第1 現行制度の全体像
1 理事75人と選任構造
日本弁護士連合会会則56条1項3号は,日弁連の理事定員を75人と定めている。定員は,女性理事4人の特別枠を導入するため,2021年4月1日に71人から75人へ増員された。本記事では,現行会則,役員選任規程,男女共同参画推進基本計画及び公表役員名簿を基礎として,この制度と実績を整理する。
日弁連を構成する弁護士会は52会である。慣例上,東京三弁護士会,大阪弁護士会及び愛知県弁護士会の各会長は日弁連副会長となり,他の47弁護士会の会長は日弁連理事を兼ねる。このため,理事75人のうち47人が弁護士会会長との兼務理事であり,残る28人が会長を兼ねない理事となる。ただし,この47人と28人という区分は現在の選任慣行から導かれるものであり,会則が各弁護士会に固定議席を直接割り当てたものではない。
2 女性4人の特別枠と30%目標は別である
会則56条3項は,理事に占める女性の割合が30%以上となるよう環境整備に努める旨を定める。これに対し,同条4項と役員選任規程4条4項7号は,理事75人のうち4人を女性とすることを定める。前者は理事全体について目指す割合であり,後者は確保される女性理事の特別枠である。
したがって,女性4人の特別枠が選任されたことだけで30%目標を達成したことにはならない。75人の30%は22.5人であるため,割合を少なくとも30%とするには23人以上の女性理事が必要となる。特別枠以外の通常の推薦・選任過程からも女性理事が継続して選ばれることが制度上予定されている。
第2 女性理事数の推移
1 2013年度から2026年度まで
日弁連の男女共同参画資料と各年度の公表役員名簿から確認できる女性理事数は,次のとおりである。理事定員は2020年度まで71人,2021年度以降75人であるため,割合は各年度の定員を分母として小数第2位を四捨五入した。
| 年度 | 女性理事 | 理事定員 | 女性割合 | 数値の性質 |
|---|---|---|---|---|
| 2013 | 6人 | 71人 | 8.5% | 日弁連公表資料 |
| 2014 | 8人 | 71人 | 11.3% | 日弁連公表資料 |
| 2015 | 9人 | 71人 | 12.7% | 日弁連公表資料 |
| 2016 | 7人 | 71人 | 9.9% | 日弁連公表資料 |
| 2017 | 6人 | 71人 | 8.5% | 日弁連公表資料 |
| 2018 | 11人 | 71人 | 15.5% | 日弁連公表資料 |
| 2019 | 9人 | 71人 | 12.7% | 日弁連公表資料 |
| 2020 | 12人 | 71人 | 16.9% | 日弁連公表資料 |
| 2021 | 20人 | 75人 | 26.7% | 日弁連公表資料 |
| 2022 | 16人 | 75人 | 21.3% | 日弁連公表資料 |
| 2023 | 19人 | 75人 | 25.3% | 日弁連公表資料 |
| 2024 | 18人 | 75人 | 24.0% | 公表名簿照合値 |
| 2025 | 15人 | 75人 | 20.0% | 公表名簿照合値 |
| 2026 | 17人 | 75人 | 22.7% | 公表名簿照合値 |
クオータ制開始初年度の2021年度は20人,26.7%となり,前年度の12人,16.9%から大きく増えた。しかし,2022年度以降は15人から19人までの範囲で変動しており,30%に必要な23人には達していない。4人の特別枠を設けたことと,理事全体の女性割合が毎年上昇することとは区別して評価する必要がある。
2 公表統計と名簿照合値の区別
2013年度から2023年度までは,日弁連の男女共同参画関係資料で人数又は割合が公表された数値である。2024年度以降については,日弁連が性別欄付きの集計表を公表していないため,2024年度,2025年度及び2026年度の日弁連新聞に掲載された理事75人の名簿と,所属弁護士会その他の公開プロフィールを照合した。
後3年度の数値は,氏名だけから性別を推定したものではなく,女性役員としての掲載,所属会の会員プロフィールその他の公開情報を確認した結果である。もっとも,日弁連自身による性別集計値ではないという限界があるため,将来,公式集計が公表された場合は,その数値を優先すべきである。
第3 女性理事クオータ制の成立と選任方法
1 2019年の会則改正と2021年度の制度開始
令和元年12月6日の日弁連臨時総会は,理事選任における男女共同参画推進特別措置を実施するため,会則と役員選任規程を改正した。改正は,理事定員を4人増やして75人とし,その4人を女性とする仕組みを設けるものであり,2021年4月1日に施行された。
総会の議事概要によれば,改正案は,女性理事の安定的な選任と通常の推薦過程における女性割合の拡大を併せて進める制度として審議された。制度の名称に「特別措置」とあるとおり,単に既存71人の一部を女性に指定したのではなく,定員を増やして4人の推薦枠を追加した点が特徴である。
2 全国8弁護士会連合会による推薦
役員選任規程4条の3は,全国8弁護士会連合会の代表者各1人,合計8人で構成する協議会を置く。協議会は,その年度に女性理事候補者を推薦する4弁護士会連合会を決定し,選ばれた各弁護士会連合会が女性1人を推薦するため,特別枠の候補者は合計4人となる。
この仕組みは,特定の地域に4人を固定するものではなく,全国の弁護士会連合会の間で推薦担当を決めるものである。各弁護士会連合会が候補者を推薦した後,理事は他の役員と同様に代議員会で選任されるため,協議会の決定だけで理事就任が完結するわけではない。
3 特別枠は女性理事数の上限ではない
4人という数は,特別措置によって確保する女性理事数であり,女性理事全体の上限ではない。実際に制度初年度の2021年度は女性理事20人であり,このうち特別枠以外からも多数の女性が選任された。
女性割合を30%以上にするには,通常の理事候補者の推薦過程でも女性が選ばれる必要がある。第四次日本弁護士連合会男女共同参画推進基本計画は,女性候補者を安定して推薦する仕組み,役員就任を妨げる要因の除去,候補者支援及び制度実績の検証を組み合わせる方針を示している。
第4 第四次男女共同参画推進基本計画と30%目標
1 第三次計画の20%目標から第四次計画へ
日弁連は,2008年3月に第一次,2013年3月に第二次,2018年1月に第三次,2023年2月に第四次の男女共同参画推進基本計画を策定した。日弁連の男女共同参画推進本部の公開ページは,各計画と現在の施策をまとめている。現在の第四次計画の対象期間は2023年度から2027年度までである。
第三次計画は,副会長及び理事に占める女性割合を20%以上とする目標を掲げた。第四次計画は,2018年度から2022年度までの5年間の平均が20%を超えたものの,その水準をわずかに上回るにとどまったと評価し,次の目標を30%以上へ引き上げた。したがって,第三次計画の20%は現在の最終目標ではない。
2 30%目標の達成状況と具体策
第四次計画は,副会長と理事の女性割合をそれぞれ30%以上とする。理事については,①クオータ制の検証と必要な見直し,②役員就任を妨げる要因の調査・除去と支援体制,③女性会長が少ない弁護士会への情報提供,④通常枠の女性候補者を安定して推薦する仕組み,⑤女性会員と役員の交流・意見交換を具体策として掲げる。
2024年度から2026年度までの女性理事割合は24.0%,20.0%,22.7%であり,いずれも30%未満である。現時点では,女性4人の特別枠は継続している一方,理事全体の30%目標は未達成である。制度の評価には,特別枠の実施の有無だけでなく,毎年度の人数・割合,通常枠からの選任状況及び就任環境の改善を併せて確認する必要がある。
第5 女性会員割合と役員就任上の課題
1 女性会員20.9%と女性理事22.7%の読み方
日弁連の会員数によれば,2026年7月1日現在,弁護士48,124人のうち女性は10,081人であり,女性割合は20.9%である。2026年度は女性理事17人であり,理事に占める女性割合22.7%は女性会員割合を1.8ポイント上回るが,第四次計画が自ら定めた30%目標には7.3ポイント届いていない。
女性会員割合は,役員候補となり得る会員全体の構成を知る基礎資料ではあるものの,それだけで望ましい役員割合が自動的に決まるわけではない。第四次計画は,社会の半数を占める女性の立場を政策・方針へ反映することと,意思決定過程への参画を阻む要因を取り除くことを30%目標の理由としているため,会員割合との単純比較だけで目標達成度を評価するのは適切でない。
2 候補者の発掘だけでは解決しない問題
杉井静子『ジェンダー平等社会の実現へ―「おかしい」から「あたりまえ」に』221頁~224頁は,女性弁護士の出産・育児期の保障,長時間労働,業務分担,所得格差及び意思決定過程への参画を相互に関係する課題として論じる。犬伏由子・井上匡子・君塚正臣編『レクチャージェンダー法〔第2版〕』236頁~237頁も,仕事配分,所得,会費負担の軽減及び女性副会長クオータ制を一連の問題として取り上げている。
これらの文献と第四次計画を踏まえると,女性理事数の増減を候補者本人の意欲だけに帰することはできない。候補者の発掘と推薦に加え,会務に要する時間,育児・介護との両立,所得・業務への影響,任期中の支援及び一部の女性役員への負担集中を検証する必要がある。ただし,これらの要因が各年度の人数変動をどの程度生じさせたかを示す公表データは限られており,個別の因果関係まで断定することはできない。
第6 積極的改善措置としての位置付けと企業役員との違い
1 制度の直接の根拠は日弁連の会則・会規である
男女共同参画社会基本法2条2号は,参画機会に係る男女間の格差を改善するため,必要な範囲で男女のいずれか一方に機会を積極的に提供することを「積極的改善措置」と定義する。女性理事4人の特別枠は,この政策概念に対応する措置と位置付けることができるが,日弁連役員選任制度の直接の根拠は会則56条と役員選任規程4条・4条の3である。
男女雇用機会均等法8条は,事業主が女性労働者について講ずる雇用管理上の措置に関する規定であり,日弁連理事の選任に直接適用される規定ではない。また,弁護士法45条・47条により,日弁連は法律に基づいて設立され,弁護士,弁護士法人及び弁護士会が当然に会員となる団体である。制度への理解を確保するには,目的,人数,推薦方法,毎年度の実績及び見直し結果を継続して公表することが求められると考えられる。
2 企業の女性役員目標は比較材料にとどまる
企業の取締役・監査役と日弁連理事とでは,法的根拠,選任主体及び責任が異なるため,企業法務上の基準を日弁連へ直接適用することはできない。他方で,女性役員の有無だけでなく,意思決定機関全体に占める割合,達成期限,行動計画及び情報開示を評価するという視点は共通する。
ビジネスローヤーズの「【2025年株主総会】議決権行使基準の主な改定動向の比較・分析」は,プライム市場上場会社について,2025年を目途に女性役員1人以上,2030年までに女性役員比率30%以上とする政府・取引所の目標と,機関投資家の基準が人数から割合へ移る動向を整理している。この比較から得られるのは,日弁連についても4人枠の存在だけでなく,理事全体の女性割合と30%目標の達成状況を毎年度示す必要があるという限度の示唆である。
第7 女性役員をめぐる節目と関連施策
1 中田正子弁護士から初の女性日弁連会長まで
佐賀千惠美『三淵嘉子・中田正子・久米愛―日本初の女性法律家たち』172頁~175頁によれば,中田正子弁護士は1969年度に鳥取県弁護士会会長となり,日本で初めて女性として弁護士会会長に就任した。同書は,中田弁護士が,女性であることを理由とする特別扱いではなく,会長選任方法が民主化された結果として自らが選ばれたと受け止めていたことを紹介している。
この歴史的経緯を現在のクオータ制の賛否へ直結させることはできないが,特別枠の整備と通常の推薦・選任過程を開く取組とを区別して考える材料にはなる。2024年度には渕上玲子弁護士が日弁連初の女性会長に就任し,女性役員をめぐる制度史上の新たな節目となった。
2 女性副会長制度と就任環境の整備
日弁連では,2018年度から副会長15人のうち少なくとも2人を女性とする制度を実施し,2021年度から女性理事4人の特別枠を実施している。女性副会長の氏名と制度の経緯は,日弁連の女性副会長で年度別に整理している。
日弁連の男女共同参画推進本部は,育児期間中の会費等免除制度,女性役員候補者への支援,女性会員の交流及び研修を実施している。また,女性社外役員候補者名簿を運用し,女性弁護士の職域拡大も進めている。女性理事数は,このような就業継続,職域,会務参加及び候補者育成に関する施策と切り離さずに検証する必要がある。
第8 出典・参考資料
1 法令・会則・会規
① 日本弁護士連合会「日本弁護士連合会会則」56条,資料25頁~26頁(PDF13頁)。
② 日本弁護士連合会「役員選任規程」4条・4条の3,資料1頁~4頁(PDF1頁~2頁)。
③ e-Gov法令検索「男女共同参画社会基本法」2条2号,「男女雇用機会均等法」8条,「弁護士法」45条・47条。
2 公文書・統計・役員名簿
① 日本弁護士連合会「理事選任における男女共同参画推進特別措置を実施するための会則及び会規の一部改正」令和元年12月6日臨時総会決議・議事概要。
② 日本弁護士連合会「第四次日本弁護士連合会男女共同参画推進基本計画」2頁~3頁・15頁~16頁(PDF2頁~3頁・15頁~16頁),2023年2月16日。
③ 日本弁護士連合会「男女共同参画(男女共同参画推進本部)」及び『さらにすすめる!男女共同参画』3頁~4頁(PDF3頁~4頁),2023年12月。
④ 日本弁護士連合会「日弁連の会員」2026年7月1日現在。
⑤ 日本弁護士連合会「日弁連新聞」第601号,第613号及び第625号の各年度役員名簿。
3 文献・ウェブ資料
① 杉井静子『ジェンダー平等社会の実現へ―「おかしい」から「あたりまえ」に』(日本評論社,2023年)221頁~224頁。
② 犬伏由子・井上匡子・君塚正臣編『レクチャージェンダー法〔第2版〕』(法律文化社,2021年)236頁~237頁。
③ 佐賀千惠美『三淵嘉子・中田正子・久米愛―日本初の女性法律家たち』(日本評論社,2023年)172頁~175頁。
④ 堀下和紀ほか『女性活躍のための労務管理Q&A164』(労働新聞社,2017年)190頁~194頁。
⑤ 塚本英巨「【2025年株主総会】議決権行使基準の主な改定動向の比較・分析」(ビジネスローヤーズ,2025年6月3日更新)。