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光華寮訴訟とは―中国政府の承認,原告の確定及び訴訟手続の中断・受継(AI作成)

光華寮訴訟は,京都市内の土地及び建物の明渡しを求める民事訴訟の係属中に,日本国政府が中国を代表する政府についての承認を変更したため,原告の確定,訴訟上の代表権限及び訴訟手続の中断・受継が問題となった事件である。
本記事では,最高裁平成19年3月27日第三小法廷判決の内容と,判決が判断していない事項を区別して整理する。

第1 事件の概要

光華寮訴訟は,京都市内の光華寮の土地及び建物をめぐり,外国国家である中国を原告として提起された土地建物明渡請求事件である。
訴えは昭和42年9月6日に提起され,訴状には原告を「中華民国」,原告代表者を「中華民国駐日本国特命全権大使」とする表示が記載されていた。

訴訟係属中の昭和47年9月29日,日本国政府と中華人民共和国政府は日中共同声明を発出した。
日本国政府は同声明第2項により,中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認し,中華民国政府との外交関係を終了した。

このため,訴えを提起した原告は誰か,それまで中国を代表していた外交使節の訴訟上の代表権はいつ消滅したか,代表権消滅によって係属中の訴訟手続が中断するか,その後の判決が適法かが問題となった。

第2 最高裁平成19年3月27日判決

最高裁平成19年3月27日第三小法廷判決(昭和62年(オ)第685号,土地建物明渡請求事件,民集61巻2号711頁)は,原告の確定,代表権消滅の効力発生時期,訴訟手続の中断及び上告審の処理について判断した。

最高裁は,訴え提起当時に国名を「中華民国」としていた国家としての中国が原告であるとした。
そして,日中共同声明に伴って中国の国名が中華人民共和国へ変更されたのであり,訴え提起前後で原告となる国家そのものが別の国家へ交代したのではないと整理した。

この判断は,「中華民国政府」と「中華人民共和国政府」という二つの政府のいずれを日本国政府が中国国家の政府として承認するかという問題と,訴訟当事者である国家としての中国の同一性を分けている。
政府承認の変更を,直ちに訴訟当事者の交代と理解してはならない。

民事訴訟では,当事者が誰であるかという当事者確定の問題と,その当事者を裁判上代表できる者が誰であるかという代表権の問題は別である。
光華寮訴訟は,外国国家を当事者とする場合にもこの区別が必要であることを示す例である。
判決を読む際には,国家,政府,外交使節及び訴訟代理人という四つの主体を順に区別する必要がある。

第3 外交使節の代表権消滅

訴訟提起時には,中華民国政府の駐日特命全権大使が,国家としての中国を日本国内で代表する権限を有していた。
しかし,日本国政府が中華人民共和国政府を中国の唯一の合法政府として承認したことに伴い,それまでの外交使節は中国国家を代表する権限を失った。

最高裁は,訴訟当事者を代表していた者の代表権消滅が公知の事実である場合,裁判所への通知がなくても代表権消滅の効力が生じると判断した。
外国国家の政府承認という公知の事実によって代表権が消滅した本件では,日中国交正常化の日に代表権消滅の効力が生じたことになる。

訴訟代理人の代理権は,通常,授権者の死亡又は法定代理権の消滅だけでは消滅しない。
もっとも,本件では外国国家を代表する外交使節の権限消滅と訴訟手続の中断という特有の問題があり,通常の法人代表者の変更と同じように扱うことはできない。

第4 訴訟手続の中断と受継

最高裁は,昭和47年9月29日の日中国交正常化により,それまで国家としての中国を代表していた中華民国政府の駐日代表者が代表権限を失い,訴訟手続が中断したと判断した。

訴訟手続が中断した場合,その後の手続を進めるには,適法な代表者による受継その他の手続が必要となる。
ところが,本件では訴訟手続の受継を経ないまま京都地裁の一審判決と大阪高裁の原判決がされたため,最高裁は両判決に違法があるとした。

最高裁は原判決及び一審判決を破棄し,事件を京都地裁へ差し戻した。
したがって,判決の中核は,政府承認の変更後も同一の国家が原告であることと,代表権の消滅によって訴訟手続が中断し,受継を欠いたままされた下級審判決が違法であることにある。

第5 「手続がすべて無効」との説明が正確でない理由

最高裁判決を,「昭和47年9月29日以後の訴訟手続がすべて無効になった」と要約するのは正確でない。
判決は,代表権消滅による中断事由を認め,受継を経ないままされた一審判決及び原判決に違法があると判断したものである。

民事訴訟法上の中断中にされた行為の効力は,行為の主体,内容,時期及びその後の追認等を踏まえて検討される。
本件判決から,国交正常化後のすべての訴訟行為が当然かつ一律に無効であるという一般命題を導くことはできない。

第6 判決が所有権の帰属を確定したか

最高裁平成19年判決は,光華寮の土地及び建物の所有権が最終的にどの主体へ帰属するかについて終局判断をしたものではない。
最高裁が判断した中心的事項は,原告の確定と代表権消滅による訴訟手続の中断であり,事件は京都地裁へ差し戻された。

したがって,「最高裁が中華人民共和国側又は中華民国側の所有権を確定した」と説明してはならない。
手続判決の内容と,差戻し後に審理されるべき実体的な所有権問題を区別する必要がある。

第7 建物の物理的状況と差戻し後の訴訟

京都大学新聞社の令和5年5月16日記事は,京都市が平成26年4月以降,光華寮の実質的管理者とされた京都華僑総会に危険除去の行政指導を行い,令和5年に除去工事が進められたと報じている。
共同通信系の令和5年6月30日記事も,老朽化した建物が管理者側によって事実上解体されたと報じている。

建物の物理的な除去と,所有権訴訟の終局は別の問題である。
裁判所の公開資料から差戻し後の訴訟の終局結果を確認できない以上,現在の係属状況又は所有権の帰属を断定することはできない。

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第9 出典

① 最高裁平成19年3月27日第三小法廷判決・昭和62年(オ)第685号・民集61巻2号711頁。
② 外務省「日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明」(昭和47年9月29日)。
③ 京都大学新聞社「光華寮を解体へ 老朽化で倒壊のおそれ」(令和5年5月16日)。
④ 共同通信系記事「京都・光華寮を事実上解体」(令和5年6月30日)。
⑤ 小林秀之・村上正子『新版 国際民事訴訟法』弘文堂,2020年,109頁~110頁。