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医療記録の文書送付嘱託―申立ての対象指定、カルテ・画像の回収確認、患者同意と提出拒否(AI作成)

第1 医療記録の文書送付嘱託で最初に決めること

医療記録の文書送付嘱託では,必要な記録を裁判所に取り寄せる対象指定と,届いた資料の不足確認を一続きで考える必要がある。
本記事では,民事訴訟における医療記録の収集について,カルテ・看護記録・画像の指定,患者同意,送付に応じてもらえない場合及び証拠提出までを説明する。
法令・裁判所資料の確認基準日は令和8年9月10日であり,対象の指定例と回収管理表は実務上の提案である。

1 何を証明するための記録かを先に決める

収集の出発点は,傷病名,症状の推移,治療内容,事故との因果関係,既往症との区別など,争点となる具体的な事実である。
まず手元の診断書,診療記録,通院一覧等から不足を整理し,どの医療機関の,いつの,どの種類の記録を追加すればその不足を埋められるかを検討する。
病院にある全資料の取得自体を目的にすると,無関係な病歴まで対象とする問題と,必要な画像等が抽出されない問題の双方が生じ得る。

患者側で既に必要な資料を持っている場合は,取得済み資料の利用や,本人による追加開示の手続を先に検討することが考えられる。
私立病院等の個人情報取扱事業者に対する本人開示については,個人情報保護法33条が保有個人データの開示請求を定め,同法39条はその請求に係る訴えを予定している。

もっとも,民事訴訟法226条ただし書が送付嘱託の対象から除くのは,当事者が法令により文書の正本又は謄本の交付を求めることができる場合である。
個人情報保護法33条の対象は保有個人データであり,開示方法の変更や一部不開示があり得るため,病院が本人開示に応じるというだけで同ただし書が当然に適用されるとは考えにくい。

電磁的記録について,民事訴訟法231条の3第1項は,同ただし書の「正本又は謄本の交付」を,情報の内容の全部を証明した書面の交付又は電磁的記録の提供と読み替えている。
本人開示で得られるものが,対象記録の全内容を証明したものか,閲覧又は一部をマスキングした複製にとどまるかを確認する必要がある。
この関係を直接判断した公刊裁判例は確認できず,以上は条文構造に基づく整理である。

なお,国立大学法人や地方独立行政法人等が開設する病院では,個人情報保護法の公的部門の規律が適用される場合がある。
開設主体を確認し,適用条文と交付方法を個別に確認する必要がある。

2 送付嘱託・調査嘱託・提出命令を区別する

民事訴訟法226条は,文書の所持者に送付を嘱託することを申し立てる方法を定めている。
同条ただし書は,当事者が法令により文書の正本又は謄本の交付を求めることができる場合を除いている。
既存の診療録等を取り寄せる場面では,まず対象文書とその所持者を特定することになる。

これに対し,同法186条の調査嘱託は,裁判所が官公署その他の団体等に必要な調査を嘱託する制度である。
既存資料の送付を求めたいのか,記録中の不明点について回答を得たいのかを整理して申出の内容を決めるべきであり,送付嘱託の名目で新しい医学意見書の作成まで当然に求められるものとは扱わない。

文書提出命令は,同法220条の提出義務等を前提に,同法223条により裁判所が提出を命ずる手続である。
第三者が文書提出命令に従わない場合の20万円以下の過料は同法225条に規定されているが,この制裁を,送付嘱託に応じなかったというだけの段階へそのまま当てはめることはできない。

第2 申立ての対象を具体的に指定する

1 患者・医療機関・診療範囲・種類・期間を組み合わせる

対象文書の表示は,病院が患者と記録を特定でき,裁判所と相手方が必要性を検討できる内容にする。
次の表は,申立て前に情報を整理するための例であり,全国共通の必須様式を示すものではない。

確認する項目記載・確認の内容避けたい不明確さ
患者氏名・ふりがな・生年月日,必要に応じ住所・患者番号「本件原告」だけで病院に特定を委ねること
医療機関正確な名称・所在地,必要な場合は病院・診療所の区別同じ法人の別施設との取り違え
診療範囲対象となる傷病・事故,関係する診療科「全診療科」を無関係な病歴にまで拡張すること
資料種別診療録,看護記録,検査結果,紹介状,画像等「カルテ一式」だけで画像等も含まれると考えること
対象期間始期・終期,必要なら記録抽出時点「現在」の意味を関係者ごとに異ならせること

対象者や文書を別紙で特定する発想については,京都家庭裁判所の送付嘱託・調査嘱託の留意事項も参考になる。
同資料は家事事件についての同庁の案内であり,別紙をそのまま嘱託先へ送るため,氏名等によって対象を特定するよう求めている。
民事訴訟での様式・添付方法は,担当裁判所の案内を確認する。

2 診療録等と画像を分け,他院作成資料の扱いも明らかにする

文書類としては,診療録,診療経過,退院時要約,手術記録,看護記録,リハビリテーション記録,検査結果,処方の記録及び診療情報提供書などから,争点に関係するものを選ぶ。
画像については,X線・CT・MRI等の検査種類,撮影部位,撮影日又は対象期間を整理し,読影報告書と画像データを別々に指定することが考えられる。
読影報告書が届いたことだけで,画像データ自体も揃ったとは判断しない。

また,その病院が作成した資料と,他院から受領して保管している資料は区別する。
他院の紹介状や持参画像も必要であれば,保有の有無と必要性を確認した上で対象に明示する。
その病院の作成文書だけを求める表示を,後から他院作成資料まで含むものとして読まない。

3 対象期間と全診療科の必要性を説明する

事故前の記録が必要な場合には,既往症の有無や症状の比較など,事故前のどの時点まで調べる必要があるかを説明する。
事故後についても,争点となる期間と診療内容に合わせて範囲を定める。
全診療科を対象とする場合は,複数科の診療経過を確認する必要性を示し,対象となる傷病・診療との関係が失われないようにする。

終期を「現在まで」と表現する場合には,少なくとも回収時に,病院がどの時点まで抽出したかと,収録された最後の診療日を確認するのが有用である。
抽出日が新しくても最終受診日がそれ以前であることはあり,両者の違いだけで欠落と判断してはならない。
一度の回答によって,その後の診療記録が自動的に追加され続けることも予定しない。

4 対象文書の表示を作る際の整理例

例えば,対象を絞った申立てを検討する際には,次の項目を別紙案として整理できる。
これは記載事項を検討するための例であり,そのまま提出できる裁判所の公式書式ではない。

①対象患者:氏名,ふりがな,生年月日及び必要な識別情報。
②診療の範囲:対象となる傷病・事故と,関係する診療科。
③期間:令和○年○月○日から令和○年○月○日まで。
④文書類:上記診療に関して作成され,現に保有されている診療録,看護記録,検査結果等のうち必要な種類。
⑤他院資料:上記診療に関して受領・保管している紹介状又は画像等も必要な場合は,その範囲。
⑥画像:必要な検査種類,部位,撮影日・期間及び対応する読影報告書。

申立書側では,以上の各資料によって証明する具体的事実と,既存資料だけでは足りない理由を対応させる。
費用,送付媒体,返還の要否及び不保有の場合の回答方法については,担当書記官と確認し,嘱託書に付される案内との整合を取る。

第3 患者同意と医師の黙秘義務

1 個人情報保護法上の第三者提供の例外

個人情報保護法27条1項1号は,個人データの第三者提供について,法令に基づく場合を本人同意の原則の例外としている。
個人情報保護委員会のQ&A・Q1-63は,その例として,民事訴訟法186条・226条による裁判所からの文書送付や調査の嘱託への対応を挙げている。
したがって,裁判所の送付嘱託への対応について,患者の同意書がないことだけから同法上第三者提供が禁止されるとはいえない。

もっとも,この例外は,個人情報保護法上の第三者提供の制限に関する説明である。
どの記録について文書提出義務があるか,医師の黙秘義務が免除されているか,訴訟で取り調べる必要があるかは,別に検討しなければならない。
同意書が不要となり得ることから,無関係な全病歴の提出まで当然に義務付けられるという結論は導かれない。

2 同意の内容と提出を拒む理由を確認する

民事訴訟法220条4号ハは,同法197条1項2号の事実又は同項3号の事項で,黙秘義務が免除されていないものが記載された文書を,一般的な文書提出義務の例外としている。
医師が職務上知り得た患者の秘密が問題となるときは,個人情報保護法だけで処理を終えず,この規定との関係を検討する。

患者側で同意書を用意する場合は,医療機関,対象記録,期間,提供先及び利用目的を明らかにして,患者の意思を確認することが実務上有用である。
保険会社の調査についての同意と,裁判所への医療記録の送付についての同意を,文面の確認なく同じものとして扱わない。
また,患者が送付に同意することと,記載内容の正確性や相手方の主張を認めることも区別する。

行政機関が保有する医師の意見書について,作成医師への同意確認を定めた資料もある。
その資料が対象とする機関・文書・時点を確認し,病院に対する送付嘱託一般の法定要件へ置き換えない。
この点は,厚生労働省労働基準局の,文書送付嘱託に対する対応(要旨)も参照されたい。

3 名古屋高裁平成25年5月27日決定の射程

名古屋高裁平成25年5月27日決定・平成24年(ラ)第267号は,医療機関に対する文書提出命令の申立てについて,原決定を取り消して差し戻した事例である。
同決定は,医師作成の診療録とそれ以外の医療記録を分け,診療録については患者が陳述書等で自ら開示した傷病名・症状・経過の限度で黙秘義務の免除を認め,提出義務と証拠調べの必要性を検討すべきものとした(裁判所公開PDF6頁~9頁)。

損害賠償請求をしたことだけで全病歴の秘密が放棄されると判断したものでも,送付嘱託に無限定の強制力を認めたものでもない。
同決定における診療録以外の医療記録についての判断も,あらゆる医療記録に他の提出拒絶事由がないことを保証するものとして一般化すべきではない。
個別の記録の作成者・内容,訴訟上既に開示された範囲及び立証上の必要性に即して利用する必要がある。

同決定は,判例秘書に判例番号L06820325として収録され,掲載誌欄は「LLI/DB 判例秘書登載」である。
平成25年5月28日から令和8年9月10日までを対象に,診療録,黙秘義務,民事訴訟法220条4号ハ・197条1項2号等を組み合わせて検索した限り,同決定を直接引用し,又は同じ判断を診療録に適用した後続裁判例は確認できなかった。
ただし,この結果は判例秘書の収録範囲と検索式に限られ,後続裁判例の不存在を示すものではない。

関連する新しい裁判例として,東京地裁令和6年7月17日判決・令和5年(ワ)第25097号(判例秘書L07931898,裁判所HP未掲載)がある。
同判決は,個人情報保護法33条2項が,開示請求時に存在する保有個人データをあるがまま開示する義務を定めるにとどまり,情報を編集し,又は本人の希望する様式に合わせる義務を定めるものではないとした。
また,患者が別訴で裁判所に送付嘱託を申し立てたことだけでは,医療機関への直接の診療記録開示請求とはいえないとした。
この判決は名古屋高裁決定の後続判例ではないが,本人開示と送付嘱託を別の取得経路として管理すべきことを示している。

第4 送付に応じてもらえない場合

1 未回答・不保有・一部送付・提出拒否を分ける

回答がない場合には,まず嘱託先への到達,担当部署への引継ぎ,対象患者の特定,費用の案内及び作成作業の進行状況を,担当書記官を通じるなどして確認する。
まだ抽出作業中である場合と,資料を保有していない場合と,秘密を理由に送付を拒んでいる場合では,必要な対応が異なる。
到着希望日は進行管理上の目安として確認し,その記載だけを一律の法定回答期間や制裁の根拠としない。

一部しか届かなかったときは,求めた資料との対照表を作り,不足が疑われる種類・期間を具体的に示す。
不保有の場合には,未作成,保存されていない,別施設が保有している,検索条件では見つからなかったなど,確認できる理由を整理する。
記録が存在しないことと,診療行為や症状が存在しなかったことは直ちに同じ意味にはならない。

2 提出命令を検討する際の整理

任意の送付で必要な資料を得られない場合には,文書提出命令の要件を検討する。
民事訴訟法221条1項に従い,文書の表示,文書の趣旨,所持者,証明すべき事実及び提出義務の原因を明らかにする必要がある。
同法220条4号を提出義務の原因とするときは,同法221条2項の必要性の要件にも注意する。

同法223条1項は,不必要な部分又は提出義務を認められない部分を除く提出命令を認め,同条2項は第三者への提出命令に先立つ審尋を定めている。
拒否回答を受けたというだけで申立てが当然に認められるわけではなく,秘密に関する主張,既存証拠で代替できるか,対象を限定できるかを検討する必要がある。
新法適用事件の電磁的記録については,同法231条の3の準用・読替えを踏まえ,電磁的記録提出命令として整理する。

第5 カルテ・画像の回収確認

1 送付されたことと必要な資料が揃ったことを分ける

回収確認では,嘱託先ごとに,少なくとも次の段階を分けて管理するとよい。
嘱託書の存在だけで発送・到達を認定せず,送り状に「一式」とあっても収録内容を確認する。

段階確認する事項
申立て・採用対象の種類・期間と裁判所が採用した範囲
発送・到達嘱託先,発送・到達の確認結果,別紙・別添の有無
回答受領回答日,送り状,文書の頁数・媒体数,一部不送付の説明
内容照合患者,診療科,収録期間,資料種別,画像の検査種類・撮影日
証拠利用号証,立証趣旨,提出範囲,元資料との対応及び取調べの状況

嘱託書,対象文書を記載した別紙,実際に添付された案内,病院の回答・送り状は,診療記録と対応付けて残す。
別添案内を確認できないときは,費用,送付先又は返還条件を本文から推測で補わず,担当書記官等に確認する。
裁判所からの取得手続は,民事事件記録の閲覧・謄写手続で説明している。

2 CD-Rを受け取った後の確認

CD-Rという表示は記録媒体を示すものであり,特定の画像形式,閲覧ソフトの付属又は全検査の収録を当然に保証するものではない。
診断上の情報を保つ必要があるときは,DICOM形式の元データとDICOMDIRの有無を確認し,撮影日,モダリティ,撮影部位,検査,シリーズ及び画像数を照合する。

DICOM標準PS3.10では,一つのDICOMファイルに一つのSOPインスタンスが収録され,各ファイルセットにはDICOMDIRが置かれる。
ただし,ディレクトリ内容を空にできる場合もあるため,DICOMDIRの存在又は付属ビューアで一部画像が開くことだけで,必要な画像が全部収録されているとは判断できない。

受領時には,媒体数,ファイル数,総バイト数,検査日,モダリティ,撮影部位,StudyInstanceUID,SeriesInstanceUID,各シリーズのインスタンス数及び読影報告書の有無を一覧にする。
媒体又はファイル単位のハッシュ値を記録し,受領時の保存用複製と,裁判所提出用に変換・抜粋する作業用複製を分ける。

最高裁判所細則が電磁的記録の通常形式として挙げるのは,PDF,JPEG,PNG,MP4及びMP3である。
DICOMは列挙されていないため,元データを保存した上で,裁判所で閲覧できる形式への変換又は元形式を記録した媒体による提出を担当書記官と調整する。
変換画像だけを残し,診断情報を含む元データを上書きしない。

画像を選択して提出する場合には,どの検査・画像を選んだかを追跡できるようにする。
この作業は資料管理のための確認であり,画像の医学的評価や因果関係の判断は,必要に応じて医師の読影・意見と組み合わせて行う。

3 費用を三つに分ける

費用は,①患者本人の開示請求に対する病院の手数料,②裁判所の送付嘱託に対する病院の複写・媒体・送料等,③裁判所記録の閲覧・複写費用に分ける。
個人情報保護法38条と厚生労働省の開示手数料に関する通知は,本人開示の手数料を実費を勘案した合理的な範囲とするが,全国一律の金額を定めていない。

公開料金の例では,大阪公立大学医学部附属病院は放射線画像CD-Rを1枚1100円,東北大学病院は画像CD-Rを1枚1650円としている。
これは各病院の本人開示料金であり,送付嘱託の全国共通料金ではない。
嘱託対応費は,支払者,紙の枚数単価,媒体単価,送料,前払・後払及び一定額を超える場合の連絡方法を,担当書記官と病院に確認する。

4 返還対象を区別する

民事訴訟法227条は,裁判所が必要と認めるときに送付文書を留め置くことができると定める。
返還の扱いは,紙の原本,病院が作成した複製物又は画像CD-R,電磁的記録のシステム送付で異なる。

嘱託書の別添案内と担当書記官の指示により,裁判所が留置するのか,申立人へ交付するのか,取調べ後に病院へ返還するのかを確認する。
管理表には,受領日,媒体・原本・複製物の別,裁判所留置又は申立人交付の別,複写・取込み日,証拠提出日,返還先・返還日及び返還不要の根拠を記録する。

第6 令和8年改正とmintsによる証拠提出

1 新旧法と紙・電磁的記録を区別する

裁判所の民事裁判手続デジタル化の案内及び民事訴訟フェーズ3に向けた準備の手引42頁~43頁は,新旧法の適用を訴え提起の時期等に応じて区別する。
令和8年5月21日以後に作成された嘱託書であっても,作成日だけでその事件が新法適用事件であるとは判断しない。
令和8年5月20日以前に提起された事件の経過措置も確認する。

ただし,旧法適用事件では改正後の規定が全て適用されないという意味ではない。
前記手引43頁は,電磁的記録に記録された情報の内容に係る証拠調べ(民事訴訟法231条の2)についても,記録媒体による提出に限り,施行前から係属する事件に適用されると説明している。
旧法事件で媒体による証拠提出をする場面と,新法事件でmintsを用いる場面を区別する必要がある。

新法適用事件では,民事訴訟法231条の2が電磁的記録に記録された情報の内容に係る証拠調べを定め,同法231条の3第1項が226条を準用している。
同条2項は,準用される嘱託に係る電磁的記録の送付について,記録媒体又は所定の電子情報処理組織による方法を定める。
また,民事訴訟規則143条3項は,紙の文書の送付についても,当事者に異議がないときに所定の電子情報処理組織を使用して画像情報を送付できる場合を定めている。
病院からの送付と,当事者によるその後の証拠提出の方法は,区別して確認する必要がある。

2 所定形式に変換できないデータと証拠説明書

最高裁事務総局の前記手引26頁は,mintsにアップロードする電磁的記録の複製について,PDF,MP3,MP4,JPEG及びPNGを挙げ,これらの形式に変換できないものは,複製を記録したCD-R等の媒体で提出すると説明している。
医療機関から受領した画像等についても,媒体名だけで提出方法を決めず,実際の収録形式と必要な情報を確認し,担当裁判所と提出方法を調整する。
データの「記録外」へのアップロードだけで証拠提出を終えたことにしない。

前記手引27頁~29頁の証拠説明書の考え方を踏まえ,元の記録の作成者・作成日と,複製日・受領日・変換日を区別する。
多数日の記録をまとめたものはその対象期間を明らかにし,立証趣旨に対応する頁・箇所を示す。
嘱託に対する回答が届いた後も,採用範囲,号証,書証又は電磁的記録の取調べ方法,相手方への直送及び取調べの状況を確認する。
具体的な記載方法は,mintsの証拠説明書の作り方・提出方法を参照されたい。

第7 取得後の秘密保護と実務上の確認順序

医療記録を訴訟へ提出する場合は,争点に関係する範囲を示すことと,関係のない秘密や第三者の情報への配慮を両立させる必要がある。
必要な記載を独断で削除して意味を変えることは避け,抜粋・マスキングをする場合は,対象と理由,元資料との対応を明確にして扱いを確認する。

民事訴訟法92条1項1号は,私生活上の重大な秘密と,第三者による閲覧等で社会生活に著しい支障が生ずるおそれについて疎明がある場合に,秘密記載部分の閲覧等を請求できる者を当事者に限る決定を認めている。
医療記録であるというだけで自動的に制限されるものではなく,また,同条による第三者への閲覧等制限は,相手方当事者から証拠を隠す制度でもない。
前記の記録閲覧・謄写の記事と併せて,必要な申立てを検討する。

最後に,確認の順序は,①争点と不足資料,②対象患者・医療機関・種類・期間,③同意・秘密・取得手段,④送付条件,⑤回収内容,⑥不足への対応,⑦証拠提出と秘密保護,の順に整理するとよい。
各段階の確認結果を残しておくことで,追加の嘱託が必要なのか,提出命令を検討すべきなのか,既存資料の整理で足りるのかを判断しやすくなる。

第8 出典

e-Gov法令検索「民事訴訟法」186条,197条,219条~227条,231条の2,231条の3及び92条(令和8年9月10日現在)。
e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」27条,33条,37条~39条,58条及び125条(令和8年9月10日現在)。
最高裁判所「民事訴訟規則」137条,143条,147条及び149条の2~149条の4(PDF39頁~41頁)。
個人情報保護委員会「個人情報保護法ガイドラインに関するQ&A」Q1-63(当該回答は令和7年6月更新)。
個人情報保護委員会「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」
名古屋高裁平成25年5月27日決定・平成24年(ラ)第267号。裁判所公開全文9頁,特に6頁~9頁。判例秘書L06820325。
⑦東京地裁令和6年7月17日判決・令和5年(ワ)第25097号,判例秘書L07931898(裁判所HP未掲載)。
最高裁判所事務総局民事局「民事訴訟フェーズ3に向けた準備の手引」(令和8年6月19日更新)24頁~29頁,42頁~43頁。
最高裁判所「民事訴訟規則等の規定による民事訴訟手続等における申立て等に関する細則」4条・5条。
DICOM標準PS3.10
厚生労働省「診療情報の提供等に関する指針について(周知)」及び「医療機関における開示手数料の算定に係る推奨手続について」
大阪公立大学医学部附属病院「カルテ開示」及び東北大学病院「診療記録(カルテ)の開示手続きについて」
裁判所「民事裁判手続のデジタル化」
京都家庭裁判所「送付嘱託及び調査嘱託の申立てについて(留意事項)」。家事事件についての同庁の案内として参照。

名古屋高裁平成25年5月27日決定は,判例秘書L06820325として収録され,掲載誌欄は「LLI/DB 判例秘書登載」である。
令和8年9月10日までを複数の語・法条で検索した限り,同決定の医療記録に関する判断を直接引用・踏襲した後続裁判例は確認できなかったが,これは判例秘書の収録範囲と検索式に基づく結果である。
各病院・裁判所の具体的な費用,媒体の受渡方法及び返還運用は,利用時点の案内で確認する必要がある。