第1 本記事の対象と確認時点
1 本記事が扱う場面
本記事は,弁護士登録をした最初の暦年に,法律事務所等からの給与と個人名義の弁護士報酬が併存する場合の所得区分,源泉徴収及び必要経費を,令和8年9月2日現在の公表資料に基づいて整理するものである。
司法修習給付金を含む司法修習終了年全体の申告は,「司法修習終了翌年の確定申告―修習給付金・給与・弁護士報酬(AIリライト)」を参照されたい。
2 個人弁護士を前提とすること
本記事は,自然人である弁護士の確定申告を対象とする。
弁護士法人の収入及び経費は法人税等の問題となるため,個人弁護士の申告と混同してはならない。
第2 最初に給与と弁護士報酬を分ける
1 給与として受け取る金員
雇用契約等に基づき,勤務時間,勤務場所及び業務遂行について使用者の指揮命令を受けて支給される給与は,給与所得として申告する。
年の途中で勤務先が変わった場合又は退職後に独立した場合も,その年中の全ての勤務先から給与所得の源泉徴収票を集める必要がある。
給与所得の源泉徴収票は,現在,確定申告書への添付又は提示を要しないが,給与収入,源泉徴収税額及び社会保険料等を正確に入力するため保管すべき資料である。
前職分が年末調整に含まれているか,未済であるかも確認する必要がある。
2 個人名義で受け取る弁護士報酬
自己の計算と危険において独立性をもって継続的に行う弁護士業務の報酬は,通常,事業所得の総収入金額として整理される。
もっとも,給与か報酬かは契約書又は振込名義だけで決まるものではなく,指揮命令,勤務場所,報酬の定め方,費用負担その他の実態により判断する必要がある。
勤務先から給与を受けながら個人事件又は国選事件の報酬も受け取った場合は,給与所得と事業所得を区分して同じ確定申告書へ記載する。
講演料,原稿料その他の副収入については,弁護士業務との関連性,継続性及び規模を踏まえて所得区分を個別に確認する。
第3 弁護士報酬と源泉徴収税額の集計
1 源泉徴収は必要経費ではないこと
個人弁護士に支払われる弁護士業務の報酬は,原則として所得税及び復興特別所得税の源泉徴収対象となる。
報酬から差し引かれた源泉徴収税額は,報酬額を減額する必要経費ではなく,確定申告で年税額から控除する既納付税額である。
例えば,請求額から源泉徴収税額が差し引かれて入金された場合も,原則として差引後の入金額だけを売上げとしてはならない。
請求書上の報酬額,消費税額,源泉徴収税額,実費等及び実際の入金額を照合して記帳する必要がある。
2 支払者ごとに照合すること
源泉徴収税額は,国選弁護報酬,法律事務所からの個人報酬,顧問料,講演料その他の支払者ごとに集計すると確認しやすい。
支払調書の写しが交付された場合は有力な確認資料となるが,請求書,振込明細,通帳及び自らの帳簿との照合を省略してはならない。
弁護士報酬に関する支払調書は支払者が税務署へ提出する法定調書であり,受給者へ写しが交付される場合でもマイナンバーを記載できない。
支払調書の写しが手元にない場合も,自己の取引記録に基づいて収入及び源泉徴収税額を確認する必要がある。
3 報酬と消費税等の区分
請求書で報酬額と消費税額が明確に区分されている場合,源泉徴収の対象額を報酬額のみとしてよい取扱いがある。
交通費,宿泊費等も名目だけで源泉徴収対象外になるわけではなく,支払者が交通機関等へ直接支払い,通常必要な範囲内であるなど,国税庁が示す要件を確認する必要がある。
支払者側の計算及び納付手続の詳細は,「弁護士報酬の源泉徴収義務と支払調書(AIリライト)」を参照されたい。
第4 売上げを計上する年と預り金
1 未収報酬も確認すること
事業所得の収入は,原則として実際に入金された日だけでなく,報酬を受ける権利が確定した時期を基準に計上する。
年末までに業務を終えたが翌年入金となった報酬については,委任契約,報酬合意,業務完了時期その他の事情を確認し,未収入金として当年の売上げになるかを検討する必要がある。
小規模事業者の現金主義の特例を選択できる場合はあるが,所定の要件及び届出が必要であり,入金時だけで集計する方法を無届で採用することはできない。
2 実費及び預り金を売上げと混同しないこと
依頼者から預かった印紙代,郵券代,予納金その他の預り金は,弁護士報酬とは区分して管理する必要がある。
一時的に事業用口座へ入金されたという理由だけで全額を売上げとせず,請求書,精算書及び事件別の預り金台帳により性質を確認する。
第5 必要経費と開業前後の支出
1 必要経費の基本
事業所得は,総収入金額から必要経費を控除して計算する。
事務所負担金,業務用の書籍・データベース,通信費,交通費,研修費,事務用品費その他の支出は,弁護士業務との関連性,使用実態及び支出時期を資料により確認する必要がある。
家賃,通信費,車両費等に私用部分がある場合は,業務上必要な部分を合理的な基準で区分する。
パソコン,什器その他の資産は,金額及び使用可能期間により一時の経費ではなく減価償却等が必要となる場合がある。
2 登録費用及び開業費
弁護士登録料,弁護士会の負担金・会費,登録前後の研修費及び開業準備費は,名称だけで全て同じ経費区分になるものではない。
弁護士資格の取得,事業開始の準備,登録後の業務遂行のいずれに対応する支出かを分け,領収証,支払通知及び支払日を保存する必要がある。
弁護士登録に伴う費用の論点は,「弁護士登録の請求及び登録換えの請求」を,大阪弁護士会の負担金・会費は,「大阪弁護士会の負担金会費(AIリライト)」を参照されたい。
第6 申告前の実務チェックリスト
1 収入資料
① 全ての勤務先の給与所得の源泉徴収票を集める。
② 個人事件,国選事件,顧問,講演,原稿その他の請求書,振込明細及び支払調書を集める。
③ 支払者ごとに報酬総額,消費税額,源泉徴収税額及び入金額を照合する。
④ 年末時点の未収報酬,前受金及び預り金を確認する。
2 経費及び申告区分
① 登録費用,会費,開業準備費及び登録後経費を区分する。
② 家事関連費の按分根拠及び固定資産の取得価額を確認する。
③ 青色申告の承認申請の有無と,青色申告決算書又は収支内訳書の別を確認する。
④ 消費税の課税事業者又は適格請求書発行事業者であるかを確認する。
⑤ 所得税申告後の住民税及び個人事業税も予定して資金を確保する。
第7 関連記事
① 司法修習終了翌年の確定申告―修習給付金・給与・弁護士報酬(AIリライト)
② 弁護士報酬の源泉徴収義務と支払調書(AIリライト)
③ 所得税の確定申告に関するメモ書き(AIリライト)
④ 個人事業主の税金,労働保険及び社会保険に関するメモ書き
⑤ 個人事業税とは-弁護士(第三種事業)の税率・事業主控除・確定申告時の申告要否(AIリライト)
⑥ 弁護士の独立開業時の税務手続-開業届・青色申告・消費税・インボイス(AI作成)
第8 出典
① 国税庁「所得税のしくみ」
② 国税庁「事業所得の課税のしくみ」
③ 国税庁「収入金額とその計算」
④ 国税庁「弁護士や税理士等に支払う報酬・料金」
⑤ 国税庁「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書の提出範囲と提出枚数等」
⑥ 国税庁「申告書の提出」
⑦ 国税庁「令和8年版 源泉徴収のあらまし」