第1 通常第一審における危険運転致死罪の量刑分布
1 平成23年から令和4年までの終局区分
地方裁判所の通常第一審において危険運転致死罪で終局した人員を,言い渡された懲役の刑期区分別に示すと次のとおりである。危険運転致死罪は地方裁判所の管轄であるため,簡易裁判所の数値はない。
| 年次 | 終局人員 | 懲役総数 | 30年以下 | 20年以下 | 10年以下 | 5年以下 | 3年 | 2年以上 | 全部執行猶予率(%) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 平成23年 | 17 | 17 | − | 2 | 8 | 4 | 1 | 2 | − |
| 平成24年 | 23 | 23 | − | 4 | 16 | 3 | − | − | − |
| 平成25年 | 32 | 32 | − | 3 | 19 | 5 | 5 | − | 20.0 |
| 平成26年 | 17 | 17 | − | 1 | 11 | 4 | 1 | − | − |
| 平成27年 | 33 | 32 | 1 | 6 | 15 | 8 | 2 | − | 50.0 |
| 平成28年 | 38 | 37 | 2 | 2 | 20 | 11 | 2 | − | 50.0 |
| 平成29年 | 32 | 31 | − | 4 | 18 | 6 | 3 | − | − |
| 平成30年 | 18 | 17 | − | 4 | 8 | 4 | 1 | − | − |
| 令和元年 | 12 | 12 | − | − | 5 | 7 | − | − | − |
| 令和2年 | 22 | 21 | − | 5 | 8 | 7 | 1 | − | 100.0 |
| 令和3年 | 34 | 34 | − | 3 | 16 | 10 | 2 | 3 | − |
| 令和4年 | 21 | 21 | − | 4 | 15 | 1 | − | 1 | − |
無罪はいずれの年もない。「その他」(公訴棄却,移送等)は,平成27年,平成28年,平成29年,平成30年及び令和2年に各1人であり,その他の年はない。終局人員と懲役総数との差は,この「その他」による。
2 表の見方
「懲役総数」は有罪となって懲役を言い渡された人員であり,「30年以下」から「2年以上」までの各欄はその内訳である。各欄は上限を示しており,例えば「10年以下」は5年を超え10年以下の刑期を意味する。危険運転致死罪の法定刑は1年以上の有期拘禁刑(改正前は有期懲役)であって上限は20年であるが,併合罪加重をする場合には30年まで引き上げることができるため(刑法14条2項・47条),30年以下の欄が設けられている。
「終局人員」は,有罪,無罪及びその他を合計した,その年に第一審が終局した実人員である。
第2 出典及び集計方法
1 出典は法曹時報の「刑事事件の概況(上)」である
本記事の数値は,毎年2月1日発行の法曹時報に登載される「○年における刑事事件の概況(上)」の図表から採録したものである。同概況は最高裁判所事務総局刑事局が作成しており,各図表は当該年を末尾とする最近5年間を掲げる形式である。したがって,1冊で5年分を確認することができ,年ごとに号を遡る必要はない。
注意を要するのは,同じ表であっても号ごとに図表番号が変わることである。本記事が採録した図表は次のとおりである。
| 法曹時報の号(対象年) | 図表番号 | 頁 |
|---|---|---|
| 平成27年分(69巻2号) | 図表143 | 547頁 |
| 平成28年分(70巻2号) | 図表143 | 565頁 |
| 平成30年分(72巻2号) | 図表138 | 403頁 |
| 令和4年分(76巻2号) | 図表136 | 687頁 |
概況は概況年の約2年後に登載されるため,本記事が現に確認した最新の号は令和4年分(76巻2号)である。令和5年分及び令和6年分についても既に登載されている可能性が高いが,本記事の執筆時点で現物を確認していないため,数値は令和4年までとした。
なお,各年の数値は後の号で遡及的に訂正されることがある。本記事では,同一年について複数の号に数値がある場合,最も新しい号の数値を採用している。危険運転致死罪については,本記事が確認した範囲で,号をまたぐ数値の食い違いはなかった。
2 全部執行猶予率の算出方法と「一部執行猶予」との区別
概況の注記によれば,全部執行猶予率は,全部執行猶予言渡人員を懲役3年以下の有罪人員で除して100を乗じて算出されている。分母は有罪人員全体ではなく,猶予を付し得る範囲に限られている点に注意を要する。
刑の一部執行猶予制度の施行日は平成28年6月1日である(平成30年分・72巻2号404頁の注記)。これ以降の概況は「一部執行猶予率」と「全部執行猶予率」とを別欄に分けており,本記事が掲げるのはいずれも全部執行猶予率である。平成27年以前の号は単に「執行猶予率」と表示しているが,一部執行猶予制度が存在しない時期の数値であるから,実質は全部執行猶予率と同義である。
表中の「−」は,該当する人員がないことを示す。全部執行猶予率の欄の「−」は,全部執行猶予の言渡しがなかったこと,又は分母となる人員が存在しないことのいずれかを意味する。
3 統計上の「危険運転致死」の範囲
概況の注記によれば,「危険運転致死」には,平成25年法律第86号による改正前の刑法208条の2に係る罪が含まれる。また,起訴人員の表(令和4年分・683頁の図表133)の注記は,「危険運転致死傷」を自動車運転死傷処罰法2条及び3条の罪と定義している。量刑分布の表の注記には3条への言及がないため,3条(いわゆる準危険運転致死傷罪)の取扱いは注記からは明らかでない。
第3 分布から読み取れること
第一に,実刑が原則である。12年間を通じて全部執行猶予が言い渡されたのは,平成25年,平成27年,平成28年及び令和2年の各1人,合計4人にとどまる。令和2年の全部執行猶予率が100.0%となっているのは,懲役3年以下の言渡しを受けた者が1人だけで,その1人に猶予が付いたためであり,刑が軽くなったことを示すものではない。
第二に,刑期の中心は5年を超え10年以下の区間である。この区間の占める割合は,令和3年が47.1%,令和4年が71.4%であり,12年間のほとんどの年で最も多い区分となっている。20年以下(10年を超えるもの)の区分も毎年一定数あり,令和4年は4人であった。
第三に,母数が小さいため割合の年次変動が大きい。終局人員は年12人から38人の範囲にとどまり,1人の増減が割合を数ポイント動かす。単年の割合だけを取り出して傾向を論じることは適切でなく,複数年をまとめて見る必要がある。
なお,令和4年分の概況683頁の図表133によれば,危険運転致死傷(致死と致傷の合計)の公判請求人員は,平成30年が323人,令和元年が296人,令和2年が322人,令和3年が320人,令和4年が304人である。また,令和4年分の694頁の図表142によれば,令和4年の危険運転致死傷事件の控訴率は5.2%であり,通常第一審事件全体の11.4%の半分以下である。
第4 量刑分布を読む前提となる法改正
1 懲役及び禁錮は令和7年6月1日から拘禁刑に一本化された
刑法等の一部を改正する法律(令和4年法律第67号。公布は令和4年6月17日)は,令和7年6月1日から施行され,懲役及び禁錮を拘禁刑に一本化した。自動車運転死傷処罰法の各条も,現行法では法定刑がすべて拘禁刑で規定されている。
本記事の表が「懲役」「禁錮」の区分で数値を掲げているのは,いずれも施行日より前の年次の統計だからである。施行日以後に犯した罪については拘禁刑が言い渡されるため,将来の概況では刑種の区分自体が変わることになる。
2 危険運転致死傷罪は令和8年7月21日から改正されている
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律及び道路交通法の一部を改正する法律(令和8年法律第52号)は,令和8年7月1日に公布され,同月21日から施行された。改正により,飲酒類型(2条1号)には血液1ミリリットルにつき1.0ミリグラム以上又は呼気1リットルにつき0.5ミリグラム以上という数値基準が設けられ,高速度類型(2条4号)及び殊更にタイヤを滑らせ又は浮かせる類型(2条6号)が新設された。これに伴って2条の号が全体的に繰り下がっているため,改正前の号数をそのまま引用すると別の類型を指すことになる。
この改正は,法務省が令和6年2月21日から同年11月27日まで11回にわたって開催した自動車運転による死傷事犯に係る罰則に関する検討会の取りまとめ報告書を経て,法制審議会の審議を経たものである。同検討会の第1回会議の配布資料には危険運転致傷罪等の改正の経緯が収録されており,立法の沿革を確認する資料として有用である。
本記事の数値は平成23年から令和4年までのものであるから,いずれも改正前の危険運転致死罪に係る分布である。改正法の適用は施行日以後の行為に限られるため,改正の影響が統計に現れるのは相当先になる。
第5 関連記事
本記事と対になる量刑分布の記事は次のとおりである。罪名と手続の組合せごとに分布の形が大きく異なるので,比較して読むと,同じ交通事故でも処理のされ方が全く違うことが分かる。
- 通常第一審における危険運転致傷罪の量刑分布(地裁)
- 通常第一審における過失運転致死罪の量刑分布(地裁及び簡裁)
- 通常第一審における過失運転致傷罪の量刑分布(地裁及び簡裁)
- 略式手続における過失運転致死罪の量刑分布
- 略式手続における過失運転致傷罪の量刑分布
実際の量刑がどのような事実関係の下で言い渡されたのかを確かめるには,判決書その他の刑事記録を入手する必要がある。手続別の入手方法は,刑事記録の入手方法等に関する記事の一覧にまとめている。
交通事故は刑事と民事の双方にまたがる。次の投稿は,民事側の実務上の注意点を簡潔にまとめたものである。
交通の研修会で話題に上った事項の備忘録
・自転車事故や物的損害で自賠3条書く人は一旦正気に戻ろう。
・あおり運転事案で故意主張する人がいるが保険の故意免責は考慮したか?
・治療費全額既払いで損害計上しない時でも治療経過(期間・実日数)は明示しよう。過失争われそうなときは治療関係費も。— 中村真 (@lawyer_makoto) March 14, 2023
出典
1 法令
- 刑法14条2項・47条(e-Gov法令検索)
- 自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律2条・3条(e-Gov法令検索)
- 刑法等の一部を改正する法律(令和4年法律第67号)
- 自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律及び道路交通法の一部を改正する法律(令和8年法律第52号)
2 統計
- 最高裁判所事務総局刑事局「平成27年における刑事事件の概況(上)」法曹時報69巻2号 図表143(547頁)
- 最高裁判所事務総局刑事局「平成28年における刑事事件の概況(上)」法曹時報70巻2号 図表143(565頁)
- 最高裁判所事務総局刑事局「平成30年における刑事事件の概況(上)」法曹時報72巻2号 図表138(403頁)
- 最高裁判所事務総局刑事局「令和4年における刑事事件の概況(上)」法曹時報76巻2号 図表133(683頁)・図表136(687頁)・図表142(694頁)
3 ウェブ資料
- 法務省自動車運転による死傷事犯に係る罰則に関する検討会(取りまとめ報告書を含む。)
- 法務省自動車運転による死傷事犯に係る罰則に関する検討会 第1回会議(令和6年2月21日)
- 法務省令和8年改正に関するQ&A