第1 生命保険契約照会制度の結論
1 制度の役割
生命保険契約照会制度は,家族の死亡又は認知判断能力の低下などにより生命保険契約の手掛かりが失われた場合に,一般社団法人生命保険協会が会員会社へ一括照会し,対象者が契約者又は被保険者となっている契約の有無を回答する制度である。
東日本大震災後に設けられた災害地域生保契約照会制度を平時にも拡張し,令和3年7月1日に開始された。
本稿は令和8年9月10日を調査基準日とし,同日現在の申請要件及び運用状況,令和3年度から令和6年度までの利用実績並びに個別契約で別途確認すべき時効及び税務を扱う。
この制度は,生命保険協会が利用規約に基づいて会員会社へ照会する業界の仕組みである。
契約があるとの回答を受けても,保険金額,受取人,契約の効力又は請求権の有無まで確定するわけではなく,その後に各生命保険会社へ連絡する必要がある。
2 令和8年9月10日現在の重要な運用状況
生命保険協会は,システム上の不備について安全性を確認するため,令和8年7月27日から生命保険契約照会制度のWEB申請を停止している。
令和8年9月10日現在,平時の照会は書面申請を利用することになり,利用料は照会対象者1名につき7000円である。
書面申請は申込みが集中し,通常より時間を要すると案内されている。
WEB申請が再開された場合の利用料は照会対象者1名につき6000円であるが,再開時期を含む最新状況は,生命保険協会の案内で確認する必要がある。
第2 照会できる三つの場面
1 死亡した場合
家族が死亡し,生命保険会社が分からない場合に利用できる。
対象者が契約者又は被保険者である契約の有無が照会され,申請者が死亡保険金等を請求できる可能性があるときは,その旨も回答対象となる。
遺品から保険証券その他の手掛かりが見付かる場合や,契約先と考えられる生命保険会社が分かる場合は,まずその会社へ直接問い合わせるのが原則である。
本制度は契約先が分からない場合の一括照会を補う仕組みであり,既知の契約先への個別照会に代わるものではない。
2 認知判断能力が低下した場合
医師の診断により認知判断能力の低下が認められ,生命保険契約の有無が分からない場合に利用できる。
単に高齢であることや,家族が財産状況を把握したいという事情だけでは足りない。
法定代理人又は任意後見人のほか,一定の条件の下で三親等内の親族や代理人が申請できる。
後見人等がいない者による申請では,生命保険協会の利用規約上,緊急の資金需要があること,より先順位の推定相続人に結果を伝える意思があること,対象者の財産を管理する意思があることなどについて同意が求められる。
3 災害で死亡又は行方不明になった場合
災害救助法が適用された地域で家族等が被災して死亡又は行方不明となり,家屋等の流失又は焼失等により生命保険契約に関する請求が困難となった場合は,災害地域生保契約照会制度を利用できる。
この場合は電話で申し込み,利用料は無料である。
原則として,対象者の配偶者,親,子若しくは兄弟姉妹,又はこれらの法定代理人若しくは任意代理人が申請でき,特段の事情がある場合は生命保険協会がその他の者からの照会を受け付ける。
通常は書類の提出を要せず,生命保険協会は原則として受付日から14営業日以内に書面で回答するとしている。
第3 誰が申請できるか
1 死亡照会の申請者
死亡照会の照会者は,法定相続人,その法定代理人又は任意代理人,遺言執行者,及び遺言執行者の任意代理人である。
共同相続人が複数いる場合は,代表者を定めて申し込むことができる。
現在の申請者要件ページ及び書面手続用手引きでは,任意代理人は弁護士,司法書士又は行政書士に限ると案内されている。
同ページでは,税理士,相続財産清算人(管理人)及び破産管財人からの照会は受け付けないとされている。
一般の知人等が代理人として当然に申し込めるものではないため,代理申請の可否は事前に確認した方がよい。
2 認知判断能力低下時の申請者
法定代理人又は任意後見人がいる場合は,これらの者が申請する。
これらの者がいない場合は,委任を受けた代理人又は三親等内の親族が,一定の条件を満たして申請できる。
対象者に申請の意味を理解して代理権を与える能力があるかは,診断書の内容にも関わる。
本人の意思確認ができる場合には,本人の同意書等も必要となるため,使用する診断書様式と必要書類を申請前に確認する必要がある。
3 申請者の人数
生命保険協会の利用規約上,照会対象者1名について,1回の照会手続で照会できる照会者は最大10名である。
弁護士等の親族ではない代理人が照会手続を行う場合は,照会者の総数は最大9名となる。
回答には申請者ごとに関係する情報が含まれることがある。
共同相続人の代表者が申し込む場合は,実務上,回答の共有方法もあらかじめ決めておくことが望ましい。
第4 調査対象となる契約と対象外の契約
1 調査対象
原則として,照会の受付時点で有効に継続している個人保険契約が対象となる。
死亡照会では,生命保険協会の案内上,死亡日まで最低3年間は遡って調査される。
照会先は生命保険協会の会員会社である。
現在の会員会社は,生命保険協会の会員会社一覧で確認できる。
2 対象外の契約等
既に死亡保険金等が支払われた契約,解約済み又は失効した契約,財形保険,財形年金保険,既に年金の支払が開始した契約,及び保険金等を据え置いているだけの契約は対象外である。
生命保険協会の利用規約は調査対象を個人保険としているため,団体保険は調査対象に含まれない。
本制度は生命保険協会の会員会社へ生命保険契約の有無を照会する仕組みであり,損害保険又は共済を一括照会する制度ではない。
生命保険協会の会員会社ではない事業者との契約が考えられる場合は,その事業者又は別の業界団体等へ個別に確認する必要がある。
3 本制度だけでは分からないこと
回答は原則として契約の有無にとどまり,契約内容,保険金額,保険金受取人,保険料負担者又は具体的な請求手続までは示されない。
該当契約がある場合は,回答に記載された生命保険会社へ連絡し,同社の本人確認及び請求手続を進める必要がある。
生命保険会社間で二重契約の防止等に使われる「契約内容登録制度・契約内容照会制度」と,家族等が行う本稿の生命保険契約照会制度は別の制度である。
名称が似ているため,申請先を取り違えないよう注意する必要がある。
第5 申請前に確認すべき手掛かり
1 自宅及び取引履歴を確認する
本制度の利用前に,次の手掛かりを確認した方が早く契約先へ到達できることがある。
① 保険証券,契約概要,年1回の契約内容通知その他生命保険会社からの郵便物
② 預貯金通帳又はインターネットバンキングに記録された保険料の口座振替
③ 生命保険料控除証明書,確定申告書,源泉徴収関係資料又は勤務先の給与天引き資料
④ 電子メール,スマートフォンのアプリ,パスワード管理記録又は生命保険会社名が入った物品
実務上の資料管理として,見付けた資料の原本は散逸させず,発見場所及び発見日を記録して保管することが望ましい。
死亡直後の手続全体と遺品・郵便物の確認については,「同居の配偶者が死亡した後1週間の手続(AI作成)」も参照されたい。
2 推測できる会社へ直接問い合わせる
契約先と思われる生命保険会社が一社でも分かる場合は,その会社へ直接問い合わせる。
本制度は全ての契約を保証して発見するものではなく,また利用料もかかるため,実務上は手掛かりの確認と一括照会の役割を分けるのが合理的である。
第6 申請方法,必要書類及び費用
1 基準日現在の書面申請
令和8年9月10日現在は,まず書面申請の案内ページから申請書類の郵送を依頼する。
生命保険協会から届いた申請書に記入し,必要書類を添えて郵送すると,審査と会員会社への照会が行われる。
申請書類の郵送依頼は対象者及び申請ごとに行い,届いた用紙をコピーして別の申請に流用しない。
利用料は照会対象者1名につき7000円であり,生命保険協会に責任がある場合を除き,原則として返金されない。
2 死亡照会の主な必要書類
法定相続人が申請する場合は,申請者の本人確認書類,法定相続情報一覧図の写し又は戸籍関係書類,及び対象者の死亡を確認できる死亡診断書,除籍謄本又は住民票除票等が基本となる。
共同相続人の代表として申請する場合は,他の申請者の同意又は委任関係を示す書類も必要となる。
遺言執行者が申請する場合は,本人確認書類,印鑑登録証明書,遺言書及び対象者の死亡を確認できる戸籍関係書類等が必要となる。
個別の事情により追加資料を求められることがあるため,最新の手引きを確認する必要がある。
3 認知判断能力低下時の主な必要書類
認知判断能力の低下を理由とする照会では,生命保険協会所定の診断書が中心的な資料となる。
診断書では,見当識,意思疎通,社会的手続,記憶,脳の萎縮及び認知機能検査等を踏まえ,認知判断能力の状態や代理人を選任する能力の有無が確認される。
これに加えて,申請者の本人確認書類,登記事項証明書,任意後見契約公正証書,戸籍関係書類,委任状又は本人同意書等のうち,申請者の立場に応じた書類が必要となる。
必要書類は申請類型ごとに異なるため,死亡照会と同じ書類一式をそのまま提出できるとは限らない。
4 回答までの期間
利用規約上,必要書類及び利用料がそろった後,原則として14営業日以内に回答するとされている。
調査に時間を要する場合はこの限りではなく,基準日現在は書面申請の集中により通常より時間を要すると案内されている。
5 WEB申請が再開された場合
通常のWEB申請は,利用者登録,必要書類のアップロード,照会対象者1名につき6000円の利用料の支払を経て,マイページで回答を受領する仕組みである。
もっとも,基準日現在は利用できないため,過去の解説だけを見てWEB申請を進めようとせず,必ず生命保険協会の最新案内を確認する必要がある。
第7 回答を受けた後の対応
1 各生命保険会社へ連絡する
契約ありとの回答を受けた場合は,回答に記載された生命保険会社へ連絡する。
各社は改めて本人確認,請求権者の確認及び必要書類の審査を行うため,生命保険協会の回答だけで保険金等が支払われるわけではない。
契約なしとの回答でも,対象外契約,会員会社以外の事業者,損害保険又は生命共済等の可能性は残る。
他の手掛かりがある場合は,その範囲で個別照会を続ける必要がある。
2 請求権者と相続財産を区別する
生命保険金を請求できる者は,契約上の保険金受取人等によって決まる。
生命保険協会への申請者,相続人,遺言執行者及び実際の保険金受取人が常に同一になるわけではない。
死亡保険金が相続財産に含まれるかは,受取人の指定及び具体的な請求権の性質を契約資料に基づいて判断する必要がある。
相続放棄との関係については,「相続放棄をしても受け取れる権利―保険金・年金・退職金の区別(AI作成)」も参照されたい。
3 保険金請求権の消滅時効
保険法95条1項は,保険給付を請求する権利等について,権利を行使することができる時から3年間行使しないときは時効によって消滅すると定めている。
もっとも,同法は原則として平成22年4月1日以後に締結された保険契約に適用されるため,それ以前に締結された契約は旧法及び約款等を確認する必要がある。
生命保険文化センターは,保険金・給付金を請求する権利について,一般に支払事由が発生した日の翌日から3年を経過すると時効により消滅するとの約款規定があるとした上で,3年を経過しても受け取れる可能性があるため契約先の生命保険会社へ確認するよう案内している。
照会制度が過去に遡って調査する範囲と,個別契約の請求権の消滅時効は別の問題である。
照会の回答を待って時効上の対応を遅らせないよう注意する必要がある。
4 税務上の扱いを別に確認する
死亡保険金の課税関係は,被保険者,保険料負担者及び保険金受取人の組合せによって,相続税,所得税又は贈与税のいずれが問題となるかが変わる。
生命保険契約照会制度の回答だけでは課税関係は決まらない。
国税庁は,被相続人が保険料の全部又は一部を負担した死亡保険金について,その負担に対応する部分が相続税の課税対象となると説明している。
また,受取人が相続人である場合,すべての相続人が受け取った対象保険金の合計額について,500万円に法定相続人の数を乗じた額を非課税限度額とし,相続を放棄した者,相続権を失った者及び相続人以外の者が受け取った死亡保険金にはこの非課税を適用しない一方,法定相続人の人数は相続放棄がなかったものとして数えると説明している。
具体的な申告では,契約資料,実際の保険料負担者及びその負担割合並びに支払履歴を確認する必要がある。
第8 利用実績と利用料改定
1 申請件数
生命保険協会の公表資料によれば,申請件数は,制度開始後9か月である令和3年度が2690件,令和4年度が5064件,令和5年度が5621件,令和6年度が7467件であった。
令和6年度の内訳はWEB申請5631件,書面申請1836件である。
令和3年度から令和5年度までの累計1万3375件のうち,死亡による照会が1万2693件であり,9割を超えていた。
認知判断能力の低下による照会は同期間に682件であった。
2 数値から分かることと分からないこと
申請件数の増加及び運営費用の増加を理由として,令和8年4月1日から,従来3000円であった平時利用の利用料は,照会対象者1名につきWEB申請6000円,書面申請7000円へ改定された。
災害時利用は,この改定後も無料である。
これらの数値は制度の利用件数を示すが,契約が発見された割合,未請求保険金の件数又は金額を示すものではない。
申請件数だけから,未請求保険金の規模や制度の発見率を推定することはできない。
第9 令和8年7月公表のシステム事案
生命保険協会は令和8年7月29日,一部のシステム利用者情報が,外部から特定の操作を行うことで閲覧可能な状態となっていたことを確認した旨の第1報を公表した。
対象となる可能性のある情報は,氏名,住所,電話番号及びメールアドレスであり,対象人数は「利用者ベースで約3万7000件となる可能性」があるとされた。
この対象には,システムを利用する生命保険協会の会員生命保険会社の担当者情報も含まれる。
同日の公表では,実際の不正取得及び不正利用の有無は調査中とされ,関係する被害申告又は不正利用は確認されていないとされた。
また,当時確認された閲覧可能情報には,生命保険会社名,契約内容,保険金額及び保険料振替口座は含まれていないと説明されている。
したがって,第1報だけから「対象となる可能性がある約3万7000件の利用者情報が全て第三者に取得された」又は「保険契約情報が流出した」と断定するのは正確ではない。
他方で,一部の利用者情報が閲覧可能な状態であったこと自体は確認されており,申請者は生命保険協会の続報及びWEB申請の再開条件を確認する必要がある。
第10 実務上のチェックリスト
① 照会対象者と申請者を特定し,死亡,認知判断能力の低下又は災害のいずれの類型かを決める。
② 保険証券,郵便物,預貯金口座,税務資料,勤務先資料,電子メール及びアプリを確認する。
③ 判明した生命保険会社には直接問い合わせ,本制度で一括照会する必要性を検討する。
④ 戸籍関係書類,死亡確認資料,代理権資料又は所定診断書等を申請者の立場に合わせて準備する。
⑤ 申請直前に,WEB申請の利用可否,書面申請の所要期間及び利用料を公式ページで確認する。
⑥ 回答された契約の有無と,保険金請求権者,請求の可否,相続財産性及び課税関係を分けて検討する。
⑦ 契約ありとの回答を受けたら,速やかに各生命保険会社へ連絡する。
⑧ 契約なしとの回答でも,対象外契約,損害保険,生命共済又は会員会社以外の事業者の可能性を検討する。
⑨ 消滅時効を意識し,回答待ちを理由に個別会社への相談を遅らせない。
第11 出典
1 法令
① 保険法95条1項,附則1条及び2条(令和8年9月10日閲覧)
2 生命保険協会の利用規約
① 一般社団法人生命保険協会「生命保険契約照会制度利用規約」(令和7年5月23日改正,令和8年4月1日施行,PDF1頁~6頁)
3 生命保険協会の運用案内・公表資料
① 一般社団法人生命保険協会「生命保険契約照会制度のご案内」(令和8年9月10日確認)
② 一般社団法人生命保険協会「生命保険契約照会制度(書面による申込み)」(令和8年9月10日確認)
③ 一般社団法人生命保険協会「生命保険契約照会制度(災害時利用)のご案内」(令和8年9月10日確認)
④ 一般社団法人生命保険協会「同意事項・照会者要件の確認(平時利用,照会対象者の死亡)」(令和8年9月10日確認)
⑤ 一般社団法人生命保険協会「同意事項・照会者要件の確認(平時利用,照会対象者の認知判断能力の低下)」(令和8年9月10日確認)
⑥ 一般社団法人生命保険協会「生命保険契約照会制度 ご利用の手引き(書面手続用)」(令和8年9月10日取得,冊子1頁,10頁,18頁,27頁,30頁,31頁及び35頁,対応するPDF2頁,11頁,19頁,28頁,31頁,32頁及び36頁)
⑦ 一般社団法人生命保険協会「会員会社一覧」(令和8年4月13日現在,令和8年9月10日確認)
⑧ 一般社団法人生命保険協会「生命保険契約照会制度の利用料金改定」(令和7年6月4日,PDF1頁~2頁)
⑨ 一般社団法人生命保険協会「生命保険契約照会システムにおける情報漏えい等に関するお知らせとお詫びについて(第一報)」(令和8年7月29日,PDF1頁~2頁)
⑩ 一般社団法人生命保険協会「生命保険契約照会制度を創設します」(令和3年6月11日)
⑪ 一般社団法人生命保険協会「「契約内容登録制度・契約内容照会制度」について」(令和8年9月10日確認)
4 行政機関の解説
① 国税庁「No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金」(令和8年4月1日現在法令等,令和8年9月10日確認)
② 国税庁「No.1750 死亡保険金を受け取ったとき」(令和8年4月1日現在法令等,令和8年9月10日確認)
5 独立行政法人・専門機関等の解説
① 宇田川俊秀「第69回 生命保険契約照会制度」『国民生活』2024年7月号22頁~23頁(独立行政法人国民生活センター掲載,旧利用料3000円の記載は現行情報として不採用)
② 公益財団法人生命保険文化センター「家族がどこの生命保険会社と契約しているか調べる方法はありますか」(令和8年9月10日確認)
③ 公益財団法人生命保険文化センター「死亡保険金はどのようにして受け取る?」(令和8年9月10日確認)
6 関連記事
① 山中理司「相続放棄をしても受け取れる権利―保険金・年金・退職金の区別(AI作成)」(令和8年8月31日)
② 山中理司「同居の配偶者が死亡した後1週間の手続-相続人の全チェックリスト(AI作成)」(令和8年9月8日)