第1 成績通知申出制度の位置付け
1 制度の目的と確認できる資料の範囲
司法修習の成績通知申出は,分野別実務修習,選択型実務修習,集合修習及び司法修習生考試の成績を,定型の成績通知書によって本人へ知らせる取扱いである。平成20年2月22日に定められ,平成26年5月に改訂された「司法修習生の修習及び考試の成績の本人に対する通知概要」は,この取扱いを簡易かつ迅速な情報提供として位置付けている。
もっとも,令和8年8月9日現在,裁判所ウェブサイトには,成績通知申出について一般向けの現行案内及び現行様式が掲載されていない。本記事で確認できた最新の公開資料は,第73期司法修習生に対する令和2年9月15日付の「成績通知の申出等について(通知)」であるため,以下の申出方法を令和8年現在の取扱いとして断定するものではない。
2 保有個人情報開示申出との区別
成績通知申出は,一般に「成績開示」と呼ばれることがあるが,裁判所の「保有個人情報開示申出」とは別の取扱いである。成績通知申出では,所定の成績を定型の通知書で本人へ郵送するのに対し,保有個人情報開示申出では,司法行政文書の探索,開示又は不開示の判断,開示実施方法の申出及び苦情申出という手順を経る。
したがって,平成26年改訂の成績通知申出書を提出する場合と,現在の保有個人情報開示申出書を提出する場合とでは,申出書,提出先,本人確認書類,処理期間及び交付方法を分けて確認する必要がある。
第2 最新の公開確認資料における申出方法
1 第73期向け令和2年通知
令和2年9月15日付通知は,通知対象となる成績を,①分野別実務修習,選択型実務修習及び集合修習の成績,②考試の成績としている。通知対象者は考試の全科目を受験した本人であり,司法修習を終了したかどうかを問わないとされた。
申出先は,修習中であれば司法研修所事務局企画第二課調査係,修習終了後であれば同事務局総務課庶務係とされ,郵送用封筒の表には「成績通知希望」と朱書きする取扱いであった。これは第73期向けの担当係名であり,現在も同じであることを示す公開資料は確認できない。
2 提出物と通知時期
令和2年9月15日付通知に記載された提出物は,次のとおりである。
① 成績通知申出書2部であり,うち1部は写しでよい。
② 本人確認書類であり,修習終了後に改姓等をした場合には,その経過を示す公文書の写しも提出する。
③ 長形3号の返信用封筒であり,普通郵便料金相当額の切手を貼り,送付先,修習の組及び番号を記載する。
成績通知書は司法修習終了日後に郵送するとされたが,一律の処理期間は示されていない。第73期については,令和2年12月16日までの提出が求められ,同月17日以後の到着分は令和3年3月以後の郵送となる場合があると案内されていたため,旧記事が掲げていた「約3週間」を現在の標準処理期間として用いることはできない。
3 申出前に確認すべき現行事項
平成26年改訂資料及び令和2年通知に列挙された本人確認書類には,現在の本人確認制度へそのまま転用できないものが含まれる。また,郵便料金,様式,担当係及び通知対象者も変更され得るため,申出前に司法研修所へ,①現行様式,②対象者,③提出先,④本人確認書類,⑤返信用封筒及び郵便料金,⑥処理期間を確認する必要がある。
なお,現在の裁判所の一般的な保有個人情報開示手続では,運転免許証,個人番号カードの表面その他法令により交付された書類等が例示され,個人番号,保険者番号及び被保険者等記号・番号等を黒塗りするよう案内されている。しかし,この案内が成績通知申出にもそのまま適用されることは,公開資料から確認できない。
第3 平成26年改訂様式で通知される成績
1 第66期以降の様式
平成26年5月改訂の通知書様式では,第66期以降の分野別実務修習について,民事裁判,刑事裁判,検察及び弁護の4分野を「優・良・可・不可」の4段階で通知する。選択型実務修習は合格又は不合格であり,集合修習は民事裁判,刑事裁判,検察,民事弁護及び刑事弁護の5科目を「優・良上・良・可上・可・不可」の6段階で通知する。
考試は,民事裁判,刑事裁判,検察,民事弁護及び刑事弁護の5科目を「優・良・可・不可」の4段階で通知する。通知書様式には,数値による得点,総合順位又は答案の記載欄はない。


2 第60期から第65期までの様式
第60期から第65期までについては,実務修習を「優・良・可・不可」の4段階,選択型実務修習を合格又は不合格,後期修習を「優・良上・良・可上・可・不可」の6段階で通知する様式である。考試は前記5科目を「優・良・可・不可」の4段階で通知する。
3 第59期以前の考試の様式
第59期以前の考試については,筆記の民事裁判,刑事裁判,検察,民事弁護,刑事弁護及び教養を「優・良上・良・可上・可・不可」の6段階で通知し,口述の民事及び刑事を「優・良・可・不可」の4段階で通知する様式である。もっとも,これらは平成26年改訂資料に収録された期別様式の内容であり,各期について現在どの記録が残り,どの形式で通知を受けられるかは別途確認を要する。
第4 制度の沿革と対象者の変更
1 平成18年の取扱い変更に関する日弁連の報道
日弁連新聞第402号(平成19年7月1日)実頁3頁は,司法研修所の成績について,それまでは任官又は海外留学先への提出など必要性がある場合に限られていたが,平成18年3月の最高裁判所の個人情報取扱方針の変更により,理由を示さない本人への開示が認められるようになったと報じた。これは日弁連による当時の報道であり,最高裁判所が現在公開する手続案内ではない。
2 平成20年制定・平成26年改訂の通知概要
旧記事は通知概要を「平成20年2月22日付」とだけ表示していたが,原資料1頁及び申出書には「平成26年5月改訂」と明記されている。したがって,資料名は「平成20年2月22日制定・平成26年5月改訂の通知概要」と表示するのが正確である。
平成26年改訂の申出書は,考試の全科目を受験しても考試に合格せず司法修習を終了しなかった者を通知対象から除いていた。これに対し,第72期向け令和元年8月15日付通知及び第73期向け令和2年9月15日付通知は,全科目受験者であれば司法修習終了の有無を問わないとしており,少なくとも公開資料上,対象者の取扱いが変更されている。
第5 成績に関係する別の手続
1 裁判所の保有個人情報開示申出
裁判所は個人情報保護法の適用対象ではないが,同法の趣旨を踏まえた独自の取扱要綱により,司法行政文書に記録された本人の保有個人情報について開示申出を受け付けている。最高裁判所が保有する情報については,最高裁判所へ保有個人情報開示申出書及び本人確認書類等を提出する。
開示又は不開示の通知は原則として申出から30日以内であるが,延長される場合がある。開示方法は閲覧又は写しの交付であり,写しには手数料及び郵送料を要し,判断に対しては最高裁判所へ苦情を申し出ることができる。ただし,この一般手続によって,成績通知申出と同じ科目又は評価段階が必ず交付されるとは限らない。
2 英文による司法修習成績証明
司法研修所は,海外のロースクール又は弁護士登録機関等への提出を目的として,英文による司法修習終了証明及び司法修習成績証明を発行している。令和6年12月2日付の公式案内によれば,原則として提出先機関へ直送され,申請者用の控えは交付されず,司法修習生考試の成績は和文でも英文でも証明の対象とされていない。
したがって,海外提出用の英文成績証明は,本人が考試を含む成績通知書を受け取る成績通知申出とは目的及び通知範囲が異なる。
3 修習成績関係文書の保存期間
司法研修所企画第二課の令和7年3月12日付保存期間表は,「修習結果報告書(第○○期)」の具体例として,修習成績報告書(考試委員会宛て),集合修習成績報告書,修習終了者名簿及び実務修習結果報告書を挙げ,保存期間を30年としている。
もっとも,この保存期間表は,個人ごとの成績通知書又は成績通知申出書が30年間保存されることや,30年以内であれば必ず本人通知を受けられることまで示すものではない。古い期の成績については,記録の残存,通知できる範囲及び使用する様式を司法研修所へ確認する必要がある。
第6 関連記事
実務修習,集合修習及び二回試験の成績分布(51期以降)では,修習期ごとの成績分布を掲載している。
出典・参考資料
1 司法研修所・裁判所資料
① 最高裁判所開示資料「司法修習生の修習及び考試の成績の本人に対する通知概要」(平成20年2月22日制定・平成26年5月改訂,PDF実頁1頁~9頁)
② 司法研修所事務局企画第二課「成績通知の申出等について(通知)」(令和元年8月15日,第72期司法修習生向け,PDF実頁1頁~3頁)
③ 司法研修所事務局企画第二課「成績通知の申出等について(通知)」(令和2年9月15日,第73期司法修習生向け,PDF実頁1頁~3頁)
④ 裁判所「保有個人情報開示手続」
⑤ 司法研修所事務局総務課庶務係「英文による司法修習終了・司法修習成績証明申請について」(令和6年12月2日,PDF実頁1頁~4頁)
https://www.courts.go.jp/saikosai/vc-files/saikosai/2024/eibunannai.pdf
⑥ 最高裁判所「標準文書保存期間基準(保存期間表)(司法研修所企画第二課)」(令和7年3月12日,PDF実頁1頁)
https://www.courts.go.jp/saikosai/vc-files/saikosai/2025/hozonkikanhyo/32-shikenkikaku2-R6-2.pdf
2 日弁連資料
① 日本弁護士連合会「司法研修所・司法試験の成績 開示請求できます」日弁連新聞第402号(平成19年7月1日,実頁3頁)