メインコンテンツへスキップ
       

取引先が米国チャプター11を申し立てた場合の初動対応-自動停止・債権届出・20日商品・重要取引先(AI作成)

取引先のチャプター11申立てを知った直後に最も危険なのは,平時の督促,契約解除,相殺又は商品の回収をそのまま続けることである。
他方で,すべてを止めて通知を待つだけでは,物品取戻請求の短い通知期間や債権届出期限を失いかねない。
したがって,担当部署は,回収行為をいったん停止すると同時に,正しい債務者法人,申立日,商品の受領日及び裁判所文書を固定し,米国倒産弁護士と期限管理を開始する必要がある。

本記事は,日本企業が通常の取引債権者として米国連邦倒産法第11章(Chapter 11)の申立てに直面した場合の一般的な初動を,2026年9月6日現在の法令及び連邦倒産手続規則に基づいて整理するものである。
個人債務者,Subchapter V,金融機関,証券会社等の特則がある事件は対象外であり,具体的な行為の可否及び期限は,係属裁判所の命令,適用される巡回区判例及び取引契約を踏まえて個別に判断する必要がある。

第1 最初の24時間に行うこと

1 回収行為を止め,権利保全を始める

米国連邦倒産法362条(a)は,申立てによって,原則として,申立前債権に関する訴訟・執行,倒産財団の財産の取得・支配,担保権の設定・完成・実行,申立前債権の取立て及び相殺等を自動的に停止させる。
そのため,督促状の発送,訴訟又は執行の続行,商品の引揚げ,申立前債権を理由とする一方的な相殺,支払を得るための供給停止又は契約解除は,実行前に停止範囲を確認すべきである。
もっとも,債権資料の保全,事件記録の閲覧,債権届出及び裁判所への救済申立てまで禁止されるわけではないため,回収を止めることと権利保全を止めることを混同してはならない(米国連邦倒産法362条)。

自動停止は,通常,申立てをした債務者とその財産を対象とする。
親会社,子会社,保証人その他の非申立法人に当然に同じ停止が及ぶとは限らないが,裁判所が別途差止めを命じる場合があるため,グループ名だけで判断せず,契約当事者と申立法人を突き合わせる必要がある。

2 事件座標と期限表を一枚にまとめる

最初に固定すべき事件座標は,①申立日,②裁判所及び地区,③事件番号,④申立法人の正式商号,⑤自社の契約相手,⑥適用される連邦巡回区,⑦joint administration(共同管理)の有無である。
関連会社の事件が共同管理されていても,それだけで各法人の財産・債務が実体的に統合されたことにはならないため,債権額と提出先は法人ごとに確認する(連邦倒産手続規則1015)。

次に,①物品取戻請求の通知期限,②一般債権のbar date(債権届出期限),③20日商品の行政費用請求期限,④First Day Motionの異議期限及び審問日,⑤暫定命令と終局命令の各日付を同じ期限表に記載する。
倒産法又は規則に一般的な期間がある場合でも,実際の提出期限,提出方法及び送達先は事件ごとの通知又は命令で定められることがあるため,ドケット上の最新文書を基準とする。

第2 請求書ではなく,法人・発生時期・履行内容で債権を分ける

1 申立法人別に照合する

企業集団の通称,発注システム上の表示又は送金元だけでは,法的な債務者を確定できない。
基本契約,個別発注書,請求書,納品先,検収記録,送金記録及び保証書を並べ,どの法人が発注し,誰が受領し,誰が支払義務又は保証義務を負うかを確認する。

債権管理表には,少なくとも,①債務者法人,②契約番号・発注番号,③請求書番号,④物品又は役務の別,⑤出荷日,⑥債務者又は代理人の物理的受領日,⑦役務提供日,⑧申立日時点の未払額,⑨担保・保証・信用保険,⑩相殺候補,⑪根拠資料を記録する。
請求書の発行日だけで申立前債権と申立後債権を分けると,20日商品や申立後取引の評価を誤るおそれがある。

2 申立前と申立後を切り分ける

同じ請求書に,申立前に受領された商品,申立後に受領された商品及び継続役務が混在していることがある。
その場合は,行項目,数量,受領日及び役務提供期間まで分解し,一般無担保債権,物品取戻請求,20日商品の行政費用請求及び申立後取引の候補を重複なく整理する。

申立後の供給については,従前の口頭合意を漫然と続けず,発注法人,支払主体,価格,支払時期,所有権移転,担保,保証,前払・代引条件及び紛争解決条項を新たな発注書又は合意書で確認する。
行政費用として扱われ得ることは,期日どおりの現金回収を保証するものではない。

第3 自動停止の下でできることと,裁判所の許可が要ること

1 自動停止に抵触し得る行為

自動停止の対象は広く,申立前債権について判決を得る行為,判決を執行する行為,倒産財団の財産を取得・支配する行為,担保権を実行する行為,取立てを行う行為及び相殺を行う行為等を含む。
米国連邦倒産法553条は一定の相互的な申立前債権・債務について相殺権を保存するが,実際の相殺は362条の停止対象になり得るため,権利があることと直ちに実行できることは別である(米国連邦倒産法553条)。

日本国内の訴訟,保全,執行,相殺又は商品回収についても,米国法上の停止の効力,米国裁判所の命令,日本法上の承認援助手続及び契約関係を分けて検討する必要がある。
日米の制度の概観は「米国連邦倒産法チャプター11と日本の民事再生手続の比較」を参照されたい。

2 裁判所に求める救済

担保物の価値低下,保険切れその他の事情がある場合,債権者は,自動停止の解除,修正又は条件付けを裁判所に申し立てることができる。
裁判所の命令を得る前に自主的に担保権を実行するのではなく,必要な証拠を確保し,362条(d)の要件と係属裁判所の手続を米国倒産弁護士と検討する。

第4 取引債権者の四つの回収ルート

1 全体像

取引債権者は,一般債権のProof of Claimだけでなく,商品の受領日,在庫の現存,事業継続上の重要性等に応じて複数のルートを並行して検討する。
次の表は入口を比較するものであり,実際の権利の成否及び提出方法は事件ごとに確認する必要がある。

ルート主な対象主要な基準直ちに確認する文書・事実主な結果
物品取戻請求物品債務者が支払不能の間に申立前45日以内に受領した物品等受領日,現存・識別,在庫場所,書面通知対象物品の返還を求める権利
20日商品の行政費用請求物品申立前20日以内に債務者が受領し,通常の営業過程で販売された物品物理的受領日,数量,単価,goodsとserviceの区分行政費用としての許容を求める権利
Critical Vendor物品・役務供給継続が再建に不可欠であり,裁判所が申立前債務の支払を許可する場合Motion,証拠,Order,Critical Vendor Agreement許可範囲での申立前債務の支払
一般債権届出申立前債権一般schedules及びbar dateの確認Official Form 410,契約書,発注書,請求書,元帳議決・配当手続への参加

2 物品取戻請求-45日と20日の二段階を確認する

米国連邦倒産法546条(c)は,通常の営業過程で物品を販売した売主について,債務者が支払不能の間に申立前45日以内に受領した物品の返還を,所定の書面請求によって求める権利を定める。
書面請求は原則として債務者の受領後45日以内に行い,その45日が申立後に満了する場合は申立後20日以内に行う必要がある。

この権利は,当該物品又はその売却代金に対する先順位の担保権に劣後する。
また,通知期間内に物品を特定する必要があるため,納品書,在庫番号,保管場所,転売・加工の有無及び写真等を直ちに確保する。
物品取戻請求の通知をしなかったことだけで20日商品の行政費用請求が失われるわけではないが,両者は要件,対象及び手続が異なる(米国連邦倒産法546条(c))。

3 20日商品-「出荷日」ではなく「受領日」を調べる

米国連邦倒産法503条(b)(9)は,債務者が申立前20日以内に受領した物品で,債務者の通常の営業過程で販売されたものの価値を行政費用とする。
したがって,申立日から20日をさかのぼり,船積日,通関日又は請求日ではなく,債務者又はその代理人が物品を受領した日を資料で確定する必要がある(米国連邦倒産法503条)。

米国第3巡回区控訴裁判所は,In re World Imports, Ltd., 862 F.3d 338 (3d Cir. 2017)において,503条(b)(9)の「received」は,債務者又はその代理人が物品を物理的に占有した時点を意味すると判断した。
同判決は第三巡回区の判例であるため,他の巡回区の事件に機械的に適用せず,係属裁判所の判例を確認する必要がある(判決PDF・5頁~6頁)。

503条(b)(9)はgoodsを対象とするため,設置,保守,輸送その他の役務が一体になった契約では,物品部分と役務部分の区分が争点になり得る。
また,行政費用の許容を求める申立てと一般のProof of Claimは同じものではない。
Official Form 410も,行政費用の支払請求には同フォームを使用せず,503条に従って請求するよう明記しているため,事件ごとの行政費用請求手続と期限を確認する(Official Form 410・1頁)。

4 重要取引先指定-Motion,Order,合意書を分けて読む

Critical Vendorは,事業継続に不可欠な取引先への供給を確保するため,申立前債務の全部又は一部の支払を求める実務上の枠組みであり,倒産法に直接その名称と要件を定めた明文規定があるわけではない。
債務者が自社を候補に記載したMotionを提出しただけでは支払の権限は確定せず,裁判所が実際に発した暫定又は終局Orderと,債務者から提示されるCritical Vendor Agreementの双方を確認する。

米国第7巡回区控訴裁判所のIn re Kmart Corp., 359 F.3d 866 (7th Cir. 2004)は,363条(b)(1)による重要取引先への支払の余地を否定しなかった一方,取引先が支払なしには取引を継続しないこと,その取引継続が他の無担保債権者にも利益をもたらすこと等の証拠が必要であるとし,証拠を欠く広範な支払命令を維持しなかった。
許可基準は裁判所によって異なるため,重要取引先として扱われる権利が当然にあるとは考えず,供給代替性,停止時の損失,代替調達期間及び将来の取引条件を具体化する(判決全文転載)。

合意書では,①支払対象額,②今後の供給量,③価格・支払条件,④契約期間,⑤解除条件,⑥申立前債権の残額,⑦release,waiver,clawbackその他の権利制限,⑧対象となる債務者法人を確認する。
早期支払の金額だけを見て署名すると,将来の与信負担や他の権利放棄が支払利益を上回ることがある。

第5 Proof of Claimとbar date

1 schedulesの記載を確認する

Chapter 11では,債務者が提出した負債一覧表(schedules)に債権が正しく記載され,disputed,contingent又はunliquidatedとされていない場合,債権届出が不要となることがある。
反対に,債権が記載されていない場合,又はdisputed,contingent若しくはunliquidatedと記載されている場合,連邦倒産手続規則3003(c)(2)によりProof of Claimを提出しなければ,その債権について議決及び配当上の債権者として扱われない(連邦倒産手続規則3003・50頁)。

裁判所はbar dateを定めることができ,期限経過後の提出は限定された例外に服する。
そのため,債務者の一覧表を受け取るまで作業を止めず,裁判所のClaims Register,bar date通知,提出ポータル,署名権限及び送達先を確認する。

2 Official Form 410と裏付資料をそろえる

一般のProof of Claimでは,債権者名,通知・支払先,債務者を識別する番号,申立日現在の金額,債権原因,担保,相殺権その他の項目をOfficial Form 410に記載する。
契約書,発注書,請求書,元帳,検収書その他の裏付資料は,個人情報等を適切に墨消しした写しを添付し,原本は送付せず社内で保全する。

共同管理事件で一つの電子提出画面が表示されても,債務者法人の選択,事件番号,債権額及び重複提出の有無を提出直前に再確認する。
提出後は,受付画面だけでなく,Claims Registerに反映された債権番号,提出日時,提出主体及び添付ファイルを保存する。

第6 First Day Motionと申立後取引

1 申立書,Motion,Order及び合意書を混同しない

First Day Motionは,賃金,現金管理,重要取引先その他の緊急事項について債務者が裁判所に許可を求める申立書である。
Motionや債務者のDeclarationは主張と証拠であり,裁判所の許可そのものではない。
暫定Orderが出た後も,異議期限,終局審問及び終局Orderが予定されることがあるため,文書名,提出番号,署名日,効力発生日及び許可上限を確認する。

実際の事件では,申立書から現在地までを時系列で追う必要がある。
ドケットの読み方の例として「Marelliの米国チャプター11手続の状況」も参照されたい。

2 申立後の供給条件を再設計する

申立後も取引を続けるかは,過去の未払債権の回収期待と,新たな信用リスクを分けて判断する。
新規供給については,前払,Cash on Delivery,短期サイト,預託金,信用状,親会社保証,信用保険,所有権留保その他の選択肢を比較し,会社の承認限度と撤退条件を決める。

Critical Vendor Agreementを締結する場合でも,口頭の「従来どおりの支払」という説明だけに依拠しない。
裁判所Orderの許可範囲と合意書の文言が一致するか,支払条件の変更が将来の全取引に及ぶか,債務者の不履行時に供給を停止できるかを確認する。

第7 48時間以内に外部弁護士へ渡す資料

1 証拠保全パケット

外部弁護士へは,①petition及び事件通知,②契約書・約款・準拠法条項,③発注書・注文請書,④請求書・元帳,⑤船荷証券・通関資料・配送記録,⑥納品・検収記録,⑦在庫の所在・識別資料,⑧保証・担保・相殺資料,⑨申立後の発注及び連絡,⑩社内の決裁権限を一つの索引付きパケットとして渡す。
メールやチャットは,申立てを知った日時,回収行為を停止した日時及び相手方との交渉経過が分かる状態で保全する。

2 質問を分岐表にする

依頼時には,「何を回収できるか」という抽象的な質問ではなく,①この法人に対するこの行為は自動停止に抵触するか,②546条(c)通知の期限と送付先はいつ・どこか,③各納品は503条(b)(9)のgoods及び受領期間に入るか,④Proof of Claimと行政費用請求をそれぞれいつ・どう提出するか,⑤Critical Vendor Agreementの拘束と権利放棄は何か,⑥申立後取引をどの条件なら継続するか,と分けて照会する。

自社の債権額,回収可能額,期限までの残日数及び米国での対応費用を比較し,重要性の低い論点まで無制限に争わないことも必要である。
もっとも,自動停止に抵触し得る行為や短期の権利保全は,費用評価が終わるまで自己判断で実行又は放置せず,先に停止・通知・期限確認を行うべきである。

第8 出典

1 法令・規則・公式様式

①United States Code, Title 11, § 362 Automatic stay
②United States Code, Title 11, § 503 Allowance of administrative expenses
③United States Code, Title 11, § 546 Limitations on avoiding powers
④United States Code, Title 11, § 553 Setoff
⑤United States Courts, Federal Rules of Bankruptcy Procedure(2025年12月1日施行版),Rule 3003・49頁~50頁
⑥United States Courts, Official Form 410 Proof of Claim(04/25版)

2 裁判例

①United States Court of Appeals for the Third Circuit, In re World Imports, Ltd., 862 F.3d 338 (3d Cir. 2017),2017年7月10日判決・判決PDF5頁~6頁
②United States Court of Appeals for the Seventh Circuit, In re Kmart Corp., 359 F.3d 866 (7th Cir. 2004),2004年2月24日判決・判決全文転載

3 裁判所の解説

①United States Courts, Chapter 11 – Bankruptcy Basics

4 実務解説

①大江橋法律事務所「米国倒産手続②-取引債権者が取り得る方策」4頁~5頁

5 関連記事

①「米国連邦倒産法チャプター11と日本の民事再生手続の比較
②「Marelliの米国チャプター11手続の状況
③「倒産事件に関するメモ書き