第1 この記事の対象と調査の基準日
1 この記事が扱う労働者性
この記事は,労働基準法・労働契約法上の労働者と,労働組合法上の労働者の定義,判断要素及び主要な裁判例を整理するものである。
税務,健康保険・厚生年金保険及びフリーランス法との横断的な関係は,税務・労働法・社会保険におけるフリーランスの労働者性で別に整理している。
この記事は,令和8年9月2日現在の法令,裁判例及び公開行政資料に基づく。
厚生労働省の「労働基準法における『労働者』に関する研究会」は同日現在で検討中であり,後述の「これまでの議論の整理(案)」は現行法を変更する最終報告ではない。
2 契約書の名称だけでは決まらないこと
請負,委任,準委任,業務委託又はフリーランスという契約名称だけで,労働者性は決まらない。
契約条項と実際の運用が異なるときは,仕事を断る自由,具体的な指示,時間・場所の拘束,報酬の計算方法,代替性,機械器具・経費の負担及び損益の帰属等の就労実態を総合して判断する。
第2 労基法・労契法上の労働者の定義
1 労働基準法9条と同法11条
労働基準法9条は,労働者を,職業の種類を問わず,事業又は事務所に使用される者で,賃金を支払われる者と定義している。
同法11条は,賃金を,名称にかかわらず,労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものと定義している。
したがって,労基法上の中心的な問いは,①他人の指揮監督下で労務を提供しているか及び②その労務の対償として報酬を受けているかである。
契約当事者が使用する名称や,請求書・開業届の有無は,この問いに代わるものではない。
2 労働契約法2条1項
労働契約法2条1項は,労働者を,使用者に使用されて労働し,賃金を支払われる者と定義する。
同項は労基法9条のように「事業又は事務所」に使用されることを要件としていないが,その他の基本的な判断枠組みは労基法上の労働者性と共通すると解されている。
第3 昭和60年報告の判断枠組み
1 使用従属性の2つの柱
労働基準法研究会の昭和60年12月19日報告は,「指揮監督下の労働」と「報酬の労務対償性」からなる使用従属性を中心とし,事業者性や専属性等を補強要素とする判断枠組みを示した。
個々の要素の有無を数えるのではなく,契約,仕事の性質及び実際の運用を踏まえて総合判断する。
2 指揮監督下の労働を示す事情
| 判断要素 | 主に確認する事実 | 評価上の留意点 |
|---|---|---|
| 仕事の依頼等に対する諾否の自由 | 個別の仕事を断れるか,拒否時の不利益,過去の拒否実績 | 契約上は断れても,拒否後に発注を停止する運用があれば実質的な自由は乏しい |
| 業務遂行上の指揮監督 | 作業内容・方法の指示,報告,検査,評価,規律及び不利益措置 | 注文内容,安全上の注意又は施設利用時間の指定のように,請負等でも必要となる指示かどうかを分ける |
| 時間的・場所的な拘束 | 始業・終業時刻,休憩,休日,勤務場所の指定及び勤怠管理 | 業務の性質から当然に必要な制約か,労務の利用に対する管理かを確認する |
| 代替性 | 本人の判断で補助者又は代替者を使えるか,代替実績 | 本人が自ら労務を提供しなければならないことは,指揮監督関係を補強する |
3 報酬の労務対償性
時給,日給又は月給のように労務提供の時間を基礎とし,欠勤控除や残業手当に相当する仕組みがあることは,報酬の労務対償性を肯定する方向に働く。
他方,成果物の完成と検収に対して報酬が発生し,成果未完成の危険を受託者が負う仕組みは,独立した事業者性を示す事情となり得る。
報酬が時間単価で計算されることは重要な事情であるが,それだけで労働者性が決まるものではない。
専門的な委託業務でも時間単価を用いることがあるため,諾否の自由,指揮監督,費用・危険の負担等と併せて評価する必要がある。
4 判断を補強する要素
事業者性に関しては,①高価な機械・車両・器具を誰が調達したか,②修理費,燃料費,材料費,通信費等を誰が負担したか,③報酬額が一般の従業員と比較して著しく高額か,④自己の計算と危険で利益を調整できるか等を確認する。
他人を使用し,複数の顧客に営業し,価格や業務方法を自ら決定できる場合は,事業者性を示す方向に働く。
専属性,採用過程,給与所得としての源泉徴収,労働・社会保険の適用,服務規律及び福利厚生は,当事者の認識又は取扱いを示す補強要素である。
これらの外形は当事者の手続選択で変えられるため,指揮監督や報酬の実態より優先されるものではない。
第4 労基法上の主要な最高裁判例
1 結論だけでなく判断事実を比較すること
| 裁判例 | 結論 | 重視された主な事実 | 射程 |
|---|---|---|---|
| 最高裁平成8年11月28日判決(平成7年(行ツ)第28号,横浜南労基署長(旭紙業)事件) | 労働者性を否定 | 業務遂行上の指示が限定的,時間的拘束が一般従業員より緩い,車両・経費を自己負担,出来高報酬 | 専属性や諾否の制約があっても,運送業務上必要な指示と独立事業者性を全体評価した事例 |
| 最高裁平成17年6月3日判決(平成14年(行ヒ)第96号,関西医科大学研修医事件) | 労働者性を肯定 | 指導医の指示,定められた場所・時間,病院のための医療行為,報酬支払 | 臨床研修の教育的目的は,労務提供の実態がある場合の労働者性を否定しない |
| 最高裁平成19年6月28日判決(平成17年(行ヒ)第145号,藤沢労基署長事件) | 労働者性を否定 | 工法・作業手順の裁量,仕事を休む自由,道具の自己所有,出来高報酬,労働・社会保険等の取扱い | 仕様・寸法の指定や現場の作業時間の制約があっても,工務店の指揮監督下の労働とは評価されなかった |
これらの判決は,一つの事情だけから結論を導いていない。
例えば,専属的に働いていたこと,作業場所が指定されたこと又は自己の道具を使ったことは,それぞれ重要であるが,単独の決定要素ではない。
第5 業種・働き方に応じた判断
1 建設業の手間請け従事者と芸能関係者
労働基準法研究会労働契約等法制部会労働者性検討専門部会の平成8年3月報告は,昭和60年報告を前提として,建設業の手間請け従事者及び芸能関係者について判断事情を整理した。
「一人親方」「俳優」「技術者」等の職種名で結論を決めたものではなく,業務必要性による指示と労務管理のための指示,当日の諾否の自由,報酬,代替性及び事業者性を業務実態に即して評価するものである。
2 フリーランスとチェックリスト
厚生労働省は,労働基準法における「労働者」とはで,昭和60年報告,平成8年報告,令和6年10月時点の参考資料集及びフリーランス向けの自己診断チェックリストを公開している。
チェックリストは事実確認の入口であり,該当数の多数決で法的結論を出すためのものではない。
「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」は,令和8年1月1日改定版が公開されている。
同ガイドラインは,契約の名称にかかわらず,労基法上の労働者に該当する場合には労働関係法令が適用されるという法令間の関係を示している。
3 プラットフォーム就労と検討中の論点
厚生労働省の研究会は,アプリ,アルゴリズム,GPS,評価,インセンティブ及び不利益措置が,業務の諾否又は遂行方法を実質的に拘束するかを検討している。
システムによる指示は,人が口頭で指示した場合と同様に,実際の機能と不利益を確認すべき事情となり得るが,各事情の存在だけで労働者性が決まるものではない。
研究会は令和8年7月17日の第6回まで開催されている。
「これまでの議論の整理(案)」は70頁の検討資料であり,その記載を現行法上の確定した判断基準として用いることはできない。
第6 労組法上の労働者性
1 労基法とは目的が異なること
労働組合法3条は,労働者を,職業の種類を問わず,賃金,給料その他これに準ずる収入によって生活する者と定義している。
労組法は,団体交渉を中心とする集団的労使関係の保護を目的とするため,労基法上の労働者性が否定されても,労組法上の労働者性が肯定されることがある。
ただし,別の事件,別の時期又は別の契約に関する結論を並べて,ある職種全体について労基法上は非労働者,労組法上は労働者であると一律に言うことはできない。
2 平成23年報告の6つの判断要素
労使関係法研究会の平成23年7月25日報告書は,労組法上の労働者性について,次の要素を総合して判断すると整理している。
基本的判断要素の一部が満たされない場合でも直ちに労働者性が否定されるわけではなく,契約の形式だけでなく実際の運用を重視する。
①基本的判断要素は,事業組織への組入れ,契約内容の一方的・定型的決定及び報酬の労務対価性である。
②補充的判断要素は,業務の依頼に応ずべき関係,広い意味での指揮監督下の労務提供及び一定の時間的・場所的拘束である。
③消極的判断要素は,恒常的に自己の才覚で利得する機会を有し,自らリスクを引き受けるという顕著な事業者性である。
3 労組法上の主要な最高裁判例
| 裁判例 | 就労形態 | 主に重視された事情 | 結論 |
|---|---|---|---|
| 最高裁昭和51年5月6日判決(昭和49年(行ツ)第112号,CBC管弦楽団労組事件) | 放送管弦楽団員 | 事業への組入れ,出演の拘束,報酬等 | 労働者性を肯定 |
| 最高裁平成23年4月12日判決(平成21年(行ヒ)第226号・第227号,新国立劇場運営財団事件) | オペラ合唱団員 | 年間を通じた組入れ,契約条件,報酬,出演依頼及び指揮監督 | 労働者性を肯定,原判決破棄・差戻し |
| 最高裁平成23年4月12日判決(平成21年(行ヒ)第473号,INAXメンテナンス事件) | 住宅設備機器の修理業務従事者 | 会社事業に不可欠な労働力,契約の一方的決定,報酬の労務対価性 | 労働者性を肯定,原判決破棄・自判 |
| 最高裁平成24年2月21日判決(平成22年(行ヒ)第489号,ビクターサービスエンジニアリング事件) | 音響製品等の出張修理業務従事者 | 事業組織への組入れ,契約条件,報酬及び業務遂行上の拘束 | 労働者性を肯定,原判決破棄・差戻し |
4 労働者性と使用者性を分けること
朝日放送事件の最高裁平成7年2月28日判決(平成5年(行ツ)第17号)の中心的な争点は,下請企業の従業員との関係で,受入企業である朝日放送が労組法7条の「使用者」に当たるかである。
下請従業員の労組法上の労働者性を判断した事件ではないため,労働者性の主要判例とは分けて理解する必要がある。
5 プラットフォーム配達員の例
東京都労働委員会は,Uber Japanほか事件(令和2年(不)第24号)の令和4年10月4日命令において,配達パートナーの労組法上の労働者性を肯定した。
同命令が当事者に交付されたのは同年11月25日であり,命令日と交付日は異なる。
同命令は東京都労働委員会の行政処分であり,最高裁判例ではない。
そのため,判断要素の適用例として位置付け,すべてのプラットフォーム配達員に共通する結論として一般化すべきではない。
第7 労災保険・雇用保険その他の法律との関係
1 労災保険と特別加入
労災保険法は労働者の定義規定を置いていないが,通常の保険給付の対象となる労働者は,原則として労基法9条の労働者と同義に解されている。
平成30年(労)第219号に関する労働保険審査会の裁決も,昭和60年報告の判断枠組みに合理性があるとし,各要素を総合検討している。
他方,労災保険の特別加入制度は,労基法上の労働者でない者のうち,一定の要件の下で労働者に準じて保護するのが適当な者に特別の加入を認める制度である。
特別加入していることは,当該者が労基法上の労働者であることを意味しない。
2 在宅勤務者の雇用保険
「雇用保険に関する業務取扱要領(令和8年8月1日以降)」20351(1)ル・31頁は,在宅勤務者について,事業所勤務労働者との同一性が確認できれば,原則として被保険者となり得るとしている。
確認事項は,①指揮監督系統,②所定労働日・休日・始業終業時刻等の拘束時間,③勤務実績の管理,④報酬の労務対償性及び⑤機械器具・通信費等の負担や他業務への従事禁止に見られる請負・委任的色彩の有無である。
在宅で働くことだけで雇用関係が否定されるわけではなく,反対に,毎日一定時間に在宅で業務をしているという事情だけで被保険者になるわけでもない。
3 労働安全衛生法と最低賃金法の定義上の除外
労働安全衛生法2条2号及び最低賃金法2条1号は,原則として労基法9条の労働者を基礎とする。
ただし,同居の親族のみを使用する事業又は事務所に使用される者及び家事使用人は,各条の労働者の定義から除外されている。
第8 労働者性を検討するための資料
1 判断要素と客観資料を対応させること
労働者性に争いが生じたときは,契約書の見出しではなく,個々の判断要素に対応する客観資料を確認する。
①契約書・規約,②発注書・作業指示・業務マニュアル,③勤務表・入退場記録・アプリの稼働記録,④報酬規程・請求書・支払履歴,⑤依頼を断った例とその後の扱い,⑥代替者・補助者の使用実績及び⑦機械器具・材料・車両・経費の負担資料等を,実際の運用が分かる形で対応させる。
電子メール,チャット及びアプリの記録は,後日に消去・上書きされることがある。
業務委託と労働契約の境界が問題となり得る場合は,誰が保有し,どの期間保存される資料かを確認し,必要な範囲で早期に保存することが考えられる。
2 外形的な取扱いの限界
給与所得としての源泉徴収,労働・社会保険への加入,就業規則の適用又は開業届の提出は,当事者が関係をどのように扱っていたかを示す資料となる。
もっとも,労働者性を作出したり排除したりする決定的な手続ではないため,実際の指揮監督及び報酬の実態と照合して評価する必要がある。
第9 関連記事
①税務,健康保険・厚生年金保険,雇用保険及びフリーランス法との制度横断比較は,税務・労働法・社会保険におけるフリーランスの労働者性参照。
②フリーランスが労働組合へ加入した場合の団体交渉と弁護士法72条の関係は,労働組合の団体交渉と弁護士法72条参照。
③労働条件の明示,賃金,帳簿,解雇及び試用期間等の労基法上の一般的な論点は,労働基準法に関するメモ書き参照。
第10 出典・参考資料
1 法令
①労働基準法9条及び11条。
②労働契約法2条1項。
③労働組合法3条及び7条。
④労働安全衛生法2条2号。
⑤最低賃金法2条1号。
2 裁判例・労働委員会命令・行政処分
①最高裁判所第一小法廷平成8年11月28日判決(平成7年(行ツ)第28号,裁判所ウェブサイト)。
②最高裁判所第二小法廷平成17年6月3日判決(平成14年(行ヒ)第96号,裁判所ウェブサイト)。
③最高裁判所第一小法廷平成19年6月28日判決(平成17年(行ヒ)第145号,裁判所ウェブサイト)。
④最高裁判所第一小法廷昭和51年5月6日判決(昭和49年(行ツ)第112号,中央労働委員会命令・裁判例データベース)。
⑤最高裁判所第三小法廷平成23年4月12日判決(平成21年(行ヒ)第226号・第227号,裁判所ウェブサイト)。
⑥最高裁判所第三小法廷平成23年4月12日判決(平成21年(行ヒ)第473号,裁判所ウェブサイト)。
⑦最高裁判所第三小法廷平成24年2月21日判決(平成22年(行ヒ)第489号,裁判所ウェブサイト)。
⑧最高裁判所第一小法廷平成7年2月28日判決(平成5年(行ツ)第17号,中央労働委員会命令・裁判例データベース)。
⑨東京都労働委員会令和4年10月4日命令(令和2年(不)第24号,中央労働委員会命令・裁判例データベース)。
⑩労働保険審査会平成30年(労)第219号裁決(厚生労働省ウェブサイト)。
3 所管行政機関の報告・解説・運用資料
①労働基準法研究会「労働基準法の『労働者』の判断基準について」(昭和60年12月19日,厚生労働省掲載PDF)全12頁。
②労働基準法研究会労働契約等法制部会労働者性検討専門部会報告(平成8年3月,厚生労働省掲載PDF)全17頁。
③労使関係法研究会「労働組合法上の労働者性の判断基準について」(平成23年7月25日,厚生労働省ウェブサイト)。
④厚生労働省「労働基準法における『労働者』とは」(令和8年9月2日確認)。
⑤厚生労働省「労働基準法における『労働者』に関する研究会」及び「これまでの議論の整理(案)」全70頁。
⑥内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(令和8年1月1日改定,厚生労働省掲載ページ)。
⑦厚生労働省「雇用保険に関する業務取扱要領(令和8年8月1日以降)」20351(1)ル・31頁(厚生労働省PDF)。
⑧厚生労働省「労災保険への特別加入」(令和8年9月2日確認)。
⑨独立行政法人労働政策研究・研修機構「労働者性に係る監督復命書等の内容分析」労働政策研究報告書No.206(令和3年2月)。
4 文献
①山川隆一・渡辺弘編著『労働関係訴訟Ⅰ』(青林書院,2018年)3頁~17頁。
②杜若経営法律事務所『未払い残業代請求の法律相談-最新青林法律相談43』(青林書院,2022年)261頁。