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交通事故の慰謝料の種類と三つの算定基準――入通院・後遺障害・死亡の早見表,示談金との違い及び計算例(AI作成)

第1 この記事が扱う交通事故慰謝料の範囲

1 慰謝料は精神的損害に対する賠償であること

交通事故の慰謝料は,負傷,後遺障害又は死亡によって生じた精神的・肉体的苦痛という財産以外の損害に対する賠償である。
民法709条が不法行為による損害賠償責任を,民法710条が財産以外の損害の賠償を定めている。

本記事は,令和8年8月26日現在の法令及び公的資料を基準として,交通事故慰謝料の種類,金額の目安及び示談金との違いを整理するものである。
自賠責保険の1日4300円という現行額は,令和2年4月1日以後に発生した事故に適用されるため,それ以前の事故では事故日に応じた基準を確認する必要がある。

2 三つの種類と三つの算定基準を分けること

慰謝料の「種類」と金額を算定する「基準」は,別の分類である。
種類は,①入通院慰謝料,②後遺障害慰謝料,③死亡慰謝料の三つに整理できるのに対し,算定基準は,①自賠責保険の支払基準,②任意保険会社の内部基準,③裁判実務上の目安という三つに整理できる。

同じ事故でも,傷害だけで治癒した場合は入通院慰謝料が問題となり,症状固定後に後遺障害が残れば後遺障害慰謝料が加わり,事故によって死亡した場合は死亡慰謝料が問題となる。
他方,どの算定基準を用いるかは,請求先,交渉段階,訴訟の有無及び立証された個別事情によって異なる。

第2 慰謝料と示談金の違い

1 示談金は慰謝料を含む合意額であること

慰謝料は損害項目の一つであるのに対し,示談金は,当事者が示談によって合意した賠償金の総額である。
民法695条は,当事者が互いに譲歩して争いを終わらせる約束によって和解の効力が生ずると定めており,交通事故の示談も通常はこの和解契約に当たる。

保険会社が金額を提示しただけでは示談は成立していない。
被害者側が提示内容に合意するまでは,その金額は「保険会社の提示額」であって,確定した示談金ではない。

2 示談金を構成する主な損害項目

人身事故の示談金には,事案に応じて次の損害項目が含まれる。
①治療費,通院交通費,付添費,入院雑費,装具費及び診断書料等の積極損害
②治療のため仕事又は家事に従事できなかったことによる休業損害
③後遺障害又は死亡によって将来得られなくなった収入に相当する逸失利益
④入通院慰謝料,後遺障害慰謝料及び死亡慰謝料
⑤死亡事故における葬儀費等

したがって,慰謝料の早見表だけでは示談金の総額を計算できない。
物損を同時に示談する場合には,車両修理費等も問題となるが,物損事故の損害項目は人身損害と分けて確認する方が分かりやすい。

3 損害額,示談額及び最終振込額の違い

治療費30万円,休業損害20万円,文書料1万円及び入通院慰謝料73万円という仮定例では,過失相殺等を考慮する前の損害額は124万円である。
治療費30万円が既に保険会社から医療機関へ支払われている場合,示談時に新たに振り込まれる金額は,単純化すれば94万円となる。

この例では,慰謝料73万円,損害額124万円及び残支払額94万円はそれぞれ異なる。
実際の示談では,過失相殺,既払金,労災保険等との損益相殺,遅延損害金その他の調整も確認する必要がある。

第3 交通事故慰謝料の三つの種類

1 入通院慰謝料

入通院慰謝料は,事故による負傷と,その治療のために入院又は通院したことに伴う苦痛に対する慰謝料であり,傷害慰謝料とも呼ばれる。
裁判実務では,原則として入院期間及び通院期間を基礎とし,傷害の内容,治療経過及び通院状況等を考慮する。

通院回数が多いほど常に慰謝料が増えるものではなく,治療の必要性がないのに通院期間を延ばせばよいものでもない。
反対に,実通院日数が少ないという一点だけで,直ちに実通院日数に応じた額まで減額されるわけでもない。

2 後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料は,治療を続けてもそれ以上の改善を見込みにくい状態となった後に,身体又は精神の障害が残ったことによる苦痛に対する慰謝料である。
自賠責保険では,自動車損害賠償保障法施行令別表第1又は別表第2の等級に該当する場合に,等級別の「慰謝料等」が定められている。

自賠責保険の等級認定は重要な資料であるが,民事訴訟における損害額を法的に確定する処分ではない。
後遺障害の部位,程度及び立証方法については,「交通事故の靱帯損傷と後遺障害等級」等の個別記事で確認する必要がある。

3 死亡慰謝料

死亡慰謝料には,死亡した被害者本人に生じた慰謝料と,父母,配偶者,子等に生じる固有の慰謝料がある。
被害者本人の慰謝料請求権は相続の対象となるため,本人分と近親者固有分は発生根拠を分けて考える必要がある。

死亡事故では,慰謝料のほかに葬儀費,死亡までの治療費及び死亡逸失利益等も問題となる。
これらを含む損害額全体については,「交通死亡事故の損害額」参照。

第4 自賠責基準,任意保険基準及び裁判実務上の目安

1 自賠責保険の支払基準

自動車損害賠償保障法16条の3第1項は,保険会社が自賠責保険金等を支払うときは,内閣総理大臣及び国土交通大臣が定める支払基準に従うものとしている。
この基準は,公平かつ迅速な保険金支払のための基準であり,民事訴訟における損害額の法定額ではない。

最高裁判所第一小法廷平成18年3月30日判決(平成17年(受)第1628号,民集60巻3号1242頁)は,自動車損害賠償保障法16条1項に基づく被害者請求について,裁判所は支払基準に拘束されず,個別の事案に即して損害額を算定すべきであるとした。
自賠責保険の各損害項目及び限度額については,「自賠責保険の支払基準――令和2年4月1日以降の交通事故に適用される告示の全文,別表及び改正経緯」参照。

2 任意保険会社の内部基準

任意保険基準は,任意保険会社が示談案の作成等に用いる各社の内部基準を指す。
本記事作成時に各社共通の現行公開表は確認できず,会社名を問わず適用できる一つの「任意保険基準早見表」を示すことはできない。

したがって,保険会社から提示を受けた場合は,任意保険基準という名称だけで評価するのではなく,慰謝料,休業損害,逸失利益等の各項目について,計算根拠と対象期間を確認する必要がある。
示談代行の仕組みについては,「任意保険の示談代行とは」参照。

3 弁護士基準・裁判基準

「弁護士基準」又は「裁判基準」と呼ばれるものは,公刊された裁判例及び裁判実務を整理した実務上の目安である。
代表的な資料として,日弁連交通事故相談センター東京支部が刊行する,いわゆる赤い本がある。

赤い本の基準は法令ではなく,裁判所を拘束する定額表でもない。
日弁連交通事故相談センターも,赤い本及び青い本は交通事故の損害額算定における一つの目安であり,具体的な金額は事案により異なる旨を説明している。

大阪の裁判実務で用いられてきた算定基準と赤い本等との関係については,「医療関係者から見た大阪地裁の交通損害賠償の算定基準」参照。

4 三つの基準を単純な高低順にしないこと

一般には,裁判実務上の目安による慰謝料が自賠責保険の支払額や任意保険会社の当初提示額を上回る事案が多い。
しかし,自賠責保険では被害者の過失が7割未満であれば過失による減額を行わないなど,民法上の過失相殺とは異なる取扱いがあるため,すべての事案で同じ高低順になるわけではない。

また,自賠責保険には傷害,後遺障害及び死亡ごとの保険金限度額があるのに対し,裁判上は,因果関係のある損害を個別に積み上げた後,過失相殺等を行う。
基準の違いは,単なる単価の違いではなく,制度目的,対象損害及び調整方法の違いである。

第5 入通院慰謝料の早見表と計算例

1 自賠責保険は1日4300円であること

現行の自賠責保険支払基準では,傷害慰謝料は1日につき4300円である。
対象日数について告示が定めているのは,被害者の傷害の態様,実治療日数その他を勘案し,治療期間の範囲内とするということである。

支払実務の説明では「治療期間と実治療日数の2倍のいずれか少ない方」という簡便な計算が用いられることがあるが,これは告示の文言そのものではない。
少なくとも,実通院日数を2倍すれば対象日数が自動的に確定すると説明することはできず,最終的には傷害の態様その他の事情も踏まえて判断される。

自賠責保険における傷害の限度額120万円は,慰謝料だけの上限ではない。
治療関係費,文書料,休業損害及び慰謝料を合わせた傷害損害全体の限度額である。

2 通院だけの場合の裁判実務上の早見表

次の表は,日弁連交通事故相談センター東京支部『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』2026年版上巻の入通院慰謝料表から,入院がなく通院だけの場合を抜き出したものである。
別表Ⅰは通常の傷害に用い,別表Ⅱは他覚所見のないむち打ち症や軽い打撲・挫創等に用いる表であり,単位は万円である。

通院期間別表Ⅰ別表Ⅱ
1か月2819
2か月5236
3か月7353
4か月9067
5か月10579
6か月11689
7か月12497
8か月132103
9か月139109
10か月145113
11か月150117
12か月154119

赤い本2026年版は,傷害の部位・程度によって別表Ⅰの金額を20%~30%程度増額するとしている。
また,生死が危ぶまれる状態が続いた場合,麻酔なしの手術等による極度の苦痛を受けた場合又は手術を繰り返した場合等には,入通院期間の長短にかかわらず別途増額を考慮するとしている。

他覚所見の意味と,別表Ⅰ・別表Ⅱを分ける際に確認される画像所見,神経学的所見及び可動域所見については,「交通事故の入通院慰謝料に影響する他覚所見」参照。

3 入院を含む場合及び通院が長期にわたる場合

入院と通院の双方がある場合は,入院期間と通院期間が交差する欄を用いるのであり,入院だけの額と通院だけの額を単純に足すものではない。
入院期間又は通院期間に1か月未満の端数がある場合の処理を含め,具体的な算定では表全体を確認する必要がある。

通常の傷害について通院が長期にわたる場合は,症状,治療内容及び通院頻度を踏まえ,実通院日数の3.5倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることがある。
他覚所見のないむち打ち症や軽い打撲・挫創等については,同じ事情を踏まえ,実通院日数の3倍程度を目安とすることがある。

いずれも長期通院の場合に用い得る調整方法であり,通常の事案で「実通院日数×3.5」又は「実通院日数×3」によって慰謝料を機械的に計算するものではない。

ギプス固定等により常時安静を要する期間の扱いについては,固定の部位,方法及び生活上の制約を確認する必要がある。
具体的な取扱いについては,「ギプス固定期間は入通院慰謝料でどう評価されるか」参照。

4 通院3か月の計算例

入院がなく3か月通院した事案では,確認済みの赤い本2026年版による目安は,通常の傷害として別表Ⅰを用いる場合は73万円,他覚所見のないむち打ち症等として別表Ⅱを用いる場合は53万円である。
同じ通院期間でも,傷害の内容と使用する表によって20万円の差が生ずる。

自賠責保険について,個別審査の結果として対象日数が60日と決定されたと仮定すれば,4300円×60日=25万8000円となる。
この例の60日は説明のために置いた仮定であり,通院3か月という事実だけから導かれる日数ではない。

第6 後遺障害慰謝料の早見表と計算例

1 自賠責保険の「慰謝料等」と裁判上の慰謝料

自賠責保険支払基準は,後遺障害による損害を逸失利益及び慰謝料等に分け,後遺障害等級ごとに「慰謝料等」の額を定めている。
この「慰謝料等」という項目名と,裁判上の後遺障害慰謝料とを完全に同じ概念として扱わない方が正確である。

自賠責保険では,常時又は随時の介護を要する別表第1の第1級・第2級について,別表第2の同じ等級とは異なる金額が定められている。
また,被扶養者の有無による増額や,別表第1についての初期費用等の加算があるため,次の早見表だけで自賠責保険金総額を計算することはできない。

2 後遺障害等級別の早見表

自賠責欄は現行の支払基準,裁判実務欄は原本で数値を確認した赤い本2026年版による。
金額の単位は万円である。

後遺障害等級自賠責保険の慰謝料等赤い本2026年版
第1級1150(別表第1は1650)2800
第2級998(別表第1は1203)2370
第3級8611990
第4級7371670
第5級6181400
第6級5121180
第7級4191000
第8級331830
第9級249690
第10級190550
第11級136420
第12級94290
第13級57180
第14級32110

この表の自賠責欄は後遺障害による損害全体の限度額ではなく,「慰謝料等」の額である。
逸失利益は別に計算され,両者を合計した額について等級別の保険金限度額が適用される。

3 第12級の計算例

別表第2の第12級が認定された場合,自賠責保険の慰謝料等は94万円であり,赤い本2026年版による後遺障害慰謝料の目安は290万円である。
差額は196万円であるが,これは慰謝料項目だけを比較したものであり,逸失利益を含む示談金の差額ではない。

第12級に該当するという結論だけで,逸失利益の基礎収入,労働能力喪失率及び喪失期間まで自動的に決まるわけではない。
後遺障害慰謝料と逸失利益は別の損害項目として算定する必要がある。

4 第14級未満等の後遺症

赤い本2026年版は,自賠責保険の第14級に至らない後遺症が残った場合等にも,その内容に応じた後遺障害慰謝料が認められることがあるとしている。
また,特定の後遺障害等級は認定されたものの,症状がより上位の等級には至らない場合にも,認定等級の慰謝料相当額を加算することがあるとしている。

これらは裁判実務上の慰謝料算定に関する目安であり,自賠責保険が非該当の症状について告示上の後遺障害慰謝料等を支払うという意味ではない。
民事上の請求では,残存症状,事故との因果関係,症状固定後の継続性及び日常生活上の支障を診療記録等によって具体的に示す必要がある。

第7 死亡慰謝料の早見表と計算例

1 自賠責保険の死亡慰謝料

自賠責保険支払基準による死亡本人の慰謝料は400万円である。
遺族の慰謝料は,請求権者が1人の場合は550万円,2人の場合は650万円,3人以上の場合は750万円であり,被害者に被扶養者がいるときは200万円を加算する。

項目自賠責保険の金額
死亡した本人400万円
遺族1人550万円
遺族2人650万円
遺族3人以上750万円
被扶養者がいる場合200万円加算

自賠責保険の死亡による損害の限度額3000万円は,死亡慰謝料だけの上限ではない。
葬儀費,死亡逸失利益,死亡本人の慰謝料及び遺族の慰謝料を合わせた死亡損害全体の限度額である。

2 裁判実務上の死亡慰謝料

赤い本2026年版による死亡慰謝料の目安は,一家の支柱が2800万円,母親・配偶者が2500万円,その他が2000万円から2500万円である。
これらは,死亡した本人の慰謝料と近親者固有の慰謝料を合わせた総額の目安である。

被害者の立場赤い本2026年版の目安
一家の支柱2800万円
母親・配偶者2500万円
その他2000万円~2500万円

「一家の支柱」に該当するかどうかは,戸籍上の世帯主という形式だけでは決まらない。
被害者の収入によって家族の生計が維持されていたかなど,実質的な扶養関係を確認する必要がある。

3 本人の慰謝料と近親者固有の慰謝料

最高裁判所大法廷昭和42年11月1日判決(昭和38年(オ)第1408号,民集21巻9号2249頁)は,慰謝料請求権は被害者が請求の意思を表明しなくても相続されるとした。
他方,民法711条に基づく父母,配偶者及び子の慰謝料は,各近親者に固有の請求権である。

最高裁判所第三小法廷昭和49年12月17日判決(昭和49年(オ)第212号,民集28巻10号2040頁)は,民法711条所定の者と実質的に同視できる身分関係があり,被害者の死亡によって甚大な精神的苦痛を受けた者について,同条の列挙に含まれないことだけを理由に請求を否定すべきでないとした。

死亡していない重度後遺障害の場合でも,近親者固有の慰謝料が認められることがある。
最高裁判所第三小法廷昭和33年8月5日判決(昭和31年(オ)第215号,民集12巻12号1901頁)は,死亡の場合にも比肩し得る精神上の苦痛を近親者が受けたときは,民法709条・710条により請求し得るとしたものであり,通常の傷害について家族慰謝料が当然に発生するという判決ではない。

4 一家の支柱が死亡した場合の計算例

一家の支柱である被害者が死亡し,慰謝料請求権者が配偶者と子2人の合計3人で,被扶養者がいると仮定する。
自賠責保険の死亡慰謝料は,400万円+750万円+200万円=1350万円となる。

赤い本2026年版による裁判実務上の目安は,本人分と近親者固有分を合わせて2800万円である。
2800万円に近親者3人分の慰謝料をさらに機械的に加算するものではない。

第8 早見表の金額から増減する事情

1 過失相殺と自賠責保険の限度額

民法722条2項は,被害者に過失があったときは,裁判所がこれを考慮して損害賠償額を定めることができるとしている。
裁判上の損害額は,慰謝料その他の損害を算定した上で,被害者の過失割合に応じて減額されることがある。

これに対し,自賠責保険の支払基準は,被害者の過失が7割未満であれば過失による減額を行わず,7割以上の場合も独自の減額割合を用いる。
そのため,被害者の過失が大きい事案では,自賠責保険による支払額と民法上の損害賠償額の関係が通常と異なることがある。

2 治療経過及び事故態様

入通院慰謝料では,入通院期間だけでなく,傷害の部位・程度,治療内容,通院の必要性,通院頻度及び治療中断の理由等が問題となる。
後遺障害慰謝料では,等級のほか,症状が日常生活及び職業生活へ及ぼす具体的な影響が考慮されることがある。

飲酒運転,著しい速度超過,無免許運転,ひき逃げその他の悪質な事故態様や,事故後の著しく不誠実な対応が,被害者又は遺族の精神的苦痛を増大させた事情として評価されることがある。
もっとも,日本の交通事故賠償における慰謝料は被害者の非財産的損害を填補するものであり,加害者を処罰するための独立した懲罰金ではない。

3 後遺障害等級だけでは評価し切れない事情

後遺障害等級は慰謝料算定の中心的な指標であるが,同じ等級でも,障害の部位,症状,介護の必要性及び生活上の不利益は異なる。
等級表に十分反映されない特別な不利益が具体的に立証された場合には,基準額からの増額が問題となることがある。

他方,基準額を超える慰謝料を請求する場合は,抽象的に「生活が不便になった」と述べるだけでは足りない。
診療録,後遺障害診断書,検査結果,職務内容及び事故前後の生活状況等によって,等級評価に含まれていない不利益を具体化する必要がある。

第9 示談前に確認すべき事項と期間制限

1 損害項目と既払金の内訳

示談案を検討するときは,総額だけでなく,①治療費,②休業損害,③入通院慰謝料,④後遺障害慰謝料,⑤逸失利益,⑥既払金,⑦過失相殺その他の調整項目を分けて確認する必要がある。
総額が大きく見えても,既に支払済みの治療費を含んでいる場合や,本来別に計上すべき逸失利益が含まれていない場合があるためである。

任意保険会社の提示書に計算過程が記載されていないときは,まず項目別の計算書と根拠資料を求める方法が負担の少ない確認手段である。
それでも争点が明らかにならない場合に,診療録等の医療資料,収入資料又は後遺障害関係資料を追加して検討することとなる。

2 将来の損害を残したまま示談しないこと

治療中又は症状固定前に,将来の治療費,後遺障害及び逸失利益を確定できないまま包括的な清算条項を含む示談をすると,後から追加請求できるかが争いとなる。
少なくとも,治療経過と後遺障害の有無を確認できる段階に達しているか,示談書がどの損害までを清算対象としているかを確認する必要がある。

最高裁判所第一小法廷昭和43年4月11日判決(昭和39年(オ)第538号,民集22巻4号862頁)は,母の身体侵害を理由とする子の慰謝料について調停が成立した後,母が死亡した事案について,特段の事情がない限り,前の調停が死亡を理由とする慰謝料請求まで含むとはいえないとした。
同判決は調停の事案であり,どの示談でも後から追加請求できるという意味ではないが,示談でも,当時予測できた損害,合意額及び清算条項から清算対象を慎重に確認すべきことを示す。

3 不法行為請求と自賠責請求の時効

人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権は,民法724条・724条の2により,被害者又は法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年間,又は不法行為の時から20年間行使しないときは,時効によって消滅する。
後遺障害についていつ損害を知ったといえるかなど,起算点は損害項目と事案によって検討を要する。

自動車損害賠償保障法19条は,同法16条1項に基づく被害者の保険会社に対する請求権について,被害者又は法定代理人が損害及び保有者を知った時から3年間と定めている。
民法上の加害者に対する請求と自賠責保険会社に対する請求は,期間を同じものとして扱わない方がよい。

交通事故の時効全般については,「消滅時効に関するメモ書き」も参照されたい。

出典・参考資料

1 法令

民法(明治29年法律第89号)695条,709条~711条,722条,724条及び724条の2(e-Gov法令検索)
自動車損害賠償保障法(昭和30年法律第97号)3条,16条,16条の3及び19条(e-Gov法令検索)
自動車損害賠償保障法施行令(昭和30年政令第286号)2条,別表第1及び別表第2(e-Gov法令検索)

2 裁判例

最高裁判所大法廷昭和42年11月1日判決(昭和38年(オ)第1408号,民集21巻9号2249頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第一小法廷昭和43年4月11日判決(昭和39年(オ)第538号,民集22巻4号862頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第三小法廷昭和49年12月17日判決(昭和49年(オ)第212号,民集28巻10号2040頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第三小法廷昭和33年8月5日判決(昭和31年(オ)第215号,民集12巻12号1901頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第一小法廷平成18年3月30日判決(平成17年(受)第1628号,民集60巻3号1242頁,裁判所ウェブサイト)

3 公的資料

金融庁・国土交通省「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号,令和元年金融庁・国土交通省告示第3号による改正を含む)
国土交通省「限度額と補償内容」
公益財団法人日弁連交通事故相談センター「当センターの刊行物について(青本及び赤い本)」

4 文献

①公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』2026年版上巻209頁・218頁~220頁・223頁・484頁~487頁
②千葉県弁護士会編『慰謝料算定の実務 第2版』(ぎょうせい,2013年)225頁~232頁
③小野裕樹『被害者側弁護士のための交通賠償法実務』(日本評論社,2025年)425頁~433頁