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個人再生の5000万円要件―計算方法,少額超過時の弁済・免除と親族援助(AI作成)

第1 5000万円を少し超える場合に先に確認すること

個人再生を利用できるかは,「住宅ローン以外の借入元本が5000万円以下か」だけでは決まらない。
対象となる債権の範囲,利息・遅延損害金,担保による回収見込額及び手続の段階を確認する必要がある。

上限を少し超える場合には,計算の誤りや除外すべき債権がないかを調べた上で,申立前の一部弁済又は真正な債務免除によって有効に債務が減少するかを検討することになる。
ただし,按分弁済であれば当然に許容されるとはいえず,開始後に弁済して認可時までに減らせば足りるという制度でもない。

本記事は,令和8年9月10日現在の民事再生法民法及び裁判所公表資料に基づく一般的な検討である。
条文から確認できる仕組みと,個別の弁済・免除について裁判所の取扱いを確認すべき事項を分けて説明する。

第2 利用の入口と計画認可の両方に金額要件がある

1 申立て・開始の段階

民事再生法221条1項は,継続的又は反復的に収入を得る見込みがあり,所定の除外をした再生債権の総額が5000万円を超えない個人について,小規模個人再生の利用を認めている。
給与所得者等再生も,同法239条1項によりこの金額要件を満たすことが前提となる。

債務者が自ら申し立てる場合,小規模個人再生又は給与所得者等再生を求める申述は,開始申立ての際にしなければならない(同法221条2項,239条2項)。
要件に該当しないことが明らかな場合の開始前の処理として,通常再生による手続又は申立ての棄却が定められている(同法221条6項・7項,239条3項・4項)。

したがって,金額要件を満たしていないことが明らかなまま,認可までの減額を予定して個人再生を申し立てればよいとはいえない。
一方,過去のある時点で5000万円を超えていたというだけで,その後に適法かつ有効な債務減少があっても永久に利用できなくなるという規定ではない。

2 再生計画の認可の段階

認可段階では,異議のなかった届出債権である「無異議債権」と,裁判所が額を定めた「評価済債権」の総額から,法定の除外額を控除した金額が問題となる。
この金額が5000万円を超えている場合は,小規模個人再生では同法231条2項2号,給与所得者等再生では同法241条2項5号により不認可となる。

開始段階の算定と認可段階の算定は,基礎となる債権と除外規定が異なる。
「5000万円以下」という数字だけを取り出さず,どの段階のどの金額を確認しているかを明確にする必要がある。

第3 5000万円に何を含め,何を除くか

1 条文ごとの算定対象

確認する段階基礎となる金額条文が除外するもの
小規模個人再生の利用要件。給与所得者等再生もこれを前提とする再生債権の総額住宅資金貸付債権,別除権の行使による弁済見込額,再生手続開始前の罰金等(221条1項)
計画認可の金額要件無異議債権と評価済債権の総額住宅資金貸付債権,別除権の行使による弁済見込額,84条2項の請求権(231条2項2号,241条2項5号)

民事再生法84条2項の請求権は,開始後の利息,開始後の不履行による損害賠償・違約金及び手続参加費用である。
この除外を,開始前の利息・遅延損害金まで除く意味に広げることはできない。

そもそも再生債権に当たるかの確認も必要である。
同法84条1項は,共益債権と一般優先債権を再生債権から除いており,借入先の残高を単純合計した金額と法律上の算定対象額が常に一致するわけではない。
5000万円の計算から外れることと,その債務を支払わなくてよいことも別である。

2 住宅ローンと担保不足額

住宅資金貸付債権は,同法196条3号の要件を満たす債権である。
自己の居住用住宅の建設・購入・改良等のための貸付け,分割払の定め及び住宅への抵当権設定など,資金使途と契約・担保関係を確認する必要がある。

住宅を担保にして借りた事業資金が,担保の存在だけで住宅資金貸付債権になるわけではない。
また,住宅資金貸付債権を上限計算から除けることと,住宅資金特別条項を利用して住宅を維持できることは別の要件問題である。

住宅資金貸付債権以外の担保付債権では,担保から回収できると見込まれる部分を除き,不足見込額を確認する。
例えば,債権額400万円に対して担保からの回収見込額が300万円であれば,不足見込額は100万円である。
担保付債権を全額除外したり,住宅資金貸付債権として除外した同じ債権を重ねて控除したりしてはならない。

3 元本だけでなく利息等を揃えて計算する

債権者ごとに元本,利息・遅延損害金,算定の終期,担保による回収見込額及び弁済履歴を整理する。
保証債務や親族に対する債務も確認し,一般の金融機関への借入れだけを集計しないことが重要である。

例えば,無担保債権の元本が4980万円でも,算入される開始前の利息・遅延損害金が50万円あれば,合計は5030万円となる。
相談時の残高が5000万円以下でも,開始までに利息等が増える可能性があるため,残高証明の日付と見込額を分けて確認する。

一部弁済をするときは,支払った金額がどの債務のどの部分に充当されたかを確認する。
民法489条は,元本のほか利息・費用を支払うべき場合の充当を定めており,振込額と元本減少額が同じとは限らない。

第4 少額超過時の一部弁済と債務免除

1 按分弁済の計算と実行の可否

同順位の全対象債権について同じ割合で支払うことは,特定の債権者だけを優遇する支払とは事情が異なる。
しかし,「同じ割合である」というだけでは,弁済原資,対象債権者の漏れ,担保・優先順位,支払時期及び債権者の利益を確認したことにはならない。

計算だけを示す仮例として,算入対象となる2債権が3024万円と2016万円,合計5040万円である場合を考える。
それぞれ24万円と16万円を弁済すれば,算術上の残額は3000万円と2000万円,合計5000万円となる。

この例は,追加利息,別の債務,求償・代位等がなく,支払額が想定どおり算入対象額を減らすという前提の計算例である。
当該弁済が法律上許されることや,裁判所が個人再生の利用を認めることを示す例ではない。

2 申立前に整理しておく資料

申立前の一部弁済を検討するときは,少なくとも,①全債権者と債権の性質・残額,②按分の基礎額と計算表,③弁済原資の出所,④支払日と受領・充当の確認,⑤弁済後の資産・負債一覧を揃える必要がある。
債務者本人の財産から支払う場合は,債務とともに財産も減少するため,清算価値や申立ての誠実性との関係も検討する。

民事再生法25条4号は,不当目的又は不誠実な申立てを棄却事由としている。
実体のない減額を債権者一覧表へ記載したり,親族債権等を除外して見かけ上の上限を整えたりする方法は採るべきではない。

本記事の確認範囲では,上限超過分の按分弁済を直接認め,又は禁止した裁判例・全国共通の裁判所運用は確認できていない。
具体的な支払を実行する前に,資料を揃え,申立先裁判所の運用との整合を確認する必要がある。

3 債権者による真正な債務免除

民法519条は,債権者が債務者に対して免除の意思を表示したときに,債権が消滅することを定めている。
一部免除を検討する場合は,対象債権,免除する元本・利息等の範囲,金額,効力発生日及び条件を明確にする。

返済猶予,請求を当面控える合意及び債権者内部の貸倒処理は,当然に債務免除と同じ効果を持つものではない。
免除後の残高と,別途の支払約束・補償合意等がないかを確認し,形式と実際の合意を一致させる必要がある。

第5 申立前,申立後及び開始後では制限が異なる

1 時期ごとの検討

時期主な確認事項
申立前弁済・免除の有効性,原資,残高,対象債権者の範囲,清算価値及び申立ての誠実性
申立後・開始決定前上記に加え,民事再生法30条の保全処分等の有無と内容,開始要件の審査との関係
開始決定後同法85条の計画外弁済の制限,法律上の例外及び裁判所の許可の要否,届出・評価等への反映方法

民事再生法85条1項は,開始後の再生債権について,特別の定めがある場合を除き,再生計画によらない弁済等を制限している。
債権者が受領を承諾したことや,全債権者へ同じ割合で払うことだけで,この制限を離れてよいとはいえない。

同条2項・5項等の例外には,それぞれ固有の要件がある。
大口債権のうち上限を超える数十万円だけを払うことと,同条5項の「少額の再生債権」を早期弁済することを混同してはならない。

2 開始後の免除と,個人再生での否認規定

同法85条1項は,免除を禁止対象となる消滅行為から除外している。
もっとも,免除の効力,裁判所への変更届及び手続内で確定した債権額への影響は別の問題である。
届出の方法と確定時期による違いは,第7の3・4で説明する。
免除ができることから,開始要件や認可要件の問題を後から必ず解消できると結論することはできない。

また,同法238条・245条により,個人再生では通常再生の否認権に関する第6章第2節の規定が適用されない。
個人再生委員が通常再生の否認権を当然に行使するとの説明は正確でない。

この適用除外と,計画外弁済の制限,清算価値の評価及び後に破産手続となった場合の問題は区別する必要がある。
個々の支払について,清算価値へ何をいくら反映するかは,適用法と申立先の運用を踏まえて確認すべき事項である。

第6 親族援助によって債務総額が減るとは限らない

1 借入れ,贈与及び直接弁済の比較

援助の方法債務総額を検討するときの着眼点
親族から借りて金融機関へ返済する金融機関への債務が減っても,親族への返還債務が生じる。同額の単純な借換えでは総額は減らない
返還義務のない真正な贈与を受けて返済する新たな返還債務は生じないが,受贈後の財産の帰属と支払時期に応じた制限等を確認する
親族が金融機関へ直接弁済する第三者弁済の要件と,親族の求償・代位関係を確認する。振込人だけでは判断できない
既存の親族債権を免除してもらう真正な免除の意思表示,対象額,条件及び別の返済約束がないことを確認する

貸付けを「援助」又は「贈与」と呼び替えるだけでは,返還債務は消えない。
当事者の合意,資金移動,返済予定及び債権者一覧表の記載を一致させる必要がある。

2 第三者弁済と求償・代位

民法474条は第三者弁済を認める一方,債務者・債権者の意思等による制限を定めている。
同法499条・501条は弁済による代位とその効果を定め,代位した者の権利行使は,自己の権利に基づいて求償できる範囲に限られる。

求償権の発生・範囲は,保証,委託その他の内部関係によって確認する必要がある。
親族が返還を求めない趣旨で負担する場合も,その合意や権利放棄の範囲を明確にし,債務者に残る債務を照合する。

なお,開始後に親族が直接支払う場合の再生手続上の処理についても,原資と求償・代位を含めた確認が必要である。
「本人の口座を通さなければ上限問題を解消できる」といった一律の方法として扱うべきではない。

3 受け取って残っている援助金と清算価値

返還義務のない援助であっても,債務者が取得して保有する金銭は,親族が負担したという理由だけで財産目録から除けるものではない。
援助を受けた日,返還条件,保管場所及び使用状況を明らかにし,清算価値の基準時と現金・預貯金の取扱いを確認する必要がある。
援助金を既に弁済に使った場合も,残高だけで処理を終えず,その支払による財産流出を清算価値へ反映すべきかを検討する。

川畑正文ほか編『はい6民です お答えします(倒産実務Q&A)第2版』(大阪弁護士協同組合,平成30年)542頁は,大阪地裁における現金と普通預金・通常貯金の取扱いについて,その合計額から99万円を控除する旨を説明している。
同頁は,実質的な危機時期以降に他の財産を現金化した場合には現金化前の財産として扱うことや,開始決定前の履行準備の積立金を清算価値に計上することも説明している。
これは平成30年刊行資料に記載された大阪の運用であり,全国共通の法定預金控除や令和8年の個別事件に対する回答を示すものではない。

上記の現金・普通預金の取扱いが適用されるとの前提で,もともとの合計80万円に,返還不要の援助40万円を受け,合計120万円が基準時に残っているとする。
他の事情がなければ,この区分の清算価値は120万円から99万円を控除した21万円となる計算である。
これは記事中の仮例であり,親族援助だけに適用される控除や,財産全体の清算価値が21万円になることを意味しない。

4 継続的な援助と計画の履行可能性

前掲『はい6民です お答えします(倒産実務Q&A)第2版』494頁~496頁は,家計への親族の協力を踏まえて履行可能性を判断する際の資料として,収入,援助額の合理性,協力の意思,定年等を踏まえた将来の見込みを挙げ,別居親族からの援助は実績や継続性を慎重に確認する旨を説明している。
単に「親が足りない分を出す」とするだけではなく,援助者自身の生活費・負債,実際の送金実績及び援助を続けられる期間を資料にすることが重要である。

継続援助を計画弁済の資金として考慮することと,債務者本人が個人再生の収入要件を満たすことは同一ではない。
また,一括の援助金が残存する場合の清算価値と,将来の家計負担の見込みは,区別して説明する必要がある。

第7 届出後の異議は任意の減額手段ではない

1 実体的な争いと異議留保

既に行った有効な弁済が反映されていない,利息計算が誤っているなど,債権の存否・額について争いがある場合には,民事再生法226条・227条による処理を検討する。
異議を述べるだけで,実体法上の債務がその金額だけ消滅するわけではない。

同法226条1項ただし書は,債務者が債権者一覧表に記載した額等について,同法221条4項の異議留保をしていない場合の異議を制限している。
一覧表の作成時に争点を整理せず,届出後に自由に減額すればよいと考えることはできない。
届出後の免除など,後から生じた債権消滅については,異議とは別に,以下の変更届と手続内確定の問題を検討する。

2 評価申立ての期間と申立人

異議が述べられた場合の再生債権の評価は,原則として当該債権者が,異議申述期間の末日から3週間の不変期間内に申し立てる(同法227条1項)。
執行力ある債務名義又は終局判決がある場合には,異議を述べた者が申し立てなければならない。

後者の場合に,期間内の申立てがないとき又は申立てが却下されたときは,異議がなかったものとみなされる(同条2項)。
異議,評価,期間経過の効果及び実体法上の債務消滅を混同せず,どちらがいつまでに手続を行うかを確認する必要がある。

3 免除等を裁判所に届け出る方法

民事再生規則33条は,届出債権の消滅など,他の再生債権者の利益を害しない変更が生じたとき,届出をした債権者に,遅滞なく裁判所へ届け出る義務を課している。
個人再生で適用されないのは同条7項・8項であり,同条1項~6項までが一括して除外されるわけではない(同規則135条・141条)。
規則本文はe-Govで確認できなかったため,裁判所が公表する本文の17頁,49頁及び52頁で確認した。

債権者が提出する届出書には,変更の内容と原因を記載する。
債務者側で提出する場合には,原則として,①債権者に変更内容と1週間以上の異議申述期間を事前に通知し,②その期間内に異議がないことを確認し,③変更の内容・原因を記載した届出書に証拠書類の写しを添える(同規則33条2項~5項)。
この異議申述期間は,法226条の債権調査のための異議申述期間とは別である。

免除書面,債権者への通知と到達を示す資料,変更前後の元本・利息等の内訳を揃えると,免除の効力と届出内容を照合しやすい。
「債権の一部取下書」等の名称の書面を用いる場合も,単なる手続参加の撤回なのか,実体債権の免除を伴うのかを区別し,提出先の書式と処理方法を確認する必要がある。

4 手続内確定の前後で計画策定への影響が異なる

全国倒産処理弁護士ネットワーク編『個人再生の実務Q&A120問』(金融財政事情研究会,平成30年)187頁~188頁〔竹村一成執筆,Q77〕は,再生債権の一部取下げについて,次のように説明している。
以下は実務文献の説明であり,5000万円超過を解消した直接の裁判例ではない。

取下げの時期・債権の状態同文献が説明する計画策定の基礎
異議申述期間経過前取下げ後の額を基礎とする
無異議債権となった後取下げによる減少を考慮せず,手続内で確定した額を基礎とする
異議が出され,評価申立てがあり,評価決定前取下げ後の額を基礎とする
評価決定後取下げによる減少を考慮せず,手続内で確定した額を基礎とする

同文献は,確定後の取下げについて,既に生じた効果を遡って覆すものではなく,将来の配当受領権や議決権等の放棄として扱う旨も説明している。
したがって,「開始後でも免除できる」「変更届を提出できる」ということだけから,無異議債権・評価済債権の総額を認可直前に自由に減らせるとは説明できない。

本記事では,免除を予定する場合には,入口の金額要件を満たすかを申立前に検討し,届出後であれば,免除の効力発生日,変更届の時期,異議申述期間及び評価決定の有無を直ちに照合すべきものと整理する。
既に手続内確定した債権がある場合の5000万円判定や計画案の具体的な修正は,この文献の説明を示した上で,申立先裁判所への確認が必要である。

第8 給与所得者等再生では金額以外の要件も確認する

1 収入と計画弁済総額

給与所得者等再生には,給与等の定期的収入が見込まれ,その変動幅が小さいことが必要である(民事再生法239条1項)。
計画認可でも,収入,債権者の一般の利益,過去の免責等からの期間及び法定の可処分所得2年分の基準等が審査される(同法241条)。

例えば,同法231条2項2号の対象総額が5000万円である場合,同項3号の10分の1基準による額は500万円となる。
しかし,給与所得者等再生の計画弁済総額が必ず500万円になるわけではなく,清算価値や同法241条2項7号の可処分所得基準等との比較が必要である。

500万円を36か月で均等に準備すると,月約13万9000円となる。
これは資金繰りの概算であって法定の毎月払額ではなく,住宅ローン,生活費,税金等の支出と併せて履行可能性を確認する必要がある。
一般的な弁済額の説明は,裁判所「裁判手続 民事事件Q&A」も参照されたい。

2 議決権者が2社の場合

小規模個人再生では,不同意の回答をした議決権者が総数の半数に満たず,かつ,その議決権額が総額の2分の1を超えないことが可決の要件となる(同法230条6項)。
議決権の不統一行使等の特殊事情がなく,議決権者が2社だけである場合には,1社の不同意で頭数が半数となり,可決要件を満たさない。

給与所得者等再生には,この賛否による決議はない。
ただし,同法240条の意見聴取と認可要件の審査はあるため,反対債権者がいることだけを理由に,給与所得者等再生なら確実に認可されるとはいえない。

第9 関連裁判例から分かることと分からないこと

1 名古屋高裁平成26年1月17日決定

名古屋高裁平成26年1月17日決定(平成25年(ラ)第441号)は,給与所得者等再生の開始決定に対する即時抗告事件である。
小規模個人再生の廃止後にされた申立てについて,債権者の意向や従前の経過等から不当目的・不誠実な申立てであるとする主張を退けている。

決定本文に現れる約5826万円の総債務額には,約2886万円の住宅資金貸付債権が含まれている(裁判所PDF4頁)。
この決定を,5000万円要件の例外を認めた事例又は上限超過分の按分弁済を許容した事例として引用することはできない。
また,開始決定の当否と,後の計画認可の当否を区別する必要がある。

2 最高裁第三小法廷平成29年12月19日決定

最高裁第三小法廷平成29年12月19日決定(平成29年(許)第19号,民集71巻10号2632頁)は,小規模個人再生の住宅資金特別条項付き計画を扱った。
法廷意見は,計画案の可決が信義則に反する行為に基づくかを判断するときには,無異議債権の存否を含む届出等の事情を考慮できるとした(裁判所PDF3頁~5頁)。

異議がなかったことだけでは,不正な債権記載についての審査を免れないという点で参考となる。
一方,この決定も,按分弁済の許否や給与所得者等再生の5000万円調整を直接判断したものではない。

3 東京高裁平成22年10月22日決定

東京高裁平成22年10月22日決定(平成22年(ラ)第1444号,判例タイムズ1343号244頁,判例秘書番号L06520814)は,共済の解約返戻金から住宅ローンの滞納分48万2138円を弁済した小規模個人再生の事案である。
本記事では判例秘書の裁判本文を確認した。
裁判所HP未掲載である(本記事の事件番号検索時点)。

同決定は,申立てに近接したこの弁済について,偏頗行為として否認の対象となる可能性が高いとし,弁済相当額を清算価値へ計上した新たな計画案の提出等に応じなかった債務者の抗告を棄却した。
解約後に残った現金が99万円以下であるとの主張や,支払先が住宅ローンの別除権者であるとの主張も,この事案の弁済を正当化するものとはされなかった。

この決定は,個人再生で通常再生の否認規定が適用されないことから,偏頗弁済を清算価値の検討から外してよいとはいえないことを示す。
ただし,本人の共済解約返戻金による特定債権者への弁済の事案であり,親族固有の資金による援助や5000万円超過分の按分弁済を直接判断したものではない。

第10 相談・申立準備で揃える資料と裁判所運用

1 資料を揃える

申立ての方針を決める前に,次の資料を揃えることが有用である。
具体的な提出書類や運用は,申立先の公表書式・案内で確認する必要があり,大阪地方裁判所倒産部の案内も参照先となる。

資料確認する内容
全債権者の一覧,契約書及び残高資料元本,利息・損害金,基準日,保証債務,親族債務及び債務名義の有無
登記事項証明書,担保契約及び査定資料住宅資金貸付債権への該当性,担保の範囲及び不足見込額
通帳,送金記録,贈与・貸付等の合意書弁済原資,資金の帰属,返還義務,求償・代位の有無
免除の意思表示と残高確認資料免除の対象・額・発効日・条件及び残債務
収入資料,家計表及び財産目録収入の安定性,清算価値,計画弁済の実行可能性
過去の倒産手続資料と今回の進行表過去の免責等の確定日,申立日,開始日,異議期間及び評価申立期限

2 公開資料で確認できた運用の範囲

大阪地方裁判所倒産部Q&Aは,法律で定められた方法による債務総額が5000万円以下であることを個人再生の利用要件として案内している。
他方,今回確認した公開案内には,上限超過分を按分弁済する具体的な許容基準や,確定後の免除による上限調整を認める個別の回答は示されていなかった。

前掲の大阪の実務書による援助・清算価値の説明は,その刊行時点の運用を知る資料である。
今回の調査では,特定の申立先・支部から本件の方法について回答を得たものではなく,現在の受付実務についても同一であると断定しない。

具体的な照会では,①按分計算と原資,②開始までの利息等を含む残額,③免除・変更届と手続内確定の前後関係,④援助金の残存・使用状況,⑤清算価値表への計上方法を示すことが有用である。
「少し超えるので払ってよいか」という抽象的な問いだけでなく,裁判所が判断できる資料と時系列を揃える必要がある。

第11 関連記事と出典

1 関連記事

倒産手続全般の論点は,倒産事件の実務メモ―破産・個人再生・私的整理(AIリライト)で整理している。
自然災害との因果関係がある返済困難については,自然災害債務整理ガイドライン-対象・メリット・デメリットと手続(AIリライト)の対象・要件も確認する必要がある。

2 出典と確認範囲

民事再生法(e-Gov法令検索)25条,30条,84条・85条,196条,221条,226条・227条,230条・231条及び238条~245条
民法(e-Gov法令検索)474条,489条,499条・501条及び519条
裁判所「裁判手続 民事事件Q&A」の個人再生手続・弁済額に関する項目
名古屋高裁平成26年1月17日決定(平成25年(ラ)第441号),裁判所PDF1頁~8頁
最高裁第三小法廷平成29年12月19日決定(平成29年(許)第19号,民集71巻10号2632頁),裁判所PDF1頁~8頁

民事再生規則(裁判所公表PDF)33条・135条・141条(PDF17頁,49頁及び52頁)
⑦ 東京高裁平成22年10月22日決定(平成22年(ラ)第1444号,判例タイムズ1343号244頁),判例秘書番号L06520814の裁判本文
川畑正文ほか編『はい6民です お答えします(倒産実務Q&A)第2版』(大阪弁護士協同組合,平成30年)494頁~496頁,542頁
⑨ 全国倒産処理弁護士ネットワーク編『個人再生の実務Q&A120問』(金融財政事情研究会,平成30年)187頁~188頁〔竹村一成執筆,Q77〕
大阪地方裁判所倒産部Q&A

判例秘書では,個人再生・給与所得者等再生等と,5000万円・五千万円,按分・案分,免除,清算価値・偏頗等を組み合わせて検索し,関連する結果一覧と上記東京高裁決定の裁判本文を確認した。
この検索・閲覧の範囲では,5000万円超過分の按分弁済を直接許容した先例を確認できていない。
検索結果の全件本文を精読したものでも,先例の不存在を証明したものでもない。

開始後の変更届は規則本文で,手続内確定後の一部取下げの影響は上記実務文献の原典で確認した事項である。
後者を5000万円調整の直接先例として扱わず,特定の申立先の現行運用及び個別の清算価値計算は,事案を示して確認する必要がある。