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暗号資産に対する強制執行――取引所預託分と自己管理分で何が変わるか(AI作成)

第1 暗号資産は差し押さえられるか

金銭債権について勝訴判決を得たものの,債務者に預貯金や不動産が見当たらず,代わりに暗号資産(ビットコイン等)を保有していることが分かった,という場面を想定する。
本稿は,このような場合に暗号資産を強制執行の対象にできるか,できるとしてどのような手続を踏むことになるかを整理するものである。

本稿が対象とするのは,資金決済に関する法律2条14項にいう暗号資産である。
NFT,ステーブルコイン(電子決済手段)その他の隣接するデジタル資産は対象としない。
また,本稿が扱うのは確定判決等の債務名義に基づく強制執行(金銭執行)であり,仮差押えその他の保全処分の細目には立ち入らない。

結論を先取りすると,暗号資産に対する強制執行を正面から定める規定は民事執行法に存在しない。
交換業者に預けている暗号資産については,債権執行の枠組みを応用する方法が実務・学説の双方で有力であるのに対し,債務者が秘密鍵を自ら管理している暗号資産については,秘密鍵を取得できない限り事実上換価できないという構造的な壁がある。
以下,順に説明する。

第2 暗号資産に対する強制執行の法的な位置づけ

1 民事執行法167条「その他の財産権」という受け皿

民事執行法167条1項は,「不動産,船舶,動産及び債権以外の財産権(以下この条において「その他の財産権」という。)に対する強制執行については,特別の定めがあるもののほか,債権執行の例による。」と定める。
暗号資産を対象とする強制執行について,民事執行法に特別の規定はない。
そのため,暗号資産に関する権利をこの「その他の財産権」(又は後述するとおり通常の金銭債権)として位置づけ,債権執行の規定を応用するというのが,現時点における実務上の理解である。

法務省も,令和6年10月29日にCBDC(中央銀行デジタル通貨)関係府省庁連絡会議に提出した資料「既存のデジタル財産等に関する民事執行について」において,暗号資産に対する強制執行について「特別の定めはなく,個別の事例ごとに判断される」とした上で,債務者が暗号資産交換業者に対して有する権利に対して強制執行をするという考え方と,債務者が暗号資産交換業者を介さずに保有している暗号資産に関する権利に対して強制執行をするという考え方の二つを紹介している。
この記載からも分かるとおり,暗号資産に対する強制執行の位置づけは,行政機関の現状整理の段階にとどまっており,確立した制度として整備されているわけではない。

2 暗号資産が「物」として差し押さえられるわけではない理由

暗号資産に対する強制執行を考えるとき,まず押さえておくべきなのは,暗号資産は民法上の「物」(有体物)として動産執行の対象になるわけではない,という点である。
この点を判断した裁判例として,東京地方裁判所平成27年8月5日判決(平成26年(ワ)第33320号)がある。

同判決は,破産手続開始決定を受けた暗号資産交換業者の元利用者が,破産管財人に対し,自己が所有するビットコインの引渡しを破産法62条の取戻権に基づいて求めた事案である。
裁判所は,所有権の客体となるには有体性と排他的支配可能性が認められなければならないとした上で,個々のビットコインを表象する電磁的記録は存在せず,ビットコインは純粋に観念的な存在であるから「有体物」には該当せず,所有権の客体とならないと判断し,取戻権に基づく請求を棄却した。

同判決は破産法上の取戻権の可否が争われた事案であって,強制執行の可否や方法そのものを判断したものではない。
しかし,暗号資産が有体物として所有権の対象にならないという判断は,暗号資産を動産執行(民事執行法122条以下)の対象として扱うことができないことを裏付けるものであり,暗号資産に対する強制執行を債権執行又は「その他の財産権」執行として構成せざるを得ない理論的な理由を示している。

同じくマウントゴックスの破産事件に関連する東京地方裁判所平成30年1月31日判決(平成29年(ワ)第10977号,金融・商事判例1539号8頁,判例時報2387号108頁)は,別の角度から暗号資産の法的な扱いを示している。
同判決は,暗号資産交換業者の破産手続において,利用者が届け出た破産債権(ビットコインの返還請求権及びこれに付帯する遅延損害金請求権として構成されたもの)の一部のみを認め残余を認めないとした破産裁判所の査定決定について,利用者が異議を申し立てた事案である。
裁判所は,破産管財人が確認した利用者のアカウントに暗号資産の残高があった部分を除き,残余は届出債権者の主張するアカウントが確認できなかったか,確認できても残高が零であったと認められるとして,査定決定を認可した。

平成27年判決が「所有権」という物権的な構成を退けたのに対し,平成30年判決は「破産債権」という債権的な構成を前提に,アカウントの残高という事実関係に即して請求の当否を判断している。
両判決はいずれも破産手続内の紛争であり,民事執行法上の差押命令や売却命令の可否を直接判断したものではないが,暗号資産を物権的にではなく債権的に構成すべきことを示す裁判例として,強制執行の場面でも参考になる。

なお,暗号資産の規制法制の全体像(資金決済法から金融商品取引法への移行等)については,別稿「暗号資産に関する令和8年金融商品取引法改正の内容と施行時期」に譲り,本稿では立ち入らない。

第3 交換業者に預けている暗号資産に対する強制執行

1 権利の性質による手続の違い

債務者が暗号資産交換業者(取引所)に暗号資産を預けている場合,債務者が交換業者に対して有する権利をどのように構成するかによって,執行の手続が変わり得る。

債務者が交換業者に対して有する権利を,暗号資産の市場価格に相当する金銭の払戻しを求める権利(払戻請求権)と構成できる場合には,通常の金銭債権に対する強制執行と同様に,差押命令を得た上で,民事執行法155条1項に基づき,差押命令が第三債務者である交換業者に送達された日から1週間を経過した後に取り立てることができる。

これに対し,債務者が交換業者に対して有する権利を,暗号資産そのものの移転を求める権利(暗号資産移転請求権)と構成する場合には,前記のとおり民事執行法167条1項の「その他の財産権」として扱い,差押命令に加えて,同法161条1項に基づく売却命令(執行裁判所の定める方法による換価を執行官に命ずる命令)を得た上で金銭債権化し,その上で取り立てるという手順を踏むことになる。

いずれの構成によるべきかは,債務者と交換業者との間の利用規約や実際の権利内容によって左右され得る問題であり,一律に決まるものではない。
差押命令を申し立てる際には,交換業者との契約内容を確認した上で,どちらの構成が可能かを検討する必要がある。

2 交換業者(第三債務者)の特定という実務上の壁

暗号資産に対する差押命令を得るためには,債務者がどの交換業者に暗号資産を預けているかを特定し,その交換業者を第三債務者として指定する必要がある。
預貯金債権の差押えであれば取扱店舗まで特定する実務が確立しているのに対し,暗号資産の交換業者についても同様に,債務者が口座を有する具体的な交換業者を特定しなければならない。

この特定のための調査方法としては,まず債務者の預貯金口座の入出金履歴から交換業者への振込先を確認するなど,比較的負担の軽い調査から着手するのが合理的である。
これで手がかりが得られない場合には,弁護士会照会(弁護士法23条の2)によって,判明している交換業者に照会をかけることも考えられる。
もっとも,弁護士会照会は照会先が回答するとは限らず,回答が得られなかった場合の代替手段も確保しておく必要がある。
弁護士会照会の手続の詳細については,別稿「弁護士会照会」を参照されたい。

なお,一般的な債権執行(差押命令の申立て・取立て・配当)の手続そのものについては,別稿「債権差押命令の申立てと取立て・配当の実務」で解説しているため,本稿では暗号資産に固有の論点に絞って説明する。

3 海外の交換業者に対する差押えの難しさ

債務者が利用している交換業者が海外に所在する場合には,日本の裁判所が発した差押命令の効力を海外の第三債務者に及ぼせるかという国際裁判管轄の問題が生じる。
国内の交換業者を第三債務者とする差押えが実務上の大半を占めているとされるのも,こうした事情によるものと考えられる。
海外の交換業者を対象とする差押えを検討する場合には,個別に専門的な検討を要する。

第4 債務者が自己管理している暗号資産

1 秘密鍵という壁

債務者が交換業者を介さず,ハードウェアウォレット等の自己管理型ウォレットで暗号資産を直接保有している場合には,事情が大きく異なる。
この場合,暗号資産の存在自体を確認できたとしても,秘密鍵(暗号資産を移転させるために必要な鍵情報)を取得できなければ,事実上換価することができない。

この限界は,複数の実務家による解説で一致して指摘されている。
実務書「Q&A実務家のための暗号資産入門」は,債務者が暗号資産交換業者を使わずハードウェアウォレット等のコールドウォレットで暗号資産を管理している場合には,交換業者を第三債務者とする債権執行はできないとする。
令和8年1月付けの弁護士による解説記事も,秘密鍵を把握できなければ実効性のある強制執行はできないとしている。

2 財産開示手続・第三者からの情報取得手続は及ぶか

債務者の財産を把握するための制度として,民事執行法196条以下の財産開示手続がある。
同手続は,執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者の申立てにより,債務者について財産の開示を求める制度であるが,暗号資産の秘密鍵という「情報」自体を開示させることまで想定した規定ではなく,秘密鍵の開示にどこまで応用できるかは理論的に未確立である。

また,民事執行法204条以下に定める第三者からの情報取得手続は,不動産,給与債権,預貯金債権その他の対象財産ごとに,登記所や市町村,日本年金機構,金融機関等の第三者に情報の提供を命ずる制度であるが,暗号資産交換業者はこの制度の対象として明文で位置づけられていない。
別稿「阿多博文最高裁判事が関与した三つの民事法改正」で紹介したとおり,同制度の対象は不動産,給与,預貯金,振替社債等に限定されており,暗号資産交換業者に対する情報取得は現行制度の外側にある。

以上のとおり,債務者が自己管理する暗号資産については,財産開示手続における債務者本人の自発的な開示(又は開示を拒んだ場合の刑事罰による間接的な圧力)に頼らざるを得ないのが実情であり,強制的に秘密鍵を取得する確立した手段は存在しない。

第5 実務上のポイント

1 現状は個別事例ごとの判断にとどまる

ここまで見たとおり,暗号資産に対する強制執行は,交換業者預託分については債権執行の枠組みを応用する余地がある一方で,自己管理分については秘密鍵という構造的な壁があり,いずれについても確立した最高裁判例や専用の立法は存在しない。
前記の法務省資料が「特別の定めはなく,個別の事例ごとに判断される」とするとおり,現状は個別の事案ごとに,交換業者の特定状況や利用規約の内容を踏まえて対応を検討せざるを得ない。

2 判決を得た後は時効に注意する

暗号資産の特定や交換業者の調査に時間を要する間に,元となる債権の消滅時効の完成が近づいてしまうことのないよう注意する必要がある。
もっとも,民法169条1項は,確定判決又はこれと同一の効力を有するものによって確定した権利については,本来10年より短い時効期間の定めがある場合であっても,その時効期間を10年とする旨を定めている。
したがって,判決が確定した後であれば,暗号資産の所在調査に時間を要する場合でも,直ちに時効の問題が生ずるわけではない。
もっとも,同条2項により,確定の時に弁済期が到来していない債権にはこの延長は適用されないため,判決確定前の時効管理については別途注意が必要である。
消滅時効の基本的な考え方については,別稿「消滅時効に関するメモ書き」も参照されたい。

3 債権者が最初に確認すべきこと

暗号資産に対する強制執行を検討する際には,まず,債務者の預貯金口座の入出金履歴等から交換業者への送金の痕跡がないかを確認するという,比較的負担の軽い調査から着手するのが合理的である。
交換業者を特定できる見込みが乏しい段階で,海外送金網の解析や専門業者への調査依頼といった高負担の手段に進むことは,費用対効果の観点から慎重に判断すべきである。
他方,特定の交換業者への送金が確認できた場合には,当該交換業者を第三債務者とする債権執行の可否を,利用規約の内容を踏まえて検討することになる。

出典

法令

①民事執行法(昭和54年法律第4号)143条,145条5項,155条1項,161条1項,167条1項,196条,197条,204条〔e-Gov法令検索
②民法(明治29年法律第89号)169条〔e-Gov法令検索
③資金決済に関する法律(平成21年法律第59号)2条14項,63条の11〔e-Gov法令検索
④弁護士法(昭和24年法律第205号)23条の2〔e-Gov法令検索

裁判例

①東京地方裁判所平成27年8月5日判決(平成26年(ワ)第33320号,ビットコイン引渡等請求事件。裁判所HP未掲載,判例秘書〔LLI/DB〕により全文確認,評釈論文として法学セミナー63巻8号122頁)
②東京地方裁判所平成30年1月31日判決(平成29年(ワ)第10977号,破産債権査定異議事件。金融・商事判例1539号8頁,判例時報2387号108頁。裁判所HP未掲載,判例秘書〔LLI/DB〕により全文確認)

行政機関の資料

①法務省「既存のデジタル財産等に関する民事執行について」(CBDC関係府省庁連絡会議資料3,令和6年10月29日)

文献

①平野哲郎『実践民事執行法・民事保全法〔第3版補訂版〕』(日本評論社,2022年)320頁~325頁
②河合健編『Q&A実務家のための暗号資産入門』(新日本法規出版,2020年)109頁~167頁
③松嶋隆弘ほか編『改正民事執行法の論点と今後の課題』(勁草書房,2020年)190頁~215頁(第4章,松嶋隆弘執筆)

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