弁護士山中理司

被疑者の逮捕

目次
第1 逮捕状の執行等
第2 弁護人選任権の告知,弁解録取及び勾留請求
第3 逮捕直後の指紋採取及び写真撮影
第4 指紋に関するメモ書き
第5 緊急逮捕
第6 現行犯逮捕及び準現行犯逮捕
第7 関連記事その他

第1 逮捕状の執行等
1 検察官,検察事務官又は司法警察職員は,被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは,裁判官のあらかじめ発する逮捕状により,これを逮捕することができます(刑訴法199条1項)。
2 逮捕状の請求を受けた裁判官は,逮捕の理由があると認めるときは,明らかに逮捕の必要がないと認められる場合(刑訴規則143条の3)を除いて,逮捕状を発付しなければなりません(刑訴法199条2項)。
3 逮捕状には,①被疑者の氏名及び住居,②罪名,③被疑事実の要旨,④引致すべき官公署その他の場所,⑤有効期間及びその期間経過後は逮捕をすることができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに⑥発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し,裁判官が,これに記名押印しなければなりません(刑訴法200条1項)。
4 逮捕状により被疑者を逮捕するには,逮捕状を被疑者に示さなければなりません(刑訴法201条1項)。
5 逮捕状を所持しない場合において,急速を要するときは,被疑者に対し,被疑事実の要旨及び令状が発付されている旨を告げて逮捕することができる(逮捕状の緊急執行。刑訴法201条2項・73条3項)。
6 検察事務官又は司法巡査が逮捕状により被疑者を逮捕したときは,直ちに,検察事務官はこれを検察官に,司法巡査はこれを司法警察員に引致しなければなりません(刑訴法202条)。


第2 弁護人選任権の告知,弁解録取及び勾留請求
1(1) 司法警察員は,逮捕状により被疑者を逮捕したとき,又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取ったときは,直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上,弁解の機会を与え,留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し,留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から48時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければなりません(刑訴法203条1項)。
これは,「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。」と規定する憲法34条に基づく条文です。
(2) 検察官は,司法警察員から送致された被疑者を受け取ったときは,弁解の機会を与え,留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し,留置の必要があると思料するときは被疑者を受け取つた時から24時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければなりません(刑訴法205条1項)。
(3) 司法警察員及び検察官は,被疑者国選対象事件について弁護人選任権を告知する場合,被疑者国選弁護制度を教示しなければなりません(司法警察員につき刑訴法203条3項,検察官につき刑訴法205条5項・204条2項)。
2(1) 検察官は,逮捕状により被疑者を逮捕したとき,又は逮捕状により逮捕された被疑者(司法警察員から送致された被疑者を除く。)を受け取ったときは,直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上,弁解の機会を与え,留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し,留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から48時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければなりません(刑訴法204条1項)。
(2) 検察官は,被疑者国選対象事件について弁護人選任権を告知する場合,被疑者国選弁護制度を教示しなければなりません(刑訴法204条2項)。
(3) 刑訴法204条は,検察庁の独自捜査で被疑者を逮捕した場合に適用される条文です。
3 ①刑訴法203条に基づく司法警察員の被疑者に対する弁解録取書,又は②刑訴法204条若しくは205条に基づく検察官の被疑者に対する弁解録取書は,専ら被疑者を留置する必要あるか否かを調査するための弁解録取書であって,同法198条所定の被疑者の取調調書ではないから,訴訟法上その弁解の機会を与えるには犯罪事実の要旨を告げるだけで充分であって,同法198条2項所定のように被疑者に対し,あらかじめ,供述を拒むことができる旨を告げなければならないことは要請されていません(最高裁昭和27年3月27日判決)。
4(1) 刑訴法198条2項を受けて,犯罪捜査規範169条1項は,「被疑者の取調べを行うに当たつては、あらかじめ、自己の意思に反して供述する必要がない旨を告げなければならない。」と定めています。
(2) 刑事弁護専門サイトの「黙秘する?しない?判断の参考になる3つのポイント」には以下の記載があります。
     黙秘するか否かは、捜査機関が信用性の高い証拠をどこまで収集しているかによります。捜査機関が信用性の高い証拠を確保しているのであれば、被疑者がどんなに頑張って黙秘しても起訴されてしまうからです。

司法警察職員捜査書類基本書式例からの抜粋であり,犯罪捜査規範178条1項に基づく第1回供述調書記載例が載っています。なお,犯罪捜査規範179条は「供述調書作成についての注意」を定めています。


第3 逮捕直後の指紋採取及び写真撮影
1 刑訴法218条3項は,「身体の拘束を受けている被疑者の指紋若しくは足型を採取し、身長若しくは体重を測定し、又は写真を撮影するには、被疑者を裸にしない限り、第一項の令状によることを要しない。」と定めています。
2 犯罪捜査規範131条1項は,「逮捕した被疑者については、引致後速やかに、指掌紋を採取し、写真その他鑑識資料を確実に作成するとともに、指掌紋照会並びに余罪及び指名手配の有無を照会しなければならない。」と定めています。
3 付審判請求事件における東京地裁昭和59年6月22日決定(判例秘書に掲載)は以下の判示をしています。
逮捕されている被疑者が、犯罪捜査の必要のため、司法警察職員が出頭を要求したのにこれに応ぜず留置場から出房しないときは、必要最少限度の有形力を用いて、司法警察職員のもとに出頭させることができることは、刑訴法一九八条一項但書の趣旨により明らかであり、また刑訴法二一八条二項によれば、身体の拘束を受けている被疑者の指紋を採取し、写真を撮影するには、被疑者を裸にしない限り、令状を要しないとされており、指紋採取及び写真撮影の性質は身体検査であるから、同法二二二条一項により、その拒否に対する直接強制に関する同法一三九条が準用され、右被疑者が右指紋採取や写真撮影に任意に応じず、これを拒否した場合において、間接強制では効果がないと認められるときは、そのままその目的を達するため必要最小限度の有形力をもって直接強制をすることは許されると解される。
4 早稲田大学 水島朝穂のホームページ「痴漢冤罪事件はなぜ起きるか(その2・完) 2012年3月5日」には以下の記載があります。
2009年12月10日午後11時頃、大学職員の原田信助さん(当時25歳)は職場の懇親会の帰り、新宿駅15、16番線の階段を登りかけたところ、すれ違った女子学生に「腹を触った」と言われ、仲間の大学生2人に階段から突き落とされて暴行を受けた。原田さんは新宿西口交番に任意同行を求められ、その後新宿署に移送された。暴行の被害者として事情を聞かれるものとばかり思っていたのに、痴漢容疑者として厳しい取り調べを受けることになった。「早く家に帰りたい。せめて友人に電話をかけたい」という申し出も無視された。他方、別室で行われた女子学生への事情聴取のなかで、「腹を触った」という男の服装が原田さんとは異なることが判明し、女子学生は被害届けも出さずに帰宅してしまった。原田さんが受けた暴行について、警察官は「被害届けを出して裁判で相手側と争うしかない」と言うばかりだった。23時から翌早朝5時までの長時間拘束。原田さんは心身ともに憔悴しきった状態で都内をさまよい、母校・早大のある地下鉄東西線早稲田駅まできて、列車に身を投げてしまった。


第4 指紋に関するメモ書き
1 指紋の付着は,犯人の体質,印象物体の材質,気候等の複雑な条件に左右され,犯人が手を触れたであろうところに指紋が印象されていないことも珍しくないことは裁判所に顕著な事実です(最高裁平成17年3月16日決定(判例秘書に掲載))。
2(1) 法科学鑑定研究所HPの「指紋鑑定の歴史」には「地震や津波などの災害で亡くなった方の身元を確認する手段として、圧倒的に重要な手掛かりとは、「指紋」と「歯型」なのです。」と書いてあります。
(2) 法科学鑑定研究所HPの「指紋検出試薬」には以下の記載があります。
全ての科学捜査は、戦略を立案し、目的を決め、指紋採取が実施されています。
そして、検出試薬の研究・開発は現在も確実に進化しています。
世界中で研究され、5年前には考えも及ばなかった物体からの指紋も検出で来るようになってきています。
3 指掌紋(ししょうもん)の取扱については以下の文書があります。
① 指掌紋取扱規則(平成9年国家公安委員会規則第13号)
② 指掌紋取扱細則(平成18年12月26日付の警察庁訓令)
③ 十指指紋の分類に関する訓令(昭和44年9月4日付の警察庁訓令)


第5 緊急逮捕
1 検察官,検察事務官又は司法警察職員は,死刑又は無期若しくは長期3年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で,急速を要し,裁判官の逮捕状を求めることができないときは,その理由を告げて被疑者を逮捕することができます(刑訴法210条1項前段)。
この場合,直ちに裁判官の緊急逮捕状を求める手続をしなければならないのであって,緊急逮捕状が発せられないときは,直ちに被疑者を釈放しなければなりません(刑訴法210条1項後段,犯罪捜査規範120条)。
2 「急速を要し」とは,裁判官に通常逮捕状を請求していたのでは,仮に逮捕状が発付されたとしても,被疑者の逃亡等により逮捕が不可能又は著しく困難となる場合をいいます。
3 緊急逮捕は,厳格な制約の下に,罪状の重い一定の犯罪のみについて,緊急やむを得ない場合に限り,逮捕後直ちに裁判官の審査を受けて逮捕状の発付を求めることを条件とし,被疑者の逮捕を認めるものであって,憲法33条の趣旨に反するものではありません(最高裁昭和32年5月28日判決。なお,先例として,最高裁大法廷昭和30年12月14日判決)。
4 例えば,緊急逮捕のため被疑者方に赴いたところ,被疑者がたまたま他出不在であっても,帰宅次第緊急逮捕する態勢の下に捜索,差押がなされ,且つ,これと時間的に接着して逮捕がなされる限り,その捜索,差押は,なお,緊急逮捕する場合その現場でなされたとするのを妨げるものではありません(最高裁大法廷昭和36年6月7日判決)。
5 被疑者を緊急逮捕した場合,緊急逮捕状が発せられた後の手続は,通常逮捕の場合と同じです(刑訴法211条参照)。


第6 現行犯逮捕及び準現行犯逮捕
1 現行犯人は,何人でも,逮捕状なくしてこれを逮捕することができます(刑訴法213条)。
2 捜査機関であっても,その権限外の犯罪,例えば,管轄区域外の犯罪及び特別司法警察職員が与えられた犯罪捜査権の及ばない犯罪については,私人として逮捕することとなります。
また,税関職員,税務署職員,国税査察官,入国警備官及び公正取引委員会職員等は,それぞれ特定の法令違反の事実について調査権を与えられ,実質的に捜査に近い権能を有しているものの,捜査機関ではありませんから現行犯逮捕も私人として行うこととなります。
3 準現行犯逮捕とは,以下のいずれかに該当する者を,罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる場合に逮捕することをいいます(刑訴法212条2項)。
① 犯人として追呼されているとき。
② 贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。
③ 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。
④ 誰何されて逃走しようとするとき。
4 現行犯・準現行犯逮捕後の手続は以下のとおりです。
① 通常人が現行犯人を逮捕した場合,直ちにこれを検察官又は司法警察職員に引き渡す必要があります(刑訴法214条)。
② 司法巡査が通常人から現行犯人を受け取ったときは,速やかにこれを司法警察員に引致しなければなりません(刑訴法215条1項)。
③ 逮捕後のその他の手続はすべて通常逮捕の場合と同じです(刑訴法216条)。


第7 関連記事その他
1 犯罪捜査規範118条ないし136条の3は被疑者の逮捕に関する条文です。
2(1) 逮捕・勾留中の警察署留置場における生活については,警察庁HPの「留置場における生活」及びポリスマニアックス.comの「取調室と留置場にありがちな事」が参考になります。
(2) 法務省HPに「諸外国の刑事司法制度(概要)」が載っています。
(3) NHK放送文化研究所HP「裁判員制度下の事件報道 新聞協会,民放連が対応指針等を発表」が載っています。
3(1) 58期の小畑和彦裁判官及び60期の山口智子裁判官は,判例タイムズ1502号(2023年1月号)に「捜査に対する司法審査の在り方等に関する研究[大阪刑事実務研究会]違法収集証拠(覚醒剤事犯における被疑者の留め置き・追尾・押し掛け)」を寄稿しています。
4(1) 東京高裁令和3年10月29日判決(判例タイムズ1505号85頁以下)は,捜索差押許可状,鑑定処分許可状及び身体検査令状の発付を受け,被疑者の肛門から大腸内視鏡を挿入して,その体腔内からマイクロSDカードを採取し,差し押さえた捜査手続について,強制処分として許容できるかについての実質的な令状審査を欠き,高度の捜査上の必要性(判文参照)が認められないのに発付された令状によるもので,重大な違法があるとして,マイクロSDカードの証拠能力を否定した事例です。
(2) 最高裁令和4年7月27日決定は,捜査機関による押収処分を受けた者の還付請求が権利の濫用として許されないとされた事例です。
(3) 大阪地裁令和4年12月23日判決は,逮捕された被疑者から当番弁護士の派遣要請を受けた警察官はできる限り速やかに弁護士会にその旨を通知する義務を負うところ、これを怠った過失があるとした事例です(判例時報2583号)。
(4) 逮捕に関する裁判に対しては特別抗告をすることはできません(最高裁令和6年7月17日決定)。
5(1) 以下の資料を掲載しています。
① 刑事事件に関する書類の参考書式について(平成18年5月22日付の最高裁判所事務総局刑事局長,総務局長,家庭局長送付)を掲載しています。
② 司法検察職員捜査書類基本書式例(平成12年3月30日付の次長検事依命通達)
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 警察及び検察の取調べ
・ 被疑者及び被告人の勾留
・ 被告人の保釈
・ 保釈保証金の没取
・ 刑事裁判係属中の,起訴事件の刑事記録の入手方法(被害者側)
・ 刑事裁判係属中の,起訴事件の刑事記録の入手方法(加害者である被告人側)
・ 刑事記録の入手方法等に関する記事の一覧

被疑者及び被告人の勾留

目次
第1 総論
第2 勾留質問
第3 勾留状の執行等
第4 勾留と弁護人等への通知
第5 勾留と,弁護人等以外の者との接見交通
第6 勾留理由開示
1 総論
2 勾留理由開示に関する判例
第7 勾留の取消
第8 勾留の執行停止
第9 被疑者勾留特有の事情
第10 被告人勾留特有の事情
第11 第一審裁判所の無罪判決後の勾留
第12 代用監獄及び被告人の移送
第13 未決勾留による拘禁関係に信義則上の安全配慮義務はないこと等
第14 未決拘禁者については施設内免許再取得試験を実施していないこと
第15 勾留請求と勾留状の発付数等に関する統計
第16 関連記事その他

第1 総論
1 勾留とは,被告人又は被疑者を刑事施設に拘禁する裁判及びその執行をいいます。
2(1) 勾留の要件は以下のとおりです。
① 犯罪の嫌疑(刑訴法60条1項柱書)
被告人が罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があることです。
② 勾留の理由(刑訴法60条1項各号)
(a)被告人が定まった住居を有しないとき(住居不定),(b)罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき(罪証隠滅のおそれ),(c)逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき(逃亡のおそれ)のいずれかが存在することです。
③ 勾留の必要性(刑訴法87条1項参照)
(2) 少年法48条1項は「勾留状は、やむを得ない場合でなければ、少年に対して、これを発することはできない。」と定めています。
3 勾留に対しては,犯罪の嫌疑がないことを理由として抗告又は準抗告をすることはできません(刑訴法420条3項・429条2項)。
4 弁護士は,身体の拘束を受けている被疑者及び被告人について,必要な接見の機会の確保及び身体拘束からの解放に努めます(弁護士職務基本規程47条)。
5 裁判所HPの「Q.勾留とは何ですか。」には以下の記載があります。
A. 勾留は,身柄を拘束する処分ですが,その中にも被疑者の勾留と被告人の勾留とがあります。被疑者の勾留は,逮捕に引き続き行われるもので,罪を犯したことが疑われ,かつ,証拠を隠滅したり逃亡したりするおそれがあるなどの理由から捜査を進める上で身柄の拘束が必要な場合に,検察官の請求に基づいて裁判官がその旨の令状(勾留状)を発付して行います。勾留期間は10日間ですが,やむを得ない場合は,検察官の請求により裁判官が更に10日間以内の延長を認めることもあります。また,内乱等のごく例外的な罪に関する場合は,更に5日間以内の延長が認められています。
   これに対し,被告人の勾留は,起訴された被告人について裁判を進めるために身柄の拘束が必要な場合に行われますが,罪を犯したことが疑われ,かつ,証拠を隠滅したり逃亡したりするおそれがあるなどの理由が必要な点は,被疑者の勾留の場合と同様です。勾留期間は2か月で,特に証拠を隠滅するおそれがあるなど必要性が認められる限り,1か月ずつ更新することが認められています。


第2 勾留質問
1 勾留は,被疑者に対しては被疑事実を告げ,被告人に対しては被告事件を告げ,これに関する陳述を聴いた後でなければ,これをすることができません(刑訴法61条・207条1項)。
2 被告事件を告げるとは,事件の同一性を明らかにし,かつ,被告人がこれに対して適切な弁解をすることができる程度に,具体的に事案の内容を告げることをいい,公訴事実の要旨の告知(刑訴法76条1項,203条1項,204条1項)と同じことです。
3 勾留をする裁判所が,すでに被告事件の審理の際,被告事件に関する陳述を聞いている場合には,改めて刑訴法61条のいわゆる勾留質問をしなければならないものではありません(最高裁昭和41年10月19日決定)。
4 勾留質問には裁判所書記官を立ち会わせ(刑訴規則69条),調書を作成しなければなりません(刑訴規則39条,42条)。
    この場合の調書が勾留質問調書であり,①読み聞かせ及び②供述者の署名押印がなされる(刑訴規則39条2項・38条3項及び6項)ことから,被告人の供述を録取した書面として証拠能力を有します(刑訴法321条1項1号,322条1項)。
5 憲法32条は,すべて国民は憲法または法律に定められた裁判所によってのみ裁判を受ける権利を有し,裁判所以外の機関によって裁判をされることはないことを保障したものであって,裁判を行なう場所についてまで規定したものではありません。
    そのため,裁判官が裁判所の庁舎外において勾留質問を行ったとしても,憲法32条に違反しません(最高裁昭和44年7月25日決定)。


第3 勾留状の執行等
1(1) 勾留状は,検察官の指揮によって,検察事務官又は司法警察職員がこれを執行します(刑訴法70条1項本文)。
(2)   刑事施設にいる被告人に対して発せられた勾留状は,検察官の指揮によって,刑事施設職員がこれを執行します(刑訴法70条2項)。
2 検察官の指揮により勾引状又は勾留状を執行する場合には,これを発した裁判所又は裁判官は,その原本を検察官に送付しなければなりません(刑訴規則72条)。
    原本を検察官に送付するのは,勾留状の執行に当たって,原本を被告人に示す必要があるからです(刑訴法73条1項及び2項)。
3 遠隔の地で勾引状・勾留状の執行をした場合,引致すべき場所との距離等との関係で長時間を要し,あるいは利用する交通機関との関係で待ち時間ができたりすることが考えられ,そのようなとき,近接地にある刑事施設に一時的に身柄を留置することができます(刑訴法74条)。
4 勾留状の執行を受けた被告人は,その謄本の交付を請求することができます(刑訴規則74条)ところ,この場合,刑事訴訟法46条の摘要はなく,被告人は自己の費用を支払う必要はないと解されています(弁護士弓田竜の刑事事件ブログ「勾留状謄本交付請求」参照)。


第4 勾留と弁護人等への通知
1(1) 被疑者又は被告人が勾留された場合,接見交通(刑訴法39条1項),勾留理由開示請求(刑訴法82条2項),勾留取消請求(刑訴法87条1項)及び保釈請求(刑訴法88条1項)等,護人の活動すべき範囲は広く,弁護人が被告人の勾留されたことを直ちに知ることは人権保障の上で極めて重要ですから,刑訴法79条1項・207条1項による通知は弁護人依頼権を実質化するものです。
    被告人に弁護人がないときは,被告人の法定代理人,保佐人,配偶者,直系の親族及び兄弟姉妹のうち被告人の指定する者一人に通知しなければならないとされる(刑訴法79条2項・207条1項)のも,これらの者は独立して弁護人を選任することができる者である(刑訴法30条2項)から,弁護人依頼権を実質化しようとするものであるとともに,これらの者が被告人の所在を知って接見し(刑訴法80条),勾留理由開示請求(刑訴法82条2項,勾留取消請求(刑訴法87条1項)及び保釈請求(刑訴法88条1項)等をなし得るようにするものです。
(2) 弁護士弓田竜の刑事事件ブログ「勾留状謄本交付請求」には以下の記載があります。
東京地方裁判所では、平成28年7月から、勾留状謄本交付請求があった場合に勾留状のコピーの回付を受けて弁護人に交付する運用となりました。弁護人は、勾留状のコピーを受領する際に勾留状謄本交付請求を取り下げます。この運用により、弁護人は勾留状の記載内容を従来よりも早く確認することができるようになります。
2 被告人を勾留した場合において被告人に弁護人,法定代理人,保佐人,配偶者,直系の親族及び兄弟姉妹がないときは,被告人の申出により,その指定する者1人にその旨を通知しなければなりません(刑訴規則79条)。


第5 勾留と,弁護人等以外の者との接見交通
1 勾留されている被疑者又は被告人は,弁護人等以外の者と,法令の範囲内で接見し,又は書類若しくは物の授受をすることができます(刑訴法80条前段)。
2 接見しようとする者が弁護人又は弁護人となろうとする者以外の者である場合,その者は通常,刑事司法の目的及び運営に暗い者であるから,法令による各種の制限を置くことはやむを得ないといわれています。
3 ①逮捕状により留置中の被告人(逮捕中公判請求の場合),及び②被疑者(刑訴法209条は同法80条を準用していない)については,弁護人又は弁護人となろうとする者以外の者との接見は認められていません。
4 裁判所は,逃亡し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときは,検察官の請求により又は職権で,勾留されている被告人と弁護人等以外の者との接見を禁じ,又はこれと授受すべき書類その他の物を検閲し,その授受を禁じ,若しくはこれを差し押えることができ(刑訴法81条本文),これを接見等禁止決定といいます。


第6 勾留理由開示
1 総論
(1) 勾留理由開示は憲法34条後段の要請に基づく制度です。
(2) 勾留されている被疑者又は被告人は,裁判所に勾留の理由の開示を請求することができます(刑訴法82条1項・207条1項)。
(3) 勾留されている被疑者又は被告人の弁護人,法定代理人,保佐人,配偶者,直系の親族,兄弟姉妹その他利害関係人も,裁判所に勾留の理由の開示を請求することができます(刑訴法82条2項・207条1項)。
(4) 勾留理由開示は,公開の法廷でなされ(刑訴法83条1項・207条1項),裁判官及び裁判所書記官が列席して開かれます(刑訴法83条2項・207条1項)。
なお,被告人及びその弁護人が出頭しないときは,原則として開廷することができません(刑訴法83条3項・207条1項)。
(5) 裁判長は,勾留理由開示の法廷において,勾留の理由を告げる必要があります(刑訴法84条1項・207条1項)。
(6) 検察官,弁護人等は,10分以内で意見を述べることができますし(刑訴法84条2項本文・207条1項,刑訴規則85条の3第1項),書面を差し出すことができます(刑訴法84条2項ただし書・207条1項,刑訴規則85条の3第2項)。
2 勾留理由開示に関する判例
(1) 刑訴法86条の趣旨に徴すれば,既に一度勾留理由の開示がなされたときは,その同一勾留の継続中は重ねて勾留理由の開示を請求することを許されません(最高裁昭和28年10月15日決定)。
    なお,刑訴法86条は同一時点における請求の競合について規定するものに対し,最高裁昭和28年10月15日決定は異なる時点における請求の競合について判示するものです。
(2) 勾留理由開示の請求を却下する決定で高等裁判所がしたものに対しては,たとえ判決後にしたものであっても,刑訴法428条2項により,その高等裁判所に通常の抗告に代る異議の申立てをすることができます(最高裁昭和31年12月13日決定)。
(3) 勾留理由開示の請求は,同一勾留については,勾留の開始せられた当該裁判所において一回にかぎり許されます(最高裁昭和44年4月9日決定。なお,先例として,最高裁昭和29年8月5日決定,最高裁昭和29年9月7日決定参照)。
(4) 裁判官が勾留理由開示の請求を却下した裁判に不服がある者は,刑訴法429条1項2号により,その取消又は変更を請求することができます(最高裁昭和46年6月14日決定)。
(5) 簡易裁判所の裁判官が発した勾留状により勾留されている被疑者の事件が地方裁判所に起訴された場合には,第一回公判期日前における勾留理由の開示は,その地方裁判所の裁判官が行なうべきものです(最高裁昭和47年4月28日決定)。
(6) 勾留理由開示の請求は,勾留の開始された当該裁判所にのみなすことを許されます(最高裁昭和48年6月20日決定及び最高裁昭和50年10月18日決定。なお,先例として,最高裁昭和29年8月5日決定,最高裁昭和29年9月7日決定参照)。
    そのため,被告人に対する勾留が第一審で開始されたものである場合,上告審において勾留理由開示の請求をすることはできません(最高裁昭和50年10月18日決定)。
(7)  最高裁判所がした勾留理由開示請求却下決定に対し,特別抗告をすることはできません(最高裁昭和60年12月12日決定)。
(8)ア 勾留理由の開示は,公開の法廷で裁判官が勾留の理由を告げることであるから,その手続においてされる裁判官の行為は,刑訴法429条1項2号にいう勾留に関する裁判には当たらないため,準抗告の対象とはなりません(最高裁平成5年7月19日決定)。
イ 勾留理由の開示は,公開の法廷で裁判官が勾留の理由を告げることであるから,刑訴法433条1項にいう「決定又は命令」に当たらないため,特別抗告の対象とはなりません(最高裁令和5年5月8日決定。なお,先例として,最高裁平成5年7月19日決定)。
(9)  公訴提起後第1回公判期日前に弁護人が申請した起訴前の勾留理由開示の期日調書の謄写について裁判官が刑訴法40条1項に準じて行った不許可処分に対しては,同法429条1項2号による準抗告を申し立てることはできず,同法309条2項により異議を申し立てることができるにすぎません(最高裁平成17年10月24日決定)。


第7 勾留の取消
1 勾留の理由又は勾留の必要がなくなったときは,裁判所は,検察官,勾留されている被告人若しくはその弁護人,法定代理人,保佐人,配偶者,直系の親族若しくは兄弟姉妹の請求により,又は職権で,決定を以て勾留を取り消す必要があります(刑訴法87条1項・207条1項)。
2 ①勾留に対する不服申立てが勾留の裁判自体に内在する瑕疵を原因とする勾留の否定であり,②保釈及び勾留の執行停止が勾留後の事情を考慮しての一時的効力の停止であるのに対し,③勾留の取消は,勾留後の事情を原因とするその撤回です。
3 刑訴法60条1項の勾留の理由は元々,勾留の必要のある場合の典型的な例ですから,勾留の理由がある以上,勾留の必要性も推定されます。
    そのため,勾留の理由があって必要性のない場合としては,住居不定ではあるものの確実な身元引受人がある場合が考えられるにすぎません。
4 勾留取消決定(ただし,刑訴法207条,280条の場合は勾留取消命令)をする場合,それが検察官の請求によるものでない限り,急速を要する場合を除き,検察官の意見を聴く必要があります(刑訴法92条2項)。

第8 勾留の執行停止
1 裁判所は,適当と認めるときは,決定で,勾留されている被告人を親族,保護団体その他の者に委託し,又は被告人の住居を制限して,勾留の執行を停止することができます(刑訴法95条・207条1項)。
2 勾留の執行停止は実務上,被告人の病気療養のための入院,親族の冠婚葬,就職試験といった場合に限り,認められているにすぎません。
    また,執行停止の期間は実務上ほとんどの場合に付されています。
3 勾留の執行停止をする場合は必ず,親族,保護団体その他の者に委託するか(刑訴規則90条参照),又は被告人の住居を制限しなければなりません。
    なお,ハイジャック犯からの要求で超実定法的に被告人の勾留の執行を一時停止するといったように,委託も住居制限もできない場合に勾留の執行を停止することは,刑訴法95条とは無関係です。
4 勾留の執行停止決定をする場合,急速を要する場合を除き,検察官の意見を聴く必要があります(刑訴規則88条)。


第9 被疑者勾留特有の事情
1 被疑者の勾留は原則として10日以内であり(刑訴法208条1項),やむを得ない事由があると認められる場合に限り,20日以内となります(刑訴法208条2項)。
2 刑訴法208条2項の「やむを得ない事由」とは,①被疑者若しくは被疑事実の多数,計算複雑,被疑者・関係人らの供述その他の証拠の食い違い,取調べが必要と見込まれる関係人・証拠物多数等,又は,②重要参考人の病気,旅行,所在不明若しくは鑑定等証拠収集の遅延,困難等により,起訴,不起訴の決定が困難な場合を指し,その存否の判断には,関連する事件も相当の限度で考慮に入れることができます(最高裁昭和37年7月3日判決)。
3 勾留期間の延長請求書には,勾留状と期間延長のやむを得ない事由があることを認めるべき資料を添付しなければなりません(刑訴規則152条)。
    通常は,取調べを要する関係者多数,重要参考人が遠隔地のため取調べ未了及び事案複雑等,その事由を具体的に記載し,一件捜査記録を資料として添付しています。
4 勾留の期間延長の裁判は,延長する期間及び理由を記載した勾留状を検察官に交付することによって効力を生じます(刑訴規則153条1項ないし3項)。
5 検察官は,勾留状の交付を受けたときは,ただちに刑事施設職員を通じてこれを被疑者に示す必要があります(刑訴規則153条4項)。


第10 被告人勾留特有の事情
1 被告人の勾留の目的は,①被告人の公判廷への出頭を確保し,罪証隠滅を防止する点,及び②有罪判決がなされた場合の刑を執行するために身柄を確保する点にあります。
2 第1回公判期日前の勾留は裁判官が行います(刑訴法280条1項)。
3 被告人勾留の場合,裁判所が職権で行うのであって,被疑者勾留の場合のように検察官の請求によって行う(刑訴法207条)わけではありません。
4 逮捕中の被疑者について逮捕の基礎となった犯罪事実につき公訴を提起する場合において,その者を勾留する必要があると認めるときに,実務上,検察官が被告人の勾留を求めること(逮捕中求令状)がありますものの,これは裁判官に対してその職権の発動を促す意思表示にすぎません。
5 勾留の期間は原則として2ヶ月である(刑訴法60条2項本文前段)ものの,特に継続の必要がある場合においては,具体的に理由を付した決定で,1ヶ月ごとにこれを更新することができます(刑訴法60条2項本文後段)。
    ただし,罪証隠滅,住居不定等の場合を除き,勾留の更新は1回しかできません(刑訴法60条2項ただし書)。
6 刑訴法60条2項本文前段の「勾留の期間」とは,勾留状の執行として拘禁できる期間をいいます。
7 勾留状の有効期間(刑訴法64条1項,刑訴規則300条)とは,勾留状を執行する有効期間をいい,被告人を交流すべき期間をいうものではありません(最高裁昭和25年6月29日決定)。
8 起訴前の勾留中における捜査官の取調べの当否は起訴後の勾留の効力に影響を及ぼしません(最高裁昭和44年9月27日決定。なお,先例として,最高裁昭和42年8月31日決定)。
9 勾留期間更新決定に関する抗告申立ての利益は,右決定による勾留の期間の満了により失われます(最高裁平成6年7月8日決定)。

第11 第一審裁判所の無罪判決後の勾留
1 刑訴法345条は,無罪等の一定の裁判の告知があったときには勾留状が失効する旨規定しており,特に,無罪判決があったときには,本来,無罪推定を受けるべき被告人に対し,未確定とはいえ,無罪の判断が示されたという事実を尊重し,それ以上の被告人の拘束を許さないこととしたものと解されるから,被告人が無罪判決を受けた場合においては,同法60条1項にいう「被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」の有無の判断は,無罪判決の存在を十分に踏まえて慎重になされなければならず,嫌疑の程度としては,第1審段階におけるものよりも強いものが要求されます(最高裁平成19年12月13日決定)。
2 第1審裁判所が犯罪の証明がないことを理由として無罪の言渡しをした場合であっても,控訴審裁判所は,第1審裁判所の判決の内容,取り分け無罪とした理由及び関係証拠を検討した結果,なお罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり,かつ,刑訴法345条の趣旨及び控訴審が事後審査審であることを考慮しても,勾留の理由及び必要性が認められるときは,その審理の段階を問わず,被告人を勾留することができます(最高裁平成23年10月5日決定。なお,先例として,最高裁平成12年6月27日決定,最高裁平成19年12月13日決定参照)。


第12 代用監獄及び被告人の移送
1 被疑者及び被告人の勾留場所は本来,刑事施設としての拘置所です(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(=刑事収容施設法)3条3号)。
    しかし,拘置所の収容能力に限界があることから,被疑者の勾留場所はほぼ常に警察署留置場であり,被告人の勾留場所も当初は警察署留置場となっており(刑事収容施設法15条1項参照),これを代用監獄といいます。
2 検察官は,裁判長の同意を得て,勾留されている被告人を他の刑事施設に移すことができます(刑訴規則80条1項)。
3 検察官は,被告人を他の刑事施設に移したときは,直ちにその旨及びその刑事施設を裁判所及び弁護人に通知しなければなりません(刑訴規則80条2項前段)。
   被告人に弁護人がないときは,被告人の法定代理人,保佐人,配偶者,直系の親族及び兄弟姉妹のうち被告人の指定する者一人にその旨及びその刑事施設を通知しなければなりません(刑訴規則80条2項後段)。
4 勾留に関する処分を行う裁判官は職権により被疑者又は被告人の勾留場所を変更する旨の移監命令を発することができます(最高裁平成7年4月12日決定)。


第13 未決勾留による拘禁関係に信義則上の安全配慮義務はないこと等
1 最高裁平成17年12月8日判決の裁判要旨は以下のとおりです。
拘置所に勾留中の者が脳こうそくを発症し重大な後遺症が残った場合について,第1回のCT撮影が行われて脳こうそくと判断された時点では血栓溶解療法の適応がなかったこと,それより前の時点では適応があった可能性があるが,その適応があった間に,同人を外部の医療機関に転送して,血栓溶解療法を開始することが可能であったとは認め難いこと,拘置所において,同人の症状に対応した治療が行われており,そのほかに,同人を速やかに外部の医療機関に転送したとしても,その後遺症の程度が軽減されたというべき事情は認められないことなど判示の事情の下においては,同人が,速やかに外部の医療機関へ転送され,転送先の医療機関において医療行為を受けていたならば,重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の存在が証明されたとはいえず,拘置所の職員である医師の転送義務違反を理由とする国家賠償責任は認められない。
2 
最高裁平成28年4月21日判決は,以下の判示をしています(改行を追加しています。)。
   未決勾留は,刑訴法の規定に基づき,逃亡又は罪証隠滅の防止を目的として,被疑者又は被告人の居住を刑事施設内に限定するものであって,このような未決勾留による拘禁関係は,勾留の裁判に基づき被勾留者の意思にかかわらず形成され,法令等の規定に従って規律されるものである。
   そうすると,未決勾留による拘禁関係は,当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上の安全配慮義務を負うべき特別な社会的接触の関係とはいえない。
   したがって,国は,拘置所に収容された被勾留者に対して,その不履行が損害賠償責任を生じさせることとなる信義則上の安全配慮義務を負わないというべきである(なお,事実関係次第では,国が当該被勾留者に対して国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負う場合があり得ることは別論である。)。
3 最高裁令和3年6月15日判決は,以下の判示をしています(改行を追加しています。)。
 拘置所を含む刑事施設においては,これに収容されている者(以下「被収容者」という。)の健康等を保持するため,社会一般の保健衛生及び医療の水準に照らし適切な保健衛生上及び医療上の措置を講ずるものとされ(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律56条),刑事施設の長は,被収容者が負傷し,若しくは疾病にかかっているとき,又はこれらの疑いがあるとき等には,速やかに,刑事施設の職員である医師等(医師又は歯科医師をいう。以下同じ。)による診療を行い,その他必要な医療上の措置を執るなどとされている(同法62条1項等)。
 そして,刑事施設の中に設けられた病院又は診療所にも原則として医療法の規定が適用され(同法30条の2,医療法施行令3条2項参照),これらの病院又は診療所において診療に当たる医師等も医師法又は歯科医師法の規定に従って診療行為を行うこととなる。
 そうすると,被収容者が収容中に受ける診療の性質は,社会一般において提供される診療と異なるものではないというべきである。


第14 未決拘禁者については施設内免許再取得試験を実施していないこと
・ 日弁連の未決勾留期間中の運転免許失効に関する人権救済申立事件(令和3年9月22日付の要望)には以下の記載があります。
 同所(山中注:東京拘置所のこと。)では、2004年11月16日付け法務省矯保第5794号通知(「矯正施設における特定失効者に対する運転免許試験の実施について(通知)」、以下「本件通知」という。)に基づき、受刑者については上記3年の期間内に、施設内において技能試験等が免除された運転免許試験(以下「施設内免許再取得試験」という。)を年1回実施しているところ、未決勾留中の者を含む未決拘禁者については、本件通知がこれを対象としていないことから、施設内免許再取得試験を実施していない。そのため、運転免許失効後3年が経過した未決拘禁者は、将来運転免許を再取得するためには全ての試験を再受験しなければならなくなる。


第15 勾留請求と勾留状の発付数等に関する統計
 勾留請求と勾留状の発付数等に関する統計(地簡裁総数)は以下のとおりです。
・ 平成25年から令和4年まで
・ 令和2年分及び令和3年分
・ 平成30年分及び令和元年分
・ 平成30年分
→ 全国の地裁管内ごとの統計が含まれています。
・ 昭和49年から平成29年まで


第16 関連記事その他
1(1) リーガラスHP「「ある弁護士の獄中体験記」記事一覧(留置所・拘置所・刑務所での生活と出所の記録)」(筆者は44期の山本至 元弁護士(東弁))が載っています。
同人は,平成18年11月9日に突然,宮崎県警に逮捕され,宮崎地裁平成21年4月28日判決(判例秘書)により懲役1年6月・未決勾留日数50日算入の実刑判決となり,福岡高裁平成22年12月16日判決(判例秘書)により控訴棄却となり,最高裁平成24年10月22日決定により上告棄却となり,同年12月10日に福岡高検宮崎支部に出頭し,平成26年4月20日に刑期満了となり,翌日,大分刑務所を出所しました
(2) 東京弁護士会は,平成19年10月11日,「山本至会員に対する第1回公判にあたっての会長談話」を出しました(弁護士自治を考える会ブログの「山本至弁護士【東京】二審も実刑判決。別に犯人いると虚偽」参照)。)。
2 新刑事手続Ⅰ・257頁には「今後の捜査に応じるかどうか,将来の起訴状等の送達・公判廷への出廷が確実かどうかまでを含めて検討し,これが容易でないのが「逃亡のおそれ」であるということになろう。」(筆者は30期の渡辺咲子検事)と書いてあります。
3(1) 以下の資料を掲載しています。
・ 勾留質問手続における遠隔通訳について(令和3年3月26日付の最高裁刑事局第二課長等の事務連絡)
3(2) 以下の記事も参照してください。
・ 被疑者の逮捕
・ 被告人の保釈
・ 保釈保証金の没取
・ 刑事裁判係属中の,起訴事件の刑事記録の入手方法(被害者側)
・ 刑事裁判係属中の,起訴事件の刑事記録の入手方法(加害者である被告人側)
・ 刑事記録の入手方法等に関する記事の一覧

警察庁交通局

目次
第1 総論
第2 警察庁交通局等の沿革
第3 警察庁交通局の組織及び担当事務
1 交通企画課(警察庁組織令32条)
2 交通指導課(警察庁組織令33条)
3 交通規制課(警察庁組織令34条)
4 運転免許課(警察庁組織令35条)
第4 警察庁交通局幹部の階級
第5 関連記事その他

第1 総論
1 警察庁交通局は,警察庁の所掌事務に関し,交通警察に関する事務をつかさどっています(警察法23条の2)。
主として,道路交通法,自動車の保管場所の確保等に関する法律及び自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律の施行に関する事務を実施しています。
2 警察庁交通局は,警察本部交通部及び警察署交通課と異なり,現場の執行事務は取り扱っていません。

第2 警察庁交通局等の沿革
1 昭和29年7月1日に現在の警察法(昭和29年6月8日法律第162号)が施行された際,交通警察は,警察庁警備部警ら交通課が担当していました(警察庁組織令17条6号)。
    昭和33年4月1日,警察庁の部が局になるとともに保安局が刑事局から分離独立し,交通警察は,警察庁保安局交通課が担当することとなりました(警察法等の一部を改正する法律(昭和33年3月26日法律第19号))。
    昭和36年,交通企画課及び交通指導課が新設されました(警察庁HPの「日本警察50年史第2章 日本警察50年の軌跡と新たなる展開」参照)。
    昭和37年4月1日,警察庁交通局が設置されました(警察法等の一部を改正する法律(昭和37年3月20日法律第14号))。
2 警察庁保安局は,昭和43年6月15日,警察庁刑事局保安部となり(行政機構の簡素化等のための総理府設置法等の一部を改正する法律(昭和43年6月15日法律第99号3条(警察法の一部改正)),平成6年7月1日,警察庁生活安全局となりました(警察法の一部を改正する法律(平成6年6月24日法律第39号))。
3 平成16年警察白書の「日本警察50年の軌跡と新たな展開」が参考になります。

第3 警察庁交通局の組織及び担当事務
1 交通企画課(警察庁組織令32条)
(1) 交通警察に関する制度の企画及び立案,交通統計,交通安全教育及び交通安全運動,高速道路交通警察隊の管理等に係る事務を所掌しています。
    また,道路交通関係法令の改正作業や各種計画の策定作業等を行っています。
(2) 平成29年4月1日現在の,交通局交通企画課事務分掌表を掲載しています。
2 交通指導課(警察庁組織令33条)
(1) 道路交通の秩序維持のため,交通指導取締り,交通事故事件捜査,暴走族対策に係る企画立案等のほか,白バイ・交通パトカーの運用に係る事務を行っています。
    また,放置違反金制度と放置車両確認事務の民間委託を柱とする駐車対策法制の運用にも取り組んでいます。
(2) 平成29年4月14日現在の,交通局交通指導課事務分掌表を掲載しています。
3 交通規制課(警察庁組織令34条)
(1)   信号制御や標識設置等によって交通流をコントロールし,安全かつ円滑な道路交通を支えています。
    また,大規模災害発生時は,速やかな災害対策が実施できるよう、緊急輸送ルートを確保する重責を担います。
(2) 平成29年4月1日現在の,交通局交通規制課事務分掌表を掲載しています。
4 運転免許課(警察庁組織令35条)
(1)   運転免許を取得しようとする者への教習・試験,運転免許保有者等への講習等の充実により安全運転を促進し、運転免許の取消し等により危険運転者を排除することで、運転者の資質向上を図っています。
(2) 平成29年5月8日現在の,交通局運転免許課事務分掌表を掲載しています。

第4 警察庁交通局幹部の階級
1 平成29年度警察庁交通局の事務分掌表によれば,平成29年4月現在,警察庁交通局幹部の階級は以下のとおりです。
(1) 警視監
    交通局長,長官官房審議官(交通局担当),交通企画課長
(2) 警視長
ア 交通企画課
    高速道路交通政策総合研究官,長官官房参事官(高速道路交通政策担当),交通安全企画官
イ 交通指導課
    交通指導課長
ウ 交通規制課
    交通規制課長
エ 運転免許課
    運転免許課長
(3) 警視正
ア 交通企画課
    高速道路管理室長,企画官1人,理事官1人,
イ 交通指導課
    交通事故事件捜査指導室長,理事官1人
ウ 交通規制課
    理事官
エ 運転免許課
    高齢運転者等支援室長兼外国人運転者対策官,理事官
2 46の道府県警察本部長のうち,警視監が警察本部長となっているのは27道府県ぐらいであり,警視長が警察本部長となっているのは19県ぐらいです。
    そのため,警察庁交通局交通企画課長は中小規模の県警本部長よりもランクが高いこととなりますし,警察庁交通局の課長等は中小規模の県警本部長と同格であることとなります。
3 警察庁の定員に関する訓令(昭和44年6月30日警察庁訓令第6号)によれば,警察庁内部部局の定員は,長官が1人,警視監又は警視長が30人,警視長又は警視正が88人,警視正又は警視が547人,警部が743人の合計1409人となっています。
    ただし,警察庁内部部局には警察官とは別に技官がいます。

第5 関連記事その他
1 警察庁交通局の平成27年度定員は,交通企画課が58人,交通指導課が26人,交通規制課が37人,運転免許課が25人であり,合計146人です。
2 平成28年4月1日,交通事故被害者サポート事業が,内閣府政策統括官(共生社会政策担当)付交通安全対策担当から警察庁交通局に移管されました(警察庁HPの「交通事故被害者サポート事業」参照)。
3 警察庁交通局HPの「道路交通法等の改正」に,平成19年以降の道路交通法改正に関する情報があります。
4 警察官が,交通取締の一環として,交通違反の多発する地域等の適当な場所において,交通違反の予防,検挙のため,同所を通過する自動車に対して走行の外観上の不審な点の有無にかかわりなく短時分の停止を求めて,運転者などに対し必要な事項についての質問などをすることは,それが相手方の任意の協力を求める形で行われ,自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない方法,態様で行われる限り,適法です(最高裁昭和55年9月22日決定)。
5(1) 以下の資料を掲載しています。
・ 交通事故抑止に資する交通指導取締りについて(平成26年4月3日付の警察庁交通局交通指導課長等の通知)
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 交通警察
・ 実況見分調書作成時の留意点
・ 交通事故被害者が警察に対応する場合の留意点
・ 刑事記録の入手方法等に関する記事の一覧

被告人の保釈

目次
1 総論
2 必要的保釈(権利保釈)
3 任意的保釈(権利保釈)
4 義務的保釈
5 保釈に関する検察官の意見
6 保釈保証金及び保釈の手続
7 保釈の判断に対する抗告審
8 被告人の保釈に関する統計
9 保釈者等の視察に関する犯罪捜査規範の条文
10 出国確認の留保,カルロス・ゴーンの密出国及び国外逃亡被疑者等の追跡
11 GPS端末の実証事件に係る業務委託
12 保釈保証金に関する弁護士会照会
13 債務者が刑事事件の弁護人に対して預託金返還請求権を有する場合における債権回収方法
14 保管金事務処理システム
15 保釈保証金の還付
16 関連記事その他

1 総論
(1) 保釈とは,勾留を観念的には維持しながら,保釈保証金の納付を条件として被告人に対する勾留の執行を停止して,その身体拘束を解く裁判及びその執行をいいます。
(2) 保釈は,被告人が召喚を受けても出頭しなかったり,逃亡したりした場合には,保証金を没収することとして被告人に経済的・精神的負担を与えて被告人の出頭を確保する制度です。
(3) 保釈の種類としては,①必要的保釈(刑訴法89条),②任意的保釈(刑訴法90条)及び③義務的保釈(刑訴法91条)の3種があります。
(4) 勾留されている被告人又はその弁護人,法定代理人,保佐人,配偶者,直系の親族若しくは兄弟姉妹は,保釈の請求をすることができます(刑訴法88条1項)。


2 必要的保釈(権利保釈)
(1) 裁判所は,保釈の請求があった場合,以下の事由がある場合を除き,保釈を許す必要があります(刑訴法89条)。
① 被告人が死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
② 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期10年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
③ 被告人が常習として長期3年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
④ 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
⑤ 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
⑥ 被告人の氏名又は住居が分からないとき。
(2) 禁錮以上の刑に処する判決の宣告があったときは,必要的保釈の適用がなくなります(刑訴法344条)。


3 任意的保釈(権利保釈)
(1) 義務的保釈の対象とならない場合でも,被告人に対して必要以上の苦痛を与えないため,公判廷への出頭を確保できる場合,裁判所の自由裁量により,職権で保釈してもらえます(刑訴法90条)。
(2) 被告人が甲,乙,丙の三個の公訴事実について起訴され,そのうち甲事実のみについて勾留状が発せられている場合において,裁判所は,甲事実が刑訴法89条3号に該当し,従って,権利保釈は認められないとしたうえ,なお,同法90条により保釈が適当であるかどうかを審査するにあたっては,甲事実の事案の内容や性質,あるいは被告人の経歴,行状,性格等の事情をも考察することが必要であり,そのための一資料として,勾留状の発せられていない乙,丙各事実をも考慮することを禁ずべき理由はありません(最高裁昭和44年7月14日決定)。


4 義務的保釈
(1) 勾留による拘禁が不当に長くなつたときは,裁判所は,保釈請求権者の請求により,又は職権で,決定を以て勾留を取り消し,又は保釈を許さなければなりません(刑訴法91条1項)。
(2) 憲法38条2項は不当に長い抑留,拘禁後の自白の証拠能力を否定しており,直接的ではないにせよ不当に長い被告人の拘禁を禁止する趣旨を表しているといえます。
そこで,刑訴法91条はそれに基づいて勾留による拘禁が不当に長くなったときに裁判所に義務的に勾留の取消又は保釈を許すことを命じたものです。

5 保釈に関する検察官の意見
(1) 裁判所は,保釈を許す決定又は保釈の請求を却下する決定をするには,検察官の意見を聴く必要があります(刑訴法92条1項)。
(2)  公訴提起後第1回公判期日前に弁護人が申請した保釈請求に対する検察官の意見書の謄写を許可しなかった裁判官の処分が許されないことがあります(最高裁平成28年10月25日決定)。


6 保釈保証金及び保釈の手続
(1)ア 裁判所は,保釈を許す場合,保釈保証金の金額を定める必要があります(刑訴法93条1項)。
イ 保釈保証金の金額は,犯罪の性質及び情状,証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して,被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければなりません(刑訴法93条2項)。
(2) 裁判所は,保釈を許す場合,被告人の住居を制限し,その他適当な条件を付けることができます(刑訴法93条3項)。
実務上は,召喚された場合の出頭,旅行制限,罪証隠滅を疑われる行為の禁止,善行保持,再犯禁止等の条件が付されることが多いです。
(3) 保釈を許す決定は,保釈保証金の納付があった後でなければ,これを執行することができません(刑訴法94条1項)。
(4) 裁判所は,保釈請求者でない者に保釈保証金を納付することを許すことができます(刑訴法94条2項)。
(5)ア 裁判所は,有価証券又は裁判所の適当と認める被告人以外の者の差し出した保証書を以て保証金に代えることを許すことができます(刑訴法94条3項)。
イ 保釈の保証書には,保証金額及びいつでもその保証金を納める旨を記載しなければなりません(刑訴規則87条)。


7 保釈の判断に対する抗告審
・ 受訴裁判所によってされた刑訴法90条による保釈の判断に対して,抗告審としては,受訴裁判所の判断が委ねられた裁量の範囲を逸脱していないかどうか,すなわち,不合理でないかどうかを審査すべきであり,受訴裁判所の判断を覆す場合には,その判断が不合理であることを具体的に示す必要があります(最高裁平成26年11月18日決定)。


8 被告人の保釈に関する統計
(1) 裁判所HPの「刑事事件Q&Aの更新について」に保釈に関する統計が載っています。
(2) 最高裁判所の開示文書を以下のとおり掲載しています(「通常第一審における勾留率,保釈率等(地裁)で始まる一連の文書(令和7年6月の開示文書)」といったファイル名です。)。
・ 勾留及び保釈に関する統計文書(令和7年6月の開示文書)
・ 勾留及び保釈に関する統計文書(令和4年8月の開示文書)
・ 通常第一審における終局人員のうち保釈された人員の保釈の時期(昭和59年から平成28年まで)
(被告人の保釈の取消しに関する統計)
・ 勾留された被告人の保釈の取消しに関する統計(令和4年分)
・ 勾留された被告人の保釈の取消しに関する統計(令和3年)
・ 勾留された被告人の保釈の取消しに関する統計(令和2年)
・ 勾留された被告人の保釈の取消しに関する統計(2019年)
・ 勾留された被告人の保釈の取消しに関する統計(平成30年)
(被告人の保釈に関する人員数)
・ 被告人の保釈に関する人員数(令和5年分)
・ 被告人の保釈に関する人員数-裁判所種別(令和4年)
・ 被告人の保釈に関する人員数-裁判所種別(令和3年)
・ 被告人の保釈に関する人員数-全裁判所及び裁判所種別(令和2年)
・ 被告人の保釈に関する人員数-全裁判所及び裁判所種別(平成14年~平成30年)
・ 被告人の保釈に関する人員数-全裁判所及び裁判所種別(令和元年)


9 保釈者等の視察に関する犯罪捜査規範の条文
第十七章 保釈者等の視察
(保釈者等の視察)
第二百五十三条 警察署長は、検察官から、その管轄区域内に居住する者について、保釈し、又は勾留の執行を停止した者の通知を受けたときは、その者に係る事件の捜査に従事した警察官その他適当な警察官を指定して、その行動を視察させなければならない。
2 前項に規定する視察は、一月につき、少なくとも一回行うものとする。
(事故通知)
第二百五十四条 前条に規定する視察に当たり、その者について次の各号の一に該当する理由があるときは、これを前条に規定する通知をした検察官に速やかに通知しなければならない。
一 逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
二 罪証を隠滅し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三 被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え若しくは加えようとし、又はこれらの者を畏怖させる行為をしたとき。
四 住居、旅行、治療等に関する制限その他保釈又は勾留の執行停止について裁判所又は裁判官の定めた条件に違反したとき。
五 その他特に検察官に通知する必要があると認められる理由があるとき。
(視察上の注意)
第二百五十五条 第二百五十三条(保釈者等の視察)に規定する視察は、穏当適切な方法により行うものとし、視察中の者又はその家族の名誉及び信用を不当に害することのないように注意しなければならない。
(視察簿)
第二百五十六条 第二百五十三条(保釈者等の視察)に規定する視察を行つたときは、視察簿(別記様式第二十四号)により、これを明らかにしておかなければならない。

10 出国確認の留保,カルロス・ゴーンの密出国及び国外逃亡被疑者等の追跡
(1) 出国確認の留保
ア 外国人が国外に出国する場合,入国審査官から出国の確認を受けなければならず,出国の確認を受けなければ出国できません(入管法25条)。
イ 長期3年以上の罪で訴追されていたり,勾留状等が発せられたりしている場合,24時間以内で出国確認を留保されます(入管法25条の2)。
ウ 外国人被告人の出国確認留保の通知に係る事務の取扱いについて(平成12年8月28日付の最高裁判所刑事局長,家庭局長通達)を掲載しています。
(2) カルロス・ゴーンの密出国
ア 41期の島田一 東京地裁14刑部総括は,平成31年3月5日,保釈金10億円でカルロス・ゴーンの保釈を許可し,同年4月25日,保釈金5億円で被告人カルロス・ゴーンの保釈を再び許可しました(外部HPの「保釈をめぐる事件経過一覧」参照)。
イ カルロス・ゴーンは,保釈条件に違反して国籍国であるレバノンに出国していたことが令和元年12月31日に発覚しました。
    そのため,同日付で15億円の保釈保証金が没取されました。
ウ カルロス・ゴーンの国外出国に対する高野隆弁護士のコメントが,同人のブログの「彼が見たもの」(2020年1月4日付)に載っています。
エ igaki.workブログ「カルロス・ゴーン氏が逃げた理由、日本の刑事司法の10個の闇。」(2020年1月5日付)が載っています。
オ 佐々木聖子出入国在留管理庁長官は,令和2年1月30日の参議院予算委員会において以下の答弁をしています。
    入管法上、一定の罪につき訴追されていること又は逮捕状、勾留状等が発せられているなどの一定の事由があるとして関係機関から当庁に対して通知があった外国人が出国しようとした場合には、入国審査官は二十四時間に限り当該外国人の出国の確認を留保する、つまり出国をさせないことができることとされており、そのことが出国の審査ブースで分かる仕組みになっています。
    仮にカルロス・ゴーン被告人が出国確認手続を経ていれば、出国を止める体制ができておりました。
(3) 国外逃亡被疑者等の追跡
    令和元年警察白書の「第2部 本編」→「第4章 組織犯罪対策」→「第3節 来日外国人犯罪対策」→「第3項 国際組織犯罪に対処するための取組」には,「国外逃亡被疑者等の追跡」として以下の記載があります。
    国外逃亡被疑者等の数の推移は、図表4-18のとおりである。
    警察では、被疑者が国外に逃亡するおそれがある場合には、出入国在留管理庁に手配するなどして、出国前の検挙に努めている。また、被疑者が国外に逃亡した場合には、関係国の捜査機関との捜査協力を通じ、被疑者の所在確認等を行っており、所在が確認された場合には、犯罪人引渡条約(注2)等に基づき被疑者の引渡しを受けるなどして、確実な検挙に努めている。
   このような取組の結果、平成30年中は、出国直前の外国人被疑者17人のほか、国外逃亡被疑者113人(うち外国人64人)を検挙した。
   このほか、事案に応じ、国外逃亡被疑者等が日本国内で行った犯罪に関する資料等を逃亡先国の捜査機関に提供するなどして、逃亡先国における国外犯処罰規定の適用を促し、犯罪者の「逃げ得」を許さないための取組を進めている。
(4) 犯人が他人を教唆して自己を蔵匿させ又は隠避させたときは,刑法103条の罪の教唆犯が成立します(最高裁令和3年6月9日決定。なお,先例として,最高裁昭和35年7月18日決定参照)。
(5)  逃亡犯罪人引渡法に基づく仮拘禁許可状の発付に対して特別抗告をすることはできません(最高裁令和5年11月6日決定)。
(6) 逃亡犯罪人引渡法に関する書式例(平成12年10月31日付の法務大臣訓令)を掲載しています。


11 GPS端末の実証事件に係る業務委託
・ 最高裁判所の令和4年度概算要求書(説明資料)462頁には,「GPS端末の実証事件に係る業務委託経費」として以下の記載があります。
<要求要旨>
 近時,保釈中の被告人の逃走事案が相次いで発生したことを受け,現在,法制審議会・刑事法(逃亡防止関係)部会において,保釈中の被告人の逃亡防止策の一つとして,当該被告人にGPS端末を装着させて位置情報を取得することにより逃亡を防止する制度(以下「本制度」という。)の導入についての検討が進められているところ,令和3年秋頃,これを盛り込んだ法制審議会の答申がなされる見込みである。これを踏まえ,法務省において,令和4年の通常国会に法案を提出する予定であり,遅くとも令和9年度までにその運用を開始するためには,本制度の確実な運用を実現する要求性能を備えたGPS端末を確保することが不可欠であるため,早期にその準備に着手する必要がある。
 本制度で求められるGPS端末は,装着対象者が逃亡の意思を惹起した場合においても身体からの取り外しや機能の無効化が困難であり,かつ,それらの行為が行われた時は直ちに関係機関が検知可能であるなど,既存の製品には見られない性能を備えるものでなければならない。そして,令和8年度中の試行運用開始に向け,要求性能を備えたGPS端末の設計・開発等を手戻りなく効率的に行うためには,令和4年度中に既存製品の技術・ノウハウを活用してGPS端末の試作品を製作し,日常生活における様々な条件の下での検証を通じて,その技術的困難性の有無・程度,測定した位置情報等の送信間隔とバッテリーの持続時間との関係,位置の測定が不可能又は困難なエリアの有無・範囲等を把握し,それらの諸課題を解決する方策を検証する必要があることから,高度の専門的知見を有する者に対して実証実験に係る業務を委託する必要がある。
 そこで,上記の業務委託に必要な経費を要求する。


12 保釈保証金に関する弁護士会照会
(1)ア 被告人以外の者が保釈保証金若しくはこれに代わる有価証券を納付し,又は保証書を差し出すのは,直接に国に対してするのであり,それによってその者と国との間に直接の法律関係が生ずるのであって,その還付もまた国とその者との間で行なわれます(最高裁大法廷昭和43年6月12日決定)。
イ 弁護人が保釈を請求し,かつ,保釈保証金を納付した場合において,たとえ実質上の出捐者が被告人であつたとしても,国に対して保釈保証金返還請求権を有する者は,弁護人であって被告人ではありません(最高裁昭和59年6月26日判決)。
(2) 仮差押え又は差押えのために保釈保証金の有無を調べたい場合,被告人の刑事事件が係属している地方裁判所に対し,照会事項として以下のような記載をして弁護士会照会をすればいいです(弁護士会照会ハンドブック196頁及び197頁)。
・ ○○地方裁判所令和2年(わ)第○○○○号・○○被告事件の被告人○○○○の保釈保証金について,以下の事項をご回答下さい。
① 保釈保証金の金額
② 保釈保証金の提出者の氏名及び住所
③ 保釈保証金納付の方法
④ 競合する仮差押え,差押えの有無
⑤ ④で有りの場合,その債権者の氏名及び差押え金額


13 債務者が刑事事件の弁護人に対して預託金返還請求権を有する場合における債権回収方法
(1) 総論
ア 債務者が実質的出捐者となって保釈保証金に充てるためのお金を刑事事件の弁護人に提供した場合,弁護士会照会によって保釈保証金の存在を確認した上で,債務者が弁護人に対して有する預託金返還請求権について差押え又は仮差押えをすることで債権回収を図ることができます。
イ 京都地裁平成19年9月25日判決の事例では,債務名義を負っている債務者が弁護人に対して有する預託金返還請求権の差押えを通じて債権回収しましたし,東京地裁平成18年1月18日判決の事例では,被告人が弁護人に対して有する預託金返還請求権の仮差押えをした後,実質上の出捐者とされた被告人の妻(被告人及びその妻はいずれも債務者でした。)から債権回収しました。
ウ 刑事事件の弁護人の立場から見た場合,保釈保証金を用意できそうな被告人の関係者が債務名義を負っているような場合,当該関係者からお金を預かるのは避けて,日本保釈支援協会保釈保証金立替システム,又は全国弁護士協同組合連合会保釈保証書発行事業を利用した方が無難であると思います。
(2) 京都地裁平成19年9月25日判決
ア 弁護人である被告に対する預託金返還請求権の債権差押命令を得た上での取立訴訟に関する京都地裁平成19年9月25日判決(判例秘書に掲載)の主文のうち,原告の請求を認容した乙事件の主文は以下のとおりです(条件付給付判決の主文の記載方法としても参考になります。)。
  被告は,原告に対し,被告人甲野太郎にかかる大阪高等裁判所平成17年(う)第1901号偽造有印私文書行使,詐欺被告事件の上告審又はその差戻審において,被告が京都地方裁判所に提出した3750万円の保釈保証金(うち3000万円について平成17年6月27日提出,保管金提出書進行番号平成17年度第40055号,うち750万円について平成17年11月2日提出,保管金提出書進行番号平成17年度第40198号,ただし,いずれも,平成19年3月14日付け決定をもって同月8日付け保釈許可決定における保釈保証金3800万円の一部に流用[代納])の還付がなされることを条件として,3750万円及びこれに対する同還付の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
イ 京都地裁平成19年9月25日判決の事例では,平成17年6月27日に京都地裁で保釈許可決定を受け(保釈保証金は3000万円),実刑判決後の平成17年11月2日に京都地裁で再び保釈許可決定を受け(保釈保証金は4500万円),控訴棄却判決後の平成19年3月8日に大阪高裁で3度目の保釈許可決定を受けました(保釈保証金は3800万円であり,そのうちの50万円については控訴審の弁護人が現金で納付しました。)。
ウ 京都地裁平成19年9月25日判決には「刑事弁護事件を取り扱う弁護士の法律事務所において,保釈保証金に充てるための預託金を預かり金として経理処理をしないことは,通常考え難いこと(本件各預託金についての経理処理がされていれば,預託したのが太郎,一郎,三郎その他の第三者の誰であるかが容易に判明するものと考えられる。)」という記載があります。
(3) 東京地裁平成18年1月18日判決
ア 東京地裁平成18年1月18日判決は,「将来還付される保釈保証金に対する差押えを回避するため,Yに対して連帯保証債務を負っている被告人の妻CがX(被告人及びCの間の長女)に対して6000万円を貸し付け,XがB弁護士に6000万円を送金し,保釈保証金が5000万円と決定された後に弁護士がXに1000万円を返金した後,YがB弁護士に対する預託金返還請求権の仮差押えをしてXが第三者異議の訴えを提起し,Yが供託金還付請求権確認(主位的請求)及び債権者代位(予備的請求)の訴訟を提起したという事例」において以下の判示をしました。
① 第三者異議の訴え及び供託金還付請求権確認の訴えに対するもの
・ CとXの間では,将来還付される保釈保証金に対する差押えを回避するため,Cが6000万円をいったんXに対して貸し付けることとし,その上で,XがこれをB弁護士に預託したものと認定し得ないではなく(ただし,このような手法の当否はさておくにしても,借用証書等の書面の存在がうかがわれないなどの点で必ずしも疑問が残らないというわけではない。),B弁護士に対する本件保釈保証金の返還請求権は,原告に帰属するものと認定することができるというべきである。
② 債権者代位の訴えに対するもの
・ Cと原告との間で平成15年3月20日に6000万円の消費貸借契約が締結されたものと認定できることは前記1で判示したとおりであるところ,被告は,その弁済期について,第一次的に,期限の定めがなかった旨主張するものの,この事実を認めるに足りる証拠はなく,むしろ,証拠(甲8,9)及び弁論の全趣旨によれば,Cと原告は,その際,原告がB弁護士から保釈保証金の返還を受けたときを弁済期とする旨合意したものと認められる。
 そして,この合意の具体的内容については,保釈保証金がB弁護士から返還されるか否かといった,将来発生するか否かが不確実な事実にかからせるものであるとすれば,それは条件に該当することになり,消費貸借契約成立の本質的要素である弁済期の合意を欠くことになるから,本件消費貸借契約が有効に成立したと強く主張する原告の主張内容からみても,結局,Cと原告の合理的意思としては,原告が保釈保証金の返還を受けたとき,又はその返還を受ける見込みのないことが確定したときを弁済期とする旨の合意をしたものと認めるのが相当であり,これに反する原告の主張は採用できない。
イ 東京地裁平成18年1月18日判決の事例における仮差押債権目録は以下のとおりでした。
   5000万円
 ただし,訴外Aが下記刑事事件の保釈保証金として納付するために第三債務者Bに対して預託した頭書金員の返還請求権
              記
       被告人   訴外A
       係属裁判所 金沢地方裁判所
       事件番号  平成15年(わ)第102号
       罪名    商法違反
ウ 東京地裁平成18年1月18日判決では,Yは,債権者代位権に基づき,Xに対し,Cに代位して,Cに対する連帯保証債務履行請求権を保全するため,CのXに対する消費貸借契約に基づく残元金5000万円及び遅延損害金の支払を予備的に請求しましたところ,当該請求は認容されました。


14 保管金事務処理システム
・ 最高裁判所の令和4年度概算要求書(説明資料)331頁には,「保管金事務処理システム」として以下の記載があります。
<要求要旨>
 保管金事務処理システム(以下「本システム」という。)は,裁判所内の事件処理システムの一部と連携し,保管金事務(例えば,刑事事件の被告人の身柄拘束を解放する要件の一つとなる保釈保証金や強制執行手続の進行・差押え等に関係する民事執行予納金等の事務)の適正かつ迅速な処理を行うことを目的とする基盤システムであり,財務省所管の歳入金電子納付システム及び官庁会計システムと連携して,裁判所における保管金の電子受払を可能としている。
 本システムは,平成17年4月から運用を開始し,平成19年度までに全ての裁判所への導入を完了している。平成22年度,平成28年度及び令和2年度にサーバ等機器等を更改し,現在までリースにより運用するとともに,安定的な稼働を維持するために必要な運用保守等を行っている。
 令和4年度には,歳入歳出外現金出納官吏の廃止に係る移行支援,最高裁判所データセンタ基幹インフラ切替対応及び新民事執行事件処理システム改修対応を予定している。また,上記リース対象のソフトウェアのうち,物理サーバの仮想化及びウイルスチェックをそれぞれ担っている各ソフトウェアのバージョンアップ等作業を実施する必要がある。さらに,最高裁判所近郊における大規模災害後に確実にシステムの復旧を進める観点から,バックアップテープ等の記録媒体を遠隔地保管する必要がある。
 そこで,令和4年度に要する本システムの機器等のリース経費,運用・保守経費,改修作業等経費,ソフトウェアのバージョンアップ等作業経費及びバックアップテープの保管業務に係る経費を要求する。
 なお,サーバ等機器等のリースについては,併せて5箇年の国庫債務負担行為によっており,令和4年度はその2年目である。


15 保釈保証金の還付
(1) 禁錮以上の刑に処する判決の宣告があったときは,保釈はその効力を失います(刑訴法343条本文)。
 このときに被告人を収監する場合,言い渡した刑並びに判決の宣告をした年月日及び裁判所を記載し,かつ裁判長又は裁判官が相違ないことを証明する旨を附記して認印した勾留状の謄本が被告人に示されます(刑訴規則92条の2)。
 一方で,刑訴規則91条1項2号に基づき,没取されなかった保釈保証金が還付されます。
(2) 無罪,免訴,刑の免除,刑の執行猶予,公訴棄却,罰金又は過料の裁判の告知があったときは,勾留状は,その効力を失います(刑訴法345条)。
 この場合,刑訴規則91条1項1号に基づき,没取されなかった保釈保証金は還付されます。


16 関連記事その他
(1)ア 判例タイムズ1484号(2021年7月号)に「捜査に対する司法審査の在り方等に関する研究[大阪刑事実務研究会]令状1・近時における勾留及び保釈の運用等について」が載っています。
イ 全国弁護士協同組合(全弁協)HPの「保釈保証書発行事業」に,全弁協が発行している保釈保証書に関する2件の東京高裁決定が紹介されています。
ウ 二弁フロンティア2021年10月号「トリビアではない!?東京拘置所あれこれ」が載っています。
エ 自由と正義2023年7月号21頁ないし28頁に「保釈保証書発行事業の成り立ちと利用の仕方、課題等」が載っています。
(2) 「デジタル遺品の探しかた しまいかた 残しかた+隠しかた」 36頁には,「スマホのロック解除を頼めるサービスは?」として以下の記載があります。
     スマホのロック解除を請け負うサービスは、かなり少ないのが現状で、データ復旧会社でもスマホは受け付けてくれないケースがほとんどです。
     なお、通信キャリア(NTTドコモやau、ソフトバンクなど)やメーカーは端末の中身に関しては非対応が原則ですので、対応を期待することはできません。
     スマホのデータ復旧を検討してくれる企業もありますが、それでも確実に解錠できる保証はなく、成功報酬は20万~50万円かかることも。作業期間も半年~1年がザラで、簡単な道のりとは言いがたいです。
(3) 31期の小泉博嗣 元裁判官は,情報公開・個人情報保護審査会の第1部会の委員として,以下の文書の存否自体が行政機関情報公開法5条4号(公共の安全等に関する情報)に該当すると判断しました。
・ 保釈中の被告人が保釈保証金を没取されることなく罪証隠滅に成功した事例に関して法務省が作成し,又は取得した文書(直近の事例に関するもの)(令和元年11月12日答申(令和元年度(行情)答申第296号))
・ 保釈中の被告人が事件関係人に接触した結果,事件関係人の供述を自己に有利に変更して無罪判決を獲得した事例に関して法務省が作成し,又は取得した文書(直近の事例に関するもの)(令和元年11月12日答申(令和元年度(行情)答申第297号))
(4)ア 刑の執行猶予の言渡し取消し請求において,被請求人が選任した弁護人に対して刑の執行猶予の言渡し取消し決定の謄本が送達されても,被請求人に対する送達が行われたものと同じ法的な効果は生じません(最高裁平成29年1月16日決定)。
イ 犯人が他人を教唆して自己を蔵匿させ又は隠避させたときは,刑法103条の罪の教唆犯が成立する(最高裁令和3年6月9日決定及び最高裁令和5年9月13日決定)ものの,裁判官山口厚の反対意見が付いています。
(5)ア 以下の資料を掲載しています。
① 平成30年5月7日付の参考統計表(最高裁判所事務総局刑事局)
② 通常第一審における終局人員のうち保釈された人員の保釈の時期(昭和59年から平成28年まで)
→ 刑事裁判を考える:高野隆@ブログ「人質司法の原因と対策」(平成31年1月18日付)において,「最高裁事務総局が「会内限り」という限定付きで日弁連に秘密裏に提供した統計資料」と記載されている文書に該当すると思います。
③ 刑事事件に関する書類の参考書式について(平成18年5月22日付の最高裁判所刑事局長,総務局長及び家庭局長送付)
→ 保釈許可決定等の書式が載っています。
④ 保釈保証書による代用許可の申出事例等の調査について(平成25年7月23日付の最高裁判所刑事局第二課長事務連絡)
⑤ 控訴審において実刑判決を宣告された保釈中の被告人に対する収容手続(基準)について(平成18年6月14日付の大阪高検次席検事の依命通達)
→ 基準の中身は黒塗りです。
イ 以下の記事も参照してください。
・ 被疑者の逮捕
・ 被疑者及び被告人の勾留
・ 保釈保証金の没取
・ 刑事裁判係属中の,起訴事件の刑事記録の入手方法(被害者側)
・ 刑事裁判係属中の,起訴事件の刑事記録の入手方法(加害者である被告人側)
・ 刑事記録の入手方法等に関する記事の一覧

強制執行に対する債務者の対抗手段

目次
1 執行抗告
2 請求異議の訴え及び執行停止の申立て
3 差押禁止債権の範囲変更の申立て
4 民事調停法又は特定調停法に基づく民事執行手続停止命令
5 執行処分の効力
6 給料差押えの場合,裁判所からの郵便物の受け取りは拒否した方がいいこと
7 関連記事その他

1 執行抗告
(1) 敗訴した相手方としては,強制執行に対し,法令の違反又は事実の誤認があることを理由に(民事執行規則6条2項参照),強制執行の告知を受けた日から1週間以内に(民事執行法10条2項),執行抗告(債権差押えの場合につき民事執行法145条5項)により争うことができます。
    ただし,この場合,原則として強制執行は停止しません(民事執行法10条6項参照)。
(2) 抗告裁判所は,抗告状又は執行抗告の理由書に記載された理由に限り,調査します(民事執行法10条7項本文)。
    ただし,原裁判に影響を及ぼすべき法令の違反又は事実の誤認の有無については,職権で調査することができます(民事執行法10条7項ただし書)。
(3) 執行抗告の場合,民事訴訟法54条1項の規定により訴訟代理人となることができる者でない限り,代理人となることはできません(民事執行法13条1項参照)。
(4) 差押債権の不存在又は消滅は,債権差押命令及び転付命令に対する執行抗告の理由とはなりません(東京高裁平成21年8月19日決定。なお,先例として,最高裁平成14年6月13日決定)。

2 請求異議の訴え及び執行停止の申立て
(1) 総論
ア 敗訴した相手方としては,確定判決に基づく強制執行に対し,口頭弁論の終結後(=裁判の審理期日の後)に生じた事由に基づき,請求異議の訴え(民事執行法35条)を提起し,あわせて,担保の提供(民事執行法15条)をした上で,執行停止の申立て(民事執行法36条1項)をすることができます。
イ 請求異議の訴え及び執行停止の申立ては,判決を出した第一審裁判所が管轄裁判所となります(民事執行法35条3項・33条2項1号)。
(2) 請求異議の訴えの位置づけ
ア 請求異議の訴えは,債務名義に確定されている請求それ自体につき,事後の変動があったことを事由としてその債務名義の執行力の排除を求める訴えです(最高裁昭和30年12月1日判決)。
イ 請求異議の訴えは,債務名義の存在を前提とし,その執行力の排除を目的とする訴えです(最高裁昭和40年7月8日判決)。
    そのため,債務名義が作成されれば訴えを提起することができるのであって,執行文が付与されたこと,又は執行が開始されたことは,請求異議の訴えの要件ではありません。
(3) 相殺の意思表示に伴う請求異議の訴え
・ 相殺の意思表示がなされたことによる債務の消滅を主張することは,請求異議の訴えにおいても認められていることです(最高裁昭和40年4月2日判決参照。なお,先例として,大審院連合部明治43年11月26日判決参照)。
(4) 請求異議の訴えが違法となる場合
・ 強制執行停止の申立てをした申立人主張の権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,申立人が,そのことを知り又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのに,敢えて強制執行停止の申立てをしたなど,強制執行停止の申立てが,制度の趣旨目的に照らして,著しく相当性を欠くと認められるときに限って,不当な訴訟行為による損害として,弁護士費用の賠償が求められるものと解されています(大阪高裁平成4年1月28日判決)。
(5) 不執行の合意の取扱い
・ 給付訴訟の訴訟物は,直接的には,給付請求権の存在及びその範囲であるから,右請求権につき強制執行をしない旨の合意(以下「不執行の合意」といいます。)があって強制執行をすることができないものであるかどうかの点は,その審判の対象にならないというべきであり,債務者は,強制執行の段階において不執行の合意を主張して強制執行の可否を争うことができます(最高裁平成5年11月11日判決)。
(6) その他
ア 執行文付与の訴えにおいて,債務者は,請求に関する異議の事由を抗弁として主張することはできないのであって,請求異議の訴えを反訴として提起する必要があります(最高裁昭和52年11月24日判決)。
イ 民事執行法36条1項は,執行停止のほか,執行処分の取消しまで認めている点で,民事調停法又は特定調停法に基づく民事執行手続停止命令とは異なります。
    ただし,執行処分の取消しまで認められるのは請求原因について自白が成立したような場合に限られています。

3 差押禁止債権の範囲変更の申立て
(1) 敗訴した相手方の給料又は退職金を差し押さえた場合,差押禁止債権の範囲変更の申立て(民事執行法153条)により争ってくることがごくごく稀にあります。
    この場合,支払禁止命令(民事執行法153条3項)を取得されると,一定の期間,給料又は退職金の取立てができなくなります。
(2) 国民年金等が年金受給者の銀行口座に振り込まれて預金債権となった場合,その法的性質は年金受給者の預金債権に変わり,執行裁判所は,申立てにより,その原資の属性を考慮することなく,当該預金債権について差押命令を発することができます(東京高裁平成22年4月19日決定)。
    この場合において民事執行法153条に基づき差押禁止債権の範囲の変更の申立てがあったときは,執行裁判所は,当該預金債権の原資となった国民年金等の債権の額,当該差押えに係る債務者及び債権者の生活の状況その他の事情を考慮して,差押命令の全部又は一部の取消しの裁判をすることができます(東京高裁平成22年4月19日決定)。

4 民事調停法又は特定調停法に基づく民事執行手続停止命令
(1) 執行証書(=強制執行受諾文言付の公正証書。民事執行法22条5号)に基づく強制執行の場合,相手方が民事調停の申立てをした上で,民事執行手続停止命令(民事調停規則6条1項)を得た場合(民事調停法12条の「調停前の措置」とは別の制度です。),民事調停が終了するまでの間,強制執行が停止します(民事執行法39条1項7号)。
    この場合において,裁判所が担保の提供を命じているかどうかは,ケースバイケースですが,債権者は,続行命令(民事調停規則6条2項)を得られる余地はあります。
(2) 相手方が特定調停の申立てをした上で,民事執行手続停止命令(特定調停法7条1項)を得た場合,特定調停が終了するまでの間,強制執行が停止します(民事執行法39条1項7号)。
    この場合において,裁判所が担保の提供を命じているかどうかは,ケースバイケースですが,債権者は,続行命令(特定調停法7条2項)を得られる余地はあります。
(3) 特定調停の申立てに伴う民事執行手続停止命令は,民事調停の申立てに伴う民事執行手続停止命令と異なり,確定判決又は仮執行宣言付の判決に基づく強制執行の場合でも利用することができます。

5 執行処分の効力
・ 民事執行法が執行処分に対する不服申立ての制度として執行抗告及び執行異議の各手続を設けている趣旨に照らすと,執行処分が執行手続に関する法令の規定に違反してされたものであったとしても,当該執行処分は,原則として,上記各手続により取り消され得るにとどまり当然に無効となるものではないとされています(最高裁令和5年3月2日判決。なお,先例として,大審院明治32年11月30日判決,大審院明治40年6月27日判決,最高裁昭和46年2月25日判決等参照)。
・ 執行処分が弁済受領文書の提出による強制執行の停止の期間中にされたものであったとしても、そのことにより当該執行処分が当然に無効となるものではありません(最高裁令和5年3月2日判決)。


6 給料差押えの場合,裁判所からの郵便物の受け取りは拒否した方がいいこと
(1) 給料差押えの場合,第三債務者である勤務先に債権差押命令が届いた後,債務者に債権差押命令が送達されますところ,債務者への送達が終わってから一定期間経過後に,差押債権者は第三債務者に対して差し押さえた給料を支払うように請求できることとなります(民事執行法155条1項)。
そのため,勤務先から債権差押命令のコピーを交付された場合,郵便局の受け取りは拒否し,かつ,郵便物等ご不在連絡票(日本郵便HPの「配達お申し込み受付」参照)も無視しておけば,債権差押命令の送達はできないこととなります。
イ 債権差押命令が裁判所に戻るまでの1週間余りの間,取立権の発生を引き延ばすことができます。
(2)ア   第三債務者である勤務先が陳述書を裁判所及び差押債権者に提出した場合,債務者の就業場所が判明することから,就業場所送達が実施されます(民事訴訟法103条2項)。
イ 第三債務者である勤務先が陳述書を裁判所及び差押債権者に提出しなかった場合,債務者の就業場所が判明しない結果,差押債権者は付郵便送達を利用することとなります(民事訴訟法107条)。
普通郵便で別途,その旨の連絡が届きます(民事訴訟規則44条)。


7 関連記事その他
(1) 自然災害義援金については差し押さえることができません(自然災害義援金に係る差押禁止等に関する法律3条)。
(2)ア 民事訴訟においては,当事者の主張立証に基づき裁判所の判断がされ,その効力は当事者にしか及ばないのが原則であって,権利者である当事者を異にし別個に審理された確定判決と仮処分決定がある場合に,その判断が区々に分かれることは制度上あり得ます(諫早湾干拓事業に関する最高裁平成27年1月22日決定)。
イ 共同漁業権から派生する漁業行使権に基づく潮受堤防排水門の開門請求を認容する判決が確定した後,当該確定判決に係る訴訟の口頭弁論終結時に存在した共同漁業権から派生する漁業行使権に基づく開門請求権が消滅したことのみでは当該確定判決に対する請求異議の事由とはならないとされた事例です(諫早湾干拓事業に関する最高裁令和元年9月13日判決)。
ウ 民事執行法が執行処分に対する不服申立ての制度として執行抗告及び執行異議の各手続を設けている趣旨に照らすと,執行処分が執行手続に関する法令の規定に違反してされたものであったとしても,当該執行処分は,原則として,上記各手続により取り消され得るにとどまり,当然に無効となるものではありません(最高裁令和5年3月2日判決。なお,先例として,大審院明治32年11月30日判決,大審院明治40年6月27日判決,最高裁昭和46年2月25日判決等参照)。
(3) 令和2年4月1日以降,給与債権を差し押さえた場合に取立権が発生するのは原則として4週間後であるものの,請求債権が養育費等である場合は1週間後です(民事執行法155条2項)。
(4)ア 以下の資料を掲載しています。
・ 差押禁止債権が振り込まれた預貯金口座に係る預貯金債権の差押えについて(令和2年1月31日付の国税庁徴収部長の指示)
→ 大阪高裁令和元年9月26日判決(判例秘書に掲載。裁判長は36期の中村也寸志裁判官)を踏まえた取扱いを指示した文書です。
イ 以下の記事も参照してください。
・ 債権差押えに関するメモ書き
・ 倒産事件に関するメモ書き

債権差押えに関するメモ書き

目次
1 債権差押命令の申立て前の留意点
2 債権差押えにおける工夫例
2の2 執行費用
3 差押債権えの特定を欠くとされた事例
3の2 差押えの対象とならない財産
4 債権差押えにおける送達先
5 債権差押命令の申立て後の留意点
6 金融機関の陳述書
7 取立権
8 転付命令
9 供託及び配当手続
9の2 改正民事執行法等に関する資料
10 債権差押えと時効中断
11 その他債権差押に関する判例
12 公務の執行を妨害する罪
13 関連記事その他

1 債権差押命令の申立て前の留意点
(1) 強制執行は依頼した弁護士限りで対応できますから,依頼者が裁判所に出頭する必要が生じることはまずありません。
(2) 強制執行を申し立てる場合,所定の書式の委任状に改めて署名押印する必要があります。
(3)ア 強制執行を申し立てるためには,前提として,執行文の付与を受けた上で(民事執行法26条),判決正本が相手方に送達済であること(民事訴訟法255条)を裁判所において確認する必要があります(民事執行法29条)から,強制執行の申立ては早くとも判決が言い渡されてから1週間程度後になります。
イ 執行文というのは,強制執行ができるという証明書です。
(4)ア 債権者又は債務者について,債務名義上の住所と,現在の住所が異なる場合,現住所とは別に「債務名義上の住所」を併記する必要がありますし,旧住所等と新住所等のつながりを示す証明書(例えば,住民票,履歴事項証明書)の原本を裁判所に提出する必要があります。
イ 管理組合が債権者の場合,定款又は管理規約,及び代表者を証する書面(例えば,管理組合の議事録)を提出する必要があります。
(5) 債権差押命令の申立ては債務者の住所地を管轄する地方裁判所の専属管轄です(民事執行法19条,144条)。
      例えば,債務者が2名で管轄が異なる場合,それぞれの管轄裁判所に別々に申立てをする必要があります。
(6)ア 債権者又は債務者に承継があった場合,承継執行文の付与(民事執行法27条2項),並びに執行文及び承継を証する文書の謄本の送達証明書が必要となります(民事執行法29条後段)。
イ 承継を証する文書を提出できない場合,債権者は執行文付与の訴えを提起する必要があります(民事執行法33条1項)。
(7) インターネット上のみで営業しているネットバンクの場合,一般の金融機関で想定される現実の支店が存在しないことから,支店を特定せずに債権差押命令が発令されます。
    ただし,ネットバンクであるということは裁判所にとって明らかでない場合もあるため,申立てにあたっては,ネットバンクであることを資料等で明らかにする必要があります。
(8) 給料なり賃金なり家賃なりといった継続的給付の差押えの場合,差押命令送達後に発生する債権も差押えができます(民事執行法151条)。
    しかし,大阪地裁の取扱い上,継続的給付と認められない売掛代金,請負代金等の将来分については,6ヶ月分しか認めてもらえません。
(9) 債権差押え(本差押え)に先行して仮差押命令を取得している場合,その旨を差押債権目録の末尾に記載する必要があります。
    なぜなら,この記載がないと,仮差押えと本差押えが競合したものとして取り扱われ(民事執行法165条参照),配当手続に移行することがあるからです。
(10) 判決書の主文,和解調書の和解条項等に表示されていない場合,年5%の法定利息による遅延損害金を請求債権に含めることはできません。
(11) 預貯金債権の場合,常に譲渡禁止特約が付いています(最高裁昭和48年7月19日判決参照)ものの,債権差押えの場合,譲渡禁止特約は適用されません(令和2年3月31日以前につき最高裁昭和45年4月10日判決,同年4月1日以降につき民法466条の5第2項)から,問題なく債権差押えの対象になります。


2 債権差押えにおける工夫例
(1) 相手方が居住している区又は市町村にある日本銀行歳入代理店である金融機関の預金口座全部を差し押さえることで,預貯金の有無を探す場合があります。
    なお,日本銀行「歳入」代理店(日本銀行法45条及び日本銀行法施行令12条に基づく日本銀行業務方法書28条参照)は,国債の元利金の支払等まで行う日本銀行「一般」代理店と異なり,国庫金の受入(=国税,国民年金保険料,交通反則金等の受領)のみを専門的に行う日本銀行の代理店であり,郵便局及び民間金融機関のほぼすべてがこれに該当します。
(2) 差押えの申立てをする時点で存在する債権額の全部を請求債権として差押えをした場合,当該差押えを取り下げない限り,後日,債務者に新たな財産が発見されたとしても差押えをすることができなくなります。
    そのため,債権額の一部だけを請求債権として差押えをし,もって,後日,債務者に新たな財産が発見されたときに改めて差押えをできるようにすることがあります。
    この場合,請求債権額は,差押えの申立てをする時点で存在する債権額よりも少ないものとなります。

2の2 執行費用
・  強制執行の申立てをした債権者が,当該強制執行における債務者に対する不法行為に基づく損害賠償請求において,当該強制執行に要した費用のうち民事訴訟費用等に関する法律2条各号に掲げられた費目のものを損害として主張することは許されません(最高裁令和2年4月7日判決)。

3 差押債権の特定を欠くとされた事例
(1) 差押債権を表示するに当たり,各第三債務者の全ての店舗を対象として順位付けをし(=全店一括順位付け方式),    その上で,同一の店舗の預貯金債権については,先行の差押え又は仮差押えの有無,預貯金の種類等による順位付けをした申立ては,差押債権の特定を欠いて不適法となります(最高裁平成23年9月20日決定,及び同決定の裁判官田原睦夫の補足意見)。
(2) 債権差押命令の申立てにおける差押債権の特定は,債権差押命令の送達を受けた第三債務者において,直ちにとはいえないまでも,差押えの効力が上記送達の時点で生ずることにそぐわない事態とならない程度に速やかに,かつ,確実に,差し押さえられた債権を識別することができるものでなりません(最高裁平成24年7月24日決定。なお,先例として,最高裁昭和23年9月20日決定参照)。
    その関係で,普通預金債権のうち差押命令送達時後同送達の日から起算して1年が経過するまでの入金によって生ずることとなる部分を差押債権として表示した債権差押命令の申立てが,差押債権の特定を欠き不適法となります(最高裁平成24年7月24日決定)。

3の2 差押えの対象とならない財産
(1) 給料及び退職金は,債務者の生活権の保護等のため,原則としてその4分の3の部分について,差押えが禁止されています(民事執行法152条1項及び2項)。
    ただし,給料が月額44万円を超える場合,33万円の差押えが禁止されるに過ぎず,33万円を超える全額の差押えが認められています(民事執行法施行令2条)。
(2) 請求債権が扶養義務等に係る定期金債権(例えば,養育費,婚姻費用)の場合,給料及び退職金の2分の1に限り,差押えが禁止されているにすぎません(民事執行法152条3項)し,確定期限(民事執行法30条1項参照)が到来していなくても強制執行が可能です(民事執行法151条の2)。
    ただし,給料が月額66万円を超える場合,33万円の差押えが禁止されるに過ぎず,33万円を超える全額の差押えが認められています(民事執行法施行令2条)。
(3) 公的年金については一切,差押えが禁止されています(例えば,国民年金につき国民年金法24条本文)。
(4) 敗訴した相手方の同居の親族名義の不動産等に対しては,それが敗訴した相手方所有の財産であることを書面等の客観的資料で証明できない限り,強制執行をすることはできません。
(5) 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律98条の定める作業報奨金の支給を受ける権利に対して強制執行をすることはできません(最高裁令和4年8月16日決定)。

4 債権差押えにおける送達先
(1) 執行手続は本案手続とは別個独立の手続ですから,本案における「送達の場所」を前提とした固定的効力の影響は受けません。
    そのため,執行手続において不送達となれば,一から再送達の手順を踏むことになり,改めて切手を納付する必要があります。
(2) 大阪地裁の取扱い上,判決等が公示送達によって終了した場合,判決言渡し日から1ヶ月以内であれば申し出により第1回目から公示送達が可能です。

5 債権差押命令の申立て後の留意点
(1) 大阪地裁の取扱い上,差押命令正本は,原則として発令日に第三債務者に発送され,その2日後ぐらいに債務者に発送されます。
    そして,第三債務者に差押命令が発令されると差押えの効力が生じ(民事執行法145条4項),債務者に送達されて1週間が経過すると取立権が発生します(民事執行法155条1項)。
(2) 債権差押命令の送達ができなかった場合,裁判所書記官から,送達すべき場所について必要な調査を求められることがあります(民事執行規則10条の3)。
(3) 債務者及び第三債務者に差押命令が送達されたのが裁判所で確認できた後,債権者に対し,裁判所から差押命令正本及び送達通知書(民事執行規則134条)が送付されます。
(4) 債務者が個人の場合,預金口座の名義人に該当するかどうかが厳格に問われますから,本人確認書類として事前に住民票を取り寄せることで,正確な生年月日及び住所を確認することがあります。

6 金融機関の陳述書
(1) 債権執行の対象となった預金が存在するかどうかは,債権差押命令の発令(申立てをしてから1週間後ぐらいに出ます。)から2週間以内に提出される,金融機関の陳述書を見れば分かります(民事執行法147条,民事執行規則135条参照)。
(2) 金融機関の陳述書は事実の報告たる性質を有するにすぎないものであり,当該陳述において第三債務者が被差押債権の存在を認めて支払の意思を表明し,将来において相殺する意思がある旨を表明しなかったとしても,これによって債務の承認又は抗弁権の喪失というような実体上の効果を生ずることはありません(旧法時代の仮差押命令における陳述書に関する最高裁昭和55年5月12日判決参照)。
    つまり,事実上の報告に過ぎないということです。

7 取立権
(1) 差押命令が送達されたことを前提として,債務者に差押命令が送達されてから一定の期間が経過すると,第三債務者に対し,支払を求めることができるようになります。
(2) 第三債務者から支払を受けた場合,直ちにその旨を裁判所に届ける必要があります(民事執行法155条3項,民事執行規則137条)。
(3) 生命保険契約の解約返戻金請求権を差し押さえた債権者は,これを取り立てるため,民事執行法155条1項所定の取立権に基づき,債務者の有する解約権を行使することができます(最高裁平成11年9月9日判決)。
(4)ア 債権差押えが競合していない場合,一応は任意に支払ってくれますものの,金融機関(特に,株式会社ゆうちょ銀行)に対する取立ての手続は,依頼者本人の実印が押印されている委任状,及び印鑑登録証明書が必要になる関係で非常に面倒な手続が必要となります。
イ 金融機関は通常,窓口扱いの振込手数料を控除した金額しか振り込んでくれません。
(5) 取立権は取立債務ですから,第三債務者に対して取立訴訟(民事執行法157条)を提起する場合,第三債務者の住所地を管轄する裁判所に提起する必要があります。

8 転付命令
(1)ア 債権者が差押え後,別の債権者が同じ債権を差し押さえると,差押えが競合することとなります。
    それを避けるために,申立てにより支払に代えて差押債権を券面額で転付する命令の発令を求めることもでき(転付命令。民事執行法159条),転付命令が確定した場合,請求債権は差押債権の券面額で弁済されたものとみなされます(民事執行法160条)。
イ 被転付債権(差押債権)が存在しなかったときは,請求債権は消滅しなかったことになります(民事執行法160条参照)ところ,再度,債権差押えを申し立てる場合,第三債務者作成の差押債権が存在しない旨の証明書が必要となる点で非常にリスクを伴いますから,転付命令を利用しない弁護士もいます。
(2) 「質権が設定されている金銭債権は,券面額ある債権として被転付適格を有する。」と判示した最高裁平成12年4月7日決定の最高裁判所判例解説には以下の記載があります。
転付命令は、差押債権者の申立てに基づいて、支払に代えて券面額で差し押さえられた金銭債権を当該差押債権者に移転することにより、右金銭債権が存する限り、券面額について同人の執行債権及び執行費用が弁済されたものと扱う制度である(民事執行法(以下「法」という。)159、160条)。転付命令を得た転付債権者は、他の債権者が競合する機会を排除して被転付債権から独占的な満足を受けることができる反面、第三債務者の無資力等によって被転付債権が回収不能であっても執行債権は消滅してしまうという危険を負担する。このように、転付命令は、被転付債権を目的物とする代物弁済の実質を持つとともに、執行における平等主義の例外となる制度である。
(3)ア 弁済供託の供託金取戻請求権が転付命令により供託者の他の債権者に転付されただけでは,被供託者の供託金還付請求権に消長をきたすものではありませんから,供託の効力が失われるものではありません(最高裁昭和37年7月13日判決)。
イ  自動車損害賠償保障法3条の規定による損害賠償請求権を執行債権とし,右損害賠償義務の履行によつて発生すべき同法15条所定の自動車損害賠償責任保険金請求権(つまり,加害者請求権)につき転付命令が申請された場合,右保険金請求権は,券面額ある債権として被転付適格を有します(最高裁昭和56年3月24日判決)。
ウ  第三債務者が差押命令の送達を受ける前に被差押債権の支払のために電子記録債権を発生させた場合,上記被差押債権についての転付命令が第三債務者に送達された後に上記電子記録債権の支払がされたときは,上記支払によって上記転付命令の執行債権等の弁済の効果は妨げられません(最高裁令和5年3月29日決定)。
(4) 家屋の賃貸借終了後であっても,その明渡し前においては,敷金返還請求権を転付命令の対象とすることはできません(最高裁昭和48年2月2日判決)。
(5)  甲が,乙に対する債権に基づいて,乙の丙に対する債権を差し押えて取立命令を得た後に,乙に対する他の債権者丁が,同一債権を重ねて差し押えて無効な転付命令を得た場合には,たとい丙が善意無過失で丁に弁済しても,甲は,民法481条1項の規定に基づき,丙に対して重ねて弁済を請求することができます(最高裁昭和40年11月19日判決)。
(6)  抵当権の物上代位の目的となる債権に対する転付命令は,これが第三債務者に送達される時までに抵当権者により当該債権の差押えがなされなかったときは,その効力を妨げられません(最高裁平成14年3月12日判決)。

9 供託及び配当手続
(1) 債権差押えが競合した場合,債権差押えの対象となった口座を管理する金融機関の支店は,法務局に対し,差し押さえられた預金を供託し(民事執行法156条2項参照),裁判所に対し,事情届(民事執行規則138条)を提出します(民事執行法156条3項)。
    そのため,裁判所の配当手続(民事執行法166条1項1号参照)を通じて,差し押さえた預金を法務局まで取りに行くこととなります。
(2) 裁判所からの配当期日呼出状(民事執行法166条2項・85条3項)の記載にかかわらず,裁判所の配当期日には通常,誰も来ません。
    そのため,債権計算書(民事執行規則145条・60条)等を郵送したり,配当表(民事執行法166条2項・85条)及び払渡証明書(民事執行法166条2項・91条2項参照)を裁判所から郵送してもらったりするだけであり,その関係で1,000円程度の切手代がかかります。
(3) 配当手続は,差し押えた口座を管理する金融機関の支店単位で行われます。
(4) 債権差押えをしてから法務局でお金を回収するまでに,3ヶ月から半年ぐらいかかるのが通常です。
(5)ア 裁判所の配当手続では,債権差押命令の請求債権目録に記載された合計金額(=請求債権)に加えて,配当期日までの利息・損害金を請求することができます(民事執行法166条2項・85条1項及び2項,最高裁平成21年7月14日判決参照)。
    しかし,配当期日までの利息・損害金を請求する場合,請求債権の管理事務に膨大な手間が発生しますし,請求債権のせいぜい1%から3%までの金額に過ぎません。
    そのため,依頼した弁護士によっては,「債権計算書で請求債権中の遅延損害金を申立日までの確定金額として配当を受けることを求める意思」(最高裁平成21年7月14日判決参照)を明らかにすることで,配当期日までの利息・損害金は請求しない人もいます。
イ 債権差押命令の申立書には請求債権中の遅延損害金につき申立日までの確定金額を記載させる執行裁判所の取扱いに従って債権差押命令の申立てをした債権者が差押債権の取立てとして金員の支払を受けた場合,申立日の翌日以降の遅延損害金も上記金員の充当の対象となります(最高裁平成29年10月10日決定)。
(6) すべての差押債権について配当手続が終了した場合,債権差押命令の申立てを取り下げることとなります。
この場合,裁判所書記官が,差押命令の送達を受けた債務者及び第三債務者に対し,取下げを通知することとなります(債務者につき民事執行規則14条,第三債務者につき民事執行規則136条1項)。
    そのため,債務者及び第三債務者の数だけ84円切手が必要となります。

9の2 改正民事執行法等に関する資料
(1) 令和2年4月等施行の改正民事執行法に関する資料
・ 引渡実施及び解放実施における事前ミーティングの実施要領について(令和元年12月12日付の最高裁判所民事局第三課長等の事務連絡)
・ 引渡実施及び解放実施に係る申立書及び調書の記載例について(令和元年12月12日付の最高裁判所民事局第三課長の事務連絡)
・ 引渡実施又は解放実施に係る警察上の援助について(令和2年2月17日付の最高裁民事局第三課長の事務連絡)
・ 民事執行法等の改正に伴う民事執行手続等における事務処理上の留意点について(1)(令和2年1月17日付の最高裁民事局第三課長の事務連絡)
・ 民事執行法等の改正に伴う民事執行手続等における事務処理上の留意点について(2)(令和2年3月2日付の最高裁民事局第三課長の事務連絡)
・ 民事執行法等の改正に伴う民事執行手続等における事務処理上の留意点について(令和2年7月改訂版)(令和2年7月17日付の最高裁民事局第三課長の事務連絡)
・ 民事執行法等の改正に伴う民事執行手続等における事務処理上の留意点について(令和3年3月改訂版)(令和3年3月5日付の最高裁民事局第三課長の事務連絡)
・ 民事執行法第205条第1項に規定する法務省令で定める登記所を定める省令の公布について(令和3年4月14日付の最高裁民事局長等の通知)
・ 子の返還の執行手続に関する民事執行規則の特則
・ ハーグ条約実施法等の制定に伴う規程の制定等について(令和2年3月6日付の最高裁総務局第三課長の事務連絡)
(2) 表題部適正化法に関する資料
 特定不能土地等管理命令等の手続における事務処理上の留意点について(令和2年10月28日付の最高裁民事局第三課長の事務連絡)
・ 表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律の施行に伴う登記嘱託書の様式について(令和2年10月30日付の最高裁民事局長の通知)
・ 「事件記録等保存規程等の改正の概要」の送付について(令和2年9月2日付の最高裁総務局第三課長の事務連絡)

10 債権差押えと時効中断
(1) 債権執行における差押えによる請求債権の消滅時効の中断の効力が生ずるためには,その債務者が当該差押えを了知し得る状態に置かれることを要しません(最高裁令和元年9月19日判決)。
(2) 債権差押命令が債務者及び第三債務者に送達されたものの,被差押債権が不存在のため,債権者が債権差押命令の取下げをした場合,債権差押えによる時効中断の効力は失効しないと解されています(京都地裁昭和38年12月19日判決。なお,先例として,大審院大正15年3月25日判決参照)。
(3) 債権執行の申立てをした債権者が当該債権執行の手続において配当等により請求債権の一部について満足を得た後に当該申立てを取り下げた場合,当該申立てに係る差押えによる時効中断の効力が民法154条により初めから生じなかったことになるわけではない(高松高裁平成29年11月30日決定)のであって,このように解することは最高裁平成11年9月9日判決と相反するものではありません(最高裁平成30年12月18日決定)。

11 債権差押えに関するその他の判例
・ 保険医療機関,指定医療機関等の指定を受けた病院又は診療所が社会保険診療報酬支払基金に対して取得する診療報酬債権は,基本となる同一の法律関係に基づき継続的に発生するものであり,民事執行法151条の2第2項に規定する「継続的給付に係る債権」に当たります(最高裁平成17年12月6日決定)。
・ 振替口座簿に開設された被相続人名義の口座に記載又は記録がされている振替株式,振替投資信託受益権及び振替投資口が共同相続された場合において,その共同相続により債務者が承継した共有持分に対する差押命令は,当該振替株式等について債務者名義の口座に記載又は記録がされていないとの一事をもって違法であるということはできません(最高裁平成31年1月23日決定)。
・  民訴法118条3号の要件を具備しない懲罰的損害賠償としての金員の支払を命じた部分が含まれる外国裁判所の判決に係る債権について弁済がされた場合,その弁済が上記外国裁判所の強制執行手続においてされたものであっても,これが上記部分に係る債権に充当されたものとして上記判決についての執行判決をすることはできません(最高裁令和3年5月25日決定)。


12 公務の執行を妨害する罪
(1) 平成23年6月24日法律第74号(平成23年7月14日施行)による改正後の刑法は,公務の執行を妨害する罪として以下のものを定めています。
① 公務執行妨害罪(刑法95条1項)
    公務員が職務を執行するに当たり,これに対して暴行又は脅迫を加えた者は,3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処せられます。
② 職務強要罪(刑法95条2項)
    公務員に,ある処分をさせ,若しくはさせないため,又はその職を辞させるために,暴行又は脅迫を加えた者は,3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処せられます。
③ 封印等破棄罪(刑法96条)
    公務員が施した封印若しくは差押えの表示を損壊し,又はその他の方法によりその封印若しくは差押えの表示に係る命令若しくは処分を無効にした者は,3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金に処せられ,併科されることがあります。
④ 強制執行妨害目的財産損壊等の罪(刑法96条の2)
    強制執行を妨害する目的で,以下のいずれかに該当する行為をした者は,3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金に処せられ,併科されることがありますし,情を知って,(c)に規定する譲渡又は権利の設定の相手方となった者も,同様です。
(a) 強制執行を受け,若しくは受けるべき財産を隠匿し,損壊し,若しくはその譲渡を仮装し,又は債務の負担を仮装する行為
(b) 強制執行を受け,又は受けるべき財産について,その現状を改変して,価格を減損し,又は強制執行の費用を増大させる行為
(c) 金銭執行(=金銭の支払を目的とする債権についての強制執行)を受けるべき財産について,無償その他の不利益な条件で,譲渡をし,又は権利の設定をする行為
⑤ 強制執行行為妨害等の罪(刑法96条の3)
    (a)偽計又は威力を用いて,立入り,占有者の確認その他の強制執行の行為を妨害した者,及び(b)強制執行の申立てをさせず又はその申立てを取り下げさせる目的で,申立権者又はその代理人に対して暴行又は脅迫を加えた者は,3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金に処せられ,併科されることがあります。
⑥ 強制執行関係売却妨害罪(刑法96条の4)
    偽計又は威力を用いて,強制執行において行われ,又は行われるべき売却の公正を害すべき行為をした者は,3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金に処せられ,併科されることがあります。
→ 例えば,不動産の競売における入札により最高価買受申出人となった者に対し,威力を用いてその入札に基づく不動産の取得を断念するよう要求する場合があります(最高裁平成10年11月4日決定参照)。
⑦ 加重封印等破棄等の罪(刑法96条の5)
    報酬を得,又は得させる目的で,人の債務に関して,②ないし⑥の罪を犯した者は,5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処せられ,併科されることがありあす。
⑧ 公契約関係競売等妨害罪(刑法96条の6)
    (a)偽計又は威力を用いて,公の競売又は入札で契約を締結するためのものの公正を害すべき行為をした者,及び(b) 公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的で,談合した者は,3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金に処せられ,併科されることがあります。
(2)ア 平成18年5月8日法律第36号(平成18年5月28日施行)による刑法改正により,公務執行妨害罪及び窃盗罪の法定刑に罰金が追加されました。
イ 平成23年6月24日法律第74号による改正後の刑法では,以下の強制執行妨害行為が新たな処罰対象となりました。
① 封印等が除去された後に行われる妨害行為(刑法96条)
② 目的建物への廃棄物の搬入等による価格減損行為(刑法96条の2第2号)
③ 目的財産の無償譲渡(刑法96条の2第3号)
④ 執行官の執行行為に対する偽計・威力による妨害行為(刑法96条の3第1項)
⑤ 強制執行の申立てをさせない目的等による暴行・脅迫(刑法96条の3第2項)
(3) 刑法96条の2ないし4の「強制執行」には,民事執行法1条所定の「担保権の実行としての競売」が含まれます(最高裁平成21年7月14日決定)。
(4)ア 弁護士が,会社経営者らに対し,強制執行を免れるための仮装の手段による財産隠匿行為として,別の会社に賃貸人を変更したように装い,テナントをして,その会社の口座に賃料を振り込ませる方策を助言した場合,強制執行妨害幇助罪が成立します(最高裁平成23年12月6日決定参照)。
イ 最高裁平成23年12月6日決定は上告棄却決定でしたが,裁判官田原睦夫が詳細な反対意見を書いています。


13 関連記事その他
(1) 強制執行の記録は,当事者を含む利害関係人の閲覧・謄写の対象となります(民事執行法17条)。
    そのため,競合する債権執行事件の記録を取り寄せることで,債務者が他に預貯金口座を持っていないかどうかを調査することはできます。
(2) 法務省HPに,令和元年5月17日法律第2号に関する「民事執行法及び国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部を改正する法律について」が載っていますところ,この改正法は,一般社団法人金融財政事情研究会HPに掲載されている,平成28年6月作成の「民事執行手続に関する研究会報告書」を元とする改正でした。
(3)ア 同一の債権について,差押通知と確定日付のある譲渡通知との第三債務者への到達の先後関係が不明である場合,差押債権者と債権譲受人とは,互いに自己が優先的地位にある債権者であると主張することができません(最高裁平成5年3月30日判決)。
イ 健康保険法上の保険医療機関,生活保護法上の指定医療機関等の指定を受けた病院又は診療所が社会保険診療報酬支払基金に対して取得する診療報酬債権は,民事執行法151条の2第2項に規定する「継続的給付に係る債権」に当たります(最高裁平成17年12月6日決定)。
ウ 大規模な金融機関の全ての店舗又は貯金事務センターを対象として順位付けをする方式による預貯金債権の差押命令の申立ては,差押債権の特定を欠き不適法です(最高裁平成23年9月20日決定)。
エ 執行処分が,民事執行法39条1項8号にいう債権者が債務名義の成立後に弁済を受けた旨を記載した文書(いわゆる弁済受領文書)の提出による強制執行の停止の期間中にされたものであったとしても,そのことにより当該執行処分が当然に無効となるものではありません(最高裁令和5年3月2日判決)。
(4)ア 最高裁平成29年5月10日決定は,銀行が,輸入業者の輸入する商品に関して信用状を発行し,当該商品につき譲渡担保権の設定を受けた場合において,上記輸入業者が当該商品を直接占有したことがなくても,上記輸入業者から占有改定の方法によりその引渡しを受けたものとされた事例です。
イ 1筆の土地の一部分についての所有権移転登記請求権を有する債権者において当該一部分について分筆の登記の申請をすることができない又は著しく困難であるなどの特段の事情があるときは,当該土地の全部についての処分禁止の仮処分命令は直ちに保全の必要性を欠くものではありません(最高裁令和5年10月6日決定)。
(5) 国税庁,国税局,税務署又は税関に所属する職員で国税に関する事務に従事する職員は,換価の目的となつた財産を,直接であると間接であるとを問わず,買い受けることができません(国税徴収法92条)。
(6) 以下の記事も参照してください。
・ 強制執行に対する債務者の対抗手段
・ 倒産事件に関するメモ書き
・ 消滅時効に関するメモ書き

家事審判に対する即時抗告,特別抗告及び許可抗告

目次
第1 家事審判等に対する即時抗告
1 総論
2 抗告審の手続
3 大阪高裁第9民事部及び第10民事部(家事抗告集中部)の運用
第2 家事審判に対する特別抗告及び許可抗告
1 総論
2 特別抗告
3 許可抗告
第3 関連記事その他

* 本ブログ記事において家事法とあるのは家事事件手続法のことです。

第1 家事審判等に対する即時抗告
1 総論
(1)ア 例えば,以下の審判については即時抗告ができますから,審判の告知を受けた日から2週間後に確定し(家事法74条4項,86条1項本文参照),その時点で効力を生じることになります(家事法74条2項ただし書)。
① 婚姻費用の分担に関する審判(家事法156条3号)
② 子の監護に関する処分の審判(家事法156条4号)
③ 財産の分与に関する処分の審判(家事法156条5号)
④ 遺産分割審判(家事法198条1項1号)
⑤ 寄与分を定める処分の審判はいずれも即時抗告のできる審判です(家事法198条1項4号)
イ 即時抗告のできない審判の場合,言渡しによって効力が生じる判決(民訴法250条)と異なり,審判の告知を受けた時点でその効力が生じます(家事法74条本文)。
(2) 審判に不服がある場合,審判の告知を受けた日から2週間以内に即時抗告をすることで(家事法74条),高等裁判所の判断を仰ぐことができます(家事法91条参照)。
    その際,別表第二の審判事件に対する即時抗告ですから,1件につき1800円(1200円の1.5倍)の収入印紙が必要になります(民事訴訟費用等に関する法律別表第一18項(1))。
(3) 家事審判に対する抗告の場合,例えば,被相続人,未成年者,事件本人,不在者,遺言者といった,当事者ではないが表示しておくべき立場がありますから,原審判の当事者等の表示を参考に当事者目録を作成することとなります。
(4) 抗告を理由がないと認めるときは,原裁判所は,意見を付して事件を抗告裁判所に送付する必要があります(家事事件手続規則57条)。
(5) 家事抗告審では,即時抗告に関する準用条文である家事法93条3項が不利益変更禁止に関する条文(①附帯抗告に関する民訴法293条1項,②口頭弁論の範囲等に関する民訴法296条1項及び③第一審判決の取消し及び変更の範囲に関する民訴法304条)を準用していませんから,不利益変更禁止の原則の適用がありません。
    そのため,即時抗告をした結果として,原審判よりも不利な決定が出る可能性があります。

2 抗告審の手続
(1) 抗告審の場合,当事者の呼称は「抗告人」,「相手方」となり,附帯抗告が提起された場合,「抗告人(附帯相手方)」,「相手方(附帯抗告人)」となります。
    ただし,抗告手続は必ずしも当事者対立構造を有しませんから,事件によっては相手方が存在しない場合があります。
(2) 審判に対する即時抗告があった場合,抗告裁判所としての高等裁判所は,原則として,原審における当事者及び利害関係参加人(抗告人を除く。)に対し,抗告状の写しを送付しなければなりません(家事法88条)。
(3) 抗告裁判所としての高等裁判所は,原審における当事者及びその他の審判を受ける者(抗告人を除く。)の陳述を聴かなければ,原審判を取り消すことができません(家事法89条)。
(4) 抗告裁判所としての高等裁判所は,即時抗告を理由があると認める場合,原則として,家事審判事件について自ら審判に代わる裁判をしなければなりません(家事法91条2項)。
(5) 抗告審の手続には家事審判の手続が準用される他(家事法93条1項),民事訴訟法の規定が準用されます(家事法93条3項)。
(6) 抗告裁判所としての高等裁判所において,調停が成立することがあります(家事法274条3項参照)。
(7) 憲法32条は,何人も裁判所において裁判を受ける権利があることを規定したにすぎないものであって,裁判所の権限や審理の方法等について規定したものではありません(最高裁昭和59年10月4日決定。なお,先例として,最高裁大法廷昭和25年2月1日判決参照)。
    そして,家事審判に対する抗告審の決定は非訟事件についての裁判であることに変わりはありませんから,公開の法廷における対審又は当事者の審尋を経ないで審理,裁判されたとしても,憲法32条及び82条に違反しません(最高裁昭和59年10月4日決定参照)。

3 大阪高裁第9民事部及び第10民事部(家事抗告集中部)の運用
・ 平成29年3月6日開催の,「第29回 大阪高裁との民事控訴審の審理充実に関する意見交換会」(平成28年度懇談会報告集46頁)には,「2 家事抗告を取り扱う第9民事部及び第10民事部における運用状況」において以下の記載があります。
① 平均審理期間
平成27年度 平成28年度(途中)
遺産分割        94日    114日
子の監護に関する処分  70日     71日
婚姻費用の分担     59日     64日
② 抗告状の送達
    家事法88条1項により原則全件送達する。抗告が不適法又は理由がないことが明らかな場合は送達しなくてよいが,そういった事案は少ない。
③ 相手方への求意見とその方法
    抗告上の写しを送付する場合は,全件別表第2事件として,事務連絡で意見を求めるとともに,審理終結と決定の予定日を伝える。なお,事前に相当先の期日を指定しており,正当な理由がない限りは,終結の直前になって意見を提出することは避けられたい。
④ 調査官の活用
    家裁調査官が2名配属されており,原審の調査報告書に重大な問題があったり,事情に大きな変更が生じたといった場合には,家事抗告において事実調査の調査命令を出すことがある。ただ,抗告審で提出された資料を基に結論を出すことができる場合が多く,迅速処理の要請から,調査命令を出す事案は少ない。
    長期未済の件数は,平成27年度は,監護者指定・子の引渡しが4件,面会交流が3件,都道府県知事に対する児童福祉施設入所承認が2件,平成28年度は,看護者指定・子の引渡しが5件,保全処分が1件,面会交流が2件,児童福祉施設入所承認が1件である。
⑤ 抗告審での調停
    家事法により高裁でも自庁調停ができるようになったが,平成27年度が2件(いずれも自庁),平成28年度が7件(6件が自庁,1件が原庁)である。事案は基本的に遺産分割である。既に原審で調停は不調になっており,迅速処理の要請から,裁判所から積極的に調停に付すことはない。
⑥ 審問期日の開催
    家事法上,抗告審では必要的審問ではなく(家事法89条,93条),迅速性の要請から審問は原則書面で行っている。調停に付す前に主張整理をするような事案でない限り,審問期日を開くことはない。
⑦ 裁判告知の時期
    別表第2事件については審理終結日や決定日を当初の段階で伝えている。別表第1事件や相手方のない事件であっても,後見人の解任事件等利害関係を有する者に対しては,別表第2事件に準じて指定告知する運用も考えられる。

4 家事審判以外の裁判に対する即時抗告
・    家事審判以外の付随的又は派生的事項についての決定又は命令に対する即時抗告(家事法99条)は,1週間以内にする必要があります(家事法101条1項)。

第2 家事審判に対する特別抗告及び許可抗告
1 総論
(1) 即時抗告に対する決定が出た場合,憲法違反等の理由があるのであれば,当該決定の告知を受けた日から5日以内に(家事法96条2項・民事訴訟法336条2項),最高裁判所に対し,特別抗告の申立て(家事法94条)又は許可抗告の申立て(家事法97条)をすることができます。
    ただし,これらの申立ては即時抗告と異なり確定遮断効はありませんから,家事審判自体は,即時抗告に対する決定の告知があった時点で確定します(民事訴訟法119条,及び最高裁昭和51年3月4日判決参照)。
(2) 双方の当事者に対する告知日が異なるときは,最後に告知を受けた者の告知日に確定します。
(3) 特別抗告を5日以内にする必要があることは憲法に違反しません(最高裁大法廷昭和24年7月22日決定)。
(4) 特別抗告及び許可抗告の両方を行う場合と,特別抗告又は許可抗告のいずれかだけを行う場合とで,申立手数料に違いはありません(民事訴訟費用等に関する法律3条3項後段)。
(5) 最高裁判所が抗告に関して裁判権を持つのは,裁判所法7条2号に従い訴訟法において特に最高裁判所に抗告を申し立てることを許した場合に限られます。
    そして,裁判所法7条2号は憲法32条に違反しません(最高裁昭和37年5月31日決定。なお,先例として,最高裁大法廷昭和23年3月10日判決,最高裁大法廷昭和25年2月1日判決参照)。
(5) 抗告人と相手方との間において,抗告後に,抗告事件を終了させることを合意内容に含む裁判外の和解が成立した場合,当該抗告は抗告の利益を欠くに至り,不適法として却下されます(最高裁平成23年3月9日決定)。
(6) 確定した審判は,金銭の支払,物の引渡し,登記義務の履行その他の給付を命ずる部分について,執行力ある債務名義と同一の効力を有します(家事法75条)。
    そのため,確定した審判に違反した場合,強制執行をされる可能性があります。

2 特別抗告
(1) 特別抗告の理由として形式的には憲法違反の主張があるものの,それが実質的には法令違反の主張にすぎない場合であっても,最高裁判所が当該特別抗告を棄却することができるにとどまり,原裁判所がこれを却下することはできません(最高裁平成21年6月30日決定)。
    そのため,憲法違反の主張さえすれば,必ず最高裁判所で判断してもらえます(ただし,ほぼ確実に定型文による特別抗告棄却決定が返ってくるだけです。)。
(2) 特別抗告理由は理由書自体に記載すべきであって,原審抗告理由書の記載を引用することは許されません(最高裁大法廷昭和26年4月4日決定)。

3 許可抗告
(1) 許可抗告制度(民事訴訟法337条及び家事法97条)は,法令解釈の統一を図ることを目的として,高等裁判所の決定及び命令のうち一定のものに対し,当該裁判に最高裁判所の判例と相反する判断がある場合その他の法令の解釈に関する重要な事項が含まれる場合に,高等裁判所の許可決定により,最高裁判所に特に抗告をすることができることとしたものであり,最高裁判所への上訴制限に対する例外規定です。
    そして,下級裁判所のした裁判に対して最高裁判所に抗告をすることを許すか否かは,審級制度の問題であって,憲法が81条の規定するところを除いてはこれをすべて立法の適宜に定めるところにゆだねていますから,民事訴訟法337条は憲法31条及び32条には違反しません(最高裁平成10年7月13日決定)。
(2) 許可抗告制度の対象から,許可抗告の申立てに対する決定が除かれている(家事法97条1項本文)のは,許可抗告の申立てに対する決定に許可抗告を認めると際限なくこれが繰り返されることとなるからです。

第3 関連記事その他
1 抗告審は,相当の猶予期間を置いて審理の終結日を定めて審判をする日を定める必要があります(家事法93条1項前段・71条本文及び72条)。
2(1) 家事事件関係の各種一覧表(平成24年11月27日付の最高裁判所家庭局長の事務連絡)を掲載しています。
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 家事審判に関するメモ書き
・ 離婚事件に関するメモ書き
・ 相続事件に関するメモ書き
・ 最高裁判所に係属した許可抗告事件一覧表(平成25年分以降),及び許可抗告事件の実情
・ 即時抗告,執行抗告,再抗告,特別抗告及び許可抗告の提出期限

家事審判に関するメモ書き

目次
1 総論
2 家事審判の期日
3 家事審判における証拠調べ
4 別表第二に掲げる事項についての審判事件における手続保障
5 15歳以上の子の陳述を聴く必要がある場合
6 家事審判の申立ての取下げ
7 家事審判事件の記録の閲覧等
8 関連記事その他

1 総論
(1) ①特殊調停事件及び一般調停事件が不成立の場合,人事訴訟又は民事訴訟に移行するのに対し,②別表第二の調停事件が不成立の場合,当然に家事審判に移行するという違いがあります。
    そのため,前者及び後者を同時に申し立てる場合,例えば,離婚調停(=一般調停事件)及び婚姻費用分担調停(=別表第二の調停事件)を同時に申し立てる場合,申立書を分割するのが普通です。
(2)ア 別表第二に掲げる事項についての調停事件が家事審判に移行した場合,当事者が合意で定める家庭裁判所で家事審判をしてもらうことができます(合意管轄。家事事件手続法66条・民事訴訟法11条2項及び3項)。
イ 平成24年12月31日までは,家事審判に関する合意管轄は認められていませんでしたし,離婚訴訟等の人事訴訟の場合,現在でも合意管轄は認められていません。
(3) 別表第二に掲げる事項(例えば,財産分与及び年金分割)について,同事項に該当しない他の家庭に関する事項と併せて調停の申立てがされた場合であっても,申立人が調停不成立のときに審判への移行を求める意思を有していないなど特段の事情がない限り,その事件名にかかわらず,家事事件手続法272条4項に基づいて審判に移行します(最高裁平成23年7月27日決定参照)。

2 家事審判の期日
(1)ア 家庭裁判所は,別表第二に掲げる事項についての家事審判の手続においては,申立てが不適法であるとき又は申立てに理由がないことが明らかなときを除き,審問の期日において,当事者の陳述を聴かなければなりません(家事事件手続法68条)。
    ただし,請求すべき按分割合に関する審判事件(=年金分割事件)の場合,審問の期日における当事者の陳述を聴かずに,書面照会による陳述聴取だけがなされることがあります(家事事件手続法233条3項参照)
イ 陳述(家事事件手続法68条1項)は事実の調査(家事事件手続法56条1項)の一種でありますところ,裁判官の審問(家事事件手続法68条2項)のほか,家庭裁判所調査官による調査(家事事件手続法58条),書面照会,医師の診断(家事事件手続法60条)といった方法があります。
(2) 調停手続が先行した場合に調停が不成立となった後の審判手続では,以下のような方法で当事者の陳述を聴くことが予定されています。
① 改めて審判期日を指定し,審判期日において,審問して陳述を聴取する。
② 審判期日は開かずに,当事者双方に陳述聴取書を送付し,これに回答して返送してもらうことで陳述を聴取する。
③ 当事者双方が出席している調停期日において,調停不成立後,直ちに審判期日を開いて,審問して陳述を聴取する。
(3) 家庭裁判所が審問の期日を開いて当事者の陳述を聴くことにより事実の調査をするときは,他の当事者は,原則として,当該期日に立ち会うことができます(家事事件手続法69条)。

3 家事審判における証拠調べ
(1) 家庭裁判所は,職権で事実の調査をし,かつ,申立てにより又は職権で,必要と認める証拠調べをしなければなりません(家事事件手続法56条1項・258条1項)し,当事者もまた,事実の調査及び証拠調べに協力しなければなりません(家事事件手続法56条2項・258条1項)。
(2) 家事事件の手続における証拠調べ手続は原則として,民事訴訟法の定める方法によります(家事事件手続法64条1項・258条1項)。
    ただし,公益性・後見性を実現するための職権探知主義,密行性等の家事事件手続の特質から,以下のような特徴を有します。
① 証拠調べ手続は非公開で行われます(家事事件手続法33条)。
② 職権で証拠調べがされることがあります(家事事件手続法56条1項・258条1項)。
③ 以下の規定は準用されません(家事事件手続法64条1項・258条1項参照)。
(a) 証明することを要しない事実についての民事訴訟法179条
(b) 集中証拠調べについての民事訴訟法182条
(c) 参考人等の審尋に関する民事訴訟法187条
(d) 証人尋問を当事者本人尋問に先行させることとする民事訴訟法207条2項
(e) 真実擬制について定める民事訴訟法208条・224条(229条2項及び232条1項において準用する場合を含む)及び229条4項
・ 真実擬制の代替措置として,家庭裁判所は,当事者が正当な理由なく出頭しないとき等には,過料の制裁を科すことができます(家事事件手続法64条3項,4項及び6項・258条1項)。


4 別表第二に掲げる事項についての審判事件における手続保障
(1) 別表第二に掲げる事項についての審判事件は,別表第一に掲げる事項についての審判事件に比して,公益性はさほど高くなく,むしろ自ら処分することのできる権利又は利益をめぐる対立が当事者間にあるという特徴があります。
    そのため,当事者が自ら手続を主体的に追行して裁判所の判断の基礎となる資料を積極的に提出し,相互に反論し合うことができる制度とすることが望ましいと考えられています。
(2) 家庭裁判所は,事実の調査をした場合において,その結果が当事者による家事審判の手続の追行に重要な変更を生じ得るものと認めるときは,これを当事者及び利害関係参加人に通知しなければなりません(家事事件手続法63条)。
(3) 家庭裁判所が事実の調査をしたときは,特に必要がないと認める場合を除き,その旨を当事者及び利害関係参加人に通知しなければなりません(家事事件手続法70条)。
(4)ア 家庭裁判所は,別表第二に掲げる事項についての家事審判の手続においては,申立てが不適法であるとき又は申立てに理由がないことが明らかなときを除き,相当の猶予期間を置いて,審理を終結する日(=主張や資料の提出期限)を定めなければなりません(家事事件手続法71条本文)。
    ただし,当事者双方が立ち会うことができる家事審判の手続の期日においては,直ちに審理を終結する旨を宣言することができます(家事事件手続法71条ただし書)。
イ これらの場合,家庭裁判所は,審判をする日を定めなければなりません(家事事件手続法72条)。
(5) 「審判をする日」とは,当事者等に家庭裁判所が相当と認める方法で審判の告知をすることができるようになる日をいいます。


5 15歳以上の子の陳述を聴く必要がある場合
(1) 家庭裁判所は,以下の場合,15歳以上の子の陳述を聴かなければなりません。
① 子の監護に関する処分の審判(養育費関係は除く)(家事事件手続法152条2項)
② 養子縁組をするについての許可の審判(家事事件手続法161条3項1号)
③ 特別養子縁組の離縁の審判(家事事件手続法165条3項1号)
④ 親権喪失,親権停止又は管理権喪失の審判等(家事事件手続法169条1項)
⑤ 親権者の指定又は変更の審判(家事事件手続法169条2項)
⑥ 未成年後見人又は未成年後見監督人の選任の審判(家事事件手続法178条1項1号)
⑦ 氏の変更についての許可の審判(家事事件手続法229条1項)


6 家事審判の申立ての取下げ
(1) 家事審判の申立ては,審判があった後は,取り下げることができません(家事事件手続法82条1項)。
(2) ①後見開始等の申立て(家事事件手続法121条,133条,142条,180条,221条),並びに②遺言の確認の申立て及び遺言書の検認の申立て(家事事件手続法212条)については,家庭裁判所の許可を得なければ,取り下げることができません。
(3) ①財産の分与に関する処分の申立て及び②遺産の分割の申立てについては,相手方が本案について書面を出し,又は家事審判の手続の期日において陳述をした後は,相手方の同意を得なければ,取下げの効力を生じません(家事事件手続法153条・199条)。
    上記を除く別表第二事件については,審判が確定するまでは取り下げることができます(家事事件手続法82条2項本文)ものの,審判後に取り下げるためには相手方の同意が必要となります(家事事件手続法82条2項ただし書)。


7 家事審判事件の記録の閲覧等
(1) 当事者は,家庭裁判所の許可を得て,裁判所書記官に対し,①家事「審判」事件の記録の閲覧若しくは謄写,その正本,謄本若しくは抄本の交付又は②家事「審判」事件に関する事項の証明書の交付(つまり,記録の閲覧等)を請求することができるのであって,以下のおそれがある場合を除き,家庭裁判所は,記録の閲覧等を許可しなければなりません(家事事件手続法47条1項ないし4項)。
① 事件の関係人である未成年者の利益を害するおそれ
② 当事者若しくは第三者の私生活若しくは業務の平穏を害するおそれ
③ 当事者若しくは第三者の私生活についての重大な秘密が明らかにされることにより,その者が社会生活を営むのに著しい支障を生じ,若しくはその者の名誉を著しく害するおそれ
(2) 当事者は,記録の閲覧・謄写の不許可の裁判に対しては即時抗告をすることができます(家事事件手続法47条8項)。


8 関連記事その他
(1) 家庭裁判所は,民法766条の類推適用に基づき,家事事件手続法別表第二の3項により,別居中の父母の離婚が成立する「前の」,子との面会交流に関する処分を命ずることができます(最高裁平成12年5月1日決定参照)。
(2) 家事事件関係の各種一覧表(平成24年11月27日付の最高裁判所家庭局長の事務連絡)を掲載しています。
(3) 裁判所HPの「即時抗告」には「即時抗告の抗告状(認容審判に対する不服)」及び「即時抗告の抗告状(却下審判に対する不服)」が載っています。
(4) 以下の記事も参照してください。
・ 離婚事件に関するメモ書き
・ 相続事件に関するメモ書き
・ 家事審判に対する即時抗告,特別抗告及び許可抗告
・ 即時抗告,執行抗告,再抗告,特別抗告及び許可抗告の提出期限

仮差押

目次
第1 仮差押えの概要
第2 仮差押命令が発令されるまでに必要な時間等(コロナ前の取扱いです。)
第3 仮差押命令に必要な担保
第4 債務名義を有している場合の仮差押え
第5 仮差押の効果
第6 仮差押解放金(債務者側の話)
第7 保全異議及び保全抗告
第8 仮差押の担保の取戻し(債権者側の話)
第9 関連記事その他

第1 総論
1 仮差押命令とは,金銭債権の執行を保全するために、債務者(=相手方)の財産処分に一定の制約を加える地方裁判所(民事保全法12条1項)の決定をいいます。
2 仮差押命令は,債務者が所有し,かつ,債務者の名義となっている①土地建物,②預貯金,給料債権,ゴルフ会員権その他の債権,③動産等を対象として行われます。
3 土地建物に対する仮差押命令は比較的簡単に出してもらえますものの,債権に対する仮差押命令はなかなか出してもらえませんし,動産に対する仮差押命令はまず出してもらえません。
    なぜなら,後者になるほど,債務者の生活なり事業活動なりに与える影響が大きくなるからです。
4 請求債権の存在及び仮差押えの必要性の両方について裁判官の理解を得られなかった場合,①追加の書証なり,足りない事情を補足説明した主張書面(民事保全規則9条4項参照)なりの提出を要求される結果,発令までに時間がかかることになりますし,②最悪の場合,仮差押命令の申立てを却下されます。
②の場合,即時抗告はできます(民事保全法19条)ものの,認められることは難しいです。

第2 仮差押命令が発令されるまでに必要な時間等
1 仮差押命令は,順調に行けば,申立てをしてから2,3日程度で発令されますところ,手続の流れの概要は以下のとおりです(裁判官との面談についてはコロナ前の話です。)
① 仮差押命令の申立書を提出する(大阪地裁の場合,第1民事部が担当部署です。)。
② 裁判官との面談(午前10時から午前12時,及び午後1時30分から午後3時30分までの間で,30分の枠で面談時間が決まっています。)で,請求債権の存在,仮差押えの必要性等について説明する(通常は,申立書提出の翌日か翌々日)。
③ 裁判官から,担保として法務局に供託する必要のあるお金(詳細については後述します。)の額を聞き,そのお金を現金で法務局(大阪法務局の場合,大阪府庁の近くにあります。)に供託する。
④ お金を供託した際に,法務局でもらった供託書正本を裁判所に提出する。
午後4時までに供託書正本を提出できれば,当日付で仮差押命令を発令してもらえますものの,午後4時を超えた場合,翌日付で発令されます。
    そのため,例えば,午後3時に裁判官との面談を行った場合,午後3時30分頃に裁判官との面談が終了した後に大阪法務局まで往復した上で,午後4時までに供託書正本を裁判所に提出するのは物理的に不可能ですから,仮差押命令の発令は翌日付になります。
⑤ 仮差押命令が発令されると,不動産の仮差押えであれば法務局に,債権の仮差押えであれば第三債務者(例えば,預金の場合は銀行であり,ゴルフ会員権の場合はゴルフ場の運営会社。)に送達されますところ,その時点で,債務者は不動産なり預貯金なりゴルフ会員権なりを処分することができなくなります(民事保全法50条5項・民事執行法145条4項)。
    ただし,仮差押命令の送達よりも前に債務者が不動産の所有権移転登記手続をしていたり,銀行預金を下ろしていたり,ゴルフ会員権の所有名義を変更したりしていた場合,仮差押命令は失敗に終わることとなります。
2 仮差押命令が発令された場合,同時に,第三債務者に対する陳述の催告が行われます(民事保全法50条5項・民事執行法147条1項)から,発令されてから2週間以内に,仮差押えが成功したかどうかが分かります。

第3 仮差押命令に必要な担保
・ 仮差押命令を発令してもらう場合は通常,請求債権の種類に応じ,仮差押目的物又は請求債権のいずれか多い方の1割から3割程度のお金を法務局に供託する必要があります(民事保全法14条1項,4条1項)。
    これは,①請求債権の存在が本案訴訟で認められず,かつ,②仮差押命令によって債務者に損害が発生した場合に,債務者に支払うべき損害賠償金の担保となるものです。
    そのため,提出した証拠に基づき,請求債権の存在が確実であると裁判所に思われれば思われるほど,裁判所から要求される担保の額は小さくなります。

第4 債務名義を有している場合の仮差押え
・ 東京高裁平成24年11月29日判決(判例秘書に掲載)は以下の判示をしています。
1 仮差押命令は,民事訴訟の本案の権利の実現が不能あるいは困難となることを防止するために,債務者の責任財産を保全することを目的とする民事保全処分であり,金銭の支払を目的とする債権について,強制執行をすることができなくなるおそれ又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができるとされている(同法20条1項)。したがって,債権者が被保全債権について確定判決等の債務名義を有している場合には,債権者は,遅滞なくこの債務名義をもって強制執行の手続をとれば,特別の事情がない限り,速やかに強制執行に着手できるのが通常であるから,原則として,民事保全制度を利用する権利保護の必要性は認められないというベきである。
 他方,仮差押命令の目的が前記のとおりであることに照らすと,債権者が被保全債権について債務名義を有している場合であっても,債権者が強制執行を行うことを望んだとしても速やかにこれを行うことができないような特別の事情があり,債務者が強制執行が行われるまでの間に財産を隠匿又は処分するなどして強制執行が不能又は困難となるおそれがあるときには,権利保護の必要性を認め,仮差押えを許すのが相当であるというべきである。
2 これを本件についてみると,抗告人は,破産者株式会社Aの破産管財人であり,破産者の有する執行力のある債務名義(公正証書)により本件仮差押債権に対し債権執行を行なうには,抗告人への承継執行文を得て,かつ,これを公証役場から相手方に送達し,その送達証明書を添付して債権執行の申立てを行なわなければならない。そうすると,承継執行文付きの公正証書が相手方に送達されることにより,相手方は,抗告人が強制執行の準備をしていることを予想することが可能となり,相手方において,本件仮差押債権を譲渡したり,また,本件仮差押債権の弁済期限が平成24年12月10日であることから,第三債務者から弁済を受けるまで送達を受領しない等するおそれがあるというべきであるから,債権者において,債権執行を速やかに行なうことができず,これが不能又は困難となるおそれがあり,上記特別な事情がある場合に当たると認めるのが相当である。したがって,本件申立てについては,仮差押えの権利保護の必要性があると認めるのが相当である。

第5 仮差押の効果
1 仮差押命令は,確定判決等に基づく差押えと異なり債務者の財産処分に一定の制約を加えるものに過ぎませんから,①不動産をお金に換えたり,銀行から預金を取り立てたりすることまではできませんし,②担保権の設定を意味するわけでもありませんし,③債務者が破産した際に優先弁済権を取得できるわけでもありません。
    そのため,仮差押命令は,債務者の財産隠しを防ぐことで判決を取得した後の強制執行の実効性を確保したり,債務者に圧力をかけることで早期に債権者との間で和解する気にさせたりするために行うものです。
2(1) ①仮差押えによる時効中断の効力は、仮差押えの執行保全の効力が存続する間は継続しますし,②仮差押えの被保全債権につき本案の勝訴判決が確定したとしても、仮差押えによる時効中断の効力が消滅するとはいえません(最高裁平成10年11月24日判決)。
(2)地上建物に仮差押えがされ,その後,当該仮差押えが本執行に移行してされた強制競売手続における売却により買受人がその所有権を取得した場合において,土地及び地上建物が当該仮差押えの時点で同一の所有者に属していたときは,その後に土地が第三者に譲渡された結果,当該強制競売手続における差押えの時点では土地及び地上建物が同一の所有者に属していなかったとしても,法定地上権が成立します(最高裁平成28年12月1日判決)。
(3) 債権の仮差押えを受けた仮差押債務者は,当該債権の処分を禁止されるから,仮差押債務者がその後に第三債務者との間で当該債権の金額を確認する旨の示談をしても,仮差押債務者及び第三債務者は,仮差押債権者を害する限度において,当該示談をもって仮差押債権者に対抗することができません(最高裁令和3年1月12日判決)。

第6 仮差押解放金(債務者側の話)
1 仮差押命令を発令してもらったとしても,債務者が請求債権と同額の仮差押解放金(民事保全法22条1項)を供託した場合,仮差押命令が取り消されます(民事保全法51条1項)。
    ただし,仮差押の効力は,仮差押債務者が取得する仮差押解放金の取戻請求権の上に移行することとなります。

第7 保全異議及び保全抗告
1 仮差押命令に対して債務者が保全異議の申立て(民事保全法26条)という不服申立手段をとった場合,改めて裁判所による審理を受けることとなります。
2 保全異議の申立てについての裁判に対しては,保全抗告(民事保全法41条)で争うことができます。

第8 仮差押の担保の取戻し(債権者側の話)
1 仮差押命令に必要な担保として法務局に供託したお金(=供託金)を後日,取り戻すためには,おおよそ以下の期間が必要となりますので,この期間中に必要なお金を使って仮差押命令の申立てをすることは控える必要があります。供託物取戻請求に必要な供託原因消滅証明書(供託規則25条1項本文)を裁判所に発行してもらうには,それなりの時間が必要になるわけです。
① 担保の事由が消滅した場合(民事保全法4条2項・民事訴訟法79条1項),1ヶ月程度かかります。
    担保供与の必要性が消滅したこと,つまり,被担保債権が発生しないこと又はその発生の可能性がなくなったことをいい(最高裁平成13年12月13日決定),例としては,全部勝訴判決が確定した場合があります。
② 担保の取消しについて債務者の同意がある場合(民事保全法4条2項・民事訴訟法79条2項),1週間程度かかります。
    例としては,(a)担保の取消しに対する同意及び(b)抗告権放棄に関する事項も含めて,訴訟上の和解を成立させた場合があります。
③ 仮差押命令の申立てが失敗に終わった場合(担保の簡易の取戻し。民事保全規則17条),3日程度かかります。
    例としては,土地建物について仮差押の登記ができなかったり,第三債務者に対して仮差押命令を送達できなかったりした場合があります。
    ただし,第三債務者に対して仮差押命令が送達されたものの,(a)債務者が銀行に預金を持っていなかったとか,(b)債務者がゴルフ会員権を既に処分していたというような場合,条文上の要件である「債務者に損害が生じないことが明らかである場合」に該当しませんから,③の場合に当てはまりません。
④ 権利行使催告手続による場合(民事保全法4条2項・民事訴訟法79条3項),2ヶ月程度かかります。
①ないし③のいずれにも当てはまらない場合,この手続によることとなります。
    ただし,本案訴訟が係属している場合,本案訴訟を取り下げるか,又は本案訴訟の判決が確定しない限り,権利行使催告手続を利用することはできませんから,本案訴訟が係属しているときに仮差押命令を申し立てた場合,本案訴訟が終了するまで担保の取戻手続を利用することはできません(民事訴訟法79条3項「訴訟の完結後」参照)。
2(1) 仮差押命令を発令してもらったことにより債務者に損害が発生し,かつ,それが裁判所の確定判決等によって認められた場合,供託金は損害賠償金として債務者に支払われますから,取り戻せなくなります。
    不動産の仮差押えの場合,問題となることは少ないですが,預貯金なり給料債権なりの仮差押えを行う場合,この危険が現実のものとなることがあります。
(2) 仮差押えをした場合に発生する可能性がある損害賠償請求権については,外部HPの「不当な仮差押命令に関する損害賠償請求についての近時の裁判例」が参考になります。
3 仮差押命令の発令により損害を受けた債務者は,「1 原告が,被告に対し,大阪地方裁判所平成29年(ヨ)第〇〇〇号仮差押命令を原因として,〇〇〇万円の債権を有することを確認する。2 訴訟費用は被告の負担とする。」を請求の趣旨として,損害賠償債権確定請求事件を提起して勝訴の確定判決を取得できれば,供託金還付請求権を取得できるようになります。
4 取り戻した供託金の受領方法は通常,以下の二つです。
① 日銀小切手の振出(供託規則28条1項後段)
→ 法務局の窓口で小切手を受領し,これを日本銀行大阪支店等で支払のために呈示して現金を受領することとなります。
② 預貯金振込みの方法(供託規則22条2項5号参照)
→ 法務局から直接,依頼者名義の預貯金口座に振り込んでもらうこととなります。

第9 関連記事その他
1 仮差押事件の記録は,当事者を含む利害関係人の閲覧・謄写の対象となります(民事保全法5条)。
2 供託書正本の取扱いについて(平成17年2月28日付の最高裁判所総務局第三課長及び経理局監査課長の事務連絡)を掲載しています。
3 以下の記事も参照してください。
・ 不動産登記に関するメモ書き

裁判所書記官の処分に対する異議申立て

目次
1 総論
2 異議申立て後の取扱い
3 口頭弁論調書の記載に対する異議の申立て
4 口頭弁論調書の更正
5 関連記事その他

1 総論

(1) 裁判所書記官による以下の処分に対しては,500円の印紙を貼付して(民事訴訟費用等に関する法律3条1項・別表第一の17項イ(イ)),異議申立てをすることができます。
① 何人でも行える,訴訟記録の閲覧(民事訴訟法91条1項)の拒絶処分
② 当事者及び利害関係を疎明した第三者が行える,訴訟記録の謄写,謄抄本の交付請求,訴訟に関する事項の証明書の交付請求(民事訴訟法91条3項)の拒絶処分
③ 当事者及び利害関係を疎明した第三者が行える,判決確定証明書交付請求(民事訴訟規則48条)の拒絶処分
(2) 相手方がいない処分に対する異議申立ての場合,私の経験では,「異議申立てに対する決定については御庁書記官室まで取りに行く予定であるから,予納郵券は添付していない。」と記載しておけば,予納郵券は不要でした。

2 異議申立て後の取扱い
(1) 裁判所書記官の処分に対する異議の申立てがあった場合,裁判所書記官所属の受訴裁判所が決定で裁判をします(民事訴訟法121条)。
(2) 受訴裁判所の決定に対して不服がある場合,抗告の利益がある限りいつでも通常抗告ができますし(民事訴訟法328条1項),高等裁判所の決定に対して不服がある場合,裁判の告知を受けた日から5日以内に特別抗告(民事訴訟法336条)及び許可抗告(民事訴訟法337条)ができます。

3 口頭弁論調書の記載に対する異議の申立て
(1) 口頭弁論調書の記載に対する異議の申立て(民事訴訟法160条2項)(「調書異議の申立て」といいます。)は,当該調書作成後の最初の口頭弁論期日までに行う必要があります(東京地裁昭和31年3月31日判決及び名古屋高裁平成4年11月10日決定(いずれも判例秘書掲載)参照)。
(2)ア 口頭弁論期日が実質的に公開されていなかった場合,調書異議の申立てによりその旨の指摘をしておけば,高裁の判決に対する上告理由となります(民事訴訟法312条2項5号)。
イ 公開の有無は口頭弁論調書の形式的記載事項であり(民事訴訟規則66条1項6号),調書によってのみ証明されます(民事訴訟法160条3項)から,判決期日までに調書異議の申立てをしておかないと,上告理由とはなり得ません。
(2)ア 第一審手続に非公開の瑕疵があるものの,控訴審では公開されて第一審の弁論の結果が陳述された場合に民事訴訟法312条2項5号に該当するかについては争いがあります(基本法コンメンタール民事訴訟法3(第三版追補版)67頁参照)。
イ 東京高裁平成19年5月30日判決(裁判長は24期の南敏文)(判例秘書掲載)は,裁判官,双方代理人が立ち会う弁論準備手続において判決期日が指定され,判決が言い渡されたところ,密かに上記手続直後に公開法廷による口頭弁論が実施され,弁論準備手続の結果を陳述した上弁論を終結した旨の口頭弁論調書が作成されていた事案について,調書記載の口頭弁論は開催されていなかった事実を認定して原判決を破棄差戻しとした事案です。
(3) 弁論準備手続調書については,調書異議の申立てはできません(民事訴訟法170条5項は民事訴訟法160条2項を準用していないため。)。


4 口頭弁論調書の更正
(1) 最高裁昭和62年7月17日判決の裁判要旨は以下のとおりです。
① 口頭弁論調書は、作成権限を有する裁判所書記官がこれを作成して署名(又は記名)捺印し、裁判長が認証のため捺印することによつて完成し、外部的には、完成された調書が当事者及び利害関係人の閲覧請求に応じうる状態に置かれた時、通常は当該事件記録に編綴されて裁判所書記官の保管のもとに置かれた時に成立する。
② 口頭弁論調書の記載内容に誤りがあるときは、当該調書を作成した裁判所書記官において、その認証者である裁判長の認証ないし承認のもとに、その誤りの内容に応じ適宜の方法でこれを更正することができるが、調書が外部的に成立した後においては、原調書とは別に更正調書を作成するか又は原調書の欄外に更正の個所・内容を明記して署名(又は記名)捺印する等、更正の趣旨及びその内容を明らかにするための措置を講ずることを要する。
(2)  当該口頭弁論期日の開かれた事跡が記録上見当らないことが上告理由で指摘されたといった事実関係のもとにおいては,その後,右期日の開かれた旨を記載する口頭弁論調書を作成することは許されません(最高裁昭和42年5月23日判決)。

5 関連記事その他
(1) 当事者尋問又は証人尋問の調書の誤記については,誤記を指摘したのに職権では訂正しないといわれた後に調書異議の申立てをした方がいいと思います。
(2) 弁護士法人金岡法律事務所HP「弁護士コラム 余りに情けない調書異議の事例」(2018年8月1日)が載っています。
(3)  「甲から丁に建物所有権を移転する」旨の調停調書の条項を,「甲は乙に仮登記の本登記をなし、乙は丙を経て丁に建物所有権を移転する。そして登記は中間省略により乙から丁にする。」旨の条項に更正することは,権利移転の経緯および態様において,旧条項の実質的内容を変更するものであって,許されません(最高裁昭和42年7月21日判決)。
(4)ア 以下の資料を掲載しています。
・ 上訴記録等の査閲における指導の在り方について(平成28年7月28日付の最高裁判所総務局第三課長の事務連絡)
イ 以下の記事も参照してください。
・ 即時抗告,執行抗告,再抗告,特別抗告及び許可抗告の提出期限
・ 裁判文書の文書管理に関する規程及び通達
・ 民事事件記録一般の閲覧・謄写手続
・ 裁判文書及び司法行政文書がA4判・横書きとなった時期
・ 民事事件の裁判文書に関する文書管理
・ 司法行政文書に関する文書管理
・ 裁判所書記官の役職
・ 家庭裁判所調査官の役職
・ 最高裁判所裁判部作成の民事・刑事書記官実務必携
・ 書記官事務等の査察
・ 秘匿情報の管理に関する裁判所の文書

合田智子裁判官(39期)の経歴

生年月日 S33.3.22
出身大学 中央大
退官時の年齢 65歳
R5.3.22 定年退官
R2.4.1 ~ R5.3.21 さいたま家地裁川越支部判事
H28.4.1 ~ R2.3.31 東京家地裁立川支部判事
H25.4.1 ~ H28.3.31 宇都宮地家裁栃木支部長
H22.4.1 ~ H25.3.31 千葉地裁2民判事
H18.4.1 ~ H22.3.31 さいたま家地裁越谷支部判事
H15.4.1 ~ H18.3.31 さいたま地家裁判事
H11.4.1 ~ H15.3.31 東京地家裁八王子支部判事
H9.4.10 ~ H11.3.31 東京地裁判事
H6.3.25 ~ H9.4.9 東京地裁判事補
H5.4.1 ~ H6.3.24 仙台地家裁判事補
H2.4.1 ~ H5.3.31 仙台家地裁判事補
H1.4.1 ~ H2.3.31 浦和地家裁判事補
S62.4.10 ~ H1.3.31 浦和地裁判事補

* 以下の記事も参照してください。
・ 地方裁判所支部及び家庭裁判所支部

職業安定法及び採用活動に関するメモ書き

目次
第1 職業安定法に関するメモ書き
1 職業紹介事業の許可制
2 ハローワークインターネットサービス
3 社員紹介制度
4 職業紹介事業に係る法令・指針
5 その他
第2 採用活動に関するメモ書き
1 公正な採用選考
2 求職者等の個人情報の取得制限
3 その他
第3 関連記事その他

1 職業紹介事業の許可制
(1) 求人及び求職の申込みを受け,求人者と求職者の間の雇用関係の成立をあっせんするという意味での職業紹介事業(職業安定法4条1項)を営むためには,管轄都道府県労働局を経由して,厚生労働大臣の許可を受ける必要があります(職業安定法30条1項及び33条1項の他,厚生労働省HPの「職業紹介事業制度の概要」参照)。
(2) 職業安定法4条1項(成立時の職業安定法5条1項)の「雇用関係」とは,必ずしも厳格に民法623条の意義に解すべきものではなく,広く社会通念上被用者が有形無形の経済的利益を得て一定の条件の下に使用者に対し肉体的,精神的労務を供給する関係にあれば足ります(最高裁昭和29年3月11日判決)。


2 ハローワークインターネットサービス
・ ハローワークインターネットサービスには,「仕事をお探しの方へのサービスのご案内」及び「事業主の方へのサービスのご案内」とかが載っています。

3 社員紹介制度
(1) 社員紹介制度と労働基準法6条及び職業安定法40条との関係については,BUSINESS LAWYERS HP「社員紹介制度における法的な問題はどこにあるか」が参考になります。
(2)    単発で社員候補者を紹介した社員に対し,就業規則に基づく賃金等として支払うのであれば,問題ありません。

4 職業紹介事業に係る法令・指針
・ 厚生労働省HPの「職業紹介事業に係る法令・指針」には以下の資料が掲載されています。
① 職業安定法
② 職業安定法施行令
③ 職業安定法施行規則
④ 職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者、労働者供給を受けようとする者等がその責務等に関して適切に対処するための指針
⑤ 職業安定法施行規則第二十条第二項の規定に基づき厚生労働大臣の定める額



5 職業選択の自由及び均等待遇

(1) 職業安定法2条(職業選択の自由)は「何人も、公共の福祉に反しない限り、職業を自由に選択することができる。」と定めていて,職業安定法3条(均等待遇)本文は「何人も、人種、国籍、信条、性別、社会的身分、門地、従前の職業、労働組合の組合員であること等を理由として、職業紹介、職業指導等について、差別的取扱を受けることがない。」と定めています。
(2) 求人者に紹介するために求職者を探索し,求人者に就職するよう求職者に勧奨するいわゆるスカウト行為は,職業安定法5条1項にいう職業紹介におけるあっ旋に当たります(最高裁平成6年4月22日判決)。


第2 採用活動に関するメモ書き
1 公正な採用選考

(1) 厚生労働省HPの「新たな履歴書の様式例の作成について~「様式例」を参考にして、公正な採用選考をお願いします~」には「厚生労働省が作成した履歴書様式例」(令和3年4月16日付)が載っていますところ,【厚生労働省履歴書様式例とJIS規格様式例の相違点】として以下の記載があります。
1. 性別欄は〔男・女〕の選択ではなく任意記載欄としました。なお、未記載とすることも可能としています。
2.「通勤時間」「扶養家族数(配偶者を除く)」「配偶者」「配偶者の扶養義務」の各項目は設けないことにしました。
(2) 厚生労働省HPの「公正な採用選考チェックポイント」では,例えば,以下の事項はNGとなっています。
・ 応募者から戸籍謄(抄)本・住民票の写しを提出させている。
・ 面接において、本人が生まれたところや家族構成・家族の職業などを尋ねることがある。
・ 面接において、人生観・生活信条・尊敬する人・愛読書などを尋ねることがある。
・ 家庭状況等の身元調査を実施している。
・ 内定者から、戸籍謄(抄)本等を一律に提出させている。
(3) 職業安定法2条(職業選択の自由)は「何人も、公共の福祉に反しない限り、職業を自由に選択することができる。」と定めていて,職業安定法3条(均等待遇)本文は「何人も、人種、国籍、信条、性別、社会的身分、門地、従前の職業、労働組合の組合員であること等を理由として、職業紹介、職業指導等について、差別的取扱を受けることがない。」と定めています。


2 求職者等の個人情報の取得制限
(1) 労働者の募集を行おうとする者は,求職者等の個人情報を収集し,保管し,又は使用するに当たっては,本人の同意がある場合を除き,その業務の目的の達成に必要な範囲内で,収集し,保管し,及び使用しなければなりません(職業安定法5条の5第1項)。
(2)ア 個人情報取扱事業者は,偽りその他不正の手段により個人情報を取得してはなりません(個人情報保護法20条1項)。
イ 探偵業者は,当該探偵業務に係る調査の結果が犯罪行為,違法な差別的取扱いその他の違法な行為のために用いられることを知ったときは,当該探偵業務を行ってはなりません(探偵業の業務の適正化に関する法律9条1項)。


3 経歴詐称
(1) 労働問題.comに「経歴詐称でいかなる懲戒処分ができるか?」が載っています。
(2) 東京地裁平成20年4月25日判決(判例秘書に掲載)は,精神保健福祉士としての採用時に精神疾患の病歴等について虚偽の回答をしたことが解雇事由として考慮されるべき事由に当たるとした事例であります。
    当該判決は,「A(山中注:被告である医療法人社団の代表者)は、(山中注:従業員が)精神病に罹患していた場合、精神病患者と接触した場合相互の病状を悪化させる可能性があること、採用された場合は職務上自動車運転を要するところ、抗精神病薬のうちには自動車運転が制限されるものが多いことから、上記の質問をしたものと認められる」などと判示しています。


4 募集及び採用に際して例外として年齢制限が認められる場合
(1) 例えば,以下のような事由がある場合,期間の定めのない労働契約を締結することを目的とするのであれば,募集及び採用に際して年齢制限をすることができます(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律施行規則1条の3第3号イ及びロ)。
① 長期間の継続勤務による職務に必要な能力の開発及び向上を図ることを目的として、青少年その他特定の年齢を下回る労働者の募集及び採用を行うとき
② 当該事業主が雇用する特定の年齢の範囲に属する特定の職種の労働者の数が相当程度少ない場合において、当該職種の業務の遂行に必要な技能及びこれに関する知識の継承を図ることを目的として、特定労働者の募集及び採用を行うとき
(2) 厚労省HPに「2.例外として年齢制限が認められる場合があります」が載っています。


第3 関連記事その他
1 労務事情2022年7月15日号に「〈Q&A〉採用にまつわる労務管理上の諸問題への対応」が載っています。
2 東京高裁令和5年4月5日判決(判例タイムズ1516号(2024年3月号))は,有期労働契約に設けられた試用期間中の解雇が有効と判断された事例です。
3 以下の記事も参照してください。
・ 労働基準法に関するメモ書き

総括安全衛生管理者,安全管理者,衛生管理者及び産業医並びに安全衛生推進者及び衛生推進者

目次
1 総論
2 総括安全衛生管理者,安全管理者,衛生管理者及び産業医
3 安全衛生推進者及び衛生推進者
4 労働安全コンサルタント試験及び労働衛生コンサルタント試験の試験区分
5 関連記事その他

1 総論
(1) 総括安全衛生管理者等は選任が必要な状態になった日から14日以内に選任し,かつ,労基署に報告する必要がありますところ,厚生労働省HPに「総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告」が載っています。
(2) 安全衛生推進者及び衛生推進者については労基署への報告義務はないものの,選任が必要な状態になった日から14日以内に選任する必要があります(労働安全衛生法施行規則12条の3第1項1号)。

2 総括安全衛生管理者,安全管理者,衛生管理者及び産業医
(1) 総括安全衛生管理者(労働安全衛生法10条)は,建設業,運送業等については100人以上の事業場で必要となり,製造業等については300人以上の事業場で必要となり,その他の業種では1000人以上の事業場で必要となります(労働安全衛生法施行令2条)ところ,当該事業場においてその事業の実施を実質的統括管理する権限及び責任を有する者(例えば,支店長及び工場長)から選任する必要があります。
(2) 安全管理者(労働安全衛生法11条)は,50人以上の事業場で必要となりますし,建設業等については300人以上の事業場で専任の安全管理者が必要となります(労働安全衛生法施行令3条)ところ,産業安全に関する実務経験又は労働安全コンサルタントの資格が必要になります。
    また,新たに安全管理者を選任する場合,従来の学歴と実務経験に加え,厚生労働大臣が定める安全管理者選任時研修を修了している必要があります(労働安全衛生法施行規則5条)。
(3) 衛生管理者(労働安全衛生法12条)は,50人以上の事業場で必要となります(労働安全衛生法施行令4条)ところ,衛生管理者免許,衛生工学衛生管理者免許,医師,歯科医師,労働衛生コンサルタント等の資格が必要になります。
    なお,製造業,運送業等の衛生管理者については第二種衛生管理者免許では足りません。
(4) 産業医(労働安全衛生法13条)は,50人以上の事業場で必要となります(労働安全衛生法施行令5条)ところ,医師であることに加え,労働衛生コンサルタント試験(試験区分は保健衛生)に合格していること等が必要になります。
(5) 東京労働局HPの「共通 3 「総括安全衛生管理者」 「安全管理者」 「衛生管理者」 「産業医」のあらまし」が参考になります。

3 安全衛生推進者及び衛生推進者
(1) 安全衛生推進者又は衛生推進者(労働安全衛生法12条の2)は,10人以上の事業場で必要となります(労働安全衛生法施行規則12条の2)ところ,労働安全コンサルタント又は労働衛生コンサルタント等でない限り,事業場に専属の者を選任する必要があります(労働安全衛生法施行規則12条の3第1項)し,関係労働者に氏名を周知させる必要があります(労働安全衛生法施行規則12条の4)。
(2) 建設業,運送業,製造業,自動車整備業等の業種の場合,安全衛生推進者が必要となり,その他の業種の場合,衛生推進者が必要となります。
(3) 安全衛生推進者及び衛生推進者は,都道府県労働局長の登録を受けたもの(例えば,公益社団法人労務管理教育センター)が行う講習(安全衛生推進者養成講習及び衛生推進者養成講習)の修了者でもなることができます。

4 労働安全コンサルタント試験及び労働衛生コンサルタント試験の試験区分
(1) 労働安全コンサルタント試験の試験区分は機械,電気,化学,土木及び建築です。
(2) 労働衛生コンサルタント試験の試験区分は保健衛生及び労働衛生工学です。


5 関連記事その他
(1) 厚生労働省HPに「「総括安全衛生管理者」「安全管理者」「衛生管理者」「産業医」の選任と職務のあらまし」が載っています。
(2) 建設業及び造船業において選任される統括安全衛生責任者は,総括安全衛生管理者とは異なります(職場のあんぜんサイトの「統括安全衛生責任者」参照)。
(3) 以下の記事も参照して下さい。
・ 労働基準法に関するメモ書き
・ 労働保険に関するメモ書き
・ 社会保険に関するメモ書き

労働者派遣法に関するメモ書き

目次
1 労働者派遣法の沿革
2 労働者派遣の禁止業務
3 労働者供給事業の原則禁止
4 労働者派遣契約
5 紹介予定派遣
6 厚生労働省HPの説明
7 労働者派遣と在籍型出向との差異
8 関連記事その他

1 労働者派遣法の沿革
・ ①労働者派遣法が施行された昭和61年当時,労働者派遣業の対象業務は専門知識が必要な13業務(ただし,施行後直ちに3業務が追加されて16業務)とされていて,②平成8年に10業務が追加されて26業務となり,③平成11年に対象業務が原則として自由化され(「対象業務のネガティブリスト化」といいます。),④平成16年に製造業務への派遣解禁及び派遣期間の延長があり,⑤平成24年に日雇い派遣の原則禁止があり,⑥平成27年に派遣期間の上限の3年統一及び労働者派遣事業の許可制への統一があり,⑦令和2年に同一労働同一賃金が導入があり,⑧令和3年に派遣労働者への説明義務の強化がありました(アデコHPの「労働者派遣法とは? 改正の歴史や罰則まで押さえるべきポイントをまとめて解説」参照)。

2 労働者派遣の禁止業務
(1) 労働者派遣の禁止業務としては,港湾運送業務,建設業務,警備業務があり(労働者派遣法4条1項),労働者派遣の原則禁止業務としては病院等における医療関連業務があります(労働者派遣法施行令2条)。
(2) 厚生労働省HPの「労働者派遣事業を行うことができない業務は・・・」には「2 その他労働者派遣事業ができない業務等」として以下の記載があります。
◯ 次の業務は、当該業務について定める各法令の趣旨から、労働者派遣事業を行うことはできません。
① 弁護士、外国法事務弁護士、司法書士、土地家屋調査士の業務
② 公認会計士、税理士、弁理士、社会保険労務士、行政書士の業務(それぞれ一部の業務を除きます。)
③ 建築士事務所の管理建築士の業務
◯ 人事労務管理関係のうち、派遣先において団体交渉又は労働基準法に規定する協定の締結等のための労使協議の際に使用者側の直接当事者として行う業務は、法第25条の趣旨に照らして行うことはできません。
◯ 同盟罷業(ストライキ)若しくは作業所閉鎖(ロックアウト)中又は争議行為が発生しており、同盟罷業や作業書閉鎖に至るおそれの多い事業所への新たな労働者派遣を行ってはなりません。(法第24条、職業安定法第20条)
◯ 公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で労働者派遣をすることはできません。(法第58条)

3 労働者供給事業の原則禁止との関係
(1) リクルートスタッフィングHP「労働者派遣法①|わかりやすく解説「派遣法」の歴史【前編1986〜2004】」には「強制的な労働や搾取が横行した人材ビジネス」として以下の記載があります。
    江戸時代から戦前までの労働者供給は「人貸し」「組請負」などと呼ばれ、供給業者による労働者の不当な支配が伴っていました。雇用関係や責任所在が曖昧だったため、劣悪な労働環境や供給元による賃金の搾取(いわゆるピンハネ)といった問題が蔓延します。これらの問題を受け、戦後1947年に公布された職業安定法第44条により、「労働者供給事業」は原則として禁止されるに至りました。
(2) 大阪労働局HPの「労働者派遣事業の概要」には以下の記載があります。
    労働者派遣事業は、昭和61年の労働者派遣法の施行に伴い改正される前の職業安定法第44条によって労働組合が厚生労働大臣の許可を受けて無料で行う場合を除き、全面的に禁止されていた労働者供給事業(下図 i. 参照)の中から、供給元と労働者との間に雇用関係があり、供給先と労働者との間に指揮命令関係しか生じさせないような形態を取り出し、種々の規制の下に適法に行えることとしたものです。

4 労働者派遣契約
(1) 派遣元である派遣会社と労働者を派遣してもらう派遣先は労働者派遣契約を締結する必要がありますところ,派遣契約には労働者派遣法26条及び労働者派遣法施行規則22条所定の事項を定める必要があります。
(2) 労働者派遣契約には基本契約及び個別契約の2種類がありますところ,①基本契約書には料金(通常の派遣料金や派遣先都合による損害金など)やお互いが履行すべき義務(法令遵守や守秘義務),損害賠償に関する取り決め,禁止事項,知的所有権の帰属,契約解除に関する事項など,契約の基本となる内容を盛り込み,②個別契約書には業務内容や派遣期間,人数,就業日,就業時間,残業など,具体的な就業条件を盛り込みます(マネーフォワードクラウド契約「労働者派遣契約法とは?個別契約と基本契約についてもご紹介」参照)。

5 紹介予定派遣
・ 紹介予定派遣の場合,派遣先の企業は直接雇用を前提にしていることを事前に明示する必要がありますし,就業前の書類選考や面接が認められていますし,派遣期間は6ヶ月だけですし,契約期間の途中に直接雇用に切り替えることができます(アデコHPの「紹介予定派遣とは?通常の派遣との違いとメリット」参照)。

6 厚生労働省HPの説明
(1) 平成24年10月1日,労働者派遣法の正式名が「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」から「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」に改正され,法律の目的にも,派遣労働者の保護のための法律であることが明記されました(厚生労働省HPの「労働者派遣法が改正されました」参照)。
(2) 厚生労働省HPの「平成27年労働者派遣法の改正について」には以下の記載があります。
派遣労働という働き方、およびその利用は、臨時的・一時的なものであることを原則とするという考え方のもと、常用代替を防止するとともに、派遣労働者のより一層の雇用の安定、キャリアアップを図るため、労働者派遣法が改正されました(「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律」平成27年9月11日成立、平成27年9月30日施行)。
(3) 厚生労働省HPの「派遣労働者の同一労働同一賃金について」には以下の記載があります。
働き方改革関連法による改正労働者派遣法により、派遣元事業主は、
1「派遣先均等・均衡方式」(派遣先の通常の労働者との均等・均衡待遇の確保)、
2「労使協定方式」(一定の要件を満たす労使協定による待遇の確保)
のいずれかの待遇決定方式により派遣労働者の待遇を確保することとされ、令和2年4月1日に施行されました。

7 労働者派遣と在籍型出向との差異
・ 厚生労働省HPの「労働者派遣と在籍型出向との差異」には以下の記載があります。
◯ いわゆる出向は、出向元事業主と何らかの関係を保ちながら、出向先事業主との間において新たな雇用契約関係に基づき相当期間継続的に勤務する形態である。
◯ 在籍型出向については、出向元事業主との間に雇用契約関係があるだけではなく、出向元事業主と出向先事業主との間の出向契約により、出向労働者を出向先事業主に雇用させることを約して行われていることから、労働者派遣には該当しない。
◯ しかし、在籍型出向の形態は、労働者供給に該当するので、その在籍型出向が「業として行われる」場合には、職業安定法第44条により禁止される労働者供給事業に該当する。
◯ 在籍型出向のうち、
①労働者を離職させるのではなく、関係会社において雇用機会を確保する
②経営指導、技術指導の実施
③職業能力開発の一環として行う
④企業グループ内の人事交流の一環として行う
等の目的を有しているものについては、出向が行為として形式的に繰り返し行われたとしても、社会通念上業として行われていると判断し得るものは少ないと考えている。

8 関連記事その他
(1) 労働者派遣の形態としては,有期雇用派遣,無期雇用派遣及び紹介予定派遣があります。
(2)ア プログラミング道場HPに「損保ジャパンの配置転換に至るまでの経緯【それってリストラ?】」が載っていて,日刊ゲンダイHPに「損保ジャパン社員「介護へ配置転換」次はあなたの会社かもしれない」(2019年7月2日付)が載っています。
(3)ア 厚生労働省HPの「労働者派遣事業に係る法令・指針・疑義応答集・関連情報等」には例えば,以下の資料が載っています。
・ 労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド
・ 労働者派遣と請負により行われる事業との区分に関する基準を定める告示
・ 「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(37号告示)関係疑義応答集
・ 派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針
・ 派遣先が講ずべき措置に関する指針
イ RELO総務人事タイムズHP「労働者派遣法の概要と改正の歴史|企業が気をつけたいポイントとは?」が載っています。
(4) 以下の記事も参照してください。
・ 労働基準法に関するメモ書き

従業員の健康診断

目次
1 健康診断の実施
2 雇入時の健康診断
3 定期健康診断
4 健康診断実施後の措置
5 健康診断を受けている間の賃金
6 関連記事その他

1 総論
(1) 労働者を雇い入れた場合,事業主は健康診断を行う必要があります(労働安全衛生法66条・労働安全衛生規則43条)。
(2) 事業主は,1年以内ごとに1回,労働者の健康診断を行う必要があります(労働安全衛生法66条・労働安全衛生規則44条)。
(3) RELO総務人事タイムズHP「健康診断の代行業者を活用する。業務負担軽減に役立つ代行業者3社」が載っています。

2 雇入時の健康診断
(1) 栃木労働局HPの「定期健康診断等について」には以下の記載があります。
 パート・アルバイトについても、次の1~3までのいずれかに該当し、かつ1週間の所定労働時間が同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上であるときは、健康診断を実施する必要があります。
 なお、4分の3未満であっても、1週間の所定労働時間が、同種の業務に従事する通常の労働者の概ね2分の1以上であるときは、健康診断を実施することが望ましいとされています。
1. 雇用期間の定めのない者
2. 雇用期間の定めはあるが、契約の更新により1年以上(注)使用される予定の者
3. 雇用期間の定めはあるが、契約の更新により1年以上(注)引き続き使用されている者
(注)特定業務従事者(深夜業、有機溶剤等有害業務従事者)にあっては6ヶ月以上 
(2) 例えば,「雇入れ時健康診断 大阪市」でグーグル検索すれば,大阪市内で雇入れ時健康診断を実施している医療機関を調べることができます。

3 定期健康診断
(1) 定期健康診断の項目は以下の11項目です(労働安全衛生規則44条1項のほか,BeHealthの「健康診断の義務(実施・負担・把握・報告・保管)について」参照)。
(調査事項)
一 既往歴及び業務歴の調査
(検査事項)
二 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
三 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
四 胸部エックス線検査及び喀痰検査
五 血圧の測定
六 貧血検査(赤血球数、血色素量)
七 肝機能検査(AST、ALT、γ-GT)
八 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
九 血糖検査(空腹時血糖またはHbA1c)
十 尿検査(糖・蛋白の有無)
十一 心電図検査
(2) 定期健康診断の場合,身長,腹囲,胸部X線検査,喀痰(かくたん)検査,貧血検査,肝機能検査,血中脂質検査,血糖検査及び心電図検査については,それぞれの基準に基づき,医師が必要でないと認めるときは省略できます(労働安全衛生規則44条2項)。
(3)ア Sanpo Naviの「定期健康診断の費用は会社負担?健診の種類・項目・義務内容のおさらい」には以下の記載があります。
健康診断は法律により企業に実施が義務付けられているものですので、費用は企業が全額負担することが労働安全衛生法にて定められています。
健康診断は保険適用外のため自由診療となり、費用はさまざまです。
定期健康診断の場合、一人当たり5000円~15000円前後に設定している医療機関・健診機関が多いようです。
イ 労働安全衛生法および同法施行令の施行について(昭和47年9月18日付の労働省労働基準局長通達)には「(山中注:労働安全衛生法66条)第一項から第四項までの規定により実施される健康診断の費用については、法で事業者に健康診断の実施の義務を課している以上、当然、事業者が負担すべきものであること。」と書いてあります。
(4) 例えば,「定期健康診断 大阪市」でグーグル検索すれば,大阪市内で定期健康診断を実施している医療機関を調べることができます。

4 健康診断実施後の措置
(1) 健康診断個人票の作成及び定期健康診断結果報告書
ア 健康診断の結果については健康診断個人票を作成し,5年間は保存しておく必要があります(労働安全衛生法66条の3)。
イ 長崎労働局HPの「健康診断個人票」に,健康診断個人票(雇入時)健康診断個人票(定期)等の書式が載っています。
ウ 常時50人以上の労働者を使用する事業者は,所轄の労働基準監督署に対し,定期健康診断結果報告書を提出する必要があります(岡山労働局HPの「健康診断の種類及び報告義務」参照)。
エ 定期健康診断結果報告書は,労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービスを利用して作成することもできます。
(2) 健康診断の結果に基づく措置
ア 健康診断の結果に基づき,健康診断の項目に異常の所見のある労働者について,労働者の健康を保持するために必要な措置について,医師(歯科医師による健康診断については歯科医師)の意見を聞く必要があります(労働安全衛生法66条の4)。
イ 医師又は歯科医師の意見を勘案し必要があると認めるときは,作業の転換,労働時間の短縮等の適切な措置をとる必要があります(労働安全衛生法66条の5)。
ウ 健康診断結果は、労働者に通知する必要があります(労働安全衛生法66条の6)。
エ  健康診断の結果に基づく保健指導健康診断の結果,特に健康の保持に努める必要がある労働者に対し,医師や保健師による保健指導を行うよう努めなければなりません(労働安全衛生法66条の7)。
(3) 個人情報保護法との関係
ア 健康診断その他の検査の結果は,要配慮個人情報です(個人情報保護法2条3項,個人情報保護法施行令2条2号)。
イ 個人情報保護委員会HP「雇用管理分野における個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項」には以下の記載があります。
事業者が外部機関にこれらの健康診断又は面接指導を委託するために必要な労働者の個人情報を外部機関に提供し、また、外部機関が委託元である事業者に対して労働者の健康診断又は面接指導の結果を報告(提供)することは、それぞれ安衛法に基づく事業者の義務を遂行する行為であり、法第 23 条第1項第1号の「法令に基づく場合」に該当し、本人の同意を得なくても第三者提供の制限は受けない。
ウ Growbase HPの「健康診断の結果提出を会社が命じられる?誰が把握できるかもチェック」には「健康診断の結果を把握するのは、実施するのと同様に会社の義務と考えられます。ただし、労働安全衛生法で定められた11項目以外の検査結果に関しては個人情報保護法が優先されるため、本人の同意を得た上で把握しましょう。」と書いてあります。


5 健康診断を受けている間の賃金
(1) 厚生労働省HPの「健康診断を受けている間の賃金はどうなるのでしょうか?」には「回答」として以下の記載があります(改行を追加しています。)。
    健康診断には大きく分けて一般健康診断と特殊健康診断があります。
    一般健康診断とは、職種に関係なく、労働者の雇入れ時と、雇入れ後1年以内ごとに一回、定期的に行う健康診断です。特殊健康診断とは、法定の有害業務に従事する労働者が受ける健康診断です。
    一般健康診断は、一般的な健康確保を目的として事業者に実施義務を課したものですので、業務遂行との直接の関連において行われるものではありません。そのため、受診のための時間についての賃金は労使間の協議によって定めるべきものになります。ただし、円滑な受診を考えれば、受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましいでしょう。
    特殊健康診断は業務の遂行に関して、労働者の健康確保のため当然に実施しなければならない健康診断ですので、特殊健康診断の受診に要した時間は労働時間であり、賃金の支払いが必要です。
(2) 2分で読める労務ワンポイントHPの「健康診断の休日実施」には以下の記載があります。
    最近は、従業員の健康状態を把握する必要性が高まっています。できる限り、未受診者を減らすために、定期健康診断は勤務時間内に行って、賃金を控除しない取扱いが望ましいです。
    一般的にも、定期健康診断は勤務時間内に行って、賃金を控除しない会社が多数です。

6 関連記事その他
(1) 厚生労働省HPに「労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう~労働者の健康確保のために~」が載っています。
(2) Carely「定期健康診断の健診項目は省略してはいけません、その理由はこれです。」が載っています。
(3) 労務事情1251号(2013年5月1日付)に「従業員の健康管理にかかわる留意点」が載っています。
(4)ア 国税庁HPに「人間ドックの費用負担」が載っていますところ,健診料相当額を医療機関に直接支払う必要があるかどうかの記載はありません。
イ 「従業員の健康診断費用を事業主の福利厚生費とするためには、事業主が直接、従業員の健康診断費用を診療機関に支払う必要があると定めている法令解釈通達その他の文書(最新版)」は 国税庁に存在しません(令和4年12月12日付の国税庁長官の行政文書不開示決定通知書参照)。
(5) 以下の記事も参照してください。
・ 労働基準法に関するメモ書き