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30期前期修習の女性差別発言問題―日弁連調査,最高裁答弁及び厳重書面注意(AIリライト)

昭和51年(1976年)の30期前期修習では,女性司法修習生に対する司法研修所の裁判教官等の発言が問題となった。

この問題を正確に理解するには,①日本弁護士連合会の調査小委員会が司法修習生らから事情を聴いて認定した事実,②教官等が作成し,国会で読み上げられた報告書,③司法研修所及び最高裁判所事務総局の評価,④司法研修所長が最終的に講じた措置を区別する必要がある。

本記事は,当時の資料と後年の回顧を混同せず,出来事の順序,資料間の相違及び最終措置の法的性質を整理するものである。

第1 問題の輪郭

1 問題となった4人と資料の読み分け

問題となったのは,中山善房裁判教官山本茂裁判教官川嵜義徳司法研修所事務局長及び大石忠生裁判教官の言動である。

日弁連女性の権利に関する特別委員会の調査小委員会は,男女の司法修習生から事情を聴き,昭和51年8月20日付けの「30期女性修習生問題について(報告)」を作成した。

これに対し,4人は司法研修所長宛ての報告書を作成し,昭和51年7月14日の衆議院法務委員会で最高裁判所事務総局人事局長がその内容を読み上げた。

したがって,日弁連調査小委員会の認定と本人の説明が異なる部分について,いずれか一方だけを確定した事実として扱うことはできない。

2 結論―注意を受けたのは2人である

司法研修所長は,昭和51年9月14日,山本教官及び川嵜事務局長に対し,注意の形式の中で最も重い厳重書面注意をした。

中山教官及び大石教官については,不問に付すこととされた。

昭和51年10月14日の参議院法務委員会における最高裁判所事務総局人事局長の答弁によれば,この注意は司法研修所長による行政上の監督として行われたものであり,裁判官に対する法律上の懲戒ではない。

本件を,4人全員が懲戒処分又は厳重注意を受けた事件として説明するのは正確でない。

第2 昭和51年の経過

1 4月から6月までの出来事

大阪弁護士会『最近の司法研修所の実態と問題点』28頁~30頁は,問題となった4人の言動を次のように整理している。

日付人物問題とされた場面主な資料
昭和51年4月27日中山善房裁判教官ソフトボール大会後のクラス懇親会日弁連調査小委員会の報告,本人の報告書
昭和51年5月28日山本茂裁判教官公式見学旅行の列車内日弁連調査小委員会の報告,本人の報告書
昭和51年5月28日川嵜義徳事務局長同じ見学旅行の夜の二次会日弁連調査小委員会の報告,本人の報告書
昭和51年6月26日大石忠生裁判教官担当クラスの司法修習生による教官宅訪問日弁連調査小委員会の報告,本人の報告書

なお,同書122頁の事実関係欄は大石教官宅への訪問日を「5月26日」と記載しているが,同書124頁の結論部分,大石教官本人の報告書及び国会会議録はいずれも「6月26日」としている。

本記事では,複数の資料が一致する6月26日を採用する。

2 公開質問書から最終措置まで

女性弁護士有志は,昭和51年7月12日,司法研修所長に対して公開質問書を提出した。

その後の主要な経過は,次のとおりである。

日付経過資料上の位置づけ
昭和51年7月14日衆議院法務委員会で4人の報告書が読み上げられた国会会議録に残る本人側の説明
昭和51年7月20日30期前期修習の修了式で,司法研修所長が本件に言及した最高裁判所事務総局人事局長による後日の国会答弁
昭和51年8月4日最高裁判所側の調査が進んでおらず,関係する司法修習生から事情を聴いていないことが明らかにされた同日の衆議院法務委員会答弁
昭和51年8月12日司法研修所長が日弁連調査への協力を拒否した日弁連調査小委員会の報告
昭和51年8月20日日弁連調査小委員会が報告書を作成した修習生らへの事情聴取を基礎とする委員会の認定・評価
昭和51年9月14日山本教官と川嵜事務局長に厳重書面注意がされ,中山教官と大石教官は不問とされた司法研修所長による最終措置
昭和51年9月30日日弁連が司法研修所長に要望書を提出した最高裁判所事務総局人事局長による後日の国会答弁
昭和51年10月14日参議院法務委員会で経過,注意理由及び注意の法的性質が説明された最終措置後の公式説明

昭和51年10月14日の参議院法務委員会答弁は,7月12日の申入れから9月30日の要望書までの経過をまとめている。

第3 4人の言動をめぐる二つの説明

1 中山善房裁判教官

日弁連調査小委員会は,昭和51年4月27日のクラス懇親会で,中山教官が一人の女性司法修習生に対し,修習終了後に法曹になるのではなく,家庭で能力を子供のために使うのが幸せであるとの趣旨を述べたと認定した。

同年7月14日の衆議院法務委員会で読み上げられた中山教官の報告書は,目立たない活動にも価値があるという話の中で,家庭に入ることには世直しのための堆肥のような役割として大きな価値があるとの趣旨を述べたが,能力を家庭で腐らせるという表現は使っていないと説明した。

同小委員会は,両者は表現こそ異なるものの趣旨は同じであり,入所直後の女性司法修習生に法曹の道を捨てて家庭に入るよう説く内容であったと評価した(『最近の司法研修所の実態と問題点』119頁~120頁)。

2 山本茂裁判教官

日弁連調査小委員会は,昭和51年5月28日の公式見学旅行の列車内で,山本教官が担当クラスの女性司法修習生3人を一人ずつ呼び,司法試験合格を両親が嘆かなかったか,結婚する意思があるか,法曹にならず家庭に入る方がよいなどと述べたと認定した。

同年7月14日の衆議院法務委員会で読み上げられた山本教官の報告書は,適齢期の娘を持つ親の気持ちで気軽に会話をし,法律家になるのもよいが,家庭に入ることも女性の役割として大切であるとの個人的な考えを述べたと説明した。

同小委員会は,公式日程の列車内で女性司法修習生だけを個別に呼び,事務局長の面前で行われたことを重視し,私的な雑談として許容できるものではないと評価した(同書121頁~122頁)。

3 川嵜義徳司法研修所事務局長

日弁連調査小委員会は,同じ見学旅行の夜の二次会で,川嵜事務局長が男子司法修習生らを前に,男性が生命をかける司法界に女性を入れることは許されない,女性は裁判官に適さないなどの趣旨を述べ,反論した司法修習生に威圧的な発言をしたと認定した。

同年7月14日の衆議院法務委員会で読み上げられた川嵜事務局長の報告書は,男性の気概を強調するために女性を引き合いに出した話し方は相当でなかったとして遺憾の意を示した一方,威圧的な発言は記憶にないと説明した。

同小委員会は,複数の司法修習生の記憶を根拠に威圧的な発言もあったと認定し,女性法曹に対する差別と偏見の表れであると評価した(同書117頁~120頁)。

4 大石忠生裁判教官

日弁連調査小委員会は,担当クラスの司法修習生が教官宅を訪問した際,大石教官が,女性裁判官は休暇によって他の裁判官に負担をかける,弁護士も同じであるなどの趣旨を述べたと認定した。

同年7月14日の衆議院法務委員会で読み上げられた大石教官の報告書は,昭和51年6月26日の懇談で,女性が法曹として仕事を続けるには男性以上の覚悟と能力が必要であるという趣旨を述べたのであり,女性の法曹進出を否定したものではないと説明した。

同小委員会は,教官宅への訪問が当時の慣行として行われ,教官と司法修習生という関係で会話がされたことから,私的発言とはいえず,不穏当かつ遺憾な発言であると評価した(同書123頁~124頁)。

第4 最高裁判所側の調査と最終措置

1 昭和51年7月14日の評価

昭和51年7月14日の衆議院法務委員会では,最高裁判所事務総局人事局長が4人の報告書を読み上げた。

人事局長は,中山教官及び大石教官については,その報告書を前提に女性差別の発言ではないと評価する一方,川嵜事務局長及び山本教官については,なお調査が必要であるとの立場を示した。

この段階の説明は,問題となった側が作成した報告書に依拠した暫定的な評価である。

2 司法修習生から事情を聴いていなかったこと

昭和51年8月4日の衆議院法務委員会で,人事局長は,調査は進展しておらず,当時は教官等が作成した報告書を正しいものとして扱っていると説明した。

さらに,同日の答弁によれば,最高裁判所側は,その時点で問題の言動に関係する司法修習生から事情を聴いていなかった。

したがって,最終措置を,司法修習生側と教官等の双方を同じ方法で調査した上で,教官等の説明が真実であると確定した結果と評価することはできない。

3 厳重書面注意の理由と法的性質

昭和51年10月14日の参議院法務委員会答弁によれば,山本教官については,女性が法曹として活躍することを否定する印象を与える発言をしたことが注意の理由とされた。

川嵜事務局長については,女性が裁判官になることに消極的となるおそれのある発言をしたことが注意の理由とされた。

同日の答弁は,司法研修所長による行政上の監督と,裁判官に対する法律上の懲戒を明確に区別している。

現在の裁判所法56条2項も,司法研修所長が最高裁判所長官の監督を受けて司法研修所の事務を掌理し,職員を指揮監督すると定めている。

第5 30期以前の女性任官をめぐる資料

1 昭和45年から昭和47年までの国会答弁

昭和45年3月20日の衆議院法務委員会で,最高裁判所事務総局人事局長は,女性を男性と別扱いしていないとしながら,第一線の裁判所の責任者が女性裁判官を好まないという受入れ上の問題があると説明した。

昭和46年7月24日の参議院法務委員会でも,最高裁判所事務総局人事局長は,性別による差別的な方針はないとしつつ,社会状況から女性に一定の限界があるとの認識を示した。

昭和47年5月12日の衆議院法務委員会では,女性裁判官が第一線の裁判所で歓迎されない場合があることを,任官希望者に毎年説明していた旨の答弁がされている。

これらは,公式には男女を差別しないとの方針が示される一方,配属先の受入れを理由とする女性への消極的な説明が存在したことを示す当時の公式記録である。

2 22期の調査報告と27期の回顧

東京弁護士会司法制度臨時措置委員会編『岐路にたつ司法修習―司法修習実態調査報告書』(日本評論社,1970年)247頁~248頁は,22期の女性任官希望者が,婚約者の昇進を望むのであれば自分の任官希望を撤回するよう担当教官から言われたとする事例を報告している。

同委員会は,この女性が不採用となったことについて性別による差別の疑いがあると評価しているが,これは同委員会の調査と評価であり,最高裁判所が認めた事実ではない。

また,鬼丸かおる会員(27期)は,東京弁護士会「LIBRA」2020年9月号18頁~19頁で,裁判官を志望していたものの,多くの教官から女性は裁判官に向かないという雰囲気を示され,志望変更を促されたと受け止めて弁護士を選んだ旨を回顧している。

前者は当時の委員会報告,後者は約半世紀後の本人による回顧であり,資料の性質は同じではない。

30期の問題は,このような先行する当時資料及び後年の回顧と併せて読むことにより,女性の任官をめぐる当時の問題状況の中に位置づけることができる。

第6 本件の評価と確認できる限界

1 日弁連調査小委員会の評価

日弁連調査小委員会は,4人の言動はいずれも女性であることを理由とする差別的取扱いを表すものであり,特に山本教官と川嵜事務局長の言動は不当性が高いと評価した。

さらに,同小委員会は,一連の言動を,個人の偶然の発言ではなく,女性法曹を排除しようとする司法研修所の基本的な教育方針の一環と評価した(『最近の司法研修所の実態と問題点』123頁~124頁)。

もっとも,後者は日弁連調査小委員会の評価であって,最高裁判所又は司法研修所が認めた事実ではない。

2 史実として確認できる範囲

本件について,「教官等の弁明が正しいことが確認された」と表現するのは適切でない。

最高裁判所側は,昭和51年8月4日の時点で司法修習生から事情を聴いておらず,教官等の報告書を前提に扱っていたからである。

他方で,日弁連調査小委員会の認定も,司法研修所の協力を得ないまま,司法修習生らへの事情聴取及び入手できた資料を基礎として行われたものである。

史料から確認できるのは,日弁連調査小委員会と教官等の間で事実認定及び評価が分かれたまま,司法研修所長が山本教官と川嵜事務局長に行政上の厳重書面注意をし,中山教官と大石教官を不問としたことである。

第7 出典

1 現行法令

2 国会会議録

3 書籍・会報

  • ① 大阪弁護士会『最近の司法研修所の実態と問題点』(1977年8月)印字28頁~30頁及び117頁~124頁(スキャンPDFのビューア15頁~16頁及び60頁~63頁)
  • ② 東京弁護士会司法制度臨時措置委員会編『岐路にたつ司法修習―司法修習実態調査報告書』(日本評論社,1970年)印字247頁~248頁(スキャンPDFのビューア251頁~252頁)
  • 東京弁護士会「LIBRA」2020年9月号18頁~23頁「鬼丸かおる会員」のうち印字18頁~19頁(リンク先PDFのビューア1頁~2頁)