司法修習の最後に行われる二回試験(考試)で「合格判定留保」となった修習生に対しても,かつては司法修習生の身分が続く限り給与が支給されていました。この記事は,その運用を最高裁判所の担当者が公式に説明した昭和62年3月26日の参議院法務委員会の質疑応答を原典で示し,あわせて,なぜ給与が支給されたのか(当時の裁判所法の仕組み),なぜ「52期まで」で区切られるのか(平成10年の裁判所法改正)を整理します。現行の実務手続の解説ではなく,制度沿革と公的資料の紹介を目的とする記事です。
第1 二回試験と「合格判定留保」
1 二回試験(考試)とは
二回試験は,司法修習の締めくくりに行われる試験で,正式には司法修習生に対する考試といいます。
根拠は裁判所法67条1項で,同項は「司法修習生は,少なくとも一年間修習をした後試験に合格したときは,司法修習生の修習を終える」と定めています。
「二回試験」という通称は,司法試験を一度目の試験,修習修了時のこの考試を二度目の試験と数えることに由来する呼び名で,法令上の名称ではありません。
後述するとおり,この67条1項の「試験に合格したときは修習を終える」という条文の作りが,合格しなかった修習生の身分と給与の扱いに直結します。
2 合格判定留保と追試験
二回試験は,不合格者がほとんど出ないことで知られますが,答案の一部について合否の判定を保留する扱いがあり,これを実務上「合格判定留保」と呼びます。
留保となった修習生には,おおむね2か月ほど後に,不合格とされた科目について追試験が行われます。
多くはこの追試験で合格しますが,合格できないと翌年の試験を受け直すことになり,修習が事実上1年延びる例もありました。
第2 昭和62年3月26日参議院法務委員会の質疑応答
1 質疑の場面と当事者
合格判定留保となった修習生への給与の扱いは,第108回国会の参議院法務委員会(昭和62年3月26日,会議録第1号)で正面から取り上げられました。
質問したのは,関嘉彦参議院議員(民社党)です。
答弁したのは,最高裁判所事務総局人事局長であった櫻井文夫(司法修習11期)です。会議録上は国会での定型の呼称で「最高裁判所長官代理者」と記載されていますが,当時の職は人事局長でした(人事局長在任は昭和59年9月から平成2年3月まで)。
関議員は,行政改革に関する意見書が二回試験について「いわゆる二回試験では,ほとんど不合格者が見られないが,この考試は法曹としての不適格者を排除するよう十分厳正に行なわれているかどうかという問題がある。」と指摘していることを引きつつ,留保者の数とその後の扱い,給与の要否を順に質しました。
答弁の中で人事局長が示した,昭和57年から61年までの合格判定留保者の数は次のとおりです。
| 年 | 合格判定留保者の数 |
|---|---|
| 昭和57年 | 9名 |
| 昭和58年 | 7名 |
| 昭和59年 | 3名 |
| 昭和60年 | 3名 |
| 昭和61年 | 4名 |
2 質疑応答の全文
給与の要否に関わる部分の質疑応答は,会議録によれば次のとおりです。原典の表記に従い,そのまま引用します。
関嘉彦参議院議員(民社党)
きょうは、量だけじゃなしに質の問題を取り上げる予定でおったんですけれども、時間が五分になってしまいました。質の向上の問題として司法試験の問題もありますでしょう、これもこの前取り上げましたけれども。きょうは司法研修所における司法修習制度、これを取り上げたいと思うんです。
先ほど申しました意見書の中にも、「いわゆる二回試験では、ほとんど不合格者が見られないが、この考試は法曹としての不適格者を排除するよう十分厳正に行なわれているかどうかという問題がある。」というふうに書かれております。いわゆる二回試験で不合格になった人、普通の言葉で言えば落第ですけれども、落第した人は毎年どのくらいおりますでしょうか。
櫻井文夫最高裁判所事務総局人事局長
私ども二回試験と申しておりますけれども、二年間の修習を終えた後で行われる司法修習生に対する試験でございますが、過去五年間をとってみますと、昭和五十七年に九名、五十八年に七名、五十九年に三名、六十年に三名、六十一年に四名、これだけの、二回試験の際における私どもの申します合格判定留保者でございますが、出ております。
関嘉彦参議院議員(民社党)
合格留保された者は、結局どうなりますか。追試験みたいなことをやるんですか。そして、結局最終的に排除される人がいるのかどうですか。
櫻井文夫最高裁判所事務総局人事局長
合格判定留保になりますと、追試験が行われます。大体、二月程度後に改めて不合格の科目について試験を行うわけでございます。多くの場合はこれに合格いたしまして、そして、そのころ修習終了ということになるわけでございますが、中にはそのときに合格できなくて、今度は翌年のまた試験を受ける、このようになる人もございます。そうやってその翌年の試験にも受からないというケースもございますけれども、最終的には翌年の試験さらにはまた追試験というのを受けて、最後は何とか合格しておられるというのが普通でございます。
関嘉彦参議院議員(民社党)
翌年の追試験ですね。そうすると、三年間いるわけなんですけれども、残りの一年間も給与は出るんですか。
櫻井文夫最高裁判所事務総局人事局長
追試を受けまして、これに合格しなくて卒業が一年延ばしになる人の場合は、これは司法修習生の身分が継続いたしますので、その間も給料は支給いたします。
関嘉彦参議院議員(民社党)
給与をもらって勉強できるんだったら、私はなるだけ長く留年したいと思うんですけれども、不合理だとはお考えになりませんですか。――私は、別に法律のことを聞いているわけじゃない。常識としておかしいとお思いになりませんかということを聞いているわけです。
櫻井文夫最高裁判所事務総局人事局長
司法修習生には、その修習期間中に国庫から給与を支給するということが裁判所法の定めにございまして、これはその身分が続く間は支給することになっているわけでございます。
常識的におかしいと思わないかどうかという点につきましては、これは余りに長期間試験に受からないがために長期間の給与を受けるというのは、これは不合理であると感ぜられる場合もあり得るであろうというふうに思います。
引用中の「三年間いるわけなんですけれども」は,会議録の原表記では「三年町いる」となっている箇所ですが,前後の文意から明らかな誤植と判断し,「三年間」と表記しました。それ以外は原文のままです。
第3 留保者にも給与が支給された理由──当時の裁判所法の仕組み
留保者に給与が支給されたのは,人事局長が答弁で述べたとおり,追試験や翌年の再受験の間も「司法修習生の身分が継続」し,身分が続く間は給与を支給する仕組みだったからです。
その法的な足場は,当時の裁判所法67条1項にあります。
当時の同項は「司法修習生は,少くとも二年間修習をした後試験に合格したときは,司法修習生の修習を終える」と定めていました。
条文上,修習を終える要件は「試験に合格したとき」であり,かつ修習期間には「少くとも二年間」という下限があるだけで上限の定めはありませんでした。
そのため,合格しない限り修習は終わらず,その間は司法修習生の身分が続き,身分が続く以上,国庫からの給与も続くという帰結になります。この記事では,この条文の構造を給与継続の根拠として整理します。
関議員はこれを「常識としておかしい」と重ねて指摘し,人事局長も,長期間試験に受からないために長期間給与を受けることは「不合理であると感ぜられる場合もあり得る」と答えており,当時から制度への疑問が示されていたことがうかがえます。
第4 「52期まで」という区切り──平成10年法律第50号による修習期間の短縮
1 改正の内容と施行日
この2年間の修習を前提とする仕組みは,「裁判所法の一部を改正する法律」(平成10年5月6日法律第50号)によって改められました。
改正の内容は2点です。
第一に,裁判所法67条1項の修習期間を「少くとも二年間」から「少なくとも一年六月間」に短縮しました。
第二に,同条2項(修習専念義務)にただし書を加えました。
この法律は,附則により平成11年4月1日から施行されました。
修習期間が2年から1年6月に短縮されたのは,平成11年4月に採用された53期からです。
2 経過措置と52期・53期の分かれ目
改正法の附則は,経過措置として,「この法律の施行前に採用され,この法律の施行後も引き続き修習をする司法修習生の修習期間及び国庫から給与を受ける期間については,なお従前の例による」と定めました。
つまり,施行日(平成11年4月1日)より前に採用された修習生は,修習期間も国庫から給与を受ける期間も,改正前の扱いのままとされたのです。
司法修習生の採用は毎年春に行われ,51期は平成9年4月,52期は平成10年4月,53期は平成11年4月の採用です。
したがって,施行日前に採用され従前の例によることになるのは52期までで,53期からは短縮後の1年6月の修習に移りました。
「52期まで」という区切りは,この経過措置による採用時期の線引きに対応しています。関連する修習期間の変遷は,司法修習及び実務修習の期間の推移にまとめています。
経過措置が「国庫から給与を受ける期間」に言及していることからも分かるとおり,52期までの修習生には,従前の例,すなわち第2で見た「身分が続く間は給与を支給する」扱いが及びます。合格判定留保となっても給与が支給された運用は,この従前の例の下でのものでした。
第5 その後の司法修習の給与制度の変遷
ここで扱った「給与」は,司法修習生に国庫から給与を支給する給費制の下での話です。給費制そのものが,その後に大きく変わりました。
給費制は,新第65期(平成23年採用)から廃止され,希望者に修習資金を貸与する貸与制に移行しました。
その後,裁判所法の改正により,第71期(平成29年採用)から修習給付金の制度が設けられ,基本給付金などが支給されるようになっています(裁判所法67条の2)。
このように,二回試験で合格判定留保となっても身分が続く間は給与が支給されるという本記事の場面は,修習期間が2年で,かつ給費制であった時代(52期まで)に特有のものです。
現在の修習給付金の額や社会保険・税務上の扱いは別の制度であり,本記事の対象ではありません。
出典・参考資料
1 法令
- 裁判所法(昭和22年法律第59号)67条1項・67条の2 e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000059
- 裁判所法の一部を改正する法律(平成10年5月6日法律第50号) 衆議院・制定法律 https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/housei/h142050.htm / 日本法令索引 https://hourei.ndl.go.jp/simple/detail?lawId=0000084135
2 公文書
- 第108回国会 参議院法務委員会会議録第1号(昭和62年3月26日) 国会会議録検索システム https://kokkai.ndl.go.jp/txt/110815206X00119870326
3 ウェブ資料
- 櫻井文夫裁判官(11期)の経歴(当ブログ) https://yamanaka-bengoshi.jp/2017/12/31/sakurai11/
- 司法修習及び実務修習の期間の推移(当ブログ) https://yamanaka-bengoshi.jp/2018/01/13/shuushuukikan/
- 司法修習生の修習給付金について 最高裁判所 https://www.courts.go.jp/saikosai/sihokensyujo/sihosyusyu/kyuufu/index.html