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民事裁判修習の実際――配属庁で行われる指導の内容(AI作成)

本記事は,司法修習のうち分野別実務修習の一分野である「民事裁判修習」(地方裁判所に配属されて行う民事裁判の実務修習)について,修習生が配属庁で実際にどのような指導を受けるのかという実態面に焦点を当てて整理するものである。制度の建前だけでなく,各庁の指導担当裁判官向けに配布されている「分野別実務修習における指導のガイドライン」(平成26年8月改訂)が示す具体的な指導方法(記録検討・期日立会いの態勢,起案の件数の目安,和解案の検討方法等)と,司法研修所民事裁判教官室が近年打ち出している指導方針の変化を,同教官室が公開する最新の教材(令和6年3月版から令和7年3月版)に基づいて紹介する。二回試験(司法修習生考試)や修習給付金といった修習生の身分・処遇に関する事項は,当ブログの既存記事で個別に扱っているため,本記事では概要の紹介と参照にとどめる。

第1 民事裁判修習とは何か

1 司法修習における位置づけ

司法修習は,導入修習,分野別実務修習,選択型実務修習,集合修習の各段階を経て,最後に司法修習生考試(いわゆる二回試験)に合格することで終了する。このうち分野別実務修習は,民事裁判,刑事裁判,検察及び弁護の4分野について,全国の実務修習地の地方裁判所,地方検察庁及び弁護士会に修習生を配属し,経験豊富な実務家の個別的指導の下で行われる実地の修習である。「民事裁判修習」とは,このうち民事裁判の分野を指し,配属庁の地方裁判所において,裁判官の指導の下で記録の検討,期日の傍聴,起案等を行う修習をいう。

司法研修所民事裁判教官室が公表する「民事裁判修習における指導について」(令和7年3月版)は,民事裁判修習を含む分野別実務修習の指導目標として,①主張分析に関する基本的能力,②民事事実認定に関する基本的能力,③紛争解決に関する基本的能力の3つを掲げ,これらの能力は「実務修習における多様な生きた事件を素材として訓練を行うことによって最も涵養」されると位置づけている。同教官室は,主張分析と事実認定の関係について,民事訴訟における事実認定の対象は争いのある主要事実(争点)であるから,適切な主張分析なくして適切な事実認定もあり得ないという趣旨で「車の両輪」と表現しており,配属庁での指導もこの2つを一体のものとして行うことが期待されている。

2 法的根拠

司法修習生の採用及び修習に関する基本的事項は,裁判所法に定められている。同法66条は,司法修習生を司法試験合格者の中から最高裁判所が命ずる旨を定め,同法67条1項は「司法修習生は,少なくとも一年間修習をした後試験に合格したときは,司法修習生の修習を終える」と定める。同条2項は「司法修習生は,その修習期間中,最高裁判所の定めるところにより,その修習に専念しなければならない」と定めており,これが修習専念義務の根拠となっている。修習期間はかつて2年(前期修習・実務修習・後期修習の合計)であったものが,平成10年法律第50号による改正で1年6月に,平成14年法律第138号による改正でさらに1年に短縮された経緯があり,現行の「少なくとも一年間」という文言はこの経緯を経たものである。

修習給付金の支給根拠も裁判所法に置かれている。同法67条の2第1項は「司法修習生には,その修習のため通常必要な期間として最高裁判所が定める期間,修習給付金を支給する」と定め,同条2項で給付金の種類を基本給付金,住居給付金及び移転給付金の3種とし,各給付金の額は最高裁判所が定めることとしている。修習の内容及び方法の細目は,最高裁判所規則である「司法修習生に関する規則」(昭和23年最高裁判所規則第15号)に委ねられており,同規則5条1項は,修習期間中,少なくとも10箇月は実務修習に充てるべき旨を定めている。

第2 民事裁判修習のスケジュールと実施態勢

1 分野別実務修習の期間

現行の司法修習は,司法研修所での導入修習(約3週間)に始まり,民事裁判,刑事裁判,検察及び弁護の4分野について全国の実務修習地で行われる分野別実務修習(各分野おおむね2か月,合計約8か月)へ進み,その後,選択型実務修習と集合修習(いずれもおおむね1.5か月)を経て,最後に司法修習生考試(二回試験)が実施されるという流れになっている。分野別実務修習における各分野の割当ては,かつては民事裁判,刑事裁判,検察,弁護の4庁を各4か月とする配分であった時期もあったが,修習期間そのものの短縮に伴い,現行制度では各分野おおむね2か月に短縮されている。各期の具体的な日程は,当ブログの「司法修習の日程」カテゴリーで期ごとに整理しており,直近では「第79期司法修習の日程」を掲載している。

2 配属庁における修習の態勢

司法研修所民事裁判教官室及び民事弁護教官室が共同で作成した「民事系科目における法的分析能力(主張分析能力)及び事実認定能力について」(令和6年3月版)は,分野別実務修習に期待する事項として,記録検討や期日傍聴に当たって修習生に主張分析を行わせた上での質疑応答・解説の機会を設けること,及び修習に適した事件について①訴状審査,②求釈明事項の検討,③主張分析の起案を行わせることを挙げている。これにより,民事実体法の理解と要件事実の考え方の理解を深めさせるとともに,争点整理の重要性を認識させることが指導の眼目とされている。

各庁における具体的な指導態勢については,司法研修所が各庁の指導担当裁判官向けに配布している「分野別実務修習における指導のガイドライン」(民事裁判・刑事裁判・検察及び弁護,平成26年8月改訂)が,より実務的な内容を定めている。同ガイドラインは,各修習生が修習期間内に部総括を含む複数の裁判官の期日に立ち会えるよう,裁判官と修習生の組合せに配慮すべきこと,及び,期日の全件を漫然と傍聴させるのではなく,修習生ごとに適切な事件を選んでその記録を検討させた上で立ち会わせるべきこと(ただし修習の当初は,期日全体の流れを理解させるため全件傍聴も考えられるとする)を指導態勢の基本として示している。記録の検討や法廷傍聴の過程で現れる実体法・手続法上の問題点については,修習生との質疑応答・解説の機会を設け,訴訟手続の進行や事件の見込み等を意識した指導とするよう求められている。

第3 配属庁で行われる指導の内容

1 主張分析(争点整理)の指導

主張分析の指導は,要件事実の考え方についての基本的理解を前提として,適用されるべき法規範を選択し,これに当てはまる具体的事実を的確に抽出した上で,適切な争点整理を行う能力を修得させることに主眼が置かれている。前記ガイドラインは,争点整理が終わった段階の主張整理だけでなく,争点が定まっていない事件をどのように審理していくかという争点整理の過程そのものに重点を置いた指導を求めており,具体的な指導方法として,訴状審査(訴訟物の特定,訴訟要件や請求原因の充足を検討させ,主たる争点は何かを考えさせる),期日における求釈明事項の検討(裁判官が期日でどのような求釈明をし,どう訴訟を進行させていくかを考えさせる),立証計画の検討(争点を踏まえてどの人証から何を聴くかを検討させる),実体法・訴訟法上の問題点についてのリサーチペーパーの作成,主張分析についての起案等を挙げている。

2 事実認定の指導

事実認定の指導では,処分証書や重要な報告文書の成立が争われている事件のみならず,できる限り証拠構造や証拠評価そのものが問題となる事件,現代的な社会の実相を反映した内容の事件を取り上げ,記録に現れた事実を多角的な視点から分析させることに重点が置かれている。司法研修所民事裁判教官室が公表する「民事裁判修習における指導について」(令和7年3月版)は,事実認定の手法として,①正確な主張分析による事実認定対象(立証命題)の把握,②書証と人証の相違を意識した直接証拠の検討,③動かし難い事実を中心とする間接事実の認定と経験則による推認の検討,④事実の時系列や当事者双方のストーリーを意識した視点の設定,⑤重要な事実の相互関係・推認程度の総合判断という流れを示している。実務教材としては「事例で考える民事事実認定」が用いられており,同教材が説明する事実認定の考え方は実務の一般的な考え方と異ならないとされている。

3 紛争解決(和解)の指導

紛争解決に関する指導は,和解手続や和解条項に関する知識の修得にとどまらず,当該事案に適した紛争解決方法を的確に見通す能力を修得させることを目的としている。前記ガイドラインは,具体的な指導方法として,弁論準備手続終結段階や証拠調べ終了段階での和解案の検討を挙げ,結論の見通しや紛争の背景事情等を踏まえて適切な落ち着きどころはどこかを修習生に検討させることを求めている。民事裁判修習は判決に至る手続の傍聴・検討だけでなく,訴訟上の和解という現実の紛争解決の場面についても,修習生に主体的に考えさせる指導を志向している。

4 起案の位置づけと件数の目安

配属庁における起案については,判決書の形式で全文の起案を求める判決全文起案を中心とはせず,部分起案やサマリーペーパー(要約起案)を中心とすることが求められている。前記ガイドラインは,件数の目安として,事実認定についての起案を少なくとも2件,リサーチペーパー等を含めて全体で少なくとも4件の起案をさせることを挙げており,件数は修習生の能力や意欲等を踏まえて調整し,主張分析と事実認定のバランスにも配慮するものとされている。複数の修習生に同一記録に基づく起案をさせ,修習生同士で討論をさせて指導する方法(裁判官も交えた討論により起案の講評に代えることも含む)も有益な指導方法として紹介されている。

5 合同修習(問題研究・講義)

各庁単位の個別指導に加えて,全国統一的な合同修習も実施されている。前記ガイドラインによれば,各クールに一度,民事裁判修習中の修習生を対象として全国統一的な即日起案方式による問題研究が行われる。これは司法研修所民事裁判教官室が修習記録及び起案要領を作成して各庁に送付し,全国同一日・同一時刻に各庁で3時間程度の即日起案を行わせ,司法研修所教官が起案の送付を受けて検討した上,起案受領からおおむね2週間後を目途に各庁に出張して講評を行うという方式である。これとは別に,各庁独自の問題研究(主張分析起案,事実認定起案等)を実施するかどうかは各庁の実情に委ねられている。また,民裁修習の冒頭には,指導担当裁判官による修習の心構えや注意事項に関する講義,及び各庁の実情に応じて書記官事務に関する講義等が行われる。

第4 司法研修所の指導方針の転換――事実認定指導の変化

1 従来の「事前・当時・事後」方式

司法研修所民事裁判教官室が公表する「民事裁判修習における指導について」(令和7年3月版)は,事実認定の指導方法について,近年の方針転換を明示的に説明している。従来の指導では,要証事実と関連性のある間接事実に着目させることに加え,時系列(事前の事情,当時の事情,事後の事情)に沿って検討すると間接事実の検討漏れを防ぎやすいことを強調してきたとされる。実務教材「事例で考える民事事実認定」も,当初はこの「事前・当時・事後」という時系列の枠組みに沿って動かし難い事実を整理する構成を採っていた。

2 指導方針が転換した経緯

同教材は,この従来の指導方法について,司法修習生の起案の中に,要証事実との関連性を十分に検討することなく,修習記録から抽出できる動かし難い事実を一つでも多く挙げることに腐心したり,いかなる事案でもおよそ機械的に「事前・当時・事後」の順序で検討したりするといった硬直的な思考をするものが少なからず見られるようになったと述べている。そして,このような傾向は,実務修習庁で指導に当たる多くの裁判官からも指摘されるようになったとしている。実務修習の現場からのこうしたフィードバックを受け,民事裁判教官室は指導方針を見直すに至った。

3 現在の起案評価の視点

現在の民事裁判教官室の指導では,結論の分かれ目となるような重要な間接事実を的確に指摘し,その間接事実の意味合いについて妥当な評価をすることが重視されている。事実認定起案の構成として「事前・当時・事後」の順序で検討することを常に求めているわけではないことが,修習生に明確に伝えられている。単なる事実の拾い上げや,要証事実との関連性を意識しない機械的な意味付けは評価の対象とされない。同教材が示す起案評価の視点は,①妥当な結論を導く上で必要な重要間接事実を認定しているか,②適切な経験則を踏まえて論理的で妥当な評価をしているか,③最終的な結論を導く総合的な判断が説得的なものとなっているか,の3点である。この指導方針の転換は,司法研修所自身が実務修習庁からのフィードバックを踏まえて教育内容を継続的に見直していることを示す一例といえる。

第5 民事裁判修習の教材

1 司法研修所民事裁判教官室が公開する教材

司法研修所は,民事裁判教官室コーナーにおいて,要件事実及び民事事実認定に関する教材一式を無償で公開している。令和6年から令和7年にかけて公開されている主な教材として,「民事裁判修習における指導について」(令和7年3月版),「民事系科目における法的分析能力(主張分析能力)及び事実認定能力について」(令和6年3月版,民事裁判教官室と民事弁護教官室の共同作成),「民事裁判起案の留意点」(令和7年2月版),「要件事実(基本編・応用編)」(令和7年3月版),「改訂新問題研究要件事実」及び「4訂紛争類型別の要件事実」(いずれも令和4年10月発刊,民法(債権関係)改正に対応),「3訂事例で考える民事事実認定」,「規範的要件について」(令和7年3月版),並びに民事裁判教官室と民事弁護教官室が共同作成した「対話で進める争点整理」(令和5年7月発刊)がある。これらの教材は,司法研修所のウェブサイトから無償で入手できるが,有償譲渡は禁止されている。教材の版は改訂の都度更新されるため,最新版の確認には司法研修所のウェブサイトを直接参照する必要がある。

第6 関連する制度・記事

1 司法修習生考試(二回試験)

司法修習の最後に実施される司法修習生考試(いわゆる二回試験)は,集合修習で扱われる民事裁判,刑事裁判,検察,民事弁護及び刑事弁護の5科目について行われる起案試験であり,不合格者数は近年おおむね一桁から十数名程度で推移している。二回試験の不合格発表や取扱いの詳細については,当ブログの「二回試験の不合格発表がされる裁判所HP及び過去の不合格者受験番号」及び「二回試験不合格時の一般的な取扱い」で個別に取り上げている。

2 修習専念義務・給付金等の処遇

司法修習生は,裁判所法67条2項により修習専念義務を負い,原則として兼業・兼職が禁止されるが,最高裁判所の許可を得た場合は,修習に支障のない範囲でのアルバイトが認められている。修習期間中の生活を支える修習給付金の制度及びその沿革(給費制から貸与制への移行,その後の給付金制度創設に至る経緯)については,当ブログの「司法修習生の給費制,貸与制及び修習給付金」及び「修習給付金に関する司法研修所の公式見解を前提とした場合の,修習給付金に関する取扱い」で整理している。また,成績不良や「品位を辱める行状」等を理由とする司法修習生の罷免制度については,「「品位を辱める行状」があったことを理由とする司法修習生の罷免事例及び再採用」を参照されたい。導入修習の内容が現行と異なっていた時期(第68期)の記録としては「68期導入修習カリキュラムの概要」があり,司法研修所そのものの所在地の変遷については「司法研修所の沿革」を参照されたい。

出典

1 法令

2 公的資料