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神道指令とは何か――国家神道の廃止と信教の自由・政教分離(AI作成)

第1 この記事が答える問い

神道指令は何を命じ,戦後の政教分離とどのようにつながるのか。

結論を先に述べる。
指令は,神道という信仰そのものを禁止したものではない。
禁止したのは,国及び公務員が神道を後援し,支援し,保全し,監督し,弘布することである。
そして,指令と日本国憲法の政教分離規定は,成立の根拠が異なる別個の規範である。
指令は講和条約の発効により効力を失ったが,憲法の規定は残った。

第2 指令の書誌

1 名称・番号・日付

1945年12月15日,連合国最高司令官総司令部は,中央連絡事務所を経由して日本政府へ1通の覚書を交付した。

英文の表題は “Abolition of Governmental Sponsorship, Support, Perpetuation, Control and Dissemination of State Shinto (Kokka Shinto, Jinja Shinto)” であり,SCAPIN-448の番号が付されている。
日本語では「国家神道,神社神道ニ対スル政府ノ保証,支援,保全,監督並ニ弘布ノ廃止ニ関スル件」と訳される。
「神道指令」は通称であって,正式の題名ではない。

英文の原文は,名古屋大学が公開しているSCAPINデータベース(https://jahis.law.nagoya-u.ac.jp/scapindb/docs/scapin-448)で全文を確認できる。

2 指令が掲げた目的は「強制からの解放」である

指令の冒頭は,目的を次のように述べている。

“In order to free the Japanese people from direct or indirect compulsion to believe or profess to believe in a religion or cult officially designated by the state”

国が公に指定した宗教又は信仰を信じ,又は信じると公言するよう,直接又は間接に強制されることから日本国民を解放するため,という趣旨である。

すなわち,この指令が正面から掲げた目的は,宗教を禁じることではなく,強制を取り除くことであった。
この一文を読み飛ばすと,指令の性格を取り違えることになる。

第3 指令が禁止したこと

指令の第1項は,禁止の対象を列挙している。主なものは次のとおりである。

1 公費の支出と公的な結び付き

第1項bは,公費からの一切の財政的支援と,神道及び神社との一切の公的な関係を禁止し,直ちに停止させるものとした。

金銭の支出だけでなく,「公的な関係」そのものが禁止の対象になっている点に注意を要する。

2 公務員が職務として関与すること

第1項aは,国・都道府県・市町村の各政府,及び公務員・その部下・職員が,職務上の資格において神道を後援し,支援し,保全し,監督し,弘布することを禁止した。

第1項mは,国・都道府県・市町村の官吏が,公的資格において,就任の奉告のために神社へ参拝することを禁止した。
禁止の対象は職務としての参拝であって,私人としての参拝ではない。

3 公費で維持される教育機関での教義の普及

第1項hは,全部又は一部が公費によって維持されるあらゆる教育機関において,いかなる形式・手段によっても神道の教義を普及させることを禁止した。

4 用語の使用と神棚

第1項jは,公文書における「大東亜戦争」「八紘一宇」その他,国家神道・軍国主義・超国家主義と不可分に結び付いた語の使用を禁止した。

第1項kは,全部又は一部が公費で維持される官公署・学校・施設・団体・建造物における神棚その他の国家神道の物理的象徴を禁止し,直ちに撤去させるものとした。

5 信仰しないことを理由とする差別

第1項lは,国家神道その他いかなる宗教の信仰・儀式・行事に加わらないことを理由として,官吏・職員・学生・国民・住民を差別してはならないと定めた。

信じない自由を,差別の禁止という形で担保する規定である。

第4 神道そのものを禁止したものではない

指令の第2項は用語を定義する部分であるが,ここに指令の性格を示す定めがある。

第2項cは,「国家神道」を,日本政府の公の行為によって教派神道と区別され,非宗教的な国家の祭祀として分類されてきた神道の一部門と定義する。
その上で,第2項eは,教派神道が他の宗教と同じ保護を受けること,及び,神社神道が国家から分離され,軍国主義的・超国家主義的な要素を取り除かれた後は,その信奉者が望むならば宗教として承認されることを定めている。

“Shrine Shinto, after having been divorced from the state and divested of its militaristic and ultra-nationalistic elements, will be recognized as a religion if its adherents so desire”

つまり,指令は神社を廃止したのではない。
神社神道を国家の制度から切り離し,他の宗教と同じ位置に置き直したものである。

「神道指令によって神社が廃止された」という理解は,指令の文言に照らして正確でない。

第5 日本側の実施

1 宗教団体法の廃止と宗教法人令

指令の13日後の1945年12月28日,宗教法人令(昭和20年勅令第719号)が公布された。
公布日と法令番号は,国立国会図書館の日本法令索引で確認した。

同令は,いわゆるポツダム緊急勅令(昭和20年勅令第542号)を根拠とする命令である。
これに伴い,宗教団体に対する国家の監督を定めていた宗教団体法(昭和14年法律第77号)は効力を失った。
もっとも,宗教団体法を廃止した条項そのものは,本記事では確認していない。

法律を勅令で置き換えるというこの構造については「日本国憲法外で法的効力を有していたポツダム命令」で扱っている。

宗教法人令は,その後,宗教法人法(昭和26年法律第126号,1951年4月3日公布)により廃止された。

2 教育からの排除――修身・日本歴史・地理の停止

1945年12月31日,SCAPIN-519 “Suspension of Courses in Morals (Shushin), Japanese History, and Geography” が発出された。

同指令は,すべての教育機関における修身・日本歴史・地理の授業を直ちに停止させ,文部省に対し,これらの教科書及び教師用指導書の回収を命じた。
併せて,これらの教科に関する文部省の命令・規則・指示の効力を停止させた。

同指令は,その根拠として基本指令を引き,国家神道に対する政府の後援及び支援の廃止が既に指示されていることを述べている。
神道指令と教育からの排除は,別々の措置ではなく,連続した一組の措置であった。

原文は同じくSCAPINデータベース(https://jahis.law.nagoya-u.ac.jp/scapindb/docs/scapin-519)で確認できる。

3 社寺境内地の処分

神社・寺院の境内地には,明治期の社寺上地や地租改正によって国有となり,そのまま社寺に無償で貸し付けられていた土地が多く含まれていた。
国と社寺との間に,土地を通じた継続的な結び付きが残っていたことになる。

これを整理したのが,社寺等に無償で貸し付けてある国有財産の処分に関する法律(昭和22年法律第53号)である。
同法第1条は次のとおり定める。条文はe-Gov法令検索で取得した。

社寺上地、地租改正、寄附(地方公共団体からの寄附については、これに実質上負担を生ぜしめなかつたものに限る。)又は寄附金による購入(地方公共団体からの寄附金については、これに実質上負担を生ぜしめなかつたものに限る。)によつて国有となつた国有財産で、この法律施行の際、現に神社、寺院又は教会(以下社寺等という。)に対し、国有財産法によつて無償で貸し付けてあるもの、又は国有林野法によつて保管させてあるもののうち、その社寺等の宗教活動を行うのに必要なものは、その社寺等において、この法律施行後一年内に申請をしたときは、主務大臣が、これをその社寺等に譲与することができる。

無償貸付という関係を,譲与によって断ち切る仕組みである。
国が土地を貸し続けること自体が公費による支援に当たり得るため,貸すのをやめて渡してしまうという処理が採られた。

第6 日本国憲法の規定との関係

1 憲法第20条及び第89条

日本国憲法の関係する条文は次のとおりである。いずれもe-Gov法令検索で取得した。

第二十条
1 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
3 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。

第八十九条
公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

第20条第1項後段の「特権を受け」と第89条の公金支出の禁止は,指令が禁じた公費支出・公的関係と対応している。
第20条第2項の参加の強制の禁止は,指令が掲げた「強制からの解放」という目的と対応している。
第20条第3項の宗教的活動の禁止は,指令が禁じた公務員の職務としての関与と対応している。

2 占領下の指令と憲法の規定は別の規範である

時系列は次のとおりである。

①1945年12月15日 神道指令
②1946年11月3日 日本国憲法公布
③1947年5月3日 同施行
④1952年4月28日 占領終了

指令は憲法より前である。
指令が憲法の内容に影響を与えたと評価する余地はあるが,指令が憲法の条文の法的根拠なのではない。
両者は,成立の根拠も,効力の続く期間も異なる。

占領下の指令は,講和条約の発効によって効力を失った。
これに対し,憲法の規定は残り,現在まで政教分離の根拠であり続けている。
占領の終了そのものは「日本の占領はいつ終わったのか」で扱う。

「神道指令が政教分離を作った」という説明は,この段階の違いを消してしまう。

第7 ポツダム宣言第10項との関係

第10項は,言論・宗教・思想の自由の確立を求めていた。

このうち宗教の自由に関する措置は,二本立てであった。
人権指令が,思想取締法令の廃止と警察機構の解体という形で「障害の除去」を担ったのに対し,神道指令は,国家と特定の信仰との結合を断つという形で担った。

人権指令の内容は「人権指令とは何か」で扱う。

第8 原資料で確認する方法

①占領軍の指令は,名古屋大学のSCAPINデータベース及び国立国会図書館所蔵の日本占領関係資料で英文原本を確認する。
②法令の題名・法令番号・公布日は,国立国会図書館の日本法令索引で確認する。廃止された勅令もここでたどれる。
③現行法令の条文は,e-Gov法令検索で確認する。
④公布の事実と日付は官報で確認する。

第9 出典・参考資料

1 占領指令

①SCAPIN-448 “Abolition of Governmental Sponsorship, Support, Perpetuation, Control and Dissemination of State Shinto (Kokka Shinto, Jinja Shinto)”(1945年12月15日)。名古屋大学SCAPINデータベースで原文を確認した。
②SCAPIN-519 “Suspension of Courses in Morals (Shushin), Japanese History, and Geography”(1945年12月31日)。同上。

2 法令

①日本国憲法第20条・第89条。e-Gov法令検索で条文を取得した。
②社寺等に無償で貸し付けてある国有財産の処分に関する法律(昭和22年法律第53号)第1条。同上。
③宗教法人令(昭和20年12月28日勅令第719号。昭和26年法律第126号により廃止)。国立国会図書館 日本法令索引で書誌を確認した。
④宗教団体法(昭和14年法律第77号)
⑤昭和20年勅令第542号(ポツダム緊急勅令)