第1 この記事の対象と結論
1 対象,調査の基準日及び資料の対象期間
裁判所の予算については,概算要求額と成立した予算額の差が語られることが多いが,その差がどの費目でどれだけ生じ,補正予算でどう動き,最終的にいくら使われたのかを,一つの年度について通しで並べた資料は見当たらない。
本記事は,裁判所所管の令和3年度予算について,概算要求,当初予算,補正予算及び決算の4系列を,(項)裁判費については目のレベルまで突き合わせたものである。
資料の読取り,計数及び突合はいずれもAIを用いて行い,金額はすべて公表資料の実数をそのまま用いた。
本記事の調査の基準日は令和8年9月6日であり,法令の適用時点も同日である。
資料の対象期間は,令和2年7月の概算要求の方針から令和3年度決算までであり,執行率の比較のために令和2年度から令和6年度までの決算を用いた。
令和7年度の決算は基準日の時点で公表されていない。
制度そのもの,すなわち裁判所の予算だけが通る手続と,財政法19条の附記(二重予算)が令和2年度から令和8年度まで0件であることの意味については,裁判所の予算は誰が決めているのか――二重予算制度と,令和2年度から令和8年度まで附記が0件だったことで扱っている。
同記事の計数には令和3年度分も含まれており,令和3年度についても附記は0件である。
本記事は,そこで示した枠組みを前提として,令和3年度という一つの年度の実額を追う。
2 4系列の総額
単位は千円である。
| 系列 | 金額 |
|---|---|
| ①概算要求等額(要求本体325,859,066+要望4,295,752) | 330,154,818 |
| ②当初予算額(成立。国会修正なし) | 325,367,912 |
| ③改令和3年度予算額(補正第1号後。以下「改予算額」という。) | 325,334,008 |
| ④歳出予算現額 | 336,278,703 |
| ⑤支出済歳出額 | 319,675,693 |
②と①の差は4,786,906千円である。
③と②の差は33,904千円の減である。
④は③に前年度からの繰越額10,944,695,125円を加えた336,278,703,125円であり,1円まで一致する。
⑤は319,675,693,505円であり,④に対する執行率は95.06%である。
残りは翌年度繰越額8,117,773,222円と不用額8,485,236,398円であり,⑤との合計は④に1円まで戻る。
3 この記事で新たに示すこと
①(項)裁判費の13の目のうち11の目で,概算要求額と当初予算額が1円まで一致していること。
②その一致が査定の緩さを示すものではなく,令和3年度に固有の要求ルールの結果であること。
③補正予算で追加された額が,令和3年度中には支出されず,翌年度繰越額と1円まで一致すること。
④要求額と予算額が一致した目の多くが,決算では半分前後しか執行されていないこと。
⑤要求段階で定員が据え置かれたことと,予算定員が据え置かれたことは別であること。
第2 令和3年度は概算要求の作り方が違う年である
1 要求額は「基本的に対前年度同額」とされた
令和3年度の概算要求の方針は,「令和3年度予算の概算要求の具体的な方針について」(令和2年7月21日閣議 財務大臣発言要旨)という形で示されている。
その第2項は,要求期限を延ばすことに続けて,「概算要求の段階で予算額を決めることはせず、その仕組みや手続きをできる限り簡素なものとします」とする。
第3項の(1)は「要求額は、基本的に、対前年度同額といたします」とし,(2)は「その上で、新型コロナウイルス感染症への対応など緊要な経費については、別途、所要の要望を行うことができることとします」とする。
令和4年度の方針が「令和4年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について」(令和3年7月7日閣議了解)という閣議了解の形で示されているのに対し,令和3年度は閣議における財務大臣の発言要旨という形である。
この方針は,本記事の数字の読み方を左右する。
もっとも,「基本的に」という留保は働いている。
(項)裁判費の概算要求額19,849,351千円は,令和2年度当初予算額19,716,454千円を132,897千円(0.67%)上回っている。
目の単位でみると,令和2年度当初予算額と1円まで一致するのは6目で,残る7目は増減している。
最も増えたのは裁判庁費の+225,963千円,最も減ったのは委員等旅費の△46,838千円である。
「対前年度同額」がそのまま額の据置きを意味するわけではない。
後記第3の4で扱う【要望】42億9575万2000円という枠外の別建ても,右の(2)に対応するものである。
要求の段階で予算額を決めない仕組みである以上,令和3年度の概算要求額は,裁判所がその額を必要と判断したことを直接には示さない。
令和3年度の一致率や充足率を,他の年度の同種の数値と横に並べて比較することはできない。
2 送付期限も政令で9月30日に変更された
同じ発言要旨の第2項は,「本日、政令を改正し、要求期限を1か月遅らせて9月30日とする」とする。
これに当たるのが,令和二年政令第二百三十号「令和三年度予算に係る歳入歳出等の見積書類の送付期限の特例を定める政令」である。
この政令が予算決算及び会計令8条1項及び3項の適用を外し,最高裁判所長官が内閣へ送付する経路も含めて期限を動かしたことは,裁判所の予算は誰が決めているのか――二重予算制度と,令和2年度から令和8年度まで附記が0件だったことで条文を引いて扱っている。
令和3年度に限り,最高裁判所長官が内閣へ見積書類を送付する期限も9月30日であった。
なお,この政令は予算決算及び会計令の条文を書き換えず,「規定にかかわらず」という形で適用を外している。
そのため,予算決算及び会計令8条を令和2年8月又は9月の時点で引いても,条文は「前年度の八月三十一日までに」のままである。
条文の側だけを見ると期限が動いていないように見えるので,注意を要する。
3 令和3年度予算の時系列
| 段階 | 日付 |
|---|---|
| 概算要求の具体的な方針(閣議・財務大臣発言要旨) | 令和2年7月21日 |
| 見積書類の送付期限(政令第230号による特例) | 令和2年9月30日 |
| 各省各庁の概算要求の公表 | 令和2年10月7日 |
| 政府案の閣議決定 | 令和2年12月21日 |
| 国会提出,審議開始 | 令和3年1月18日 |
| 令和3年度予算の成立 | 令和3年3月26日 |
| 補正予算案の閣議決定 | 令和3年11月26日 |
| 補正予算の国会提出,審議開始 | 令和3年12月6日 |
| 令和3年度補正予算(第1号)の成立 | 令和3年12月20日 |
財務省の年度別の予算ページに掲げられた日付である。
「各省各庁の概算要求(令和2年10月7日)」は公表の日であって,見積書類の送付期限ではない。
令和3年度は,送付期限(9月30日),公表日(10月7日)及び例年の期限(8月31日)の三つが別の日になるので,混同しやすい。
第3 概算要求と当初予算-(項)裁判費を目まで突き合わせる
1 総額の差は4,786,906千円である
裁判所所管の概算要求等額330,154,818千円に対し,成立した当初予算額は325,367,912千円である。
差は4,786,906千円であり,概算要求等額に対する当初予算額の割合は98.55%である。
もっとも,概算要求等額には要望4,295,752千円が含まれているから,要求本体325,859,066千円との差は491,154千円にとどまる。
差を論じるときは,要望を含む数字と含まない数字のどちらを使っているのかを先に決める必要がある。
本記事では,以下,特に断らない限り要求本体と当初予算額を比較する。
2 13の目のうち11の目が1円まで一致する
(項)裁判費は13の目からなる。
概算要求額と当初予算額を目ごとに突き合わせると,次のようになる(単位は千円)。
| (目) | 概算要求額 | 当初予算額 | 差 |
|---|---|---|---|
| 諸謝金 | 2,143,654 | 2,143,654 | 0 |
| 裁判旅費 | 277,277 | 277,277 | 0 |
| 執行官旅費 | 43,858 | 43,858 | 0 |
| 委員等旅費 | 1,452,528 | 1,452,528 | 0 |
| 証人等旅費 | 184,915 | 184,915 | 0 |
| 裁判庁費 | 14,078,148 | 14,613,296 | +535,148 |
| 特別送達料 | 584,037 | 584,037 | 0 |
| 身柄拘束者食糧費 | 424 | 424 | 0 |
| 少年補導委託費 | 145,768 | 145,768 | 0 |
| 賠償償還及払戻金 | 277,694 | 277,694 | 0 |
| 保証金 | 10,000 | 10,000 | 0 |
| 刑事補償金 | 641,027 | 506,960 | △134,067 |
| 少年補償金 | 10,021 | 10,021 | 0 |
13の目のうち11の目は,1円まで一致している。
差が出ているのは,裁判庁費と刑事補償金の二つだけである。
この一致を「事件に関する費目は要求どおり認められる」と一般化することはできない。
前記第2の1のとおり,令和3年度は要求額を対前年度同額とする方針の下で作られた年度だからである。
現に,刑事補償金の概算要求額641,027千円は,令和2年度の当初予算額と1円まで同額である。
その積算は,3か年平均393,714千円に値上額527千円と事件計算分246,786千円を加えたものであり,前年度の予算額と同額になるように組まれている。
3 差が出た2つの目
裁判庁費は,概算要求額14,078,148千円に対して当初予算額14,613,296千円であり,535,148千円多い。
このうち費目単位で内訳を確認できるのは288,961千円であり,ウェブ会議用の光回線使用料83,742千円,第三次実施庁へのLAN配線敷設費用53,681千円,ウェブ会議等の運用支援業務40,265千円,Microsoft365ライセンス利用料等37,108千円,ウェブ会議用モバイル回線使用料12,969千円,ウェブ会議用パソコンウイルス対策ソフト1,031千円及びJ・NET機器等リース料60,165千円である。
これらは,令和4年度概算要求書(説明資料)の経費積算内訳(106頁から107頁まで及び441頁から443頁まで)の括弧内に前年度予算額として現れる金額から確認したものであり,いずれも(項)裁判費の裁判庁費の欄にある。
刑事補償金は,概算要求額641,027千円に対して当初予算額506,960千円であり,134,067千円少ない。
この差が生じた理由は,公表資料からは分からない。
決算参照の備考欄に刑事補償金についての記載はなく,国会会議録で「刑事補償金」を検索しても令和3年度予算に関する質疑は見当たらない。
刑事補償の手続自体が公開されないため(令和7年2月6日衆議院予算委員会における鈴木馨祐法務大臣の答弁),個別の補償と予算額を結び付ける資料が制度上存在しない。
4 【要望】42億9575万2000円の行方
令和3年度の要望4,295,752千円のうち,裁判庁費に属するのはJ・NET関係743,470千円と民事訴訟手続のIT化関係463,863千円の計1,207,333千円である。
前記第3の3のとおり,裁判庁費の上乗せは535,148千円であり,そのうち費目単位で確定できたのは288,961千円である。
したがって,民事訴訟手続のIT化に係るシステム開発のための要件定義及び調達支援業務115,029千円,民事訴訟法132条の10に基づく書面等の電子提出に係るアプリケーションの構築費用108,900千円,次期J・NET移行作業618,199千円並びにJ・NET機器の共通運用保守業務及び工程監理支援業務等62,186千円の4項目に計上された金額は,合計で246,187千円が上限となる。
4項目の要望額の合計は904,314千円であるから,その27.2%を超えることはない。
各目明細書も決算参照も目のレベルまでしかなく,裁判庁費14,613,296千円の内側には降りられないため,個別の配分は確定できない。
なお,このアプリケーションは,令和4年度概算要求書(説明資料)440頁では「民事裁判書類電子提出システム」と呼ばれており,同頁は,これを「令和2年度から令和3年度にかけて開発した」ものとし,「令和3年度中に2庁について先行導入される予定」であるとしている。
民事訴訟手続のIT化に関する説明の内容は,令和4年度概算要求書における,民事訴訟手続のIT化に関する最高裁判所の財務省に対する説明内容で扱われている。
第4 当初予算が政府案どおり成立したことの確かめ方
裁判所が公表する各目明細書は,国会提出時のもの,すなわち政府案の段階のものである。
これに対し,補正予算の各目明細書は,欄名が「令和3年度成立予算額」となっている。
令和3年度の場合,当初の各目明細書と補正第1号の各目明細書は,いずれも325,367,912千円で1円まで一致した。
したがって,令和3年度の当初予算は,政府案どおり修正なく成立したことになる。
この方法は,裁判所自身が公表する2本の資料の突合だけで完結する。
補正予算がある年度であれば,どの年度でも同じ確かめ方ができる。
第5 補正予算(第1号)で動いた額
1 差引は33,904千円の減である
令和3年度の一般会計補正予算(第1号)は,令和3年11月26日に閣議決定され,同年12月20日に成立した。
裁判所所管の明細は22行あり,そのうち補正が立っているのは17行である。
追加は6目,修正減少は11目であり,追加の合計は3,129,830千円,修正減少の合計は3,163,734千円である。
差引は33,904千円の減であり,当初予算額325,367,912千円と改予算額325,334,008千円の差に1円まで一致する。
2 追加6目と修正減少11目
追加は,次の6目である(単位は千円)。
①施設整備費 +1,519,238
②裁判庁費 +1,353,210
③情報処理業務庁費 +158,173
④施設施工庁費 +57,611
⑤法廷等器具整備費 +37,321
⑥施設施工旅費 +4,277
修正減少の主なものは,次のとおりである(単位は千円)。
①国家公務員共済組合負担金 △1,423,900
②退職手当 △806,761
③下級裁判所の職員基本給 △466,323
④下級裁判所の職員諸手当 △309,326
⑤最高裁判所の職員基本給 △97,225
追加はいずれも施設と情報システムに向けられており,修正減少は人件費が中心である。
裁判所の補正予算は,裁判所の会計執務資料の三部作の解説で扱われている会計実務の枠組みの中で執行される。
3 補正予算のCSVには符号の罠がある
財務省が公表する補正予算のCSVでは,「補正要求修正減少額(千円)」の列に負の値が入っている。
したがって,補正要求差引額は「補正要求追加額」と「補正要求修正減少額」の和であって,差ではない。
令和3年度は追加3,129,830千円と修正減少3,163,734千円がほぼ同額であるから,これを引き算にすると+6,293,564千円となり,符号も桁も実際と逆になる。
差引額の列をそのまま用いる必要がある。
4 補正で積んだ額は令和3年度には使われていない
補正で追加された裁判庁費1,353,210千円,情報処理業務庁費158,173千円及び法廷等器具整備費37,321千円は,いずれも令和3年度決算の翌年度繰越額と1円まで一致する。
そして,それらは令和4年度の前年度繰越額とも1円まで一致する。
すなわち,令和3年12月20日に成立した補正予算で積まれた金額は,令和3年度中には支出されず,そのまま令和4年度へ繰り越されている。
年度末までの残り3か月余りで執行できる性質の経費ではなかったということであり,補正予算の額をその年度の事業規模として説明すると実態を誤る。
第6 決算-現額,支出済,繰越及び不用
1 歳出予算現額は当初予算額と一致しない
令和3年度の歳出予算現額は336,278,703,125円である。
これは改予算額325,334,008千円に前年度からの繰越額10,944,695,125円を加えたものであり,1円まで一致する。
支出済歳出額は319,675,693,505円であり,執行率は95.06%である。
翌年度繰越額は8,117,773,222円,不用額は8,485,236,398円であり,支出済歳出額との合計は歳出予算現額に1円まで戻る。
決算の数字を当初予算額と直接比べると,前年度からの繰越額の分だけ執行率が実際より高く見える。
決算を扱うときは,まず現額を分解する必要がある。
歳出予算現額がどの欄の和であるか,予備費使用額の欄が注記によって意味を変えること,及び流用等増△減額が所管の合計で0になるのが構造上のことであって流用が無かったことを意味しないことは,決算はどの欄でできているか――9つの欄と2本の恒等式で扱っている。
令和3年度の裁判所所管では,予備費使用額,流用等増△減額及び予算決定後移替増△減額がいずれも0であるため,歳出予算現額は改予算額と前年度からの繰越額の和に一致する。
同記事は,所管の合計が0であっても(目)のレベルでは0でないことを年度ごとの目の数で示している。
令和3年度の5目の内訳と,備考欄に書かれたその理由は,次のとおりである(単位は円)。
| (項) | (目) | 流用等増△減額 | 備考欄に記載された理由 |
|---|---|---|---|
| 最高裁判所 | 休職者給与 | +40,819,000 | 休職者が多かったため(目)国家公務員共済組合負担金から40,819,000円流用 |
| 最高裁判所 | 職員基本給 | +9,477,000 | 職員俸給等に不足を生じたため(目)国家公務員共済組合負担金から9,477,000円流用 |
| 最高裁判所 | 国家公務員共済組合負担金 | △50,296,000 | (流用元。上の2件の合計) |
| 下級裁判所 | 職員諸手当 | +29,845,000 | 通勤手当に不足を生じたため(目)職員基本給から29,845,000円流用 |
| 下級裁判所 | 職員基本給 | △29,845,000 | (流用元) |
いずれも(項)の内側で閉じており,増と減の合計は0である。
(目)職員基本給は,(項)最高裁判所では流用先,(項)下級裁判所では流用元になっている。
理由は,決算参照の歳出決算報告書の備考欄に(目)ごとに書かれている。
なお,(項)下級裁判所は,(目)職員諸手当へ通勤手当の不足を埋めるために流用を受ける一方,同じ(目)の超過勤務手当が予定を下回って不用額を生じている。
同じ目の中でも手当ごとに事情が違う。
2 (項)裁判費の目別執行率
令和3年度の(項)裁判費の目別の内訳は,次のとおりである。
いずれも歳出予算現額に対する割合であり,千円表示から割り戻さず,円単位で算出した。
支出済率だけを並べてはならない。
使われなかった分が翌年度へ繰り越されたのか,不用になったのかで意味が正反対だからである。
| (目) | 支出済率 | 翌年度繰越率 | 不用率 |
|---|---|---|---|
| 諸謝金 | 84.4% | 0.0% | 15.6% |
| 裁判旅費 | 50.1% | 0.0% | 49.9% |
| 執行官旅費 | 77.1% | 0.0% | 22.9% |
| 委員等旅費 | 77.7% | 0.0% | 22.3% |
| 証人等旅費 | 74.8% | 0.0% | 25.2% |
| 裁判庁費 | 89.6% | 7.8% | 2.6% |
| 特別送達料 | 90.5% | 0.0% | 9.5% |
| 身柄拘束者食糧費 | 9.0% | 0.0% | 91.0% |
| 少年補導委託費 | 41.7% | 0.0% | 58.3% |
| 賠償償還及払戻金 | 81.0% | 0.0% | 19.0% |
| 保証金 | 0.0% | 0.0% | 100.0% |
| 刑事補償金 | 67.2% | 0.0% | 32.8% |
| 少年補償金 | 1.5% | 0.0% | 98.5% |
翌年度繰越があるのは(目)裁判庁費だけである。
同目は支出済率が89.6%であるが,使われなかった分の大半は繰越であり,不用になったのは2.6%にすぎない。
他の12目は繰越が0なので,支出済率と不用率の和が100%になる。
前記第3の2で概算要求額と当初予算額が1円まで一致していた目のうち,裁判旅費は50.1%,身柄拘束者食糧費は9.0%,少年補導委託費は41.7%,少年補償金は1.5%しか執行されていない。
要求どおりの額が計上されることと,その額が使われることとは別である。
刑事補償金の執行率は,令和2年度56.7%,令和3年度67.2%,令和4年度52.4%,令和5年度42.9%,令和6年度96.8%と動いている。
振れ幅が大きいので,単年度の数値から実務上の相場観を導くことはできない。
刑事補償の制度そのものについては,刑事事件の費用補償及び刑事補償で扱っている。
3 保証金は5年連続で執行実績がない
(目)保証金は,令和3年度概算要求書(説明資料)311頁の目の説明では「国庫からの破産手続費用の仮支弁」とされ,根拠条文として破産法23条が挙げられている。
同条1項は,裁判所が,申立人の資力,破産財団となるべき財産の状況その他の事情を考慮し,申立人及び利害関係人の利益の保護のため特に必要と認めるときに,破産手続の費用を仮に国庫から支弁することができると定める。
令和2年度から令和6年度まで,毎年度10,000千円が計上され,支出済歳出額はいずれも0円である。
5年間で1円も執行されていない。
依頼者への説明としては,「制度はあり,毎年度1000万円が予算に計上されているが,令和2年度から令和6年度までの執行実績はない」と述べるのが正確である。
制度が存在しないという説明も,実際に使われているという説明も,決算の数字とは合わない。
4 令和3年度の不用額の理由
不用額がいくら生じたかはCSVで分かるが,なぜ生じたかはCSVには無い。
理由が決算参照の備考欄と歳入歳出決算の二つに載ること,収録範囲が違うこと,及び(項)検察審査費と(項)裁判所予備経費が年度によって二つの冊で扱いを異にすることは,決算に書かれている「理由」の探し方-一般会計歳入歳出決算と決算参照で収録範囲が違うで扱っている。
令和3年度の裁判所所管では,備考欄に次の5項の理由がある(単位は円)。
| (項) | 不用額 | 理由 | 決算書本体 |
|---|---|---|---|
| 最高裁判所 | 2,807,619,923 | 移転給付金及び基本給付金に係る支給人数が予定を下回ったこと等により、修習給付金を要することが少なかったこと等のため | 掲載 |
| 下級裁判所 | 2,175,297,118 | 超過勤務が予定を下回ったこと等により、超過勤務手当を要することが少なかったこと等のため | 掲載 |
| 裁判所施設費 | 1,764,347,792 | 契約価格が予定を下回ったこと及び事業規模の縮小による事業計画の変更をしたことにより、施設整備費を要することが少なかったこと等のため | 掲載 |
| 裁判費 | 1,686,968,526 | 契約価格及び庁舎維持管理における光熱水料が予定を下回ったこと等により、裁判庁費を要することが少なかったこと等のため | 掲載 |
| 検察審査費 | 43,003,039 | 検察審査会議に係る支給額が予定を下回ったこと等により、検察審査員旅費を要することが少なかったこと等のため | 掲載なし |
決算書本体に載る4項の合計は8,434,233,359円であり,所管の不用額8,485,236,398円との差51,003,039円は,(項)検察審査費43,003,039円と(項)裁判所予備経費8,000,000円である。
いずれも1項5億円未満なので決算書本体には現れない。
検察審査費の理由は備考欄にあるが,(項)裁判所予備経費は,備考欄にも理由が書かれていない。
(項)裁判費の理由が名指ししているのは(目)裁判庁費である。
裁判庁費は,前記第3の3のとおり概算要求額を535,148千円上回って計上され,前記第5の2のとおり補正でさらに1,353,210千円が追加された目である。
その支出済率は前記第6の2のとおり89.6%であり,補正で追加された分は全額が翌年度に繰り越されている。
要求より多く付き,補正でさらに積まれ,その分は当年度には使われずに翌年度へ回った,という経過が四つの系列を通して読める。
もっとも,不用になったのは2.6%であり,決算が(項)裁判費の理由として裁判庁費を名指しするのは,率が低いからではなく,額が(項)の中で最も大きいからである。
もっとも,この理由の文言は定型である。
「……を要することが少なかったこと等のため」という形は令和3年度決算参照に549件あり,読めるのは支出が伸びなかった大まかな向きであって,個々の事情ではない。
ただし,定型であることと,年度をまたいで変わらないこととは別である。
令和2年度の(項)裁判費の理由は「契約価格が予定を下回ったこと、業務内容の見直しによる業務計画の変更をしたこと等により、裁判庁費を要することが少なかったこと等のため」であり,令和3年度とは違う。
令和3年度は光熱水料が名指しされている代わりに,業務計画の変更が落ちている。
第7 定員-要求段階の据置きと予算定員の変動は別である
令和3年度の概算要求定員表は,前年度と同数の25,699人であった。
増員36人と定員合理化による減員36人が相殺され,要求段階では増減がない。
もっとも,裁判所職員定員法2条の員数は,年度の初日には変わらない。
令和3年度は,4月1日から4月13日までが21,818人であり,令和三年法律第二十号(令和3年4月14日公布,即日施行)により,同日から21,801人となった。
17人の減である。
裁判所職員定員法1条が定める裁判官の員数(高等裁判所長官8人,判事2,155人,判事補897人,簡易裁判所判事806人の計3,866人)は据え置かれている。
各目明細書の(目)職員俸給の積算人員は,(項)最高裁判所1,025人と(項)下級裁判所24,657人の計25,682人である。
このうち裁判官は,(項)最高裁判所の15人(最高裁判所長官1人及び最高裁判所判事14人)と(項)下級裁判所の3,866人を合わせて3,881人である。
最高裁判所判事の員数は裁判所法5条3項が14人と定め,同条1項が最高裁判所の裁判官のうち「その長たる裁判官」を最高裁判所長官とするので,最高裁判所の裁判官は15人である。
同条3項は下級裁判所の裁判官の員数を「別に法律でこれを定める」とし,これを受けたのが裁判所職員定員法1条である。
したがって,最高裁判所の裁判官15人は定員法1条には現れない。
25,682人から3,881人を引くと21,801人となり,裁判所職員定員法2条の改正後の員数に一致する。
すなわち,予算は改正後の員数で組まれている。
したがって,要求段階で定員が据え置かれたことをもって,令和3年度の予算定員が据え置かれたと述べることはできない。
予算定員の推移そのものは,裁判所職員の予算定員の推移で扱っている。
第8 未確認事項
①刑事補償金が令和3年度に134,067千円少なくなった理由。
決算参照に備考の記載がなく,国会でも取り上げられておらず,刑事補償の手続が公開されないため,公表資料からは判明しない。
②要望のうち要件定義及び調達支援業務,電子提出に係るアプリケーションの構築費用,次期J・NET移行作業並びに共通運用保守業務等の4項目に計上された個別の金額。
合計246,187千円が上限であることまでしか言えない。
③最高裁判所が公表する「令和3年度歳出概算要求書」が,財政法17条1項により内閣へ送付された書類そのものであるかどうか。
これを述べた資料は見当たらず,公表自体も法令上の義務ではない。
④令和二年政令第二百三十号の制定に当たり,最高裁判所の意見が聴かれたかどうか。
財政法18条2項の意見聴取は概算の閣議決定についての規定であり,同法47条に基づく政令には及ばない。
⑤予算決算及び会計令8条1項が見積書類を「財務大臣の定めるところにより作製し」と定めていることについて,その「財務大臣の定めるところ」の内容。
第9 出典・参考資料
1 法令
財政法(昭和22年法律第34号)17条,18条,19条及び47条。
予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号)8条。
裁判所法(昭和22年法律第59号)5条。
裁判所職員定員法(昭和26年法律第53号)1条及び2条。
破産法(平成16年法律第75号)23条。
令和三年度予算に係る歳入歳出等の見積書類の送付期限の特例を定める政令(令和二年政令第二百三十号)。
裁判所職員定員法の一部を改正する法律(令和三年法律第二十号)。
いずれも令和8年9月6日にe-Gov法令検索で本文を確認した。
2 官報
官報令和2年7月28日号外第155号19頁(令和二年政令第二百三十号)。
3 予算書,決算書及び概算要求書
財務省の予算書・決算書データベースのうち,令和2年度一般会計予算書,令和3年度一般会計予算書,令和3年度一般会計補正予算(第1号),令和3年度一般会計歳入歳出決算,令和3年度一般会計歳入決算明細書及び歳出決算報告書,並びに令和2年度から令和6年度までの決算参照。
不用額及び流用の理由は,決算参照の歳出決算報告書の備考欄及び令和3年度一般会計歳入歳出決算の予算不用の項による。
最高裁判所の令和3年度概算要求書(説明資料)(781頁)。
刑事補償金の積算は335頁,目の説明と根拠条文の一覧は311頁である。
最高裁判所の令和4年度概算要求書(説明資料)(819頁)。
裁判庁費の費目別内訳は,同資料の括弧内に記載された前年度予算額から確認した。
最高裁判所の概算要求書(説明資料)(各年度の説明資料の所在)。
令和3年度一般会計歳出予算各目明細書及び令和3年度一般会計歳出予算補正(第1号)各目明細書(いずれも裁判所ウェブサイト,表紙の名称による)。
4 閣議資料
「令和3年度予算の概算要求の具体的な方針について」(令和2年7月21日閣議 財務大臣発言要旨)。
「令和4年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について」(令和3年7月7日閣議了解)。
いずれも財務省のページが現在は削除されているため,国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)の令和6年1月4日の保存版によった。
首相官邸「令和2年7月21日(火)定例閣議案件」の政令の欄に「令和三年度予算に係る歳入歳出等の見積書類の送付期限の特例を定める政令(決定)(財務省)」がある。
同ページは現在削除されており,Internet Archiveの令和2年8月3日の保存版によった。
財務省「令和3年度予算」のページ(概算要求の公表日,政府案の閣議決定日,国会提出日,成立日及び補正予算の各日付)。
現在は国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)で閲覧できる。
5 国会会議録
第208回国会参議院法務委員会第6号(令和4年4月14日)。
第217回国会衆議院予算委員会第6号(令和7年2月6日)。
いずれも国会会議録検索システムで確認した。
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