第1 この記事の対象と結論
1 この記事が扱う問題
mints(民事裁判書類電子提出システム)の公開トップページのHTMLには,Google Tag Manager(以下「GTM」という。)のコンテナ識別子が含まれている。
他方で,GTMという仕組み又はその識別子が存在することと,利用者の端末から第三者に情報が現実に送信されることは同じではない。
この記事は,最高裁判所事務総局が令和8年9月10日付で出した2通の不開示通知書,令和8年9月14日に確認したmintsの公開ページ,mints利用規約及びセキュリティ対策の概要並びに電気通信事業法の外部送信規律を整理するものである。
確認できた事実,資料に書かれていること,そこからの評価及び確認できないことを区別して記載する。
2 結論の要点
① mintsの公開トップページのHTMLには,令和8年9月14日現在,GTM-MH6LMQFという文字列を含むnoscript要素内のiframeが存在した。
ただし,通常のJavaScript有効環境で確認した時点では,そのiframeは有効な要素として表示されず,一般的なGTM読込み用スクリプトも確認できなかった。
② 以上は,限られた時点及び条件における公開ページの観察結果である。
ログイン後の画面,JavaScriptを無効にした場合,特定の操作又はイベントが発生した場合,設定変更後の状態,送信先,送信項目,利用目的,保存期間及び送信先での利用の有無までは確認していない。
③ 最高裁判所は,GTMによる外部送信情報に関する利用者向け案内文書と,GTMのタグ及びトリガーの設定変更に関する決裁手順について,対象文書の存否を答えるだけで情報セキュリティが害されるおそれがあるとして,文書が存在するか否かを明らかにしないまま不開示とした。
これは,案内文書又は決裁手順が存在しないと判断した通知ではない。
④ 電気通信事業法27条の12及び同法施行規則は,一定の電気通信役務について,利用者の端末に外部送信を指令するプログラム等を送信する場合の通知又は容易に知り得る状態に置く措置を定めている。
もっとも,mints又はその運営主体にこの規律が直接適用されるかは,今回確認した資料だけでは結論を出せない。
⑤ mints利用規約13条は個人情報を裁判所の個人情報保護制度に従って取り扱う旨を定めるが,外部送信先,送信される情報,利用目的等を具体的に説明する条項ではない。
セキュリティ対策の概要も,認証,通信経路,バックアップ等を説明する資料であり,外部送信情報の透明性とは別の問題である。
3 確認できたことと確認できないことを混同しないこと
GTMは,ウェブサイト運営者が解析,広告その他のタグを一元管理するために用いる仕組みである。
しかし,コンテナ識別子だけから,どのタグが設定され,どの条件で作動し,どの情報がどこへ送信されるかを確定することはできない。
したがって,「GTMの識別子があるから外部送信が行われている」と断定することも,「通常表示でGTMの読込みを確認できなかったから外部送信はない」と断定することも適切ではない。
この記事では,両方向の過剰な推測を避ける。
第2 最高裁判所の2通の存否応答拒否
1 利用者向け案内文書に関する不開示通知
開示申出の対象は,「mintsに含まれるGoogleタグマネージャー(GTM)について,電気通信事業法における外部送信規律の趣旨を踏まえ,どのような情報を外部送信しているかを利用者に案内する文書(最新版)」であった。
申出日は令和8年7月7日,受付日は同月10日であり,受付番号は080110である。
最高裁判所事務総長は,令和8年9月10日付最高裁秘書第3177号で,この文書の存否を答えるだけで裁判所の情報セキュリティに係る事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条6号に定める不開示情報に相当するとして,存否を明らかにせず不開示とした。
2 タグ及びトリガーの設定変更手順に関する不開示通知
別の開示申出の対象は,「mintsに含まれるGTMのタグ及びトリガーの設定を変更する場合の決裁手順が分かる文書(最新版)」であった。
申出日は令和8年7月8日,受付日は同月10日であり,受付番号は080111である。
最高裁判所事務総長は,同年9月10日付最高裁秘書第3170号で,この文書についても同じ理由により,存否を明らかにせず不開示とした。
3 2通の通知から分かることと分からないこと
2通の通知から直接分かるのは,最高裁判所が,利用者向け案内文書と内部の設定変更手順のいずれについても,存否を答えること自体が情報セキュリティを害するおそれがあると判断したことである。
通知は,GTMの設定内容,現実の送信の有無,送信先,送信項目,利用目的又は保持期間を説明していない。
利用者向けの一般的説明と,攻撃に利用され得る詳細な設定又は内部統制情報とは,秘密性の程度が異なり得る。
この違いを踏まえると,セキュリティ上秘匿すべき設定を開示しないことと,利用者に外部送信情報の概要を説明することは,必ずしも二者択一ではない。
第3 mints公開ページで確認できた技術的事実
1 HTMLに含まれるGTMの識別子
令和8年9月14日にmintsの公開トップページのHTMLを確認したところ,JavaScriptが動作しない場合に用いられるnoscript要素の中に,googletagmanager.comを送信先とするiframeとGTM-MH6LMQFというコンテナ識別子が記載されていた。
これは,公開ページのHTMLにGTMに関係する記述が含まれているという観察事実である。
2 通常表示で確認できた範囲
同日のJavaScript有効環境で公開トップページを通常表示し,画面上のDOMを確認した範囲では,前記iframeは有効な要素として存在せず,一般的なGTM読込み用スクリプトも確認できなかった。
同一生成元のスクリプトは確認できたが,この確認は完全な通信記録の取得又はログイン後画面の調査ではない。
そのため,この観察結果を「外部送信は一切ない」という結論に広げることはできない。
反対に,HTML中の識別子だけを根拠に,具体的な外部送信の内容を断定することもできない。
3 追加確認が必要な事項
外部送信の実態を確定するには,少なくとも,対象となる画面,JavaScriptの有効・無効,ログイン状態,操作イベント,通信先ドメイン,送信項目,Cookie等の識別子,送信時刻及び設定変更履歴を区別して確認する必要がある。
また,技術的な送信事実と,送信先が当該情報を保存又は利用するかという契約上・運用上の事実も区別する必要がある。
第4 電気通信事業法27条の12の外部送信規律
1 規律の概要
電気通信事業法27条の12は,一定の電気通信役務を提供する者が,利用者の端末に外部送信を指令するプログラム等を送信する場合について,利用者に通知し,又は利用者が容易に知り得る状態に置くことを原則として求めている。
同法施行規則22条の2の28及び22条の2の29は,対象となる情報,情報を取り扱う者及び利用目的など,通知等の対象となる事項及び表示方法を定めている。
総務省の外部送信規律FAQは,利用者の端末から外部へ送信される情報について,利用者の確認可能性を確保するという制度の考え方を説明している。
この規律は,個人情報に該当する情報だけを対象とする制度ではなく,端末から送信される情報を利用者が知る機会を確保する点に特徴がある。
2 例外と適用範囲
法27条の12には,役務の提供に真に必要な情報,利用者が送信に同意した情報,利用者がオプトアウト措置を適用していない情報等に関する例外がある。
したがって,外部送信があることだけで直ちに違法になるわけではなく,提供主体,役務の内容,送信される情報,利用目的及び例外該当性を検討する必要がある。
今回の開示申出は,電気通信事業法がmintsに直接適用されると断定したものではなく,同法の外部送信規律の「趣旨を踏まえ」た利用者向け案内文書を対象としている。
mints又は裁判所が同条の適用対象となるかは,今回確認できた一次資料からは確定できない。
3 直接適用の有無と自主的透明性を分けること
仮に法27条の12がmintsに直接適用されない場合であっても,裁判手続で利用される公的システムについて,利用者の端末から誰にどの情報が送信され,何のために利用される可能性があるかを分かりやすく説明することには独立した意味がある。
反対に,法の直接適用があるとしても,法令上の要件を満たす表示が直ちに十分な技術文書又は十分な利用者説明になるとは限らない。
法的義務の有無と,公的システムに期待される説明の水準は分けて検討する必要がある。
第5 mints利用規約及びセキュリティ資料との関係
1 mints利用規約13条
令和8年5月21日施行のmints利用規約13条は,裁判所が本サービスの利用によって取得する個人情報を,裁判所の個人情報保護制度に従って適切に取り扱う旨を定めている。
しかし,同条は,GTM,外部送信先,送信される情報,外部送信の利用目的又は送信先での利用の有無を具体的に記載していない。
個人情報の一般的な取扱条項があることと,外部送信情報について具体的な説明があることは同じではない。
2 セキュリティ対策の概要
mintsの「セキュリティ対策の概要」は,政府情報システムのためのセキュリティ評価制度,通信の暗号化,二要素認証,ウイルス対策,ログ,バックアップ等を説明している。
これらは重要な安全管理策であるが,利用者の端末から第三者へ送信され得る情報の種類及び利用目的を説明するものではない。
通信経路の暗号化,利用者認証,保存データの保護及び外部送信の透明性は,それぞれ別の確認項目である。
第6 司法行政文書開示と存否応答拒否
1 裁判所独自の司法行政文書開示制度
裁判所が保有する司法行政文書の開示は,行政機関情報公開法が直接適用される制度ではなく,最高裁判所の定める「裁判所の保有する司法行政文書の開示に関する事務の取扱要綱」等に基づく制度である。
本件通知は,同法5条6号の不開示情報に「相当」することを理由としている。
2 存否応答拒否の意味
行政機関情報公開法8条は,開示請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで不開示情報を開示することとなるときは,文書の存否を明らかにしないで請求を拒否できると定めている。
存否応答拒否は,対象文書の存在又は不存在を答えること自体が保護対象の情報を明らかにしてしまう場合の例外的な応答方法である。
したがって,通知書の文言から対象文書が存在する又は存在しないと推測してはならない。
3 裁判例から見た審査の枠組みと限界
東京地方裁判所令和元年9月12日判決(平成30年(行ウ)第254号)は,行政機関情報公開法8条による存否応答拒否及び同法5条6号の「おそれ」の判断について,単なる抽象的な可能性では足りず,実質的な支障が生ずる蓋然性が客観的に認められることを要する旨を示している。
ただし,同判決は行政機関情報公開法が適用される別分野の事案であり,裁判所の司法行政文書開示制度又はmintsの情報セキュリティを直接判断した裁判例ではない。
裁判所公式サイトの判決PDFは確認したが,判例秘書による上訴・確定状況及び関連裁判例の網羅的照合は実施していない。
4 不服申出の期間
2通の不開示通知書には,通知を受けた日の翌日から起算して3か月以内に,最高裁判所事務総長に苦情を申し出ることができる旨が記載されている。
通知理由の妥当性を争う場合は,この期間管理が必要となる。
第7 弁護士実務で確認・保存しておきたい事項
1 安全性と透明性を別々に確認すること
法律事務所でmintsを評価する際は,①本人確認,②通信の暗号化,③アクセス権,④端末及びアカウントの管理,⑤障害時の代替手段,⑥外部送信先・送信情報・利用目的を分けて確認するのが分かりやすい。
いずれか1つの対策があることを,他の項目も確認済みであることの代わりにしてはならない。
2 確認日時と確認範囲を記録すること
ウェブページの実装及びGTMの設定は変更され得る。
技術的な確認結果を業務で用いる場合は,確認日,対象URL,ログイン状態,JavaScriptの条件,確認した通信又はDOMの範囲及び確認できなかった事項を記録しておくことが重要である。
3 事件情報の入力を必要最小限に管理すること
mintsは裁判書類の提出等を行うシステムであり,事件関係者の個人情報,営業秘密その他の機微な情報を取り扱う。
外部送信の有無とは別に,提出ファイル,ファイル名,説明文,通知先及び事務所内の操作権限を必要な範囲に管理し,誤提出又は不要情報の混入を防ぐ必要がある。
第8 今後の開示申出・説明資料に望まれる構成
1 設定の秘密と利用者向け説明を分離すること
攻撃手法に結び付き得る詳細なタグ設定,トリガー条件又は内部の決裁経路を開示しない必要があるとしても,利用者向けの説明まで全て同じ秘密性を持つとは限らない。
利用者向けには,送信され得る情報の区分,送信先となる事業者の名称,利用目的,送信先での利用の有無,保存期間又はその考え方,設定変更時の公表方法など,セキュリティを害しにくい粒度で説明する方法が考えられる。
2 非公開部分を限定した資料を対象にすること
今後の開示申出では,詳細な構成情報を求める文書と,一般利用者向け説明を求める文書を分け,後者については秘密部分を除いた部分開示又は公表済み資料の特定を求めることが考えられる。
また,「存在する全ての設定資料」のような広い対象ではなく,外部送信先の区分,送信情報の区分及び利用目的を列挙した利用者向け文書というように,説明目的と必要項目を明確にすることが有用である。
第9 関連記事
mints利用規約の条項全体については,mints利用規約を読む-禁止事項・アカウント管理・免責条項(AI作成)を参照されたい。
mintsの画面及び情報設計については,システムとしてのmintsの論評~UI/UXデザイン,フロントエンドエンジニアリング及び情報アーキテクチャ(IA)の視点から~(AI作成)を参照されたい。
mintsを利用する弁護士向けの実務Q&Aについては,mints(ミンツ)とは―料金・対象事件・登録・ログイン・提出・送達の実務Q&A(AI作成)を参照されたい。
裁判所の各種システムの全体像については,裁判所における主なシステム―J・NET,RoootS,TreeeS,mints,NAVIUS及びKEITAS(AIリライト)を参照されたい。
最高裁判所の不開示通知書の一覧については,最高裁判所の不開示通知書を参照されたい。
第10 出典
1 最高裁判所の不開示通知書
①令和8年9月10日付最高裁秘書第3177号(mintsに含まれるGTMによる外部送信情報の利用者向け案内文書(最新版))
②令和8年9月10日付最高裁秘書第3170号(mintsのGTMのタグ及びトリガー設定変更の決裁手順(最新版))
2 mintsの公表資料
①mints公開トップページ
②民事裁判書類電子提出システム利用規約
③セキュリティ対策の概要
3 法令及び総務省資料
①電気通信事業法
②電気通信事業法施行規則
③外部送信規律FAQ
④行政機関の保有する情報の公開に関する法律
4 司法行政文書開示制度及び裁判例
①司法行政文書の開示手続
②裁判所の保有する司法行政文書の開示に関する事務の取扱要綱
③東京地方裁判所令和元年9月12日判決(平成30年(行ウ)第254号)