第1 車両保険の概要
1 車両保険の意義と保険料の特徴
車両保険は,自分の車の修理代等を補償する任意保険である。対人賠償責任保険及び対物賠償責任保険が,被害者に生じた人身損害や物損を無制限に近い形で補償する(保険金額を無制限に設定できる)のに対し,車両保険の保険金の上限は,保険に加入している自分の車の時価(=市場価格)が基準となるため,何千万円もの金額が問題となることは通常ない。その一方で,車両保険は,保険金の水準に比べて保険料が高額になりやすいという特徴がある。
2 免責金額と全損時の扱い
車両保険には,通常,免責金額(自己負担額)が設定されており,免責金額までの損害については保険金が支払われない。たとえば,免責金額が5万円である場合,車の修理代に50万円かかったときに車両保険から支払われる保険金は45万円となる。もっとも,全損の場合には,免責金額を設定していても損害額から差し引かれず,全額(車両保険金額を上限とする額)が補償される(ほけんの窓口インズウェブHP「車両保険の免責金額とは?いくらに設定する?」参照)。
3 車両保険で補償される費用
車両保険に加入している場合,次の費用も併せて支払われる。
- ① 修理費の一環として,事故により被保険自動車が自力で動けなくなった場合に,最寄りの修理工場等へ運搬するために要したレッカー代等の費用
- ② 盗難に遭った被保険自動車を引き取るために必要であった費用
損保ジャパンの個人用自動車保険『THE クルマの保険』(令和8年7月1日以降始期契約)では,これらの所定費用(運搬費用,応急処置費用又は盗難引取費用等)について,実費を1事故につき合計15万円を限度に,車両保険金とは別に支払う扱いとなっている。上限額は保険会社及び商品によって異なるため,契約中の約款で確認する必要がある。
4 車両保険金の先行払
物損事故における修理費用は示談成立後に支払われるのが原則であるが,過失割合に争いがあるなどして示談交渉が進まない場合には,車両の修理を先に進めてしまうことがある。この場合に,加害者からの賠償に先行して,被害者自身が加入している車両保険を使用して修理費用を支払うことを,車両保険金先行払(車両先行)という。この場合,被害者の保険会社は,先行払いした保険金の範囲で,加害者に対する損害賠償請求権を代位取得する(保険法25条)から,加害者からいくら回収できるかという点について,被害者は当事者ではなくなる。
5 故障は原則対象外だが,特約で手当てできる商品が主流になりつつある
通常の自動車保険では,故障が発生した場合のレッカー費用や代車・宿泊・移動費用について保険金が支払われることはあっても,故障車両自体の修理費については保険金が支払われないのが原則である(損保ジャパンHPの「【自動車保険】「故障運搬時車両損害特約」の新設~走行不能時の故障損害を補償~」参照)。もっとも,この原則には近年,重要な例外が広がっている。東京海上日動の「トータルアシスト自動車保険」には「故障補償特約(搬送時・定額払)」があり,契約車両が自家用乗用車(普通・小型・軽四輪)で車両保険(一般条件)を契約しており,かつ始期日の属する月が初度登録から84か月(7年)を超えるときは,この特約が自動セットされる。対象部品に応じてあらかじめ定められた額(7万円,10万円,20万円又は30万円)が保険金として支払われる仕組みであり,もはや例外的な特約ではなく,古い車の契約における標準的な補償になりつつある。
第2 車両保険が適用される場合
1 一般型とエコノミー型
一般型の車両保険は,通常,次の場合に適用される。
- ① 車同士の衝突,二輪自動車・原動機付自転車との衝突,火災・爆発,いたずら・落書き・窓硝子破損,飛来中・落下中の他物との衝突,台風・竜巻・洪水・高潮
- ② 盗難
- ③ 電柱・ガードレールへの衝突,当て逃げ,車庫入れの失敗,転覆・墜落
これに対し,エコノミー型の車両保険は,一般型と比べて保険料が安くなる代わりに,上記③の場合に適用されない。したがって,他の自動車に衝突されたもののその運転者又は所有者が確認できない場合(当て逃げ)には,エコノミー型では車両保険が適用されない。
車両保険の加入率(普及率)について,損害保険料率算出機構「自動車保険の概況」(2025年度版・2024年度統計)によれば,全国の車両保険加入率は約47.4パーセントであり,自家用普通乗用車に限ると約64.3パーセント,軽乗用車では約49.6パーセントである。車種による加入率の差は,一般に車両価格が高いほど車両保険を付ける動機が強いことを反映していると考えられる。
2 偶然性についての主張立証責任
「衝突,接触…その他偶然な事故」を保険事故とする自家用自動車総合保険契約の約款に基づき,車両の水没が保険事故に該当するとして車両保険金の支払を請求する者は,事故の発生が被保険者の意思に基づかないものであることについて主張,立証すべき責任を負わない(最高裁平成18年6月1日判決・民集60巻5号1887頁)。同様に,車両の表面に傷が付けられたことが保険事故に該当するとして車両保険金の支払を請求する場合についても,同じ理が及ぶ(最高裁平成18年6月6日判決・集民220号391頁)。この判断枠組みは,火災保険金の支払を請求する場合における火災発生の偶然性についても同様であり,保険者に対して火災保険金の支払を請求する者は,火災発生が偶然のものであることを主張,立証すべき責任を負わない(最高裁平成16年12月13日判決・民集58巻9号2419頁)。
これらの判例は,古い商法629条・641条下の火災保険・自家用自動車総合保険約款が定める「偶然な事故」という要件について,保険金請求者が事故の偶発性(=被保険者の意思に基づかないこと)まで立証する必要はなく,むしろ被保険者の故意招致は保険者が免責事由として主張立証すべき事項であるという解釈を確立したものである。要件事実の分配という観点からは,保険金請求者に有利な判断枠組みであり,のちに述べる盗難の事案(第5章3)にも同じ考え方が及んでいる。
3 被保険自動車の付属品の範囲
被保険自動車には,通常,自動車の付属品として次のものが含まれる。したがって,車上荒らしに遭ってカーナビだけが盗まれたような場合にも,車両保険は適用される。
- ① 自動車又は原動機付自転車に定着又は装備されている物(カーステレオ,装備されているスペアタイヤ,標準工具,チャイルドシート,フロアマット,定着又は装備されている消火器・座席ベルト等)
- ② カーナビゲーションシステム及びETC搭載器
ただし,損害額が車両保険の免責金額(自己負担額)を下回る場合には,車両保険からの支払はない。
4 自動車の付属品以外の物
車がガードレールに衝突してキャリアに固定していたスノーボードが壊れた場合や,車が電柱に衝突してトランク内のゴルフクラブが破損した場合のように,自動車の付属品以外の物が破損した場合は,車両保険は適用されない。これらの損害について保険金の支払を受けたい場合には,車両身の回り品補償(車両保険の特約として付帯できる商品が多い)に加入する必要がある。おとなの自動車保険(損保ジャパン系)の同特約では,保険金額を10万円,30万円又は50万円の中から選択でき,現金・有価証券・宝石類・スマートフォン等は対象外とされている(おとなの自動車保険HP「車両身の回り品補償」参照)。
第3 車両保険が適用されない場合
車両保険が適用されない場合の例としては,次のものがある。
- ① 保険契約者,所有権留保付売買の買主等の故意又は重大な過失によって発生した損害
- ② 戦争,外国の武力行使等又は暴動
- ③ 地震若しくは噴火又はこれらによる津波(東日本大震災による津波及び福島第一原発事故については,車両保険は適用されなかった。もっとも,特約が付いている場合には車両保険が適用される。特約の例としては,一時金として50万円が支払われる「地震・噴火・津波車両全損時一時金特約」がある。)
- ④ 原発事故
- ⑤ 詐欺又は横領(車をだまし取られた場合,車両保険は使えない。)
- ⑥ 競技又は曲技(競技の例としては,ロードレース(山岳ラリー,タイムラリー)及びサーキットレースがある。曲技の例としては,サーカス,スタントカーがある。)
- ⑦ 無免許運転,免許停止中の運転,免許外運転
- ⑧ 酒酔い運転,酒気帯び運転
- ⑨ 偶然の外来の事故に由来しない故障損害(前記第1章5のとおり,故障補償特約を付帯すれば対象となる場合がある。)
第4 車両保険における全損及び分損
1 全損及び分損の意義
車両保険における全損は,次の場合をいう。
- ① 物理的全損(被保険自動車を物理的に修理できない場合)
- ② 経済的全損(被保険自動車の修理費が協定保険価額を超える場合)
- ③ 盗難(被保険自動車が盗難されて発見されなかった場合)
これに対し,分損とは,被保険自動車の修理費が協定保険価額を超えない場合をいう。
なお,「経済的全損」という語は,交通事故の加害者に対する損害賠償請求の場面でも用いられるが,立証責任の所在が逆転する点に注意を要する。車両保険(自分の保険会社に対する保険金請求)では,全損に該当することは保険金請求者にとって有利な事実であり,通常,請求者側がこれを主張立証する。これに対し,加害者に対する損害賠償請求において,加害者側が修理費でなく時価額相当額に賠償を限定しようとして経済的全損を主張する場合には,経済的全損に該当することの立証責任は加害者側にあるとされている(東京地判平成28年6月17日・交通事故民事裁判例集49巻3号750頁)。同じ「全損」という語を用いていても,請求の相手方(自社の保険会社か,加害者か)によって立証責任の所在が異なることは,読者が混同しやすい点である。
2 協定保険価額
協定保険価額とは,契約締結時における被保険自動車と同一の用途車種,車名,型式,仕様,初度登録年月等で,損耗度が同一の自動車の市場販売価格相当額を参考に,車両保険加入時に決定される,全損時の支払上限額をいう。自動車の市場販売価格相当額は,原則としてオートガイド社が毎月発行している「オートガイド自動車価格月報」(通称レッドブック)を参考に決定されることが多い。
任意保険の契約期間中,協定保険価額は下がらないのに対し,車の時価は日々下がるため,協定保険価額は契約者にとって有利な価額となる。ただし,任意保険の契約を更新する際には,協定保険価額も見直され,下がることとなる。また,協定保険価額が時価額を著しく超える場合には,時価額を車両保険金額とみなして保険金が支払われる扱いになっている点にも留意する必要がある(損保ジャパン「車両保険(ご自身のお車の補償)」の注意事項参照)。協定保険価額を設定できる範囲は,新車の場合は狭く,中古車の場合は広くなる。車両保険には通常,車両価額協定保険特約が自動的にセットされており,この協定保険価額が車両保険の保険金額となる。
3 全損時の車両保険の保険金
全損の場合,協定保険価額と修理代のいずれか低い方が車両保険の保険金として支払われるのであって,免責金額が差し引かれることはない。追突事故のように相手方に100パーセントの過失がある場合であっても,相手方の任意保険会社は車両の時価額しか提示してこないのが通常である。この場合には,協定保険価額と時価額との差額について,車両保険からの支払を受けることができる。
4 分損時の車両保険の保険金
分損の場合,修理代から免責金額を差し引いた金額が車両保険の保険金として支払われる。物損事故について自分にも過失がある場合,過失割合部分について車両保険を使用できるものの,車両保険を使用した場合にはノンフリート等級が3等級下がり,翌年度からの任意保険の保険料が上がる。保険会社によっては,次に車両保険を使うときの免責金額が上がる仕組み(増額方式)を選択制で残しているところもある(損保ジャパンは定額方式と増額方式の選択制を維持している。他方,三井住友海上は令和8年1月から増額方式を廃止し,定額方式に一本化した。)。したがって,車両保険の保険金(=修理代から免責金額を差し引いた金額)と,車両保険を使ったことによる保険料の値上がり分とを比較して,車両保険を使うかどうかを判断すべきこととなる。この損得比較の具体的な考え方については,ソニー損保HPの「3等級ダウン事故~こんな場合,保険を使った方が良い?~」も参考になる。なお,車対車の事故の場合,相手の車に対する賠償について対物賠償責任保険を使うのであれば,それだけでノンフリート等級が3等級下がるから,次に事故を起こした際の自己負担額が上がる場合であっても,自分の車について車両保険を併せて使った方がよいことが多い。
なお,かつては,保険期間中の1回目の保険事故に限り次年度の等級を下げないという等級プロテクト特約が存在したが,平成24年10月の自動車保険改定により廃止された。等級が下がらずに車両保険を利用できる関係で,保険会社の想定以上に車両保険が利用された結果,保険会社にとって採算の合わない特約だったことが背景にあるといわれている。
5 車両新価保険特約(新車特約)
新車特約とは,購入した新車が購入後一定の期間内に一定以上の損害を受けた場合に,新たに代わりの自動車(新車)を購入するための費用を支払う特約をいう。新車特約をセットするためには,自動車の初度登録から37か月以内に保険期間の末日があることといった条件が付いていることが多い。また,盗難による全損の場合には,新車特約が適用されないことがある。東京海上日動HPの「お車の補償に関するその他の特約」に,車両新価保険特約,地震・噴火・津波危険車両全損時一時金特約及び故障補償特約の説明が掲載されている。
6 車両保険を使用してもノンフリート等級が下がらない場合
相手方自動車の追突,センターラインオーバー,赤信号無視又は駐停車中の契約自動車への衝突・接触による事故で,契約自動車の運転者及び所有者に過失がなかったと保険会社が判断した場合には,車両保険を使ってもノンフリート等級が下がらない(無過失車対車事故の特則等と呼ばれる)。該当し得る事故の場合は,自分の保険会社に問い合わせるべきである。
第5 盗難自動車と車両保険
1 盗難時の扱い
車両保険では,盗難に遭った場合には車両保険金が支払われる。この場合,盗難に遭った自動車の所有権は保険会社に移転するものの,保険金の支払を受けてから60日以内に被保険自動車が発見された場合には,保険金を返して発見された自動車の返還を求めることもできる。
2 詐欺・横領の除外
詐欺又は横領により生じた損害,及び詐欺又は横領に遭った後,被保険自動車の占有を回復するまでの間に被保険自動車に発生した破損等の損害は,免責となり保険金は支払われない。これらの損害は,発生原因に被保険者の意思が介在する点で盗難と異なり,これを担保するには新たな危険(信用リスク)の測定も必要となって保険料率にも影響するため,免責とされている。詐欺又は横領を行った者が誰であるか,又は誰に対して行われたのかは問われない。そのため,保険金を請求するに当たっては,損害発生原因を盗難と区別するために,盗難による損害が発生した旨を証明する必要がある。
3 盗難の外形的事実についての主張立証責任
一般に盗難とは,占有者の意に反する第三者による財物の占有の移転をいう。車両保険の場合,被保険自動車の盗難という保険事故が保険契約者又は被保険者の意思に基づいて発生したことは,保険者が免責事由として主張,立証すべき事項である。したがって,被保険自動車の盗難という保険事故が発生したとして車両保険金の支払を請求する者は,被保険自動車の持ち去りが被保険者の意思に基づかないものであることを主張,立証すべき責任を負うものではない。
しかし,この主張立証責任の分配によっても,保険金請求者は,「被保険者以外の者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったこと」という盗難の外形的な事実を主張,立証する責任を免れるものではない。そして,その外形的な事実は,「被保険者の占有に係る被保険自動車が保険金請求者の主張する所在場所に置かれていたこと」及び「被保険者以外の者がその場所から被保険自動車を持ち去ったこと」という事実から構成される(最高裁平成19年4月17日判決・民集61巻3号1026頁,最高裁平成19年4月23日判決・集民224号171頁)。単に「外形的・客観的にみて第三者による持ち去りとみて矛盾のない状況」を立証するだけでは足りず,合理的な疑いを超える程度にまで外形的事実を立証する必要があるとされている点に注意を要する。
近年は,車両の電子制御ユニットに不正信号を送信してドアロックを解除する手口(CANインベーダー)や,スマートキーの微弱な電波を中継する手口(リレーアタック)など,物理的な鍵の破壊痕跡を伴わない盗難が主流になっている(後記4参照)。もっとも,このような技術的背景の変化があっても,盗難の外形的事実の主張立証責任が保険金請求者にあるとする最高裁の判断枠組み自体に変更はない。下級審の裁判例も,この判断枠組みを厳格に適用している。名古屋高等裁判所令和4年3月16日判決(判例秘書の判例番号 L07720592)は,ピッキング及びキープログラマーを用いた方法,CANインベーダーの方法,コードグラバーの方法,車両移動具を用いた方法等の複数の手口が主張された事案において,被保険者以外の者が駐車場から被保険自動車を持ち去ったことの証明があったとはいえないとして,請求を棄却した原審判決を維持した。大阪高等裁判所平成30年11月22日判決(判例秘書の判例番号 L07320881)も,イモビライザーシステムを制御する機器を積み替える手口による盗難の実例が確認できないことなどを理由に,第三者による持ち去りの可能性は極めて低いと判断している。これらの裁判例は,主張された盗難の手口が技術的に説明可能であるというだけでは足りず,その手口が現実に用いられ得ることや,被保険自動車が主張どおりの場所に置かれていたことについて,具体的な事実による裏付けが必要であることを示している。
保険金請求者本人の供述の信用性が問題となった事案もある。名古屋高等裁判所令和5年11月22日判決(判例秘書の判例番号 L07820698)は,盗難に気付いた時期や当時の駐車場の状況,鍵の所在,警察による捜査への協力状況等に関する供述が変遷している上,車両の売買代金の支払に関する領収証を偽造していたことなどから,保険金請求者代表者の供述等は信用できないとして,盗難の外形的事実を認めなかった。さらに,大阪高等裁判所令和2年2月21日判決(判例秘書の判例番号 L07520662)では,盗難事故が保険金請求者自身が企画,遂行した偽装盗難であると推認されるとして請求が棄却されただけでなく,保険会社が調査のために支出した費用等を求める反訴請求が一部認容されている。虚偽の盗難申告は,保険金が支払われないにとどまらず,保険会社から調査費用等の負担を求める反訴を提起されるリスクも伴う。保険金請求者としては,車両を最後に確認した時刻や場所,鍵の保管状況,防犯カメラの有無等について,具体的で一貫した事実関係を示すことが引き続き重要である。
4 自動車盗難の統計
警察庁生活安全企画課「自動車盗難等の発生状況等について」(令和8年2月版)によれば,自動車盗の認知件数(車両本体の盗難であり,部品盗及び車上ねらいは除く。)は,ピークであった平成15年(6万4223件)から大幅に減少し,令和3年(5182件)で底を打った。ところが,令和4年以降は4年連続で増加に転じており,令和4年5734件,令和5年5762件,令和6年6080件,令和7年6386件となっている。
この増加の背景として,同資料は,特定の車種を対象とした窃取後に自動車解体ヤード等へ持ち込み,海外へ不正に輸出する実態がうかがわれるなど,組織的・広域的な犯行が多く見られると指摘している。認知件数のうち鍵を使わずに盗まれた「キーなし」の割合は,令和7年は77.8パーセントと過去最も高い割合となっており,概ね4台に3台が鍵を使わない手口で被害に遭っている計算になる。手口としては,前記3のCANインベーダーやリレーアタックのほか,車内に侵入してキープログラマー等でエンジンキーを複製する手口,車体にマグネット等で隠したスペアキーを探し出す手口等が挙げられている。車名別の盗難台数では,令和7年はトヨタ・ランドクルーザー(1177台)が最も多く,トヨタ・プリウス,トヨタ・アルファード,トヨタ・ハイエース,レクサスRX,レクサスLX(自動車保有台数1000台当たりでは19.7台と突出)が続いている。発生場所別では「一般住宅」が全体の45.2パーセントと過去最高の割合を占め,「駐車(輪)場」の27.9パーセントと合わせて全体の約7割を占める。
同資料は,盗難防止対策として,確実な施錠に加え,警報装置,ハンドルロックやホイールロック等の固定器具,GPS追跡装置等の複数の防犯装置を組み合わせて用いること,スマートキーを玄関先に置かず電波を遮断できるケースに保管すること等を挙げている。
第6 車両全損時諸費用特約等
車両保険に自動セットされていることが多い車両全損時諸費用特約に加入している場合,被保険自動車が全損となったときに,車両保険金額の10パーセント(上限20万円)に相当する額,又はこれと別に定められた下限額(10万円等,商品によって異なる。)のいずれか高い額が支払われる。これによって,廃車時にかかる費用及び新車購入時にかかる費用をある程度まかなうことができる。損保ジャパンの現行商品では「車両保険金額の10パーセント(20万円限度)又は10万円のいずれか高い額」,東京海上日動の現行商品では「車両保険金額の10パーセント(上限20万円,下限10万円)」とされており,下限額を設ける商品設計が一般化している(前記第1章3の運搬費用等とは別枠の給付である。)。
全損車を廃車にするときの永久抹消登録,一時抹消登録,必要書類及び手続終了後に受け取る書類については,登録自動車の廃車手続の必要書類と手続終了後の書類で説明している。
第7 関連情報
車両保険を含む任意自動車保険の請求実務については,次の記事も参照されたい。
- ・ 任意保険の示談代行
- ・ 昭和48年9月1日付の,日本損害保険協会及び日弁連交通事故相談センターの覚書(交通事故損害賠償に関するもの)
- ・ 自賠責保険の支払基準(令和2年4月1日以降の交通事故に適用されるもの)
- ・ 損益相殺
- ・ 東京地裁民事第27部(交通部)
- ・ 弁護士費用特約
車両保険が適用されるかどうかが争われる事案では,入力方向(アジャスターの損害レポートに記載される,衝突により発生した合力の方向を示す表示)の意味を誤解した主張がされることがある。小島法律事務所(福岡県飯塚市)のスタッフブログ「入力方向について(物損事故)」は,「アジャスターマニュアル 乗用車編」(日本損害保険協会)を引用しつつ,入力方向とは相手車両が衝突してきた方向を示すものではなく,両当事車両の衝突によって発生した合力をベクトルで表現したものであると説明しており,実務上参考になる。車両保険に基づく保険金請求事件の裁判例分析としては,判例タイムズ1382号(2013年1月号)大阪民事実務研究「車両保険に基づく保険金請求事件について-盗難及び人為的損傷による事故を題材として」(齋藤聡)がある。
出典
法令
- ・ 商法629条,641条(平成20年法律第56号による改正前)
- ・ 保険法25条
裁判例
- ・ 最高裁判所第一小法廷平成18年6月1日判決(民集60巻5号1887頁,裁判所HP掲載) 判決全文
- ・ 最高裁判所第三小法廷平成18年6月6日判決(集民220号391頁,裁判所HP掲載) 判決全文
- ・ 最高裁判所第二小法廷平成16年12月13日判決(民集58巻9号2419頁,裁判所HP掲載) 判決全文
- ・ 最高裁判所第三小法廷平成19年4月17日判決(民集61巻3号1026頁,裁判所HP掲載) 判決全文
- ・ 最高裁判所第一小法廷平成19年4月23日判決(集民224号171頁,裁判所HP掲載) 判決全文
- ・ 東京地方裁判所平成28年6月17日判決(交通事故民事裁判例集49巻3号750頁)
- ・ 大阪高等裁判所平成30年11月22日判決(判例秘書の判例番号 L07320881)
- ・ 大阪高等裁判所令和2年2月21日判決(判例秘書の判例番号 L07520662)
- ・ 名古屋高等裁判所令和4年3月16日判決(判例秘書の判例番号 L07720592)
- ・ 名古屋高等裁判所令和5年11月22日判決(判例秘書の判例番号 L07820698)
統計・データ
- ・ 警察庁生活安全企画課「自動車盗難等の発生状況等について」令和8年2月版(https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/bouhan/car/2026zidoushatounan.pdf)
- ・ 損害保険料率算出機構「2025年度(2024年度統計)自動車保険の概況」(https://www.giroj.or.jp/publication/outline_j/j_2025.pdf)
ウェブ資料
- ・ ほけんの窓口インズウェブHP「車両保険の免責金額とは?いくらに設定する?」(https://www.insweb.co.jp/car/kisochishiki/kiso/sharyouhoken-menseki.html)
- ・ ほけんの窓口インズウェブHP「各社のロードサービス比較」(https://www.insweb.co.jp/car/roadservice)
- ・ 損保ジャパンHP「【自動車保険】「故障運搬時車両損害特約」の新設~走行不能時の故障損害を補償~」(https://www.sjnk.co.jp/~/media/SJNK/files/news/2018/20180921_1.pdf)
- ・ 損保ジャパンHP「車両保険(ご自身のお車の補償)」(https://www.sompo-japan.co.jp/kinsurance/automobile/thekuruma/sche/recom_m/)
- ・ 東京海上日動HP「お車の補償に関するその他の特約」(https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/service/auto/total-assist/shohin/sonotacar.html)
- ・ 東京海上日動HP「車両保険」(https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/service/auto/total-assist/shohin/sharyo.html)
- ・ おとなの自動車保険HP「車両身の回り品補償」(https://www.ins-saison.co.jp/otona/compensate/other/movables.html?cid=ANT010)
- ・ 小島法律事務所スタッフブログ「入力方向について(物損事故)」(https://www.koutsujiko-iizuka.jp/blog/2017/05/post-73-460245.html)
文献
- ・ 判例タイムズ1382号(2013年1月号)5頁~19頁 齋藤聡「車両保険に基づく保険金請求事件について-盗難及び人為的損傷による事故を題材として」(大阪民事実務研究)
- ・ 志賀晃・稲村晃伸編著『Q&Aと事例 物損交通事故 解決の実務』(新日本法規出版,2019年)85頁~200頁