犯罪の被害者やその代理人弁護士が,加害者の刑事裁判が続いている間に,その事件の刑事記録を入手する方法を整理します。
使える制度は「第1回公判期日の前か後か」で分かれます。
第1回公判期日の前は,被害者参加人が検察官の請求証拠を閲覧できるにとどまり,第1回公判期日の後は,被害者一般が犯罪被害者保護法3条によって裁判所で公判記録を閲覧・謄写できます。
申出先,誓約書,手数料,入手できる範囲の限界,判決確定前に完了しなければならないこと,略式命令事件の扱い,そして令和6年に始まった被害者の個人特定事項の秘匿制度までを,条文と原資料に沿って説明します。
第1 この記事の対象と入手方法の全体像
1 対象となる記録・当事者・時期による区分
ここで説明するのは,被害者又はその代理人弁護士が,加害者の刑事裁判が係属している間に,その起訴事件の刑事記録を入手する場合の取扱いです。
被害者側が記録に接近できるかどうかは,主として「時期」で決まります。
第1回公判期日の前は,裁判所はまだ実質審理に入っておらず記録が編てつされていないため,裁判所ではなく検察官の手持ち証拠へのアクセスが問題となり,これは被害者参加人に限って認められます。
第1回公判期日の後は,裁判所に公判記録が形成されるため,犯罪被害者保護法3条によって被害者一般が閲覧・謄写を申し出られます。
判決が確定した後は,制度が切り替わり,検察庁において確定記録の閲覧・謄写を求めることになります(この段階は本記事の対象外で,別記事で扱います)。
2 時期別の入手方法の早見表
時期・申出人・入手先・根拠・閲覧謄写の可否を一覧にすると次のとおりです。
| 時期 | 申し出られる人 | 入手先 | 主な根拠 | 閲覧・謄写の可否 |
|---|---|---|---|---|
| 第1回公判期日前 | 被害者参加人(委託を受けた弁護士を含む) | 検察官 | 最高検察庁の通達 | 検察官請求証拠は原則として閲覧可。謄写は必要性と弊害を個別に判断 |
| 第1回公判期日後〜判決確定前 | 被害者等(法定代理人・委託を受けた弁護士を含む) | 事件が係属する裁判所(刑事部) | 犯罪被害者保護法3条 | 正当な理由がない・相当でないと認める場合を除き,閲覧・謄写可 |
| 同上(同種余罪の被害者) | 同種余罪の被害者等 | 検察官を経由して裁判所 | 犯罪被害者保護法4条 | 損害賠償請求権の行使に必要かつ相当なとき,閲覧・謄写可 |
| 判決確定後 | 何人も(被害者等を含む) | 検察庁 | 刑事訴訟法53条・刑事確定訴訟記録法 | 本記事の対象外(別記事で説明) |
第2 第1回公判期日前——被害者参加人による検察官請求証拠の閲覧等
1 閲覧等が認められるのは被害者参加人に限られる
第1回公判期日の前は,まだ裁判所に公判記録が形成されていないため,犯罪被害者保護法3条は使えません。
この段階で証拠に接近できるのは,加害者の刑事裁判に対して被害者参加の申出をして参加を許された「被害者参加人」(刑事訴訟法316条の33以下)に限られ,最高検察庁の通達に基づく運用として認められています。
したがって,被害者参加の対象事件(故意の犯罪行為により人を死傷させた罪,一定の性犯罪,業務上過失致死傷等)でない場合や,被害者参加をしない場合には,第1回公判期日前に検察官の証拠を閲覧する制度上の受け皿はありません。
2 原則は閲覧,謄写は必要性と弊害の個別判断
被害者参加人には,原則として検察官請求証拠の閲覧が認められますが,謄写(コピー)まで当然に認められるわけではありません。
もっとも,被害者参加人から委託を受けた弁護士が謄写を求めた場合には,謄写を求める理由や対象となる証拠の内容等に照らして,謄写の必要性が認められ,かつ謄写に伴う弊害が認められないときは,謄写も認められます。
通達は「証拠の内容等に鑑みて」必要性と弊害を個別に考慮する枠組みを示すもので,特定の書類を一律に謄写対象から外す旨を定めているわけではありません。
実務では,被告人の身上に関する供述調書,戸籍の証明書,前科調書など,事件の内容と直接関係がなく被告人の名誉やプライバシーに関わる書類については,相当でないとして謄写が認められないことが多いといえます。
3 根拠となる最高検察庁の通達
この運用の根拠は,平成26年10月21日付の2つの文書です。
1つは,次長検事通達「犯罪被害者等の権利利益の尊重について」で,その第3項(2)後段は,被害者参加制度の対象事件について,対象被害者等(被害者等・法定代理人・委託を受けた弁護士)から検察官請求証拠の開示を求められたときは,相当でないと認める場合を除き,当該証拠の閲覧を認めるなど弾力的な運用に努めるべきこと,開示に当たっては知り得た事項をみだりに使用しないよう注意を喚起するなど適切な情報管理に配意すべきことを求めています。
もう1つは,この依命通達の趣旨を解説した「『犯罪被害者等の権利利益の尊重について(依命通達)』の発出について」(最高検察庁総務部長及び公判部長)で,その第3・3(2)イは,閲覧・謄写について次のように整理しています。
すなわち,検察官請求証拠は検察官が後に公判廷で明らかにすることを予定している証拠であるため開示による弊害も少ないと考えられること,証拠の開示を求められたときは原則としてその閲覧を認めるなど弾力的な運用に努めること,開示は閲覧の方法によることを原則とするが謄写を一律に禁止するものではないこと,委託を受けた弁護士から謄写を求められ,必要性が認められ弊害が認められないときは謄写を認めて差し支えないこと,です。
また,同イは,刑事訴訟法316条の15第1項又は316条の20第1項によって検察官が被告人又は弁護人に開示した証拠についても,相当と認められるときは開示して差し支えないとしています。
被害者側で受任した場合の実務感覚として,第1回公判期日前に検察庁で謄写しておき,判決が出たら確定前に裁判所で謄写する(民事訴訟目的であることを明示する)のが動きやすい,という指摘があります。
自分としては、被害者側で受任したら
第1回公判前に検察庁で謄写
判決が出たら確定前に裁判所で謄写(民事訴訟目的であることを明示)
が一番いいのかなと思ってる。確定記録の謄写だと検察庁に戻るまで待たされちゃうので。— ふたつのいす (@eruear946) February 9, 2022
第3 第1回公判期日後——犯罪被害者保護法3条による公判記録の閲覧・謄写
1 被害者参加の有無を問わず被害者等が申し出られる
第1回公判期日の後は,犯罪被害者保護法3条によって,被害者参加人に限らず被害者一般に公判記録の閲覧・謄写が認められます。
同条1項は,裁判所は,第1回の公判期日後から被告事件の終結までの間に,被害者等・その法定代理人・これらの者から委託を受けた弁護士から訴訟記録の閲覧又は謄写の申出があるときは,検察官及び被告人・弁護人の意見を聴いた上で,閲覧又は謄写を求める理由が正当でないと認める場合及び犯罪の性質・審理の状況その他の事情を考慮して相当でないと認める場合を除き,閲覧・謄写をさせるものとする,と定めています。
つまり,被害者は,被害者参加の申出をしていない場合であっても,第1回公判期日以降であれば,原則として,加害者の刑事裁判を担当している裁判所の刑事部で刑事記録を閲覧・謄写できます。
報復や不当な働きかけの目的があるなど,相当でないと認められる場合には認められないことがあります。
2 申出先・誓約書・手数料
申出先は,事件が係属している裁判所(刑事部)です。
申出に当たっては,申出人と被害者との身分関係(遺族の場合は戸籍など)や委託関係(弁護士が申し出る場合は委任状)を疎明する資料の提出が求められます。
裁判所は,謄写をさせる場合に,謄写した訴訟記録の使用目的を制限し,その他適当と認める条件を付すことができます(同条2項)。
また,閲覧・謄写をした者は,知り得た事項を用いるに当たり,不当に関係人の名誉・生活の平穏を害し,又は捜査・公判に支障を生じさせないよう注意しなければなりません(同条3項)。
そのため実務では,これらの条件の遵守を担保するものとして,誓約書の提出を求められた上で刑事記録のコピーが認められます(庁によっては「確約書」という名称の書式が用いられることもあります)。
手数料は,1件につき150円です。
犯罪被害者保護法47条が,3条1項又は4条1項による訴訟記録の閲覧・謄写の手数料について,民事訴訟費用等に関する法律の別表第三の一の項の規定を準用しており,裁判所の案内(リーフレット「犯罪によって被害を受けた方へ」)でも申出1回あたり150円分の収入印紙を用意するよう説明されています。
手数料は閲覧・謄写票の印紙欄に収入印紙を貼付する方法で納めます(消印はしません)。
「日を改める」場合の手数料の考え方
1回の申出で範囲が指定されていれば,閲覧・謄写が2日以上にわたっても改めて手数料は要りません。
他方,いったん閲覧・謄写が完結した後に,別の機会に新たに申し出るときは,仮に対象が同じ範囲であっても改めて150円が必要になると解されています。
なお,手数料の納付義務は裁判所の許可によって生じるため,許可の判断が下される前に申出を取り下げた場合や全部不許可となった場合には,納付義務は生じません。
3 閲覧・謄写できる範囲とその限界
対象となるのは,刑事裁判に提出されて訴訟記録に編てつされた記録です。
弁護人が「不同意」とした証拠書類のうち,全部が取り調べられなかったものは,そもそも公判記録に編てつされないため対象になりません。
一部だけ不同意とされた場合は,提出用の抄本上で不同意部分がマスキング(黒塗り)されて編てつされるため,被害者はその部分を閲覧できません。
被告人の身上調書,戸籍謄本,前科調書等は,通常,閲覧・謄写の対象から外れます。
もっとも,これらが法律上一律に除外されているわけではなく,事件の内容と直接関係がなく被告人の名誉・プライバシーに関わる書類が含まれる場合に,裁判所が3条1項の「相当でないと認める場合」に当たるとして閲覧・謄写を認めない,という相当性の判断によるものです。
4 判決確定前に閲覧・謄写を完了する必要
犯罪被害者保護法3条・4条による閲覧・謄写は,申出や許否の判断だけでなく,閲覧・謄写の実施まで,当該被告事件の確定前に完了していなければならないと解されています。
これは,事件が確定した後は検察官が訴訟記録の保管権限を有するという刑事確定訴訟記録法の定めと抵触するおそれがあるためです。
判決書についても同様で,被害者等は刑事訴訟法46条による判決書謄本の交付(同条は「被告人その他訴訟関係人」に限られます)を請求できないため,判決書を入手するには保護法3条の謄写の申出によることになり,やはり確定前に完了しておく必要があります。
確定までに閲覧・謄写が間に合わないときは,確定後に,第一審裁判所に対応する検察庁において,刑事確定訴訟記録法(刑事訴訟法53条)に基づく閲覧・謄写を求めることになります。
5 略式命令事件は3条の対象外
略式命令の手続の記録は,訴訟記録には当たりますが,その事件が「公判に係属」するものではないため,犯罪被害者保護法3条による閲覧・謄写の対象にはなりません。
したがって,略式命令事件では,被告事件の終結前に刑事記録を閲覧・謄写することはできず,確定後に検察庁で確定記録の閲覧・謄写を求めることになります。
6 平成19年改正による要件の緩和
現在の犯罪被害者保護法3条は,「正当でない・相当でない」と認める場合を除いて閲覧・謄写をさせるという枠組みですが,これは平成19年の改正によって要件が緩和された結果です。
平成19年6月27日法律第95号(平成19年12月26日施行)による改正前は,当該被害者等の損害賠償請求権の行使のために必要があると認める場合その他正当な理由がある場合で,かつ,犯罪の性質・審理の状況その他の事情を考慮して相当と認めるときに限って,閲覧・謄写が認められていました。
この改正により,「必要かつ相当なときに限り許す」型から「正当でない・相当でないときを除いて許す」型へと転換し,被害者側の記録アクセスが原則として認められる方向に整えられました。
第4 検察官からの公訴事実・冒頭陳述の書面交付
記録の閲覧・謄写とは別に,被害者は,加害者の刑事裁判を担当している検察官に依頼することで,起訴状記載の公訴事実等の内容を記載した書面や,冒頭陳述の内容を記載した書面の交付を受けられます。
前記の「発出について」(最高検察庁総務部長及び公判部長)の第3・3(1)は,事件を公判請求した場合には,当該事件の被害者等の要望に応じて,事案の内容や捜査・公判に支障を及ぼすおそれ・関係者の名誉やプライバシーを害するおそれの有無・程度等を考慮しつつ,公判における検察官の主張・立証の内容を分かりやすく説明するのが相当であるとし,その説明に関連して,被害者等の要望があれば,起訴状記載の公訴事実等の内容を記載した書面や,あらかじめ裁判所に提出した冒頭陳述の書面を交付するのが相当であるとしています。
ただし,交付に当たっては,公判廷で明らかにされない関係者の氏名を伏せる,第三者へ書面が不当に流出しないよう被害者等に注意喚起するなど,関係者のプライバシー保護への配慮が求められます。
第5 同種余罪の被害者による閲覧・謄写(犯罪被害者保護法4条)
加害者本人ではなく,加害者又はその共犯によって,被告事件の犯罪行為と同様の態様で継続的・反復的に行われた,同一又は同種の犯罪行為の被害者(同種余罪の被害者)も,公判記録の閲覧・謄写を申し出られます(犯罪被害者保護法4条)。
この場合は,第1回公判期日後から被告事件の終結までの間に,損害賠償請求権の行使のために必要があると認められ,かつ犯罪の性質・審理の状況その他の事情を考慮して相当と認められるときに,閲覧・謄写が認められます。
申出は検察官を経由してしなければならず,同種の犯罪行為の被害者であることを疎明する資料の提出が必要です。
被害者本人による閲覧・謄写(3条)よりも要件が絞られている点に注意が必要です。
第6 被害者の個人特定事項を秘匿する制度(令和6年施行)
被害者側が記録に接近する場面とは向きが逆になりますが,関連する近時の制度として,被害者の個人特定事項を加害者側に知られないようにする仕組みが新設されています。
令和5年法律第66号(刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律)による刑事訴訟法の改正で,令和6年2月15日から,一定の事件について,被害者の氏名・住所その他の個人を特定させることとなる事項を被疑者・被告人に秘匿したまま逮捕・勾留・起訴の手続を進める制度が始まりました。
対象は,性犯罪の事件のほか,個人特定事項が知られると被害者の名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれがある事件や,被害者・親族に危害が加えられるおそれがある事件です。
起訴の場面では,起訴状に記載された個人特定事項の記載がない起訴状抄本等を被告人に送達する措置などが設けられました。
この制度は,被害者側が記録を閲覧・謄写する場面での関係者情報の取扱いにも関わるため,記録の入手を検討する際にあわせて意識しておくとよい点です。
第7 参考資料と関連記事
裁判所ウェブサイトの「刑事手続における犯罪被害者のための制度」でも,刑事事件の被害者は原則として事件記録の閲覧・コピーができること,同種余罪の被害者は損害賠償請求のために必要と認められる場合に事件記録の閲覧・コピーができること,被害者は事件を審理している裁判所に,同種余罪の被害者は検察官に申し出ることが案内されています。
訴訟記録が原則として公開されない一方で,裁判自体は公開の法廷で行われます。
市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)14条1項も,すべての者が独立・公平な裁判所による公正な公開審理を受ける権利を有するとしつつ,当事者の私生活の利益のため必要な場合等には裁判の公開を制限できるとしており,係属中の訴訟記録が一般には公開されないことと整合する内容になっています。
刑事記録の入手方法に関する関連記事として,次のものもあわせてご覧ください。
出典
1 法令・条約
- 犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律(犯罪被害者保護法)3条・4条・46条・47条(e-Gov法令検索)
- 刑事訴訟法46条・53条・316条の15・316条の20・316条の33以下(e-Gov法令検索)
- 民事訴訟費用等に関する法律 別表第三の一の項(e-Gov法令検索)
- 市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)14条1項(外務省・日本語公定訳) https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/2c_004.html
2 公文書
- 「犯罪被害者等の権利利益の尊重について」(平成26年10月21日付・次長検事通達)
- 「『犯罪被害者等の権利利益の尊重について(依命通達)』の発出について」(平成26年10月21日付・最高検察庁総務部長及び公判部長)
- 法務省「平成19年改正刑事訴訟法等に関する意見交換会」第12回会合議事録 https://www.moj.go.jp/content/000126899.pdf
- 犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(衆議院・平成19年) https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/housei/16620070627095.htm
3 ウェブ資料
- 裁判所「刑事手続における犯罪被害者のための制度」 https://www.courts.go.jp/about/hogosisaku/seido/Index.html
- 裁判所リーフレット「犯罪によって被害を受けた方へ」 https://www.courts.go.jp/assets/higaiouketakatae_2026_web.pdf