第1 この記事の対象と結論
1 二つの冊に同じ理由が載り,収録範囲だけが違う
国の決算で「なぜその予算が使われなかったのか」という理由の文章を読める資料は,財務省の予算書・決算書データベースに二つある。
一つは決算の本体である「一般会計歳入歳出決算」であり,もう一つはその添付書類を綴った「一般会計決算参照」である。
この二つは,同じ不用額の理由を載せながら,収録する範囲が大きく違う。
令和6年度でいえば,歳入歳出決算に載っている不用額の理由は232件であり,決算参照に載っているそれは634件である。
歳入歳出決算には「このうち、1項5億円以上のものについて」という限定が本文に書かれている。
決算参照には,そのような限定の記載がない。
さらに,財政法が唯一「理由を記載しなければならない」と命じている移用及び流用の理由は,歳入歳出決算には1件も載っておらず,決算参照にしかない。
したがって,歳入歳出決算だけを見て「国は理由を説明していない」と判断してはならない。
他方で,繰越しの事由は,法令上は書面の作成が義務づけられているのに,どちらの冊にも載っていない。
2 調査の基準日,対象期間及び適用時点
この記事は,令和8年9月7日を調査の基準日として作成した。
資料の対象期間は,令和2年度から令和6年度までの一般会計の決算である。
令和7年度の決算は,本記事の作成時点で公表されていない。
法令は,同日現在のe-Gov法令検索で確認した現行の財政法及び予算決算及び会計令による。
本記事は,決算書の原本PDFを機械で読み取り,決算CSVと突き合わせて作成したものであり,作成には人工知能を用いている。
3 この記事が扱わない範囲
対象は一般会計に限る。
特別会計及び政府関係機関の決算は,同じ体系の冊が別に用意されているが,本記事では確認していない。
裁判所の予算がどのように編成されるかについては,裁判所の予算は誰が決めているのか――二重予算制度と,令和2年度から令和8年度まで附記が0件だったことで扱っている。
本記事は,その先の段階である決算の読み方を対象とする。
本記事が扱うのは,二つの冊に理由がどう載るかである。
決算の欄そのものがどう組まれているかは決算はどの欄でできているか――9つの欄と2本の恒等式で,概算要求書から決算検査報告までの数値の取得先の使い分けは予算・決算の数値をどこから取るか-概算要求書,予算書,各目明細書,決算書及び決算検査報告の使い分けで,それぞれ扱っている。
第2 冊は二つあり,作成者が違う
1 一般会計歳入歳出決算
財政法第38条第1項は,「財務大臣は、歳入決算明細書及び歳出の決算報告書に基いて、歳入歳出の決算を作成しなければならない」と定めている。
これが決算の本体であり,作成者は財務大臣である。
令和6年度版は117頁で,構成は,歳入歳出決算の総額,歳入歳出決算説明及び歳入歳出決算及び各事項の計算の三部である。
科目の粒度は所管・組織・項までであり,目には下りない。
2 一般会計決算参照
こちらは,決算に添付される書類を一冊にまとめたものである。
財政法第40条第2項は,「前項の歳入歳出決算には、会計検査院の検査報告の外、歳入決算明細書、各省各庁の歳出決算報告書及び継続費決算報告書並びに国の債務に関する計算書を添附する」と定めている。
令和6年度版は915頁で,そのうち各省各庁歳出決算報告書が刷り61頁から822頁までを占め,裁判所所管は刷り81頁から88頁までである。
科目の粒度は所管・組織・項・目まで下りる。
3 裁判所所管の歳出決算報告書を作るのは最高裁判所長官である
歳出決算報告書の作成者は,財政法第37条第1項により各省各庁の長である。
同項は「毎会計年度、財務大臣の定めるところにより、その所掌に係る歳入及び歳出の決算報告書並びに国の債務に関する計算書を作製し、これを財務大臣に送付しなければならない」と規定する。
「各省各庁の長」の意味は,財政法第20条第2項の括弧書きが定めている。
そこには「衆議院議長、参議院議長、最高裁判所長官、会計検査院長並びに内閣総理大臣及び各省大臣(以下各省各庁の長という。)」とあり,予算決算及び会計令第1条第1号がこれを引いている。
したがって,決算参照に綴られている裁判所所管の歳出決算報告書は,最高裁判所長官が作ったものである。
歳入歳出決算を作るのは財務大臣である。
同じ不用額について,裁判所自身が書いた説明と,財務省が編集した説明の二つが存在することになる。
4 二つの冊の対照
以下の対照は,令和6年度版によるものである。
| 項目 | 一般会計歳入歳出決算 | 一般会計決算参照 |
|---|---|---|
| 位置付け | 決算の本体 | 決算への添付書類 |
| 作成者 | 財務大臣(財政法第38条第1項) | 各省各庁の長(同第37条第1項) |
| 頁数 | 117頁 | 915頁 |
| 科目の粒度 | 所管・組織・項 | 所管・組織・項・目 |
| 不用額の理由 | 232件 | 634件 |
| 移用・流用の理由 | なし | 139件・10件 |
第3 不用額の理由-歳入歳出決算は5億円,決算参照は約1,000万円
1 歳入歳出決算は掲載の基準を本文に書いている
歳入歳出決算の「第2 歳出」の「(5) 予算不用」は,次の文で始まる。
歳出予算の不用額は4,310,985,285,824円であって、このうち、1項5億円以上のものについて所管別、組織別及び項別の不用額及び不用理由を示せば、下表のとおりである。
読点の形を除き,この文言は令和2年度から令和6年度まで同一である。
掲載の基準は推測する必要がなく,資料自身が宣言している。
実際に掲載された最小額も,五年度とも5億円をわずかに超えたところで切れている。
| 年度 | 歳出予算の不用額 | 掲載された最小額 | 該当頁(刷り) |
|---|---|---|---|
| 令和2年度 | 3,888,040,581,644円 | 501,172,902円 | 30頁~45頁 |
| 令和3年度 | 6,302,866,236,186円 | 500,850,896円 | 34頁~50頁 |
| 令和4年度 | 11,308,466,648,134円 | 500,491,695円 | 34頁~49頁 |
| 令和5年度 | 6,891,098,529,078円 | 501,674,613円 | 35頁~49頁 |
| 令和6年度 | 4,310,985,285,824円 | 504,339,290円 | 35頁~51頁 |
この表の件数は,決算参照の科目別内訳CSVで検算できる。
所管・組織・項の三つ組で不用額を集計すると,5億円以上の項は令和6年度で234件,令和2年度で244件あり,そこから予備費の項を除くと232件と242件になる。
歳入歳出決算の表に現れる金額の集合と突き合わせたところ,令和6年度は234件中230件,令和2年度は244件中240件が一致し,一致しなかったものはいずれも予備費の項と,PDFの文字抽出で隣接する数値が連結したものであった。
予備費の項には不用額の理由が書かれない。
2 決算参照に掲載の基準の記載はない
決算参照の巻末には「(参考) コード番号について」及び「決算書情報について」があるが,備考欄に何をどこまで書くかの説明はない。
そこで,令和2年度から令和6年度までの五年度について,決算参照の「不用額を生じたのは」という定型句の出現数と,決算CSVから作った項別不用額の分布を突き合わせた。
| 年度 | 不用額1,000万円以上の項(予備費及び予備経費の項を除く) | 決算参照の理由の件数 | 差 |
|---|---|---|---|
| 令和2年度 | 614件 | 628件 | 14件 |
| 令和3年度 | 630件 | 646件 | 16件 |
| 令和4年度 | 633件 | 643件 | 10件 |
| 令和5年度 | 645件 | 656件 | 11件 |
| 令和6年度 | 634件 | 634件 | 0件 |
令和6年度は両者が完全に一致する。
また,決算参照の項の行を一行ずつ拾えた範囲では,理由が付いていない項の最大額は,五年度とも1,000万円に届かなかった(9,120,198円から9,972,840円までの範囲である)。
したがって,決算参照には1,000万円前後の事実上の下限があると考えられる。
もっとも,1,000万円以上のすべての項に例外なく理由が付くことまでは確認できていない。
件数が近いことは,二つの集合が一致することを意味しないからである。
3 件数では2.7倍だが,金額では1.2ポイントしか違わない
ここが読み方の勘所である。
令和6年度の一般会計の不用額4,310,985,285,824円のうち,歳入歳出決算が理由を付けている232項の合計は3,944,391,881,940円で,全体の91.5パーセントを占める。
決算参照が理由を付けている分は3,995,425,555,217円で,全体の92.7パーセントである。
金額で見れば,二つの冊の差は1.2ポイントにすぎない。
ところが件数では232件対634件で,決算参照は歳入歳出決算の2.7倍を載せている。
歳入歳出決算が落としているのは,金額は小さいが制度の実態がよく分かる項である。
金額の大きい不用は,「契約価格が予定を下回ったこと」「業務内容の見直しによる業務計画の変更をしたこと」といった定型句で説明されることが多い。
これに対し,小さい不用の側に,その官庁が何をどれだけ行ったのかが具体的に書かれていることがある。
なお,令和6年度は予備費の項の不用額が315,032,254,000円あり,全体の7.3パーセントを占めるが,この分にはどちらの冊にも理由が書かれない。
令和2年度は予備費の項の不用額が724,083,219,000円で,全体の18.6パーセントに達する。
4 裁判所所管で実際に何が起きたか
令和2年度から令和6年度までの五年度について,二つの冊から裁判所所管の不用額の理由を機械で拾い,突き合わせた。
歳入歳出決算に載っている裁判所所管の理由は,五年度とも4件である。
その20件は,すべて決算参照に一字一句同じ文で載っている。
決算参照は,それに「不用額を生じたのは、」を冠しているだけである。
つまり歳入歳出決算にしかない理由というものはなく,差は決算参照の側にしかない。
これは,財政法第38条第1項の作りからみて自然である。
同項は,歳入歳出決算を「歳入決算明細書及び歳出の決算報告書に基いて」作成すると定めている。
決算参照に綴られる決算報告書が先にあり,歳入歳出決算はそこから編集されるのであるから,前者にない理由が後者に現れることはない。
その差が,検察審査費である。
| 年度 | 検察審査費の不用額 | 歳入歳出決算 | 決算参照 |
|---|---|---|---|
| 令和2年度 | 74,046,675円 | 掲載なし | 掲載あり |
| 令和3年度 | 43,003,039円 | 掲載なし | 掲載あり |
| 令和4年度 | 33,378,956円 | 掲載なし | 掲載あり |
| 令和5年度 | 30,079,149円 | 掲載なし | 掲載あり |
| 令和6年度 | 8,269,917円 | 掲載なし | 掲載なし |
令和2年度の理由は次のとおりである。
不用額を生じたのは、検察審査会議の開催回数が予定を下回ったこと等により、検察審査員旅費を要することが少なかったこと等のため
令和3年度から令和5年度までは,「開催回数」ではなく「検察審査会議に係る支給額が予定を下回ったこと等により」となっている。
検察審査会議が予定より開かれなかった,あるいは予定より支給が少なかったという国自身の記述が,四年度にわたって,決算の本体には一度も載っていない。
令和6年度は検察審査費の不用額が8,269,917円と1,000万円を割り,決算参照からも消えた。
同じ所管でも,年度によって二つの冊の差が出たり出なかったりする。
検察審査会に対する審査申立ての手続については,交通事故事件における検察審査会への審査申立て――申立適格,申立書の記載事項,公訴時効及び裁判例で扱っている。
なお,項である裁判所予備経費は,五年度ともどちらの冊にも理由が載っていない。
令和5年度は8,000,000円,令和6年度は3,328,267円で,いずれも1,000万円未満である。
1,000万円未満だから落ちたのか,予備金の項だから落ちたのかは,本記事では区別できていない。
第4 法律が唯一「理由を書け」と命じたものは,歳入歳出決算にない
1 財政法第33条第4項
財政法第33条は,各省各庁の長が,部局等の間及び各項の間で経費を融通すること(移用)と,各目の間で融通すること(流用)を原則として禁じ,財務大臣の承認を条件として認めている。
そのうえで,同条第4項は次のように定める。
第一項但書又は第二項の規定により移用又は流用した経費の金額については、歳入歳出の決算報告書において、これを明らかにするとともに、その理由を記載しなければならない。
ここで名宛てとされている「歳入歳出の決算報告書」は,財政法第37条第1項により各省各庁の長が作る書類,すなわち決算参照に綴られているものである。
歳入歳出決算ではない。
2 実際に決算参照にしかない
令和2年度から令和6年度までの歳入歳出決算を通しで検索したところ,「円流用」「円移用」という形の記載は五年度とも0件であった。
「流用」の語は現れるが,それはすべて各頁の表の列見出しである「流用等増△減額(円)」としてであり,理由の文章ではない。
これに対し,決算参照の記載件数は次のとおりである。
| 年度 | 流用の理由 | 移用の理由 |
|---|---|---|
| 令和2年度 | 114件 | 12件 |
| 令和3年度 | 121件 | 10件 |
| 令和4年度 | 143件 | 0件 |
| 令和5年度 | 169件 | 2件 |
| 令和6年度 | 139件 | 10件 |
移用が1件もない年度がある。
法律が書けと命じた唯一の理由が,決算の本体には載っていないことになる。
裏返せば,歳入歳出決算に載っている不用額の理由の方は,法律が命じたものではない。
財政法第38条第2項が歳入歳出決算に明らかにせよと列挙するのは,歳出については①歳出予算額②前年度繰越額③予備費使用額④流用等増減額⑤支出済歳出額⑥翌年度繰越額⑦不用額の七項目であり,すべて金額であって,理由は入っていない。
3 裁判所所管の流用の理由
令和6年度の決算参照から拾うと,裁判所所管の流用の理由は次の3件である。
①修習資金の貸与を受けた司法修習生が増加したため(目)庁費から78,700,000円流用
②省庁別宿舎の解体撤去に要する経費が増加したため(目)法廷等器具整備費から46,761,000円流用
③被服費が高騰したため(目)庁費から3,934,000円流用
令和2年度は次の4件である。
①障害補償年金等に不足を生じたため(目)国家公務員共済組合負担金から22,813,000円流用
②赴任旅費の支給額が増加したため(目)職員旅費から40,652,000円流用
③支給対象児童が増加したため(目)職員基本給から4,950,000円流用
④召喚状等の送達件数が増加したため(目)委員等旅費から3,452,000円流用
修習資金の貸与を受けた司法修習生が増えたこと,召喚状の送達件数が増えたことは,いずれも司法の運用そのものである。
これらは決算参照を開かなければ読めない。
修習資金の貸与制及び修習給付金の沿革については,司法修習制度の改正経緯―統一修習,修習期間,給費制・貸与制・修習給付金で扱っている。
なお,理由は増額される側の目の備考に記載され,減額される側には記載されない。
第5 繰越しの事由は,どちらの冊にもない
1 法令は繰越計算書に事由の記載を求めている
財政法第43条第1項は,繰越明許費(同法第14条の3第1項)と事故繰越(同法第42条ただし書)について,次のように定める。
各省各庁の長は、第十四条の三第一項又は前条但書の規定による繰越を必要とするときは、繰越計算書を作製し、事項ごとに、その事由及び金額を明らかにして、財務大臣の承認を経なければならない。
予算決算及び会計令第24条第2項第5号も,繰越計算書に示すべき事項として「第一号の経費についての事項ごとの繰越しを必要とする理由及び金額その他参考となるべき事項」を挙げている。
2 しかし決算には綴られていない
歳入歳出決算の「(4) 翌年度繰越」は,財政法第14条の3第1項の明許繰越,第42条ただし書の事故繰越及び第43条の2第1項の継続費の逓次繰越を別々の表に分けて,所管・組織・項ごとの金額だけを並べている。
この節に「理由」の語も「ため」の語も,五年度とも1件も現れない。
決算参照の備考も「翌年度繰越額の内訳 明許繰越額25,894,428,345円」という形の内訳であって,事由ではない。
令和2年度の裁判所所管であれば「明許繰越額9,477,919,125円 事故繰越額1,466,776,000円」と,明許繰越と事故繰越の別までは分かる。
しかし,なぜ繰り越したのかは書かれていない。
繰越計算書そのものも,二つの冊に綴られていない。
五年度の両方の冊について「繰越計算書」「繰越しを必要とする理由」「繰越理由」「繰り越したのは」を検索したが,いずれも0件であった。
同じ方法で,実際に決算参照に綴られている「継続費決算報告書」を検索すると各年度5件から6件が拾えるので,この0件は文字抽出の失敗によるものではない。
3 条文の構造どおりである
決算に載らないのは,条文の作りからみて自然である。
財政法第43条第1項の繰越計算書は,財務大臣の承認を得るための書類であって,公表も国会への提出も求められていない。
同条第3項の事後の通知は「各省各庁の長は、前項の規定による繰越をしたときは、事項ごとに、その金額を明らかにして、財務大臣及び会計検査院に通知しなければならない」であり,第1項の「その事由及び金額」から事由が落ちている。
予算決算及び会計令第25条の2第2項が通知に明らかにすべきとする四項目も,すべて金額である。
つまり,事由が必要とされるのは承認の段階だけであって,事後の通知にも公表にも必要とされていない。
繰越しの事由を確認する必要がある場合は,決算ではなく,情報公開請求,会計検査院の資料又は国会の決算審査の会議録に当たることになる。
行政機関に対する情報公開請求の手続は,行政機関等に対する情報公開請求の基礎——対象外の書類,審査会,情報公開訴訟,公文書管理法で扱っている。
4 予備費は第三の冊にある
予備費については,財政法第35条第2項が「各省各庁の長は、予備費の使用を必要と認めるときは、理由、金額及び積算の基礎を明らかにした調書を作製し、これを財務大臣に送付しなければならない」と定め,同法第36条第3項が総調書及び各省各庁の調書を国会に提出させている。
これが「予備費使用総調書及び各省各庁所管使用調書」という第三の冊であり,同じデータベースの当該年度のページに置かれている。
もっとも,裁判所所管には,令和2年度から令和6年度まで予備費の使用実績がない。
決算CSVの予備費使用額の列は,裁判所所管の行が五年度とも全件0である。
令和6年度の予備費使用総調書に「最高裁判所」の語は7回現れるが,いずれも「衆議院議員総選挙及び最高裁判所裁判官国民審査に必要な経費」等であり,所管は総務省,法務省又は外務省である。
項である裁判所予備経費は,財政法第35条の予備費ではなく,裁判所法第83条第2項の予備金であるから,混同しないほうがよい。
5 もっとも,予算の段階には事由の欄がある
繰越しの事由が読めないのは,決算の話である。
予算の側には,事由の欄がある。
この欄は,様式上の便宜ではなく,法令が求めているものである。
予算決算及び会計令第11条第3項は,財政法第20条第2項の規定による繰越明許費要求書について,「繰越明許費について、歳出予算に定める部局等ごとの区分に従い、事項ごとにその必要の理由を明らかにするとともに、繰越を必要とする経費の項の名称を示さなければならない」と定めている。
予算に添付される丙号の繰越明許費要求書は,事項ごとに「計画」「設計」「気象」「用地」「補償処理」「資材入手」の六つの欄を設け,該当するものに〇を付す様式である。
同要求書の注は,「事由の欄に掲げる「計画」とは、計画に関する諸条件をいい、「設計」とは、設計に関する諸条件をいい、「気象」とは、気象の関係をいい、「用地」とは、用地の関係をいい、「補償処理」とは、補償処理の困難をいい、「資材入手」とは、資材の入手難をいい、それぞれ該当するものに〇印を付している。」と定める。
この六つに当たらないものは,「左記以外の事由」の欄に文で書く。
令和8年度一般会計予算の裁判所所管(刷り303頁)には,最高裁判所の情報処理業務庁費,下級裁判所の国有財産管理処分庁費及び法廷等器具整備費,検察審査費の情報処理業務庁費,裁判費の裁判庁費並びに裁判所施設費が掲げられ,それぞれ該当する欄に〇が付されている。
そして,最高裁判所の退職手当(定年引上げに伴う勤務意思確認の翌年度以降に係る定年退職年度前の退職手当に限る。)については,「左記以外の事由」の欄に「勤務意思の変更」と書かれている。
したがって,繰越しについて資料から分かるのは,予算を組む段階で見込まれた事由の類型までである。
その年度に実際に繰り越した個々の経費が,どの事由によったのかは,決算からは分からない。
第6 歳入の増減理由も粒度が違う
粒度の差は歳出だけの話ではない。
歳入歳出決算の「第1 歳入」は,収納済歳入額を性質(部)別に区分して「主な増減理由」を付けている。
租税及印紙収入,官業益金及官業収入,政府資産整理収入,雑収入,公債金及び前年度剰余金受入という大きなくくりである。
これに対し,決算参照の歳入決算明細書には,主管別に「部・款・項・目別区分及び各目の増減理由」という表があり,目のレベルで理由が書かれている。
裁判所主管でいえば,修習資金貸与金償還金について「繰上返還があったこと等のため」,没収金について「供託に係る保証金の没取金が予定より多かったこと等のため」といった記載である。
歳入についても,細かい理由は決算参照にしかない。
第7 収録範囲の差を定めた規範は辿れない
1 法律は理由の記載をほとんど求めていない
財政法が理由の記載を義務づけているのは,移用・流用(第33条第4項),繰越計算書(第43条第1項)及び予備費使用の調書(第35条第2項)だけである。
歳入歳出決算の「1項5億円以上」という掲載の基準にも,決算参照の1,000万円前後という運用にも,法令上の根拠はない。
2 歳入歳出決算は自分で範囲を宣言している
もっとも,歳入歳出決算については「範囲が分からない」という問題は生じない。
法令に根拠がないだけであって,決算書が自分の本文で範囲を宣言しているからである。
3 辿れないのは決算参照の側である
決算参照の1,000万円前後という運用は,決算参照のどこにも書かれていない。
予算決算及び会計令には,書類の様式等について二つの委任規定がある。
第142条は「前条の計算証明書類を除く外、この勅令に規定する書類の様式は、財務大臣がこれを定める」と規定し,第143条は「この勅令に定めるものの外、収入、支出その他国の会計経理に関し必要な規定は、財務大臣がこれを定める」と規定する。
同令には,様式も別表も添付されていない。
もっとも,第142条が委任しているのは「様式」であって,どこまでを掲載するかではない。
掲載の範囲が様式に含まれるかどうかは,本記事では確認できていない。
したがって,決算参照の運用の根拠を第142条に求めることは,本記事ではしない。
4 言えるのはここまでである
二つの冊の収録範囲の差を定めた規範は,e-Gov法令検索の法律2,104件,政令・勅令2,377件及び府省令・規則4,514件の法令名を機械で走査した範囲と,一般のウェブ検索の範囲では見当たらなかった。
ただし,これは存在しないことの証明ではない。
公表されていないのは,公表を義務づける規定がないからであって,定めがないからではない,と考えるのが素直である。
訓令又は通達の形で存在し,情報公開請求によって初めて確認できるという可能性が残るから,「外部からは確認できない」と書くことはできない。
なお,同じところで止まるのは本記事の問いだけではない。
決算の欄立てそのものを基礎付ける定めも,予算決算及び会計令第142条の委任先に到達できないところで止まっている(決算はどの欄でできているか――9つの欄と2本の恒等式)。
様式に関する財務大臣の定めが公表されていないために,別々の問いが同じ場所で止まっていることになる。
第8 実務的な探し方
1 決算参照を「理由」で全文検索してはならない
これが最大の落とし穴である。
決算参照の各省各庁歳出決算報告書の中に,「理由」という語は1回も現れない。
「事由」も現れない。
備考欄は,すべて「~のため」という文の形で書かれているからである。
これは令和2年度から令和6年度まで共通しており,該当部分の頁数は令和2年度が689頁,令和3年度が722頁,令和4年度が734頁,令和5年度が746頁,令和6年度が738頁である。
歳入歳出決算には「不用理由」という列見出しがあるので「理由」で当たるが,決算参照はまったく当たらない。
「理由が書かれていないから存在しない」と読み誤る典型がここにある。
2 決算参照で使う検索語
したがって,決算参照を引くときは次の語を使う。
①不用額の理由は「不用額を生じたのは」(令和6年度で634件)
②流用及び移用の理由は「円流用」「円移用」
③繰越しの内訳は「翌年度繰越額の内訳」(令和6年度で97件)
④歳入の増減理由は「部・款・項・目別区分及び各目の増減理由」
3 資料の取得経路
(1) 年度別アーカイブ
年度別アーカイブの実体URLはhttps://www.bb.mof.go.jp/archive/reiwa6.htmlの形であり,元号と年度の数字を替えれば昭和22年度以降のすべての年度に到達する。
素のHTMLであるから機械でも取得できる。
(2) 直接のリンク
年度の西暦をNとすると,歳入歳出決算はhttps://www.bb.mof.go.jp/server/N/dlpdf/DLN72001.pdf,決算参照はhttps://www.bb.mof.go.jp/server/N/dlpdf/DLN77001.pdfである。
令和6年度であれば2024を入れる。
DL番号の中2桁が資料の種別を表し,72が歳入歳出決算,77が決算参照である。
(3) 語句検索
同じデータベースに,冊子と年度をまたいだ全文検索がある。
決算参照の巻末の「決算書情報について」によれば,昭和44年度以降が対象である。
(4) CSV
決算参照の科目別内訳はhttps://www.bb.mof.go.jp/server/N/csv/DLN77001.zipでCSVでも取得できる。
ただし,このCSVに備考欄はない。
金額の検算はCSVででき,理由の文章はPDFにしかない,という分担になる。
4 決算が公表される時期
令和6年度の決算は,令和7年11月18日に国会へ提出された。
決算は当該年度のアーカイブページに載るのであって,翌年度ではない。
したがって,直近の年度の決算は,その年の11月頃まで存在しない。
第9 実務上の意味と,本記事で確認できなかったこと
1 実務上の意味
官庁の予算の執行を検討するときに,歳入歳出決算だけを見て「国は理由を説明していない」と書くことは危うい。
不用額が5億円に満たなければ,歳入歳出決算には最初から載らない仕様だからである。
裁判所又は検察庁の予算の使い方を検討するときに,目と目の間で資金がどう動いたかは,決算参照の備考欄にしか出ていない。
しかもそれは,財政法第33条第4項が記載を義務づけている,法律上の根拠のある説明である。
繰越しについて「なぜ使い切れなかったのか」を決算から詰めることはできない。
金額の整合性はCSVで機械的に検算できるが,理由の文章はPDFにしかないので,両方を突き合わせて初めて,その不用額がその説明で足りているかを判断できる。
2 本記事で確認できなかったこと
第一に,決算参照の1,000万円前後という運用の根拠となる文書を確認できていない。
訓令,通達又は会計法及び予算決算及び会計令の逐条解説に記載されている可能性があるが,いずれも確認していない。
第二に,決算参照で理由が付いている項の集合と,不用額が1,000万円以上の項の集合が一致するかを確認できていない。
両者の件数の差は,令和6年度が0件,他の年度が10件から16件である。
金額の文字列で全項を突き合わせる方法を試したが,同じ金額が事項別内訳の欄にも現れるため,既知の該当しない例を該当すると誤って判定したので採用しなかった。
第三に,歳入歳出決算の理由の20件がすべて決算参照にあることを確認したのは,裁判所所管についてだけである。
全所管については,件数の関係を確認したにとどまる。
第四に,会計検査院の年度別の決算検査報告に裁判所所管が掲記された事例の有無を確認していない。
会計検査院法第30条の3に基づく報告として,参議院決算委員会が平成24年9月3日に要請した「裁判所における会計経理等に関する会計検査の結果について」があり,その対象三項目の一つが検察審査会の公費支出であるが,指摘の内容は確認していない。
出典
法令
①財政法(昭和22年法律第34号)第6条,第14条の3,第20条,第31条,第33条,第35条,第36条,第37条から第43条の3まで e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000034)
②予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号)第1条,第11条,第14条,第17条,第20条,第24条,第25条の2,第141条,第142条,第143条 e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/322IO0000000165)
③裁判所法(昭和22年法律第59号)第83条 e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000059)
④会計検査院法(昭和22年法律第73号)第30条の3 e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000073)
決算書(財務省予算書・決算書データベース)
①令和6年度一般会計歳入歳出決算(第219回国会提出,117頁) 財務省(https://www.bb.mof.go.jp/server/2024/dlpdf/DL202472001.pdf)
②令和6年度一般会計決算参照(第219回国会提出,915頁) 財務省(https://www.bb.mof.go.jp/server/2024/dlpdf/DL202477001.pdf)
③令和2年度一般会計歳入歳出決算(106頁) 財務省(https://www.bb.mof.go.jp/server/2020/dlpdf/DL202072001.pdf)
④令和2年度一般会計決算参照(862頁) 財務省(https://www.bb.mof.go.jp/server/2020/dlpdf/DL202077001.pdf)
⑤令和3年度一般会計歳入歳出決算及び同決算参照 財務省(https://www.bb.mof.go.jp/server/2021/dlpdf/DL202172001.pdf,https://www.bb.mof.go.jp/server/2021/dlpdf/DL202177001.pdf)
⑥令和4年度一般会計歳入歳出決算及び同決算参照 財務省(https://www.bb.mof.go.jp/server/2022/dlpdf/DL202272001.pdf,https://www.bb.mof.go.jp/server/2022/dlpdf/DL202277001.pdf)
⑦令和5年度一般会計歳入歳出決算及び同決算参照 財務省(https://www.bb.mof.go.jp/server/2023/dlpdf/DL202372001.pdf,https://www.bb.mof.go.jp/server/2023/dlpdf/DL202377001.pdf)
⑧令和6年度一般会計予備費使用総調書及び各省各庁所管使用調書 財務省(https://www.bb.mof.go.jp/server/2024/dlpdf/DL2024e1012.pdf)
⑨令和6年度一般会計歳入決算明細書及び歳出決算報告書(科目別内訳)CSV版 財務省(https://www.bb.mof.go.jp/server/2024/csv/DL202477001.zip)
⑩令和6年度予算書・決算書関連情報 財務省予算書・決算書データベース(https://www.bb.mof.go.jp/archive/reiwa6.html)
⑪令和8年度一般会計予算(丙号 繰越明許費要求書。裁判所所管は刷り303頁) 財務省(https://www.bb.mof.go.jp/server/2026/dlpdf/DL202611001.pdf)
⑫予算書・決算書データベース 語句検索 財務省(https://www.bb.mof.go.jp/YDS/search/YDSG010)
会計検査院
①裁判所における会計経理等に関する会計検査の結果について(会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書,参議院決算委員会の平成24年9月3日の要請による) 会計検査院(https://report.jbaudit.go.jp/org/h24/YOUSEI1/2012-h24-Y1000-0.htm)
②会計検査院検査報告データベース 全文/インデックス検索 会計検査院(https://report.jbaudit.go.jp/search.php)
関連記事
①裁判所の予算は誰が決めているのか――二重予算制度と,令和2年度から令和8年度まで附記が0件だったこと
②交通事故事件における検察審査会への審査申立て――申立適格,申立書の記載事項,公訴時効及び裁判例
③司法修習制度の改正経緯―統一修習,修習期間,給費制・貸与制・修習給付金
④行政機関等に対する情報公開請求の基礎——対象外の書類,審査会,情報公開訴訟,公文書管理法
⑤裁判所の会計執務資料の三部作の解説
⑥決算はどの欄でできているか――9つの欄と2本の恒等式
⑦予算・決算の数値をどこから取るか-概算要求書,予算書,各目明細書,決算書及び決算検査報告の使い分け