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法律事務所の退所・分裂-事件,職員,利益相反,預り金及び清算のチェックリスト(AI作成)

第1 この記事の対象と基本的な考え方

1 対象と基準日

本記事は,共同法律事務所から一部の弁護士が退所する場合,事務所を複数に分ける場合,弁護士法人の社員が退社する場合又は弁護士法人を解散する場合に,何をどの順序で確認すべきかを整理するものである。
法令及び規程の内容は,令和8年9月6日現在で確認した。

「事務所の分裂」は法律上の一つの制度ではない。
事件の委任契約,職員との労働契約,弁護士間の共同事業契約,弁護士法人の社員関係,賃貸借等の対外契約及び預り金の管理関係が,同じ時期に別々の根拠で動く場面を便宜上まとめた表現である。

2 最初に五つの台帳へ分ける

分裂協議を始めるときは,事務所全体を一つの財産として分けるのではなく,次の五つの台帳へ分ける必要がある。
①事件台帳は,依頼者,受任主体,担当者,相手方,直近の期限,原本及び預り金を記載する。
②人員台帳は,雇用主,契約形態,給与負担,社会保険及び本人の意向を記載する。
③利益相反・情報台帳は,依頼者,相手方,関係会社,過去事件及びアクセス権限を記載する。
④金銭台帳は,預り金,着手金,報酬金,立替金,未収金及び未払金を区分する。
⑤契約・資産台帳は,賃貸借,リース,通信,広告,ドメイン,電話番号,備品,借入れ及び保証を記載する。

内部で決めた売上配分又は担当区分だけでは,依頼者との契約,職員の雇用主,預り金口座の名義又は対外債務者は変わらない。
各台帳には根拠資料の所在,確認者及び確定日を付し,未確認事項を推測で埋めないことが重要である。

3 公開された分裂例から分かること

匿名の実務家インタビューである「法律事務所の分裂について(前編)」及び「法律事務所の分裂について(後編)」には,個人受任を基本としながら職員,勤務弁護士,ウェブサイト及び弁護士法人を共通化していた事務所が,長期の協議を経て複数の事務所へ分かれたとの説明がある。
同記事によれば,職員及び勤務弁護士の帰属にも本人の選択が関わり,分裂後は共通経費を限定して各パートナーが職員等を個別に確保する仕組みに変えたとされる。

これは匿名当事者による一つの実務例の記述であり,記載事実を一次資料で独立に確認したものではない。
もっとも,受任主体と雇用主が一致しないこと,共通経費と事件収支が重なること及び人員配置に本人の意思が関わることを早期に確認すべきであるとの問題提起は,一般的な点検項目として利用できる。

第2 共同事務所と弁護士法人を区別する

1 名称だけでは法律関係が決まらない

「共同法律事務所」という名称だけでは,事務所内部の契約が民法上の組合であるか,単なる経費共同であるか,又は弁護士法人を中心とする組織であるかは決まらない。
契約書,出資・損益分配の方法,意思決定,財産名義,受任名義,請求書,預り金口座,給与支払者及び社会保険手続を照合して,実際の法律関係を確定する必要がある。

確認対象主な根拠資料最初の質問
共同事業共同事務所契約,議事録,出資・分配表誰が何を出資し,損益をどう負担するか
受任委任契約書,受任通知,請求書依頼者が誰に委任したか
雇用労働条件通知書,給与台帳,社会保険資料使用者は誰か
資産・債務契約書,登記,請求書,保証書名義人と実際の負担者は誰か
預り金口座名義,事件別補助簿,入出金資料誰が誰のために保管しているか

2 民法上の組合である場合

共同事務所の契約が法的に民法上の組合に当たる場合,脱退,除名,組合員の持分計算及び組合の解散・清算について同法678条以下が関係する。
期間を定めない組合の脱退であっても,不利な時期にはやむを得ない事由がない限り脱退できないとされ,脱退者との計算は脱退時の組合財産の状況に従うとされている。

もっとも,共同事務所という表示だけで民法上の組合と断定することはできない。
まず契約の内容と運用実態を確認し,組合に当たる場合でも,事件の委任契約,雇用契約及び弁護士法人の社員関係は別に処理する必要がある。

3 弁護士法人である場合

弁護士法30条の2以下は,弁護士法人を社員から独立した法人として規律し,定款,業務執行,代表,指定社員,社員の責任,社員の退社,解散及び清算を定めている。
したがって,社員間で「分裂」に合意しても,法人名義の委任契約,預り金,雇用契約及び賃貸借等が当然に各社員へ移るわけではない。

社員の退社と法人の解散は異なる手続である。
法人を存続させる側と新たに事務所を設ける側を分け,定款変更,社員・代表社員の変更,従たる事務所,所属弁護士会への届出,登記及び依頼者への対応を工程表にする必要がある。
弁護士法人の制度全般は「弁護士法人の仕組み――設立,社員の責任,退社,支店及び税務(AIリライト)」でも整理している。

第3 事件と依頼者の移行

1 受任主体別の三つの分岐

(1) 個人受任

委任契約の受任者が個人弁護士である事件は,原則として当該弁護士と依頼者との契約関係を基礎に処理する。
事務所内の担当変更や売上配分だけを理由に別の弁護士又は弁護士法人の事件とせず,依頼者に退所後の連絡先,執務場所,費用の扱い及び共同受任者の有無を説明して,依頼者の意思を記録する必要がある。

(2) 弁護士法人受任

受任者が弁護士法人である事件は,担当社員が退社しても委任契約が当然に個人へ移るものではない。
法人が継続して担当するのか,依頼者が委任を終了して退社員側へ新たに委任するのか,又は双方が共同して一定期間対応するのかを,利益相反及び期限管理を踏まえて決める必要がある。

弁護士法30条の14は,特定事件について指定を受けた社員が業務を執行する制度を定めている。
指定社員の変更又は離脱があるときは,法人内部の担当変更だけで済ませず,委任契約,指定に関する書面,裁判所等への届出及び依頼者への説明を個別に確認すべきである。

(3) 共同受任

複数の弁護士又は個人弁護士と弁護士法人が共同受任している事件は,各受任者の契約上の地位と役割を確認する。
弁護士職務基本規程40条及び41条は,他の弁護士の参加と共同受任者間の意見不一致に関する規律を置いているため,分裂で共同処理が困難になった場合は,依頼者に事情を説明し,今後の受任者を選べる状態にすることが重要である。

2 依頼者への説明と意思確認

事件を売上,担当歴又は紹介元だけで機械的に配分してはならない。
依頼者に対し,①現在の受任者,②退所・分裂後の候補となる受任者,③各候補の執務場所と連絡先,④費用・預り金・原本の扱い,⑤直近の期限,⑥利益相反により選べない組合せを,必要な範囲で説明する。

弁護士職務基本規程36条は,依頼者に対する経過報告及び依頼者との協議を求め,同規程44条及び45条は,事件終了時の説明並びに金銭・物品等の清算及び返還を定めている。
依頼者の選択は,面談記録,確認書又は電子メール等の後から確認できる方法で残し,無回答の事件は自動配分しない方が安全である。

3 事件移行表

項目確認内容完了条件
受任主体個人,法人又は共同受任委任契約書と請求名義が一致する
依頼者意思継続,変更又は終了説明内容と回答が記録される
代理関係委任状,届出,送達場所必要な提出と受領確認が終わる
期限期日,上訴,時効,申立期限新旧双方で責任者と通知先を確認する
記録紙,電子データ,原本,証拠物正本・複製・保管場所を記録する
金銭預り金,立替金,未収報酬事件別残高と移動根拠が一致する
利益相反相手方,関係会社,過去事件移行先で再検索し判断者を記録する

4 期限事故を防ぐ停止基準

退所日を過ぎたことだけを理由に,事件システム,メール又は紙ファイルへのアクセスを一斉に切ると,期限事故又は依頼者対応の空白を生じさせることがある。
期限が近い事件は,依頼者の意思,新担当者,連絡先,必要な届出及び記録の引渡しが確認できるまで,限定された緊急対応者を置くべきである。

他方で,利益相反又は秘密保持上の理由からアクセスを直ちに止めるべき事件もある。
したがって,全件一律の日付ではなく,事件ごとに「継続アクセス」,「読取り専用」,「遮断」及び「緊急時のみ解除」を設定し,解除者と操作履歴を残す仕組みが必要である。

第4 利益相反・秘密・事件情報

1 退所後も残る規律

弁護士職務基本規程56条は,所属法律事務所の他の弁護士の依頼者について知り得た秘密を正当な理由なく漏らし,又は利用してはならず,共同事務所を離脱した後も同様とする。
同規程57条は,他の所属弁護士及び過去の所属弁護士が同規程27条又は28条により職務を行い得ない一定の事件について,所属弁護士の受任を原則として制限し,職務の公正を保ち得る事由がある場合を例外としている。

分裂時には,新事務所の開設後だけでなく,移籍候補者と事件情報を共有する前にコンフリクト検索を行う必要がある。
同規程58条は,受任後に受任制限事由を知った場合の依頼者への通知と辞任その他の適切な措置を定め,同規程59条は,共同事務所における事件情報の記録等を求めている。

2 最高裁令和3年4月14日決定

最高裁令和3年4月14日第二小法廷決定(令和2年(許)第37号)は,弁護士職務基本規程57条に違反する訴訟行為について,同条違反が懲戒の原因となり得ることとは別に,同条違反だけを理由として相手方が裁判所に訴訟行為の排除を求めることはできないと判断した。
その理由として,同規程は日本弁護士連合会の会規であり,同条違反の訴訟行為を具体的に禁止する法律の規定が見当たらないことを挙げた。

この決定は,同規程57条に違反する受任が適切であると判断したものではない。
決定の補足意見も,採用又は受任の適否を肯定する趣旨ではないと明示しており,懲戒,依頼者との信頼関係,秘密保持及び事務所運営上のリスクは別に検討する必要がある。

3 情報遮断を万能視しない

原審である知財高裁令和2年8月3日決定(令和2年(ラ)第10004号)は,書面上の情報遮断措置が設けられていても,執務室の構造,口頭での情報伝達の可能性,在籍期間及び退所後の連絡関係等を具体的に検討し,職務の公正を保ち得る事由を否定した。
もっとも,最高裁は同決定を破棄し,弁護士職務基本規程57条違反だけでは訴訟行為を排除できないと判断したため,知財高裁決定を現在の訴訟行為排除の基準として扱うことはできない。

知財高裁決定が検討した具体的事情は,情報遮断の実効性を点検する材料にはなる。
しかし,秘密情報に触れた可能性,事件の同一性・関連性,依頼者及び相手方の利益,物理的・電子的な分離並びに外形上の公正を個別に検討せず,「フォルダを分けたから受任できる」と結論付けるべきではない。

4 コンフリクト・アクセス管理表

時点実施事項記録する内容
分裂協議前候補者名と関係者名を限定して事前検索する検索日,対象,判断者,情報開示範囲
事件配分案作成時新旧双方で再検索する同一・関連事件,過去相談,秘密情報の有無
退所直前紙・電子・メール・クラウドの権限を棚卸しする継続,読取り専用,遮断,例外解除者
退所日パスワード,転送,端末及び物理鍵を切り替える実施時刻,担当者,失敗項目
退所後ログと誤送信を監査するアクセス履歴,転送履歴,事故対応

第5 職員と勤務弁護士

1 実際の雇用主を確認する

職員が特定のパートナーの事件だけを担当していても,雇用主が当該パートナーであるとは限らない。
労働条件通知書,雇用契約書,給与台帳,源泉徴収票,社会保険及び労働保険の届出を照合し,個人弁護士,弁護士法人又は別の事業体のいずれが使用者であるかを確定する必要がある。

勤務弁護士についても,社員,従業員,業務委託又は共同受任者のいずれであるかによって処理が異なる。
呼称や経費負担だけで判断せず,契約,勤務実態,受任名義,報酬の支払方法及び社会保険の扱いを確認するべきである。

2 事業譲渡として雇用を移す場合

民法625条1項は,使用者が労働者の承諾を得なければ,使用者としての権利を第三者に譲り渡せないと定めている。
事務所の一部を別の個人又は法人へ事業譲渡する方法を採る場合,承継予定者,労働条件,業務内容,勤務地,移行日及び承諾しない場合の扱いを十分に説明し,労働者の自由な意思に基づく個別承諾を得る必要がある。

会社等を対象とする厚生労働省の事業譲渡等指針は,説明と真意による承諾の確保を求め,承継への不同意だけを理由とする解雇について,労働契約法16条の解雇権濫用法理に留意すべきことも示している。
個人事務所を含む具体的な組織再編に同指針がどの範囲で直接適用されるかは,採用する法形式に即して確認する必要がある。
本人の希望を聞くことと,法的に有効な雇用移行手続を完了することは同じではないため,説明資料,回答期限及び同意書を整える必要がある。

3 合併等との違い

厚生労働省の指針は,事業譲渡と合併で労働契約承継の仕組みが異なることを前提としている。
合併では包括承継が基本となる一方,事業譲渡では個別承諾が問題となる。

法律事務所の分裂という名称だけで,どの制度が使われるかは決まらない。
弁護士法人間の合併であるのか,事業の一部譲渡であるのか,社員の退社と職員の転職を組み合わせるのかを先に確定し,誤った手続を当てはめないことが重要である。

4 本人の選択と業務継続を両立させる

人員の帰属をパートナー間だけで決めず,職員及び勤務弁護士に必要な情報と検討期間を与えるべきである。
もっとも,本人の希望が確定するまで何も決めないと,給与支払,社会保険,事件期限及び秘密情報へのアクセスに空白が生じるため,暫定配置と最終配置を区別する必要がある。

暫定期間について,指揮命令者,給与負担者,執務場所,利用できる事件情報,休暇・時間管理及び事故報告先を文書化する。
最終移行時には,旧契約の終了,新契約の成立,未払賃金,年次有給休暇,貸与品及び秘密保持を,適用法令と個別契約に即して確認する必要がある。

第6 預り金・報酬・未収金

1 現行の預り金規程

日本弁護士連合会の「預り金等の取扱いに関する規程」は,預り金等の目的外使用を禁止し,預り金口座の開設,通知,記録及び収支報告を定めている。
令和8年6月1日施行の現行規程では,一つの事件又は一人の依頼者について預り金が50万円以上となり,14営業日以上保管するときは,そのうち50万円以上を預り金口座で保管することが求められる。

預り金口座は,口座名義から預り金口座であることが分かる表示を原則とし,入出金の年月日,金額,目的及び使途を記録する必要がある。
また,依頼者から求められたとき及び預り金に係る職務が終了したときは,収支を書面で報告しなければならない。

2 三点照合と移動根拠

分裂時の預り金は,①銀行口座残高,②事件別預り金補助簿の合計,③依頼者別の残高確認を照合する。
差額がある場合は,差額をパートナー間の清算項目へ移すのではなく,入出金証憑,振込名義,手数料及び計上時期を追跡して原因を確定する必要がある。

預り金を旧口座から新口座へ移すときは,受任主体,口座名義人,依頼者の意思,移動日,金額,振込手数料及び新口座での着金を事件ごとに記録する。
依頼者資金を,出資返還,未払経費,貸付金又はパートナー間の債権と相殺してはならない。

3 報酬等を区分する

着手金,報酬金,タイムチャージ,立替金,仮払金,預り金及び未収金は,名称ではなく契約と実際の性質に従って区分する。
事件途中の報酬帰属は,依頼者との報酬契約と弁護士間の内部契約を分け,受領済み金銭,実施済み業務,今後の業務及び税務上の処理を明細化する必要がある。

依頼者との清算とパートナー間の清算を同じ表で処理すると,依頼者資金を内部債権と誤って相殺する危険がある。
依頼者別明細を先に確定し,その後に内部配分を計算する順序が安全である。

第7 契約・資産・データ

1 契約主体別の一覧

分類確認事項
不動産賃貸借,敷金,原状回復名義,連帯保証,承継・解約条件
継続契約複合機,通信,クラウド,リース最低利用期間,違約金,データ移行
表示・集客名称,ドメイン,ウェブサイト,広告所有者,管理権限,掲載中の受任主体
連絡手段電話,メール,郵便,FAX番号の承継,転送期間,誤認防止
有体物什器,図書,端末,原本保管庫所有者,取得価額,鍵,廃棄方法
債権債務借入れ,未払金,敷金返還請求権債権者・債務者,保証,弁済期

名義変更には,相手方の承諾又は所定の手続を要することがある。
内部合意書には,承継できなかった場合の費用負担,代替調達,保証解除及び損害負担も定めるべきである。

2 デジタル権限の切替え

クラウド,事件管理システム,会計,インターネットバンキング,電子申立て,ドメイン,SNS及び広告アカウントについて,契約名義と管理者権限を一覧化する。
退所者の個人アカウントに事務所データが依存している場合は,権限切替え前に適法なバックアップ,監査ログ及び復旧手段を確保する必要がある。

分裂を理由にメール,チャット,請求資料又はアクセスログを一括削除してはならない。
依頼者の秘密,個人情報,保存義務及び紛争時の証拠保全を踏まえ,保存対象,保存期間,閲覧者及び廃棄承認者を決めるべきである。

3 対外告知

ウェブサイト,電話案内,郵便転送,裁判所等への届出,請求書及び名刺の表示を,同じ基準日で更新する。
旧事務所と新事務所の関係について,合併,承継又は後継であるとの誤認を招かない表現を用い,個別事件の依頼者への通知を一般告知だけで代替しないことが重要である。

旧ドメイン又は電話番号の転送期間は,事件の通知完了と未達件数を見て決める。
ただし,転送によって新旧事務所間に秘密情報が流れないよう,転送対象,担当者及び終了日を定める必要がある。

第8 弁護士法人の退社・解散・清算

1 意思決定と届出を分ける

弁護士法人では,社員間の合意,定款変更,業務執行・代表権の変更,登記及び弁護士会への届出を一つの行為として扱わない。
弁護士法30条の11から30条の13まで及び定款を確認し,誰が,どの事項を,どの要件で決定し,いつ対外的効力又は登記上の効果が生じるかを工程表にする必要がある。

退社員が法人名義の事件を担当していた場合,事件対応と社員変更手続を並行させる。
預り金口座,インターネットバンキング,印章,電子証明書及び郵便の権限は,代表者変更と同時に実務上使える状態まで確認すべきである。

2 退社後に残り得る責任

弁護士法30条の15は,弁護士法人の財産で債務を完済できない場合の社員の責任,指定事件に関する責任及び退社した社員に関する規律を置いている。
退社日だけを基準に責任がすべて切れると考えず,債務の発生原因,受任事件の指定,退社・変更登記及び債権者への表示を確認する必要がある。

借入れ,賃貸借及びリースについて個人保証がある場合,社員の退社又は法人の内部合意だけで保証が外れるわけではない。
債権者の承諾書又は変更契約を取得し,取得できない場合の求償,担保及び弁済資金を分裂協議書に定めるべきである。

3 解散と清算

弁護士法30条の23以下は,弁護士法人の解散,清算人,裁判所の監督及び清算結了等を定めている。
解散を選ぶ場合は,継続中の事件を処理できる状態を確保した上で,解散事由,社員の同意,届出・登記,清算人,債権者対応,債権回収,債務弁済,残余財産及び帳簿・事件記録の保管を工程化する必要がある。

法人の清算が終わっても,依頼者への報告,預り金の返還,事件記録の保存又は個人保証の処理が残ることがある。
法人手続の完了日と,事件・雇用・税務・契約上の完了日を別々に管理すべきである。

第9 分裂協議書と実行順序

1 最終合意前の暫定管理

最終的な分裂条件の交渉中も,事件と依頼者資金を安全に管理しなければならない。
少なくとも,①新規受任の承認,②大口支出,③預り金口座からの出金,④人員採用・解雇,⑤データ持出し,⑥対外発表,⑦競合事件の受任について,暫定ルールと緊急決裁者を定める必要がある。

交渉当事者間の情報共有と,依頼者の秘密情報の共有は区別する。
分裂条件の算定に不要な事件内容は開示せず,件数,売上又は作業量の集計値で足りるかを先に検討すべきである。

2 分裂協議書の主要条項

分裂協議書では,次の事項を少なくとも検討する。
①基準日,退所日及び各作業の効力発生日
②事件の分類方法,依頼者説明,無回答事件及び期限事件の扱い
③利益相反検索,秘密保持,データ複製,アクセス権限及び事故対応
④職員・勤務弁護士への説明,暫定配置,雇用移行及び費用負担
⑤預り金,報酬,未収金,立替金及び税務処理
⑥賃貸借,リース,ドメイン,電話,備品,借入れ及び保証
⑦弁護士法人の社員変更,定款,登記,届出,解散及び清算
⑧表明保証,資料閲覧,差額調整,紛争解決及び協議条項

包括的に「すべて折半する」と定めるだけでは,依頼者との関係又は第三者との契約は処理できない。
別紙として事件表,人員表,預り金表,契約表,資産負債表及びアカウント権限表を付け,項目ごとに確定・暫定・未確認を表示する方が実行可能性が高い。

3 標準的な実行順序

次の時期は法定期限ではなく,事案に応じて前倒し又は変更するための管理上の目安である。

時期主な作業完了の目安
60日前まで法的構造,五台帳,利益相反及び重大期限を把握する不明な受任主体・雇用主を抽出する
30日前まで依頼者・人員への説明案,契約承継案,資金照合を作る個別通知と同意取得の方法が決まる
7日前まで届出,権限,口座,郵便,緊急対応をリハーサルする未完了項目に責任者と期限が付く
退所・分裂日権限切替え,届出,着金・残高,連絡先を確認する事件期限と秘密情報に空白がない
30日後まで未達通知,誤送信,請求,未収金,残置物を処理する例外案件だけが一覧に残る
90日後まで差額精算,契約解約,保証,税務及びログを再点検する完了報告と保存資料が確定する

完了判定は,「合意書に署名したこと」ではなく,依頼者意思,事件期限,雇用,預り金,対外契約,アクセス権限,登記・届出及び残存債務の各項目が読戻し可能な資料で確認できたことを基準とする。
判断が対立する項目は,依頼者保護と期限維持に必要な暫定措置を先に講じ,争いの対象となる資金又は資料を勝手に移動・削除しないことが重要である。

第10 出典・参考資料

1 法令

弁護士法20条から25条まで,30条の2以下,令和8年9月6日確認。
民法625条及び678条~688条,令和8年9月6日確認。
労働契約法4条及び16条,令和8年9月6日確認。

2 裁判例

最高裁令和3年4月14日第二小法廷決定(令和2年(許)第37号),裁判所ウェブサイト掲載PDF1頁~4頁。
知財高裁令和2年8月3日決定(令和2年(ラ)第10004号),裁判所ウェブサイト掲載PDF15頁~22頁。

3 法令に基づく指針

厚生労働省「事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針」,令和8年5月25日改正・適用,令和8年9月6日確認。

4 職能団体の規程

日本弁護士連合会「弁護士職務基本規程」,最終改正令和3年6月11日,PDF7頁~12頁・17頁。
日本弁護士連合会「預り金等の取扱いに関する規程」,最終改正令和7年6月23日,PDF1頁~6頁。

5 実務家インタビュー

きた法律事務所「法律事務所の分裂について(前編)」及び同「法律事務所の分裂について(後編)」,令和8年9月6日確認。
匿名インタビューに基づく実務例であり,記載事実を一次資料で独立に確認したものではない。

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