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通常第一審における危険運転致傷罪の量刑分布(地裁)(AIリライト)

第1 通常第一審における危険運転致傷罪の量刑分布

1 平成23年から令和4年までの終局区分

地方裁判所の通常第一審において危険運転致傷罪で終局した人員を,言い渡された懲役の刑期区分別に示すと次のとおりである。

年次終局人員懲役総数10年以下5年以下3年2年以上1年以上6月以上全部執行猶予率(%)
平成23年1701682713549282.4
平成24年17016917165488373.9
平成25年16516347195577179.6
平成26年2352331621631301281.4
平成27年3293272914931812886.7
平成28年3393382416842062691.9
平成29年3463412620612084492.5
平成30年296292521681603892.3
令和元年2592552216461682190.0
令和2年2552472210461582993.0
令和3年2792781315571673592.7
令和4年251250811461533293.4

無罪は平成29年が2人,令和元年,令和2年及び令和3年が各1人であり,その他の年はない。「その他」(公訴棄却,移送等)は,平成23年が2人,平成24年が1人,平成25年から平成27年までが各2人,平成28年が1人,平成29年が3人,平成30年が4人,令和元年が3人,令和2年が7人,令和3年がなく,令和4年が1人である。

2 表の見方

各欄は刑期の上限を示しており,「1年以上」は1年以上2年未満,「2年以上」は2年以上3年未満,「3年」はちょうど3年を意味する。危険運転致傷罪の法定刑は15年以下の拘禁刑(改正前は15年以下の懲役)であり,本記事の12年間では10年を超える言渡しはない。30年以下及び20年以下の欄は概況の表に存在するが,全年で該当がないため本記事の表では省略した。

「終局人員」は,有罪,無罪及びその他を合計した,その年に第一審が終局した実人員である。

第2 出典及び集計方法

1 出典は法曹時報の「刑事事件の概況(上)」である

本記事の数値は,毎年2月1日発行の法曹時報に登載される「○年における刑事事件の概況(上)」の図表から採録したものである。同概況は最高裁判所事務総局刑事局が作成しており,各図表は当該年を末尾とする最近5年間を掲げる形式である。したがって,1冊で5年分を確認することができ,年ごとに号を遡る必要はない。

注意を要するのは,同じ表であっても号ごとに図表番号が変わることである。本記事が採録した図表は次のとおりである。

法曹時報の号(対象年)図表番号
平成27年分(69巻2号)図表143547頁
平成28年分(70巻2号)図表143565頁
平成30年分(72巻2号)図表138403頁
令和4年分(76巻2号)図表136687頁

概況は概況年の約2年後に登載されるため,本記事が現に確認した最新の号は令和4年分(76巻2号)である。令和5年分及び令和6年分についても既に登載されている可能性が高いが,本記事の執筆時点で現物を確認していないため,数値は令和4年までとした。

なお,各年の数値は後の号で遡及的に訂正されることがある。本記事では,同一年について複数の号に数値がある場合,最も新しい号の数値を採用している。危険運転致傷罪については,本記事が確認した範囲で,号をまたぐ数値の食い違いはなかった。

2 全部執行猶予率の算出方法と「一部執行猶予」との区別

概況の注記によれば,全部執行猶予率は,全部執行猶予言渡人員を懲役3年以下の有罪人員で除して100を乗じて算出されている。分母は有罪人員全体ではなく,猶予を付し得る範囲に限られている点に注意を要する。

刑の一部執行猶予制度の施行日は平成28年6月1日である(平成30年分・72巻2号404頁の注記)。これ以降の概況は「一部執行猶予率」と「全部執行猶予率」とを別欄に分けており,本記事が掲げるのはいずれも全部執行猶予率である。平成27年以前の号は単に「執行猶予率」と表示しているが,一部執行猶予制度が存在しない時期の数値であるから,実質は全部執行猶予率と同義である。

表中の「−」は,該当する人員がないことを示す。全部執行猶予率の欄の「−」は,全部執行猶予の言渡しがなかったこと,又は分母となる人員が存在しないことのいずれかを意味する。

3 統計上の「危険運転致傷」の範囲

概況の注記によれば,「危険運転致傷」には,平成25年法律第86号による改正前の刑法208条の2に係る罪が含まれる。また,起訴人員の表(令和4年分・683頁の図表133)の注記は,「危険運転致死傷」を自動車運転死傷処罰法2条及び3条の罪と定義している。量刑分布の表の注記には3条への言及がないため,3条(いわゆる準危険運転致死傷罪)の取扱いは注記からは明らかでない。

第3 分布から読み取れること

第一に,致傷は致死と全く異なり,執行猶予が原則である。全部執行猶予率は,平成24年の73.9%を底として上昇し,平成28年以降は90.0%から93.4%の範囲で推移している。同じ危険運転致死傷罪でも,致死と致傷とでは処理の実態が正反対である。

第二に,刑期の中心は1年以上2年未満の区間であり,その割合は平成25年の47.2%から令和元年の65.9%までの範囲にあって,平成28年以降は6割前後で推移している。6月以上1年未満の区分は,平成25年までは0人から3人にとどまっていたが,平成27年以降は21人から44人で推移しており,分布全体がやや軽い方向に移動している。

第三に,5年を超える言渡し(10年以下の欄)は年0人から4人にとどまる。危険運転致傷罪の法定刑上限は15年であるが,実際に長期の刑が言い渡される事案は例外的である。

第四に,平成26年から人員が大きく増えている。平成25年の終局人員165人に対し,平成26年は235人,平成27年は329人である。自動車運転死傷処罰法が平成26年5月20日に施行され,通行禁止道路の類型が加わり,同法3条が新設されたことにより,従来は自動車運転過失致傷罪として処理されていた事案の一部が危険運転致傷として起訴されるようになったことが背景にある。

なお,令和4年分の概況694頁の図表142によれば,令和4年の危険運転致死傷事件の控訴率は5.2%であり,通常第一審事件全体の11.4%の半分以下である。

第4 量刑分布を読む前提となる法改正

1 懲役及び禁錮は令和7年6月1日から拘禁刑に一本化された

刑法等の一部を改正する法律(令和4年法律第67号。公布は令和4年6月17日)は,令和7年6月1日から施行され,懲役及び禁錮を拘禁刑に一本化した。自動車運転死傷処罰法の各条も,現行法では法定刑がすべて拘禁刑で規定されている。

本記事の表が「懲役」「禁錮」の区分で数値を掲げているのは,いずれも施行日より前の年次の統計だからである。施行日以後に犯した罪については拘禁刑が言い渡されるため,将来の概況では刑種の区分自体が変わることになる。

2 危険運転致死傷罪は令和8年7月21日から改正されている

自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律及び道路交通法の一部を改正する法律(令和8年法律第52号)は,令和8年7月1日に公布され,同月21日から施行された。改正により,飲酒類型(2条1号)には血液1ミリリットルにつき1.0ミリグラム以上又は呼気1リットルにつき0.5ミリグラム以上という数値基準が設けられ,高速度類型(2条4号)及び殊更にタイヤを滑らせ又は浮かせる類型(2条6号)が新設された。これに伴って2条の号が全体的に繰り下がっているため,改正前の号数をそのまま引用すると別の類型を指すことになる。

この改正は,法務省が令和6年2月21日から同年11月27日まで11回にわたって開催した自動車運転による死傷事犯に係る罰則に関する検討会取りまとめ報告書を経て,法制審議会の審議を経たものである。同検討会の第1回会議の配布資料には危険運転致傷罪等の改正の経緯が収録されている。

本記事の数値は平成23年から令和4年までのものであるから,いずれも改正前の危険運転致傷罪に係る分布である。改正法の適用は施行日以後の行為に限られるため,改正の影響が統計に現れるのは相当先になる。

第5 関連記事

本記事と対になる量刑分布の記事は次のとおりである。罪名と手続の組合せごとに分布の形が大きく異なるので,比較して読むと,同じ交通事故でも処理のされ方が全く違うことが分かる。

実際の量刑がどのような事実関係の下で言い渡されたのかを確かめるには,判決書その他の刑事記録を入手する必要がある。手続別の入手方法は,刑事記録の入手方法等に関する記事の一覧にまとめている。

交通事故は刑事と民事の双方にまたがる。次の投稿は,民事側の実務上の注意点を簡潔にまとめたものである。

出典

1 法令

2 統計

  • 最高裁判所事務総局刑事局「平成27年における刑事事件の概況(上)」法曹時報69巻2号 図表143(547頁)
  • 最高裁判所事務総局刑事局「平成28年における刑事事件の概況(上)」法曹時報70巻2号 図表143(565頁)
  • 最高裁判所事務総局刑事局「平成30年における刑事事件の概況(上)」法曹時報72巻2号 図表138(403頁)
  • 最高裁判所事務総局刑事局「令和4年における刑事事件の概況(上)」法曹時報76巻2号 図表133(683頁)・図表136(687頁)・図表142(694頁)

3 ウェブ資料