第1 情報政策課の位置付けと存続期間
1 平成17年の設置から令和6年の廃止まで
最高裁判所事務総局情報政策課は,平成17年1月1日から令和6年3月31日まで存在した司法行政組織である。最高裁判所事務総局等の組織についての付記は,平成17年1月1日及び令和6年4月1日の各組織改編を掲げており,現行の最高裁判所事務総局分課規程には情報政策課が存在しない。
情報政策課は,特定の局に属さない事務総長直属の課として設置され,裁判所全体の情報化戦略,情報システム,情報セキュリティ及び司法統計を横断して担当した。令和6年4月1日以後,その機能は,デジタル審議官,サイバーセキュリティ管理官及びデジタル基盤管理官等を中心とする体制に再編されている。
2 本記事で区別する三つの時点
情報政策課の人員及び内部編成は,約19年の存続期間中に変化した。このため,本記事では,設置時の経緯,平成28年4月1日時点の人員及び令和5年4月1日施行の最終期の事務分掌を区別し,過去の配置図を現在の組織又は定員として扱わない。
また,情報政策課廃止後のCIOの官職名及びCIO補佐官の配置状況は,確認できた公開資料からは明らかでない。そこで,CIO及びCIO補佐官については,確認できた時点を明示する。
第2 情報政策課設置の背景
1 司法制度改革と裁判所のIT導入方針
平成13年6月12日の司法制度改革審議会意見を受けて,最高裁判所は,平成14年3月20日,最高裁判所司法制度改革推進計画要綱を策定した。同要綱は,訴訟手続,事務処理及び情報提供の各側面でITを積極的に導入する計画を策定し,公表する方針を示した。
司法のICT化は,オンライン手続だけを対象とするものではなく,裁判所内部の事件処理,記録管理,統計及び情報提供を含む課題であった。このため,各局課が個別にシステムを整備するだけでなく,裁判所全体の情報化方針とシステム相互の整合を統括する組織が必要となった。
2 裁判事務処理システムの全国展開中止
裁判所では,平成10年度から,民事通常事件の受付,事件進行,終局後の統計処理及び記録管理を一体化する民事裁判事務処理システムの検討が進められ,平成12年9月に宇都宮地方裁判所で本格稼働した。その後,横浜地方裁判所及びさいたま地方裁判所でレスポンス低下が生じ,開発業者及び基盤ソフトの供給元と調査しても原因を特定できなかったため,導入拡大が凍結された。
最高裁判所は,平成16年5月,民事及び刑事の裁判事務処理システムの全国展開を中止した。この経緯は,裁判所の情報化の流れに掲載した会報及び開示文書で確認でき,局課横断のシステム統括と全体最適化が課題となった直接的な背景である。
3 情報政策課の設置と情報化戦略計画
平成17年1月1日,総務局制度調査室及び統計課が廃止され,情報政策課が新設された。「会報書記官」第8号29頁は,裁判所全体の観点から情報化を計画的に進め,多様なシステム相互の最適化,インフラ整備及びシステム開発の推進・調整を行うための改編であったと説明している。
同年12月には情報化戦略計画が策定され,平成23年12月に改定された。令和7年7月2日付の調達仕様書も,受注者に開示する資料として情報化戦略計画及びシステム最適化計画関係文書を掲げている。

第3 情報政策課の所掌事務と組織の変化
1 情報政策課が担った四つの機能
令和5年4月1日施行の情報政策課事務分掌によれば,最終期の所掌事務は,次の四つに整理できる。これは公開された事務分掌に基づく機能別の整理であり,内部の権限配分又は個々の職員の勤務割合まで示すものではない。
① 裁判所全体の情報化戦略,全体最適化及び局課・下級裁判所との調整
② 裁判手続及び司法行政事務のデジタル化,業務見直し並びにデジタル専門人材に関する企画
③ 情報システム及び共通基盤の企画,開発,運用,保守並びに情報セキュリティ
④ 司法統計の企画,集計,公表及び統計システムの管理
2 平成28年4月1日時点の59人体制
平成28年4月1日時点の情報政策課は59人であり,内訳は裁判官2人,一般職55人及び民間人2人であった。民間人2人は,CIO補佐官及びCIO補佐官補助者であり,この人数は当時の配置を示す歴史資料であって,定員又は廃止時の実働人数ではない。
同時点では,情報政策課長の下に,裁判官1人及び一般職1人の参事官,審査官,課長補佐3人並びに専門官5人が置かれていた。係は,庶務,情報企画第一・第二,情報基盤管理,情報セキュリティ,情報処理第一・第二,統計情報及び統計システムの9係であった。
公開された最高裁判所の職員配置図によれば,情報政策課に配置された裁判官は,平成28年4月1日時点で2人,令和元年10月1日時点で3人,令和2年4月1日時点で兼務者を含む4人であった。これらも各時点の配置であり,人数の増加だけから権限又は予算の増減を推測することはできない。

3 情報セキュリティ室の設置
平成29年4月1日,参事官ポストの裁判官が情報セキュリティ室長を務める体制となった。その後の調達資料及び事務連絡でも,情報政策課情報セキュリティ室の名称が確認でき,サイバー攻撃への対応,情報セキュリティポリシー及び裁判所の共通基盤に関する機能が組織上明確にされた。
情報セキュリティ室の資料として,裁判所の情報化と情報セキュリティについて及び情報セキュリティポリシーに関するFAQを掲載している。
4 デジタル推進室と最終期の事務分掌
令和3年4月1日,事務総局内のプロジェクトチームとしてデジタル推進室が発足した。令和4年度の職員配置図では,同室に総務・企画グループ及びシステム開発グループが置かれており,情報政策課と並行して裁判手続のデジタル化を推進する体制が採られていた。
令和5年4月1日施行の事務分掌では,情報化戦略及びシステム管理に加え,デジタル専門人材,業務見直し並びに裁判手続及び司法行政事務のデジタル化が明記された。情報政策課の最終期は,既存システムの運用・保守だけでなく,手続と業務の再設計を扱う段階へ移っていたと考えられる。
第4 CIO及びCIO補佐官
1 情報政策課長がCIOであった時期
CIOは,組織の情報化戦略及び情報システムを統括する責任者である。少なくとも平成29年1月23日の最高裁判所契約監視委員会議事概要では,情報政策課長がCIOであると説明されている。
もっとも,この資料は情報政策課が存在した時期のものである。令和6年4月の組織改編後に,どの官職がCIOを務めているかは,今回確認した公開資料からは確定できない。
2 外部専門家の役割と契約
CIO補佐官は,情報化戦略,全体最適化,情報セキュリティ,システム調達及び人材育成について,外部の専門的知見からCIOを支援する役割を担った。平成17年度随意契約見直し状況のPDF実頁3頁には,株式会社大和総研とのCIO補佐官業務5880万円及びアクセンチュア株式会社との情報化戦略計画策定業務1994万2440円の契約が掲載されている。
平成29年の契約監視委員会議事概要は,情報政策課が必要に応じてCIO補佐官から助言を受けていたこと,担当業者が交代する場合には,裁判所のシステム及び情報施策の流れを説明して助言の連続性を確保する必要があるとの最高裁判所の説明を記録している。令和4年度概算要求書にもCIO補佐官及び補助者の配置経費が計上されていたが,令和6年の組織改編後も同じ名称の外部専門家が配置されているかは,公開資料から確認できない。
第5 令和6年の廃止と後継体制
1 情報政策課の廃止
令和6年3月1日最高裁判所規則第6号により最高裁判所事務総局規則が改正され,デジタル審議官が新設された。また,令和6年2月14日最高裁判所規程第3号により最高裁判所事務総局分課規程が改正され,情報政策課が削除されるとともに,サイバーセキュリティ管理官及びデジタル基盤管理官等が新設された。いずれも同年4月1日施行であるため,情報政策課は同年3月31日限りで廃止された。
裁判所時報1835号6頁は,事務総局の事務を適正かつ円滑に運営するため,デジタル審議官並びにその下に置く参事官及びデジタル審議官付を新設した旨を説明している。
2 デジタル審議官等への機能の承継
現行の最高裁判所事務総局規則3条の2の2によれば,デジタル審議官は,①デジタル化の推進,②情報セキュリティの確保,③情報システムの整備及び管理並びに④統計情報に関する重要事項の企画及び立案に参画し,関係事務を総括整理する。これらは,情報政策課の最終期の主要機能に対応している。
最高裁判所事務総局分課規程40条の2は,サイバーセキュリティ管理官に情報セキュリティ政策の企画・立案及び調整を担当させ,同規程40条の3は,デジタル基盤管理官に情報基盤の整備・管理及び統計情報を担当させている。したがって,情報政策課の所掌が一つの課から複数の官職へ再配置されたものと理解できるが,個々の係又は職員がどの部署へ移ったかまでは公開資料から確定できない。
3 デジタル総合政策室の三グループ制
令和6年4月25日付「事務処理態勢等について」によれば,実際の事務処理には「デジタル総合政策室」という名称が用いられ,総務・戦略グループ,セキュリティ・基盤グループ及び裁判システムグループの三つに分けて事務を処理する。デジタル審議官等は規則・規程上の官職であるのに対し,デジタル総合政策室及び三グループ制は事務処理態勢上の名称であり,両者を区別する必要がある。
現在の官職,人員及び裁判所デジタル化との関係は,最高裁判所事務総局デジタル審議官で詳しく整理している。また,令和8年5月21日には民事訴訟手続のデジタル化のフェーズ3が始まり,電子申立て,電子記録及びシステム送達等が本格化したが,これは情報政策課廃止後の体制による施策である。
第6 関連資料と関連記事
1 情報政策課に関する公開資料
① 最高裁判所事務総局情報政策課の事務分掌
② 令和5年4月1日施行の情報政策課事務分掌
③ 裁判所の情報化と情報セキュリティについて
④ 裁判所の現状と課題―情報政策の観点から
⑤ 裁判官用のセキュリティ機能付きUSBメモリの運用要領
⑥ 情報セキュリティポリシーに関するFAQ
2 組織・システム・統計の関連記事
① 歴代の最高裁判所情報政策課長
② 裁判所における主なシステム
③ 裁判所の情報化の流れ
④ 最高裁判所の職員配置図
⑤ 裁判統計報告
⑥ 最高裁判所が開発しているmints,RoootS及びTreeeS
⑦ 民事裁判手続のデジタル化
⑧ 最高裁判所事務総局デジタル審議官
第7 出典・参考資料
1 公的資料・最高裁判所作成文書
① 最高裁判所「最高裁判所司法制度改革推進計画要綱」第2の1(1)キ(エ)
② 最高裁判所「最高裁判所事務総局規則」3条の2の2,6条の2及び7条
③ 最高裁判所「最高裁判所事務総局分課規程」40条の2~40条の4及び令和6年2月14日最高裁判所規程第3号の附則
④ 最高裁判所「最高裁判所事務総局等の組織について」別表及び付記
⑤ 最高裁判所「平成17年度随意契約見直し状況」PDF実頁3頁
⑥ 最高裁判所契約監視委員会「議事概要」平成29年1月23日付,PDF実頁5頁~6頁
⑦ 最高裁判所事務総局情報政策課「裁判所の情報化と情報セキュリティについて」平成30年4月,1頁
⑧ 最高裁判所事務総局情報政策課「事務分掌」令和5年4月1日施行,全頁
⑨ 最高裁判所事務総局「裁判所時報1835号」令和6年4月1日付,6頁
⑩ 最高裁判所事務総局デジタル審議官「事務処理態勢等について」令和6年4月25日付,1頁~5頁
⑪ 最高裁判所「民事裁判手続のデジタル化」
2 文献
① 全国裁判所書記官協議会「会報書記官」第8号,平成18年7月,29頁
② 川嶋四郎・笠原毅彦・上田竹志『民事裁判ICT化論の歴史的展開』(日本評論社,2021年)101頁~103頁