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改正前の遺留分減殺請求によって共有となった不動産の解消方法(AI作成)

第1 この記事の対象と最初に確認する三つの分岐

1 相続開始が令和元年7月1日より前か

この記事が扱うのは,被相続人が令和元年7月1日より前に死亡し,平成30年改正前の民法に基づく遺留分減殺請求によって不動産の全部又は持分が共有となった場合である。相続開始が同日以後であれば,現行民法1046条の遺留分侵害額請求権は金銭債権であり,請求の行使だけで目的不動産に共有持分は生じない。基準となるのは請求日又は訴訟提起日ではなく,被相続人の死亡日である。

旧法が適用される相続でも,減殺請求をまだ行使していない場合には,改正前民法1042条の期間制限を先に確認しなければならない。他方,期間内に減殺請求が行使され,物権的効果が生じている場合には,その後の共有関係を現在の共有物分割制度によって解消することが問題となる。

2 減殺された処分が特定財産型か割合型か

次に,減殺されたのが,特定不動産の贈与・特定遺贈・特定財産承継遺言等であるのか,相続分の指定又は割合的包括遺贈であるのかを確認する。前者によって生じた持分は通常の物権共有として共有物分割で解消するのが原則であるのに対し,後者は遺産全体に対する割合として遺産分割で処理する。受益者が相続人か第三者かだけで決めるのではなく,遺言又は贈与が何をどのような形で移転させたかを確定する必要がある。

3 現物を取得したい者と資金を準備できる者は誰か

共有物分割では,土地を物理的に分ける現物分割,特定の共有者が全部を取得して他の共有者へ持分価格を支払う全面的価格賠償,競売代金を分ける競売分割が問題となる。誰が不動産を取得したいか,適正な評価額はいくらか,取得希望者が口頭弁論終結時までに賠償金を準備できるかを早い段階で確認しなければ,分割方法を選べない。

第2 改正前の遺留分減殺請求の効果

1 意思表示によって持分が当然に帰属する

最高裁昭和41年7月14日第一小法廷判決は,遺留分減殺請求を裁判外の意思表示によって行使できるとした。最高裁昭和51年8月30日第一小法廷判決等によれば,減殺の意思表示が相手方へ到達すると,遺贈又は贈与は遺留分を侵害する限度で効力を失い,目的物の所有権又は共有持分が遺留分権利者へ当然に帰属する。

減殺請求者が任意に特定の目的物だけを選んで取得する制度ではないため,減殺対象が複数の不動産に及ぶと,各不動産上に細かな共有持分が生じることがある。受益者が改正前民法1041条の価額弁償を完成させない限り,共有関係を解消するための協議,登記又は裁判が別に必要となる。

2 減殺請求の1年と10年の期間

改正前民法1042条は,遺留分権利者が「相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時」から1年間行使しないときに減殺請求権が時効消滅し,相続開始から10年を経過したときも消滅すると定めていた。処分の存在を知った日だけで起算するのではなく,その処分が遺留分を侵害して減殺対象となることを知った時が問題となる。

最高裁昭和57年3月4日第一小法廷判決は,旧民法1042条の期間制限の対象は形成権である減殺請求権そのものであり,その行使によって生じた法律関係に基づく目的物返還請求権等まで同条の短期消滅時効に服するものではないとした。もっとも,減殺後に取得した共有持分の登記,取得時効,第三者との対抗関係その他の問題まで放置してよいという意味ではない。

減殺の意思は,必ず「遺留分減殺」という用語を使わなければ表示できないわけではないが,遺産分割を求めただけで常に減殺意思が含まれるわけでもない。最高裁平成10年6月11日第一小法廷判決は,全財産を一部相続人へ与える遺言の効力を争わず,自己にも遺産を配分するよう求めた事案について,特段の事情がない限り減殺意思を含むと解した。実務では,通知書,内容証明郵便,配達証明,訴状及び準備書面によって,意思表示の内容と到達日を特定する。

3 旧法の減殺順序と現行法の負担順序は同一ではない

改正前民法1033条~1035条は,遺贈を贈与より先に減殺し,複数の贈与は原則として後の贈与から順に減殺するなど,現物に対する減殺順序を定めていた。これに対し,現行民法1047条は,金銭である遺留分侵害額を受遺者・受贈者が負担する順序と割合を定める。同条には,受遺者が受贈者に先行すること,同順位者は目的価額に応じて負担すること,異時の贈与は後の贈与から負担すること,相続人である受遺者・受贈者の目的価額からその者自身の遺留分額を控除すること等が含まれるため,「旧法と同じ順序」と一括するのは正確ではない。

第3 共有物分割と遺産分割の振分け

1 処分類型ごとの原則

減殺によって取得した持分が遺産分割の対象となるかは,次のように整理できる。

減殺された処分減殺後の権利原則的な解消手続
特定不動産の生前贈与物権共有持分共有物分割
特定遺贈物権共有持分共有物分割
特定財産を特定相続人に相続させる遺言物権共有持分共有物分割
全財産を一人へ与える包括的処分最高裁平成8年1月26日判決の事案では物権共有持分共有物分割
割合的包括遺贈遺産全体に対する割合遺産分割
相続分の指定減殺後の指定相続分遺産分割

最高裁平成8年1月26日第二小法廷判決は,特定遺贈の減殺によって取得した権利は,遺産分割対象となる相続財産ではなく,遺留分権利者の固有財産であるとした。同判決は,全財産を一人へ包括遺贈した事案について,個々の財産を列挙する代わりに包括的に表示した実質を有すると評価したものであり,割合的包括遺贈一般まで物権共有としたものではない。

2 特定財産承継遺言と共同相続人への減殺

最高裁平成3年4月19日第二小法廷判決によれば,特定財産を特定相続人に「相続させる」趣旨の遺言は,原則として相続開始時に当該財産を承継させる。この処分を旧法の減殺請求によって減殺した場合,減殺持分は物権共有持分となるため,共有物分割へ進む。

もっとも,共同相続人が受益者である場合は,その者自身の遺留分を無視して目的財産全体を減殺対象とするわけではない。最高裁平成10年2月26日第一小法廷判決は,特定財産を「相続させる」遺言について,受益相続人の遺留分を超える部分が減殺対象となるとした。共有持分を算定するときは,遺留分権利者の割合だけでなく,受益相続人に保障される遺留分も反映させる必要がある。

3 相続分指定の減殺は遺産分割で処理する

最高裁平成24年1月26日第一小法廷決定は,相続分の指定が減殺された場合,遺留分を超える相続分を指定された相続人の指定相続分を,その超過部分の割合に応じて修正するとした。この場合に取得するのは個別不動産上の固有持分ではなく,遺産分割で用いる相続割合であるため,家庭裁判所の遺産分割で最終的な取得財産を決める。

4 遺産共有持分と物権共有持分が併存する場合

一個の不動産に遺産共有持分と通常の物権共有持分が併存する場合,最高裁平成25年11月29日第二小法廷判決は,まず共有物分割によって両持分間の共有を解消し,その結果として遺産共有持分権者らに帰属した財産又は代償金を遺産分割するという二段階処理を示した。当事者全員の合意があれば一括解決を設計できるが,合意がない場合に民事訴訟と家事審判の管轄が当然に一本化されるわけではない。

第4 共有物分割へ進む前の確認と証拠

1 協議,調停及び訴訟

現行民法258条1項は,共有者間の協議が調わないとき又は協議することができないときに,共有物分割を裁判所へ請求できると定める。共有者間で取得者,代償金,登記及び引渡しを合意できれば訴訟は不要であり,親族間の調整を要するときは民事調停を利用する余地もある。共有物分割訴訟は共有者全員を当事者とする固有必要的共同訴訟であるため,数次相続,持分譲渡又は法人の合併等がある場合には,提訴時の共有者を確定しなければならない。

減殺の有効性又は物件返還自体から話合いで解決する場合は,家庭裁判所の遺留分減殺による物件返還請求調停を利用する余地がある。ただし,同ページが注意するとおり,調停を申し立てただけでは相手方に対する減殺の意思表示とならない。既に生じた物権共有の分割を裁判で求める手続と,減殺・返還を親族間で調整する手続は区別する必要がある。

不動産に関する共有物分割訴訟は地方裁判所へ提起でき,訴額が140万円以下の場合には簡易裁判所との競合管轄が問題となる。もっとも,減殺の有効性又は持分割合自体に争いがあり,登記請求,所有権確認その他の訴えを先に又は併合して解決しなければ分割できない場合がある。対象財産が未分割遺産かどうかに争いがある場合の手続は,遺産確認の訴えとは――当事者・確認の利益・対象財産・主張立証で扱っている。

2 不分割契約と権利濫用

民法256条1項ただし書は,5年を超えない期間について共有物を分割しない契約を認め,更新も各5年以内に限っている。有効な不分割契約の期間中は,原則として直ちに分割請求できないため,遺言,和解,共有者間契約及び登記の有無を確認する。

分割請求が権利濫用として排斥される余地もあるが,共有形成の経緯,相手方の居住・営業,請求者の目的,分割による不利益,代替手段及び提示された分割方法を総合考慮する例外的な判断である。京都地裁平成22年3月31日判決は,競売が無剰余となる可能性等を踏まえても,その後の価格変動や担保権者の同意の可能性があること等から権利濫用を否定した。遺留分減殺によって生じた共有であることだけでは結論は決まらない。

3 低負担の資料から分割方法を絞る

最初に集める資料は,①被相続人の死亡日と相続人を示す戸籍,②遺言書・贈与契約書,③減殺通知と到達資料,④現在及び過去の登記事項証明書,⑤固定資産評価証明書・地図・公図・測量図,⑥占有者,賃貸借,賃料及び使用状況の資料,⑦抵当権と被担保債務の資料,⑧不動産業者の査定書並びに⑨取得希望者の資金資料である。これらによって,持分,物件の現況,現物分割の可否,評価幅及び支払能力を一覧化する。

裁判鑑定は,査定の前提が食い違い,その差が分割方法又は賠償額を変える場合に検討する。現物分割が物理的・法令上困難であり,取得希望者に資金もなく,任意売却にも全員が応じないことが早期資料から明らかな場合は,高額な鑑定を先行させず,競売の見込額,担保権の優先額及び手続費用を概算してから進行方針を決めるべきである。

第5 現物分割,全面的価格賠償及び競売

1 法定された三つの分割方法

現行民法258条2項は,①共有物を現物で分割する方法と,②共有者の一人又は数人に共有物を取得させ,他の共有者に金銭を支払わせる方法を定める。両者の間に一律の優先順位はなく,共有物の性質・形状,持分割合,利用状況及び共有者の希望に適合する方法を選ぶ。同条3項は,これらの方法によって分割できないとき又は現物分割によって価格を著しく減少させるおそれがあるときに競売を命ずる。

共有物分割訴訟は形式的形成訴訟であり,裁判所は当事者が希望した方法だけに拘束されない。例えば,双方が単独取得を希望しても,適正額を支払える者がいなければ競売となり得る。他方,三人のうち一人だけを離脱させ,残る二人の共有を維持するなど,具体的事情に応じた分割方法も裁判例上採られている。

2 全面的価格賠償の要件と立証

最高裁平成8年10月31日第一小法廷判決は,全面的価格賠償を認めるため,①特定共有者に全部を取得させることが相当であること,②共有物の価格が適正に評価されていること,③取得者に支払能力があること及び④他の共有者へ持分価格を取得させても実質的公平を害しないことを求めた。相当性の判断では,共有に至った原因,居住・営業・賃貸等の利用関係,持分割合,取得希望,現物分割の可能性及び当事者間の公平が検討される。

最高裁平成9年4月25日第二小法廷判決は,包括遺贈と遺留分減殺によって借地権及び建物が6分の5対6分の1の共有となった事案で,多数持分権者が居住継続と単独取得を希望したこと等を踏まえ,全面的価格賠償の要件を審理せず直ちに競売を命じた原判決を破棄した。遺留分減殺による共有形成の経緯は相当性判断の一要素となるが,その経緯だけで全面的価格賠償が当然に認められるわけではなく,適正評価と支払能力も必要である。

取得希望者は,単に融資を受ける予定であると述べるのではなく,預金残高証明,換価可能資産,金融機関の融資承認又は具体的な融資回答等により,口頭弁論終結時に賠償金を現実に準備できることを示す必要がある。価格については,不動産全体を一人が取得して共有関係が解消するため,共有持分だけを第三者へ売却する場合の減価を機械的に適用しない。不動産全体の時価を定め,持分割合に応じた額を基礎とする。

3 支払期限を付した判決と不払時の競売

全面的価格賠償は現在の支払能力を要するため,判決後の長期猶予又は分割払を前提として取得者を定めることはできない。渡辺晋『フローチャートで分かる不動産の共有関係解消マニュアル』193頁~194頁は,大阪高裁平成11年4月23日判決を支払猶予・分割払を否定した例として紹介する一方,一定期間内の賠償金支払を条件に単独所有とし,支払われなければ競売とする下級審の主文例を紹介している。

同書は,第一候補が期限内に支払えば同人が取得し,支払わなければ第二候補が支払い,双方とも支払わなければ競売とする三段階の主文例として,東京地裁平成19年4月26日判決を挙げる。通常はおおむね1か月程度の短期の支払期限が想定されており,資金調達の可能性があるというだけで長期間共有を継続させる制度ではない。現行民法258条4項が金銭支払,物の引渡し及び登記義務履行等の給付命令を明文化したことも踏まえ,判決主文では支払,所有権取得,登記及び不払時の処理を整合させる必要がある。

4 抵当権,賃貸借及び使用利益

共有持分に設定された抵当権は,現物分割によって当然にその共有者の取得物件だけへ集中するとは限らない。担保権者の同意を得る,抹消を条件とする,担保負担を評価へ反映するなどの設計が必要となるが,評価への反映方法は一律ではない。前記京都地裁平成22年3月31日判決は,債務者側が被担保債務を弁済し続けていた事情等から,根抵当権の被担保債務を土地価格から当然には控除しなかった。

対抗力を備えた賃貸借がある場合は,分割後の所有者が賃貸人の地位を承継することがあり,土地を現物分割しただけで一個の賃貸借契約が当然に複数へ分かれるわけでもない。共有者の一人が不動産を単独使用している場合には,共有物分割とは別に,他の共有者から持分割合に応じた使用利益又は賃料相当額が請求されることもあるため,入居者,契約,賃料受領及び管理費用の負担を確認する。

5 遺留分減殺共有を直接扱う下級審裁判例

渡辺晋『フローチャートで分かる不動産の共有関係解消マニュアル』の全文検索で確認できる直接関連事例は,次の7件である。京都地裁判決を除く6件は裁判所HP未掲載であるため,以下の要旨は同書の掲載頁に基づく。

裁判例事件番号指定書籍の頁本件に関係する要旨・確認状況
東京地裁平成23年5月17日判決平成21年(ワ)第9784号・平成22年(ワ)第25188号312頁複数不動産を一括して分割し,減殺持分を前提に全面的価格賠償と登記を命じた例。裁判所HP未掲載
京都地裁平成22年3月31日判決平成21年(ワ)第909号328頁・348頁支払能力,根抵当権,競売及び権利濫用を扱った例。裁判所HPで全文確認
東京地裁平成22年8月4日判決平成20年(ワ)第9258号ほか328頁受益者らが居住する不動産について権利濫用を否定した例。裁判所HP未掲載
東京地裁平成29年1月13日判決平成25年(ワ)第23100号・平成26年(ワ)第1529号・同第32415号321頁土地建物を4分の1対4分の3の共有として扱い,登記関係を含む条件付分割をした例。裁判所HP未掲載
東京地裁令和元年11月28日判決平成30年(ワ)第29489号323頁減殺持分,二段階処理,権利濫用及び使用利益を扱った例。裁判所HP未掲載
東京地裁令和元年12月6日判決平成29年(ワ)第27049号323頁減殺持分を前提に代償金支払と登記を同時に処理した例。裁判所HP未掲載
東京地裁令和3年4月27日判決令和元年(ワ)第26407号240頁・337頁8分の1対8分の7の減殺共有について,資金準備を踏まえて権利濫用を否定した例。裁判所HP未掲載

これらは,物件数,持分割合,利用状況,担保権,支払能力及び請求の組合せが異なる事例判断である。特定の判決の結論を,事情の異なる案件へそのまま当てはめることはできない。

第6 旧法の価額弁償と全面的価格賠償の違い

1 二つの制度を区別する

改正前民法1041条の価額弁償と,共有物分割における全面的価格賠償は,いずれも現物を一方へ残して他方へ金銭を支払うが,手続段階と法的効果が異なる。

項目改正前民法1041条の価額弁償共有物分割の全面的価格賠償
局面減殺による現物返還・持分帰属を金銭で処理する既に存在する共有関係を解消する
最初の選択受遺者・受贈者が価額弁償意思を示す共有者が取得を希望し,裁判所が分割方法を決める
金銭請求遺留分権利者による選択意思が必要判決が持分取得と賠償金支払を形成する
評価基準時現実の弁償時。訴訟では事実審口頭弁論終結時共有物分割判決時に接着した適正評価
支払現実の履行又は弁済の提供を要する口頭弁論終結時の支払能力を要する

2 価額弁償の履行,対象財産及び評価時点

最高裁昭和54年7月10日第三小法廷判決は,受遺者・受贈者が価額を弁償する意思を示しただけでは足りず,現実の履行又は弁済の提供を要するとした。最高裁平成12年7月11日第三小法廷判決によれば,価額弁償は減殺対象となった各個の財産ごとに行うことができるため,受益者は事業用又は居住用の不動産だけを選んで価額弁償する余地がある。

弁償額は現実の弁償時の価額であり,訴訟ではこれに最も接着する事実審口頭弁論終結時が基準となる。したがって,相続開始時又は減殺通知時の固定資産評価額をそのまま用いるのではなく,弁償時の不動産時価を評価する。

3 遺留分権利者による金銭請求の選択

最高裁平成20年1月24日第一小法廷判決は,受益者が価額弁償意思を示した後,遺留分権利者が価額弁償請求を選択すると,現物返還請求権を確定的に失い,金銭債権を取得するとした。その支払を請求した日の翌日から遅延損害金が発生する。

最高裁令和7年7月10日第一小法廷判決は,受益者が価額弁償意思を示しただけでは遺留分権利者の金銭債権は確定せず,遺留分権利者自身が金銭請求を選択する意思表示をする必要があるとした。遺留分権利者が選択するまでは,減殺によって取得した共有持分権及びこれに基づく現物返還請求権を有する。

4 価額弁償を前提とする条件付判決

最高裁平成9年2月25日第三小法廷判決は,受益者が事実審口頭弁論終結前に裁判所の定める価額を弁償する意思を示した場合,裁判所は口頭弁論終結時を基準に額を定め,受益者がその額を支払わなかったことを条件として遺留分権利者の登記請求等を認容すべきであるとした。これは,前記の共有物分割における不払時競売の条件付主文とは異なるため,訴状,抗弁及び判決主文では両制度を区別しなければならない。

価額弁償に関する最高裁判例の一覧は,遺留分に関するメモ書きにも掲載している。

第7 持分だけを動かして共有から離脱する方法

1 持分譲渡,持分放棄及び負担不履行による取得

共有物全体を分割せず,共有持分を他の共有者又は第三者へ譲渡することでも共有から離脱できる。ただし,第三者への持分単独売却は,利用・処分の制約から不動産全体の持分割合相当額より低い価格となることがあり,全面的価格賠償の評価とは区別する。

民法255条の持分放棄は他の共有者の承諾を要しないが,不動産登記は原則として持分を取得する他の共有者との共同申請である。他の共有者が登記へ協力しないときは,持分移転登記手続請求訴訟が必要となり得るため,意思表示だけで登記名義や固定資産税の問題まで直ちに解消すると考えるべきではない。

民法253条2項は,共有者が同条1項の「共有物に関する負担」を1年以内に履行しないとき,他の共有者が相当の償金を支払ってその持分を取得できると定める。一般の貸金,代償金その他の金銭債務不履行に用いる制度ではなく,未払額が管理費用その他の共有物に関する負担に当たること,1年以内に履行されなかったこと及び償金額を主張立証する必要がある。

2 持分放棄・譲渡と税務

持分放棄によって他の個人共有者が経済的利益を得る場合は贈与税が問題となり,法人が当事者である場合は所得税又は法人税上の処理が問題となる。持分売却又は競売では譲渡所得,課税事業者が建物を譲渡する場合には消費税,共有物分割で従前持分を超えて取得する場合には不動産取得税等も検討対象となる。課税関係は当事者属性,取得原因,持分超過,取得価額及び建物・土地の内訳によって変わるため,「持分放棄は常に贈与税となる」と一括せず,分割条件を確定する前に税理士又は税務署へ確認する必要がある。

第8 登記手続

1 遺留分減殺による持分移転登記

旧法の減殺によって取得した不動産持分を登記する場合,登記原因は原則として「遺留分減殺」であり,原因日は減殺意思が相手方へ到達した日となる。登記名義が被相続人,受遺者,受贈者又は法定相続人のいずれにあるかによって,前提となる相続・遺贈の登記,更正登記又は持分移転登記の組合せが変わる。

特定遺贈の登記が未了の場合や,減殺後に第三者へ処分されるおそれがある場合は,請求する登記の順序,登記請求権の代位行使及び処分禁止仮処分の必要性を検討する。ただし,登記記録と遺言内容を確認せず,常に同じ請求を選ぶことはできない。

2 共有物分割後の登記

現物分割又は全面的価格賠償によって持分が移転する場合は,判決又は合意内容に応じて「共有物分割」を原因とする持分移転登記を行う。賠償金支払と登記を同時履行とするか,支払を所有権取得の条件とするか,担保権抹消を条件とするかによって必要書類と申請時期が変わるため,訴訟上の請求又は和解条項を作る段階で登記手続まで設計する。

第9 令和3年共有法改正との関係

1 改正前の減殺持分にも現行共有法が適用される

旧法の減殺によって既に生じた物権共有持分についても,現在共有物分割を求める場面では,令和5年4月1日に施行された現行の共有物分割規定が問題となる。民法258条は全面的価格賠償及び給付命令を明文化し,共有者が所在不明等で協議できない場合も裁判上の分割へ進めることを明確にした。

2 遺産共有を含む場合の10年・通知・異議

民法258条の2は,遺産共有持分を含む共有物について,相続開始から10年を経過した場合に共有物分割で一体的に処理できる制度を設ける。ただし,遺産分割請求があり,所定の通知を受けた共有者が通知到達から2か月以内に異議を述べた場合には,遺産共有持分を共有物分割で処理できない。旧減殺によって生じた物権共有持分それ自体には10年待つ要件はないが,同じ不動産に遺産共有持分が併存するときは同条の要件を確認する。

所在等不明共有者の持分取得・譲渡制度である民法262条の2・262条の3も選択肢となり得るが,所在等不明持分が遺産共有持分であり,相続開始から10年を経過していない場合には利用できない。公示,供託,時価評価等を要する別手続であるため,通常の共有物分割と一括せず,所在調査を行った上で制度を選ぶ。

第10 受任時の実務手順と停止基準

1 初期確認から手続選択まで

初期確認は,①被相続人の死亡日,②旧法の減殺意思と到達日,③1年・10年の期間,④減殺された処分の類型,⑤減殺後の持分計算,⑥現在の共有者・登記名義,⑦占有・賃貸借・担保権,⑧不動産の概算時価,⑨取得希望者と資金及び⑩任意合意の可能性の順に行う。この段階で,共有物分割,遺産分割,減殺に基づく登記・確認訴訟,価額弁償又は任意譲渡のどれを中心に据えるかを決める。

減殺請求者側は,減殺の効力,持分及び到達を示す資料を先にそろえ,現物取得を希望するのか,旧法の価額弁償請求を選ぶのか,全面的価格賠償の受領を求めるのかを区別する。受益者側は,減殺の期間・範囲を争うのか,価額弁償を完成させるのか,共有物分割で全部取得を求めるのかを決め,金銭解決を選ぶ場合は支払原資と評価資料を準備する。

2 高負担手段へ進む条件

裁判鑑定,測量,境界確定,担保権者との調整又は複数訴訟は,その結果によって現物分割の可否,評価額,取得者又は手続選択が変わる場合に限って進める。例えば,現物分割を希望する場合は,接道,最低敷地面積,建築規制,分筆後の利用価値及び境界を低負担資料で確認した後,測量費用をかける意味があるかを判断する。

3 訴訟又は追加調査を進めない基準

①共有者全員の合意で取得者・金額・登記を確定できる場合,②減殺の有効性又は持分が未確定で共有物分割判決をしても紛争を解決できない場合,③取得希望者に支払能力がなく全面的価格賠償の要件を満たさない場合,④担保権の優先額が不動産価額を上回り分割による実益が乏しい場合,⑤追加鑑定等をしても分割方法又は経済的結論が変わらない場合及び⑥持分価値が費用・期間・税負担を下回る場合は,予定した訴訟又は高負担調査をそのまま進めない。任意売却,持分譲渡,調停,先行する確認・登記請求又は競売を含め,紛争の実情に合う別の経路を選ぶ。

第11 出典・参考資料

1 法令

民法(明治29年法律第89号)253条,255条,256条,258条,258条の2,262条の2,262条の3,1046条~1048条。

平成30年改正前の民法1031条,1033条~1035条,1040条~1042条。

民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号)附則2条。

民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)

2 裁判例

最高裁昭和41年7月14日第一小法廷判決・昭和40年(オ)第1084号・民集20巻6号1183頁。

最高裁昭和51年8月30日第一小法廷判決・昭和50年(オ)第920号・民集30巻7号768頁。

最高裁昭和54年7月10日第三小法廷判決・昭和53年(オ)第907号・民集33巻5号562頁。

最高裁昭和57年3月4日第一小法廷判決・昭和53年(オ)第190号・民集36巻3号241頁。

最高裁平成3年4月19日第二小法廷判決・平成元年(オ)第174号・民集45巻4号477頁。

最高裁平成8年1月26日第二小法廷判決・平成3年(オ)第1772号・民集50巻1号132頁。

最高裁平成8年10月31日第一小法廷判決・平成3年(オ)第1380号・民集50巻9号2563頁。

最高裁平成9年2月25日第三小法廷判決・平成6年(オ)第1746号・民集51巻2号448頁。

最高裁平成9年4月25日第二小法廷判決・平成7年(オ)第2461号・集民183号365頁。

最高裁平成10年2月26日第一小法廷判決・平成9年(オ)第802号・民集52巻1号274頁。

最高裁平成10年6月11日第一小法廷判決・平成9年(オ)第685号・民集52巻4号1034頁。

最高裁平成12年7月11日第三小法廷判決・平成11年(受)第385号・民集54巻6号1886頁。

最高裁平成20年1月24日第一小法廷判決・平成18年(受)第1572号・民集62巻1号63頁。

最高裁平成24年1月26日第一小法廷決定・平成23年(許)第25号・集民239号635頁。

最高裁平成25年11月29日第二小法廷判決・平成22年(受)第2355号・民集67巻8号1736頁。

最高裁令和7年7月10日第一小法廷判決・令和6年(受)第2号。

京都地裁平成22年3月31日判決・平成21年(ワ)第909号。

3 公的資料

① 法務省「相続法の改正」。

② 法務省「令和3年民法・不動産登記法改正,所有者不明土地関係の法律改正等」。

③ 裁判所「遺留分減殺による物件返還請求調停」。

4 文献

① 渡辺晋『フローチャートで分かる不動産の共有関係解消マニュアル』(新日本法規出版,2023年)72頁,102頁~106頁,115頁~121頁,140頁~147頁,155頁~156頁,193頁~194頁,240頁,257頁~258頁,266頁~267頁,273頁,300頁~302頁,312頁,321頁,323頁,328頁,337頁,344頁,348頁。

② 三平聡史『共有不動産の紛争解決の実務〔第2版〕』(民事法研究会,2021年)350頁~352頁。

③ 森公任・森元みのり『法律家のための遺言・遺留分実務のポイント』(日本加除出版,2021年)16頁~17頁,56頁~57頁,94頁,96頁。

④ 片岡武・管野眞一『第3版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』(日本加除出版,2017年)550頁~554頁,577頁~583頁。

⑤ 片岡武・管野眞一『改正相続法と家庭裁判所の実務』(日本加除出版,2019年)240頁,256頁~260頁,270頁,277頁~280頁。

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