさせるための要件ではないものの,その遵守の状況は合理性の判断に際して考慮され得るとしている。

2 過半数代表者の選出

(1) 選出の要件

過半数代表者は,管理監督者でなく,かつ,「法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であつて、使用者の意向に基づき選出されたものでないこと」を要する(労働基準法施行規則6条の2第1項)。
使用者の意向によって選出された者でないことは,平成11年1月29日基発第45号で既に示されていたが,平成31年4月1日施行の改正で規則に明記された。
その改正の施行通達(平成30年9月7日基発0907第1号)は,「使用者側が指名するなど不適切な取扱いがみられるところである」ことを明記の理由に挙げている。

(2) 選出への関与と合理性の判断

使用者が候補者を指名したり,選出に関与したりした場合には,意見聴取の手続に瑕疵があるものとして,定年制の新設の合理性を否定する事情の一つになり得る。
過半数代表者が意見を検討するための期間を十分に取ることも,交渉の経緯として考慮されると考えられる。

3 周知

労働契約法10条は変更後の就業規則を労働者に周知させることを要件としており,労働基準法106条1項も就業規則の周知を義務付けている。
最高裁第二小法廷平成15年10月10日判決(平成13年(受)第1709号,集民211号1頁,フジ興産事件)は,就業規則が法的規範として「拘束力を生ずるためには,その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要する」とした。
定年の定めは退職の時期を決める重要な条項であるから,就業規則の備付けだけでなく,個別の説明と書面の交付をしておくことが考えられる。

第6 定年制を新設する前に確認する事項

以上を踏まえると,定年制を新設する前に確認しておくべき事項は,次のとおりである。
①就業規則が既にあるか(10条の変更か,初めての作成か)と,常時使用する労働者の数(労働基準法89条の作成・届出義務の有無)
②施行日時点の各従業員の年齢と,定年年齢に達するまでの期間
③定年年齢が60歳以上か,65歳未満とする場合の雇用確保措置(継続雇用制度等)の内容
④施行時に定年年齢を超えている者や間近な者についての経過措置と,退職金・賃金への影響
⑤定年を設ける必要性を説明する資料(人員構成,事業の見通し等)
⑥特定の従業員を念頭に置いた制度になっていないか
⑦過半数代表者の選出方法(使用者が関与していないか)と,意見を検討する期間
⑧従業員への説明と周知の方法,個別の同意を得る場合の説明内容の記録
⑨男女で異なる定年になっていないか

このうち②④⑥は,合理性の判断で特に重く見られる事情であり,施行後すぐに定年に達する者がいる場合は,施行日や適用年齢を調整することが考えられる。
就業規則を作っただけで定年の定めが既存の従業員に及ぶと考えるのは危険であり,紛争になれば,合理性を基礎付ける事実を使用者側が主張立証することになる。

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第8 出典

1 法令(e-Gov法令検索)

労働契約法(平成19年法律第128号)7条・8条・9条・10条
労働基準法(昭和22年法律第49号)20条・89条・90条・106条1項
労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)6条の2第1項
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和46年法律第68号)8条・9条・10条の2第1項
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律施行規則(昭和46年労働省令第24号)4条の2
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47年法律第113号)6条

2 裁判例(裁判所HPの裁判例検索)

最高裁大法廷昭和43年12月25日判決(昭和40年(オ)第145号,民集22巻13号3459頁,秋北バス事件)
最高裁第三小法廷昭和63年2月16日判決(昭和60年(オ)第104号,民集42巻2号60頁,大曲市農協事件)
最高裁第二小法廷平成9年2月28日判決(平成4年(オ)第2122号,民集51巻2号705頁,第四銀行事件)
最高裁第一小法廷平成12年9月7日判決(平成8年(オ)第1677号,民集54巻7号2075頁,みちのく銀行事件)
最高裁第二小法廷平成15年10月10日判決(平成13年(受)第1709号,集民211号1頁,フジ興産事件)
最高裁第二小法廷平成28年2月19日判決(平成25年(受)第2595号,民集70巻2号123頁,山梨県民信用組合事件)
静岡地方裁判所沼津支部昭和48年12月11日判決(昭和47年(ヨ)第59号)
東京高等裁判所昭和50年2月26日判決(昭和48年(ネ)第2679号)
京都地方裁判所平成15年1月29日判決(平成13年(ワ)第1104号)
大阪地方裁判所平成21年3月25日判決(平成19年(ワ)第4864号)

3 行政通達・行政資料

①厚生労働省「労働契約法の施行について」(平成24年8月10日基発0810第2号)第3の2(2),第3の4(1)・(3),第3の5(2)
②厚生労働省「労働基準法の一部を改正する法律の施行について」(平成11年1月29日基発第45号)
③厚生労働省「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働基準法の施行について」(平成30年9月7日基発0907第1号)第6の3・4
④厚生労働省「高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者雇用確保措置関係)」(令和7年3月31日改訂)A1-2・A1-3