第1 この記事の対象と資料の位置付け
本記事は,地方公共団体が不祥事,ハラスメントその他の問題について第三者調査委員会を設ける場合に検討すべき事項を,設置根拠,委員の独立性,調査手続,匿名性,記録管理及び報告書の効力に分けて整理するものである。
主な検討資料は,日本弁護士連合会が公表した第24回弁護士業務改革シンポジウム第6分科会資料である。
同資料には,地方公共団体における第三者調査委員会のガイドライン,企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン,委員経験者45人を対象とするアンケート,モデル条例案,想定問答,法的問題の研究報告及び南城市ハラスメント調査特別委員会の委員長報告が収録されている。
ただし,資料4のモデル条例案及び資料5の想定問答には日弁連の見解ではない旨が明記され,資料6及び資料7も各執筆者の報告であるため,資料全体を法令又は日弁連の統一見解として扱うことはできない。
本記事では,法令については令和8年9月6日現在のe-Gov法令検索,裁判例については裁判所ウェブサイト,南城市の事例については同市の公表資料によって確認した。
第6分科会資料に掲げられた裁判例のうち,本記事で取り上げないものは裁判所ウェブサイト又は判例秘書による個別確認をしていないため,同資料に記載された裁判例一覧が網羅的又は現在も妥当であるとの前提には立っていない。
第2 設置根拠は名称ではなく権限と実態から判断する
1 附属機関条例主義
地方自治法138条の4第3項は,普通地方公共団体が法律又は条例の定めるところにより,調停,審査,諮問又は調査のための機関を置くことができると定めている。
同法202条の3は,附属機関が担任する事項及び資料提出要求等について定め,同法203条の2は,附属機関の委員等に対する報酬等について定めている。
「検討会」,「有識者会議」,「外部委員会」又は「受託者」という名称を用いたからといって,附属機関該当性が当然に否定されるわけではない。
大阪地裁平成26年9月3日判決(平成24年(行ウ)第262号等,公金支出差止等請求事件)は,地方自治法138条の4第3項及び202条の3第1項にいう附属機関の意義について,執行機関の行政執行のため,又はこれに伴って必要な調停,審査,審議又は調査等を行うことを職務とする機関である旨を判示した。
同判決は裁判所ウェブサイトの裁判例検索で確認できるが,個々の委員会の結論は,設置目的,職務,継続性,組織性及び実際の活動内容を踏まえて検討する必要がある。
2 外部委託との区別
弁護士等への業務委託は,契約に基づいて専門的な調査作業を遂行する方法であり,条例に基づく附属機関とは法的構成が異なる。
もっとも,委員会の名称を避け,1人の弁護士との委託契約に分割すれば必ず附属機関に当たらなくなるというものではなく,実質的に合議体として行政判断の前提となる審査又は調査を担わせている場合には,形式と実態のずれが問題となり得る。
設置前には,①誰が設置し,誰に報告するのか,②条例上の附属機関か業務委託か,③委員にどのような権限を与えるのか,④委員報酬又は委託料をどの根拠から支出するのか,⑤事務局を誰が担うのかを一体として確認する必要がある。
地方自治法179条に基づく専決処分を検討する場合も,緊急性,議会を招集できない事情及び対象事項が同条の要件に該当するかを個別に確認すべきであり,常設的な代替手段として扱うべきではない。
第3 受任前に目的,依頼者及び調査範囲を固定する
1 事実調査と責任判断を区別する
第三者調査委員会の中心的な役割は,事実関係と発生原因を明らかにし,地方公共団体の対応の適否を検証し,再発防止策を提言することにある。
報告書は民事責任,刑事責任又は懲戒責任を最終的に確定する裁判ではないため,設置目的に「責任追及」を掲げる場合も,事実認定,法的評価,政策判断及び処分判断の主体を区別して設計する必要がある。
弁護士が委員又は調査受託者となる場合には,法律上の依頼者が地方公共団体,首長,執行機関又は別の主体のいずれであるかを明確にしなければならない。
企業等不祥事における第三者委員会ガイドラインのいう「ステークホルダーのために活動する」という理念は,法律上の依頼者が不明確でよいという意味ではない。
2 調査範囲と追加論点
調査対象は,日時,部署,行為,関係者,対象期間及び検討する法的又は行政的論点によって特定することが望ましい。
ただし,個人の言動だけでなく,指揮命令系統,通報制度,情報共有,人事管理,監督体制その他の構造的原因を調べなければ,再発防止策が表面的なものになることがある。
受任時には,調査中に新しい問題が判明した場合の範囲拡張手続,追加費用,追加期間,中間報告及び緊急対応を定めておくべきである。
調査の途中で依頼者が結論を先に求めたり,特定の論点を対象外にしようとしたりした場合に備え,委員会が調査範囲及び方法について独立して判断できる旨を設置文書に置くことが考えられる。
3 委員経験者アンケートから分かること
第6分科会資料の資料3は,令和4年4月から令和7年12月までに地方公共団体の第三者調査委員会委員等を経験した弁護士45人を対象とするアンケートである。
この45人の回答では,設置根拠は条例23件,要綱のみ14件,要綱と契約7件,契約のみ1件に分かれ,委員就任前に自治体と協議した者は17人,協議しなかった者は28人であった。
また,調査終了済み39件の期間は,2か月~6か月が18件,7か月~12か月が14件,13か月~18か月が6件,19か月以上が1件であった。
もっとも,この調査は委員経験者の回答であり,母集団,回収率及び案件選択の偏りを確認できないため,全国の地方公共団体における平均又は適法性の分布を示す統計として用いることはできない。
第4 独立性は委員選任だけでなく事務局運営にも及ぶ
1 利益相反と外観上の独立性
委員候補者については,対象となる地方公共団体,首長,議員,幹部職員,関係団体及び主要関係者との委任関係,顧問関係,取引関係,親族関係その他の利害関係を確認する必要がある。
現実の偏りがないことだけでなく,住民及び関係者から見て調査の公正に合理的な疑いが生じない構成であることも重要である。
調査対象が法律,人事労務,組織統治,財務,医療又は心理にまたがる場合には,弁護士だけで構成することが最適とは限らない。
南城市の事例では,当初の内科医から精神科医・産業医へ委員を選び直したことが同市の調査報告書に記載されており,事案の性質に応じた専門構成を検討する必要性を示す一例である。
2 事務局の情報遮断
事務局を地方公共団体の職員が担う場合,委員会の意思決定と単なる事務補助を区別しなければならない。
専用メールアドレス,アクセス権を限定した電子保管場所,施錠保管,印刷物の管理,バックアップ,版管理及び送受信記録を整え,調査対象部署又は対象者が情報にアクセスできないようにする必要がある。
事務局が日程調整,資料整理又は録音反訳を補助することはあり得るが,供述の評価,認定案の選別又は報告書の結論を実質的に作成させるべきではない。
委員会の独立性は,委員の肩書だけでなく,情報経路,起案過程及び依頼者との連絡方法によっても評価される。
第5 匿名性と反論機会を両立させる
1 三つの情報層を分ける
匿名申告を扱うときは,①委員会内部では識別できる情報,②調査対象者に反論のため開示する情報,③公表版報告書に記載する情報を分けて管理する方法が有用である。
匿名性を尊重することと,調査対象者に一切の具体的事実を示さないことは同じではない。
調査対象者に示す情報は,反論に必要な行為,時期,場所,文脈及び主張の要旨を中心とし,情報源の特定につながる細部は必要性を検討して伏せることが考えられる。
開示を制限したため十分な反論機会を確保できなかった事項は,その制約と残る不確実性を報告書に明記し,断定の強さを調整すべきである。
南城市の調査報告書は,市長から情報提供者の氏名を求められた経過について,匿名性が確保されなければ情報提供の意欲が損なわれる旨を指摘している。
もっとも,この一事例から全ての調査で完全匿名を採用すべきとの一般法則を導くことはできず,生命身体への危険,反論の必要性,情報の代替可能性及び本人の同意等を個別に検討する必要がある。
2 代理人の同席を一律に扱わない
事情聴取への弁護士等の同席について,第6分科会資料は委員会実務上の検討事項を示しているが,一律に許可又は禁止すべき法令上のルールを示すものではない。
聴取対象者の地位,健康状態,供述への影響,威圧又は口裏合わせのおそれ,手続の目的及び代替手段を踏まえ,個別に判断する必要がある。
同席を認めない場合にも,質問事項の事前通知,休憩,書面補充,聴取記録の確認その他の方法により,手続の公正を補うことが考えられる。
逆に,同席を認める場合には,回答の代行又は聴取妨害を防ぐため,同席者の役割を事前に定めることが望ましい。
第6 証拠評価と事実認定を可視化する
調査では,供述だけでなく,電子メール,チャット,予定表,人事記録,入退室記録,録音,写真,医療記録その他の資料を突き合わせる必要がある。
実務上は,争点ごとに,申告内容,反論,支持証拠,反証,証拠の限界及び暫定評価を一覧にした証拠マトリクスを作成すると,取り漏れ及び結論先行を防ぎやすい。
証拠の整理では,①一次資料で確認できた事実,②関係者が述べた内容,③複数の事実から導く推論,④資料不足のため判断できない事項を区別することが重要である。
供述態度,記憶の細部又は虚偽を述べる動機が見当たらないことだけを決定的根拠とせず,供述が他の証拠及び時系列と整合するかを検討すべきである。
調査期間内に確認できない事項については,「事実が存在しない」と「調査上確認できない」を区別する必要がある。
報告書に認定基準を記載し,認定した事実について主要な根拠を示すことは,依頼者,議会,住民及び後日の裁判所が結論を検証するための前提となる。
第7 記録の所有,保管,移管及び公開を別々に決める
第6分科会資料のアンケートでは,43人が回答した記録管理ルールの有無について,明確なルールがなかったとの回答が36人であり,調査前後の記録管理の協議について回答した44人中21人は,事前にも事後にも協議がなかったと回答している。
この結果は全国的な割合を示すものではないが,記録管理が設置時に見落とされやすい論点であることを示唆する。
設置時には,①記録の所有者,②保管責任者,③原本と複製の区別,④アクセス権,⑤保存期間,⑥委員会終了時の移管先,⑦情報公開請求への対応主体,⑧訴訟又は監査が予想される場合の保存停止,⑨廃棄の承認及び記録を定めることが望ましい。
委員の守秘義務,記録を地方公共団体へ移管する義務,公文書としての管理及び住民への公開範囲は別の問題であり,「秘密だから移管しない」又は「移管したから全面公開する」という二者択一ではない。
公文書該当性及び情報公開の可否は,当該地方公共団体の条例,記録の作成又は取得主体,組織共用性,保有状況及び不開示情報の要件によって判断される。
公開版報告書を作成する場合には,個人識別情報を削るだけでなく,少数部署,時期,役職及び出来事の組合せによる再識別の危険も検討する必要がある。
第8 首長その他の設置権者が調査対象となる場合
首長,議長その他の設置又は委嘱に関与する者が調査対象となる場合,委員選任,調査範囲の変更,資料提供,予算執行,報告書受領及び公表の各段階で利害が衝突し得る。
この場合には,通常の連絡窓口と,重要事項を判断する代替権限者又は合議体を分け,調査対象者が情報提供者の氏名,聴取順序又は報告書案にアクセスできない仕組みを先に設ける必要がある。
南城市は,市議会の調査結果を受けて令和6年10月にハラスメント調査特別委員会を設置し,同委員会の報告書を公表したと市ウェブサイトで説明している。
また,南城市長等ハラスメント防止条例は,市長等,議員及び職員についてハラスメントを禁止し,外部相談窓口に関する規定を置いている。
同市の事例は,首長が調査対象となる場合に生じる匿名性及び情報経路の問題を検討する上で参考になるが,一つの地方公共団体の条例及び調査報告である。
他の地方公共団体にそのまま適用するのではなく,各自治体の条例,執行機関の権限及び具体的事案に即して設計する必要がある。
第9 報告書の効力と受領後の対応
第三者調査委員会の報告書は,それ自体が裁判所の判決,行政処分又は法的拘束力のある命令になるものではない。
地方公共団体が報告書を尊重する旨を定めることは,結論を無条件に追認することではなく,提言を採用するか,修正して採用するか,又は採用しないかを検討し,その理由を説明する責任を負うという意味に整理することができる。
報告書受領後は,①認定事実に基づく被害回復,②人事又は懲戒上の判断,③再発防止策の採否,④条例又は規程の改正,⑤実施期限,⑥進捗確認,⑦住民及び議会への説明を分けて管理する必要がある。
委員会が提言したことだけで履行済みとせず,担当部署,期限,実施証拠及び未実施理由を記録することが重要である。
第10 相談窓口の設置と実効性は別である
ハラスメント調査では,相談件数が少ないこと又はゼロであることだけから,ハラスメントが存在しないと結論付けることはできない。
窓口の周知度,アクセス方法,匿名相談の可否,秘密保持への信頼,対象者との権限関係,初動対応及び不利益取扱いへの不安によって,相談件数は大きく左右されるからである。
相談制度を評価するときは,形式的に窓口があるかだけでなく,①誰が窓口を知っているか,②勤務時間外及び庁外から利用できるか,③相談後の情報経路が限定されているか,④緊急時に保護措置を採れるか,⑤相談しなかった理由を把握できるかを確認する必要がある。
小さな兆候を早期相談で扱う通常対応と,独立調査が必要な重大事案とを段階的に振り分ける仕組みも有用である。
第11 生成AIその他のデジタルツールを使う場合
録音反訳,資料分類,時系列作成又は論点抽出に生成AIその他のデジタルツールを用いる場合も,委員会が判断責任を負うことに変わりはない。
利用前に,入力できる情報の範囲,保存場所,学習利用の有無,アクセス権,ログ,誤認識の訂正方法及び人による照合手順を定める必要がある。
特に,匿名申告者の氏名,健康情報,懲戒に関わる供述その他の機微情報を,契約関係及びデータ取扱いを確認しない外部サービスへ入力すべきではない。
AIが作成した要約又は証拠対応表は原資料と照合し,最終報告書の認定理由は委員自身が確認する必要がある。
第12 設置・受任時の実務チェックリスト
第三者調査委員会を設置し,又は委員を受任する際には,少なくとも次の事項を確認することが望ましい。
①設置目的,法的根拠,設置主体及び報告先
②附属機関,業務委託その他の法的構成と予算根拠
③法律上の依頼者及び連絡権限者
④調査対象,対象期間,認定基準及び範囲拡張手続
⑤委員の利益相反,専門構成,欠員及び解任の取扱い
⑥事務局の独立性,情報遮断及び証拠保全
⑦匿名性,反論機会,同席者及び聴取記録の確認方法
⑧中間報告,緊急保護,不利益取扱い防止及び報道対応
⑨記録の所有,アクセス,保存,移管,情報公開及び廃棄
⑩報告書の公表範囲,受領後の意思決定,理由説明及び履行確認
⑪報酬,実費,追加作業及び利益連動報酬を採用しないこと
⑫生成AIその他の外部サービスを利用する場合の情報管理
この一覧は法令上の要件を網羅したものではなく,第6分科会資料から得られる実務上の論点を本記事で再構成したものである。
個別案件では,地方自治法,地方公務員法,当該自治体の条例及び規程,情報公開条例,個人情報保護制度,労働関係法令並びに委員会の設置文書を確認する必要がある。
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第14 出典
①日本弁護士連合会「第24回弁護士業務改革シンポジウム第6分科会資料」資料1・1頁~9頁,資料2・10頁~17頁,資料3・18頁~43頁,資料4・44頁~49頁,資料5・50頁~73頁,資料6・74頁~93頁,資料7・94頁~116頁(PDF7頁~122頁)
②e-Gov法令検索・地方自治法138条の4第3項,179条,202条の3及び203条の2(令和8年9月6日確認)
③e-Gov法令検索・地方公務員法3条,4条,32条及び34条(令和8年9月6日確認)
④裁判所ウェブサイト・大阪地裁平成26年9月3日判決(平成24年(行ウ)第262号等,公金支出差止等請求事件)
⑤南城市「南城市ハラスメント調査特別委員会調査報告書」
⑥南城市「南城市ハラスメント調査特別委員会からの調査報告書について」
⑦南城市長等ハラスメント防止条例