◯ 本記事は、77期新任判事補研修の「令状事務の留意点」設問を素材として、AIが裁判官、弁護人及び準抗告裁判所の立場から検討例を作成したものである。
◯ 以下の回答、準抗告申立書及び決定は、実在の裁判官、弁護人又は裁判所が作成したものではない。
◯ 本記事は、令和8年8月21日現在の法令及び裁判例に基づく。
◯ 令和8年5月21日に電磁的記録提供命令に関する改正刑訴法が施行されたため、それ以前の令状執務資料は、現行法と抵触しない範囲で沿革資料として参照する必要がある。
第1 本記事で扱う設問と判断の前提
1 設問1
設問1は、捜索差押許可状において、捜索すべき場所を「○○ホテル内のA室、B室その他差し押さえるべき物件が存在すると思料される場所」と記載し、差し押さえるべき物を「覚醒剤、注射器その他本件に関連すると思料される一切の物」と記載することの可否を問うものである。
場所の特定と物件の特定は、同じ結論になるとは限らない。
2 設問2
設問2は、被疑者が17歳の被害者のスカート内をスマートフォンで撮影しようとし、犯行発覚後に同端末を地面にたたき付けて損壊させたとされる事案について、勾留の可否及び被害者の個人特定事項の取扱いを問うものである。
公開記事から確認できる事実は限られている。
そこで、本記事では、端末破壊以外に、未収集証拠、別端末、クラウドアカウント、共犯者、画像共有先又は被害者への具体的接触可能性を示す資料が提出されていない場合を基本的な前提とする。
そのような資料が実際の記録に存在する場合、勾留に関する結論は変わり得る。
3 令和8年改正後の三つの制度
デジタル証拠を扱う場合、少なくとも次の制度を区別する必要がある。
①刑訴法218条2項及び219条2項に基づき、差し押さえる電子計算機から電気通信回線で接続された記録媒体にアクセスし、令状で特定された範囲の電磁的記録を差押端末等に複写する処分
②刑訴法218条1項及び219条1項に基づき、電磁的記録の保管者又は利用権限者に、特定された電磁的記録を指定された方法で提供するよう命ずる電磁的記録提供命令
③刑訴法197条3項及び4項に基づき、差押え又は電磁的記録提供命令に備えて、通信履歴の電磁的記録を消去しないよう求める保全要請
電磁的記録提供命令は、旧記録命令付差押えの単なる改称ではない。
令和8年3月23日付け法務省刑事局長依命通達は、これを新たな強制処分と明記している。
第2 設問1に対するAI裁判官の回答
1 結論
捜索場所について、「A室、B室」に続けて、同じホテル内の「その他差し押さえるべき物件が存在すると思料される場所」を加えることは認めるべきでない。
どの場所を捜索するかの決定を執行時の捜査官に委ね、独立した管理権を有する第三者の客室等に捜索範囲を広げるおそれがあるからである。
これに対し、差し押さえるべき物を「覚醒剤、注射器その他本件に関連すると思料される一切の物」と記載することが、文言だけから当然に違法になるわけではない。
令状記載全体から、「本件」が何を指すか、例示された物の種類と被疑事実の関係及び対象範囲を客観的に画定できるかを審査すべきである。
もっとも、対象の外延が事実上無限定となる場合は、より具体的な例示又は種類による限定を求める必要がある。
2 捜索すべき場所
(1) 令状による事前審査
刑事訴訟法219条1項は、捜索差押許可状に捜索すべき場所等を記載することを求めている。
その目的は、捜査機関が必要性を判断して場所を追加する一般令状を防ぎ、裁判官が事前に侵害の範囲を審査することにある。
最高裁昭和31年4月24日第三小法廷判決(昭和29年(あ)第2287号)は、令状の記載を合理的に解釈して対象場所を識別できるかという観点を示している。
(2) ホテルの客室
ホテルの各客室は、宿泊者が独立して使用・管理するのが通常である。
A室及びB室を対象とする資料があるとしても、それだけで同じホテルの他の客室、従業員区画、事務室又は共用施設を捜索できることにはならない。
「その他……思料される場所」という記載は、捜索開始後に得た情報を根拠として場所を追加する権限を執行者に与えることになるため、削除させるべきである。
他の場所について相当な理由が生じたときは、原則として、その場所を特定した別の令状を請求すべきである。
(3) 管理権を審査する必要性
同じ建物内でも、出入口、施錠、居住者又は使用者及び利用実態が異なれば、別の場所として扱うべき場合がある。
川出敏裕『判例講座 刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕〔第2版〕』129頁も、一棟の内部に独立した管理権が存在する場合、各区画を区別して審査すべきことを説明している。
したがって、裁判官は、建物名又は住所だけでなく、客室番号、構造、使用者及び管理権の範囲を確認する必要がある。
3 差し押さえるべき物
(1) 捜索段階では個別特定に限界があること
捜索は、証拠物がどこに、どのような形で存在するかを発見するための処分である。
令状請求時に全ての物を製造番号その他の個別情報で特定できるとは限らない。
そのため、種類、用途、作成時期、被疑事実との関係等による一定の概括的な特定が許される。
(2) 最高裁判例
最高裁昭和33年7月29日大法廷決定(昭和33年(し)第16号、刑集12巻12号2776頁)は、「会議議事録、斗争日誌、指令、通達類、連絡文書、報告書、メモ」という例示に続く「本件に関係ありと思料せられる一切の文書及び物件」との記載について、例示物件に準じる本件関係の文書・物件を指すことが明らかであり、物の明示を欠かないとした。
最高裁昭和51年11月18日第一小法廷判決(昭和49年(あ)第1260号、判時837号104頁)も、「本件に関係ある……暴力団を標章する状、バッジ、メモ等」という記載の令状による差押えを適法とした。
同決定は、押収資料が恐喝事件の背景となる組織又は活動状況を明らかにする関係を有し得ることを重視している。
したがって、現行記事が「その他本件に関連すると思料される一切の物」を当然に白紙委任とした部分は、訂正する必要がある。
(3) 本件記載の審査
「覚醒剤、注射器」という例示は、覚醒剤事件における物件の中核を示している。
しかし、「一切の物」だけでは、私信、医療情報、業務文書及び第三者の物まで含むように読まれるおそれがある。
裁判官は、請求書及び疎明資料を踏まえ、例えば、取引相手、日時、場所、代金、保管又は使用状況を示す帳簿、メモ、通信機器、記録媒体等のように、想定される証拠の種類を可能な範囲で例示させるのが相当である。
もっとも、例示から漏れたという理由だけで、被疑事実との明白な関連性を有する物を全て除外する必要はない。
重要なのは、執行者の主観だけでなく、令状の記載から関連性を客観的に判断できることである。
吉開多一・緑大輔・設楽あづさ・國井恒志『基本刑事訴訟法Ⅱ[第2版]』70頁~71頁及び河上和雄ほか編『大コンメンタール刑事訴訟法〔第三版〕第2巻』396頁~397頁も、このような捜索の性質と特定の限界を説明している。
4 スマートフォン及びクラウド上のデータ
(1) 媒体の差押え
スマートフォン又はパソコンを差し押さえる場合、単に「本件に関係する一切の機器」とするのではなく、所有・使用関係、連絡手段、アカウント、通信履歴又は保存データと被疑事実との結び付きを疎明させるべきである。
もっとも、現場で端末内の全データを確認してから差押えの可否を決めることは、データ消失の危険、量及び技術的困難性から現実的でない場合がある。
最高裁令和3年2月1日第二小法廷決定(平成30年(あ)第1381号、刑集75巻2号123頁)も、同事案の事情の下で、複写前に個々のファイルを逐一確認しなかったことだけで違法とはしなかった。
(2) リモートアクセスによる複写
差し押さえる端末から接続先記録媒体にアクセスしてデータを複写する場合、令状には複写すべき電磁的記録の範囲を記載する必要がある。
「当該端末からアクセスできる全てのクラウドデータ」という記載は、期間、アカウント、データ種別及び被疑事実との関連性を欠くおそれが大きい。
最高裁令和3年2月1日決定は、令状に接続先の範囲が記載され、外国主権への配慮から権限者の承諾を求めた事案を扱ったものである。
同決定を、国外にある全てのデータへ日本の令状で直接アクセスできるという一般論として引用してはならない。
(3) 電磁的記録提供命令
令和8年5月21日以後は、電磁的記録の保管者又は利用権限者からデータそのものの提供を受ける必要がある場合、電磁的記録提供命令の適否を検討する。
令状には、提供を命ずるデータ、対象期間、相手方、アカウントその他の識別事項及び提供方法を特定する必要がある。
白取祐司『刑事訴訟法[第11版]』146頁~147頁は、電磁的記録提供命令が、記録媒体ではなくデータ自体に対する新たな強制処分であることを説明している。
第3 設問2に対するAI裁判官の回答
1 結論
被疑者が犯行発覚後にスマートフォンを地面にたたき付けた事実は、当該端末内の証拠を隠滅しようとしたことを強く疑わせる事情である。
しかし、勾留の判断では、過去に証拠隠滅行為をしたという評価だけでなく、釈放後に、どの未収集証拠に、どのような方法で働き掛ける現実的可能性があるかを検討しなければならない。
本記事で確認できる事実だけでは、別端末、クラウドアカウント、共有先、関係者又は被害者に対する具体的なアクセス可能性が示されていない。
したがって、裁判官は検察官に疎明の補充を求め、補充後も具体的な罪証隠滅可能性が示されない場合、勾留請求を却下するのが相当である。
2 勾留理由及び必要性の審査
(1) 法的な判断枠組み
刑事訴訟法60条1項は、住居不定、罪証隠滅のおそれ又は逃亡のおそれを勾留理由として定めている。
これに加え、身体拘束による不利益との関係で、勾留の必要性及び相当性を審査する必要がある。
最高裁平成26年11月17日第一小法廷決定(平成26年(し)第578号)は、被害者に接触する抽象的可能性だけでなく、現実的な罪証隠滅可能性の程度を具体的に検討した。
最高裁令和7年11月27日第一小法廷決定(令和7年(し)第1043号)も、客観証拠の収集状況、関係者取調べの進捗、被疑者の捜査協力及び関係者への影響力等を踏まえて勾留の要否を判断している。
(2) 端末破壊の評価
端末破壊を偶然の落下と同視することはできない。
故意の破壊であれば、少なくとも当該端末内の証拠を捜査機関に見られたくないという動機を推認させ得る。
他方、「普通の人はスマートフォンをたたき壊さない」というだけで、その後の全ての罪証隠滅可能性を肯定するのも相当でない。
裁判所は、破壊の態様、端末の損傷状態、押収時期、データ抽出の可能性、同期設定、他の認証端末、アカウントの回復手段、共有先及び関係者との連絡手段を記録に基づいて検討すべきである。
(3) 解析に時間を要すること
端末解析に時間を要すること自体は、罪証隠滅のおそれではない。
解析期間中に被疑者が具体的な未収集証拠へ働き掛ける可能性が疎明されて初めて、解析の進捗が勾留の必要性に関係する。
捜査機関の設備、担当者又は解析待ちの事情だけで身体拘束を継続することはできない。
(4) 身体拘束以外の保全措置
差し押さえた端末については、ネットワーク隔離、電波遮断、状態記録、検証済み手順によるデータ取得、複製の分離保管及びハッシュ値等による完全性確認を検討する。
ただし、機内モードだけで全無線通信が遮断されるとは限らず、シールド容器も使い方により通信又は電源管理上の問題を生じ得る。
また、対象に応じ、刑訴法197条3項の保全要請、218条1項の電磁的記録提供命令又は同条2項のリモートアクセス複写を検討する。
これらの措置で常に全てのリスクを除去できるとは限らないが、身体拘束が唯一の保全手段であると決め付けてもならない。
3 被害者の個人特定事項
本件被疑事実が刑訴法201条の2所定の対象事件に該当し、被害者等の個人特定事項を被疑者に知られることにより、名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれ等がある場合、逮捕状及び勾留請求の各段階で同条及び刑訴法207条の2の措置を検討する。
勾留請求時には、検察官の請求により、被疑者に示し又は交付する勾留状の抄本等について、個人特定事項に代わる事項を記載する措置が問題となる。
もっとも、被疑者又は弁護人の防御権を不当に害してはならない。
刑訴法207条の3は、被疑者又は弁護人が、個人特定事項の全部又は一部を被疑者に通知する旨の裁判を請求する手続を定めている。
弁護人がとれる通知の請求等の手続は、逮捕状に代わるもの・勾留状に代わるもの-被害者の個人特定事項の秘匿と弁護人がとれる手段(AI作成)で整理している。
最高裁令和6年4月24日第三小法廷決定(令和6年(し)第262号)は、刑訴法207条の2第2項の方法により個人特定事項を明らかにしなくても、その余の事項から当該被疑事件を特定することができ、同条は被疑者が弁護人に依頼する権利を行使することを妨げるものでもないとして、同条が憲法34条に違反するとの主張を前提を欠くとした。
最高裁令和7年9月19日第一小法廷決定(令和7年(し)第735号)は、刑訴法207条の3第1項の請求を却下する裁判に対する準抗告棄却決定について、申立人が既に釈放されている場合には、特別抗告は法律上の利益を欠き不適法であるとした。
裁判官は、被害者保護と防御権の双方を、事件ごとに具体的に審査すべきである。
第4 AI弁護人の準抗告申立書
1 申立ての趣旨
原勾留裁判を取り消す。
検察官の勾留請求を却下する。
との裁判を求める。
2 申立ての理由
(1) 端末破壊の事実だけでは、将来の罪証隠滅可能性を基礎付けないこと
被疑者が逮捕時にスマートフォンを損壊させた事実は争わない。
しかし、当該端末は既に捜査機関の管理下にある。
検察官は、被疑者が釈放後に働き掛けることのできる未収集証拠を具体的に特定していない。
別の端末、クラウドアカウント、画像共有先又は協力者が存在するという疎明もない。
過去の破壊行為から、存在の疎明されていない証拠に対する将来の隠滅行為を推測することはできない。
(2) 解析期間は勾留理由ではないこと
原裁判が端末解析に相当期間を要することを重視したのであれば、その判断は刑訴法60条の解釈を誤っている。
解析の困難性又は捜査機関の作業期間は、それ自体、被疑者による罪証隠滅のおそれではない。
捜査機関は、押収済み端末をネットワークから隔離し、現状を記録した上で、検証済み手順によるデータ取得を行うことができる。
必要な通信履歴については保全要請を検討でき、特定されたクラウドデータについては、リモートアクセス複写又は電磁的記録提供命令の要件を検討できる。
(3) 抽象的なクラウド消去可能性では足りないこと
検察官は、対象となるサービス、アカウント、データ、同期設定、認証方法又は被疑者のアクセス手段を示していない。
「クラウドは遠隔消去できる」という一般論だけでは、本件の現実的な罪証隠滅可能性を示したことにならない。
また、クラウド事業者への手続には時間を要するという抽象論を、被疑者の身体拘束によって補うことも許されない。
(4) 被害者保護を独立の勾留理由にできないこと
被害者の個人特定事項は、刑訴法201条の2、207条の2及び207条の3に従って取り扱うべきである。
被害者の安全は重要であるが、検察官は、被疑者が被害者を探索し、接触し、供述に働き掛ける現実的可能性を示していない。
報復感情が生じ得るという推測を、刑訴法60条1項所定の理由に代えることはできない。
(5) 勾留の必要性がないこと
本件の主要な客観物は既に押収され、被害者の供述も確保されている。
原裁判がどの未収集証拠及び接触可能性を重視したのかは明らかでない。
最高裁平成26年11月17日決定及び最高裁令和7年11月27日決定の趣旨に照らし、抽象的可能性による身体拘束は許されない。
よって、原勾留裁判は取り消されるべきである。
第5 AI裁判所の決定
1 主文
原勾留裁判を取り消す。
本件勾留請求を却下する。
2 理由
(1) 審査の対象
本決定は、公開記事に記載された事実及び本件準抗告記録に、被疑者が押収済み端末以外の未収集証拠に働き掛ける具体的可能性を示す資料がないことを前提とする。
原裁判は、被疑者が犯行発覚後にスマートフォンを地面にたたき付けて損壊させたこと、同端末の解析に時間を要すること、クラウド上のデータが遠隔消去される可能性及び被害者保護の必要性を重視して勾留したものと解される。
(2) 端末破壊
被疑者がスマートフォンを故意に損壊させたことは、当該端末内のデータを捜査機関に取得させない意図を推認させる重要な事情である。
この点は、弁護人がいうような単なる偶発的損傷として軽視できない。
しかし、端末は既に押収され、被疑者の管理を離れている。
記録上、被疑者が釈放後にアクセスし得る別端末、クラウドアカウント、保存先、共有先又は関係者は特定されていない。
端末を一度破壊したことから、対象の特定されない別の証拠を隠滅する現実的可能性まで直ちに認めることはできない。
(3) 端末解析及びクラウド
押収端末の解析に時間を要するとしても、その間に被疑者が解析を妨害できる具体的方法は示されていない。
捜査機関は、端末のネットワーク隔離、状態記録及び適切なデータ取得手続を講ずることができる。
クラウド上のデータについても、対象となるサービス、アカウント、データ及び被疑者のアクセス手段が記録上明らかでない。
海外事業者の審査又は国際共助に時間を要する場合があるとしても、その一般的可能性だけでは本件被疑者の罪証隠滅のおそれを基礎付けない。
なお、クラウドデータが常に端末内データより劣化しているとはいえない。
保存設定によっては、クラウド側にフル解像度データがあり、端末側に容量節約版が置かれている場合もある。
証拠価値は、取得された個々のデータ、メタデータ、ログ及び取得手続により判断すべきである。
(4) 被害者への働き掛け
被害者は被疑者と犯行現場で接しているものの、被疑者が被害者の氏名、住所、学校その他の連絡先を知っていることを示す資料はない。
被疑者が社会的地位を失うおそれがあるから報復感情を抱くという推測も、具体的な罪証隠滅可能性を示すものではない。
個人特定事項については、刑訴法207条の2等に基づく措置を適切に講ずべきであるが、その制度の適用と勾留の要否は区別して判断する必要がある。
(5) 結論
以上によれば、被疑者が押収済み端末を損壊させたことは重い事情であるものの、本件記録上、釈放後に未収集証拠へ働き掛ける現実的可能性が十分に示されているとはいえない。
原裁判は、存在及びアクセス可能性の具体的な疎明がないクラウドデータ、別端末及び被害者への働き掛けを補って勾留の必要性を肯定した点で相当でない。
よって、刑訴法432条が準用する同法426条2項により、主文のとおり決定する。
3 結論が変わり得る場合
本決定は、次の事実が記録に現れている場合まで、勾留を否定するものではない。
①被疑者が利用できる別端末又はクラウドアカウントが特定され、未保全の本件データが存在すること
②被疑者が認証情報、回復用メール又は協力者を介してデータを消去できること
③画像の共有先又は関係者が特定され、通謀又は働き掛けの具体的可能性があること
④被疑者が被害者の連絡先又は生活圏を知り、供述への働き掛けをうかがわせる言動をしていること
⑤既に講じられた保全措置では、未収集証拠を保全できない具体的事情があること
このような事情が疎明された場合、端末破壊の事実と併せ、罪証隠滅のおそれ及び勾留の必要性を肯定し得る。
第6 令和7年法律第39号の令和8年施行部分に関する留意点
暗証番号の供述,生体認証による解除,押収済み端末内のデータ探索及びクラウド上の電磁的記録の区別については,スマートフォンのロック解除と捜索・差押え-暗証番号・生体認証・黙秘権(AI作成)で整理している。
電磁的記録提供命令の制度全体は電磁的記録提供命令とは-記録命令付差押えとの違い,令状の記載事項,秘密保持命令及び罰則(AI作成)で,名古屋地裁の令状事務処理の手引(七訂版)の内容と現行法への読み替えは名古屋地裁の令状事務処理の手引(七訂版)-令状の点検項目,記載例及び現行法への読み替え(AI作成)で整理している。
1 令状におけるデータの特定
電磁的記録提供命令では、提供を命ずるデータ、保管者又は利用権限者及び提供方法を特定する。
対象期間、アカウント、利用者、データ種別及び被疑事実との関連性を可能な限り記載し、「当該アカウント内の一切のデータ」という無限定な請求を避ける。
2 秘密保持命令
刑訴法218条3項の秘密保持命令は、裁判官の許可を受け、1年を超えない期間を定めるものである。
秘密保持の必要性がなくなった場合には、同条7項に基づく取消しを速やかに検討する。
令状請求時には、捜査への影響、相手方の負担、情報主体の不服申立ての機会及び期間の相当性を具体的に審査する必要がある。
3 不服申立て
刑訴法430条は、検察官、検察事務官又は司法警察職員がした電磁的記録提供命令及び秘密保持命令等について、準抗告の対象となることを定めている。
命令を受けた者だけでなく、取得対象となった情報の主体の利益が問題となる場合がある。
4 提供後の取扱い
令和8年3月23日付け法務大臣訓令及び前記依命通達により、電磁的記録提供命令許可状請求書は様式第77号、電磁的記録提供命令調書は様式第81号に整理された。
提供日時、場所、対象データ、方法及び経過を正確に記録する。
電気通信回線を通じて提供されたデータと、それを一時的に保存した機器又は記録媒体を区別する。
提供データは速やかに独立した記録媒体に複写し、一時ファイルを消去する。
事件と無関係な第三者情報を漫然と保管・利用せず、選別、適正管理及び不要データの消去を検討する。
5 命令が取り消された場合
電磁的記録提供命令が取り消されても、条文上、取得済みデータが自動的に消去されるわけではない。
もっとも、取消し後も保管又は利用を続ける必要性及び適法性は別に検討しなければならない。
6 正当な理由のない不履行
刑訴法222条の2は、電磁的記録提供命令に正当な理由なく従わなかった者に対する罰則を設けている。
旧記録命令付差押えの協力的な構造と異なり、新制度は履行確保の仕組みを備えている。
もっとも、命令の範囲、履行可能性、技術的負担及び自己負罪拒否特権等の問題を、罰則だけで解決してはならない。
第7 デジタル証拠について裁判官が確認すべき事項
1 取得前
①被疑事実と対象端末、アカウント又はデータとの具体的関連性
②対象期間、利用者、アカウント、データ種別及び保存場所
③媒体の差押え、リモートアクセス複写、電磁的記録提供命令及び保全要請のどれを用いるのか
④第三者及び事件と無関係な情報が含まれる可能性
⑤より侵害の小さい代替手段の有無
2 取得時
①端末の電源及び通信状態
②ネットワーク隔離の方法とその限界
③使用した機器、ソフトウェア、担当者、日時及び操作手順
④原データを変更しないための措置
⑤令状で許可された範囲と実際の取得範囲
3 取得後
①複製と原データの区別
②ハッシュ値その他の完全性確認
③作業記録及び監査証跡
④無関係データの隔離、利用制限及び消去
⑤令状又は命令が取り消された場合の保管・利用の見直し
NIST SP 800-101 Rev.1及びSWGDEのモバイル端末証拠取扱指針は、保存、取得、検査、分析及び報告を一連の検証可能な手続として扱っている。
裁判官に必要なのは、特定の製品名又は抽出手法を暗記することではなく、証拠取得の範囲、完全性、再現可能性及び権利侵害を審査できることである。
第8 まとめ
設問1について、捜索場所の「その他……思料される場所」は削除させるべきである。
他方、差押対象物の「その他本件に関連すると思料される一切の物」は、文言だけから当然に違法とはいえず、例示、「本件」の特定及び事件との関連性から対象範囲を客観的に画定できるかを審査すべきである。
設問2について、端末破壊は重要な事情であるが、勾留の判断は、未収集証拠への具体的な働き掛け可能性、既に講じられた保全措置及び捜査の進捗に基づかなければならない。
裁判所は、想像できる最悪のデジタル証拠隠滅手口を列挙して身体拘束を肯定するのではなく、記録に現れた事実と利用可能な技術的・法的保全手段を具体的に比較すべきである。
第9 出典
1 法令・公文書
②情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律(令和7年法律第39号)
③法務省「情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」
④事件事務規程の一部を改正する訓令(令和8年3月23日付け法務省刑総訓第1号)
⑤改正刑訴法の施行に伴う事件事務規程等を改正する訓令の運用について(令和8年3月23日付け法務省刑総第217号(例規))
2 裁判例
①最高裁令和3年2月1日第二小法廷決定(平成30年(あ)第1381号、刑集75巻2号123頁)
②最高裁昭和51年11月18日第一小法廷判決(昭和49年(あ)第1260号、判時837号104頁)
③最高裁昭和33年7月29日大法廷決定(昭和33年(し)第16号、刑集12巻12号2776頁)
④最高裁昭和31年4月24日第三小法廷判決(昭和29年(あ)第2287号)
⑤最高裁平成26年11月17日第一小法廷決定(平成26年(し)第578号)
⑥最高裁令和7年11月27日第一小法廷決定(令和7年(し)第1043号)
⑦最高裁令和6年4月24日第三小法廷決定(令和6年(し)第262号)
⑧最高裁令和7年9月19日第一小法廷決定(令和7年(し)第735号)
3 書籍
①白取祐司『刑事訴訟法[第11版]』日本評論社、令和8年、146頁~147頁、156頁
②中島宏・宮木康博・笹倉香奈『刑事訴訟法[第2版]』日本評論社、令和8年、53頁~54頁
③高橋郁夫ほか編『第2版 デジタル証拠の法律実務Q&A』日本加除出版、令和5年、169頁、418頁~419頁
④緑大輔『刑事捜査法の研究』日本評論社、令和4年、267頁~268頁
⑤吉開多一・緑大輔・設楽あづさ・國井恒志『基本刑事訴訟法Ⅱ[第2版]』日本評論社、令和7年、70頁~71頁
⑥河上和雄ほか編『大コンメンタール刑事訴訟法〔第三版〕第2巻』青林書院、令和6年、396頁~397頁
⑦川出敏裕『判例講座 刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕〔第2版〕』立花書房、令和3年、129頁
4 技術資料等
①NIST SP 800-101 Rev.1, Guidelines on Mobile Device Forensics
②SWGDE Best Practices for Mobile Device Evidence Collection & Preservation, Handling, and Acquisition
⑥北條孝佳「クラウド上のデータに対する捜索・差押え」(BUSINESS LAWYERS、令和2年9月24日)
なお、裁判所ウェブサイトの裁判例検索は、全ての判決及び決定を掲載しているものではない。
本記事は、令和8年8月21日までに同サイトで確認できた直接関連裁判例を中心に整理したものである。