メインコンテンツへスキップ
       

イタリアの弁護士費用保険-補償範囲・弁護士選択・訴訟管理(AI作成)

第1 対象と結論

1 調査報告と本記事の範囲

日本弁護士連合会の第24回弁護士業務改革シンポジウムは,令和8年9月5日に開催された。
第4分科会の配布資料には,令和7年9月8日から同月12日までに実施されたミラノ及びローマの調査をまとめた「イタリア調査報告―イタリアの弁護士費用保険の現況について」が収録されている。
本記事は,この調査報告を出発点としつつ,令和8年9月6日現在のEU指令,イタリアの法令,破毀院及びEU司法裁判所の公表資料と照合して,制度の骨格を整理するものであり,AIを用いて作成した。

配布資料は,現地訪問で得られた実務情報を含む点で有用である一方,法令の要約には原文と一致しない箇所がある。
そこで,本記事では,法令又は裁判例に関する記述は一次資料を優先し,保険会社の運用に関する記述は配布資料に記載された訪問調査の結果として区別して扱う。

2 法的費用保険と賠償責任保険の防御費用は別である

イタリア法を読む際には,法的費用保険と,賠償責任保険に付随する防御費用とを最初に分ける必要がある。
両者はいずれも弁護士費用に関係するが,根拠条文,保護する利益及び限度額の考え方が異なる。

区分主な根拠基本的な機能
法的費用保険EU指令2009/138/EC第198条以下,イタリア民間保険法第173条以下被保険者が権利を主張し,又は防御するための法的費用等を保険者が負担し,又は法的サービスを提供する。
賠償責任保険の防御費用イタリア民法第1917条第3項第三者の損害賠償請求に対抗するため,被保険者が負担した費用を一定の範囲で保険者が負担する。

法的費用保険では,弁護士を選ぶ権利と,保険金請求を誰が管理するかが中心的な論点になる。
これに対し,賠償責任保険では,第三者請求への防御費用,敗訴者負担の訴訟費用及び保険者との訴訟費用を混同しないことが実務上重要である。

第2 イタリア法上の法的費用保険

1 民間保険法第173条の定義

イタリア民間保険法第173条は,法的費用保険を,保険料の支払と引換えに,司法手続又は裁判外手続において,被保険者の利益を確保するために必要な法的費用若しくは鑑定費用を負担し,又はその他のサービスを提供する契約として定めている。
具体的には,損害賠償請求を行う場面と,民事,刑事又は行政上の請求若しくは非難から防御する場面が含まれる。

この定義から分かるのは,法的費用保険が単なる弁護士報酬の立替制度ではないことである。
裁判外の交渉,専門家費用及び権利保護のためのサービスも,契約内容に応じて対象となり得る。

2 他の保険と組み合わせる場合の別建て

民間保険法第173条第2項は,法的費用の保障を他の保険と組み合わせる場合,保険証券の独立した部分に,保障内容,条件及び対応する保険料を記載するよう求めている。
これは,EU指令2009/138/EC第199条に対応する。

したがって,自動車保険等に法的費用保障が付帯している場合でも,賠償責任保障と法的費用保障を一体のものとして読んではならない。
保険証券では,対象となる紛争,免責事由,保険金額,自己負担,通知義務及び弁護士費用の算定方法を,法的費用保障の条項ごとに確認する必要がある。

3 保険金請求管理の三つの方式

民間保険法第164条は,法的費用保険に固有の利益相反を抑えるため,保険者が採用する管理方式を三つ示している。
その要旨は,①担当者を他部門から分離して保険者自身が管理する方式,②法的に別個の事業体に管理を委ねる方式,③保険事故が発生した時から,被保険者が弁護士その他の有資格者に自己の利益の防御を委ねることができる方式である。

ここでいう管理方式は,保険者の内部統制に関する仕組みである。
後述する司法手続等における弁護士選択の権利とは関係するものの,同じ制度ではないため,契約を検討するときは両者を別々に確認する必要がある。

第3 弁護士選択の自由

1 EU指令第201条と民間保険法第174条

EU指令2009/138/EC第201条は,司法手続又は行政手続で被保険者の利益を防御し,代理し,又はこれに奉仕するため弁護士その他の有資格者を用いる場合,被保険者がその者を自由に選択できることを契約で定めるよう求めている。
利益相反が生じた場合にも,同じ選択の自由が保障される。

イタリアでは,民間保険法第174条第1項がこの原則を国内法化している。
同条第2項は,保険者との管理方針に争いがある場合,裁判所に訴えることができるほか,契約に明記されていれば衡平による仲裁人に付託できるものとしている。

2 道路車両に関する例外

EU指令第202条及び民間保険法第174条第3項の例外は,単に自動車保険であれば適用されるというものではない。
イタリア法上,①イタリア国内における道路車両の使用から生じる紛争だけを対象とし,②同一車両の事故又は故障に関するアシスタンス契約に結び付き,③法的費用保険者とアシスタンス保険者のいずれも賠償責任保険を引き受けていないことが,累積して必要である。

この場合も,被保険者が第174条第1項の選択権を行使すること自体は妨げられないが,契約条件に同じ権利を明記することは不要とされる。
さらに,紛争当事者双方が同じ保険者の法的費用保険に加入している場合には,独立した弁護士が両者を補佐しなければならない。

配布資料22頁の日本語訳は,この例外を自動車賠償責任保険だけに関するもののように読める。
しかし,公式条文は,道路車両の使用から生じる紛争を対象とする保険について,上記の三条件を定めたものである。

3 弁護士選択と全額補償は同じではない

EU司法裁判所平成23年5月26日判決・Stark事件(C-293/10,ECLI:EU:C:2011:355)は,弁護士選択の自由があることと,選択した弁護士の費用が常に全額補償されることとは別問題であるとした。
費用の限度を設けること自体は許され得るが,その限度が低すぎて選択の自由を実質的に意味のないものにしてはならない。

EU司法裁判所平成25年11月7日判決・Sneller事件(C-442/12,ECLI:EU:C:2013:717)は,外部弁護士を必要とするかどうかを保険者だけが決め,保険者が必要と判断した場合に限って外部弁護士費用を補償するという制限を認めなかった。
したがって,契約審査では,名目上の選択権だけでなく,外部弁護士費用の上限,免責額,地域別報酬基準及び保険者の事前承認条項が,選択権を実際に行使できる内容かを確認する必要がある。

第4 賠償責任保険の防御費用

1 民法第1917条第3項の上限

イタリア民法第1917条第3項は,第三者が被保険者に提起した訴えに対抗するために支出した費用を,保険金額の4分の1を限度として保険者の負担とする。
支払うべき損害額が保険金額を超える場合には,防御費用は,保険金額と損害額との割合に応じて被保険者と保険者に配分される。

配布資料6頁及び7頁には,上限を「弁護士費用の4分の1」とする記載がある。
しかし,同資料13頁及び15頁と公式条文が示す基準は,弁護士費用ではなく保険金額の4分の1である。

2 訴訟費用を三つに分ける

イタリア破毀院第3民事部令和6年2月16日決定第4275号は,賠償責任保険に関する訴訟費用を三つに区別し,それぞれについて請求原因を明示した個別の請求が必要であるとした。
その三つは,①保険者を訴訟に参加させるための費用,②民法第1917条第3項に基づく第三者請求への防御費用,③同条第1項に基づき,被保険者が勝訴した第三者へ支払う敗訴者負担の訴訟費用である。

この区別は,保険金請求の構成だけでなく,証拠の収集にも直結する。
委任契約,請求書,支払証憑,訴訟行為と費用の対応関係及び第三者請求への防御に必要であった理由を,費用の種類ごとに残す必要がある。

3 保険者指定外の弁護士費用

イタリア破毀院第3民事部令和4年7月5日判決第21220号について,破毀院の令和4年民事判例概観は,保険者が指定しなかった弁護士又は技術専門家の費用を一律に償還しないとする賠償責任保険の条項は,民法第1917条第3項より被保険者に不利であり,同法第1932条により無効であると整理している。
もっとも,償還を求めるには,費用を実際に支出したことを立証する必要があり,軽率に支出された費用まで当然に償還されるものではない。

この判例は,法的費用保険における弁護士選択の自由を直接判断したものではなく,賠償責任保険の防御費用に関するものである。
同じ「保険者指定外の弁護士」という表現が現れても,どの保険契約と条文が問題になっているかを確認しなければならない。

第5 市場と報酬基準

1 令和6年の市場規模と個人向け比率

イタリア保険協会の「L’Assicurazione Italiana 2024-2025」によれば,令和6年の法的費用保険の保険料収入は5億7700万ユーロであり,個人向けが87%,企業向けが13%であった。
これは業界団体の統計であり,行政統計ではないが,イタリア市場の規模と個人向け契約の比重を把握する資料となる。

配布資料は,複数の法的費用保険会社への訪問を通じて,社内担当者による初期対応,外部弁護士のネットワーク,費用管理及び弁護士との協働を報告している。
ただし,各社の処理件数,弁護士数,時間単価その他の内部数値については,本記事の調査では各社の一次資料による独立確認ができなかったため,制度全体の確定的な数値としては用いない。

2 弁護士報酬基準の令和4年改訂

配布資料8頁は,弁護士報酬基準を定める省令第55号が令和5年に改正されたとする。
しかし,イタリア官報で確認できる改正省令は,令和4年8月13日省令第147号であり,同年10月23日に施行された。

同改正で追加された第22条の2は,時間制報酬を合意する場合の参考基準を,1時間又は30分を超える端数につき200ユーロ以上500ユーロ以下としている。
これは一律の法定単価ではなく,依頼者と弁護士が時間制報酬を合意する場面の基準であるため,個別の保険会社が採用する単価と同一視してはならない。

第6 日本の制度と比較するときの視点

1 EU法上の権利を日本法へ直接移さない

EU指令とイタリア民間保険法が定める弁護士選択の自由は,日本の保険契約に直接適用されるものではない。
日本で弁護士費用保険を検討するときは,保険約款,弁護士委任契約,日本弁護士連合会の協定制度及び日本法上の解釈を基礎とする必要がある。

もっとも,①誰が弁護士を選ぶか,②誰が訴訟方針を管理するか,③どの範囲の費用を保険者が償還するかを分けて考える方法は,日本の契約を読む場合にも有用である。
弁護士に対する報酬債務と,保険者に対する保険金請求権も別の法律関係であるから,保険金が支払われない場合に当然に弁護士報酬が消滅するわけではない。

2 契約確認の順序

イタリアの法的費用保険を具体的に利用する場合,まず保険証券で,対象となる紛争,保険期間,待機期間,地域的範囲,免責事由,保険金額及び自己負担を確認する必要がある。
次に,事故又は紛争の通知時期,保険者の事前承認が必要な行為,弁護士選択の方法,報酬上限及び保険者との意見不一致を解決する手続を確認する。

本記事は制度の概要を示すものであり,特定の保険契約について補償の有無を判断するものではない。
実際の請求では,事故発生日,紛争発生日,通知日,弁護士選任日及び費用支払日を時系列で整理し,適用される契約条件と法令を個別に確認する必要がある。

3 関連記事

日本における制度の全体像,LACの協定制度及び現在の課題については,弁護士費用保険の仕組み,利用状況及び課題を参照されたい。
自動車保険の弁護士費用特約については,弁護士費用特約に整理している。
また,本資料が配布されたシンポジウムの構成及び資料一覧は,第24回弁護士業務改革シンポジウムに掲載している。

第7 出典

1 法令及びEU指令

IVASS「Codice delle assicurazioni private」第164条,第173条及び第174条(令和8年6月19日までの改正を反映した統合版)
EU指令2009/138/EC第198条から第204条まで(令和7年1月17日統合版)
イタリア民法第1917条及び同法第1932条
イタリア令和4年8月13日省令第147号及び同省令による省令第55号第22条の2

2 裁判例

EU司法裁判所平成23年5月26日判決・Stark事件(C-293/10,ECLI:EU:C:2011:355)
EU司法裁判所平成25年11月7日判決・Sneller事件(C-442/12,ECLI:EU:C:2013:717)
③ イタリア破毀院第3民事部令和4年7月5日判決第21220号(破毀院「令和4年民事判例概観」)
④ イタリア破毀院第3民事部令和6年2月16日決定第4275号(破毀院「令和6年2月民事判例月報」)

3 統計及び調査報告

① イタリア保険協会「L’Assicurazione Italiana 2024-2025」349頁
② 日本弁護士連合会第24回弁護士業務改革シンポジウム第4分科会配布資料「イタリア調査報告―イタリアの弁護士費用保険の現況について」5頁~25頁