第1 資格喪失と再加入を判断する基準
1 弁護士であることだけでは加入資格は決まらない
日本弁護士国民年金基金の加入資格は,弁護士であることに加え,国民年金の第1号被保険者であること,又は同基金の加入歴がある在外任意加入被保険者であることなどによって決まる。
弁護士法人又は企業に所属したという名称上の変化ではなく,厚生年金の被保険者となって国民年金の第2号被保険者資格を取得したかどうかを最初に確認する必要がある。
国民年金法127条3項は,第1号被保険者でなくなったとき,又は第2号若しくは第3号被保険者となったときなどを基金の資格喪失事由としている。
同項に該当すれば,基金への届出が後日になっても,資格喪失日を届出日まで遅らせることはできない。
2 主な場面ごとの資格喪失日と次の手続
資格喪失日は原因ごとに異なり,複数の原因があるときは,日本弁護士国民年金基金のFAQでは最も早い喪失日が適用されると説明されている。
主要な場面は次のとおりである。
| 場面 | 日本弁護士国民年金基金の資格喪失日 | 次に確認する手続 |
|---|---|---|
| 弁護士法人又は企業に勤務し,厚生年金に加入した場合 | 国民年金の第2号被保険者資格を取得した日 | 資格喪失届と取得日を示す資料を提出する |
| 厚生年金加入者の被扶養配偶者となり,第3号被保険者となった場合 | 第3号被保険者資格を取得した日 | 資格喪失届と該当日を示す資料を提出する |
| 弁護士業務に従事しなくなったが,第1号被保険者であり続ける場合 | 登録取消し又は退職等の日の翌日 | 地域型基金への加入と従前掛金の申出が可能かを3か月以内に確認する |
| 海外へ転出する場合 | 住民票上の転出日の翌日 | 国民年金の在外任意加入,国内加入の資格喪失及び基金の在外加入を切れ目なく手続する |
| 在外加入後に帰国する場合 | 国民年金の被保険者種別が変わるため,在外加入の資格喪失手続が必要となる | 第1号被保険者への切替えと国内加入の申出を行い,従前掛金を希望するときは3か月以内に申し出る |
3 資格喪失届は原則として14日以内である
国民年金基金規則8条は,加入員が資格を喪失したときは,原則として14日以内に,氏名,生年月日,住所,加入員番号,資格喪失年月日その他の事項を記載した届書を基金へ提出するものとしている。
日本弁護士国民年金基金は,資格喪失届の様式と,喪失原因ごとに添付する資料を公表している。
もっとも,14日以内という資格喪失届の期限と,従前掛金で加入するための3か月以内という申出期間は別の期限である。
資格喪失後も別の加入区分で掛金を継続したい場合には,資格喪失届だけで作業を終えず,再加入又は移行の申出まで確認する必要がある。
第2 弁護士法人及び企業内弁護士になった場合
1 基金資格を失う起点は厚生年金の資格取得日である
日本弁護士国民年金基金は,弁護士法人に勤務して厚生年金に加入している者は基金に加入できず,企業内弁護士又は任期付き公務員となった者は加入資格を喪失すると説明している。
法的な起点は,勤務先の名称,入社の内定日又は弁護士法人の社員に就任したとの形式だけではなく,国民年金の第2号被保険者資格を実際に取得した日である。
日本年金機構は,厚生年金の資格取得年月日を,事業所に使用されるようになった日と説明している。
法人の役員については,役職名だけでなく,法人に対して労務を提供し,その対価として経常的に報酬を受けるという実態を踏まえて被用者性が判断されるため,弁護士法人の社員又は役員についても年金事務所の資格確認結果を基礎に扱うべきである。
2 資格喪失届に添付する資料
日本弁護士国民年金基金のFAQは,第2号被保険者となった場合の確認資料として,厚生年金保険資格取得確認及び標準報酬決定通知書,資格取得確認通知書又はマイナポータルの年金記録画面などを挙げている。
実際に提出できる資料の組合せは,最新の資格喪失届及び基金の案内で確認する必要がある。
基金掛金の口座振替は,資格喪失月と同時には止まらないことがある。
同基金のFAQは掛金が2か月遅れで引き落とされると説明しているため,資格喪失後の引落しを直ちに重複徴収と判断せず,何月分の掛金であるかを確認する必要がある。
3 後に独立して第1号被保険者へ戻る場合
企業内弁護士等を辞め,再び国民年金の第1号被保険者として弁護士業務に従事することになった場合は,日本弁護士国民年金基金へ改めて加入を申し出ることができる。
通常の再加入では,国民年金法127条2項及び基金規約38条1項・2項により,基金が加入申出書を受理した日に資格を取得する。
以前の加入期間に対応する年金は消滅せず,新たな加入期間に対応する年金と合わせて支給される。
ただし,再加入時の掛金を以前と同じ水準にできるかどうかは,後記の従前掛金の要件を満たすかという別問題である。
第3 海外へ転出する場合と帰国する場合
1 在外加入を続けるには三つの手続を組み合わせる
海外転出によって国内の第1号被保険者資格を失うため,国内での基金加入がそのまま自動的に続くわけではない。
日本弁護士国民年金基金の海外転出時の案内は,①国民年金の在外任意加入を転出日の翌日から開始すること,②国内加入について資格喪失届を提出すること,③基金の在外加入を申し出ることを案内している。
在外加入の対象となるのは,海外転出時点で日本弁護士国民年金基金に加入していた者である。
同基金の加入歴がない者が,海外居住中に初めて同基金へ加入する手続ではない。
基金規約38条3項の従前掛金の申出期間は資格喪失後3か月以内であるが,同条は,申出までの間に日本弁護士国民年金基金の加入資格を有しない期間がある場合を除外している。
そのため,同基金の資料が案内するとおり,出国前に国民年金の任意加入日と基金の手続日を照合し,資格の空白を生じさせない形で同時に準備するのが安全である。
2 在外加入中の掛金と弁護士業務
日本弁護士国民年金基金の海外転出時の案内は,在外加入の掛金について,日本の社会保険料控除の対象とならず,基金が指定する国内金融機関の口座から引き落とすとしている。
国民年金保険料の納付を基金へ委託する取扱いも利用できないため,国民年金保険料自体の納付方法を別に整える必要がある。
同案内は,海外転出時に弁護士登録があり,在外加入へ移行した後であれば,海外滞在中に弁護士業務に従事しなくなったことだけでは在外加入資格を失わないと説明している。
これは基金の在外加入に関する運用資料の説明であるため,国民年金の任意加入資格,国籍,帰国又は他の喪失事由に変化がある場合は,個別に基金へ確認する必要がある。
3 帰国時にも在外加入をいったん喪失して国内加入を申し出る
帰国して国内に住所を定めると,国民年金の在外任意加入被保険者から国内の第1号被保険者へ種別が変わる。
日本弁護士国民年金基金の帰国時の案内は,国民年金の種別変更,在外加入の資格喪失届及び国内加入の申出をそれぞれ行うよう案内している。
帰国後も在外加入時と同じ掛金での加入を希望するときは,3か月以内の申出に加え,資格の空白を生じさせないことが必要である。
本記事では,帰国日,住民票の転入日,国民年金第1号被保険者の資格取得日及び基金書類の受理日を一つの時系列にして確認する方法を基本形とする。
第4 既払掛金,前納掛金及び中途脱退者の扱い
1 有効な加入期間の既払掛金は原則として返金されない
国民年金基金は任意に中途解約して掛金の返還を受ける制度ではない。
資格喪失前の有効な加入期間について納付した掛金は,その期間に応じた将来の年金給付へ結び付くため,企業内弁護士になったことなどを理由として一括返金されるものではない。
日本弁護士国民年金基金のFAQは,掛金を資格喪失月の前月分まで納付し,原則として65歳から,Ⅲ型については60歳から,納付月数に応じた年金を受け取ると説明している。
「既払掛金が戻らない」という説明は,掛金に対応する権利が消滅するという意味ではなく,老齢年金として給付されるという意味である。
2 資格喪失後の期間に対応する前納掛金は返還請求の対象となる
基金規約72条4項は,掛金を前納した者が加入資格を喪失した場合,その者又は遺族一時金を受けることができる遺族の請求に基づき,資格喪失後の期間に対応する前納掛金を返還する仕組みを定めている。
これは,有効な加入期間について既に納めた通常の掛金を解約返戻金のように返す制度ではない。
口座から資格喪失後に引き落とされた金額がある場合は,①2か月遅れで収納された資格喪失月前月分までの掛金か,②資格喪失後の期間に対応する前納掛金か,③事務処理上の過納かを区別する必要がある。
通帳の引落日だけでなく,基金の納付記録上の対象月を照合することになる。
3 中途脱退者の年金原資は国民年金基金連合会へ移ることがある
国民年金法137条の17及び基金規約65条・66条は,一定の中途脱退者について,その者に係る年金原資に相当する額を国民年金基金連合会へ移換する仕組みを定めている。
基金規約上の中途脱退者は原則として加入員期間15年未満の者であるが,1か月以内に同じ基金へ再加入した者,60歳到達により資格を失った者その他の除外があるため,単に加入期間だけでは決まらない。
中途脱退者となった場合,将来の年金の支給主体は国民年金基金連合会となり,資格喪失後の住所又は氏名の変更についても届出が必要となる。
その後に元の基金へ再加入したときは,国民年金法137条の18及び基金規約67条により,連合会から元の基金へ年金原資に相当する額が移され,前後の加入期間に基づく給付が扱われる。
第5 従前掛金による加入
1 従前掛金は以前の掛金単位を引き継ぐ制度である
従前掛金による加入とは,資格喪失前の基金で掛金計算の基礎となっていた年金単位に対応する掛金単位を用いて,新たな加入を申し出る制度である。
既払掛金の返還又は以前の加入契約の単純な復活ではなく,資格の切替えに際して以前の掛金単位を引き継ぐ特例である。
弁護士業務をやめても第1号被保険者であり続ける場合に職能型基金から地域型基金へ移る場面,海外転出時に国内加入から在外加入へ移る場面及び帰国時に在外加入から国内加入へ移る場面が典型である。
企業内弁護士として第2号被保険者であった期間のように,国民年金基金へ加入できない期間を挟んで後日独立した場合は,この特例による連続加入とは区別される。
2 3か月以内,資格の空白がないこと及び60歳未到達が要件となる
日本弁護士国民年金基金規約38条3項は,従前加入基金の資格を喪失して3か月以内に申し出ること,その間に日本弁護士国民年金基金の加入資格を有しない期間がないこと及び資格喪失後に60歳へ達していないことを定めている。
これらを満たす申出については,同条4項により,加入申出日が従前加入基金の資格喪失日であったものとして扱われる。
したがって,「3か月以内なら常に以前と同じ掛金になる」と理解するのは正確でない。
3か月は申出期間であり,資格の空白がないことなどの要件も同時に確認する必要がある。
第6 届出前に作成する時系列と確認資料
資格喪失又は再加入の手続では,①勤務先での厚生年金資格取得日,②弁護士登録の取消し又は退職日,③住民票の転出日又は転入日,④国民年金の任意加入日又は第1号被保険者資格取得日,⑤基金への書類到達日を一つの時系列にする。
その上で,厚生年金の資格取得通知,マイナポータルの年金記録,住民票,弁護士名簿登録取消通知,退職証明書及び基金の加入員番号のうち,該当する資料をそろえる。
最初に基金へ確認する事項は,①資格喪失原因と喪失日,②提出する資格喪失届と添付資料,③再加入又は他基金への移行の可否,④従前掛金の申出期限,⑤既払掛金に対応する将来給付の支給主体,⑥前納又は過納となった掛金の有無である。
とりわけ3か月の期間が関係する場面では,照会の回答を待って期限を経過させないよう,基金へ書類の提出方法と到達日の扱いを確認する必要がある。
弁護士国民年金基金の制度全般及び弁護士法人と社会保険の関係については,それぞれの関連記事で説明している。
本記事は,そのうち資格喪失日,再加入,海外転居,既払掛金及び従前掛金に対象を絞ったものである。
老齢年金,未支給年金及び遺族一時金の必要書類,電子申請及び5年時効については,「弁護士国民年金基金の給付請求」で説明している。
第7 出典・参考資料
1 法令
①国民年金法(昭和34年法律第141号)127条,127条の2,137条の17,137条の18(e-Gov法令検索,2026年8月29日確認)
②国民年金基金規則(平成2年厚生省令第58号)7条,7条の2,8条(e-Gov法令検索,2026年8月29日確認)
2 基金規約及び運用資料
①日本弁護士国民年金基金規約37条~39条,65条~67条,71条,72条(日本弁護士国民年金基金,2026年8月29日確認)
②「所属事務所が弁護士法人となる,企業,官公庁に就職する,海外留学する等して,国民年金第1号被保険者でなくなったとき,あるいは,弁護士の業務に従事しなくなったときに必要な手続きは何ですか。」(日本弁護士国民年金基金FAQ,2026年8月29日確認)
③「弁護士法人勤務,企業内弁護士及び再加入に関するFAQ」(日本弁護士国民年金基金,2026年8月29日確認)
④「海外転出に伴い基金に継続加入される場合について」1頁(PDF1頁,日本弁護士国民年金基金,2026年8月29日確認)
⑤「海外から日本に帰国し基金に継続加入される場合について」1頁~2頁(PDF1頁~2頁,日本弁護士国民年金基金,2026年8月29日確認)
⑥「よくあるご質問(ご加入に関して)」及び「各種届出用紙等」(国民年金基金連合会,2026年8月29日確認)
3 所管行政機関の資料及び関連記事
①日本年金機構「資格取得の年月日」(2026年8月29日確認)
②厚生労働省「法人の代表者等に対する健康保険,厚生年金保険の適用について」(令和8年3月18日,2026年8月29日確認)
③「弁護士国民年金基金」,「弁護士法人と社会保険」及び「弁護士会と社会保険」(山中弁護士ブログ関連記事)