目次
- 第1 反訳書は常時必須ではないが,先に出す方が合理的な場合が多い
- 第2 反訳書に記載する事項
- 第3 全部反訳と抜粋反訳
- 第4 AIによる文字起こしを用いる場合
- 第5 元データの保全と変換の記録
- 第6 mintsのどの区分へ提出するか
- 第7 提出前の確認
- 第8 関連記事
- 出典・参考資料
反訳書は,録音又は録画の内容を文字にした書面である。
民事訴訟規則149条は,録音又は録画の証拠調べについて,裁判所又は相手方の求めがあるときに,録音又は録画された内容を説明する書面を提出すべきものとしている。
したがって,音声又は動画を出す全事件で,同時に全文反訳書を提出することを全国一律に義務付けた条文はない。
もっとも,裁判所ごとの案内又は事件担当部の指示により反訳書を求められることがある。
本記事では,反訳書に何を書くか,全部反訳と抜粋反訳をどう使い分けるか,AIによる文字起こしをどう扱うか,そして提出時にどの区分へアップロードするかを説明する。
第1 反訳書は常時必須ではないが,先に出す方が合理的な場合が多い
民事訴訟規則149条の規定は,同規則149条の4により,電磁的記録に記録された録音・録画情報の証拠調べにも準用される。
大津地方裁判所民事部の公開案内は,会話を録音した電子データ等を書証として提出する場合に反訳書を提出するよう求めている。
争点部分を迅速に把握できるようにするため,重要な会話については,求めを待たずにタイムコード付き反訳書を提出するのが通常は合理的である。
第2 反訳書に記載する事項
反訳書には,少なくとも次の事項を記載するのが分かりやすい。
①対応する音声・動画の証拠番号及びファイル名
②録音・録画の全長
③反訳対象の開始時刻及び終了時刻
④各発言のタイムコード
⑤話者名又は話者記号
⑥聴取不能・不明瞭・同時発話・物音等の表示
⑦全部反訳か抜粋反訳かの別
⑧反訳者及び反訳日
聞き取れない箇所を推測で補わず,「[聴取不能]」又は「[不明瞭]」と表示する。
話者の特定に確信がない場合も断定せず,話者記号を用いるなどして不確実性を示す必要がある。
第3 全部反訳と抜粋反訳
1 抜粋反訳が許される場合
民事訴訟規則149条は,常に録音・録画の全文を反訳するとは定めていない。
争点が短い区間に限られるときは,開始・終了タイムコードを明示した抜粋反訳とし,前後関係を確認できるよう音声・動画全体を提出する方法が考えられる。
2 抜粋では足りなくなる場合
発言の文脈,誘導,沈黙又は前後のやり取りが争われる場合,抜粋だけでは証明力が低下し,全文反訳又は追加反訳を求められ得る。
省略箇所を明示せずに文章を接続すると会話の意味を変えるおそれがあるため,抜粋であることと省略範囲を必ず表示する。
第4 AIによる文字起こしを用いる場合
音声認識を下書きに利用する場合でも,固有名詞,否定表現,数字,金額,日付及び話者分離は誤りやすい。
提出前に人が音声・動画と逐語で照合し,未確認の自動反訳をそのまま提出しない。
AI利用の開示方法を全国一律に定める最高裁判所の公開資料は確認できない。
少なくとも,反訳書の正確性を誰がどのように確認したかを記録し,争いが生じた場合に作成過程を説明できるようにするのが安全である。
第5 元データの保全と変換の記録
提出用の変換や切出しを始める前に,元データを保存する。
取得元機器,取得者,取得日時,取得方法,元のファイル名及び保存先を記録し,元ファイルを上書きしない。
一部だけを提出用に切り出す場合も,切出し前の全体ファイルを保存し,元データのどの開始時刻から終了時刻までを切り出したのかを記録する。
音量調整,ノイズ除去,画質補正又は字幕追加をした場合も,加工内容を記録し,加工前データを残す。
元ファイルと提出用複製が異なるときは,①元ファイル名・形式,②提出用ファイル名・形式,③変換日,④使用ソフト,⑤主な変換条件,⑥切出しの有無と範囲,⑦元データの保管状況を記録する。
大阪地裁令和8年6月4日判決(令和7年(ワ)第11139号)は,当初提出された圧縮動画と後に提出された非圧縮動画について,バイナリデータ,インフォハッシュ,ファイルのプロパティ時刻及び提出経過を検討した。
同判決は,当初の動画が圧縮済みで元データと一致しないことを説明しなかった点を問題としつつ,再提出動画の証拠価値を直ちに否定しなかった。
提出用の圧縮・変換それ自体が常に許されないとはいえない一方,元データとの相違及び提出経過を隠さず説明することが重要である。
第6 mintsのどの区分へ提出するか
1 独立の書証として出す場合
反訳書を独立の書証として証拠申出する場合は,音声・動画とは別の証拠番号を付け,PDFにしてmintsの「証拠」から提出する。
例えば,音声データを甲012,その反訳書を甲013とする方法である。
2 内容説明書面としてだけ出す場合
反訳書を民事訴訟規則149条の内容説明書面としてだけ提出する場合,現行の公開公式資料には専用の「反訳書」タブも,全国一律の提出区分も示されていない。
「その他」等の区分が候補となるが,事件担当部の指示を確認する必要がある。
独立の書証なのか,音声・動画の説明書面なのかを曖昧にしないことが重要である。
第7 提出前の確認
①録音・動画の元データを保全し,変換記録を残したか。
②反訳書に第2の八項目を記載したか。
③抜粋反訳の場合,省略範囲を明示したか。
④AIの文字起こしを人が逐語で照合したか。
⑤証拠番号とファイル名を提出データと一致させたか。
⑥独立の書証として出すのか,内容説明書面として出すのかを決めたか。
第8 関連記事
①音声・動画をmintsで提出する方法――ファイル形式・反訳書・証拠説明書
②録音反訳方式による逐語調書―現行法,作成手順及び音声記録の取扱い
③mintsの証拠説明書の作り方・提出方法
④mintsで証拠を提出する方法
⑤AIで作成・加工された証拠と民事訴訟の対応
出典・参考資料
①民事訴訟規則149条・149条の4
②大阪地方裁判所令和8年6月4日判決(令和7年(ワ)第11139号)
③大津地方裁判所民事部の公開案内
④mints「mints操作マニュアル」
⑤裁判所「民事裁判手続のデジタル化に関する準備の手引」