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刑事裁判の書証の証拠能力-伝聞法則・供述調書・同意書面の判断順序(AI作成)

刑事裁判で書面を証拠として用いるためには,その書面が事件に関係するというだけでは足りず,刑事訴訟法上の証拠能力を備えていなければならない。
とりわけ,人の供述内容を記載した書面には伝聞法則が適用されるため,立証趣旨を確定した上で,刑事訴訟法320条から328条までのどの規定によって証拠とすることができるかを検討する必要がある。

本記事は,令和8年9月7日現在の法令を基準として,供述調書,実況見分調書,鑑定書,同意書面その他の書証について,証拠能力を判断する順序を整理するものである。
個別事件では,書面の作成経過,供述者の出廷可能性,立証趣旨,証拠調べ請求の方法及び相手方の意見によって結論が異なる。

第1 書証の証拠能力を判断する順序

1 最初に立証趣旨を確定する

書面が伝聞証拠に当たるかどうかは,書面の名称だけでなく,その書面によって何を証明しようとするかによって決まる。
例えば,供述調書に記載された供述内容が真実であることを証明するために用いる場合は,原則として伝聞証拠となる。
これに対し,脅迫文言が記載された文書を脅迫行為そのものの存在を示すために用いる場合や,ある発言を聞いた者の認識又はその後の行動を説明するために用いる場合は,その発言内容の真実性を立証するものではないため,伝聞証拠に当たらないことがある。

録音,録画又は写真であっても,機械的に記録された客観的な状況を立証するのか,人の供述内容の真実性を立証するのかを区別しなければならない。
現場再現を撮影した写真又は録画は,撮影方法に関する記録であると同時に,再現者の供述を動作として記録したものでもあり得るため,複数の伝聞問題が生じることがある。

2 証拠能力と証明力等を区別する

証拠能力は,その証拠を事実認定の資料として用いることが法律上許されるかという問題である。
証明力は,証拠能力がある証拠をどの程度信用し,どの程度の重みを与えるかという別の問題である。

書面の作成者,原本性,同一性又は改変の有無に関する真正の問題も,伝聞例外の要件とは区別して検討する必要がある。
さらに,違法収集証拠に当たるか,証拠調べ請求が適切にされているかという問題も,伝聞法則とは別の検討項目である。

実務上は,①立証趣旨,②伝聞証拠該当性,③伝聞例外又は同意の根拠条文,④作成者及び同一性,⑤証拠調べの方法,⑥証明力の順に整理すると,論点の混同を避けやすい。

第2 伝聞法則と伝聞例外の全体像

1 刑事訴訟法320条の原則

刑事訴訟法320条1項は,刑事訴訟法321条から328条までに定める場合を除き,公判期日における供述に代えて書面を証拠とし,又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることができないと定めている。
これは,原供述者を公判廷で尋問し,供述時の知覚,記憶,表現及び真摯性を吟味する機会がない供述証拠を原則として排除するものである。

もっとも,刑事訴訟法320条は,刑事訴訟法321条から328条までに定める伝聞例外,同意書面,合意書面及び証明力を争うための証拠を認めている。
したがって,伝聞証拠に当たると判断した後は,直ちに証拠能力がないと結論付けるのではなく,該当する例外規定を検討することになる。

2 供述書と供述録取書

刑事訴訟法321条1項は,被告人以外の者が作成した供述書又はその者の供述を録取した書面で,供述者の署名又は押印のあるものを対象としている。
供述者自身が内容を記載した書面が供述書であり,捜査官等が供述を聴き取って記載した供述調書等が供述録取書である。

供述録取書では,録取者が正しく記載したかという問題と,原供述者の供述内容が信用できるかという問題が重なる。
供述録取書を作成した者の公判供述だけで,原供述者の供述内容まで当然に証拠となるわけではない。

3 伝聞例外の分類

刑事訴訟法321条1項は,被告人以外の者の供述書及び供述録取書を,裁判官面前調書,検察官面前調書及びそれ以外の書面に分けている。
同条2項から4項までは,公判調書,裁判官の検証調書,捜査官の検証調書及び鑑定書等について,別個の要件を定めている。

さらに,刑事訴訟法321条の2は他の手続でされたビデオリンク方式による証人尋問の記録を,同法321条の3は一定の被害者等の供述を記録した録音録画記録媒体を,同法322条は被告人の供述書等を,同法323条は特に信用すべき書面をそれぞれ対象としている。
書証を「1号書面,2号書面,3号書面」だけで分類すると,同法321条2項から4項まで又は同法323条の書面と混同しやすいため,根拠条文と項号を併記することが望ましい。

第3 被告人以外の者の供述書等-刑事訴訟法321条1項

1 裁判官面前調書

刑事訴訟法321条1項1号は,裁判官の面前における供述を録取した書面について,供述者が死亡,心身の故障,所在不明又は国外所在のため公判で供述できないとき,又は公判で前の供述と異なる供述をしたときに証拠能力を認めている。
裁判官の面前で作成されたことが制度上の信用性を支えるが,常に反対尋問が実施済みであることを意味するものではない。

2 検察官面前調書

刑事訴訟法321条1項2号前段は,供述者が死亡,心身の故障,所在不明又は国外所在のため公判で供述できない場合を定めている。
この場合,条文上は,公判供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況を別途の要件として掲げていない。

もっとも,国側が供述者の国外退去を利用して被告人の反対尋問の機会を失わせるなど,手続的正義の観点から公正さを欠く事情があれば,形式的に国外所在となっただけで証拠能力が当然に認められるわけではない。
最高裁平成7年6月20日第三小法廷判決・平成2年(あ)第72号は,国外退去となった供述者の検察官面前調書について,国家機関がその国外退去を利用して反対尋問の機会を失わせた場合には,手続的正義の観点から同号前段の適用を否定すべきことがあるとした上で,同事件ではそのような事情はないと判断した。

刑事訴訟法321条1項2号後段は,供述者が公判で前の供述と相反し,又は実質的に異なる供述をした場合を定めている。
この場合は,検察官に対する前の供述を公判供述よりも信用すべき特別の情況が存在するときに限り,検察官面前調書を証拠とすることができる。

この特別の情況は,単に前の供述内容が詳しい,一貫している又は捜査官が信用したというだけでなく,供述当時の取調べ状況,供述に至る経緯,利害関係,時間的近接性その他の外部的事情を中心に判断される。
個々の事情は総合評価の資料であり,特定の事情が一つあれば直ちに要件を満たすというものではない。

3 それ以外の供述書等

刑事訴訟法321条1項3号は,同項1号及び2号に掲げる書面以外の供述書又は供述録取書を対象とする。
この書面は,供述者が死亡,心身の故障,所在不明又は国外所在のため公判で供述できず,その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができず,かつ,その供述が特に信用すべき情況の下でされたときに限って証拠とすることができる。

同号の対象は,警察官面前調書に限られず,被告人以外の者が作成した供述書や,他の者が録取して供述者の署名又は押印を得た書面のうち,1号及び2号に該当しないものを含む。
同号の「欠くことができない」必要性と「特に信用すべき情況」は,いずれも独立して検討する必要がある。

第4 検証調書,鑑定書及び特に信用すべき書面

1 公判調書等及び裁判官の検証調書

刑事訴訟法321条2項は,被告人以外の者の公判準備若しくは公判期日における供述を録取した書面,又は裁判所若しくは裁判官の検証結果を記載した書面について,伝聞法則の例外を定めている。
ただし,同項の書面であっても,その書面が何を証明するために提出されるか,対象となる記載が同項の範囲内か,原本性又は同一性が認められるかという問題は残る。

2 捜査官の検証調書等

刑事訴訟法321条3項は,検察官,検察事務官又は司法警察職員の検証結果を記載した書面について,作成者が公判で証人として尋問を受け,その真正に作成されたことを供述した場合に証拠能力を認めている。
実況見分調書も,任意処分として行われた実況見分の結果を捜査官が記載した書面として,同項の要件により証拠能力が判断されるのが一般的である。

もっとも,実況見分調書に立会人又は被疑者の説明若しくは再現行為が記録されている場合,作成者の真正作成供述だけで,その説明又は再現内容の真実性まで当然に証拠となるものではない。
最高裁平成17年9月27日第二小法廷決定・平成17年(あ)第684号は,犯行再現状況を撮影した写真を含む実況見分調書について,捜査官による実況見分の経過及び結果の記録としての要件に加え,再現者の供述を記録した部分には供述証拠としての伝聞例外の要件が必要であるとした。

交通事故の実況見分調書については,交通事故の実況見分の留意点も参照されたい。

3 鑑定書等

刑事訴訟法321条4項は,鑑定の経過及び結果を記載した書面で,鑑定人が作成し,公判でその真正に作成されたことを供述したものについて,同条3項と同様の伝聞例外を認めている。
専門家の作成した書面というだけで証拠能力が生じるのではなく,作成主体,内容及び真正作成供述の要件を確認する必要がある。

4 刑事訴訟法323条の書面

刑事訴訟法323条は,①戸籍謄本,公正証書謄本その他公務員が職務上証明することができる事実について作成した書面,②商業帳簿,航海日誌その他業務の通常の過程において作成された書面,③前二号のほか特に信用すべき情況の下に作成された書面を証拠とすることができると定めている。
これらは,定型的な作成目的及び作成過程等による信用性を基礎とするため,供述者の死亡等を要件としない。

公務員が作成した書面であっても,職務上証明することができる事実を記載した書面に当たるかを個別に検討する必要がある。
また,裁判書は,裁判又は裁判書が存在することの証明と,その裁判書中の事実認定が真実であることの証明とで立証趣旨が異なるため,刑事訴訟法323条によって後者まで当然に証明できるとは限らない。

前科調書については,前科調書等に関する記事も参照されたい。

第5 ビデオリンク記録と録音録画記録媒体

1 他の手続におけるビデオリンク証人尋問の記録

刑事訴訟法321条の2は,他の事件の公判準備若しくは公判期日又は民事訴訟法上の期日において,刑事訴訟法157条の6第1項又は第2項に規定する方法によってされた証人尋問及び供述を記録した記録媒体について,証拠能力を認めている。
ただし,その記録媒体を取り調べた後,訴訟関係人にその供述者を証人として尋問する機会を与えなければならない。

刑事訴訟法157条の6及び305条5項は,令和7年法律第39号による改正後の条文であり,令和8年5月21日に施行された。
そのため,改正前の刑事訴訟法157条の4又は305条3項を前提とする解説は,現在の条文番号に読み替える必要がある。

2 一定の被害者等の供述を記録した記録媒体

刑事訴訟法321条の3は,令和5年法律第66号により新設され,令和5年12月15日に施行された。
同条は,刑事訴訟法321条1項の規定にかかわらず,一定の被害者等の供述を録音録画した記録媒体について,所定の要件の下で証拠能力を認めるものである。

主な要件は,供述の開始から終了までを同時に録音録画すること,供述者の不安又は緊張を緩和し,誘導をできる限り避けるなどの特別の配慮の下で供述がされたこと,聴取に至る事情及び聴取方法等を考慮して相当と認められること,記録媒体を取り調べた後に訴訟関係人が供述者を証人として尋問する機会を与えられることである。
録音録画されているという一事だけで証拠能力が認められる制度ではない。

第6 被告人の供述と任意性

1 刑事訴訟法322条

刑事訴訟法322条1項は,被告人が作成した供述書又は被告人の供述を録取した書面で,被告人の署名若しくは押印があるものについて,不利益な事実の承認を内容とするとき,又は特に信用すべき情況の下でされた供述を内容とするときに限り,証拠とすることができると定めている。
被告人の供述書等に認められる伝聞例外は,単純に「本人は自分に不利な虚偽を述べない」という経験則だけで説明できるものではなく,刑事訴訟法319条の自白法則と併せて理解する必要がある。

刑事訴訟法319条1項は,強制,拷問若しくは脅迫による自白,不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白又は任意にされたものでない疑いのある自白を証拠とすることができないと定めている。
同条2項は,被告人の自白が自己に不利益な唯一の証拠である場合には有罪とすることができないという補強法則を定めている。

取調べ一般については,警察官及び検察官による取調べも参照されたい。

2 刑事訴訟法325条による任意性の調査

刑事訴訟法325条は,刑事訴訟法321条から324条までの規定により証拠とすることができる書面又は供述であっても,あらかじめその供述が任意にされたものかを調査した後でなければ,これを証拠とすることができないと定めている。
最高裁昭和54年10月16日第三小法廷決定・昭和53年(あ)第1861号は,同条の調査を証拠調べより前に必ず終えなければならないわけではなく,証拠調べ後であっても証拠として評価する前に行えば足りるとした。

第7 同意書面,合意書面及び証明力を争うための証拠

1 刑事訴訟法326条の同意書面

刑事訴訟法326条1項は,検察官及び被告人が証拠とすることに同意した書面又は供述について,裁判所が作成時の情況を考慮して相当と認めるときに限り,刑事訴訟法321条から325条までの規定にかかわらず証拠とすることができると定めている。
弁護人が選任されている事件では弁護人が証拠意見を述べるのが通常であるが,条文上の同意主体は検察官及び被告人である。

同条2項は,被告人が出頭しなければならないのに出頭せず,代理人又は弁護人も出頭しない場合に,その不出頭が許されないものであれば,被告人が同意したものとみなす旨を定めている。
同意がある場合でも,裁判所による相当性判断が不要になるわけではない。

2 刑事訴訟法327条の合意書面

刑事訴訟法327条は,検察官と被告人又は弁護人が合意の上,文書の内容又は公判期日に出頭すれば供述すると予想される内容を記載した書面を提出したとき,その書面を証拠とすることができると定めている。
合意書面の対象となった事実についても,証明力を争うことはできる。

合意書面の法的性質については,合意を実質的な証拠とみる説明と,証拠能力を与える訴訟行為とみる説明がある。
いずれの説明によっても,合意書面が提出されたというだけで記載事実の証明力が確定するわけではない。

3 刑事訴訟法328条の弾劾証拠

刑事訴訟法328条は,刑事訴訟法321条から324条までの規定により証拠とすることができない書面又は供述であっても,公判準備又は公判期日における被告人,証人その他の者の供述の証明力を争うためには,これを証拠とすることができると定めている。
同条は,伝聞証拠を犯罪事実の証明に転用するための一般的な例外ではない。

最高裁平成18年11月7日第三小法廷判決・平成17年(あ)第378号は,刑事訴訟法328条により許容される証拠は,公判供述と矛盾する内容の供述をしたこと自体を立証する自己矛盾供述に限られ,第三者が作成した供述録取書に記載された供述内容を直ちに弾劾証拠として用いることはできないとした。

第8 証拠調べと証拠開示

1 書証の朗読又は要旨の告知

刑事訴訟法305条1項は,書証の取調べについて,朗読を原則とし,裁判長が相当と認めるときは要旨の告知によることができると定めている。
刑事訴訟法302条は,刑事訴訟法321条から323条まで又は326条により証拠とすることができ,かつ,捜査記録の一部である書面について,その取調べに先立って供述者又は作成者を証人として尋問する場合を定めている。

同条は,伝聞例外となる全ての書面について必ず作成者等を先に尋問するという一般原則ではなく,対象条文,捜査記録該当性及び尋問対象を確認して適用する必要がある。
書証の取調べ方法については,証拠書類の朗読及び要旨の告知も参照されたい。

2 証拠開示は別の手続問題である

証拠開示は,書面に証拠能力があるかという問題ではなく,当事者が相手方保有の証拠を公判準備のために知り,利用できるようにする手続の問題である。
現行法では,刑事訴訟法299条の事前の証拠閲覧機会に加え,公判前整理手続等における刑事訴訟法316条の14の請求証拠開示,同法316条の15の類型証拠開示,同法316条の20の主張関連証拠開示及び同法316条の26の開示命令が定められている。

旧来の最高裁決定は現行制度の形成過程を理解する資料となるが,現在の証拠開示の説明は,まず現行条文を基準とすべきである。
刑事事件記録の種類及び取扱いについては,刑事事件記録に関する記事一覧も参照されたい。

第9 出典・参考資料

1 法令及び改正法資料

e-Gov法令検索・刑事訴訟法
法務省・性犯罪に対処するための刑法等の一部を改正する法律案
法務省・刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(令和7年法律第39号)
裁判所・刑事訴訟規則(令和8年5月21日現在)

2 裁判例

最高裁平成7年6月20日第三小法廷判決・平成2年(あ)第72号・刑集49巻6号741頁
最高裁平成17年9月27日第二小法廷決定・平成17年(あ)第684号・刑集59巻7号753頁
最高裁昭和54年10月16日第三小法廷決定・昭和53年(あ)第1861号・刑集33巻6号633頁
最高裁平成18年11月7日第三小法廷判決・平成17年(あ)第378号・刑集60巻9号561頁

3 文献

伊丹俊彦・合田悦三編集代表『逐条実務刑事訴訟法』立花書房,平成30年,874頁~888頁及び900頁~920頁