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スキャン代行は著作権侵害になるか-自炊代行訴訟の確定判決と,許諾なしにできる範囲(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

1 対象と調査の基準日

この記事は,紙の書籍又は書類を第三者の事業者に預けてスキャンさせ,電子ファイルを受け取る行為(スキャン代行)について,日本の著作権法上どのような評価を受けるかを扱う。
調査の基準日は令和8年9月7日であり,法令の条文は同日現在のe-Gov法令検索で確認した現行条文による。
裁判例は,同日に裁判所ウェブサイトで実在及び全文を確認したものを用いる。
電子帳簿保存法上のスキャナ保存の要件,個人情報保護法上の委託先監督義務及び秘密保持契約上の問題は扱わない。
生成AIの学習のための複製(著作権法30条の4)も対象外である。

2 結論

書籍のスキャン代行は,著作権者の許諾がなければ複製権(著作権法21条)の侵害となる。
これは,東京地方裁判所平成25年9月30日判決,東京地方裁判所平成25年10月30日判決及び知的財産高等裁判所平成26年10月22日判決が一致して判断したところであり,控訴審判決は上告受理申立てが不受理となって確定している。

依頼者が私的使用の目的であっても,この結論は変わらない。
私的使用のための複製を認める著作権法30条1項は,①個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とすること,及び②その使用する者が複製すること,という二つを要件とする。
スキャン代行では複製の主体が事業者であるところ,事業者は営利目的で不特定多数の顧客へ納品するために複製しているから①を欠き,電子ファイルを私的に使用するのは依頼者であって事業者ではないから②も欠く。

許諾なしにできるのは,自分でスキャンする場合,対象がそもそも著作物でない場合,保護期間が満了している場合及び図書館等における一部分の複製に限られる。
逆に見落とされやすいのは,仕事のための複製がそもそも私的使用に当たらないことであり,これは自社でスキャンしても同じである。

3 三つの類型を分けて考える

「スキャン代行」という同じ語で呼ばれるサービスには,法的な検討事項が異なる三つの類型が含まれている。
同じ語が,書籍の電子化を指して使われることも,事務書類の電子化を指して使われることもある。
どの類型の話をしているのかを最初に確定しないと,判決の射程を誤ることになる。

第一は,利用者が所有する書籍を業者へ送り,業者が裁断してスキャンし電子ファイルを納品する類型であり,いわゆる自炊代行である。
判決が集積しているのはこの類型であって,本記事の第2及び第3は主にこれを扱う。

第二は,企業が保有する契約書,請求書,図面,カルテ等の事務書類を業者へ委託して電子化する類型である。
対象文書に著作物性がなければ著作権法上の問題は生じないが,購読している新聞,購入した書籍,学術論文,規格票等が混在すると別の評価になる。

第三は,店舗に裁断機とスキャナーを設置し,客が自ら作業する類型である。
この類型を直接扱った裁判例は,裁判所ウェブサイトで確認した範囲では見当たらないが,第4の6で述べるとおり別の条文上の論点がある。

第2 自炊代行訴訟で何が判断されたか

1 三つの判決と確定までの経過

小説家,漫画家又は漫画原作者である7名が原告となり,複数のスキャン事業者を被告として提起した訴訟について,東京地方裁判所で二つの判決が言い渡された。
平成25年9月30日判決(平成24年(ワ)第33525号)は株式会社サンドリーム及び有限会社ドライバレッジジャパンとその代表者らを,平成25年10月30日判決(平成24年(ワ)第33533号)は株式会社ユープランニング,株式会社タイムズ,株式会社ビー・トゥ・システムズ及び有限会社ジャカレ・アセット・マネジメントとその代表者らを被告とするものである。

前者に対してはドライバレッジ及びその取締役だけが控訴し,知的財産高等裁判所平成26年10月22日判決(平成25年(ネ)第10089号)が控訴を棄却した。
裁判所ウェブサイトの裁判例詳細ページによれば,同判決に対しては上告受理申立てがされたが,平成28年3月16日に不受理とされている。
したがって,控訴審の判断はその時点で確定している。

裁判所ウェブサイトの裁判例検索で「スキャン代行」を検索語として得られる裁判例は,令和8年9月7日現在,この三件である。
掲載がないことは裁判例が存在しないことを意味しないが,公開されている裁判例の範囲は限られている。

2 東京地方裁判所平成25年9月30日判決

(1) 事業の内容

サンドリームは「ヒルズスキャン24」の名称で,ドライバレッジは「スキャポン」の名称でスキャン事業を行っていた。
サンドリームの料金は納期に応じて1冊100円から480円であり,1冊の基準は500頁である。
ドライバレッジのスキャン料金は1冊200円で,ブックカバースキャンとOCR処理がセットの「お急ぎ便」は1冊380円であり,1冊は350頁までとされていた。
いずれも,利用者がオンライン書店から業者の指定する住所へ直送することもできた。

(2) 訴訟前の経緯

原告らを含む作家122名と出版社7社は,平成23年9月5日付けの質問書により,スキャン事業者約100社に対し,作家122名は利用を許諾していないと通知した上で,依頼があればスキャン事業を行う予定があるかを質問した。
サンドリームはこれに回答せず,同年10月17日付けの通知書にも回答しなかった。
ドライバレッジは同年9月15日付けの回答書で,作家122名の作品については利用者の依頼があってもスキャン事業を行うことがないと回答し,ウェブサイトの「著作権について」と題するページにスキャン対応不可の著作者一覧として120名を掲載した。

ところが,原告ら代理人が調査会社に依頼して行った試験発注に対し,両社ともスキャンによって作成したファイルを納品した。
さらにドライバレッジは,質問書に回答した翌月である平成23年10月から平成25年1月までの間に,原告らの作品を合計557冊スキャンして納品した事実を自認した。

(3) 複製の主体についての判断

判決は,最高裁判所第一小法廷平成23年1月20日判決(いわゆるロクラクⅡ事件判決)を参照し,複製の主体は「複製の実現における枢要な行為をした者は誰か」という見地から検討するのが相当であるとした。
その上で,利用者による申込みから納品までの一連の経過のうち,「電子ファイル化の作業が複製における枢要な行為というべきである」とし,その作業をしているのは事業者であって利用者ではないから,事業者を複製の主体と認めるのが相当であるとした。

事業者が利用者の手足にすぎないという主張については,利用者が手足として他の者を利用して複製を行う場合に「その使用する者が複製する」と評価できる場合もあり得るとしつつ,そのためには「手足とされるものの行為が複製のための枢要な行為であって,その枢要な行為が利用者の管理下にあるとみられることが必要である」とした。
本件では事業者が利用者の管理下で複製しているとはみられないとして,この主張は排斥された。

判決は,著作権法30条1項の位置付けについても述べている。
同項は,複製の主体が利用者であるとして利用者が被告とされるとき,又は事業者が間接侵害者若しくは教唆・幇助者として被告とされるときに,利用者側の抗弁として適用が問題となるものと解されるところ,本件では複製の主体が事業者とされているから,そもそも同項の適用が問題となる場面ではない,というものである。

(4) 複製物の数は増えていないという主張

ドライバレッジは,「複製」といえるためには有形的な再製に加えて複製物の数が増加することが必要であり,裁断した書籍を原則として廃棄する以上,過程全体を通じて複製物の数は増えていないから「複製」に当たらないと主張した。
情報と媒体が1対1の関係に保たれている以上,市場に流通する複製物の数は不変であって著作者の経済的利益を害しないという理屈である。

判決はこれを排斥した。
著作権法21条が複製を著作権者の排他的権利とした趣旨は,複製物が作成されるとこれが反復して利用される可能性・蓋然性があることにあるから,同法上の「複製」は有形的再製それ自体をいうのであって,有形的再製後の著作物及び複製物の個数によって複製の有無が左右されるものではない,という理由である。

(5) 結論

差止請求は認容され,損害賠償は原告1名につき10万円の限度で認容された。
権利濫用の抗弁も排斥されている。
裁判体は東京地方裁判所民事第29部であり,裁判長は大須賀滋裁判官(36期),陪席は小川雅敏裁判官(46期)及び西村康夫裁判官(53期)である。

3 東京地方裁判所平成25年10月30日判決

この判決も,ロクラクⅡ事件判決を参照し,複製の実現に当たり枢要な行為をしている者が複製の主体であるとした。
その上で,著作権法30条1項にいう「その使用する者が複製する」というためには,「使用者自身により複製行為がされるか,あるいは使用者の手足とみなしうる者によりこれがされる必要がある」とし,被告らはそのいずれでもないとした。

この判決には,利用規約の効果について正面から判断した部分がある。
被告タイムズは,自社ウェブサイトに「本サービスはお客様に代わって書籍を裁断及びスキャンする内容となりますので,対象書籍はお客様が自ら所有する書籍に限らせていただきます。また,書籍から変換された電子データは,私的使用の範囲内でのみ利用し,ネット上で公開したり,誰でも閲覧できる状態にしないようご注意ください。」と記載していたことを援用した。
判決は,複製行為の主体は被告であると認められる以上,この記載は認定を左右するものではないとした。
利用規約に私的使用に限る旨の文言を置いても,事業者自身の複製権侵害を避けることはできない。

被告ビー・トゥ・システムズは,自社が行っているのは書籍の加工であって複製ではないとも主張した。
裁断後の原本を廃棄又は返却しており,一冊の本から一つの電子データが作られているにすぎず,電子データを販売してもいない,というのがその理由である。
判決は,複製の元となる書籍の原本の複製後の帰趨や,電子ファイルがその後販売されているか否かは複製権侵害の成否に影響しないとして,この主張を排斥した。

差止請求は認容され,損害賠償は原告1名につき10万円の限度で認容された。
裁判体は東京地方裁判所民事第40部であり,裁判長は東海林保裁判官(41期)である。

4 知的財産高等裁判所平成26年10月22日判決

(1) 判断の枠組みが第一審と異なる

控訴審判決は,判断部分において最高裁判所の裁判例を引用していない。
出発点としたのは,「複製行為の主体とは,複製の意思をもって自ら複製行為を行う者をいうと解される」という直接の行為者に着目した基準である。

その上で,控訴人ドライバレッジは,独立した事業者として営利を目的にサービスの内容を自ら決定し,スキャン複製に必要な機器及び事務所を準備・確保した上で,インターネットで宣伝広告を行って不特定多数の一般顧客を誘引し,その管理・支配の下で書籍を裁断してスキャンし,検品して納品し,利用者から対価を得ていると認定した。
そうすると,控訴人は「利用者と対等な契約主体であり,営利を目的とする独立した事業主体として」複製行為を行っているのであるから,複製行為の主体であると認めるのが相当である,というのが結論である。

(2) 著作権法30条1項の趣旨についての判示

控訴審判決は,同項が「その使用する者が複製する」という限定を付した趣旨について,次のように述べている。
すなわち,同項は,個人的又は家庭内のような閉鎖的な私的領域における零細な複製のみを許容し,「私的複製の過程に外部の者が介入することを排除し,私的複製の量を抑制するとの趣旨・目的を実現しようとしたもの」と解される,というものである。

そこから導かれた判断は次のとおりである。
本件サービスにおける複製行為が利用者個人が私的領域内で行い得る行為にすぎず,利用者が複製する著作物を決定するものであったとしても,「独立した複製代行業者として本件サービスを営む控訴人ドライバレッジが著作物である書籍の電子ファイル化という複製をすることは,私的複製の過程に外部の者が介入することにほかならず,複製の量が増大し,私的複製の量を抑制するとの同条項の趣旨・目的が損なわれ,著作権者が実質的な不利益を被るおそれがあるから,『その使用する者が複製する』との要件を充足しない」。

これは,事業者が利用者の手足に当たるかどうかを検討するまでもなく,独立した代行業者が介入すること自体で要件を満たさないという判断である。
代行というビジネスモデルにとっては,手足論の当てはめよりもこちらの判示の方が射程が広い。

(3) 控訴人の主張が排斥された理由

控訴人は,出版社が著作権者の了解を得ずに印刷業者へ原稿を持ち込んで印刷させる場合に,印刷業者ではなく出版社が複製の主体とみられていることを引き合いに出した。
これに対し判決は,スキャン代行業者は「通常,書籍の電子ファイル化が,その書籍の著作権者の複製権を侵害するか否かを容易に知り得る」のであり,その上でサービス内容を決定し,宣伝広告により顧客を誘引し,書籍の題名及び著作者等を確認した上で複製しているのであるから,印刷業者と出版社の関係に類するものとみることは相当でないとした。
権利者を確認できる立場にあることが,むしろ責任を基礎づける方向に働いている点は注意を要する。

控訴人はまた,裁断本を廃棄するから複製は零細であり権利者に与える影響は軽微であるとも主張した。
判決は,書籍が電子ファイルに転換されることにより「同電子ファイルが容易に第三者に対して転々譲渡され得る」から,影響が軽微であると断定することはできないとした。

控訴人は,書籍の電子ファイル化が単純かつ機械的な作業であり,スキャン機器が汎用品であって私人において容易に準備・使用できるものであることも主張した。
判決は,そのことによって,独立した事業者として複製の意思をもって自ら複製行為をしている控訴人の主体性が失われるものではないとした。

(4) 裁判体と判決要旨の誤記

裁判体は知的財産高等裁判所第4部であり,裁判長は富田善範裁判官(29期),陪席は田中芳樹裁判官(46期)及び柵木澄子裁判官(51期)である。
口頭弁論の終結は平成26年9月17日であり,第一審判決の言渡しから約1年である。

裁判所ウェブサイトに掲載されている本判決の判決要旨には,「控訴人会社の行為による複製の主体は被控訴人会社であり」という記載がある。
被控訴人は小説家等の個人であって会社ではなく,判決本文は控訴人会社を複製の主体としているから,これは「控訴人会社」の誤りである。
判決要旨だけを読んで引用すると主体が逆になる。

5 第一審と控訴審で理由づけが異なる意味

第一審の二つの判決は,ロクラクⅡ事件判決を参照して「複製の実現における枢要な行為」を誰がしたかという規範的な基準で主体を決めた。
控訴審判決は,「複製の意思をもって自ら複製行為を行う者」という直接の行為者の基準から出発し,スキャンを専ら業として行っているのが事業者であることを認定した上で,独立した営利事業主体であることを重ねている。

この違いには理由があると考えられる。
ロクラクⅡ事件判決は,サービス提供者がその管理,支配下でテレビアンテナにより受信した放送を複製機器へ入力していた事案について,「複製時におけるサービス提供者の上記各行為がなければ,当該サービスの利用者が録画の指示をしても,放送番組等の複製をすることはおよそ不可能なのであり,サービス提供者を複製の主体というに十分である」と述べたものである。
これに対し,スキャン代行では利用者が自分でスキャンすることも可能であるから,「およそ不可能」という要素は当てはまらない。
控訴人はまさにこの点を突いて主張しており,控訴審が直接の行為者の基準を採ったのは,この差を踏まえたものと考えられる。

なお,ロクラクⅡ事件判決には金築誠志裁判官(21期)の補足意見が付されている。
同補足意見は,いわゆるカラオケ法理について「法概念の規範的解釈として,一般的な法解釈の手法の一つにすぎない」とし,考慮されるべき要素は行為類型によって変わり得るのであるから,行為に対する管理,支配と利益の帰属という二要素を固定的なものと考えるべきではないと述べている。
自炊代行訴訟の三つの判決も,この二要素をそのまま当てはめる形はとっていない。

第3 誰が責任を負い,何を請求されるか

1 差止めの主文は作品を特定したもの

三つの判決は,いずれも「第三者から委託を受けて別紙作品目録記載の作品が印刷された書籍を電子的方法により複製してはならない」という主文で,著作権法112条1項に基づく差止めを認めた。
差止めの対象は原告らの作品に限られており,スキャン事業そのものを全面的に禁止したものではない。
同項は侵害するおそれがある者に対する請求を認めているから,現に侵害していることまで立証する必要はない。

2 損害は弁護士費用相当額である

三つの判決が認容した損害額は,いずれも原告1名につき10万円である。
これは複製に対する使用料相当額ではなく,弁護士費用相当額である。

判決は,著作権法112条1項に基づく差止請求について,著作権者が主張立証すべき事実は不法行為に基づく損害賠償を請求する場合とほとんど変わらないとした上で,同項に基づく差止請求権は「著作権者がこれを訴訟上行使するためには弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動をすることが困難な類型に属する請求権である」とした。
そこから,差止めを請求するため訴えを提起することを余儀なくされて訴訟追行を弁護士に委任した場合には,相当と認められる額の範囲内の弁護士費用が侵害又は侵害のおそれと相当因果関係に立つ損害となる,と結論している。
差止請求だけを認容する事案でも弁護士費用が損害として認められた点は,実務上の意味が大きい。

3 代表者個人も責任を負う

三つの判決は,いずれも会社の代表者又は取締役個人についても会社と共同して不法行為責任を負うとした。
控訴審判決は,取締役が「本件サービス事業の運営統括責任者として事業を統括し,本件質問書の送付を受けたことについても認識している」ことを理由に挙げている。
権利者からの照会又は警告を受領していながら事業を継続したことが,個人責任の根拠となっている。

4 刑事責任と親告罪

著作権を侵害した者は,10年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金に処せられ,又はこれを併科される(著作権法119条1項)。
同項は私的使用の目的をもって自ら複製を行った者を除外しているが,スキャン代行の事業者は複製の主体であって私的使用の目的を欠くから,この除外は及ばない。

この罪は告訴がなければ公訴を提起することができない(著作権法123条1項)。
同条2項は一定の場合を非親告罪としているが,その要件は「原作のまま複製された複製物を公衆に譲渡し,又は原作のまま公衆送信を行うこと」等であり,スキャン代行の納品は依頼者一人に対するものであるから,本記事ではこれに当たらないものと整理する。

告訴には期間の制限がある。
親告罪の告訴は犯人を知った日から6箇月を経過したときはすることができず(刑事訴訟法235条本文),著作権法にこの期間を延長する特則は置かれていない。

5 依頼した側はどうなるか

三つの判決は,いずれも事業者及びその代表者を被告とするものであり,依頼者の責任を判断していない。
複製の主体が事業者であるとされた以上,依頼者は複製行為の主体ではないことになる。

もっとも,依頼者が事業者の侵害行為を教唆し,又は幇助したと評価される余地は残されている(民法719条2項)。
判決が判断していない以上,依頼すれば当然に責任を負わないと言い切ることはできない。

6 期間制限

不法行為に基づく損害賠償請求権は,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間,又は不法行為の時から20年間行使しないときは,時効によって消滅する(民法724条)。
複製が反復して行われている場合には,個々の複製ごとに起算点を考える必要がある。

これに対し,著作権法112条1項の差止請求権に消滅時効の規定は置かれていない。
過去の損害賠償を請求できなくなっていても,将来に向けた差止めを求めることは妨げられない。

第4 許諾なしにできる範囲

1 自分でスキャンする

利用者が自ら所有する書籍を,自ら裁断しスキャンして自分で使用する限り,著作権法30条1項の要件を満たす。
三つの判決も,自炊そのものを違法としたものではない。

2 仕事のための複製はそもそも私的使用ではない

見落とされやすいのはこの点である。
文化庁の「著作権テキスト」令和8年度版は,著作権法30条の条件として「個人的に又は家庭内など,限られた範囲内での使用を目的とすること(仕事での利用は対象外)」と明記している。

したがって,企業が業務のために書籍,新聞又は学術論文をスキャンする行為は,自社で行っても私的使用のための複製に当たらない。
外注できるかどうか以前の問題として,著作権者又は権利委託先の許諾が必要になる。
事務書類の電子化を外注するときに確認すべきなのは,対象文書の中に自社が作成したものではない著作物が混じっていないかである。

3 そもそも著作物でない書類

社内の帳票,定型的な事務書類,数値データの一覧などは,思想又は感情を創作的に表現したものといえなければ著作物ではなく,スキャンを外注しても著作権法上の問題は生じない。
裁判所の判決,決定,命令及び審判並びに行政庁の裁決及び決定で裁判に準ずる手続により行われるものは,著作権法13条3号により権利の目的となることができない。
憲法その他の法令,国等が発する告示,訓令,通達も同様である(同条1号,2号)。

もっとも,事件記録には準備書面,鑑定書,論文の写し,写真,図面など著作物性が問題となる資料が混在する。
記録一式を機械的に外注する前に,中身の区別が必要である。

4 保護期間が満了した著作物

保護期間が満了していれば複製権は存在しないから,スキャンを外注しても侵害にはならない。
ただし,同一の書籍の中に,解説,注記,翻訳,装丁など保護期間内の要素が含まれていることがあるので,書籍単位ではなく要素単位で確認する必要がある。

5 図書館等における複製

著作権法31条1項1号は,図書館等が,利用者の求めに応じ,その調査研究の用に供するために,公表された著作物の「一部分」の複製物を「一人につき一部」提供する場合を,営利を目的としない事業として行うことを認めている。
全部の複製物を提供できるのは,国等の周知目的資料その他政令で定めるものに限られる。
同条2項は,特定図書館等が利用者の求めに応じて図書館資料の一部分について公衆送信を行うことを認めているが,こちらも一部分が原則である。
一冊まるごとの電子化を図書館に求めることはできない。

6 店舗設置型と著作権法30条1項1号

著作権法30条1項1号は,公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を用いて複製する場合を,私的使用のための複製から除外している。
もっとも,同法附則5条の2は,「当分の間」,同号の自動複製機器には「専ら文書又は図画の複製に供するもの」を含まないものとしている。

文化審議会に提出された日本文藝家協会の意見によれば,この附則は昭和59年に追加されたものであり,平成23年の時点で既に「当分の間」が27年以上に及んでいると指摘されていた。
同意見は附則5条の2を削除すべきであるとするものであったが,削除は実現しておらず,令和8年9月7日現在も同附則は存続している。

したがって,店舗に裁断機とスキャナーを置いて客に自ら作業させる類型は,同号による除外を受けない。
しかし,それは同号に該当しないというだけであって,適法性が保障されるわけではない。
店舗側が実質的に複製の主体と評価されるかどうかは,機器の管理・支配の程度,従業員の関与の内容,店舗が裁断済みの書籍を用意しているかどうか等によって別途判断されることになる。

同号が昭和59年に設けられた理由について,文化庁の資料は,店頭に高速ダビング機を設置し顧客に自由に録音させる業者が出現したことを踏まえ,「このような形態の利用は閉鎖的な私的領域における零細な複製を許容するという趣旨を逸脱する」と考えられたためであると説明している。
この立法趣旨は,控訴審判決が述べた30条1項の趣旨と同じ方向を向いている。

7 著作権者の許諾を得る

複製権の侵害は許諾があれば生じない。
現に,前記の質問書に対して今後は行わないと回答した業者があったこと自体,権利者の意思を確認する仕組みが機能し得ることを示している。
もっとも,注文を受けるたびに当該書籍の著作権者を特定して許諾を取り付けることは容易ではなく,そこにこの類型の事業の困難がある。

第5 実務上の確認手順

1 書籍の電子化を業者に頼みたいという相談を受けたとき

回答の骨格は二つである。
第一に,違法とされるのは業者の複製であって,利用者が自分で行う自炊ではない。
第二に,業者が主体とされるのは,独立した事業者として複製の意思をもって自ら複製行為をしているからであり,利用者が書籍を選んで送っていることや,利用者が自分でもできる作業であることは,この結論を左右しない。

「なぜ自分で買った本なのに違法なのか」という問いに対しては,著作権法30条1項が使用目的だけでなく複製の主体をも限定していること,そして控訴審判決が同項の趣旨を私的複製の過程への外部者の介入を排除する点に求めたことを示すのが,最も直接的な説明である。
書籍を購入していることは複製権の許諾を受けたことを意味しないから,購入の事実は結論に影響しない。

2 事務書類の電子化を外注するとき

先に行うのは対象文書の棚卸しである。
自社が作成した事務書類だけであれば著作権法上の問題は生じにくいが,購読している新聞,購入した書籍,業界規格票,学術論文が混じると,許諾がなければ複製できない。
このとき,第4の2のとおり,自社の従業員がスキャンしたとしても私的使用のための複製には当たらないから,外注するかどうかは結論を変えない。

著作権は私権であるから権利者が自ら管理するのが基本であるが,文化庁の「著作権テキスト」令和8年度版が説明するとおり,著作権等管理事業者に管理を委託する方法があり,文化庁は登録を受けた事業者の一覧をウェブサイトで公表している。
継続的に複製する必要があるのであれば,委託されている著作物について事業者を通じて許諾を得る方が実際的である。
もっとも,管理が委託されていない著作物もあるから,対象文書の内訳によっては個別の許諾が避けられない。

3 利用規約では回避できない

事業者側の助言としては,利用規約や誓約書に「私的使用の範囲内で利用してください」と書くことでは事業者自身の複製権侵害を避けられない点が中心になる。
これは東京地方裁判所平成25年10月30日判決が正面から判断したところであり,同判決は,被告が自社ウェブサイトに私的使用に限る旨を明記していたことを援用したのに対し,複製行為の主体は被告であるという認定を左右しないと述べている。

権利者から照会又は警告を受けた場合の対応も重要である。
控訴審判決は,質問書の送付を受けたことを認識していた取締役について個人責任を認めており,第一審判決も,回答しなかったこと及び回答内容と異なる取扱いを続けたことを侵害のおそれの認定に用いている。

第6 残る論点

三つの判決の後,スキャン代行事業がどのような形で継続しているか,権利者の許諾を得た形態がどの程度普及しているかについては,本記事では調査していない。

店舗設置型について,店舗側が複製の主体と評価されるかどうかを直接判断した裁判例は,裁判所ウェブサイトで確認した範囲では見当たらない。
控訴審判決が示した「独立した事業主体による介入」という視点をこの類型へどこまで及ぼせるかは,機器の管理・支配の程度によって結論が分かれ得る。

依頼者の教唆・幇助責任についても,判断した裁判例は確認できていない。
実際には権利者が事業者を相手に差止めを求めれば目的を達することができるため,依頼者個人を被告とする訴訟が提起される場面は限られると考えられる。

なお,関連する論点として,著作物を学習用データとして複製する場合の著作権法30条の4の適用については,別の記事で扱っている(生成AIの学習データ契約とクリエイターへの対価還元――著作権法30条の4との関係)。

第7 出典・参考資料

1 法令

著作権法(昭和45年法律第48号)2条1項15号,13条,21条,30条1項,31条1項・2項,112条,119条,123条,附則5条の2(e-Gov法令検索。令和8年9月7日時点の現行条文により確認)
民法(明治29年法律第89号)719条2項,724条(e-Gov法令検索)
刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)235条(e-Gov法令検索)

2 裁判例

東京地方裁判所平成25年9月30日判決(平成24年(ワ)第33525号著作権侵害差止等請求事件,裁判所ウェブサイト)
東京地方裁判所平成25年10月30日判決(平成24年(ワ)第33533号著作権侵害差止等請求事件,裁判所ウェブサイト)
知的財産高等裁判所平成26年10月22日判決(平成25年(ネ)第10089号著作権侵害差止等請求控訴事件,原審・東京地方裁判所平成24年(ワ)第33525号,裁判所ウェブサイト。同ページに上告受理申立てが平成28年3月16日に不受理となった旨の記載がある)
最高裁判所第一小法廷平成23年1月20日判決(平成21年(受)第788号著作権侵害差止等請求事件,民集65巻1号399頁,裁判所ウェブサイト)

3 所管行政機関の資料

①文化庁著作権課「著作権テキスト 令和8年度版」45頁及び65頁(文化庁。資料上の頁による。PDFビューア上ではそれぞれ48頁及び68頁)
②文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会(平成30年度第6回,平成30年11月26日開催)参考資料1「私的使用目的の複製に係る権利制限について(規定の趣旨・概要,これまでの改正経緯,諸外国の状況)」1頁~3頁(文化庁)

4 審議会に提出された関係団体の意見

①文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(平成23年度第4回,平成23年9月21日開催)資料3-2「著作権法第30条に係る論点の整理」1頁~2頁(同資料は関係団体から提出された意見を整理したものであり,文化庁の見解を示すものではない)