◯本ブログ記事は専らAIで作成したものです。
日本弁護士国民年金基金は,終身年金と掛金全額の所得控除という利点を持つ,確定給付型の公的な年金制度である。
しかし,平成26年4月以降に新規加入する弁護士に適用される予定利率は,過去最低の年1.5%に固定されている。
物価上昇率が年2%から3%で推移する局面では,物価スライドを持たないこの給付は,受給が始まる前から実質的な購買力を失い続ける。
本記事の結論は次のとおりである。
15年ないし20年以上の運用期間を確保でき,かつ途中の価格変動に耐えられる弁護士が老後資産を形成する場合には,予定利率1.5%の国民年金基金に拠出するよりも,iDeCoで低コストの株式インデックス投資信託を積み立てる方が,期待資産額,実質購買力の維持及び死亡時の資産承継のいずれの観点からも有利となる可能性が高い。
国民年金基金の終身年金には,何歳まで生きても給付が続くという固有の価値がある。
もっとも,それは老後資産形成の主軸ではなく,最低限の終身収入を確保するための補助的な役割にとどめるのが合理的である。
以下では,まず基金の制度と問題点を確認した上で,第7及び第9で,なぜ資産形成の重心をiDeCoに置くべきかを,制度の仕組みに即して具体的に述べる。
第1 日本弁護士国民年金基金の概要
1 制度の位置付け
日本弁護士国民年金基金は,国民年金法に基づき,老齢基礎年金に上乗せする年金を支給する公的な年金制度である。
会社員や公務員には老齢厚生年金があるのに対し,国民年金第1号被保険者には原則として老齢基礎年金しかないため,その上乗せ部分を自ら準備する制度の一つが国民年金基金である。
制度の根拠については,e-Gov法令検索の「国民年金法」及び国民年金基金連合会HPの「国民年金基金制度とは?」参照。
2 加入できる人
日本弁護士国民年金基金に加入できるのは,弁護士又は弁護士業務を補助する者であり,次のいずれかに該当する人である。
① 20歳以上60歳未満の国民年金第1号被保険者
② 日本国内に住所を有する60歳以上65歳未満の国民年金任意加入被保険者
③ 海外に居住する日本国籍の国民年金任意加入被保険者
弁護士の専従配偶者や法律事務職員も,弁護士業務を補助する者として加入できる場合がある。
他方,弁護士法人の社員・使用人,企業・法人等の役員・使用人など,厚生年金保険の被保険者となる人は加入できない。
また,国民年金保険料の免除を受けている人も原則として加入できないが,法定免除を受けている人が国民年金保険料の納付申出をした期間などには例外がある。
以上については,日本弁護士国民年金基金の「加入のご案内」2頁参照。
3 年金の型
1口目は,65歳から支給される終身年金であるA型又はB型から選択する。
A型には15年間の保証期間があり,保証期間内に死亡した場合には遺族一時金が支給されるのに対し,B型には保証期間がない。
2口目以降は任意であり,終身年金であるA型・B型のほか,支給期間が定められたⅠ型ないしⅤ型の確定年金を選択できる。
1口目は加入後に型を変更したり,減口したりすることができない。
2口目以降は,所定の条件の下で増口又は減口が可能である。
各型の支給開始年齢,保証期間及び年金額については,日本弁護士国民年金基金の「加入のご案内」3頁ないし9頁参照。
第2 加入時期による予定利率差と著しい不公平
1 令和6年4月1日施行の掛金月額表
新規加入者の掛金及び年金額は,加入時の年齢,性別,年金の型及び口数によって決まる。
令和6年4月1日以降の新規加入及び増口には,同日施行の掛金月額表が適用される。
平成31年4月1日施行の旧掛金月額表を用いた試算は,令和6年4月1日以降の新規加入者には当てはまらない。
現在の具体的な掛金額及び年金額については,日本弁護士国民年金基金の「加入のご案内」4頁ないし9頁で確認する必要がある。
2 掛金の上限
国民年金基金の掛金は,1口目と2口目以降の合計で月額6万8000円が上限である。
iDeCoを併用する場合,国民年金基金とiDeCoの掛金を合計して月額6万8000円以内とする必要がある。
ただし,令和8年12月1日から,国民年金第1号被保険者に関する国民年金基金とiDeCoの共通拠出限度額は,月額7万5000円に引き上げられる予定である。
改正内容及び施行日については,厚生労働省HPの「2025年の制度改正」参照。
3 加入時期ごとの予定利率
日本弁護士国民年金基金の第7回財政再計算報告書3頁によれば,新規加入者に適用される予定利率は,次のように推移している。
| 加入時期 | 予定利率 |
|---|---|
| 平成7年3月まで | 5.5% |
| 平成7年4月から平成12年3月まで | 4.75% |
| 平成12年4月から平成14年3月まで | 4.0% |
| 平成14年4月から平成16年3月まで | 3.0% |
| 平成16年4月から平成26年3月まで | 1.75% |
| 平成26年4月以降 | 1.5% |
予定利率は,加入者が自ら受け取る運用利回りを意味するものではなく,掛金及び年金額を計算する際の基礎となる率である。
予定利率が異なる加入者が併存しているため,基金の財政を検討するときは,加入時期別の給付債務も考慮する必要がある。
4 予定利率差が加入条件に及ぼす影響
予定利率が高ければ,他の計算条件が同じである限り,同じ掛金でより大きな年金額を設計し,又は同じ年金額に必要な掛金を低く設計することができる。
反対に,予定利率が低ければ,同じ年金額を確保するために必要な掛金は高くなり,又は同じ掛金から得られる年金額は小さくなる。
したがって,5.5%と1.5%の差は,単なる表示上の差ではなく,加入者が負担する掛金と将来受け取る年金との対応関係を大きく左右する。
しかも,加入者は過去の高い予定利率を選ぶことができず,加入後に予定利率を選び直すこともできない。
その上,国民年金基金からは任意に脱退できないため,新しい加入者は,相対的に低い予定利率に基づく条件に長期間拘束されることとなる。
5 予定利率差による不公平が著しいこと
予定利率は,平成7年3月までの5.5%から,段階的に4.75%,4.0%,3.0%,1.75%へ引き下げられ,平成26年4月以降は1.5%となった。
その結果,同じ日本弁護士国民年金基金の加入者であっても,加入時期が違うだけで,掛金及び年金額の計算基礎が大きく異なる。
特に,5.5%と1.5%との差は4.0ポイントであり,長期間にわたる年金設計に与える影響は小さくない。
既存加入者の約束された給付を保護する必要があるとしても,後から加入する弁護士だけが一貫して低い予定利率を適用され,過去の高い予定利率を選択する機会すら与えられないという格差は,世代間又は加入時期別の公平という観点から看過できない。
しかも,若い新規加入者の獲得が基金財政上の重要課題とされているにもかかわらず,その新規加入者に提示される予定利率が最も低い1.5%である点には,強い不公平感が生じる。
本記事では,このように加入時期だけで経済的な給付条件が大きく異なる状態を,日本弁護士国民年金基金の最も重大な問題の一つであり,著しい不公平であると評価する。
6 市場が好転しても給付は増えないこと
予定利率の引下げには,市場金利の低下,運用環境の変化及び将来の給付を確実にするための財政上の理由がある。
また,既存加入者について加入時に約束された給付条件を維持することにも,相応の理由がある。
しかし,予定利率の引下げに財政上の理由があることと,加入時期別の給付条件が公平であることは別問題である。
さらに見落としてはならないのは,新規加入者が1.5%という水準を,加入後にどれだけ市場環境が好転しても引き上げてもらえないことである。
運用環境が改善して株式や債券の利回りが上昇しても,加入時に確定した基本年金額は増えない。
これに対し,iDeCoでは市場の上昇がそのまま自己の口座残高に反映される。
つまり,国民年金基金への加入は,過去最低の予定利率を固定した上で,将来の相場上昇の果実を放棄することを意味する。
7 物価スライドはないこと
国民年金基金の年金額は,加入時の年齢,性別,型,口数及び予定利率等に基づいて定められ,老齢基礎年金と同じ仕組みで物価上昇に連動するものではない。
そのため,物価上昇が続けば,受給する年金の実質的な購買力は低下する。
総務省統計局の全国消費者物価指数によれば,総合指数の前年比は,令和4年が2.5%,令和5年が3.2%,令和6年が2.7%,令和7年が3.2%であった。
近年の物価上昇率は,新規加入者の予定利率1.5%を上回って推移している。
この点は,資産形成の手段としての基金の弱点を端的に示すものであり,第7の4で改めて検討する。
物価の推移については,総務省統計局HPの「消費者物価指数・全国・年平均」参照。
第3 加入後の変更,資格喪失及び納付方法
1 任意脱退はできないこと
国民年金基金には,民間の個人年金保険の解約返戻金に相当する制度はない。
加入資格を喪失する事情がない限り,加入者の都合だけで任意に脱退し,納付済みの掛金を一時金として受け取ることはできない。
資金繰りが悪化した場合でも1口目を減口することはできないため,掛金額は長期間継続して納付できる範囲で設定すべきである。
2口目以降は減口できるが,前納した年度については減口できないなどの制限がある。
2 資格喪失後の取扱い
厚生年金保険の被保険者となった場合,国民年金保険料の免除を受けることとなった場合又は弁護士等の職能要件を満たさなくなった場合には,基金の加入資格を喪失することがある。
資格喪失までに納付した掛金は,原則として将来の年金給付に結び付くため,資格喪失時に返還されるものではない。
弁護士業務に従事しなくなった後も国民年金第1号被保険者として保険料を納付する場合には,資格喪失日から3か月以内に全国国民年金基金への特例加入を申し込むことにより,従前と同じ掛金で加入できる場合がある。
詳細については,国民年金基金連合会HPの「加入資格・資格喪失に関するFAQ」参照。
3 国民年金保険料の納付方法
国民年金保険料にはクレジットカード納付制度があり,日本弁護士国民年金基金に加入しただけで利用できなくなるものではない。
ただし,希望により国民年金保険料を基金掛金と合わせて基金へ納付委託する場合には,国民年金保険料をクレジットカードで納付することはできない。
基金掛金は,原則として指定口座からの口座振替により納付する。
日本年金機構HPの「国民年金保険料のクレジットカード納付」及び日本弁護士国民年金基金の「加入のご案内」10頁参照。
第4 税務上の取扱い
1 掛金を納付したとき
国民年金基金の掛金は,その全額が社会保険料控除の対象となる。
自己の掛金だけでなく,自己と生計を一にする配偶者その他の親族が負担すべき掛金を実際に納付した場合には,その納付額も納付者の社会保険料控除の対象となる。
国税庁HPの「No.1130 社会保険料控除」参照。
もっとも,所得控除による実際の軽減額は,納税者の課税所得,所得税率及び住民税率によって異なる。
「掛金全額が所得控除になる」ことと,「掛金全額に相当する税金が戻る」ことは同じではない。
なお,後述のとおり,掛金全額が所得控除の対象となる点はiDeCoも同じであり,この点は基金に固有の優位ではない。
2 年金又は遺族一時金を受け取ったとき
国民年金基金から受け取る年金は,所得税法上,公的年金等に係る雑所得として扱われ,公的年金等控除の対象となる。
保証期間内の死亡等により遺族が受け取る遺族一時金は,基金の案内上,非課税とされている。
具体的な課税関係については,国税庁HPの「No.1600 公的年金等の課税関係」参照。
3 海外居住中の掛金
海外居住中に国民年金任意加入被保険者として基金掛金を納付することはできるが,海外居住中の払込掛金は,日本の所得税における社会保険料控除の対象とならない。
日本弁護士国民年金基金の「加入のご案内」3頁参照。
第5 加入判断におけるメリットと注意点
1 主なメリット
日本弁護士国民年金基金の主なメリットは,次のとおりである。
① 1口目が終身年金であり,長生きにより老後資金が不足するリスクに備えられること
② 加入時に掛金と基本年金額が定められるため,加入者が自ら運用商品を選択する必要がないこと
③ 掛金の全額が社会保険料控除の対象となること
④ A型等を選択した場合には,保証期間内の死亡について遺族一時金があること
これらの利点は確かなものであるが,②の「自ら運用しなくてよい」ことは,裏を返せば相場上昇の果実を受け取れないことを意味し,③の所得控除はiDeCoにも等しく認められる。したがって,メリットの多くはiDeCoとの比較の中で相対的に評価する必要がある。
2 主な注意点
主な注意点は,次のとおりである。
① 任意脱退ができず,老後まで資金が拘束されること
② 1口目は減口できないこと
③ 加入時期だけで予定利率が5.5%から1.5%まで異なり,新しい加入者ほど不利な給付条件となっていること
④ 年金額が物価上昇に自動的に連動しないため,インフレにより実質価値が低下すること
⑤ 死亡時期及び選択した型によっては,本人及び遺族の受取総額が納付掛金総額を下回ることがあること
⑥ iDeCoやNISA等を利用した場合に得られた可能性のある運用収益との比較が必要であること
このうち③④⑤⑥は,いずれも資産形成の手段として基金を選ぶことの不利益を示すものであり,第7で述べるとおり,これらはiDeCoによって相当程度回避できる。
3 単純な「元本回収年数」だけで判断できないこと
掛金総額を年金年額で割れば,名目上の掛金総額に達するまでのおおよその受給年数を計算できる。
しかし,この計算だけでは,加入の有利・不利を判断できない。
少なくとも,次の要素を分けて検討する必要がある。
① 加入時の年齢,性別,年金の型及び口数
② 掛金納付時の所得控除による税効果
③ 受給時の所得税及び住民税
④ 終身年金による長生きリスクへの備え
⑤ 保証期間及び遺族一時金
⑥ 物価上昇による実質価値の低下
⑦ 他の運用方法を選択した場合の機会費用
平成31年4月1日施行の旧掛金月額表や作成当時の平均余命を用いた過去の試算は,現在の新規加入判断に使用すべきではない。
第6 基金の財政状態及び資産運用
1 令和6年度末の財政状態
日本弁護士国民年金基金の令和6年度貸借対照表等によれば,令和7年3月31日現在の主な数値は,次のとおりである。
① 責任準備金 1536億3731万4000円
② 繰越不足金 0円
③ 別途積立金 69億6331万4874円
④ 当年度不足金 5億1461万1715円
繰越不足金が0円となり,別途積立金が計上されている一方,令和6年度には当年度不足金が生じている。
したがって,「不足金が解消した」又は「単年度で赤字である」という一つの数値だけから,基金の財政が健全又は不健全であると断定することはできない。
単年度の損益と,責任準備金・積立金を含む長期的な財政状態は区別して検討する必要がある。
詳細は,「日本弁護士国民年金基金の貸借対照表,損益計算書及び業務報告書(令和6年度分)」1頁参照。
2 加入員数等
令和6年度業務報告書によれば,令和7年3月31日現在の加入員数は8894人であり,前年度末の9160人から266人減少した。
令和6年度中の新規加入者は299人であり,資格喪失者等は565人であった。
加入員1人当たりの平均掛金月額は4万9505円である。
20歳ないし29歳の加入員数は,令和4年度末が80人,令和5年度末が82人,令和6年度末が73人であった。
これらの数値については,同業務報告書6頁ないし7頁参照。
3 基本ポートフォリオ
国民年金基金連合会の令和6年4月以降の基本ポートフォリオは,次のとおりである。
① グローバル債券(為替ヘッジあり) 39%
② グローバル債券(為替ヘッジなし) 6%
③ グローバル株式 55%
この構成は,国民年金基金連合会が合同運用する積立金全体の基本ポートフォリオであり,日本弁護士国民年金基金単独の資産構成を示すものではない。
したがって,この数値だけから日本弁護士国民年金基金単独の運用成績又は財政状態を評価することはできない。
もっとも,基金自身も積立金の過半を株式で運用していることは,長期の資産形成において株式が中心的な役割を果たすことを,制度の側から裏づけている。
国民年金基金連合会の「令和6年度資産運用状況」16頁及び「積立金の運用状況」参照。
4 新規加入者と基金財政との関係
日本弁護士国民年金基金の第7回財政再計算報告書13頁は,新規加入者の獲得及び既存加入者の増口を,財政の健全性を確保するための重要な課題としている。
他方,平成26年4月以降の新規加入者に適用される予定利率は,過去最低の1.5%である。
高い予定利率を適用される既存加入者の給付条件を維持しながら,最も低い予定利率しか選べない新規加入者の獲得を財政上の重要課題とする構図は,経済的な待遇の公平性に重大な疑問を生じさせる。
もっとも,国民年金基金は個別平準保険料方式を採用しているため,新規加入者の掛金がそのまま従前加入者の年金へ回る単純な賦課方式ではなく,新規加入に伴って新たな給付債務も生じる。
したがって,新規加入者が高い予定利率の既存加入者を直接補填しているとまでは断定できない。
しかし,直接補填の有無と,加入時期による給付条件の著しい格差は別問題である。
新規加入者の増加が基金財政へ与える影響を検討する場合には,加入員構成,予定利率,死亡率,運用収益及び給付債務を併せて評価するとともに,予定利率別の負担と給付の分布を明らかにする必要がある。
第7 iDeCo及びS&P500連動投資信託との比較
1 制度上の主な違い
| 比較項目 | 日本弁護士国民年金基金 | iDeCo |
|---|---|---|
| 制度の仕組み | 掛金と基本年金額が加入時に確定する確定給付型 | 掛金と運用益の合計で給付額が決まる確定拠出型 |
| 受け取る成果 | 加入時の予定利率で計算された年金額。市場が好転しても増えない | 自己の口座残高。市場の上昇がそのまま反映される |
| 運用 | 加入者は商品を選択しない | 加入者が運用商品を選択する |
| 老齢給付 | 1口目は終身年金 | 原則5年以上20年以下の有期年金又は一時金等。運営管理機関によっては終身年金もある |
| 掛金の所得控除 | 社会保険料控除(全額) | 小規模企業共済等掛金控除(全額) |
| 運用益への課税 | 加入者段階では観念されない(給付は雑所得) | 運用益が非課税で再投資される |
| 物価上昇への対応 | 物価スライドなし。実質価値は目減りする | 株式は実物資産で長期的にインフレに追随しやすい |
| 死亡時の取扱い | 型・死亡時期により遺族一時金。残高は残らない | 原則として口座残高が死亡一時金として承継される |
| 中途引出し | 任意脱退はできない | 原則60歳まで引き出せない |
| 主なリスク | 資金拘束,インフレ,死亡時期等 | 資金拘束,価格変動,為替変動,手数料等 |
iDeCoの制度については,厚生労働省HPの「iDeCoの概要」参照。
iDeCoの老齢給付金の受取方法については,iDeCo公式サイトの「iDeCo加入者・運用指図者の方へ」参照。
2 比較すべきは「単年度の利率」でなく「最終的な結果」であること
国民年金基金の予定利率1.5%は,加入者の個人口座残高が毎年1.5%ずつ増えることを意味しない。
予定利率は掛金額と将来の年金額を計算するための基礎であり,終身年金による長生きリスクへの備えを含む制度設計の一部である。
したがって,「S&P500の期待収益率が1.5%を上回るから,必ずiDeCoの方が有利である」と,利率だけを並べて結論することはできない。
そこで,利率ではなく,加入者にとっての最終的な結果を,次の5つの物差しで比較する。
① 60歳又は65歳時点で,いくらの資産又は年金原資が積み上がるか
② その資産を,実質的な購買力を保ったまま何年取り崩せるか
③ 死亡時に,遺族へいくらを残せるか
④ 何歳まで生きても給付が続くか
⑤ 途中の価格変動及びインフレに,どれだけ耐えられるか
以下に述べるとおり,④の長生きへの備えを除けば,①②③⑤のいずれについても,長期の資産形成ではiDeCoのインデックス投資が基金を上回る可能性が高い。
3 40歳の男性についての具体的な比較
令和6年4月1日施行の掛金月額表によれば,40歳1か月の男性が1口目としてA型に加入する場合,月額掛金は1万3515円であり,基本年金額は月額1万5000円である。
約239か月にわたり掛金を納付すると仮定した場合,掛金総額は約323万円となる。
65歳から受け取る基本年金額は年額18万円であるから,税金,掛金及び年金の時間価値並びに遺族一時金を無視した単純計算では,受取総額が掛金総額に達するのはおおむね83歳である。
他方,同じ月額1万3515円を239か月にわたりiDeCoで積み立てた場合の60歳時点の資産額は,次のとおりである。
| 費用控除後の運用利回りの仮定 | 60歳時点の資産額 |
|---|---|
| 年1.5% | 約376万円 |
| 年3% | 約439万円 |
| 年5% | 約545万円 |
| 年7% | 約681万円 |
この試算は,毎月末に一定額を積み立てるものとし,iDeCoの固定手数料,受取時の税金及び60歳以降の運用を考慮していない。
また,各利回りは将来の予測ではなく,複利効果を把握するための仮定にすぎない。
それでも,この比較が示す構図は明快である。
国民年金基金は,掛金約323万円を払い込んでも,本人が生きて年金を受け取り続け,83歳を超えて初めて名目上の払込額を回収する。
これに対し,費用控除後の利回りが年3%ないし5%であれば,iDeCoでは60歳の時点で既に払込総額を大きく上回る資産が手元に残り,しかもその全額を自分の判断で使い,遺族へ残すことができる。
受取開始まで待つ必要も,長生きするまで待つ必要もない。
もっとも,国民年金基金は83歳を超えても本人が死亡するまで年金を支給するため,長生きするほど終身年金としての価値が高くなる。
この長生きへの備えは基金の固有の強みであり,これを完全に無視することはできない。
しかし,次に述べるインフレと課税を加味すると,その強みは見かけほど大きくはならない。
4 インフレーションが固定年金の実質価値を奪うこと
国民年金基金の最大の弱点は,年金額が加入時に固定され,物価上昇に連動しないことである。
前記のとおり,近年の全国消費者物価指数の前年比は年2.5%から3.2%で推移しており,新規加入者の予定利率1.5%を上回っている。
仮に物価が年2%で上昇し続ければ,購買力は約35年で半分になる。
40歳で加入し65歳から受給を始める人は,受給開始の時点で既に25年分の物価上昇を経ており,その後さらに20年以上,実質価値が目減りする年金を受け取ることになる。
名目上は83歳で「元が取れる」計算であっても,その83歳時点で受け取る1万5000円の実質的な価値は,加入時の1万5000円より相当低い。
つまり,固定年金は,長生きすればするほど購買力の面では不利になるという性質を抱えている。
これに対し,株式は,企業が生み出す利益や配当が物価とともに増加していく実物資産であり,長期的にはインフレに追随しやすい。
iDeCoで株式インデックス投資信託を保有していれば,物価が上昇する局面でも,資産の名目価値がともに増加することが期待できる。
予定利率1.5%の固定年金と,インフレに追随し得る株式とでは,実質購買力を守る力に大きな差がある。
外国株式投資信託の為替変動リスクについては,三菱UFJアセットマネジメントの「S&P500指数が上昇しても基準価額が上昇しない場合」参照。
5 複利と非課税再投資が資産を大きくすること
iDeCoのもう一つの強みは,運用益が非課税で再投資されることである。
通常の課税口座では,運用益に対して約20%の税が課され,その分だけ再投資に回る元本が減る。
iDeCoでは,この課税がないため,利益がそのまま次の利益を生み,長期になるほど複利効果が大きくなる。
前記の試算で,同じ掛金でも利回りの仮定が年1.5%から年5%へ上がるだけで60歳時点の資産額が約376万円から約545万円へと広がるのは,この複利の力による。
国民年金基金では,加入者の口座残高という概念がないため,加入者がこの複利効果を自分の資産として取り込むことはできない。
iDeCoの税制については,iDeCo公式サイトの「iDeCoのメリット」参照。
6 死亡時に資産を残せること
国民年金基金では,B型を選択した場合や,A型でも保証期間を経過した後に死亡した場合には,それまで払い込んだ掛金に見合う財産が遺族に残らないことがある。
終身年金は,本人が生存している限り給付が続く代わりに,早く死亡すれば受取総額が払込総額を下回り,その差額は遺族に承継されない。
これに対し,iDeCoでは,加入者が死亡した場合,原則として口座残高の全額が死亡一時金として遺族に承継される。
早世のリスクという観点からは,払い込んだ資産が遺族に残るiDeCoの方が,本人及び家族にとって取りこぼしが少ない。
長生きに備える終身年金と,早世に備える資産承継とは方向が逆であり,両者の得失は本人の健康状態や家族構成によって変わるが,資産が消えないという安心はiDeCoの明確な利点である。
7 S&P500連動投資信託の収益性とリスク
S&P500は,米国の代表的な大型株で構成され,米国株式市場の時価総額の約80%を対象とする指数である。
S&P Dow Jones Indicesの公表値によれば,令和8年6月末までの10年間におけるS&P500価格指数の年率リターンは13.58%,年率リスクは15.36%であった。
しかし,これは米ドル建ての配当を含まない価格指数の過去実績であり,将来の運用成果を保証するものではない。
日本の投資信託を通じてS&P500へ投資する場合,米国株価の変動に加え,円と米ドルとの為替変動の影響を受ける。
円高になれば,米国株が上昇していても,円換算の基準価額が下落することがある。
また,令和8年6月末現在,S&P500の情報技術セクターの比率は約38%であり,米国及び大型情報技術企業への集中リスクがある。
したがって,本記事はS&P500への集中投資を勧めるものではない。
老後資産の大部分を一つの指数で運用する場合には,S&P500だけでなく,全世界株式インデックス又は国内外の債券を組み合わせ,分散を図ることも検討すべきである。
重要なのは特定の指数ではなく,低コストで広く分散された株式インデックスを,長期にわたり保有し続けることである。
S&P500の構成及び過去のリスク・リターンについては,S&P Dow Jones Indicesの「S&P 500」参照。
8 税制及び手数料
本人が自分の掛金を納付する場合,国民年金基金もiDeCoも,掛金の全額が所得控除の対象となる。
したがって,国民年金基金の社会保険料控除だけを,同額のiDeCoに対する決定的な優位性として扱うことはできない。
むしろ,掛金の所得控除に加え,運用益が非課税で再投資される点を踏まえれば,税制面ではiDeCoがやや優位である。
受取時には,iDeCoを年金として受け取れば公的年金等控除,一時金として受け取れば退職所得控除の対象となる。
もっとも,小規模企業共済,弁護士法人からの退職金その他の退職所得と受取時期が近い場合には,退職所得控除が重複調整されることがあるため,受取前に個別の税務試算が必要である。
iDeCoでは,国民年金基金連合会,事務委託先金融機関及び運営管理機関の手数料並びに投資信託の信託報酬等が発生する。
運営管理機関ごとに商品及び手数料が異なるため,S&P500又は全世界株式に連動する投資信託を選ぶ場合には,指数の名称だけでなく,信託報酬,実質コスト,純資産総額及び指数との連動性を確認する必要がある。
手数料は運用成果を直接押し下げるため,低コストの運営管理機関と投資信託を選ぶことが,iDeCoの優位を現実のものとする前提である。
iDeCoの税制については,iDeCo公式サイトの「iDeCoのメリット」参照。運営管理機関の比較については,iDeCo公式サイトの「運営管理機関一覧」参照。
9 iDeCoの脱退一時金
iDeCoも,単に資金が必要になったという理由で中途解約できる制度ではない。
60歳未満で脱退一時金を受け取るためには,次の要件を全て満たす必要がある。
① 60歳未満であること
② 企業型確定拠出年金の加入者でないこと
③ iDeCoに加入できないこと
④ 日本国籍を有する20歳以上60歳未満の海外居住者でないこと
⑤ 障害給付金の受給権者でないこと
⑥ 通算拠出期間が5年以下であるか,個人別管理資産が25万円以下であること
⑦ 最後に企業型確定拠出年金又はiDeCoの加入者資格を喪失した日から2年を経過していないこと
以前の「通算拠出期間3年以下」という要件は,令和3年4月1日から「5年以下」に改正されている。iDeCoも老後まで資金が拘束される点は基金と同様であり,どちらを選ぶにせよ,事業資金や生活防衛資金を確保した上で拠出すべきである。
10 どちらを優先するか
以上を総合すると,資産形成の主軸としては,iDeCoで低コストの株式インデックス投資信託を積み立てる方法が,国民年金基金より有利となる可能性が高い。
15年ないし20年以上の運用期間があり,途中で株価が大幅に下落しても積立てを継続でき,価格変動に耐えられる弁護士であれば,期待資産額,インフレへの耐性,複利による非課税運用及び死亡時の資産承継のいずれの点でも,iDeCoが基金を上回りやすい。
予定利率1.5%の固定年金に長期間拘束されることは,過去最低の条件を受け入れた上で相場上昇とインフレ追随の機会を手放すことを意味する。
国民年金基金が適しているのは,主として次のような場合である。
すなわち,自ら運用商品を選びたくない場合,株価の大幅な下落に精神的に耐えられない場合,又は何歳まで生きても途切れない終身の収入を最優先で確保したい場合である。
終身年金という一点において,基金はiDeCoにない価値を持つ。
そこで,両制度を併用できることを踏まえた現実的な方針は,役割を分けた上で拠出の重心をiDeCoに置くことである。
具体的には,国民年金基金は1口目又は少数口にとどめて最低限の終身年金を確保し,共通拠出枠の残りをiDeCoの低コスト株式インデックス投資信託へ配分する。
これにより,長生きへの備えを最小限確保しつつ,老後資産の形成という主目的はインフレと複利に強いiDeCoで担うことができる。
もっとも,退職直前に株式市場が大幅に下落するリスクがあるため,受取時期が近づいた段階では,iDeCoの資産の一部を債券型投資信託又は元本確保商品へ移すなど,価格変動を抑える必要がある。
また,iDeCoも国民年金基金も老後まで資金が拘束されるため,加入前に事業資金,生活防衛資金及び近い将来に必要となる資金を確保すべきである。
個別の有利・不利は,加入時年齢,性別,型,口数,税率及び想定余命によって変わるため,最終的には令和6年4月1日施行の掛金月額表を用いた個別の試算に基づいて判断することとなる。
第8 過去資料を読む際の注意
1 予定利率4.5%との記載
平成24年に発行された基金広報誌には,平成7年度に予定利率を5.5%から4.5%へ引き下げたとの記載がある。
しかし,日本弁護士国民年金基金の第7回財政再計算報告書3頁によれば,平成7年4月以降の新規加入者に適用された予定利率は4.75%である。
したがって,広報誌の記載を引用する場合には,引用文自体を改変せず,公式の財政再計算資料では4.75%とされている旨を注記する必要がある。
2 過去の安全性に関する説明
平成8年当時の資料には,加入者ごとに掛金と給付が見合う設計であるため,理論上は財政危機を起こさないという趣旨の説明があった。
もっとも,その後の運用環境,予定利率及び積立不足の推移に照らせば,この説明は当時の予測として読むべきであり,現在の財政状態を保証するものではない。
過去の運用実績や加入員増加に関する基金関係者の発言についても,発言時点を明記し,現在の制度説明と区別する必要がある。
3 過去の掛金試算
平成31年4月1日施行の掛金月額表に基づく掛金総額及び受給総額の試算は,当時の制度を記録する資料としては意味がある。
しかし,令和6年4月1日以降の新規加入者には新しい掛金月額表が適用されるため,現在の加入判断には使用できない。
第9 まとめ
日本弁護士国民年金基金には,終身年金と掛金全額の所得控除という利点がある。
しかし,資産形成の手段として見たとき,新規加入者に適用される予定利率が過去最低の1.5%に固定され,しかも物価スライドを持たないことは,重大な弱点である。
近年の物価上昇率がこの1.5%を上回って推移していることを踏まえれば,固定年金の実質的な購買力は,受給前から目減りしていく。
これに対し,iDeCoで低コストの株式インデックス投資信託を積み立てる方法は,複利による非課税運用,インフレへの追随,及び死亡時における資産承継という点で,固定年金にない強みを持つ。
15年ないし20年以上の運用期間を確保でき,途中の価格変動に耐えられる弁護士にとっては,期待資産額の面でも実質購買力の面でも,iDeCoが基金を上回る可能性が高い。
したがって,老後資産形成の主軸はiDeCoに置くのが合理的である。
他方,国民年金基金には,本人が何歳まで生きても給付が続く終身年金としての固有の価値がある。
この長生きへの備えは,株式投資では完全には代替できない。
そこで,資産を増やす部分はiDeCoで担い,長生きに備える最低限の終身収入は国民年金基金で確保するというように,両制度の役割を分けた上で,拠出の重心をiDeCoに置く併用が現実的である。
なお,予定利率が加入時期だけで5.5%から1.5%まで異なることは,同じ職能型基金の加入者間の公平という観点から,なお看過できない問題である。
基金は,単に財政全体が健全であると説明するだけでなく,予定利率別の加入者数及び給付債務,高い予定利率の契約を維持することの影響並びに格差を是正しない理由を,加入者に具体的に説明すべきである。
加入を検討する場合には,令和6年4月1日施行の掛金月額表を用い,加入時年齢,性別,型,口数及び税効果を反映した個別の試算を行った上で,国民年金基金を終身年金として補助的に利用するのか,iDeCoによる自己運用を主軸とするのか,両制度をどのような比率で併用するのかを判断することとなる。
第10 出典
① e-Gov法令検索「国民年金法」
② 日本弁護士国民年金基金「加入のご案内」
③ 日本弁護士国民年金基金「第7回財政再計算報告書」(令和6年2月20日提出)3頁・13頁
④ 日本弁護士国民年金基金「貸借対照表,損益計算書及び業務報告書(令和6年度分)」1頁・6頁ないし7頁
⑤ 国民年金基金連合会「積立金の運用状況」及び「令和6年度資産運用状況」16頁
⑥ 厚生労働省「iDeCoの概要」及び「2025年の制度改正」
⑦ 国税庁「No.1130 社会保険料控除」,「No.1135 小規模企業共済等掛金控除」及び「No.1600 公的年金等の課税関係」
⑧ 総務省統計局「消費者物価指数・全国・年平均」
⑨ 井村丈夫・佐竹康男『24訂版 年金相談標準ハンドブック』(日本法令,2024年)114頁・139頁・239頁・243頁
⑩ 三輪まどか・廣田久美子編『入門 社会保障法』(法律文化社,2025年)168頁
⑪ 松本哲泓『事例解説 離婚と財産分与』(青林書院,2024年)115頁
⑫ 武田守監修『すぐに役立つ 最新 図解とQ&Aでわかる 個人開業・青色申告のしくみと手続きマニュアル』(三修社,2025年)239頁
⑬ 月刊『自由と正義』令和6年2月号「特集・弁護士国民年金基金」21頁ないし36頁
⑭ S&P Dow Jones Indices「S&P 500」
⑮ 三菱UFJアセットマネジメント「S&P500指数が上昇しても基準価額が上昇しない場合」