第1 この記事の対象と結論
令和7年4月1日から,成年後見人,保佐人及び補助人が家庭裁判所へ提出する初回報告・定期報告並びに報酬付与申立てに関する書式の内容が全国的に統一された。
統一書式では,預貯金等の財産管理だけでなく,本人の心身・生活状況,実施した事務,本人の意思確認,支援者及び面談等の状況が報告対象となる。
また,報酬算定で考慮してもらいたい事情がある場合は,事情説明書で「ある」を選択し,原則として事務ごとに別紙を作成する。業務日誌や意思決定支援のアセスメントシートをそのまま貼り付けるだけでは,報酬算定上考慮してほしい事情を十分に特定したことにならない。
実務上重要なのは,後見等事務報告書と報酬付与申立事情説明書の役割を区別しつつ,本人の意思,行った支援,関係者との協議,事務の進捗,本人の利益及び裏付資料を,事務が発生した時点から対応付けて記録することである。
第2 令和7年4月の全国統一書式
1 全国で内容が統一された書式
裁判所の後見ポータルサイトには,成年後見人・保佐人・補助人用の初回報告及び定期報告の全国統一書式と記載例が掲載されている。
報酬付与申立書式のページには,報酬付与申立書,報酬付与申立事情説明書,事情説明書別紙及び各記入例が掲載されている。
古い書式を保存して使い回すのではなく,提出の都度,裁判所サイトで最新版を確認する方が安全である。
2 各家庭裁判所の追加書式等は残る
「全国統一」とは,掲載された報告書式の内容が全国で統一されたという意味であり,全ての提出書類及び運用が完全に同一になったという意味ではない。
裁判所の案内は,各家庭裁判所が統一書式に加えて追加項目の報告書式を求める場合があること,終了報告書等は監督している家庭裁判所の指示を受ける必要があることを明記している。
したがって,提出前には,①提出先家庭裁判所,②初回・定期・終了の別,③監督人の有無,④報酬付与申立ての有無,⑤本人死亡等の特別事情を確認し,提出先家裁の最新案内も照合する必要がある。
第3 後見等事務報告書の書き方
1 報告書の目的
後見等事務報告書は,家庭裁判所が後見等事務の遂行状況を把握し,必要な監督を行うための資料である。報酬だけを説明する書面ではない。
一方,報酬付与申立事情説明書及びその別紙は,報酬を求める期間,報酬助成の見込み及び報酬算定で考慮してほしい個別事情を説明する書面である。
同じ事務が両方の書面に関係する場合でも,一方に「別紙参照」とだけ書いて済ませるのではなく,各書面の目的に応じた要点を簡潔に記載した上で,資料番号等により相互の関係を明らかにするのが分かりやすい。
2 本人の心身・生活状況及び支援者
定期報告書では,本人の住所・居所,健康状態及び生活状況の変化を報告する。また,親族,施設・病院,福祉又は行政の関係者等,本人を支援する者の有無及び変化も報告する。
単に「変化なし」とする前に,前回報告時の居所,診断・認定,サービス内容及び主な支援者と比較する必要がある。
3 ①から㉑までの事務
統一書式は,生活面の事務として転居,入退院,施設入退所,医療・介護・障害福祉・年金・生活保護等を,財産管理面の事務として不動産,保険金,債権回収,訴訟,家事事件,相続,示談,債務整理等を列挙している。
①から⑳に該当しない非日常的な事務,同意権又は取消権の行使は,㉑その他の事務として具体的に記載する。
チェックした事務については,契約書,申請書,決定通知書,示談書,協議書,判決書・審判書・調停調書等の資料を,事務番号と対応する資料番号を付けて整理する。
4 本人の意思確認及び面談等
報告書は,実施した事務が,①本人が表明した意思,②推定した本人の意思,③本人の意思を推定できない場合に検討した本人にとって最も良い方法,④本人の意思又は推定意思と異なる判断,⑤その他のいずれに当たるかを区別して説明する構造となっている。
本人の意思確認が困難であることと,本人への説明又は意思決定支援をしなくてよいことは同じではない。本人が理解しやすい日時,場所,説明方法及び支援者を検討し,実行可能な支援を行った経過を記録する。
意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドラインは,意思決定能力があることを前提に,必要な支援を尽くし,代行決定を最後の手段とする考え方を示している。
第4 報酬付与申立事情説明書の書き方
1 報酬を求める期間等
最初に,報酬を求める期間を特定する。過去の報酬付与審判の対象期間との重複又は空白がないか,審判書と照合する。
消費税課税事業者欄及び報酬助成欄も,申立人及び本人の現在の状況に基づいて記載する。報酬助成の上限額は家庭裁判所の報酬基準ではなく,自治体ごとに対象,金額及び申請期限が異なる。
2 考慮してもらいたい事情の有無
通常の後見等事務を超えて報酬算定で考慮してもらいたい事情がある場合は,事情説明書の「ある」を選び,該当する事務番号にチェックする。
「ある」にチェックしたこと,事務類型に該当すること又は資料を大量に提出したことだけで,付加的な評価が認められるわけではない。報酬額は,家庭裁判所が個別事件の事情を踏まえて判断する。
3 事務ごとに別紙を作成する
事情説明書別紙は,原則として,事情説明書で選択した①から㉑までの事務ごとに作成する。
例えば,不動産売却と遺産分割協議を行った場合は,⑩不動産の売却・処分と⑰遺産分割協議を一つの長い経過説明に混在させず,各事務の内容,進捗,利益及び労力を別紙ごとに対応させる。
第5 事情説明書別紙に書く六つの事項
1 事務内容及び現在の状況
事務内容欄では,何が問題となり,後見人等が何を行ったかを特定する。現在の状況欄では,事務が終了したのか,継続中なのか,どの段階にあるのかを明らかにする。
「関係者と調整した」「訴訟に対応した」だけではなく,相手方,対象事項,主要な対応及び到達点を,守秘及び必要性に配慮しつつ具体化する。
2 本人が得た利益又は回避した不利益
金銭的利益を算定できる場合は,現実に取得した金額,請求を免れた金額又は売却額等を,算定根拠資料と対応させる。
身上保護事務等で経済的利益を観念できない場合は,利益額がないことを明示した上で,本人の生活,安全,医療・福祉サービス又は意思の尊重にどのような意味があったかを説明する。
3 第三者への委任
弁護士,司法書士,税理士,不動産業者その他の第三者へ全部又は一部を委任した場合は,委任範囲及びその報酬額を記載する。
第三者が作業した部分と後見人等が自ら判断・調整した部分を区別すると,後見人等自身の事務内容及び労力が明確になる。
4 困難性・労力及び裏付資料
困難性・労力の欄には,本人,親族,医療・福祉関係者又は相手方との協議の回数及び内容,訴訟等の期日回数,強制執行の有無,移動,緊急対応,資料量その他の具体的事情を記載する。
裏付資料がある場合は,資料番号を付ける。既に裁判所へ提出済みの資料を重ねて提出する必要はないが,資料番号及び提出日が分かるようにする。
第6 身上保護事務はプロセスを記録する
1 結果だけでは説明しにくい
転居,入退院,施設入退所,医療・介護サービス等の身上保護事務では,売却代金又は回収額のような単一の数値だけで成果を示せないことが多い。
このため,最終的な契約又は移動の結果だけでなく,本人の意思をどのように確認し,どの選択肢を比較し,誰と協議し,どのような危険又は不利益を検討したかという過程を記録する必要がある。
2 事務発生時から残す記録
報酬申立ての直前に一年分の経過を思い出して整理するのではなく,事務発生時から,少なくとも次の事項を記録する。
- 本人に説明した選択肢及び説明方法
- 本人が表明した意思,反応又は拒否
- 意思確認が困難であった理由及び試みた支援
- 本人の従前の価値観・選好から意思を推定した根拠
- 親族,施設,病院,福祉又は行政関係者との協議
- 本人が協議・面談に参加したか
- 採用しなかった代替案及びその理由
- 本人に生じた利益又は回避した不利益
- 契約書,議事録,支援記録等の資料番号
3 記載例
例えば,「病院及び施設と調整して転院した」とだけ記載するのでは,後見人等の判断過程及び労力が分かりにくい。
「本人は当初転院を拒否したため,主治医及び相談支援専門員とともに,現在の病院で継続できる治療と転院先の支援内容を本人が理解しやすい表現で三回説明した。本人が重視していた面会機会を確保できる転院先を再選定し,本人の了解を確認した上で契約及び移送を行った。協議記録は資料②-1,契約書は資料②-2のとおりである。」など,事案に応じて,意思確認,選択肢,協議,判断及び資料を対応させる。
この例は記載方法を示す仮想例であり,実際の記載は個別事件で現実に行った事務及び存在する資料に限られる。
第7 資料の整理及び重複提出の防止
資料は「資料①-1」「資料⑭-2」など,事務番号と対応させて付番すると分かりやすい。
後見等事務報告書に添付した資料と事情説明書別紙の裏付資料が同じ場合は,重ねて提出せず,既提出資料の番号及び提出日を記載する。
他方,業務日誌又はアセスメントシートをそのまま引用するだけでは,考慮してほしい事情を特定したことにならない。別紙本文で要点を説明し,必要な日誌等を裏付資料として位置付ける。
転居,入退院,施設入退所及び不動産処分について,ガイドライン所定のアセスメントシートを実際に作成している場合は,事情説明書別紙の裏付資料として提出することができる。
第8 提出前チェックリスト
- 提出先家庭裁判所及び支部・出張所は正しいか。
- 裁判所サイト及び提出先家裁で最新版の書式を確認したか。
- 事件番号,本人及び申立人の氏名・住所を審判書等と照合したか。
- 報告対象期間と報酬を求める期間に重複又は空白がないか。
- 本人の心身・生活状況及び支援者の変化を前回報告と比較したか。
- ①から㉑までの事務と資料番号が対応しているか。
- 本人意思の確認・推定方法及び異なる判断をした理由を記載したか。
- 考慮事情が「ある」場合,原則として事務ごとの別紙を作成したか。
- 事務内容,進捗,本人利益,第三者委任,困難性・労力及び裏付資料を記載したか。
- 既提出資料を重複添付せず,資料番号及び提出日で特定したか。
- 監督人の有無及び提出先家裁の追加書式・終了報告の指示を確認したか。
- 提出用一式の控えを保存したか。
報酬額の目安,全国集計及び助成制度との違いは,別稿「成年後見人等の報酬額の目安――大阪家裁の基準,令和7年全国実績及び申立手続」で整理している。
入院中の本人の受診支援に関する具体例は,「精神科病院入院中の成年被後見人が他科を受診するときの付添い」を参照されたい。
第9 法令・裁判例との関係
民法858条は,本人の意思の尊重及び心身・生活状況への配慮を成年後見人の職務上の原則として定める。
民法862条は,家庭裁判所が後見人及び本人の資力その他の事情により,本人の財産から相当な報酬を与えることができると定める。
ただし,統一書式の各欄及び記載上の注意は,裁判所が後見監督及び報酬付与申立てのために公表した実務資料であり,それ自体が報酬額を拘束する法定の料金表又は裁判例ではない。
東京弁護士会LIBRAの記事は,現行実務を理解する上で有益な実務解説であるが,同記事は特定の裁判例を根拠として引用していない。個別事件で報酬審判,不服申立て,後見人の責任又は意思決定支援の法的評価が争点となる場合は,裁判所ウェブサイト,判例集及び判例秘書等で,その争点に対応する裁判例本文を別途確認する必要がある。
第10 出典
1 法令及び裁判所資料
① e-Gov法令検索・民法858条及び862条
④ 後見等事務報告書(成年後見人・保佐人・補助人用・定期報告)
⑧ 東京家庭裁判所後見センター「後見センターレポートvol.34」
2 実務解説
① 東京弁護士会LIBRA2026年9月号28頁~30頁「成年後見実務の運用と諸問題」
LIBRAの記事は実務解説であり,法令及び裁判所書式に関する記述は,上記の一次資料と照合した。