目次
第1 総論
1 一連の経緯に関する国会答弁
2 問題となった司法研修所教官等のその後
第2 問題となった司法研修所事務局長及び司法研修所教官3人の言動
1 総論
2 8期の川嵜義徳司法研修所事務局長の言動
3 14期の中山善房司法研修所刑事裁判教官の言動
4 3期の山本茂司法研修所刑事裁判教官の言動
5 10期の大石忠生司法研修所民事裁判教官の言動
第3 本人の弁明の評価に関する最高裁判所人事局長の国会答弁
1 昭和51年7月14日の国会答弁
2 昭和51年8月4日の国会答弁
3 昭和51年10月14日の国会答弁
第4 日弁連特別委員会の報告書の結論
第5 司法研修所事務局長及び司法研修所教官3人に対する処分内容に関する国会答弁
第6 女性裁判官の採用に関する昭和時代の国会答弁
1 昭和27年5月17日の国会答弁
2 昭和45年3月20日の国会答弁
3 昭和46年7月24日の国会答弁
4 昭和47年5月12日の国会答弁
5 昭和51年8月4日の国会答弁
第7 裁判所の好まない人物像等
1 最高裁の好まない人物像
2 司法修習生向けの文書の記載
3 最高裁平成27年2月26日判決の判示内容
4 27期の鬼丸かおる 元最高裁判所判事の体験談
第8 関連記事その他
第1 総論
1 一連の経緯に関する国会答弁
(1) 3期の勝見嘉美最高裁判所人事局長は,昭和51年の30期司法修習で発生した,女性司法修習生に対する司法研修所裁判教官等の差別発言問題の一連の経緯に関して,昭和51年10月14日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています。
ことしの七月十二日に、女性弁護士の方六十一名が司法研修所にお見えになりまして、司法研修所所長に対しまして質問状と題する書物を提出されたわけでございます。
翌々の七月十四日に、先ほど御指摘の衆議院の法務委員会がございまして、その際に、私の前任者であります矢口局長から、指摘されました四名の教官及び事務局長の報告書ないしてんまつ書を法務委員会に御報告申し上げた次第であります。
その後七月二十日に、ちょうど第三十期の前期の修了式がございまして、研修所の所長からあいさつがありましたが、その中でこの問題に言及いたしまして、司法教育において女性差別は全くなかったし、今後もないことを明らかにするとともに、教官との信頼関係こそが修習の基礎であるという趣旨のことをそのあいさつの中に述べているわけでございます。その点につきましても、衆議院の法務委員会で御報告申し上げたとおりでございます。
その後、八月四日に、やはり衆議院の法務委員会が開かれまして、私からその後の事情につきましてお答え申し上げております。
飛びまして九月の十四日に、先ほど御指摘の四名のうち、山本茂教官それから川寄義徳事務局長に対しまして、書面をもって厳重注意という措置をいたしまして、中山善房教官及び大石教官に対しましては不問に付するということに決めまして、司法研修所所長から山本教官及び川寄事務局長に対して注意書を交付したわけでございます。
その後、九月三十日に、日弁連から司法研修所所長に対して要望書が提出されております。
なお、同日付をもちまして、最高裁の事務総長に対しましても日弁連から研修所所長に対して要望書を提出した旨の御報告がございました。
大体以上のような経過でございます。
(2) 「指摘されました四名の教官及び事務局長」というのは,8期の川崎義徳司法研修所事務局長,14期の中山善房司法研修所刑事裁判教官,3期の山本茂司法研修所刑事裁判教官,及び10期の大石忠生司法研修所民事裁判教官です。
(3) 最高裁判所人事局長につき,昭和51年7月15日までは高輪1期の矢口洪一裁判官であり,翌日以降は3期の勝見嘉美裁判官です。
2 問題となった司法研修所教官等のその後
(1) 不問にされた2名の司法研修所教官のほか,8期の川崎義徳司法研修所事務局長及び3期の山本茂司法研修所刑事裁判教官は昭和51年9月14日付で厳重注意を受けた後も更迭されることはありませんでした。
(2) 8期の川嵜義徳裁判官は東京高裁長官を最後に定年退官しました。
第2 問題となった司法研修所事務局長及び司法研修所教官3人の言動
1 総論
(1)ア 以下の項目における「本人の弁明」というのは,高輪1期の矢口洪一最高裁判所人事局長が昭和51年7月14日の衆議院法務委員会で朗読した,司法研修所長宛の本人作成の報告書の記載です。
イ 「日弁連の事実認定」というのは,昭和51年8月20日付の「三〇期女性修習生問題について(報告)」(日弁連女性の権利に関する特別委員会三〇期女性修習生問題調査小委員会が作成したもの)(昭和52年7月発行の「最近の司法研修所の実態と問題点」(大阪弁護士会)に掲載されています。)に記載されている事実関係です。
また,文中の「質問状」というのは,10人の女性弁護士が司法研修所を訪問して8期の川嵜義徳司法研修所事務局長と面談した上で提出した,昭和51年7月12日付の公開質問書のことであって,日弁連の事実認定と同趣旨の記載があると思われます。
(2) 司法研修所は,昭和51年8月12日付の文書により,日弁連の調査には協力しないと回答しました。
2 8期の川嵜義徳司法研修所事務局長の言動
(1) 日弁連の事実認定
川嵜義徳事務局長は昭和五一年五月二十八日、司法研修所一組の公式旅行である見学旅行の夜の懇親会のあと、引き続いて行われた二次会の席上において、午前〇時三十分頃男子修習生住人前後を前にして「男が生命をかけている司法界に女を入れることは許さない」との発言、および「女が裁判をするのは適さない」との趣旨の女性に対する差別的発言を行った。さらに同人は右発言に対する反論として「自分は任官志望であるが、女性でも裁判をするのは十分可能だしそういう偏見をもってはおかしい」と発言した男子修習生に対し「そういう考えをもつ奴はいじめてやる」との趣旨の発言を行った。
(2) 本人の弁明
小職は、去る五月二八日、三〇期一組の修習生の見学旅行に同行し、修習生と共に稲取保養所に宿泊しました。当夜は、参加者全員の懇親会が催され、この会は、午後八時過ぎに終了しました。懇親会終了後、修習生は、二次会組とマージャン組に別れたようですが、小職は、修習生の幹事役にさそわれ、二次会に参加しました。この席には、弁護教官も同席され、歌あり、踊りあり、議論ありで、きわめてにぎやかでありました。
質問状にある「男が生命をかける司法界に女が進出するのは許せない。」という発言は、このとおりの表現であったとは思いませんが、この席での出来事であります。小職は、実務修習中の修習生を預っていた頃から、修習生に対し、司法部に入る以上、命をかける気概が必要であると常々話しておりましたので、同じようなことをこの席でも男性修習生(当時女子の修習生は同席していません。)に話したと記憶しています。
その際、男の気概というか心意気といったものを強調する余り女性を引合いに出したように記憶していますが、このような話方は穏当でなかったと反省し、ここに遺憾の意を表する次第です。
なお、質問状にある「その修習生の氏名を、言葉を荒げて問いただし、同人に裁判官職に進む意図があるのか否かをきびしく問い尋ね」と「そういう考えをもつ修習生は、いじめてやる。」という発言は、全く記憶にないことを付言します。
3 14期の中山善房司法研修所刑事裁判教官の言動
(1) 日弁連の事実認定
中山善房刑事裁判教官(四組)は、昭和五一年四月二七日、同人の担当する三〇期四組のクラス懇親会の席上、同じテーブルについた一人の女子修習生に対して「あなたも二年間は最高裁からお金を貰っていいけれど、二年たって修習をおえたら、判検事や弁護士になろうなんて思わないで、修習で得た能力を家庭に入ってくさらせて子供のために使えば、ここにいる男の人よりもっと優秀な子供ができるでしょう」と断定的な口調で発言した。これに対してその女子修習生が「自分は司法研修所を卒業したら法曹の道を進むつもりだ」と述べたところ、中山教官は、「日本は、ますます悪くなるね」と答えた。
(2) 本人の弁明
質問状記載の発言内容は、その前後の言葉を欠くため、趣旨不明でありますが、記載された表現方法と同様の発言をした覚えはありません。とくにその文言中「くさらせる」とか、「のがよい」という表現は私の経験に照して従来意識的に用いたことのない表現方法であります。
問題となりました当日の状況は次のとおりであります。
当日、四月二七日(火)は恒例の司研ソフトボール大会が神宮外苑の野球場で催され、私の担当する四組は二回戦で敗退したため、午後三時過ぎごろ、教官、修習生総勢三十数名で青山通りのレストランへ行き、テーブルごとに座して、ビール・つまみ等を注文の上、試合内容を反省したり、いろいろ歓談いたしました。(費用は教官五名で負担)
その折、私の座ったテーブルでは、女性のこれは名前を特に申し上げないでおきますが、女性の修習生が選手として一時出場したことが話題となり、それに引続き女性修習生の修習終了後の活躍ぶりが話題となった際のことであります。
その際の私の発言内容は次のとおりであります。
女性の場合は華々しい目立つ活躍ぶりが話題となるけれども、目立たない活躍ぶりにも目を向ける必要がある。
修習を終了した後に家庭に入り、弁護士登録をしていない女性修習生の例を紹介した上、これは一見して国費の無駄のようであり、まことにもったいない話のようであるが、しかしそれで立派な家庭を築き、優秀な児を世に送り出すとすれば、それは、ひいては世の中全体を良くする原動力となるため、いうならば、世直しをするための堆肥としての役割を選んだのであって、国家百年の計からみて大変価値のある活躍ぶりというべきであり、このように目立たないが実に賢明な活躍にも目を向ける必要がある。
いま思うと、右の発言中「堆肥」という表現が「くさらせる」というふうに曲解されたのではないかと思われますが、いずれにしても質問状記載のごとき発言をした覚えはありません。以上でございます。
4 3期の山本茂司法研修所刑事裁判教官の言動
(1) 日弁連の事実認定
山本茂刑事裁判教官(一組)は、昭和五一年五月二八日、同人の担当する三〇期一組が司法研修所の公式日程として工場見学に行った際、その往路、東京・沼津間の列車内において、川嵜事務局長の同席のもとに、同クラスの女子修習生三名全員を一人ずつ順々、半ば強制的に自席ボックス内に呼んで自分の隣に坐らせ、それぞれに対して約三〇分くらいずつ話をした。その各人に対する話のなかから、各人に共通する特徴的な内容を要約引用すれば、つぎのとおりである。
(イ) Aに対して山本教官は「君が司法試験に合格して御両親はさぞ嘆いたでしょう」と言い、二七修習生で任官した女性の名前をあげて任官したため結婚もできずその母親から愚痴をこぼされたと話しをつづけ、それから女性が司法界に進出することについて否定的な発言を重ねたあと、「日本民族の伝統を継承して行くことは大切なことだと思いませんか。女性には家庭に入って子どもを育てるという役割がある」などと言った。さらに「研修所を出ても裁判官や弁護士などになることは考えないで、研修所にいる間はおとなしくしていて家庭に入って良い妻になるほうがいい」という趣旨の話を強調した。同席した川嵜事務局長は、Aの真向いの座席に坐って話を聞きながらAに対し「教官はこういうことまで教えてくれるからいいですね」と山本教官に同調する態度を示した。
(ロ) Bに対して山本教官は、「君は色々職業を変わったようだけど、勉強好きということかね」と言った。「結果的にそうなりましょうか」,とBが答えると「僕は勉強好きな女性は好きじゃない」と言った。Bは議論したくなかったので「一般に男の人は女を可愛いものにしておきたいという傾向がありますね」,と穏やかに返答すると、山本教官は一般的な問題ではないとの趣旨の発言をした。そこでBは、ではなぜなのかと反問したところ、山本教官は「勉強好きな女性は議論好きで理屈をいうので嫌いだ」と言い、その直後、「親御さんは司法試験に通って嘆かなかったかね」と言った。
(ハ) Cに対しては、まず川嵜事務局長が、こういうときでないと機会がないので一人一人から話を聞いている、と話を切り出した。つづいて山本教官は「君が司法試験を受けるとき御両親は反対しなかったのか」とか、さらに「司法試験に受かったらお嫁に行けなくなることもあるのに、受かったとき御両親は嘆いたのではないか」「結婚する気はあるのか」と言った。さらにまた、「なぜ司法試験を受けたのか」「司法試験以外にも職業はあったのではないか」などといった。Cはこれらの発言に対しその都度答えて、受験に親の反対はなかったこと、合格したとき両親とも喜んでくれたこと、女性も職業をもって生きることが良いという両親の考えのもとで育てられたことなどを述べた。すると山本教官は「君の親はどういう躾をしているのか」と言った。
(2) 本人の弁明
旅行車中で、最初当職と男子修習生が並んで着席していましたが、途中でその修習生が他の席に移りその席が空席となったのを機会に、話し相手としてすぐ後の席にいた女子修習生を招いて雑談を交すこととなり、一人約三〇分位の割合で話をしました。女子修習生と話を交す機会が少いので三人に交替して貰って修習生活の様子を中心として雑談したのであります。
かねて、女子修習生を配属庁の指導担当者の立場で預かった際に、その修習生(現在判事補)や、その母親からなかなか縁談がまとまらないでやきもきしているという趣旨の愚痴めいた話を聞かされた経験があり、適齢期の娘を持つ親の気持として同感するところがありました。このようなことが頭にあって、女子修習生と話している際、修習生になって御両親はどんなことを言っているかということを尋ねて見ました。これに対し女子修習生からは格別の反応はなく、概して、いずれも御両親において反対しているとか愚痴をいっているとかの状況ではなかったので、それは結構だねという程度で終ったのであります。その時、先の経験を併せて話したように思います。
そのような話の際、日頃の女性観について話をしました。家庭における母親の、また妻の果す役割の大きさは、あらためていうまでもないことであります。加えて裁判実務でもその大切さを身にしみて見聞しているので、優れた素質のある女性が家庭の主婦となり母親となることは社会全体に益することが大きいものと信じていて、その気持が強かったものであるから、法律家となるのもよいが、家庭に入るのも女性の役割として大切であり個人的な気持で言えばそれをすることを勧めるという趣旨の話をしました。
修習生活の話をしたわけでありますが、話題は雑多であって、仲間うちの気楽な気分のつもりで話を交したので、話の中で女性についての個人的な好みについても語っております。好みの話でございますから、好きとか嫌いとかの極めて単純なことになるわけでありますが、「勉強好きの女(ひと)はえてして理屈ぽい」とか「理屈 ぽい女(ひと)は嫌いだ」という趣旨の言葉になったと記憶します。
以上の次第で旅行の車中で適齢期の娘を持つ親の気持で娘と同じ位の年頃の女性と気軽な会話を交したという気持でありました。従って率直なところ意外な発展に驚いているというのが心境であります。
なお、当職と女子修習生の前の席に事務局長が着席していましたが、会話は当職と修習生との間で交わされ、事務局長は殆んど加わっておりません。雑音も高く、その内容もわからない状況にありました。また会話をしている際昼食として駅弁を使い、食事しながら話を交したものであります。
5 10期の大石忠生司法研修所民事裁判教官の言動
(1) 日弁連の事実認定
大石忠生民事裁判教官(八組)は昭和五一年五月二十六日夜六時から十時頃までの間、教官のさそいにより自宅を訪問した修習生十二名(うち三名は女子)に対し、酒、食事でもてなした席上において「女性に任官差別があると聞いていますが・・・」と心配して質問した女子修習性に対する答えとして「女性裁判官は生理休暇などで休むから他の裁判官に迷惑をかける。弁護士も迷惑をかける点で同じだ。自分も合議体にいたとき中に女性がいて迷惑した。地裁の所長クラスがそういう点で一番迷惑をうける・・・」等の女性が法曹界に進出することを暗に非難し、任官差別を是認する如き発言を行った。
(2) 本人の弁明
昭和五一年六月二六日午後六時、私のクラス
(三〇期八組)の修習生一二名が私の自宅を訪ねました。あらかじめ、クラス委員の松葉君の連絡では、八、九名ということであったのですが、実際には、一二名まいりました。
午後六時から、ビール・ウイスキーを飲み、食事をしながら懇談を重ねました。話題は主に各自の身辺事情に関するものでした。独身者は、婚約者や、将来の配偶者像について語り、配偶者を有するものは、結婚のいきさつについて語るというのが大部分で、至極和気あいあいたるものであったと思います。
そんな話をしている間に一〇時近くなりました。一〇時過ぎに二名が交通事情が悪くなるからというので帰りました。(うち一名は女性)それから更に小一時間雑談をしていましたが、私は最近知り得た二八期の修習生の修了後の活躍状況に話を及ぼし、法曹の道は修習時代に考える以上に厳しいものであることを話しました。その際、席に女性が二名いたことから、女性法曹についても話を及ぼし、「法曹の仕事は激務であるから、女性が法曹としてやっていくには、男性以上に苦労があろう。周囲はなお女性の社会進出にとって、充分にやり易い状況にあるとはいえない。産休などによって他の人に仕事上の負担がかかれば、同僚としても必ずしもよい顔はしない。そういう中で女性が法曹としてやっていくことは、男性にもまして覚悟と能力がいるのではないか。裁判官でも事情は変らない。だから男の人以上に修習に励み、能力をつける必要がある。」との趣旨を話しました。
私の右の発言に対して、女性二名を含む同席の者から、何らの発言もみられず、むしろ私の発言の趣旨をよく理解してくれたように思われました。
自宅訪問の際であり、皆で大いに飲んだときのことでありますが、私の右の点に関する発言は、右に記したところが正確なものと信じます。私としては、感じているところを、同じ法曹の道を進む先輩として述べたつもりであります。
なお、私は、右発言の際「しかし、女性の綿密な能力を高く評価する法曹がいることも事実である。」と併せ述べています。また、同席したある修習生は、「教官の話の趣旨は、女性が法曹の道を進むことを否定、非難する趣旨とは受け取れなかった。」と私に語りました。以上のとおりであります。
第3 本人の弁明の評価に関する最高裁判所人事局長の国会答弁
1 昭和51年7月14日の国会答弁
高輪1期の矢口洪一最高裁判所人事局長は,昭和51年7月14日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています。
① 中山教官、大石教官の発言についてお述べになりましたが、私どもは少なくとも昨日までの調査をいたしました範囲内において、中山教官、大石教官につきましては、女性差別の考え方、それに基づく発言というものはないというふうに考えておるわけでございます。
② 川崎事務局長、山本教官につきましては、なお調査する必要があろうかと思います。その場に居合わせた方がありますので、そういった方にも十分聞いてみる必要があろうかと思います。
関係の修習生について調査をするかどうかということは、これは修習生の教育との関係がございまして、果たしてやっていいことかどうか、その辺についても十分の考慮をいたしました上で、できる限りの調査をいたしたいと考えております。
③ 山本教官が車中等でいろいろと発言をされたということにつきましては、相手が限定されておりますので、調査の方法は十分可能でございますが、調査をすることによる問題点ということもないわけではございません。
その辺のところも十分考慮いたしました上でいたしたいと思いますが、ただ山本教官はちょうど年配の娘さんを二人も持っておりまして、先ほどのてんまつ書にもございましたように、自分の娘に対して言うといったような気軽な気持ちから話しかけたという面もあるようでございます。
④ それから大石教官でございますが、生理休暇云々、生理云々という問題は、これは何度も問いただしましたが、そういう言葉は絶対に使っていない、生理の問題は自分の頭にはなかったということをはっきりと申しておりますので、私どもは事実はそうではなかったろうかというふうに考えております。
2 昭和51年8月4日の国会答弁
3期の勝見嘉美最高裁判所人事局長は,昭和51年8月4日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています。
① その後の調査(山中注:7月14日の衆議院法務委員会終了後の調査のこと。)、まだ進んでおりませんけれども、現在の私どもといたしましては、各教官がみずからお書きになったものでございまして、現在のところ、本人たちが言っておられるところが正当なことであったんじゃないかというふうに考えております。
② ここでつけ加えさせていただきますけれども、川崎事務局長の発言の場所におったと思われます別の教官からやはり事情を聞きましたところ、その教官、相当酔っておられたようで、川崎事務局長が司法修習生諸君に何を言っておられたか全然わからないというようなことでございまして、あれやこれやを総合いたしまして、現在の私が、それをどう評価するかとか、それをどういうふうに処置するかということにつきましては、先ほども申し上げましたように調査未了でございますので、私の意見は差し控えさせていただきたいと思います。
③ A教官の発言に対しましては、前局長も申し上げたと思いますけれども、偏見に基づく女性差別の発言だというふうに私としても受け取れないと思います。
それからB教官、山本教官の発言につきましては、確かにそういうようなことを誤解させるといいますか、そういうふうに思わせる面(山中注:女は家庭、男は社会という考え方を貫いているという面)もないでもございませんけれども、もう少しB教官の発言につきましては調べさせていただきたいと思います。
④ 問題の発言をいたしました教官に対しましては、機会をとらまえまして何回か事情を聴取しております。それから、相手が司法修習生でございますので、現在問題の発言をした相手になりました司法修習生は前期の修習を終えまして実務庁に戻っておりますので、まだ具体的に司法修習生に対する事情聴取は行っておりません。
⑤ 私にかわりましてから、私が当該の教官にそういうことを確かめたことはございませんけれども、結局は、女性の司法修習生に対する発言でございます。後で恐らくお尋ねがあろうかと存じますけれども、結局女性司法修習生の判事補採用の問題との絡みになってこようかと思いますけれども、そのことにつきまして、先ほどから申し上げておりますように、最高裁判所といたしましては女性だからということで差別をしていないということをかねがね申し上げておりますので、問題の発言をされた教官が判事補採用のことを念頭に置いて言っておられたというふうには私どもは考えておらないわけでございます。
3 昭和51年10月14日の国会答弁
3期の勝見嘉美最高裁判所人事局長は,昭和51年10月14日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています。
① 修習生が、いわば教えられる者として、教官との関係が一対一の普通の対等な関係でないという御趣旨でございます。まさにそのとおりであろうかと存じます。
ただ、本件に関しまして、恐らくその発言を聞いた修習生はわかっているはずでございますので、その修習生を一々呼んで、その際教官の発言がどうであったかということにつきましては、裁判所側及び司法研修所は一切いたしておりません。
さらに、日弁連等におきましてどういう調査をされたかは私どもはつまびらかになし得ませんが、報告書によりますと、修習生から事情を聴取したということが書いてございますので、恐らく修習生をお呼びになってお調べになったと思います。
② 先ほどから申し上げておりますように、司法研修所といたしましては、まさに佐々木委員御指摘のような関係(山中注:司法修習生に対し,司法研修所教官は非常に強い立場にあるという関係)がございますので、修習生を一々呼んで事情を聴取しないということにしたわけでございます。
③ どのような場でどのような形で具体的に修習生が事情を聴取されるか、これは将来の問題かと思いますが、その際に、その事情を述べたということによって修習生が不利益を受ける、受けるおそれがあるというようなことは私どもとしては考えられないことでございます。
第4 日弁連特別委員会の報告書の結論
1 昭和51年8月20日付の「三〇期女性修習生問題について(報告)」(日弁連女性の権利に関する特別委員会三〇期女性修習生問題調査小委員会が作成したもの)の「当委員会の結論」として以下の記載があります。
以上の検討の結果、当委員会としてはつぎの結論に達した。
(1) 川嵜事務局長以下前掲の各教官らの前記言動はいずれも当該女子修習生に対して女性なるが故の差別的取扱いを公言したものであって、まことに不当である。
とりわけ、昭和五十一年五月二八日の山本茂教官の発言(前記三)と川嵜事務局長(前記一)は他の教官の言動に比べて特段に不当性が高い。山本発言が川嵜事務局長の同席のもとで川嵜事務局長がこれに同調する態度を示すなかでなされたことと、同日夜の川嵜事務局長の暴言(前記一)をみるとき、これらの言動は、とくに裁判官の身分を有する教官らの個人的発想にょり偶然に同時期に一致してなされたものとは思われない。それは最高裁判所の監督下にある司法研修所の女性法曹を排除しようとする基本的な教育方針の一環として行われたものと考えざるを得ない。また同年四月二七日の中山教官の発言(前記二)も、同年六月二六日の大石教官の発言(前記四)も、言葉のニュアンスの違いはあるが前記山本教官や川嵜事務局長の言動と共通の発想にもとづくものと認められる。
これらの言動は、いずれも法の下の平等と個人の尊厳を保障する憲法原理と大きく矛盾するばかりでなく、それは昨年七月、国際婦人世界会議で採択された「世界行動計画」が各国の関係機関は両性平等を促進するために具体的措置をとるよう勧告し、日本政府も右実現のために推進本部を設置した方針に反するものである。
(2) 現在、女性法曹の数は年々増加し、女子修習生の数も増大しつつある。この現状のもとでは「憲法を守り信念のある裁判官」「男女同権に対して正しい認識をもつ法律家」を育成する法曹教育は、ますますその重要さを増している。それなのに国の唯一の法曹養成機関であり憲法の番人たる最高裁判所の監督のもとにある司法研修所の事務局長や教官が、前記のような憲法違反の言動を行ったことはきわめて憂慮すべき事態である。また前記問題の教官らは、いずれも裁判官の身分を有しているが、このような裁判官らが現職に戻って国民を裁くとき、そこに裁かれる国民の人権は、はたして十分に守られるであろうか。また、このような憲法無視の言動がまかり通るなかで法曹教育をうけた修習生たちが将来法曹として一人立ちするとき、国民はその権利を安んじてこれらの法曹に委ねることができるのであろうか。
憲法に違反する女子修習生に対する前記教官らの差別的言動は、絶対に許されない。したがって、前記教官らの不当な言動に対してわれわれは強く抗議する。
われわれはまた、司法研修所および最高裁判所が前記差別的言動を行った山本教官、川嵜事務局長らに対し、すみやかに厳正な処分をなすことを求めるものである。
2 前述したとおり,3期の山本茂司法研修所刑事裁判教官及び8期の川崎義徳司法研修所事務局長は昭和51年9月14日付で厳重注意を受けた後も更迭されることはありませんでしたし,8期の川崎義徳裁判官は東京高裁長官を最後に定年退官しました。
第5 司法研修所事務局長及び司法研修所教官3人に対する処分内容に関する国会答弁
3期の勝見嘉美最高裁判所人事局長は,昭和51年10月14日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリング及び改行を追加しています。)。
① まず書面注意の根拠でございますが、裁判所法第五十六条二項に「司法研修所長は、最高裁判所長官の監督を受けて、司法研修所の事務を掌理し、司法研修所の職員を指揮監督する。」とございます。この規定に基づきまして、指揮監督権の発動として注意という措置をしたものでございます。現実の運用といたしましては、注意には口頭による注意と書面による注意がございまして、書面による注意の中にさらに厳重書面注意という、運用といたしましては三種の措置がございます。このたびの措置は、このうち最も重い厳重書面注意ということが選択されまして、司法研修所所長といたしましては、現在とり得る措置の最も重いものでございます。
なお、次に、山本教官及び川寄事務局長に対する注意書の内容でございますが、一応読まさせていただきます。
山本茂教官に対する注意書は、
貴官は、昭和五十一年五月二十八日、第三十期司法修習生見学旅行の往路列車内において、女子修習生三名に対し、女性が法曹人として活躍することを否定していると受け取られるおそれのある発言をした。
右の発言は、貴官の職責に照らし、遺憾である。将来ふたたびこのようなことがないよう厳重注意する。
次に、川寄義徳司法研修所事務局長に対する注意書の文面でございますが、
貴官は、昭和五十一年五月二十八日夜、第三十期司法修習生見学旅行の懇親会に出席したが、右懇親会終了後の二次会において、男子修習生数名に対し、女性が裁判官になることに消極であると受け取られるおそれのある発言をした。
右の発言は、貴官の職責に照らし、遺憾である。将来、ふたたびこのようなことがないよう厳重注意する。
以上でございます。
それから不問に付しました大石教官に関することでございますが、すでに御承知かと思いますけれども、私どもといたしましては、大石教官の発言の要旨は、社会は女性の進出にとって十分にやりやすい状態ではない、その中で女性が法曹としてやっていくには男性にも増して覚悟と能力が要るのではないか、だから男性以上に修習に励んで能力をつける必要があるという趣旨のものであるというふうに考えます。いわば社会の現実の姿を説明して、むしろ女性修習生を激励したものでありまして、何ら非難さるべきものでないと考えて不問に付したのでございます。
次に、中山教官に関する件でございますが、中山教官の発言の要旨は、女性修習生で修習終了後家庭に入ってりっぱな家庭を築いておられる人がかなりいる、せっかく法曹資格を取得していながら家庭に入るのは一見もったいないという感がしないでもないけれども、主婦としてりっぱな家庭を築き、優秀な子孫を世に送り出すのも一つの賢明でりっぱな生き方ではないかという趣旨のものであろうかと思います。中山教官の発言はいわばそういう女性の例を紹介したものでございまして、それ自体女性差別の発言ということは認められませんし、また発言当時の状況から見まして女性差別と受け取られるおそれということも認められないということで不問に付したということでございます。
なお、その発言当時の状況等申し上げましたけれども、中山教官の問題の発言は、修習生同士のクラス対抗のソフトボール大会の後、近くの喫茶店にクラスの者がほかの教官と一緒に入りまして簡単ないわばパーティーを開いた席上でなされた発言でございまして、もちろんその中にも女性の修習生もおられまして、特に女性修習生がそのソフトボールに大いに活躍したことが話のきっかけとなってこのような趣旨の発言になったようでございます。
なお、申し落としましたが、大石教官の発言は、大石教官のクラスの者が自宅を訪問いたしまして、自宅でおもてなしをして、その際に話したことの内容でございます。この際も、もちろん女性修習生もおられたようでありますが、決してその席上でほかの修習生からどうも教官の発言がはなはだ穏当でないというような趣旨の発言はなかったようでございます。
まあいずれにいたしましても、ただいま申し上げましたように、不問に付しました両教官の発言の内容及びその発言当時の状況からいたしまして不問にいたしたわけでございます。
② 前回私が最高裁判所も措置の主体たり得るというふうに申し上げましたのは、行政監督上の上級庁としての最高裁判所でございまして、御指摘のとおり分限事件とは全く系統を異にするものでございます。
なお、最高裁判所といたしましては、司法研修所所長の措置によって必要にして十分なる措置をとられたということで、行政上の措置は現在はとるつもりはございません。
③ このような事態を引き起こしまして、報道陣が一斉に報道されましたことこれ自体が一つの大きな社会的な問題として注目を引いたわけでございます。それにも増して、御指摘のとおり、教官と修習生との間の関係ということにつきまして、おっしゃるとおりの問題があるいは生ずるかもしれません。
しかしながら、本件にあらわれました四名の教官の発言及びその当時の状況というものから考えまして、確かに司法研修所の所長が先ほど申し上げました三十期の修習生の前期修了式の際にあいさつの中にも述べておりますように、教官と修習生との間の関係が全く破綻を来すようなことがあってはならないことはもうおっしゃるとおりであると思います。
ただ、四人の教官及び事務局長を現職のままそのままにしておくこと自体が、この事件の、事件といいますか、このケースのもみ消しということになるというふうに私どもは考えておりません。
なお、訴追委員会に申し立てがございまして、訴追委員会の方でどのように措置されますか、もちろんこれからの問題でございますが、教官自身のすでに御報告申し上げております釈明書、及び御本人たちが直接お呼びがかかりましていろいろなことを申し上げることになるかもしれませんが、私どもといたしましては、このようなことで修習生との間に、ある程度の、いわば、何といいますか、決して喜ばしい状態ではないと思いますけれども、だからといって、この教官及び事務局長を更送することによって、いわば信頼関係が回復されるということに当然になるかどうかということについても、むしろ問題があるのではないかというふうに私は考えております。
第6 女性裁判官の採用に関する昭和時代の国会答弁
1 昭和27年5月17日の国会答弁
鈴木忠一最高裁判所民事局長事務代理は,昭和27年5月17日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリング及び改行を追加しています。)。
① それから女子の裁判官を増せということでございますが、これは別に現在においても女性と男性の裁判官はちつとも区別しておらないのであります。
② 女性の裁判官として採用のできる者はできるだけ採用しているのであります。現在全国で五名の女子の裁判官がございます。今年は一名採用されました。そして成績も相当いいのです。
これは別に差別待遇はしておりませんけれども、御承知のように資格がいるものですから、その資格をとつて試験をパスした者は、従来は原則として採用しております。
③ 今年は女子の中で裁判官を志望して二名ばかり採用ができなかつたのでありますけれども、これは率直に申し上げますれば、志望者の中の順位で採用しておりますからそういう結果になつたわけでございます。
2 昭和45年3月20日の国会答弁
矢崎憲正最高裁判所人事局長は,昭和45年3月20日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリングを追加しています。)。
① 年齢につきましては、判事補の任官ということについては考慮の対象の中に入っておるわけでございます。
② 女性につきましては、これは私どものほうで取り扱いを特に異にすることはございませんが、しかしながら、第一線の所長さん方からはまああまり喜ばれないというようなこともあるものでございますから、そういうような一つの空気はあるわけでございますけれども、しかしながら、女性であることのゆえをもって採用を拒むとか、そういうことは全然ございません。
3 昭和46年7月24日の国会答弁
高輪2期の長井澄最高裁判所総務局長は,昭和46年7月24日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリング及び改行を追加しています。)。
① 御婦人の裁判官の採用に関して人事局長が説明会の席上で差別的な説明(山中注:22期及び23期の司法修習生に対して最高裁判所人事局長が行った,女性の任官は歓迎しない旨の説明)をしたという点につきましては、私その場に居合わせておりませんのでいま説明を求めて申し上げるわけでございますけれども、採用に関して差別をするというような趣旨で申し上げたのではなく、やはり今日の日本の社会におきましては男性と女性と社会的活動の面においていろいろ性に基づくところの本質的な違いがございますので、そういう観点から必ずしも、円滑に御活動を願う上において十分に条件が備わっておらないので、いろいろその点において任官を御不自由を感ずることがあるんじゃないかというような趣旨の説明である、そのようにいま私説明を受けたのでございますけれども、もちろん最高裁判所の事務当局のことでございますから、憲法に違反するような趣旨で申し上げるというようなことは万ないものと確信いたしておりますし、またそうあってはならないものでございます。
あるいは説明がつい細部にまで及びましたためにそのような誤解を与えているのではないかと思いますが、もちろん性による差別というふうなことは考えておらないことは当然であり、基本方針でもございまして、これは一局長の発言によって左右されるべき性質のものではないと、このように私は理解しております。
② 修習の過程におきましては、御承知のように、実務修習と申しまして第一線の裁判所において実務を担当する裁判官から指導をお受けになる機会が相当期間ございます。この間におきまして指導の裁判官からどのような発言がなされますか、それをまた私のほうからこのようなことを言ってはならぬというような統制を加えることは、これは行政の行き過ぎでございまして、慎まなければならないと存じます。
第一線におきましては、自由な魂と魂との触れ合いによって指導するところでございますから、発言する側あるいは受け取る側でいろいろなとりようがございますので、場合によってはそのように受け取られる発言(山中注:裁判所において女性の裁判官は歓迎しないという趣旨の発言)があるかもしれませんけれども、その点は日常生活の接触としてゆとりのある気持ちで御理解をいただきたいと思います。もちろん事務当局といたしましては、採用について、その後の待遇につきまして差別をいたすというような考えは毛頭ございません。それぞれの性——男性は男性、女性は女性としての本質に従いましたふさわしい職務上の責任を負っていただくという配慮に基づいて適正なる人事を運用していくことは当然でございます。
4 昭和47年5月12日の国会答弁
高輪1期の矢口洪一最高裁判所人事局長は,昭和47年5月12日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリング及び改行を追加しています。)。
① もうずいぶん前のことでございますので、私、そのようなこと(山中注:現場の裁判所長が,女性判事補の配属を歓迎しないということ)を申したかどうか、実は正確な記憶がございません。
ただ、これまでの、これは私と申しますよりも、人事局長が毎年大体その時期に説明(山中注:司法修習生に対する任官説明会の説明)に参っておりますので、やはり女性の裁判官に対して、まあ一線の裁判所で必ずしも歓迎されない場合があるという趣旨のことは、申し上げておるかと思います。
② 私どもとしましては、女性の裁判官というような意味で、男性の裁判官と差別した扱いをするというようなことは、これは実際に考えていないことを申し上げたいと思います。
5 昭和51年8月4日の国会答弁
昭和51年8月4日の衆議院法務委員会において以下の質疑応答がありました(改行を追加しています。)。
○稲葉(誠)委員 それでは、これは調べてもらいたいのですが、あなたが言ったのじゃないのですけれども、四十五年の七月十日、当時の最高裁の人事局長(山中注:矢崎憲正裁判官のこと。)が任官説明会でこういうふうなことを言っておるのですね。
年長者、身体障害者、女性については歓迎しない。
女性を歓迎しない理由は、
(イ) 第一線の所長が歓迎しない。
(ロ) 夫婦とも裁判官の場合、任地の調整が大変だ。
(ハ) 一筋なわでいかぬ職員組合の猛者を押える必要や勾留理由開示をやらねばならぬから女性には気の毒。
(ニ) 妻が夫の足をひっぱる結果となる。
ちょっとここのところ、よくわかりませんが、
(ホ) 支部長として多数を統率していくのは女性裁判官ではむづかしい。
こういうことを当時の人事局長が任官説明会で説明をしておるというふうに、私どもの調査ではなっておるわけですね。
まず、こういうふうな事実があったかなかったかということが一つと、いま私が読み上げたようなことは、最高裁としては常々考えておることですか。
○勝見最高裁判所長官代理者 ただいま御指摘の任官説明会は、司法研修所の所長、それから任用課長、司法研修所の事務局長が同席いたしまして説明した際のことであろうと思います。
その際のこちら、まあ当局側といいますか、司法研修所、最高裁判所側の説明がどうであったかということについては、私どもには公式の記録がないようでございますが、いま御指摘のような事実が現実にあって、採用ないし任地を決めるに際して逆に裁判所としてはいろいろ考慮しているということのあるいは裏返しの発言で、お聞きになっていた方々がそのような形でおとらえになったというふうにも考えられます。
なお、その後、前人事局長時代に任官説明会をやはり持ちましたけれども、その際には十分誤解のないように解きほどいて説明を申し上げている次第であります。
第7 裁判所の好まない人物像等
1 最高裁の好まない人物像
昭和52年7月発行の「最近の司法研修所の実態と問題点」(大阪弁護士会)36頁ないし38頁には以下の記載があります。
二二期にはじまった任官拒否は、今日に至るまで引き続きおこなわれ定着した感すらあり、それだけに、世論のこの問題の重大性に対する意識が薄らいできているようにも思われる。最高裁は、このような状況の中において、裁判官の絶対数不足に目をそむけ、ますます明確に「好ましい裁判官」選びを貫徹させているのであろう。
裁判官の採用基準については、最高裁は従来より「成績」および「全人格的評価」を強調し、具体的には人事の秘密をたてに一切明らかにしようとしない。しかしながら、現実に任官拒否された人達および任官勧誘や任官志望撤回の働きかけの状況を具体的事実に即し整理すれば、最高裁の「好ましい裁判官」像はかなり明らかになる。最高裁の好まない人物像は、①青法協会員もしくは青法協活動に協力的な者、②女性、③高年令者、④身体障害者等である。
(中略)
任官勧誘や任官志望撤回の働きかけの面でも、右の傾向は明確になっている。二五期以前の修習生には、任官希望者全員を対象にして、任官説明会がなされていたが、二六期に至りこれが中止され、当委員会が事情聴取をおこなった二七期、二八期の弁護士・修習生はこの事態をいよいよ個別勧誘が強化されだした状態と表現し、個別勧誘が青法協加入者を除いておこなわれ、かつ加入者には任官をやめよとの働きかけがおこなわれたと報告した。しかし、二九期、三〇期の状態は単に個別勧誘の強化というにとどまらず、何らかの意味での勧誘態勢の制度化と呼ぶに適する状態になっていると考えられる。
2 司法修習生向けの文書の記載
修習生活へのオリエンテーション(平成24年11月)には以下の記載があります。
修習について外部に表現(雑誌投稿やウェブサイト,ブログへの掲載等)する場合は,具体的な事件等に関する秘密の保持を十全なものとすべきことはもとより,司法研修所教官や配属庁会の指導担当者が,実務の実際を修習するという教育上の配慮から,公にすることを前提としないで司法修習生に対して各種の指導をすることも多くあることも踏まえ,守秘義務に反するものでないかを十分に確認するとともに,前記の配慮を無にすることのないよう,表現には十分に注意を払ってください。
3 27期の鬼丸かおる 元最高裁判所判事の体験談
東弁リブラ2020年9月号の「元最高裁判所判事 鬼丸かおる会員」には以下の記載があります。
── 司法修習終了後,弁護士になった経緯をお聞かせください。
司法試験に受かってから裁判官志望でした。けれども,たいていの教官がやはり「女性はだめ」,「女はだめ」という雰囲気を強く匂わせていました。口でははっきりそういう風にはおっしゃらないですけれども,行動で志望を変更した方が良いと示されました。教官の奥様が参加され,妻が夫を支えている姿を示して女性の幸せを教えて下さったり,手作り品をプレゼントして下さって手作りの良さを教えて下さったりして,男性に尽す女性の姿を理想像として示されました。転勤を伴う裁判官では,妻として尽すことができないことを見せられて,裁判官の世界にも男女の区別感が強いことを知り,少しでも自由な活動が可能な弁護士,ということになりました。
第8 関連記事その他
1 裁判所構成法107条は「裁判長ハ婦女児童及相當ナル衣服ヲ着セサル者ヲ法廷ヨリ退カシムルコトヲ得其ノ理由ハ之ヲ訴訟ノ記録ニ記入ス」と定めていました。
2(1) 26期の山室恵裁判官は,東京地裁平成14年2月19日判決(判例秘書に掲載)を言い渡した後,被告人2人に対し「唐突だが、君たちはさだまさしの『償い』という唄を聴いたことがあるだろうか」と切り出し,「この歌のせめて歌詞だけでも読めば、なぜ君たちの反省の弁が人の心を打たないか分かるだろう」と説諭を行いました(Wikipediaの「償い(さだまさしの曲)」参照)。
(2) さだまさし(1952年4月10日生まれ)の「関白宣言」(1979年7月10日に発表されたもの)には,「お前は俺の処へ家を捨てて来るのだから帰る場所は無いと思え これから俺がお前の家」などと書いてあります。
3(1) 最高裁昭和56年3月24日判決は,定年年齢を男子60歳、女子55歳と定めた就業規則中女子の定年年齢を男子より低く定めた部分が性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法90条により無効とした事例です。
(2) 法律行為が公序に反することを目的とするものであるとして無効になるかどうかは,法律行為がされた時点の公序に照らして判断すべきとされています(最高裁平成15年4月18日判決)。
4(1) 32期の西野佳樹弁護士(元裁判官)が運営している西野法律事務所HPの「司法修習生の就業活動における差別的言動」には「小規模事務所の経営者である弁護士が、「男性修習生」を「女性修習生」より優先させる理由は、「女性修習生」に結婚・妊娠・育児の要素が大きいからでしょう。」などと書いてあります。
(2) 月刊大阪弁護士会2022年2月号3頁に,宮崎裕子 元最高裁判所判事の発言として以下のものがあります(31期が弁護士登録をしたのは昭和54年4月です。)。
私は31期ですが、長島・大野は29期までは女性は採用しないという方針だったそうです。30期の採用方針にこの方針を改めるべきであると長島弁護士が提案し、パートナー間で話し合った結果、方針変更が合意されたと聞いていますが、30期では女性の採用は実現せず、31期の私が最初のフルタイム女性弁護士として採用されたという経緯でした。
5 以下の記事も参照して下さい。
・ 女性判事及び女性判事補の人数及び割合の推移
・ 53期司法修習まで存在していたかもしれない,新任検事の採用における女性枠
・ 歴代の女性最高裁判所判事一覧
・ 歴代の女性高裁長官一覧
・ 労働基準法に関するメモ書き
・ ブルーパージ(昭和44年~昭和46年)
・ 岡口基一裁判官に対する分限裁判
→ 訴訟において犬の所有権が認められた当事者(もとの飼い主)の感情をツイッターで傷ついたということで,平成30年10月17日付で戒告処分を受けました。
・ 柳本つとむ裁判官に関する情報,及び過去の分限裁判における最高裁判所大法廷決定の判示内容