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最高裁判所裁判官国民審査制度の合憲性に関する判決・決定(AIリライト)

第1 国民審査の法的な位置付けと本記事の対象

1 憲法79条が定める解職制度

最高裁判所裁判官の国民審査は,内閣の意思に基づき天皇又は内閣によって任命された裁判官について,国民が罷免の可否を直接判断する制度である。
憲法79条2項は,任命後初めて行われる衆議院議員総選挙の際に国民審査を行い,その後10年を経過した後に初めて行われる総選挙の際に再び国民審査を行うと定め,同条3項は,投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときはその裁判官が罷免されると定めている。

最高裁昭和27年2月20日大法廷判決は,国民審査を裁判官の任命を完成させる制度ではなく,既に任命されている裁判官を解職する制度であると位置付けた。
もっとも,最高裁昭和47年7月20日第一小法廷判決は,初回審査には解職という形式の下で任命の適否を審査する実質もあると説明しており,初回審査と10年後の再審査とでは民主的統制としての意味に違いがある。

憲法15条1項が公務員の選定及び罷免を国民固有の権利とすること,憲法78条が裁判官の身分保障を定めることから,国民審査には,国民による民主的統制と裁判官の独立を両立させる役割がある。
本記事は,この制度の投票方法,審査権及び訴訟上の救済に関する裁判例を対象とし,投票の具体的な手順は「最高裁判所裁判官の国民審査」,判断材料の探し方は「最高裁判所裁判官の国民審査における判断方法」で扱う。

2 ×印と無記載による現行の投票方法

最高裁判所裁判官国民審査法15条は,罷免を可とする裁判官について投票用紙の氏名欄に×印を記載し,罷免を可としない裁判官については何も記載しない方式を採用している。
同法32条1項により,×印の投票数が×印のない投票数を上回る裁判官は罷免を可とされたものとなるが,投票者の総数が選挙人名簿登録者数の100分の1に達しないときは罷免されない。

同法22条1項は,所定の投票用紙を用いない票,×印以外の事項を記載した票及び自ら×印を記載していない票を無効とする。
同条2項は,2人以上の裁判官を同じ用紙で審査する場合に,自書でない×印又はどの裁判官について記載したか確認できない×印があるときは,その記載に対応する部分だけを無効とする。

3 制度制定時から存在した二つの要請

第90回帝国議会の憲法改正案審議では,内閣による最高裁判所裁判官の任命に国民の民主的統制を及ぼす必要性が論じられた一方,国民審査が裁判官を政治的な圧力にさらすおそれも指摘された。
現行制度の合憲性を検討するときは,罷免権の実効性だけでなく,裁判官が個別事件で多数の意向に迎合しないことを保障する憲法76条3項及び78条との関係も考慮する必要がある。

第2 ×印・無記載方式を合憲とした裁判例

1 最高裁昭和27年2月20日大法廷判決

昭和24年1月23日に行われた第1回国民審査では,×印を付けなかった票を罷免を可としない投票として数えることが,思想及び良心の自由,表現の自由並びに投票の秘密などに反するかが争われた。
最高裁昭和27年2月20日大法廷判決(昭和24年(オ)第332号,民集6巻2号122頁)は,国民審査の実質は解職制度であり,積極的に罷免を可とする意思だけを×印で表示させ,×印のない票を罷免を可としない投票として数える方式は,憲法19条,21条及び79条に反しないとした。

この判決が合憲としたのは,国民審査を解職制度と捉えた場合の×印・無記載方式である。
憲法が将来にわたりこの方式だけを要求しているとか,国民審査に関するすべての制度設計を包括的に合憲としたという判決ではない。

2 昭和35年判決及び昭和40年判決

最高裁昭和35年4月14日第一小法廷判決は,昭和27年大法廷判決を引用し,解職制度という理解と×印のない票の取扱いを維持した。
最高裁昭和40年9月10日第二小法廷判決も,国民審査を任命行為の解除条件とみる主張を退け,法廷意見は従来の解職制度論を維持した。

昭和40年判決の補足意見は,初回審査の対象を裁判官の任命の適否と捉えながらも,罷免を可とする意思だけを×印で表示させる現行方式は憲法に反しないとした。
この補足意見は結論に賛成して理由を補ったものであり,法廷意見と結論が対立する意見ではない。

3 投票の秘密と審査結果への影響

東京高裁昭和32年11月7日判決は,投票所における用紙交付等の取扱いが投票の秘密を害したと判断したが,その違法が審査結果に異動を及ぼすおそれはなかったとして,国民審査を無効としなかった。
国民審査法37条1項による審査無効訴訟では,法令違反があったというだけでなく,その違反によって審査結果に異動を及ぼすおそれがあることが必要である。

第3 初回審査の意味と裁判官ごとの個別棄権

1 最高裁昭和47年7月20日判決及び同月25日判決

最高裁昭和47年7月20日第一小法廷判決は,初回審査が解職の形式を採りながらも,任命の適否を審査する実質を有するとした。
その上で,複数の裁判官を1枚の投票用紙で審査する連記式,×印を付さない欄を罷免を可としない投票として数える方式及び裁判官ごとの個別棄権を認めない仕組みを憲法に反しないとした。

最高裁昭和47年7月25日第三小法廷判決も,同様に個別棄権,無記載票の取扱い及び投票所の構造等に関する主張を退けた。
したがって,現在の投票用紙で一部の裁判官についてだけ判断を留保するために欄を空白にしても,その欄は棄権ではなく「罷免を可としない投票」として数えられる。

2 判例が認めた立法上の選択の幅

これらの判例は,×印と無記載を組み合わせる現行方式が憲法上許されると判断したものである。
○印と×印を併用する方式その他の制度を国会が採用することまで憲法が禁止したとは判示しておらず,投票方式を変更すべきかどうかは,判例の合憲判断とは別の立法政策上の問題である。

第4 平成31年決定が判断した審査無効訴訟の範囲

1 最高裁平成31年3月12日第三小法廷決定

最高裁平成31年3月12日第三小法廷決定(平成30年(行ツ)第185号)は,18歳及び19歳の者に衆議院議員選挙権を認めた法改正に伴い,これらの者が国民審査へ参加したことを理由として審査の無効が請求された事件である。
最高裁は,その主張は国民審査法37条1項が審査無効原因とする「この法律又はこれに基づいて発する命令に違反すること」には当たらず,同法36条の審査無効訴訟で主張できないとした。

この裁判例の形式は判決ではなく決定である。
また,18歳及び19歳の者に国民審査権を認めること自体の実体的な合憲性を判断したものではなく,審査無効訴訟で主張できる無効原因の範囲を示した決定である。

第5 在外国民の国民審査権をめぐる違憲判決

1 平成23年東京地裁判決から令和4年大法廷判決まで

公職選挙法の改正により在外選挙制度が整備された後も,国民審査法には在外国民が国民審査権を行使する仕組みがなかった。
東京地裁平成23年4月26日判決は在外国民による先行訴訟の請求を退けたが,別の訴訟における東京地裁令和元年5月28日判決及び東京高裁令和2年6月25日判決は,在外国民に国民審査権の行使を認めない立法状態を違憲と判断した。

最高裁令和4年5月25日大法廷判決(令和2年(行ツ)第255号,令和2年(行ヒ)第290号ないし第292号,民集76巻4号711頁)は,在外国民の国民審査権が憲法15条1項並びに79条2項及び3項によって保障されているとした。
国民審査権の行使を制限することは原則として許されず,制限なしに国民審査の公正を確保しつつ権利行使を認めることが事実上不可能又は著しく困難であると認められるやむを得ない事由がある場合に限り,制限が合憲となり得ると判示した。

最高裁は,在外国民に国民審査権の行使を全く認めない立法状態について,そのようなやむを得ない事由は認められないとして違憲と判断した。
この判決により,昭和27年大法廷判決を根拠として国民審査制度のあらゆる部分が合憲であると一般化できないことが明確になった。

2 違法確認請求と国家賠償請求

令和4年大法廷判決は,在外国民に次回の国民審査で審査権を行使させないことが違法であるとの確認を求める訴えについて,公法上の法律関係に関する確認の訴えとして適法であり,確認の利益もあるとして請求を認容した。
他方,在外国民が次回の国民審査で審査権を行使できる地位にあることの確認請求は理由がないとしたため,二つの確認請求を混同してはならない。

最高裁は,長期間にわたり必要な立法措置が取られなかったことについて国家賠償法1条1項上の違法も認めた。
この点は,在外国民の国民審査権の保障に加え,立法不作為に対する国家賠償及び行政事件訴訟法4条の確認訴訟という救済方法を示した点でも重要である。

第6 令和4年改正後の在外国民審査

1 令和4年法律第86号

最高裁令和4年大法廷判決を受け,最高裁判所裁判官国民審査法の一部を改正する法律(令和4年法律第86号)が令和4年11月11日に成立し,同月18日に公布された。
同法は令和5年2月17日に施行され,在外投票,洋上投票及び南極投票の仕組みが設けられた。

改正法は,点字投票の場合を除き,投票用紙に審査対象裁判官の氏名を印刷せず,告示番号を用いて罷免を可とする裁判官を選ぶ方式を在外投票等に採用した。
これは,衆議院の解散から投票日までの短期間に,裁判官名を印刷した投票用紙を国外へ確実に届けるという従来指摘された技術的な問題に対応する仕組みである。

2 改正法による実施

令和6年10月27日の第26回国民審査で,改正法に基づく在外国民審査が初めて実施された。
令和8年2月8日の第27回国民審査でも在外投票が案内されており,在外国民の国民審査権を全く認めなかった令和4年判決当時の立法状態は解消されている。

もっとも,令和4年大法廷判決の意義は改正法の成立だけに尽きない。
憲法上保障された国民審査権を制限する場合の審査基準と,違法確認及び国家賠償による救済を示した判例として,現在も独立した意味を持つ。

第7 公刊・公開資料で確認できた直接関連裁判例

次の一覧は,裁判所ウェブサイトの個別ページ,裁判所公開PDF及び公刊資料で,国民審査の効力,投票方式,審査権又は訴訟形式を直接扱うことを確認できた裁判例を時系列に並べたものである。
裁判所ウェブサイトはすべての裁判例を収録するものではないため,非公刊裁判例を含む絶対的な全件一覧を意味するものではない。

裁判例事件番号・掲載誌主な争点又は結論
東京高裁昭和24年12月5日判決昭和24年(行ナ)第3号,高民集2巻3号325頁第1回国民審査の効力。解職制度及び×印方式を適法とした昭和27年大法廷判決の原審。
最高裁昭和27年2月20日大法廷判決昭和24年(オ)第332号,民集6巻2号122頁解職制度,×印方式及び無記載票の取扱いを合憲とした。
東京高裁昭和29年11月9日判決昭和27年(行ナ)第32号ほか,高民集7巻11号943頁投票方式及び審査公報等に関する主張を退けた。
東京高裁昭和32年11月7日判決昭和30年(行ナ)第20号,高民集10巻9号500頁投票の秘密を害する取扱いを認めたが,結果に異動を及ぼすおそれがないとして無効請求を退けた。
最高裁昭和35年4月14日第一小法廷判決昭和33年(オ)第100号,裁判集民事41号241頁昭和27年大法廷判決の解職制度論を維持した。
最高裁昭和40年9月10日第二小法廷判決昭和39年(行ツ)第107号,裁判集民事80号275頁任命行為の解除条件とみる主張を退けた。補足意見は任命審査の実質に言及した。
最高裁昭和47年7月20日第一小法廷判決昭和45年(行ツ)第118号,裁判集民事106号513頁初回審査の任命審査としての実質,連記式及び個別棄権を認めない方式を扱った。
最高裁昭和47年7月25日第三小法廷判決昭和46年(行ツ)第6号,裁判集民事106号633頁個別棄権,無記載票及び投票所の構造等に関する主張を退けた。
東京地裁平成23年4月26日判決平成22年(行ウ)第162号ほか在外国民の国民審査権をめぐる先行訴訟で請求を退けた。
最高裁平成31年3月12日第三小法廷決定平成30年(行ツ)第185号,裁判集民事261号103頁18歳及び19歳の参加に関する主張は審査無効訴訟の無効原因にならないとした。
東京地裁令和元年5月28日判決平成30年(行ウ)第143号,判時2420号35頁在外国民の審査権行使を認めない立法状態を違憲とした。
東京高裁令和2年6月25日判決令和元年(行コ)第167号,判時2460号37頁違憲判断を維持し,確認請求等について第一審と異なる判断をした。
最高裁令和4年5月25日大法廷判決令和2年(行ツ)第255号,令和2年(行ヒ)第290号ないし第292号,民集76巻4号711頁在外国民に国民審査権を全く認めない立法状態を違憲とし,違法確認請求及び国家賠償請求を認容した。

第8 判例の射程と制度改善を分けて考える必要性

1 合憲判断は具体的な争点ごとに読む必要があること

国民審査に関する判例は,昭和27年以降,解職制度,×印・無記載方式,個別棄権を認めない方式及び連記式を合憲としてきた。
他方,平成31年決定は審査無効訴訟の無効原因の範囲を扱い,令和4年大法廷判決は在外国民の国民審査権を全く認めない立法状態を違憲としたため,各裁判例が判断した対象と射程を分ける必要がある。

2 情報提供と投票方式をめぐる立法政策

国民審査法53条は,審査対象裁判官の氏名,生年月日,経歴その他の事項を掲載する審査公報の発行を定めている。
最高裁判所ウェブサイトでは経歴,最高裁判所において関与した主要な裁判及び裁判官としての心構え等も公表されるが,任命から初回審査までの期間が短い裁判官について,国民がどのような情報に基づいて判断するかという問題は残る。

政府は,第215回国会における質問主意書への答弁で,国民審査公報,最高裁判所ウェブサイト及び報道機関による情報提供により,判断に必要な情報が提供されているとの見解を示し,○印と×印を併用する方式への変更を検討する考えはないとしている。
これは現行制度に関する政府見解であり,憲法が制度改善を禁止しているという意味ではない。

昭和24年の第1回国民審査以降,罷免された裁判官はいないとされ,令和8年2月8日の第27回国民審査でも審査対象の2人はいずれも罷免を可とされなかった。
もっとも,罷免例がないという結果だけから,任命された全裁判官への積極的な信任又は制度の形骸化のいずれか一方を原因として断定することはできない。

第9 関連する記事

国民審査の期日,投票資格及び期日前投票等は「最高裁判所裁判官の国民審査」,個々の裁判官に関する情報の確認方法は「最高裁判所裁判官の国民審査における判断方法」を参照されたい。
現職の最高裁判所裁判官の一覧及び最高裁判所裁判官任命諮問委員会の沿革は,任命と国民審査の関係を理解するための別記事として整理している。

第10 出典・参考資料

1 法令

日本国憲法15条,19条,21条,76条3項,78条及び79条
最高裁判所裁判官国民審査法15条,16条の2ないし16条の4,22条,32条,36条,37条及び53条
行政事件訴訟法4条
国家賠償法1条1項
最高裁判所裁判官国民審査法の一部を改正する法律(令和4年法律第86号)

2 裁判例

東京高裁昭和24年12月5日判決,昭和24年(行ナ)第3号,高民集2巻3号325頁
最高裁昭和27年2月20日大法廷判決,昭和24年(オ)第332号,民集6巻2号122頁
東京高裁昭和29年11月9日判決,昭和27年(行ナ)第32号ほか,高民集7巻11号943頁
東京高裁昭和32年11月7日判決,昭和30年(行ナ)第20号,高民集10巻9号500頁
最高裁昭和35年4月14日第一小法廷判決,昭和33年(オ)第100号,裁判集民事41号241頁
最高裁昭和40年9月10日第二小法廷判決,昭和39年(行ツ)第107号,裁判集民事80号275頁
最高裁昭和47年7月20日第一小法廷判決,昭和45年(行ツ)第118号,裁判集民事106号513頁
最高裁昭和47年7月25日第三小法廷判決,昭和46年(行ツ)第6号,裁判集民事106号633頁
東京地裁平成23年4月26日判決,平成22年(行ウ)第162号ほか
最高裁平成31年3月12日第三小法廷決定,平成30年(行ツ)第185号,裁判集民事261号103頁
東京地裁令和元年5月28日判決,平成30年(行ウ)第143号,判時2420号35頁
東京高裁令和2年6月25日判決,令和元年(行コ)第167号,判時2460号37頁
最高裁令和4年5月25日大法廷判決,令和2年(行ツ)第255号,令和2年(行ヒ)第290号ないし第292号,民集76巻4号711頁

3 国会資料・公的資料

① 第90回帝国議会貴族院帝国憲法改正案特別委員会議事速記録,昭和21年9月28日及び同月30日,国立国会図書館帝国議会会議録検索システム
② 衆議院「最高裁判所裁判官国民審査法の一部を改正する法律案の経過情報」,令和4年法律第86号
③ 外務省「令和6年10月27日執行 第50回衆議院議員総選挙及び第26回最高裁判所裁判官国民審査に伴う在外投票の実施」,令和6年10月15日
④ 外務省「令和8年2月8日執行 第51回衆議院議員総選挙及び第27回最高裁判所裁判官国民審査に伴う在外投票の実施」,令和8年1月27日
⑤ 内閣「衆議院議員北野裕子君提出最高裁判所裁判官の国民審査における情報提供の充実と実効性確保に関する質問に対する答弁書」,令和6年11月22日
⑥ 衆議院「第221回国会政治改革に関する特別委員会第2号」,令和8年6月11日

4 文献

① 大竹敬人「最高裁判所裁判官国民審査権訴訟」『法律のひろば』75巻11号(令和4年)50頁~55頁
② 渡辺康行編『憲法訴訟の実務と学説』(日本評論社,令和5年)所収・吉田京子「在外国民審査権訴訟」200頁~210頁
③ 木下智史・伊藤建『基本憲法Ⅱ 総論・統治』(日本評論社,令和7年)189頁~192頁
④ 本秀紀編『憲法講義〔第4版〕』(日本評論社,令和8年)285頁~286頁
宇賀克也管見 最高裁判所』(有斐閣,令和8年)92頁~96頁・318頁~323頁