二回試験の不合格答案の概要


目次

第1 二回試験の不合格答案の概要
第2 関連記事その他

第1 二回試験の不合格答案の概要
〇最高裁判所事務総局が作成した,平成20年7月15日付の「新第60期司法修習生考試における不可答案の概要」によれば,不合格答案に現れた問題点は以下のとおりです。
◯73期二回試験の順番は,民弁→民裁→(土日)→刑弁→刑裁→検察です(「65期以降の二回試験の試験科目の順番」参照)。

1 民事系科目
(1) 民法等の基本法における基礎的な事項についての論理的、体系的な理解不足に起因するとみられる例
○ 「代位」という民法の基本概念及びこれに基づく債権者代位訴訟の構造(被保全債権である貸金債権が譲渡されると原告適格に影響を及ぼすこと)を理解していないもの
○ 民法の基本概念である「相殺」について、債務消滅原因として主張されている相殺(民法第505条)の効果を全く理解しないまま、相殺の抗弁により反対債権と引換給付の効果が生じるにとどまる旨説明したもの
○ 売買契約に際し、解約手付として手付金を支払ったことが記録上明らかであるところ、「解約手付」とは手付金の支払によって手付解除を可能にするものであり、契約法の基本概念として修習中にも十分な指導をしているにもかかわらず、その手付金の支払自体が「履行(の)着手」(民法第557条第1項)に該当するから手付解除ができなくなる旨説明したもの
○ 被告の反論に応じて、主張立証責任を負うべき原告の立場から事実に基づき法律構成を示した再反論が求められているのに、民法上の典型論点である債務不履行責任と瑕疵担保責任の区別ができていないなどのため、単に被告の主張に対する事実の反論を羅列するにとどまり、法律構成に結び付けることができていなかったもの
(2) 事実認定等の基本的な考え方が身に付いていないことが明らかである例
○ 事案において最も重要な書証である借入誓約書に全く触れなかったり、同借入誓約書の真正な成立は認められないと判断しながら、他方でその内容は信用できるとして、この書証を認定の根拠としたもの
○ 重要な間接事実をほとんど挙げることができなかったもの
○ 客観的証拠に着目せず、供述の信用性を吟味しないまま、安易に一方の供述のみに依拠して事実を認定したもの
○ 最終準備書面の起案を求められているのに、これまで自ら全く主張していなかった事実を証拠に基づかず記載したもの
(3) 一般社会通念や社会常識に対する理解ができていない例
○ 2年間有償で飼い猫を預かる契約の内容には「猫を生存させたまま返還するまでの債務は含まれない。」との独自の考えに基づき、「猫を死亡させても返還債務の履行不能にはならない」と論じたもの
○ 「実兄が弟に対して保証することはあまりない。」などと、独断的な経験則を平然と記載したもの
2 刑事系科目
(1) 刑法等の基本法における基礎的な事項についての論理的、体系的な理解不足に起因するとみられる例
○ 刑法の重要概念である「建造物」や「焼損」の理解が足りずに、放火の媒介物である布(カーテン)に点火してこれを燃焼させた事実を認定したのみで、現住建造物等放火罪の客体である「建造物」が焼損したかどうかを全く検討しないで「建造物の焼損」の事実を認定したもの
○ 判決宣告期日における弁護人の出頭の要否、立証趣旨の明示、目撃者が犯行状況を写真に撮影した場合及び警察官が被害者の被害再現状況を写真に撮影した場合のそれぞれにおける「写真」の証拠能力といった日常的に生起する刑事訴訟の基本的事柄に関する理解が明らかに不足しているもの
(2) 事実認定等の基本的な考え方が身に付いていないことが明らかである例
○ 放火犯人が被告人であるかどうかが争点の事案で、「被告人は犯行を行うことが可能であった」といった程度の評価しかしていないのに、他の証拠を検討することなく、短絡的に被告人が放火犯人であると結論付けるなど、「疑わしきは被告人の利益に」の基本原則が理解できていないと言わざるを得ないもの
○ 事実認定の重要な手法である間接事実から要証事実を推認することができるかどうかの判断過程が身に付いておらず、記録上当然検討しなければならない重要な間接事実に触れなかったり、自己の採る結論に沿わない間接事実について全く論及しなかったり、一応の論及はあるがその検討が極めて不十分であったもの
○ 刑事弁護人の立場を踏まえた柔軟な思考ができずに、被告人が一貫して犯行を否認し、詳しいアリバイを主張しているのに、被告人の主張を無視してアリバイに関する主張をまったくしないもの(さらには被告人のアリバイ供述は信用できないとして、依頼者である被告人の利益に反する弁論をしたもの)、証拠関係の評価をほとんどしていなかったり、証拠に基づいた主張をしていないもの

第2 関連記事その他
1 平成29年5月12日付の司法行政文書不開示通知書によれば,新61期以降の司法修習生考試における不可答案の概要が分かる文書は存在しません。
2 目視の外観検査で使用される「限度見本」とは,品質上の「良品」か「不良品」かの限度を示した製品見本のことであり,品質上問題のない傷や汚れなどを合格にしたい場合,検査員が「限度見本」と比較することで安定した判断ができます(日本サポートシステム株式会社HP「【限度見本】作成目的や方法、外観検査装置メーカー3選つき」参照)ところ,二回試験の場合,ギリギリの合格答案がどのようなものであるかが分かりません。
3 8期の司法修習生の場合,後期修習において真面目な司法修習生が二回試験の勉強を苦に自殺しました(東弁リブラ2011年5月号の「8期修習修了50周年」参照)。
4 以下の記事も参照してください。
・ 二回試験直前の自由研究日
・ 二回試験落ちにつながる答案
・ 二回試験の不合格発表
・ 二回試験の科目別不合格者数
・ 二回試験不合格時の一般的な取扱い


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