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派遣社員の直接雇用-雇用禁止条項,紹介手数料及び紹介予定派遣(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

1 対象と基準日

本記事は,一般的な労働者派遣により就業している派遣労働者を,派遣先が正社員,契約社員又はパートタイマーとして直接雇用する場合を対象とする。
紹介予定派遣として開始した場合だけでなく,派遣就業の途中又は終了時に派遣労働者と派遣先の双方が直接雇用を希望するようになった場合も扱う。
本記事の基準日は令和8年9月9日であり,同年7月31日改訂の厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領」に基づいている。

2 結論

派遣先が派遣労働者を直接雇用できるかは,派遣労働者が派遣元を退職するかどうかだけで決まるものではない。
①派遣元と派遣労働者との労働契約,②派遣元と派遣先との基本契約及び個別派遣契約,③派遣先と派遣労働者との新たな労働契約並びに④派遣元が行う職業紹介及び紹介手数料の四つを分けて検討する必要がある。

派遣元との雇用関係が終了した後の直接雇用を正当な理由なく禁止する合意は,労働者派遣法33条により原則として許されない。
これに対し,派遣元との雇用関係が続いている間,特に有期労働契約の契約期間内に派遣先への転職を禁止する合意は,同条によって当然に無効になるものではない。
また,派遣労働者が派遣元を退職しても,派遣元と派遣先との基本契約又は個別派遣契約が当然に終了するとは限らない。

一般派遣は,派遣労働者と派遣先が直接雇用を希望しただけで紹介予定派遣に当然に変わるものではない。
紹介手数料についても,直接雇用をする以上は常に支払うべきであるとも,雇用制限になる以上は常に無効であるともいえず,契約条項の適用範囲と支払条件,派遣元の職業紹介事業の許可,実際の職業紹介,金額,発生時期及び直接雇用を事実上困難にする程度を確認する必要がある。

紹介手数料が発生しない場合でも,中途解約に伴う補償,契約違反の損害賠償等は別に検討する必要がある。費用の名称ごとに,請求の根拠と発生条件を確認する。

第2 区別すべき四つの法律関係

1 派遣元と派遣労働者との労働契約

派遣労働者の雇用主は派遣先ではなく派遣元である。
派遣労働者が派遣元を退職できる時期は,派遣元との労働契約が無期であるか有期であるか,契約期間,更新状況,退職の申入れ及び派遣元との合意によって判断する。

派遣先が把握している「派遣期間」と,派遣労働者が派遣元との間で定めた「雇用期間」は,同じとは限らない。
本人の説明及び退職の申入れ・合意に関する資料等を確認し,必要に応じ,本人と情報共有の範囲を確認した上で派遣元に照会することが望ましい。

2 派遣元と派遣先との派遣契約

派遣元と派遣先との間には,継続的な取引条件を定める基本契約と,派遣労働者,業務,期間等に対応する個別派遣契約が置かれることが多い。
派遣労働者が派遣元を退職することは,個別派遣契約の履行に影響するものの,それだけで企業間の基本契約及び個別派遣契約が当然に消滅するとは限らない。

したがって,直接雇用を開始する前に,個別派遣契約の終期,中途解除の要件,代替要員,雇用禁止条項,事前通知,職業紹介及び手数料の定めを確認する必要がある。
基本契約に書面による変更又は合意を求める条項がある場合は,口頭了解だけで処理しない方が安全である。

基本契約,個別派遣契約及び覚書の内容が異なるときは,優先関係と変更合意の有無を確認する。「紹介予定派遣へ変更できる」という選択肢の定めと,「直接雇用時に支払義務が生じる」という金銭条項は区別し,変更可能との記載だけで手数料の支払義務を認めない。

3 派遣先と派遣労働者との直接雇用契約

派遣先による直接雇用は,派遣元との労働契約を承継するものではなく,派遣先と労働者との間で新たな労働契約を締結するものである。
雇用形態,雇用期間,業務内容,賃金,労働時間,就業場所及び就業開始日等を改めて合意し,労働条件を明示する必要がある。令和6年4月以降の明示事項である業務・就業場所の変更の範囲,有期契約の更新基準及び更新上限の有無・内容にも注意する。試用期間は,後記の紹介予定派遣に関する取扱いを踏まえて検討する。

派遣就業中の勤続期間が,直接雇用後の年次有給休暇,退職金,賞与又は社内資格の算定上当然に通算されるわけではない。
通算の有無は,法令上の要件を別にすれば,派遣先の就業規則及び採用条件で明確にする必要がある。

4 職業紹介と紹介手数料

派遣元が,派遣労働者と派遣先との間に入って雇用関係の成立をあっせんする場合は,職業安定法上の職業紹介に該当し得る。
有料の職業紹介を行うには,原則として厚生労働大臣の許可が必要である。

もっとも,派遣先が派遣労働者を直接雇用するすべての場合に,派遣元が職業紹介をしたことになるわけではない。
厚生労働省は,労働者派遣法30条に基づく雇用安定措置として派遣先に直接雇用を依頼することは職業紹介に当たらず,法令上当然に紹介手数料が発生するものではないと説明している。

第3 雇用禁止条項と労働者派遣法33条

1 派遣元との雇用関係が終了した後

労働者派遣法33条1項は,派遣元事業主が,正当な理由なく,派遣元との雇用関係が終了した後に派遣先が派遣労働者を雇用することを禁止する契約を,派遣労働者との間で締結することを禁止している。
同条2項は,同様の禁止を派遣元と派遣先との契約について定めている。

厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領」199頁~200頁は,雇用関係終了後の雇用制限は,派遣労働者の職業選択の自由及び就業機会を制限するため,原則として禁止され,そのような契約は民法90条により無効となると説明している。
したがって,派遣元退職後の直接雇用を一律かつ無期限に禁止する条項を,文言どおりに当然有効なものとして扱うことはできない。

2 派遣元との雇用関係が終了する前

労働者派遣法33条が直接対象とするのは,派遣元との雇用関係が終了した後の雇用制限である。
同業務取扱要領は,雇用関係終了前,特に有期労働契約の契約期間内について,派遣先に雇用されない旨を定めることは,同条によって当然に禁止されるものではないと説明している。

したがって,退職の意思表示だけで雇用が終了したと扱わず,労働契約の終了日と,個別派遣契約に必要な終了・変更手続をそれぞれ確認する。雇用関係終了前の制限も,同条の対象外であることだけから常に有効となるわけではなく,条項の内容及び一般法上の有効性を検討する必要がある。
個別派遣契約の期間が残っていることだけで,派遣元退職後の雇用禁止条項が有効になるわけではない。退職後の雇用制限には,同条が適用され,派遣元の承諾が常に採用の法的要件となるものではない。

3 「正当な理由」の範囲

労働者派遣法33条は,正当な理由がある場合まで雇用制限を一律に禁止しているわけではない。
同業務取扱要領200頁は,企業独自の知識・技術等を保護するために退職後の競業避止義務が必要な場合について,制限の時間・場所・対象,代償の有無等を総合考慮すると説明している。
もっとも,派遣労働者が他社に派遣されて就業するという性格を踏まえると,正当な理由が認められる場合は非常に少ないとしている。

単に派遣元が人材を失うこと,派遣先が教育済みの人材を採用すること又は取引慣行上好ましくないことだけで,直ちに正当な理由が認められるとは限らない。
営業秘密等を理由とする場合も,保護すべき情報,対象者,期間及び地域の必要性・相当性を具体的に検討する必要がある。

第4 派遣労働者の退職と派遣契約

1 労働契約の種類と退職できる時期

退職の予告期間は,すべての労働者について法律上一律に1か月と定められているわけではない。
無期労働契約では,労働者による解約の申入れから原則として2週間で雇用が終了する(民法627条1項)。

有期労働契約では,契約期間中の解除には原則としてやむを得ない事由が必要となる(民法628条)。
ただし,1年を超える有期労働契約については,一定の事業の完了に必要な期間を定める契約並びに労働基準法14条1項各号の専門的労働者及び満60歳以上の労働者等の例外を除き,契約開始から1年経過後は労働者が申し出ることによりいつでも退職できる(労働基準法137条)。
就業規則又は労働契約の退職手続も確認する必要があり,具体的な退職日を派遣先だけで判断すべきではない。

有期労働契約の終了については,「有期労働契約の期間・更新・雇止め・無期転換ルール(AI作成)」で説明している。

有期契約でも,当事者が退職に合意すれば,その合意により期間途中に終了できる。また,労働者が一定の予告により中途退職できる旨の,労働者に有利な契約条項又は就業規則がある場合は,その適用も確認する。これらは,民法628条又は労働基準法137条による一方的な解除とは別の根拠である。

2 派遣労働者の退職と個別派遣契約の終了

派遣労働者と派遣元との労働契約及び派遣元と派遣先との個別派遣契約は,契約当事者が異なる。
そのため,派遣労働者の退職が確定しても,個別派遣契約について別途,期間満了,中途解除又は合意解約の処理が必要となり得る。

企業間契約の予告期間は,派遣先が個別派遣契約を中途解除する場合の通知期限を定めたものであることがあり,派遣労働者の退職予告期間とは限らない。期間の長さだけで判断せず,どの契約の,誰の行為を対象とする条項かを区別する必要がある。

3 契約成立日と就業開始日

新しい労働契約の成立日と,実際に働き始める就業開始日は区別する。申込みと承諾が合致すれば,書面への署名前又は就業開始前でも契約が成立し得るため,採用内定や条件提示の文言,承諾の有無及び留保条件を確認する(民法522条,労働契約法6条)。

就業開始日は,派遣元との雇用終了日と,個別派遣契約の処理を分けて確認して設定する。企業間契約の満了翌日まで,必ず採用を待たなければならないという一般的なルールはない。中途解約等が必要な場合は,その手続及び費用を整理する。

退職と入社の間に空白期間を設けることは,法律上の一般的な必須要件ではない。社会保険・雇用保険の資格喪失及び取得手続,秘密保持,貸与品返還を調整し,年次有給休暇等の勤続期間の取扱いは別に確認する。

第5 一般派遣と紹介予定派遣

1 紹介予定派遣の定義

紹介予定派遣とは,労働者派遣のうち,派遣元事業主が,労働者派遣の役務の提供の開始前又は開始後に,職業紹介事業の許可又は届出に基づき,派遣労働者及び派遣先について職業紹介を行い,又は行うことを予定してするものをいう(労働者派遣法2条4号)。
派遣就業を通じて,派遣先と派遣労働者が相互に適性を確認した上で雇用関係の成立を目指す制度である。

紹介予定派遣では,派遣期間は同一の派遣労働者について6か月を超えることができず,通常の派遣と異なり,派遣開始前の面接,履歴書の送付等の特定を目的とする行為が一定の範囲で認められる。
派遣元は,紹介予定派遣であること,職業紹介の時期及び期間等を明示し,派遣労働者の同意を得る必要がある。

2 一般派遣は当然には紹介予定派遣にならない

一般派遣で就業する労働者と派遣先が採用を希望しただけで,過去に遡って紹介予定派遣となるわけではない。他方,厚生労働省の業務取扱要領・第7の19ロは,派遣元が職業紹介を行うことについて派遣労働者及び派遣先の合意が成立し,派遣を直ちに終了せず継続する場合,その時点から紹介予定派遣になると説明している。契約書の名称だけで判断せず,速やかに必要な契約変更を行う。

紹介予定派遣へ変更する場合は,派遣元の職業紹介事業の許可又は届出,派遣労働者の同意,職業紹介の時期等の明示,派遣契約の記載事項及び派遣可能期間を確認する。

このほか,一般派遣を終了した後に通常の職業紹介を利用する方法と,派遣元の職業紹介を介さず直接雇用する方法がある。どの方法を選ぶかと,既存の契約に基づく通知・費用の有無は分けて判断する。

3 派遣期間の途中で直接雇用を合意する場合

個別派遣契約の中途解約や職業紹介を利用する場合は,必要な当事者間で,①派遣元との雇用終了日,②個別派遣契約の終了又は変更,③職業紹介の利用の有無,④紹介手数料その他の費用の根拠・金額及び⑤直接雇用の就業開始日を,相互に整合する文書にすることが望ましい。費用を発生させない合意をする場合も,対象となる請求の範囲を明確にする。

これは必要な契約処理を明確にするための手順であり,派遣元を適法に退職した労働者の採用について,常に三者の合意又は派遣元の許可を必要とする趣旨ではない。

4 紹介予定派遣後の試用期間と採用内定

同業務取扱要領・第7の18(7)は,紹介予定派遣により雇い入れた労働者について,試用期間を設けないよう派遣先を指導するとしている。行政上の取扱いとして採用条件に反映し,すべての試用期間条項が法律上当然に無効になるとの説明とは区別する。

派遣期間中に採用内定を行うことも可能であるが,内定により労働契約が成立する場合がある。紹介予定派遣であることだけで,成立した内定を自由に取り消せるわけではない。

第6 紹介手数料その他の費用と紛争防止措置

1 労働者派遣法26条1項10号及び施行規則22条5号

派遣元と派遣先は,労働者派遣の終了後に派遣先が派遣労働者を雇用する場合に,派遣元への事前通知,職業紹介を経由する場合の手数料その他の紛争防止措置を労働者派遣契約に定めなければならない(労働者派遣法26条1項10号及び同法施行規則22条5号)。
厚生労働省の改正派遣法Q&A・Q12及びQ13は,通知だけを定める方法もあり,手数料を定めること自体が常に必須ではないと説明している。

この規定は,直接雇用時の紛争を避けるため,企業間であらかじめ取扱いを明確にすることを求めるものである。
規定があるからといって,法律上の紹介手数料債権が自動的に発生するわけではなく,実際の支払義務は契約の文言,職業紹介の有無及び法令適合性によって判断される。

2 手数料条項を確認する順序

紹介手数料又は直接雇用時の金銭支払条項は,次の順序で確認する。
①基本契約,個別派遣契約,職業紹介契約又は覚書に,支払義務の合意があるか。
②対象となる採用時期・雇用形態,通知・紹介等の手続及び支払条件は何か。
③派遣元の職業紹介事業の許可及び実際のあっせん行為を確認できるか。
④料率,算定基礎,消費税,支払時期及び返戻金制度は明確か。
⑤条項が労働者派遣法33条,職業安定法又は公序良俗に反していないか。

有料職業紹介の許可や届出手数料表は,事業及び手数料徴収の規制に関する資料であり,それだけで個別の支払義務を発生させるものではない。表に記載された上限と,求人者が実際に合意した料率・支払条件を区別する(職業安定法30条,32条の3,32条の13)。過去の別の採用で支払った事実も,今回の義務を当然に決めるものではなく,合意の内容及び継続的な取引条件を確認する。

職業紹介を介さない直接雇用時の定額請求と,適法な職業紹介の対価は区別する必要がある。他方,通知又は紹介の手続がなかったという事実だけで,契約上のすべての費用がなくなるとも限らない。各手続が支払義務の発生条件なのか,別の義務なのかを契約文言から確認し,条項の有効性を別に検討する。

3 雇用安定措置の場合

派遣元が労働者派遣法30条の雇用安定措置として派遣先に直接雇用を依頼する場合,厚生労働省の派遣で働く方向けQ&A・Q4は,この依頼は職業紹介に該当せず,派遣先は職業安定法上の職業紹介手数料を支払う義務を負わないとしている。
さらに,雇用安定措置による直接雇用を実質的に妨げる金銭条項は,労働者派遣法33条2項との関係で問題となり得る。

もっとも,雇用安定措置としての依頼とは別に職業紹介等が行われた場合の請求は,その実態,契約条項の解釈及び有効性を個別に検討する必要がある。
雇用安定措置としての依頼だけを職業紹介と呼び替えて,当然に紹介手数料を請求できるという意味ではない。

4 紹介手数料以外の費用を含む請求根拠の整理

費用を請求された場合は,名目だけで判断せず,次の区別に沿って検討する。以下は請求が認められる場合と否定される場合の一般的な整理であり,直接雇用に伴ってすべての費用が発生するという意味ではない。

費用の種類発生し得る根拠発生を否定又は制限する事情
紹介手数料有効な手数料合意とその支払条件の充足。職業紹介の実態及び職業安定法上の規制も確認する。合意がない,採用が条項の対象外,条件未成就,又は条項が無効である場合。許可・手数料表だけでは個別債権は発生しない。
直接採用の違約金・移籍料適用対象となる有効な特約。損害賠償額の予定に当たる場合は民法420条も検討する。特約の対象外又は不成立。実質的に退職後の雇用を不当に制限する場合は,労働者派遣法33条・民法90条による無効が問題となる。
中途解約に伴う休業手当等の補償派遣先に帰責事由のある中途解除について,労働者派遣法29条の2,派遣先指針及び契約に基づく雇用安定措置・補償。派遣先に帰責事由がない,新たな就業機会が確保された,対象となる休業等の損害が生じていない場合など。双方に原因があれば負担割合も検討する。
残存期間の派遣料金有効な料金条項,又は派遣先の責めに帰すべき事由による履行不能についての民法536条2項等。役務が提供されず,料金を請求できる契約・法令上の根拠もない場合。契約期間が残ることだけで残額全額の支払義務は決まらない。
契約違反による損害賠償民法415条・416条に基づき,帰責性のある債務不履行と,因果関係のある損害等が認められる場合。義務違反,帰責性,損害又は因果関係等を欠く場合。無効な雇用禁止条項への違反を根拠にすることはできない。
不当な引抜きによる損害賠償勧誘方法や契約履行への妨害等が社会的相当性を逸脱し,不法行為の要件を満たす場合(民法709条)。採用又は転職の勧誘をしたというだけでは,不法行為の成立は決まらない。違法性,故意・過失,損害及び因果関係等を個別に判断する。
募集費・教育訓練費等有効な費用負担特約,又は債務不履行・不法行為による賠償の対象となる具体的な損害。派遣元が費用を支出したというだけでは派遣先に償還義務はない。通常の事業経費か,採用との因果関係があるか,既に回収された費用か等を確認する。
合意解約金・解決金契約処理や紛争解決のために新たに成立した有効な合意。交渉上の提案だけでは既存の債務にならない。名目を変えても違法な雇用制限が当然に適法となるわけではない。

派遣先が講ずべき措置に関する指針・第2の6は,派遣先に帰責事由のある中途解除について,新たな就業機会の確保や,これができない場合の休業手当等に相当する損害の賠償を求めている。直接雇用の紹介手数料とは別の制度であり,労働者の退職理由だけで負担の有無を決めず,中途解除の原因と実際の雇用への影響を確認する。

請求者には,根拠条項,条件を満たすとする事実,算定方法,裏付け資料及び支払期限を示してもらう。実損害の賠償と,有効な損害賠償額の予定に基づく請求では,実際の損害額の立証の要否が異なる。残存期間の売上全額が当然に逸失利益となるわけではなく,支出を免れた費用,同一損害についての請求の重複等も確認する。

5 違約金等の事前明示と記録

令和7年4月1日以降の求人申込みについて,職業紹介事業者が違約金規約を設ける場合は,金額又は算定方法,発生条件及び利用契約の解除方法等を,あらかじめ分かりやすく明示する必要がある。厚生労働省の違約金規約の明示に関する案内は,名称にかかわらず利用に関連して求人者が負担する金銭を対象とし,契約後も提示された同じ文面を再読できる状態を求めている。

実務上は,適用する規約の版,提示日,合意内容及び変更履歴を残す。URLを案内したり,同意ボタンを押してもらったりするだけで,同一文面を再読できない運用は不十分である。なお,明示義務の問題と条項の私法上の効力は分けて検討し,明示がないことだけで一律に債務不存在と断定しない。

第7 金銭条項に関する裁判例と行政解釈

1 東京地方裁判所平成9年11月26日判決

東京地方裁判所平成9年11月26日判決(平成7年(ワ)第23207号,判例時報1646号106頁,判例タイムズ987号275頁)は,労働者を採用する目的で契約更新を拒絶したときに,基本管理料の6か月分の解約金を支払う条項について,労働者派遣法33条2項に実質的に違反して無効であるとし,請求を棄却した。支払義務の発生要件は採用目的の更新拒絶であり,現実の採用自体を条件とする条項ではなかった。

金銭の支払という形式でも,退職後の就業機会を実質的に制限する条項は無効となり得ることを示す事例である。あらゆる紹介手数料を無効としたものではなく,当時の派遣対象業務の規制や条項の内容を踏まえた第一審の判断である。

判決内容は女性労働協会の公開判例情報で確認できる。同情報には控訴の表示があるが,控訴審の結論及び確定の有無は確認できていない。

2 厚生労働省Q&Aが示す区別

厚生労働省の改正派遣法Q&A第3集・Q11は,派遣先が労働者に直接労働契約を申し込んだ場合の定額の金銭受領について,労働者派遣法33条2項や労働基準法6条に抵触する可能性があると説明する一方,派遣元が有料職業紹介事業の許可を有する場合には職業紹介手数料の徴収が可能としている。

この説明は,直接採用に伴う金銭請求をすべて禁止するものでも,許可があればすべての契約条項が有効となるとするものでもない。職業紹介の実態,具体的な支払合意及び雇用制限としての実質を確認する必要がある。

3 裁判例及び行政解釈を利用する際の注意

裁判例による特定条項の効力判断と,行政機関が示す法令の運用上の説明は,根拠の性質が異なる。自社の条項に当てはめるときは,職業紹介の有無,採用と請求が生じる時期,支払条件,金額及び雇用を妨げる程度を比較する。

「紹介料」「違約金」「解約金」という名称だけで結論を決めず,有効な請求根拠があるかと,その条件が満たされているかを順に確認する。

第8 派遣先企業の実務手順

1 採用を正式打診する前

派遣先は,採用条件を最終提示する前に,派遣元との基本契約,個別派遣契約及び覚書を確認する必要がある。
確認対象は,雇用禁止条項,派遣期間,中途解除,事前通知,紹介予定派遣への切替え,職業紹介,手数料,損害賠償及び書面変更条項である。

派遣労働者本人の自由な転職意思を確認し,労働契約の種類,期間及び退職手続を整理する。退職を強要せず,情報共有の範囲を本人と確認する。
契約上必要な通知等を確認しないまま,未確定の条件で拘束力のある採用約束をすることは避け,条件提示と契約成立の関係を明確にする。

2 費用の確認と必要な協議

費用を求められた場合は,まず,契約上・法令上の根拠,支払条件及び算定方法を確認する。既存の支払義務があるかを判断した上で,必要に応じて減免,契約変更又は任意の解決金を協議する。取引関係の維持のための提案と,法的な支払義務の承認を混同しない。

契約処理では,①個別派遣契約の終了又は変更,②紹介予定派遣への変更,派遣終了後の通常の職業紹介,又は職業紹介を介さない採用のいずれとするか,③紹介手数料その他の費用の有無,④本人の意思確認及び⑤引継ぎ・貸与品返還を整理する。

合意した事項は,対象契約,就業開始日,支払名目・金額・期限及び対象となる追加請求の有無を文書にする。紹介手数料として処理する場合は,派遣元の許可及び行われる職業紹介の内容も確認する。派遣元を退職した後の採用について,常に派遣元の承諾を得る義務があるという前提では交渉しない。

3 直接雇用の決定と開始

派遣先は,直接雇用後の労働条件を派遣就業時の条件と区別して明示する。業務・就業場所の変更範囲,有期契約の更新基準及び更新上限も確認する。
契約成立日と就業開始日を明確にし,派遣元との雇用上の義務,実際の勤務時間及び就業規則との整合を確認する。企業間の終了・変更手続及び費用の処理は,これと分けて行う。

また,派遣就業から直接雇用へ移ることを理由に,性別,年齢その他の不当な差別的取扱いをしてはならない。
直接雇用後の有期・無期の別,同一労働同一賃金,社会保険及び安全衛生についても,派遣先自身の使用者責任として整備する必要がある。

4 応募経路と情報共有の取扱い

応募経路を変更したことだけで,既存契約に基づく通知義務又は金銭支払条項の適用がなくなるわけではない。各条項の適用範囲と有効性を確認する。

本人の転職活動に関する情報は,必要な範囲を本人と確認した上で取り扱い,適用される通知手続を履行する。本人が転職活動を派遣元に伝えていないことだけで,違法又は不適切と扱わない。

第9 関連する記事

1 労働者派遣法

「労働者派遣法の基本-禁止業務,期間制限,派遣契約及び違法派遣(AIリライト)」では,派遣禁止業務,期間制限,派遣契約,雇用安定措置,紹介予定派遣及び違法派遣をまとめて説明している。

2 職業紹介及び採用

「職業安定法と採用活動-職業紹介,求人情報,社員紹介及び公正採用選考(AIリライト)」では,有料職業紹介事業の許可,求人情報,職業紹介に該当する行為及び募集・採用時の留意事項を説明している。

第10 出典

1 法令

e-Gov法令検索「労働者派遣法」2条4号,26条1項10号,29条の2,30条及び33条。
「労働者派遣法施行規則」22条5号。
「職業安定法」4条,30条,32条の3及び32条の13。
「民法」90条,415条,416条,420条,522条,536条,627条,628条及び709条。
「労働基準法」6条,15条及び137条。労働基準法施行規則5条。
「労働契約法」6条。

2 厚生労働省の資料

厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領(令和8年7月31日改訂)」。雇用制限は第6・199頁~200頁,紹介予定派遣及び一般派遣からの移行は第7の18及び19・306頁
「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」
「派遣先が講ずべき措置に関する指針」第2の6。
「(派遣で働く皆様へ)平成27年9月30日施行の改正労働者派遣法に関するQ&A」Q4。
「平成27年9月30日施行の改正労働者派遣法に関するQ&A」Q12及びQ13。
同Q&A第3集Q11。
「紹介手数料率の実績の公開と違約金規約の明示が必要になります」
「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」
「退職,解雇,雇止めなど」

上記の改正派遣法Q&Aで言及される当時の労働者派遣法施行規則22条4号は,現行の同条5号に対応する。

3 裁判例

東京地方裁判所平成9年11月26日判決(平成7年(ワ)第23207号,判例時報1646号106頁,判例タイムズ987号275頁)。
公開の参照先:女性労働協会・判例データベース。裁判所自身による判決公開ページとは区別する。