yamanaka

久保孝二裁判官(50期)の経歴

生年月日 S46.9.10
出身大学 不明
叙勲 R3.7.31瑞宝小綬章
R3.7.31 病死等
H30.4.1 ~ R3.7.30 名古屋高裁1民判事
H27.4.1 ~ H30.3.31 静岡地家裁富士支部長
H24.4.1 ~ H27.3.31 名古屋地裁6民判事
H21.4.1 ~ H24.3.31 大阪家地裁岸和田支部判事
H20.4.12 ~ H21.3.31 津地家裁判事
H18.4.1 ~ H20.4.11 津地家裁判事補
H15.4.1 ~ H18.3.31 静岡家地裁浜松支部判事補
H14.4.1 ~ H15.3.31 福島家地裁判事補
H12.4.1 ~ H14.3.31 福島地家裁判事補
H10.4.12 ~ H12.3.31 名古屋地裁判事補

* 以下の記事も参照してください。
・ 裁判官の死亡退官
・ 地方裁判所支部及び家庭裁判所支部

佐々木泉裁判官(8期)の経歴

生年月日 S3.9.29
出身大学 中央大
退官時の年齢 47 歳
叙勲 R3.7.2瑞宝小綬章
S51.4.7 任期終了
S47.4.12 ~ S51.4.6 仙台高裁判事
S44.4.1 ~ S47.4.11 仙台地家裁判事
S41.4.9 ~ S44.3.31 仙台地家裁石巻支部長
S41.4.7 ~ S41.4.8 仙台地家裁判事
S38.4.16 ~ S41.4.6 仙台地家裁判事補
S34.5.1 ~ S38.4.15 前橋地家裁判事補
S31.4.7 ~ S34.4.30 福島地家裁判事補

平沢雄二裁判官(27期)の経歴

生年月日 S24.7.1
出身大学 東大
退官時の年齢 53 歳
H15.3.3 自殺
H13.4.1 ~ H15.3.2 大阪高裁1刑判事
H9.4.1 ~ H13.3.31 和歌山地家裁田辺支部長
H6.4.1 ~ H9.3.31 神戸家裁判事
H2.4.1 ~ H6.3.31 広島家地裁尾道支部判事
S60.4.11 ~ H2.3.31 神戸地家裁尼崎支部判事
S60.4.1 ~ S60.4.10 神戸地家裁尼崎支部判事補
S57.4.1 ~ S60.3.31 大阪地裁判事補
S54.4.1 ~ S57.3.31 横浜地家裁川崎支部判事補
S53.4.1 ~ S54.3.31 前橋家地裁判事補
S50.4.11 ~ S53.3.31 札幌地裁判事補

*0 「平澤雄二」と表記されることもあります。
*1 日本裁判官ネットワークHPの「転勤挨拶とホームページ更新怠慢のお詫び (2004年5月24日)」には「私も,菅原雄二さんや平澤雄二さんのように,多忙さに押しつぶされ,鬱になって自殺したかも知れない,と振り返る今日このごろです。」と書いてあります。
*2 昭和53年10月12日午後11時45分頃,酒気を帯び呼気1リットルにつき0.25ミリグラム以上のアルコールを保有する状態で、高崎市内の道路上において普通乗用自動車を運転したことから,東京高裁昭和53年12月7日決定によって戒告の懲戒処分を受けました。

菅原雄二裁判官(25期)の経歴

生年月日 S22.9.20
出身大学 東大
退官時の年齢 53 歳
H13.3.3 自殺
H11.4.1 ~ H13.3.2 東京地裁8民部総括
H9.4.1 ~ H11.3.31 証取委事務局次長
H6.4.1 ~ H9.3.31 東京地裁16民部総括
H5.7.1 ~ H6.3.31 東京地裁判事
H2.7.2 ~ H5.6.30 最高裁総務局第一課長
S63.7.1 ~ H2.7.1 最高裁総務局第二課長
S59.4.1 ~ S63.6.30 最高裁総務局参事官
S58.4.10 ~ S59.3.31 千葉地裁判事
S57.4.1 ~ S58.4.9 千葉地裁判事補
S56.4.1 ~ S57.3.31 千葉家裁判事補
S55.7.1 ~ S56.3.31 東京地裁判事補
S53.4.1 ~ S55.6.30 最高裁総務局付
S51.7.19 ~ S53.3.31 前橋家地裁判事補
S48.4.10 ~ S51.7.18 東京地裁判事補

*1 日本裁判官ネットワークHPの「転勤挨拶とホームページ更新怠慢のお詫び (2004年5月24日)」には「私も,菅原雄二さんや平澤雄二さんのように,多忙さに押しつぶされ,鬱になって自殺したかも知れない,と振り返る今日このごろです。」と書いてあります。
*2 以下の記事も参照してください。
・ 部の事務を総括する裁判官の名簿(昭和37年度以降)
 行政機関等への出向裁判官
 最高裁判所裁判官及び事務総局の各局課長は襲撃の対象となるおそれが高いこと等
・ 最高裁判所事務総局の各係の事務分掌(平成31年4月1日現在)
・ 最高裁判所事務総局の組織に関する法令・通達

簡易裁判所においては尋問調書の作成が原則として省略されること

目次
1 尋問調書の作成が省略されていること
2 録音テープの取扱い及び反訳
3 録音テープ等の複製の申出書の記載例
4 最高裁判所の事務連絡
5 尋問調書の作成が省略されるようになった背景
6 関連記事その他

1 尋問調書の作成が省略されていること
(1)ア 簡易裁判所における尋問は通常,証人等の陳述の記載,つまり,尋問調書の作成が省略され(民事訴訟規則170条1項参照),当事者の裁判上の利用に供するため,録音テープ等で記録されるだけです(民事訴訟規則170条2項前段)。
    つまり,簡易裁判所における尋問の内容は紙ベースでは裁判所に残りません。
イ この場合,第4号書式(証人等目録)の「調書の作成に関する許可等」欄では,「調書省略」にレ点が付きます。
(2) 地方裁判所における尋問を実施した後に訴訟上の和解が成立した場合,民事訴訟規則67条2項本文に基づき,尋問調書の作成が省略されることが多いですものの,民事訴訟規則170条1項とは別の話です。
(3) 民事訴訟規則170条(証人等の陳述の調書記載の省略等)の条文は以下のとおりです。
① 簡易裁判所における口頭弁論の調書については、裁判官の許可を得て、証人等の陳述又は検証の結果の記載を省略することができる。この場合において、当事者は、裁判官が許可をする際に、意見を述べることができる。
② 前項の規定により調書の記載を省略する場合において、裁判官の命令又は当事者の申出があるときは、裁判所書記官は、当事者の裁判上の利用に供するため、録音テープ等に証人等の陳述又は検証の結果を記録しなければならない。この場合において、当事者の申出があるときは、裁判所書記官は、当該録音テープ等の複製を許さなければならない。
イ 「証人等」は,「証人、当事者本人又は鑑定人」のことです(民事訴訟規則68条1項)。

2 録音テープの取扱い及び反訳
(1) 録音テープの取扱い
ア 民事訴訟規則170条2項前段に基づき簡易裁判所における尋問を記録した録音テープ等は訴訟記録ではありません(東京高裁平成24年7月25日判決)。
    そのため,控訴審である地方裁判所は録音テープ等を聴取する必要がありませんし,そもそも録音テープ等は控訴審である地方裁判所に送付しません。
    その結果,簡易裁判所における尋問内容を控訴審の証拠としたい場合,録音テープ等の複製(民事訴訟規則170条2項後段)をした上で,その反訳文を控訴審に提出する必要があります。
 録音テープ等又はその反訳文を控訴審に提出しない場合,簡易裁判所における尋問の内容は一切,控訴審の証拠にはならないこととなります。
(2) 録音テープの反訳
ア 簡易裁判所の録音テープ等について司法協会に録音反訳(テープ起こし)を依頼した場合,60分当たり1万6800円(1分当たり280円)が必要となります。
    また,納期の目安として,90分の録音データの場合,中9日で,Eメールで納品されるとのことです(司法協会HPの「録音反訳(テープ起こし)」参照)。
イ オプションとしての認証正本については,録音反訳文の証拠方法を原本とするために1部を作成してもらえばいいと思います。
(3) 録音テープの反訳費用は自己負担となること
ア 交通事故に基づく損害賠償請求訴訟において,簡易裁判所で実施された尋問の録音反訳に要した費用は,交通事故と相当因果関係のある損害とはいえないとされています(控訴審たる富山地裁平成29年6月21日判決及び上告審たる名古屋高裁平成30年2月27日判決(いずれも判例秘書に掲載)参照)。
イ 名古屋高裁令和2年5月27日決定(公刊物未登載)は以下のとおり判示しており,反訳費用は訴訟費用に含まれないとしています。
    民事訴訟費用等に関する法律は,一般的に権利の伸張又は防御に必要であると考えられる費用を類型化して列挙するとともに,その額もできる限り権利の伸張又は防御に必要な限度のものを法定したものであり(費用法定主義),当該紛争の解決過程を通じて支出された一切の費用について当事者等に負担させることにすると,その範囲は極めて漠然とするばかりでなく,金額が過大になり,訴訟に伴う費用負担の危険性が著しく,司法制度の利用を阻害する結果ともなる恐れがあるため,その負担すべき範囲が明確に定められているものと解される。
    かかる同法の趣旨に鑑みれば,同法に費用の種目として掲げられていないものは考慮する必要はなく,掲げられたものに該当する当事者等の出費のみが償還の対象となるものと解され,反訳費用については,同法に費用の種目として掲げられていない以上,訴訟費用となる余地はないことになる。
ウ 最高裁令和2年4月7日判決は以下のとおり判示していますから,名古屋高裁令和2年5月27日決定を支持することは確実と思います。
    費用法2条が法令の規定により民事執行手続を含む民事訴訟等の手続の当事者等が負担すべき当該手続の費用の費目及び額を法定しているのは,当該手続に一般的に必要と考えられるものを定型的,画一的に定めることにより,当該手続の当事者等に予測できない負担が生ずること等を防ぐとともに,当該費用の額を容易に確定することを可能とし,民事執行法等が費用額確定処分等により当該費用を簡易迅速に取り立て得るものとしていることとあいまって,適正な司法制度の維持と公平かつ円滑なその利用という公益目的を達成する趣旨に出たものと解される。
エ したがって,録音テープの反訳費用は自己負担となります。


3 録音テープ等の複製の申出書の記載例
・ 録音テープ等の複製の申出書の記載例は以下のとおりです。

令和5年(ハ)第◯◯◯◯号 損害賠償等請求事件
原  告  ◯◯◯◯
被  告  ××××

大阪簡易裁判所民事◯◯係 御中

録音テープ等の複製の申出書

令和5年◯月◯◯日

原告訴訟代理人弁護士   山 中 理 司

電話:06-6364-8525

    頭書事件について,令和5年2月◯◯日に実施された口頭弁論期日において,原告本人及び被告本人の陳述の結果が録音テープ等に記録されましたが,それの別添CD-Rに対する複製を申し出ます。

受 領 書

令和5年  月  日

大阪簡易裁判所民事◯◯係 御中

原告訴訟代理人弁護士  山 中 理 司

    上記複製したCD-Rを受領しました。


4 最高裁判所の事務連絡等

(1) 以下の資料を掲載しています。
・ 「民事訴訟規則第68条第1項及び第170条第2項の録音テープ等への記録の手続等について」(平成9年12月8日付の最高裁判所民事局第一課長,総務局第三課長事務連絡)
・ 民事事件の口頭弁論調書等の様式及び記載方法について(平成16年1月23日付の最高裁判所総務局長,民事局長及び家庭局長通達)
・ 事件記録等の閲覧等に関する事務の取扱いについて(平成9年8月20日付けの最高裁判所総務局長通達)
(2) 民事訴訟規則(調書の記載に代わる録音テープ等への記録)68条1項の録音テープ等は事件記録の一部となっているのに対し,民事訴訟規則170条(証人等の陳述の調書記載の省略等)2項の録音テープ等は訴訟記録とは別に保管されており,保管期間の終期は,判決による終了の日から1年となっています。

5 尋問調書の作成が省略されるようになった背景
(1) 簡易裁判所の民事訴訟事件は通常,1,2回の期日にわたる証拠調べによって, 口頭弁論が終結される簡易なものが多く,その判決に対する控訴率も低いことから,証人等の陳述や検証の結果を調書に記載する必要性は地方裁判所におけるそれと比べると低いものと考えられます。
    また,録音テープに証人等の陳述を記録していた場合,旧民事訴訟法358条ノ2第1項(調書ハ当事者ニ異議アル場合ヲ除クノ外裁判官ノ許可アルトキハ之ニ記載スヘキ事項ヲ省略スルコトヲ得)に基づき証人等の陳述の調書への記載の省略について当事者から異議が出されることもありませんでした。
    そのため,平成10年1月1日施行の民事訴訟規則170条では,簡易裁判所の民事訴訟事件では,尋問調書の作成を省略できることとなりました(条解民事訴訟規則357頁参照)。
(2) 25期の菅原雄二最高裁総務局第二,第三課長(平成13年3月3日,博多港発のフェリーから投身自殺)は,最高裁総務局・人事局各課長,参事官を囲む座談会(平成2年5月11日開催)において以下の発言をしています(全国裁判所書記官協議会会報第111号14頁。改行を追加しています。)。
    最高裁民事局が中心となって行っている録音体利用実験の状況でありますが、昭和六三年六月から平成元年五月までの一年間についての実験結果によると、当該期間中の対象となる合計一四一九の証人、本人調べのうち、省略されたのが七六九人、率にして約五四%と、従来の調書省略率に比べて相当高い率となっており、録音帯利用が調書省略の運用に有益であるという結果が出ていると考えられます。
    こうした結果及び簡裁で人証の取調べをした全民訴既済事件のうち、取り調べた証人又は本人の延べ人数が三人以下の事件が約八五%を占めている実情を考慮して、平成元年七月に、今後は、集中的取調べの可能な事件について、当事者の理解を得ながら、録音体の利用による調書省略を運用していただくようお願いしたいところであります。

6 関連記事その他
(1) 簡易裁判所における尋問の場合,補充尋問の直前,裁判官の隣に座っている司法委員から質問されることがあります(民事訴訟規則172条参照)。
(2) 東弁リブラ2021年10月号「東京簡裁書記官に訊く-民事訴訟手続を中心に-」が載っています。
(3) 民事訴訟法271条は「訴えは、口頭で提起することができる。」と定めていますところ,事件の受付及び分配に関する事務の取扱いについて(平成4年8月21日付の最高裁判所事務総長通達)には以下の記載があります(リンク先の3頁)。
第2 受付
1 受付手続
(1) 書類を受領した場合には、2から12までに定めるところにより、閲読、受付日付の表示、帳簿への登載、符号及び番号の記載、収入印紙の消印等の手続を行うものとし、その日のうちにこれを終えなければならない。
(2) 口頭による申述について自ら調書を作成した場合には、 の定めを準用する。
(4) 以下の記事も参照してください。
・ 民事事件記録一般の閲覧・謄写手続
 地方裁判所において尋問調書の作成が省略される場合
 録音反訳方式による逐語調書
 裁判文書の文書管理に関する規程及び通達

地方裁判所において尋問調書の作成が省略される場合

目次
1 訴訟が裁判によらないで完結した場合の取扱い(民事訴訟規則67条2項)
2 録音テープ等による調書代用,及び陳述記載書面(民事訴訟規則68条)
3 民事訴訟規則67条及び68条の条文
4 録音反訳方式と速記に関する国会答弁
5 関連記事その他

1 訴訟が裁判によらないで完結した場合の取扱い(民事訴訟規則67条2項)
(1)   訴訟が裁判によらないで完結した場合,裁判長の許可に基づき,尋問調書の作成が省略されます(民事訴訟規則67条2項本文)。
    例えば,当事者尋問をした直後の和解期日で訴訟上の和解が成立した場合,尋問調書の作成は省略されることが多いです。
(2) 当事者が訴訟の完結を知った日から1週間以内に尋問調書を作成すべき旨の申出をした場合,尋問調書が作成されます(民事訴訟規則67条2項ただし書)。

2 録音テープ等による調書代用,及び陳述記載書面(民事訴訟規則68条)
(1)   裁判長の許可に基づき,録音テープ等による調書代用(民事訴訟規則68条1項)があった場合,録音テープ等が尋問調書の代用となりますから,尋問調書は作成されません。
(2)ア   訴訟が完結するまでに当事者の申出があった場合等には,陳述記載書面が作成されます(民事訴訟規則68条2項)。
    この場合,①事件番号,②証人等を取り調べた期日,③証人等の氏名及び④規則68条2項に基づく書面である旨が記載されます。
イ 陳述記載書面の作成者につき,条文上明確は規定はありませんが,通常は,証人等の尋問に立ち会った書記官が作成することになりますし,立ち会った書記官が転勤等の事情により異動した場合,書面作成時における当該事件の担当書記官が作成することになります。
ウ 新民事訴訟法における書記官事務の研究(1)225頁が参考になります。
(3) 民事訴訟規則76条(口頭弁論における陳述の録音)は,調書の記載の正確性を確保するための補助手段として,録音という方法を利用できることを明らかにしたものです。
    これに対して民事訴訟規則68条(調書の記載に代わる録音テープ等への記録)は,口頭弁論における陳述それ自体の記録化の方法として録音が可能であることを前提として,その結果としての録音テープを訴訟記録として活用することを認めているものです。
    そのため,両者の想定する利用方法は異なります(条解民事訴訟規則167頁及び168頁参照)。

3 民事訴訟規則67条及び68条の条文
(1) 民事訴訟規則67条(口頭弁論調書の実質的記載事項・法第百六十条)
① 口頭弁論の調書には、弁論の要領を記載し、特に、次に掲げる事項を明確にしなければならない。
一 訴えの取下げ、和解、請求の放棄及び認諾並びに自白
二 法第百四十七条の三(審理の計画)第一項の審理の計画が同項の規定により定められ、又は同条第四項の規定により変更されたときは、その定められ、又は変更された内容
三 証人、当事者本人及び鑑定人の陳述
四 証人、当事者本人及び鑑定人の宣誓の有無並びに証人及び鑑定人に宣誓をさせなかった理由
五 検証の結果
六 裁判長が記載を命じた事項及び当事者の請求により記載を許した事項
七 書面を作成しないでした裁判
八 裁判の言渡し
② 前項の規定にかかわらず、訴訟が裁判によらないで完結した場合には、裁判長の許可を得て、証人、当事者本人及び鑑定人の陳述並びに検証の結果の記載を省略することができる。ただし、当事者が訴訟の完結を知った日から一週間以内にその記載をすべき旨の申出をしたときは、この限りでない。
③ 口頭弁論の調書には、弁論の要領のほか、当事者による攻撃又は防御の方法の提出の予定その他訴訟手続の進行に関する事項を記載することができる。
(2) 民事訴訟規則68条(調書の記載に代わる録音テープ等への記録)
① 裁判所書記官は、前条(口頭弁論調書の実質的記載事項)第一項の規定にかかわらず、裁判長の許可があったときは、証人、当事者本人又は鑑定人(以下「証人等」という。)の陳述を録音テープ又はビデオテープ(これらに準ずる方法により一定の事項を記録することができる物を含む。以下「録音テープ等」という。)に記録し、これをもって調書の記載に代えることができる。この場合において、当事者は、裁判長が許可をする際に、意見を述べることができる。
② 前項の場合において、訴訟が完結するまでに当事者の申出があったときは、証人等の陳述を記載した書面を作成しなければならない。訴訟が上訴審に係属中である場合において、上訴裁判所が必要があると認めたときも、同様とする。

4 録音反訳方式と速記に関する国会答弁
・ 40期の中村慎最高裁判所総務局長は,平成28年3月16日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリングを追加しました。)。
①   委員が要約調書と速記調書というものの比較をされました。要約調書というのは書記官が概要を書く調書でございますので、それと比較いたしますと、速記調書の方が、まさに逐語的にとっているのでそういう感想が出たんだと思います。
   逐語調書という中におきましては、録音反訳方式と速記の調書、両方がございます。一般的に、裁判利用者の要望については真摯に耳を傾ける必要があると考えております。
   ただ、録音反訳方式でありましても、反訳業者が提出した反訳書を裁判所書記官が確認して、必要に応じて校正を行った上で書記官の調書として完成させておりまして、正確性を欠くということはございません。また、反訳書をつくる期間につきましても、最短の場合では音声データを業者が受領したときから四十八時間で完成させるというような迅速性についても、十分な手当てをしているところでございます。
② このように、録音反訳方式と速記とについては、いずれも逐語録需要に対応するものであるところ、この両者について、どちらがすぐれているということはないというふうに考えておりまして、利用者からの要望のみによって速記録を作成するということにはならないというふうに考えております。

5 関連記事その他
(1) 第4号書式(証人等目録)の「調書の作成に関する許可等」欄につき,①民事訴訟規則67条2項又は170条1項に基づき証人等の陳述の記載を省略する許可があった場合,「調書省略」欄の□にレ点を付け,②民事訴訟規則68条1項に基づき録音テープ等に記録することによって調書の記載に代える許可があった場合,「調書記載に代わる録音テープ等」の□にレ点を付けます。
(2) 最高裁昭和26年2月22日判決は「別件の証人尋問の終了直後に引き続き開始された本件の口頭弁論において、右証人尋問の調書を書証として提出することは、不可能とはいえない。」と判示しました。
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 民事事件記録一般の閲覧・謄写手続
・ 録音反訳方式による逐語調書
・ 地方裁判所において尋問調書の作成が省略される場合
・ 簡易裁判所においては尋問調書の作成が原則として省略されること
・ 裁判文書の文書管理に関する規程及び通達

民事事件記録一般の閲覧・謄写手続

目次
1 総論
2 訴訟記録閲覧時のメモ取りの可否
3 大阪地裁における事件記録の謄写手続
4 東京地裁等における事件記録の謄写手続
5 謄写事業の担当者
6 民訴法92条1項の閲覧等制限決定のメモ書き
7 裁判記録の電子化に関する国会答弁
8 利害関係を疎明した第三者による,破産事件,家事事件及び非訟事件の記録の閲覧謄写
9 関連記事その他

1 総論
(1) 民事事件の場合,事件記録の「閲覧」自体は誰でもできます(民事訴訟法91条1項のほか,外部HPの「訴訟の記録も,誰でも閲覧できます」参照)。
(2) 事件記録の謄写については,当事者及び利害関係を疎明した第三者しかできません(民事訴訟法91条3項)。
(3) 事件記録の閲覧謄写に関する裁判所内部の手続は「事件記録等の閲覧等に関する事務の取扱いについて」(平成9年8月20日付の最高裁判所総務局長の通達)(略称は「閲覧等通達」です。)に書いてあります。

2 事件記録閲覧時のメモ取りの可否
(1) 利害関係のない第三者が民事事件の事件記録を閲覧した際にメモを取ることができるかどうかについては,各地の裁判所によって取扱いに違いがあるみたいです(君の瞳に恋してる眼科ブログ「訴訟記録閲覧時のメモ取り行為と,裁判の公開原則,レペタ裁判の関係」参照)。
(2) 平成29年12月22日付の司法行政文書不開示通知書によれば,民事訴訟法91条1項に基づき,第三者が民事訴訟記録を閲覧する際,詳細なメモを取ることが禁止されていることが分かる文書は存在しません。

3 大阪地裁における事件記録の謄写手続
(1) 大阪地裁の場合,具体的な窓口は以下のとおりです(一般財団法人司法協会HPの「記録謄写(複写)」のほか,全国弁護士協同組合HPにある,大阪弁護士協同組合の「当組合おすすめお役立ち情報」参照)。
① 本庁本館及び第2別館(主として,大阪地裁民事部及び刑事部,並びに大阪高裁刑事部)に入居している民事部・刑事部の事件記録の場合
「本館」1階に入居している司法協会大阪出張所(電話:06-6363-1290)
② 本庁の第1別館(主として,大阪高裁民事部及び大阪簡裁)に入居している民事部・刑事部の事件記録の場合
「第1別館10階」に入居している司法協会大阪出張所(電話:06-6363-1290)
③ 大阪地裁第14民事部(大阪地裁執行センター)の事件記録の場合
〒532-8503
大阪市淀川区三国本町1-13-27
大阪地方裁判所執行部庁舎3階
司法協会新大阪出張所(電話:06-6350-6987)
④ 大阪家裁の事件記録の場合
〒540-0008
大阪市中央区大手前4-1-13
大阪家裁庁舎3階
司法協会大阪出張所家裁分室(電話:06-6944-7571)
⑤ 大阪地家裁堺支部の事件記録の場合
〒590-8511
大阪府堺市堺区南瓦町2番28号
大阪地家裁堺支部庁舎6階
司法協会堺出張所(電話:072-227-4781)
⑥ 大阪地家裁岸和田支部の事件記録の場合
〒596-0042
大阪府岸和田市加守町4-27-2
大阪地家裁岸和田支部庁舎1階
司法協会岸和田出張所(電話:072-441-4374)
(2)ア 大阪地裁で郵送により事件記録の謄写申請をする場合,堺支部及び岸和田支部も含めて,閲覧謄写票「だけ」を係属部に郵送すれば足りるものの,返送用住所ラベル及び複写伝票も送付することが望ましいです。
    後日,謄写した記録と一緒に請求書及び郵便局の振込用紙が司法協会の出張所から郵送されてきますから,郵便局の振込用紙を使って,複写料金及び送料を支払えばいいです。
イ 独立簡易裁判所(地家裁支部に併設されている簡易裁判所ではなく,単独で設置されている簡易裁判所)の場合,司法協会の職員が常駐しているわけではないため,週に1回とか,月に1回といったペースで,裁判所を訪問するにすぎません.
    そのため,独立簡易裁判所で事件記録の謄写申請をする場合,非常に時間がかかることがありますところ,1枚150円の収入印紙を支払ってもいいのであれば,裁判所書記官に対し,事件記録の謄本交付申請(民事訴訟費用等に関する法律別表第二・2項)をした方がいいです。
(3) 令和5年10月1日,司法協会の謄写料金は,白黒コピーは1枚45円から50円となったものの,カラーコピーは1枚80円のままです。
(4) 大阪弁護士会館の北近くの秋田ビル1階に入居している西村謄写館は,主として「検察庁の」刑事記録の謄写をやっています。


4 東京地裁等における事件記録の謄写手続
(1)ア 東京地裁本庁で郵送により事件記録の謄写申請をする場合,司法協会が指定する書式での委任状「だけ」を司法協会に郵送すればいいです(閲覧謄写票の送付は不要です。)。
イ 東京地裁HPに「執行事件記録の閲覧謄写申請に際してのご注意」が載っています。
(2) 神戸地裁本庁で郵送により事件記録の謄写申請をする場合,閲覧謄写票「だけ」を兵庫県弁護士協同組合に郵送すればいいです(兵庫県弁護士協同組合HP「裁判所における設置場所・謄写の形態及び特別料金一覧」参照)。
(3) 名古屋地裁本庁で郵送により事件記録の謄写申請をする場合,愛知県弁護士協同組合が指定する書式での「記録謄写申請」と題する書面「だけ」を愛知県弁護士協同組合に郵送すればいいです(閲覧謄写票の送付は不要です。)。

5 謄写事業の担当者
(1)ア 東京地家裁,横浜地家裁,さいたま地家裁,千葉地家裁及び大阪地家裁については,司法協会が謄写事業を担当しています(一般財団法人司法協会HPの「記録謄写(複写)」参照)。
イ それ以外の地家裁については,弁護士協同組合が謄写事業を担当しています(全弁協HPの「全国の弁護士協同組合」参照)。
ウ 司法協会大阪家裁出張所を利用する場合,郵便で謄写申請をするときは,閲覧・謄写票及び複写伝票に加えて,返送用の住所ラベルを送付するようにお願いされます。
(2) 各地の裁判所の民事事件記録一般の閲覧・謄写手続については以下のHPが参考になります。
① 東京地裁HPの「民事事件記録の閲覧・謄写の御案内」
② 大阪地裁HPの「民事事件記録の閲覧・謄写手続について」
③ 京都地裁HPの「不動産競売事件(担保不動産競売,強制競売)記録の閲覧・謄写Q&A」
④ 神戸地裁HPの「記録の謄写・閲覧」

6 民訴法92条1項の閲覧等制限決定のメモ書き
(1) 判例タイムズ1497号(2022年8月号)に「民事訴訟記録の閲覧等制限決定の理論と実務―多義的な「秘密」からの解放」(筆者は51期の高原知明 元裁判官(令和3年3月31日依願退官))には,「閲覧等の制限の申立てがあっても,裁判所において同申立てに対する判断を一定期間留保し,訴訟が終局する際に併せて閲覧等の制限の申立てに対する判断をするという運用」は,筆者が見聞してきた限り,「民訴法制定後間もない時期から続いてきたもの」であるとした上で,以下の記載があります(判例タイムズ1497号47頁)。
【1】決定(山中注:性犯罪を受けた事実や被害者の個人情報を閲覧等制限の対象とした大阪地裁平成11年8月30日決定)のように,提訴直後から世間の関心を惹いている事案は別論であること,立案担当者が例示した薬害関係訴訟のように,提訴直後に原告の個人情報等を対象として閲覧等制限決定を定型的に行っている類型が存在すること,申立ての全部又は一部が認容されないことが見込まれる事案において,申立ての効果として民訴法92条2項による閲覧等制限の暫定効が生じることを前提として,判断の前提として実際に第三者からの閲覧請求があるか否かを一定期間見極め,第三者閲覧を通じた情報拡散の可能性が低いことを確認の上で申立ての取下げを促す運用がかなり広く定着していることを併せて紹介しておく。
(2) 最高裁平成29年1月31日決定に関する最高裁判所判例解説(担当者は51期の高原知明)には以下の記載があります。
    前掲東京高判平成26年1月15日に対する上告兼上告受理申立事件に関し,上告等に伴う最高裁判所への記録到着後における訴訟記録全部を対象とする閲覧等制限の申立て(最高裁平成27年(マ)第153号,第154号)がされ,本決定(山中注:最高裁平成29年1月31日決定)と同一日に,同申立てに対する一部認容,一部却下決定(以下「本閲覧等制限決定」という。)がされた。
    本閲覧等制限決定の理由は例文による簡潔なものであるが,本決定の裁判長裁判官である岡部喜代子裁判官の補足意見が次のとおり付されている。「本件は,民事訴訟法92条1項に基づき,訴訟記録全部についての閲覧等制限の申立てをしたものであるところ,同項1号は,訴訟記録中に当事者の私生活についての重大な秘密が記載されるなどした部分についてのみ閲覧等の請求をすることができる者を制限しているのであって,秘密記載部分が訴訟記録中の一部に限定されるにもかかわらず,そのような限定をすることなく訴訟記録全部について閲覧等の請求をすることができる者を当事者に限る旨の決定をすることは,同号に反するものであって許されない。とりわけ,裁判書は当事者以外の第三者にとって裁判理由中における判断の正確性を理解するために代替困難な手段であるから,裁判書を秘密記載部分に含めることは裁判の公正性を担保するために慎重な配慮が求められる。本決定は,基本事件における諸般の事情に鑑み,上記のような観点に加え,私生活についての重大な秘密を保護するという閲覧等制限の趣旨を踏まえて,主文のとおり決定したものである。」
    岡部裁判官補足意見で述べられた一般論は民事訴訟法92条1項の条文の文言や沿革に照らし当然のことであるが,同項に基づく申立てやこれに対する閲覧等制限決定の範囲の解釈に関する実務は,民事訴訟法施行20年を過ぎた今なお十分に確立されているとまではいえない。閲覧等制限決定をした裁判体ごとに基本的なスタンスが異なっているものも少なくない実情が背後にあるものと思われる。

7 裁判記録の電子化に関する国会答弁
・ 47期の小野寺真也最高裁総務局長は,令和4年11月7日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています。
    今委員の方から御指摘をいただきましたように、裁判手続のデジタル化が今後実現されてまいります。記録も電子化されていくということになります。そういたしますと、記録の保存という観点からは、記録を物理的に保管するスペースは不要になるということになりますし、職員による運搬も不要となるということが想定されるところでございます。
    記録の電子化に伴う記録の保存の在り方につきましては、今後、このような電子化された記録の特性のほか、システムの維持管理に関するコストの問題でありますとか、事件記録等に表れる高度な個人情報を保有し続けることに関する問題等、様々な問題がございますので、そのようなものも踏まえつつ検討してまいりたいというふうに考えております。
令和4年11月2日の衆議院法務委員会に関する国会答弁資料ですが,同月7日の参議院法務委員会における国会答弁と同趣旨のことが書いてあります。

8 利害関係を疎明した第三者による,破産事件,家事事件及び非訟事件の記録の閲覧謄写
(1) 破産事件の記録の閲覧謄写
ア 破産事件の記録の場合,利害関係を疎明した第三者は裁判所書記官の許可を得て閲覧謄写できますし(破産法11条1項),閲覧謄写に対する裁判所書記官の許可がない場合,裁判所書記官所属の受訴裁判所に対して異議申立てをすることができます(破産法13条・民事訴訟法121条)。
イ 受訴裁判所の決定に対して不服がある場合,抗告の利益がある限りいつでも通常抗告ができますし(民事訴訟法328条1項),高等裁判所の決定に対して不服がある場合,裁判の告知を受けた日から5日以内に特別抗告(民事訴訟法336条)及び許可抗告(民事訴訟法337条)ができます。
(2) 家事事件又は非訟事件の記録の閲覧謄写
・ 家事事件又は非訟事件の記録の場合,利害関係を疎明した第三者は裁判所の許可を得て閲覧謄写できる(家事事件手続法47条1項,非訟事件手続法32条1項)ものの,破産事件の記録と異なり,閲覧謄写に対する裁判所の許可がない場合に不服申立てをすることはできません家事事件手続法47条5項及び8項,非訟事件手続法32条4項及び7項参照)。

9 関連記事その他
(1)ア 尋問の際に訴訟代理人をしていた弁護士であっても,事件終了後6ヶ月を経過してから民事事件の確定記録の「謄写」をする場合,地裁民事訟廷記録係に対し,改めて依頼者の委任状を提出する必要があります。
イ 柳谷憲司税理士事務所HP「訴訟になっている課税事件資料の閲覧方法について(東京地裁の場合)」が載っています。
(2)ア 病院等の画像データが入ったCD-Rのコピーを取り寄せる場合,裁判所書記官室に対し,「申請区分」欄を「複製」とした閲覧・謄写票を,「申請区分」欄を「謄写」とした閲覧・謄写票とは別に作成して郵送する必要があります。
イ その際,返信用封筒を付けておく必要があります。
(3) 調査嘱託又は文書送付嘱託に基づく回答文書を謄写する場合,嘱託先に送った調査嘱託書又は文書送付嘱託書及び嘱託先からの送り状も一緒に謄写した方が二度手間にならずにいいと思います。
(4)ア アメリカの連邦裁判所の場合,PACERというインターネット上のサービスを利用すれば,裁判手続に関する資料(ただし,個人情報として保護の必要があるもの等は除く。)を閲覧したり,ダウンロードしたりできるみたいです(法と経済ジャーナルHPの「インターネットで訴訟記録を閲覧できる米国に見るサービスの進歩」参照)。
イ 51期の高原知明 元裁判官は,判例タイムズ1497号(2022年8月号)に「民事訴訟記録の閲覧等制限決定の理論と実務―多義的な「秘密」からの解放」を寄稿しています。
(5) 第三者が訴訟記録を閲覧する場合,閲覧・謄写票に150円の印紙を貼付する必要があります(民事訴訟費用等に関する法律7条・別表第二の1項)。
(6)ア 以下の資料を掲載しています。
・ 民事訴訟記録の編成について(平成9年7月16日付の最高裁判所事務総長の通達。令和2年9月当時のもの)
・ 民事立会部における書記官事務の指針(平成12年5月)
・ 民事立会部における書記官事務の指針の解説(平成12年5月)
イ 以下の記事も参照してください。
・ 地方裁判所において尋問調書の作成が省略される場合
・ 簡易裁判所においては尋問調書の作成が原則として省略されること
・ 裁判文書の文書管理に関する規程及び通達
・ 裁判所書記官の処分に対する異議申立て
 刑事裁判係属中の,起訴事件の刑事記録の入手方法(被害者側)
 刑事裁判係属中の,起訴事件の刑事記録の入手方法(加害者である被告人側)
 刑事記録の入手方法等に関する記事の一覧

平成5年4月27日発生の,東京地裁構内の殺人事件に関する国会答弁

目次
第1 平成5年5月25日の参議院法務委員会における質疑応答
第2 平成6年3月29日の参議院法務委員会における質疑応答
第3 警察官等に係る傷病補償年金,障害補償又は遺族補償の特例
第4 関連記事その他

第1 平成5年5月25日の参議院法務委員会における質疑応答
・ 最高裁判所長官代理者(泉徳治君)は,15期の泉徳治最高裁判所人事局長であり,下稲葉耕吉は昭和57年から昭和59年まで警視総監をした後,昭和63年7月から参議院議員をしていた人です。

○下稲葉耕吉君 商法の審議に入ります前に一件ほど御質問いたしたいと思います。
    今、カンボジア問題で大変国内が沸き立っているわけでございますが、その中で中田さん、高田警視の痛ましい殉職がございました。私も大変関心を持ってその問題に取り組んでいる一人でございますけれども、当委員会の所管でございます裁判所でも実は本当に痛々しい殉職事件があったわけでございます。
    新聞報道によりますと、四月二十七日の十時ごろ、東京地方裁判所において田村善四郎警備員、警備係長が殉職された事案が報道されているわけであります。
    ひとつその問題につきまして、事案の概要等を最高裁の方から御報告いただきたい。
○最高裁判所長官代理者(泉徳治君) ただいま委員からお話のございましたように、本年四月二十七日、東京地裁で田村法廷警備員が民事事件の当事者に登山ナイフで刺し殺されるという事件が発生いたしました。
    この民事事件は、二十四歳の女性原告が四十四歳の男性被告に対しまして婚姻無効の確認を請求するというものでございます。訴状によりますと、二人は昭和六十三年に同棲を始めまして、平成三年に同棲を解消したにもかかわらず、平成四年に男性被告が勝手に婚姻届を行った、こういうことで無効確認を求めるというものでございます。
    四月二十七日午前十時から、東京地裁六階の六一五号法廷におきまして第一回口頭弁論が開かれる予定になっておりました。九時四十六分ころには原告の女性とその代理人の弁護士が出頭いたしまして、法廷内で開廷を待っておりました。九時五十分ころに被告の男性が出頭いたしまして、法廷内の原告女性を見つけ、いきなり顔面を殴るなどいたしましてその場に転倒させ、その左手首におもちゃの手錠をかけまして、ジャンパーの下に隠し持っておりました刃渡り十六センチの登山ナイフを取り出しまして、逃さないぞ、おまえを殺しておれも死ぬつもりだなどと叫びながら、ナイフを女性の背中に突きつけ、法廷から廊下に連れ出そうといたしました。制止しようとした廷吏に対しましても、近づくとおまえも殺すぞとおどしております。九時五十五分ころに、この騒ぎを聞きつけて駆けつけました隣の法廷の廷吏が、法壇に備えつけてございます緊急連絡用のボタンを押しまして警務課に連絡いたしました。
    そこで、警務課長と法廷警備員八名が六一五号法廷に急行いたしましたところ、ちょうど男が女性を法廷から連れ出すというところでございました。このとき、廷吏は法廷警備員に対しまして男がナイフを持っているということを告げてございます。
    男は、女性を抱えるようにして廊下を歩き出しまして、その周りを法廷警備員が取り囲むようにして一団となって移動する形になりました。警務課長が男に対しまして、どうしたのか、とまりなさい、放しなさいなどと話をしているうちに、女性が男を振り切りまして、助けてと叫びながら反対方向に走り出しました。これを男がナイフを持って追いかける形になったのでございます。
    そこで、亡くなりました田村善四郎法廷警備員が男に後ろから飛びつき、取り押さえようといたしました。このときに、田村法廷警備員は男にナイフで刺されたのでございます。
    男は、後日起訴されておりますが、起訴状によりますと、男は取り押さえられそうになったためにナイフで田村法廷警備員の右肩を力任せに刺したということでございます。
    田村法廷警備員は、救急車で日大病院に運ばれましたが、午前十一時二十七分、出血多量で死亡いたしました。享年五十九歳でございました。
    なお、女性の方は、廷吏の誘導で法廷専用エレベーターによりまして十階に逃れまして、裁判所の医師、看護婦の付き添いで警察病院に収容されましたが、こちらの方は、幅一センチ、深さ〇・五センチの軽傷で、手当てを受けた後そのまま帰宅しております。
    また、男の方はそのまま逃走いたしましたが、翌日逮捕されまして、五月十九日に殺人罪で起訴されております。
    このように、裁判所職員が職務遂行中に殺害されるというのは初めてのことでまことに残念でございまして、痛惜の念にたえないところでございます。また、このような不幸な事件を防止することができなかったことにつきまして、関係者一同反省もいたしているところでございます。
○下稲葉耕吉君 大変痛ましい、そしてまた壮絶な殉職でございまして、心からお悔やみ申し上げたいと思うのでございます。
そこで、私が問題にいたしたいのは、今御説明がございましたように、裁判所では初めての経験だということでございました。それだけに、殉職に伴う遺族の方々に対する褒賞といいますか、そういうふうなものがどういうふうになっているのか、ひとつ簡明に御答弁いただきたいと思います。

○最高裁判所長官代理者(泉徳治君) 私どもでは、田村法廷警備員は民間人の生命を守るためにナイフを振りかざす犯人に立ち向かいまして犠牲になったものでございますので、裁判所職員表彰規程の「危険を顧みず身をていして職員を尽した者」ということで最高裁長官表彰を行った次第でございます。
    また、田村法廷警備員は、本年四月一日付で東京地裁の警務課警備第二係長に昇進いたしまして六級十五号俸に昇格したばかりでございますが、殉職の四月二十七日付で警務課課長補佐へ昇任させまして、また八級十四号俸への昇格昇給の措置をとったところでございます。また、叙位叙勲につきましても現在申請中でございます。
    今お尋ねの御遺族に対するどういう手当てがなされるかということでございますが、退職金が二千五百四万三千二百八円、それから、これは公務災害でございますので、公務災害補償が千五百十三万二千二百六十円、それから遺族共済年金といたしまして百六十八万五千六百円、合計で四千百八十六万一千六十八円の給付がなされるという状況でございます。
○下稲葉耕吉君 ここに大臣もいらっしゃいますけれども、私も長いこと警察の仕事に従事させていただきまして、私自身も殉職者を出したりいろいろな事案がございました。
    そういうふうなことで、そういうような背景でお伺いいたしたいんですが、公務災害補償につきましても、特殊公務災害ですか、人事院の規則等によりまして、普通の災害補償より五割増しの規定がございます。多分これは初めてのことだということでそういうふうな規定が整備されていないんじゃないかというふうな感じもいたします。
    それから、警察官等の賞じゅつ金につきましては、また別に殉職者賞じゅつ金制度というものがほとんどの都道府県で条例で制定されております。加えて、警察庁長官の殉職者特別賞じゅつ金という制度もございます。さらに、今回の高田警視の例に見られるような殉職につきましては、それに加えまして内閣総理大臣の特別褒賞金というふうなものもあるわけでございます。
    今私が申し上げました点につきましては、今回の事案についてはそれまで規定が整備されていないだろうと思います。最高裁判所は法律の有権的な解釈をなさるんだけれども、自分たちのそういうような問題につきましては規定の整備がなされていないというのが私は実情ではなかろうかと思います。
    これ以上申し上げませんけれども、大変起きたことは残念なことでございますが、早急にそういうふうな問題について整備されまして、そして遡及して適用ができるような手だてを積極的にお取り組みいただきたい、私どもも積極的に御支援してまいりたい、このように思いますが、局長の御感想なり決意があればお聞かせいただきたいと思います。
○最高裁判所長官代理者(泉徳治君) ただいま大変御理解のあるお言葉をいただきまして大変感謝いたしております。
    先ほど申しましたように、こういった殉職という事態が発生いたしましたのが今回初めてでございましたものですから、私どもでは賞じゅつ金支給規程がつくられておりませんで賞じゅつ金を支給するという制度ができていないのでございます。それから、御指摘の公務災害の一・五倍の給付ということにつきましても適用の対象職員となっていないのでございます。
    私どもといたしましては、今回の事態を受けまして、法務省職員でありますとか警察官等に設けられております賞じゅつ金の制度を裁判所職員についてもつくることができないかという観点から、早速他省庁の賞じゅつ金規程を取り寄せるなどいたしまして、現在検討いたしているところでございます。あわせまして、公務災害の一・五倍の支給につきましても裁判所職員が適用対象にならないか、現在調査研究して検討いたしているところでございます。

第2 平成6年3月29日の参議院法務委員会における質疑応答
○下稲葉耕吉君 私は、この法律案(山中注:裁判所職員定員法の一部を改正する法律案)の質疑に入ります前に、若干関連あるわけでございますが、昨年の五月二十五日の当委員会におきまして、当時法務大臣は後藤田大臣でいらっしゃいましたけれども、昨年四月二十七日に東京地方裁判所において田村善四郎という警備員の方が殉職されました。その御報告をいただきまして、この殉職事案に対します裁判所の補償の問題についてお伺いいたしました。
    裁判所にはそういう殉職を予定したような法令といいますか、規則の整備がされておりませんでした。そこで、例えば警察官等の殉職の事例を申し上げまして、総理大臣なりあるいは警察庁長官なり、あるいは条例によって都道府県の警察なり、あるいはまた公務災害補償につきまして特別公務災害補償の適用を受けられるようなこと等もお考えになったらどうだろうかというふうなことを申し上げたことがあるわけでございます。
    当時の泉局長は、一生懸命努力いたしますということでございましたが、その後どういうふうに最高裁判所として善処されたか、ひとつ御報告いだだきたいと思います。
○最高裁判所長官代理者(泉徳治君) ただいま下稲葉委員から仰せの事故が昨年四月に発生いたしまして、本委員会にも御報告申し上げましたところでございます。
    こういった痛ましい事故と申しますのは裁判所始まって以来のことでございまして、こういった特殊な殉職に対する補償の制度というものが不備でございました。本委員会でも下稲葉委員から警察官等の殉職の場合の補償制度等についていろいろ貴重な御教示をいただきまして、その後私ども関係当局と交渉いたしておりまして、でき上がった制度につきまして御報告申し上げたいと思います。
    まず、最初の公務災害の特例でございますけれども、国家公務員災害補償法の二十条の二というところに「警察官等に係る傷病補償年金、障害補償又は遺族補償の特例」という規定がございまして、その特例の対象にならないかということで検討しておりましたが、昨年の秋に法廷警備員等法廷の警備に携わる職員もこの特例の対象にするということで規則を制定いたしました。そして、田村善四郎法廷警備員の事故にさかのぼって適用するという措置をいたしました。この措置によりまして、御遺族にお支払いいたします遺族補償年金、遺族特別給付金、これにつきましては一般の公務災害の場合よりも一・五倍、五割増の補償を行うということができまして、御遺族にお支払いをしたところでございます。
    また、その際、下稲葉委員から警察官等につきまして賞じゅつ金の規定があるという御示唆もいただきました。これにつきましては、来年度の予算に向けまして財政当局と折衝をいたしておりまして、その了解も得られましたので、新会計年度に向けましてこの賞じゅつ金の制度をつくるべくただいま規定の整備を行っているところでございます。
以上でございます。
○下稲葉耕吉君 わかりました。いろいろ努力いたしておられる様子がよくわかるわけでございます。こういうふうな事案があってはならないわけでございますけれども、絶対ないとは言い切れないわけでございまして、ひとつよく検討されまして、今後の対応に誤りのないようにお願いいたしたいと思います。


第3 警察官等に係る傷病補償年金、障害補償又は遺族補償の特例
1 国家公務員災害補償法20条の2(警察官等に係る傷病補償年金、障害補償又は遺族補償の特例)は以下のとおりです。
    警察官、海上保安官その他職務内容の特殊な職員で人事院規則で定めるものが、その生命又は身体に対する高度の危険が予測される状況の下において、犯罪の捜査、被疑者の逮捕、犯罪の制止、天災時における人命の救助その他の人事院規則で定める職務に従事し、そのため公務上の災害を受けた場合における当該災害に係る傷病補償年金、障害補償又は遺族補償については、第十二条の二第二項の規定による額、第十三条第三項若しくは第四項の規定による額、第十七条第一項の規定による額又は第十七条の六第一項の人事院規則で定める額は、それぞれ当該額に百分の五十を超えない範囲内で人事院規則で定める率を乗じて得た額を加算した額とする。
2 傷病補償年金等の特例の適用を受ける裁判所職員の範囲等を定める規則(平成5年9月22日最高裁判所規則第4号)は以下のとおりです(制定時から令和3年9月までの間に改正されたことがありません。)。
(傷病補償年金等の特例の適用を受ける裁判所職員の範囲及びその職務)
第一条 裁判所職員臨時措置法(昭和二十六年法律第二百九十九号。以下「法」という。)本則第五号において読み替えて準用する国家公務員災害補償法(昭和二十六年法律第百九十一号)第二十条の二の最高裁判所規則で定める職員は、法廷の秩序維持等にあたる裁判所職員に関する規則(昭和二十七年最高裁判所規則第二十三号)第一条の規定により同条に規定する事務を取り扱うべきことを命ぜられた裁判所職員とする。
2 法本則第五号において読み替えて準用する国家公務員災害補償法第二十条の二の最高裁判所規則で定める職務は、次に掲げる職務とする。
一 裁判所法(昭和二十二年法律第五十九号)第七十一条第二項又は第七十二条第一項若しくは第三項の規定による命令の執行又は処置の補助
二 法廷等の秩序維持に関する法律(昭和二十七年法律第二百八十六号)第三条第二項の規定による行為者の拘束に係る措置
三 その他の他法廷又は裁判所若しくは裁判官の職務が行われる法廷外の場所における秩序の維持のため裁判長又は裁判官により特に命ぜられた事務
(傷病補償年金等の加算額に係る率)
第二条 法本則第五号において読み替えて準用する国家公務員災害補償法第二十条の二の最高裁判所規則で定める率は、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)第二条に規定する一般職に属する国家公務員の例による。
附 則
 この規則は、公布の日から施行し、平成五年四月一日以後に発生した事故に起因する公務上の災害に係る傷病補償年金、障害補償又は遺族補償について適用する。
3 人事院規則16-0(職員の災害補償)32条(警察官等に係る傷病補償年金、障害補償又は遺族補償の特例)は以下のとおりです。
    補償法第二十条の二の人事院規則で定めるものは、皇宮護衛官、海上保安官補、刑事施設の職員、入国警備官、麻薬取締官、内閣府沖縄総合事務局又は国土交通省地方整備局若しくは北海道開発局に所属し、河川又は道路の管理に従事する職員、警察通信職員(人事院が定める職員に限る。)及び国土交通省地方航空局に所属し、消火救難業務に従事する職員(人事院が定める職員に限る。)とし、同条の人事院規則で定める職務は、職員の区分に応じ、次の表に定める職務とする。

職員
職務
一 警察官、皇宮護衛官、海上保安官及び海上保安官補
一 犯罪の捜査
二 犯人又は被疑者の逮捕、看守又は護送
三 勾引状、勾留状又は収容状の執行
四 犯罪の制止
五 天災、危険物の爆発その他の異常事態の発生時における人命の救助その他の緊急警察活動又は警備救難活動
二 刑事施設の職員
一 刑事施設における被収容者の犯罪の捜査
二 刑事施設における被収容者の犯罪に係る犯人又は被疑者の逮捕
三 被収容者の看守又は護送
三 入国警備官
一 入国、上陸又は在留に関する違反事件の調査
二 収容令書又は退去強制令書の執行
三 入国者収容所、収容場その他の収容施設の警備
四 麻薬取締官
一 麻薬、向精神薬、大麻、あへん又は覚醒剤に関する犯罪の捜査
二 麻薬、向精神薬、大麻、あへん又は覚醒剤に関する犯罪に係る犯人又は被疑者の逮捕又は護送
三 麻薬、向精神薬、大麻、あへん又は覚醒剤に関する犯罪に係る勾引状、勾留状又は収容状の執行
五 内閣府沖縄総合事務局又は国土交通省地方整備局若しくは北海道開発局に所属し、河川又は道路の管理に従事する職員
豪雨等異常な自然現象により重大な災害が発生し、又は発生するおそれがある場合における河川又は道路の応急作業
六 警察通信職員(人事院が定める職員に限る。)
警察官が一の項の職務欄に掲げる職務に従事する場合に当該警察官と協同して行う現場通信活動
七 国土交通省地方航空局に所属し、消火救難業務に従事する職員(人事院が定める職員に限る。)
空港又はその周辺における次に掲げる職務
一 航空機その他の物件の火災の鎮圧
二 天災、危険物の爆発その他の異常事態の発生時における人命の救助又は被害の防ぎよ

第4 関連記事その他
1 東京高裁及び東京地裁の庁舎で所持品検査が開始したのは,平成7年3月20日に地下鉄サリン事件が発生した後の同年5月16日でした。
2 大阪高裁平成27年1月22日判決(裁判長は30期の森宏司裁判官)は,
   平成19年「5月24日」,兵庫県龍野高校のテニス部の練習中に発生した高校2年生の女子の熱中症事故(当日の最高気温は27度)について,
   兵庫県に対し,「元金だけで」約2億3000万円の支払を命じ,平成27年12月15日に兵庫県の上告が棄却されました(CHRISTIAN TODAY HP「龍野高校・部活で熱中症,当時高2が寝たきりに 兵庫県に2億3千万円賠償命令確定」参照)。
   その結果,兵庫県は,平成27年12月24日,3億3985万5520円を被害者代理人と思われる弁護士の預金口座に支払いました(兵庫県の情報公開文書を見れば分かります。)。
3(1) 以下の資料を掲載しています。
・ 裁判所の敷地内において加害行為が発生した際の留意点について(平成28年8月23日付の最高裁判所総務局参事官の事務連絡)
・ 平成31年3月20日に東京家裁で発生した殺人事件に関して東京家裁が作成し,又は取得した文書
(2) 以下の記事も参照してください。
 裁判所の所持品検査
 全国の下級裁判所における所持品検査の実施状況
・ 裁判所の庁舎等の管理に関する規程及びその運用
・ 平成31年3月20日発生の,東京家裁前の殺人事件に関する国会答弁

名誉毀損又はプライバシー侵害が違法となる場合

目次
第1 公共的事項に関する表現の自由及び事前抑制の許容範囲

1 公共的事項に関する表現の自由
2 事前抑制の許容範囲
第2 表現の自由の制限に関する一般論,及び思想の自由市場への登場の重要性
第3 名誉毀損の取扱い
1 社会的評価の低下の有無の判断基準
2 事実を摘示しての名誉毀損(事実摘示型名誉権侵害)の取扱い
3 特定の事実を基礎とする意見ないし論評の表明による名誉毀損(意見論評型名誉権侵害)の取扱い等
4 噂,伝聞形式の表現による名誉毀損の取扱い
5 名誉毀損の成否に際して表現媒体の違いは関係がないと思われること
6 名誉毀損行為が公務員に関する事実である場合の取扱い等
7 その他
第4 プライバシー侵害の取扱い
1 プライバシー侵害が不法行為となる場合
2 少年法61条が禁止している推知報道に当たるかどうかの判断基準
3 プライバシー侵害を理由とする差止請求
4 民事訴訟における主張立証活動とプライバシー侵害
第5 表現の自由に関する東京弁護士会の会長声明等
第6 法人の名誉権侵害と無形損害
第7 人種差別撤廃条約に関する日本国政府の留保
第8 肖像の無断使用と不法行為

第9 関連記事その他


第1 公共的事項に関する表現の自由及び事前抑制の許容範囲
1 公共的事項に関する表現の自由
・ 最高裁大法廷昭和49年11月6日判決(猿払事件上告審判決)は以下の判示をしています。
     憲法二一条の保障する表現の自由は、民主主義国家の政治的基盤をなし、国民の基本的人権のうちでもとりわけ重要なものであり、法律によつてもみだりに制限することができないものである。そして、およそ政治的行為は、行動としての面をもつほかに、政治的意見の表明としての面をも有するものであるから、その限りにおいて、憲法二一条による保障を受けるものであることも、明らかである。国公法一〇二条一項及び規則によつて公務員に禁止されている政治的行為も多かれ少なかれ政治的意見の表明を内包する行為であるから、もしそのような行為が国民一般に対して禁止されるのであれば、憲法違反の問題が生ずることはいうまでもない。
2 事前抑制の許容範囲
・ 最高裁大法廷昭和61年6月11日判決(北方ジャーナル事件上告審判決)は以下の判示をしています。
① 主権が国民に属する民主制国家は、その構成員である国民がおよそ一切の主義主張等を表明するとともにこれらの情報を相互に受領することができ、その中から自由な意思をもつて自己が正当と信ずるものを採用することにより多数意見が形成され、かかる過程を通じて国政が決定されることをその存立の基礎としているのであるから、表現の自由、とりわけ、公共的事項に関する表現の自由は、特に重要な憲法上の権利として尊重されなければならないものであり、憲法二一条一項の規定は、その核心においてかかる趣旨を含むものと解される。
② 表現行為に対する事前抑制は、新聞、雑誌その他の出版物や放送等の表現物がその自由市場に出る前に抑止してその内容を読者ないし聴視者の側に到達させる途を閉ざし又はその到達を遅らせてその意義を失わせ、公の批判の機会を減少させるものであり、また、事前抑制たることの性質上、予測に基づくものとならざるをえないこと等から事後制裁の場合よりも広汎にわたり易く、濫用の虞があるうえ、実際上の抑止的効果が事後制裁の場合より大きいと考えられるのであつて、表現行為に対する事前抑制は、表現の自由を保障し検閲を禁止する憲法二一条の趣旨に照らし、厳格かつ明確な要件のもとにおいてのみ許容されうるものといわなければならない。


第2 表現の自由の制限に関する一般論,及び思想の自由市場への登場の重要性
・ 最高裁平成5年3月16日判決(教科書検定に関する国家賠償請求事件)は以下の判示をしています。
① 不合格とされた図書は、右のような特別な取扱いを受けることができず、教科書としての発行の道が閉ざされることになるが、右制約は、普通教育の場において使用義務が課せられている教科書という特殊な形態に限定されるのであって、不合格図書をそのまま一般図書として発行し、教師、児童、生徒を含む国民一般にこれを発表すること、すなわち思想の自由市場に登場させることは、何ら妨げられるところはない
② 憲法二一条一項にいう表現の自由といえども無制限に保障されるものではなく、公共の福祉による合理的で必要やむを得ない限度の制限を受けることがあり、その制限が右のような限度のものとして容認されるかどうかは、制限が必要とされる程度と、制限される自由の内容及び性質、これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を較量して決せられるべきものである。
③ 所論引用の最高裁昭和五六年(オ)第六〇九号同六一年六月一一日大法廷判決・民集四〇巻四号八七二頁は、発表前の雑誌の印刷、製本、販売、頒布等を禁止する仮処分、すなわち思想の自由市場への登場を禁止する事前抑制そのものに関する事案において、右抑制は厳格かつ明確な要件の下においてのみ許容され得る旨を判示したものであるが、本件は思想の自由市場への登場自体を禁ずるものではないから、右判例の妥当する事案ではない。


第3 名誉毀損の取扱い
1 社会的評価の低下の有無の判断基準
(1) 新聞記事がたとえ精読すれば別個の意味に解されないことはないとしても,いやしくも一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈した意味内容に従う場合,その記事が事実に反し名誉を毀損するものと認められる以上,これをもつて名誉毀損の記事と目すべきことは当然であるとされています(最高裁昭和31年7月20日判決)。
(2) テレビジョン放送をされた報道番組の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについては,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断されます(最高裁平成15年10月16日判決)。
2 事実を摘示しての名誉毀損(事実摘示型名誉権侵害)の取扱い

(1) 事実を摘示しての名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには,右行為には違法性がなく,仮に右事実が真実であることの証明がないときにも,行為者において右事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定されます(最高裁平成9年9月9日判決お,先例として,最高裁昭和41年6月23日判決及び最高裁昭和58年10月20日判決参照)。
(2)  他人の名誉を毀損する事実を摘示した者は、その重要な部分について真実性を立証することによつて、免責を受けることができます(最高裁昭和58年10月20日判決)。
(3) 裁判所は,名誉毀損に該当する事実の真実性につき,事実審の口頭弁論終結時において客観的な判断をすべきであり,その際に名誉毀損行為の時点では存在しなかった証拠を考慮することも許されます(最高裁平成14年1月29日判決)。
(4) 「インターネット削除請求・発信者情報開示請求の実務と書式」78頁及び79頁には,検索結果(起訴猶予・略式請求)の削除請求に関して以下の記載があります。
     最終的に起訴猶予・略式手続となった事件では,事件から15年以上経過していても,前掲最三小決(山中注:最高裁平成29年1月31日決定のこと。)以降,裁判所は検索結果の削除決定を発令しなくなりました。判断内容はほぼ最三小決と同じで,「今なお公共の利害に関する事項である」としている印象です。


3 特定の事実を基礎とする意見ないし論評の表明による名誉毀損(意見論評型名誉権侵害)の取扱い等
(1) 特定の事実を基礎とする意見ないし論評の表明による名誉毀損について,その行為が公共の利害に関する事実に係り,その目的が専ら公益を図ることにあって,表明に係る内容が人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない場合に,行為者において右意見等の前提としている事実の重要な部分を真実と信ずるにつき相当の理由があるときは,その故意又は過失は否定されます(最高裁平成9年9月9日判決)。
(2) 新聞記事中の名誉毀損の成否が問題となっている部分において表現に推論の形式が採られている場合であっても,当該記事についての一般の読者の普通の注意と読み方とを基準に,当該部分の前後の文脈や記事の公表当時に右読者が有していた知識ないし経験等も考慮すると,証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を右推論の結果として主張するものと理解されるときには,同部分は,事実を摘示するものとなります最高裁平成10年1月30日判決)。
(3)  名誉毀損の成否が問題となっている法的な見解の表明は,判決等により裁判所が判断を示すことができる事項に係るものであっても,事実を摘示するものとはいえず,意見ないし論評の表明に当たります(最高裁平成16年7月15日判決)。


4 噂,伝聞形式の表現による名誉毀損の取扱い
・  「人の噂であるから真偽は別として」という表現を用いて公務員の名誉を毀損する事実を摘示した場合において,刑法230条の2所定の事実の証明の対象となるのは,風評そのものの存在ではなく,その風評の内容たる事実が真実であることです(最高裁昭和43年1月18日決定)。


5 名誉毀損の成否に際して表現媒体の違いは関係がないと思われること
(1) 新聞記事による名誉毀損にあっては、他人の社会的評価を低下させる内容の記事を掲載した新聞が発行され、当該記事の対象とされた者がその記事内容に従って評価を受ける危険性が生ずることによって、不法行為が成立するのであって、当該新聞の編集方針、その主な読者の構成及びこれらに基づく当該新聞の性質についての社会の一般的な評価は、右不法行為責任の成否を左右するものではありません(最高裁平成9年5月27日判決)。
(2) インターネットの個人利用者による表現行為の場合においても,他の表現手段を利用した場合と同様に,行為者が摘示した事実を真実であると誤信したことについて,確実な資料,根拠に照らして相当の理由があると認められるときに限り,名誉毀損罪は成立しないものと解するのが相当であって,より緩やかな要件で同罪の成立を否定すべきではありません(最高裁平成22年3月15日決定)。
(3) インターネット上のウェブサイトに掲載された記事が,それ自体として一般の閲覧者がおよそ信用性を有しないと認識し,評価するようなものではありません(最高裁平成24年3月23日判決)。


6 名誉毀損行為が公務員に関する事実である場合の取扱い等
(1) 名誉毀損行為が公務員に関する事実に係る場合,真実であることの証明がある限り,名誉毀損罪が成立することはありません(刑法230条の2第3項)。
(2) 憲法15条1項は「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。」と定め,憲法16条は「何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。」と定めています。
(3) 46期の岡口基一裁判官に対する令和3年6月16日付の訴追状8頁には以下の記載があります。
     これらを不特定多数の者が閲覧可能な状態にし,もって裁判を受ける権利を保障された私人である訴訟当事者による民事訴訟提起行為を一方的に不当とする認識ないし評価を示すとともに,当該訴訟当事者本人の社会的評価を不当におとしめたものである。


7 その他
(1) 判例タイムズ1470号(2020年5月1日付)に「 名誉権に基づく出版差止め ―北方ジャーナル事件以降の裁判例の整理」(筆者は51期の廣瀬孝 札幌地裁5民部総括)が載っていて,そこでは,私人に対する表現行為における判断基準,出版後の差止めにおける判断基準,対象者の同定可能性,販売を終了した出版物及び回収請求の可否について論じています。
(2) 自己の正当な利益を擁護するため,やむをえず他人の名誉を損なう言動を行った場合は,それが当該他人による攻撃的な言動との対比で,方法及び内容において適当と認められる限度を超えない限り,違法性が阻却されます(最高裁昭和38年4月16日判決参照)ところ,最高裁昭和38年4月16日判決の事例では,甲学界誌において掲載の承諾を得ている外国人学者の講演内容を,乙学界誌が,本人の承諾を得ずに原判示のような不明朗な手段で,通訳から講演訳文原稿を入手した上,甲誌に先がけて掲載発表する等原判決認定のような経緯があるときは,甲誌編集者らが乙誌を非難するのに「盗載」「犯罪的不徳行為」等の言辞を用いたとしても,乙誌の名誉信用を害するものとはいえないとされました。
(3)ア ウェブ連載版『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』第10回には以下の記載があります。
     最高裁が平成23年判決(山中注:最高裁平成23年4月28日判決のこと。)で地方新聞社をなぜ免責したかというと、そもそも地方新聞社自身で取材するのが期待できない状況があることを前提に、通信社が地方新聞社のかわりに取材をしたと言ってよいような密接な関係があった、そこで通信社が十分な取材をしていれば免責してあげよう。これが最高裁のいう「一体性」の背景にある利益衡量かなと思います。もしこの理解が正しければ、個々のインターネットユーザーに高度な取材を期待できず、少なくとも新聞社自身が一般のインターネットユーザーによる拡散やコメントを期待してSNSによるコメント機能を設けているような状況であれば、新聞社がインターネットユーザーのかわりに取材をしたといってよいような密接な関係があったと言えるのではないか、そしてそのような場合には、平成23年判決の法理を類推してインターネットユーザーを免責する余地があるのではないか。こういうことを考えています。
イ 「ウェブ連載版『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』第44回」に以下の記載があります。
     一般には、対抗言論が可能な状況が存在する場合において、それだけで一律に名誉毀損を否定するといったドラスティックな見解は採用されていない。但し、よりマイルドに、対象者に事後的な対抗言論を通じて名誉回復を行う機会があることを、社会的評価の低下の有無や違法性阻却の可否、損害等で考慮するべきではないかという問題意識自体は存在するところである(本書323頁)。
(4) 東弁リブラ2021年7・8月合併号「SNS等のネット中傷問題-プロバイダ責任制限法の改正経緯とポイント-」が載っています。


第4 プライバシー侵害の取扱い
1 プライバシー侵害が不法行為となる場合 
(1) 個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益は,法的保護の対象となります(最高裁平成29年1月31日決定。なお,先例として,最高裁昭和56年4月14日判決最高裁平成6年2月8日判決最高裁平成14年9月24日判決最高裁平成15年3月14日判決及び最高裁平成15年9月12日判決参照)。
(2) プライバシー侵害については,その事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量し,前者が後者に優越する場合に不法行為が成立します(最高裁令和2年10月9日判決。なお,先例として,最高裁平成6年2月8日判決及び最高裁平成15年3月14日判決)。
(3) 最高裁大法廷令和3年6月23日決定の裁判官宮崎裕子,同宇賀克也の反対意見(リンク先のPDF17頁以下)には以下の記載があります(リンク先のPDF30頁)。
     何をプライバシー侵害と感ずるかについては,個人差があり,例えば,自分が難病にかかったことを公表する人も少なくないが,他方,それを他人に知られたくないと思う人も少なからず存在すると考えられる。後者の人にとって,難病にり患していることを他人に知られない利益はプライバシー権として憲法上保障されるべきであって,そのような事実を他人に知られないことを望まない人がある程度存在するからといって,それを他人に知られることを望まない人の利益をプライバシー権として保障することを否定することにはならない。


2 少年法61条が禁止している推知報道に当たるかどうかの判断基準
・ 少年法61条が禁止しているいわゆる推知報道に当たるか否かは,その記事等により,不特定多数の一般人がその者を当該事件の本人であると推知することができるかどうかを基準にして判断されます(最高裁平成15年3月14日判決)。
3 プライバシー侵害を理由とする差止請求
・ プライバシー侵害又は名誉感情侵害がある場合において,侵害行為が明らかに予想され,その侵害行為によって被害者が重大な損失を受けるおそれがあり,かつ,その回復を事後に図るのが不可能ないし著しく困難になると認められるときは,差止請求まで認められます(最高裁平成14年9月24日判決参照)。
4 民事訴訟における主張立証活動とプライバシー侵害
・ 横浜地裁令和2年12月11日判決(判例体系に掲載)は,弁護士に対する大量懲戒請求事案に関し,損害賠償請求をした弁護士が裁判所に懲戒請求者のリストを提出した行為について不法行為は成立しないと判断しました(IT・システム判例メモ「懲戒請求者リストの訴訟上の提出と不法行為 横浜地判令2.12.11(令和2ワ2097)」参照)ところ,以下の判示をしています。
     民事訴訟における主張立証活動は、それ自体は事実の公表を目的とする行為ではないものの、訴訟記録が閲覧可能な状態に置かれることなどにより、第三者がその事実を知り得る状態に至り、結果的に公表と同様の効果をもたらすことがあるため、プライバシーの侵害の成否が問題となり得る。このような場面では、その事実を公表されない法的利益と当該主張立証活動に係る法的利益とを比較衡量し、前者が後者に優越する場合に不法行為が成立するものと解されるが(なお、前者が後者に優越する場合であっても、違法性阻却事由があるときには、不法行為が成立しないことは、言うまでもない。)、その判断に際しては、当事者が主張立証活動を尽くし、裁判所がこれを踏まえて事実認定及び法的判断を行うことにより私的紛争の適正な解決を実現するという民事訴訟の性格上、当事者の主張立証活動の自由を保障する必要性が高いことを踏まえることが重要である。


第5 表現の自由に関する東京弁護士会の会長声明等
1 「表現の不自由展・その後」展示中止を受け、表現の自由に対する攻撃に抗議し、表現の自由の価値を確認する会長声明(2019年8月29日付の東京弁護士会の会長声明)には以下の記載があります。
① 本年8月1日から10月14日までの予定で愛知県で開催されている国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」が、開始からわずか2日後の8月3日に中止された。
 この企画展は、従軍慰安婦を象徴する「平和の少女像」や昭和天皇の写真を含む肖像群が燃える映像作品など、過去に展示を拒否されたり公開中止になったりした作品を展示したものであった。
 これらの作品は、観る人によって、好悪さまざまな感情を抱くものであろう。人それぞれの受け止め方があることは当然のことながら、異論反論その他主張したいことがあれば、合法的な表現行為によって対抗するのが法治国家であり民主主義社会である。
② 憲法21条で保障される表現の自由は、自己の人格を形成・発展させる自己実現の価値を有するとともに、国民が政治的意思決定に関与する自己統治の価値をも有する、極めて重要な基本的人権である。政治的表現が芸術という形をとって行われることも多く、芸術を含む多種多様な表現活動の自由が保障されることは、民主主義社会にとって必要不可欠である。 
 我々は、思想信条のいかんを問わず、表現の自由が保障される社会を守っていくことが重要であるという価値観を共有したい。
2 令和2年11月27日にZoomウェビナーで開催された,第31回近畿弁護士連合会人権擁護大会シンポジウム(第1分科会)のテーマは,「あいちトリエンナーレから考える表現の自由の現在(いま)」でした(大阪弁護士会HPの「第31回近畿弁護士会連合会人権擁護大会シンポジウム第1分科会「あいちトリエンナーレから考える表現の自由の現在(いま)」を開催します」参照)。


第6 法人の名誉権侵害と無形損害
1 法人の名誉権が侵害され,無形の損害が生じた場合でも,右損害の金銭評価が可能であるかぎり,民法710条の適用があります(最高裁昭和39年1月28日判決)。
2(1) 京都朝鮮学校へのヘイトスピーチ事件に関する京都地裁平成25年10月7日判決(控訴審判決は大阪高裁平成26年7月8日判決です。)は,原告が設置運営する朝鮮学校に対し,隣接する公園を違法に校庭として占拠していたことへの抗議という名目で3回にわたり威圧的な態様で侮蔑的な発言を多く伴う示威活動を行い,その映像をインターネットを通じて公開した被告らの行為は,判示の事実関係の下では,原告の教育事業を妨害し,原告の名誉を毀損する不法行為に該当し,かつ,人種差別撤廃条約上の「人種差別」に該当するとして被告らに対する損害賠償請求を一部認容し,また,一部の被告が上記学校の移転先周辺において今後同様の示威活動を行うことの差止め請求を認容した事例に関するものです。
(2) 同判決には以下の判示があります(改行を追加しています。)。
 法人は,生身の人間ではなく,精神的・肉体的な苦痛を感じないため,苦痛に対する慰藉料の必要性は想定し難いが,学校法人としての教育業務を妨害されれば,そこには組織の混乱,平常業務の滞留,組織の平穏を保つため,あるいは混乱を鎮めるための時間と労力の発生といった形で,必ずや悪影響が生じる(前記第1の7に認定の事実は,学校法人に悪影響が発生した事実を認定したものである。)。
 混乱の対応のため費やすことになった時間と労力は,積極的な財産支出や逸失利益という形での損害認定こそ困難であるものの,被告らによる業務妨害さえなければ何ら必要がなかった(あるいは他の有用な活動に振り向けることができた)時間と労力なのであって,原告の学校法人としての業務について生じた悪影響であることは疑いがない。
 このような悪影響をも損害として観念しなければ,民法709条以下の不法行為法の理念(損害の公平な分担)を損なうことが明らかである。このような悪影響は,無形損害という形で金銭に見積もるべき損害というべきである。
 すなわち,本件活動による業務妨害により,本件学校における教育業務に及ぼされた悪影響全般は,無形損害として,金銭賠償の対象となる。 


第7 人種差別撤廃条約に関する日本国政府の留保
・ 外務省HPの人種差別撤廃条約Q&Aには以下の記載があります。
Q6 日本はこの条約の締結に当たって第4条(a)及び(b)に留保を付してますが、その理由はなぜですか。
A6 第4条(a)及び(b)は、「人種的優越又は憎悪に基づくあらゆる思想の流布」、「人種差別の扇動」等につき、処罰立法措置をとることを義務づけるものです。
これらは、様々な場面における様々な態様の行為を含む非常に広い概念ですので、そのすべてを刑罰法規をもって規制することについては、憲法の保障する集会、結社、表現の自由等を不当に制約することにならないか、文明評論、政治評論等の正当な言論を不当に萎縮させることにならないか、また、これらの概念を刑罰法規の構成要件として用いることについては、刑罰の対象となる行為とそうでないものとの境界がはっきりせず、罪刑法定主義に反することにならないかなどについて極めて慎重に検討する必要があります。我が国では、現行法上、名誉毀損や侮辱等具体的な法益侵害又はその侵害の危険性のある行為は、処罰の対象になっていますが、この条約第4条の定める処罰立法義務を不足なく履行することは以上の諸点等に照らし、憲法上の問題を生じるおそれがあります。このため、我が国としては憲法と抵触しない限度において、第4条の義務を履行する旨留保を付することにしたものです。
なお、この規定に関しては、1996年6月現在、日本のほか、米国及びスイスが留保を付しており、英国、フランス等が解釈宣言を行っています。


第8 肖像の無断使用と不法行為
1 人はみだりに自己の容ぼう,姿態を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有し,ある者の容ぼう,姿態をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍すべき限度を超えるものといえるかどうかを判断して決せられます(最高裁平成17年11月10日判決)。
2 人の氏名,肖像等を無断で使用する行為は,①氏名,肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,②商品等の差別化を図る目的で氏名,肖像等を商品等に付し,③氏名,肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら氏名,肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に,当該顧客吸引力を排他的に利用する権利(いわゆるパブリシティ権)を侵害するものとして,不法行為法上違法となります(最高裁平成24年2月2日判決)。


第9 関連記事その他
1  大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例(平成28年大阪市条例第1号)2条,5条~10条は,憲法21条1項に違反しません(最高裁令和4年2月15日判決)。
2 最高裁令和4年6月24日判決は, ある者のプライバシーに属する事実を摘示するツイートがされた場合にその者がツイッターの運営者に対して上記ツイートの削除を求めることができるとされた事例です。


3 月刊ペン事件に関する最高裁昭和56年4月16日判決は,一般論として以下の判示をしています。
① 私人の私生活上の行状であつても、そのたずさわる社会的活動の性質及びこれを通じて社会に及ぼす影響力の程度などのいかんによつては、その社会的活動に対する批判ないし評価の一資料として、刑法二三〇条の二第一項にいう「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたる場合がある。
② 刑法二三〇条の二第一項にいう「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたるか否かは、摘示された事実自体の内容・性質に照らして客観的に判断されるべきであり、これを摘示する際の表現方法や事実調査の程度などは、同条にいわゆる公益目的の有無の認定等に関して考慮されるべきことがらであつて、摘示された事実が「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたるか否かの判断を左右するものではない。
4 新聞社は,新聞広告を掲載する場合において,その内容の真実性について疑念を抱くべき特別の事情があって読者に不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し,又は予見し得たときは,右広告内容の真実性について調査確認をする注意義務があります(最高裁平成元年9月19日判決)。
5 衆議院HPに「知る権利・アクセス権とプライバシー権に関する基礎的資料―情報公開法制・個人情報保護法制を含む―基本的人権の保障に関する調査小委員会(平成 15 年 5 月 15 日の参考資料」が載っています。
6 京都産業大学HPの「憲法学習用基本判決集(須賀博志)」には,憲法判例の第一審判決及び控訴審判決も載っています。
7(1) 四畳半襖の下張事件に関する最高裁昭和55年11月28日判決の裁判要旨は「文書のわいせつ性の判断にあたつては、当該文書の性に関する露骨で詳細な描写叙述の程度とその手法、右描写叙述の文書全体に占める比重、文書に表現された思想等と右描写叙述との関連性、文書の構成や展開、さらには芸術性・思想性等による性的刺激の緩和の程度、これらの観点から該文書を全体としてみたときに、主として、読者の好色的興味にうつたえるものと認められるか否かなどの諸点を検討することが必要であり、これらの事情を総合し、その時代の社会通念に照らして、それが「徒らに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」といえるか否かを決すべきである。」というものです。
(2) 刑法175条1項にいう「わいせつ」の概念は不明確であるとはいえません(最高裁令和5年9月26日決定)。
8 令和2年総務省令第82号(プロバイダに対して開示を請求することのできる発信者情報に発信者の電話番号を追加するもの)の施行前に特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は,上記施行後に発信者の電話番号の開示を請求できます(最高裁令和5年1月30日判決)。
9 14期の塩崎勤裁判官は,判例タイムズ1055号(2001年5月15日号)に「名誉毀損による損害額の算定について」を寄稿しています。
10(1) 以下の資料を掲載しています。
・ 「刑法等の一部を改正する法律」の施行について(令和4年6月29日付の法務省刑事局長の依命通達)
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 弁護士の懲戒事由
・ 弁護士法56条1項の「品位を失うべき非行」の具体例
・ 弁護士の懲戒請求権が何人にも認められていることの意義

佐茂剛裁判官(43期)の経歴

生年月日 S39.10.3
出身大学 不明
退官時の年齢 58歳
R5.7.31 依願退官
R3.9.21 ~ R5.7.30 奈良地家裁葛城支部長
R2.4.1 ~ R3.9.20 大阪高裁2刑判事
H29.4.1 ~ R2.3.31 大阪家裁少年第2部部総括
H26.4.1 ~ H29.3.31 神戸地裁4刑部総括
H25.10.19 ~ H26.3.31 大阪高裁6刑判事
H23.4.1 ~ H25.10.18 大阪高裁1刑判事
H20.4.1 ~ H23.3.31 福井地裁刑事部部総括
H17.4.1 ~ H20.3.31 神戸地裁判事
H14.4.1 ~ H17.3.31 福岡地家裁柳川支部判事
H13.4.9 ~ H14.3.31 大阪地裁判事
H11.4.1 ~ H13.4.8 大阪地裁判事補
H8.4.1 ~ H11.3.31 広島地家裁福山支部判事補
H5.4.1 ~ H8.3.31 徳島家地裁判事補
H3.4.9 ~ H5.3.31 大阪地裁判事補

* 以下の記事も参照してください。
・ 裁判官の早期退職
・ 50歳以上の裁判官の依願退官の情報
 部の事務を総括する裁判官の名簿(昭和37年度以降)
・ 地方裁判所支部及び家庭裁判所支部

柴山智裁判官(44期)の経歴

生年月日 S38.5.29
出身大学 不明
退官時の年齢 59歳
R4.10.31 依願退官
R3.9.25 ~ R4.10.30 大阪家裁少年第2部部総括
R3.4.1 ~ R3.9.24 大阪高裁4刑判事
H30.4.1 ~ R3.3.31 京都地裁3刑部総括
H27.4.1 ~ H30.3.31 大阪地裁8刑部総括
H25.4.1 ~ H27.3.31 大阪高裁3刑判事
H22.4.1 ~ H25.3.31 和歌山地裁刑事部部総括
H18.4.1 ~ H22.3.31 函館地裁刑事部部総括
H15.4.1 ~ H18.3.31 大阪地裁判事
H14.4.7 ~ H15.3.31 神戸地家裁龍野支部判事
H12.4.1 ~ H14.4.6 神戸地家裁龍野支部判事補
H6.4.1 ~ H12.3.31 青森地家裁判事補
H4.4.7 ~ H6.3.31 東京地裁判事補

* 以下の記事も参照してください。
・ 50歳以上の裁判官の依願退官の情報
・ 部の事務を総括する裁判官の名簿(昭和37年度以降)
・ 地方裁判所支部及び家庭裁判所支部

寺田利彦裁判官(54期)の経歴

生年月日 S48.3.23
出身大学 学習院大
定年退官発令予定日 R20.3.23
R4.4.1 ~ 東京高裁20民判事
H31.4.1 ~ R4.3.31 松山家地裁判事
H28.4.1 ~ H31.3.31 知財高裁第3部判事
H25.4.1 ~ H28.3.31 岡山家地裁倉敷支部判事
H23.10.17 ~ H25.3.31 東京地裁判事
H22.4.1 ~ H23.10.16 東京地裁判事補
H19.4.1 ~ H22.3.31 札幌家地裁小樽支部判事補
H16.4.1 ~ H19.3.31 奈良地家裁判事補
H13.10.17 ~ H16.3.31 仙台地裁判事補

*0 54期の寺田利彦裁判官及び54期の寺田さや子裁判官の勤務場所は任官当初から似ています。
*1 以下の記事も参照してください。
・ 地方裁判所支部及び家庭裁判所支部
*2 withnews HP「夫婦で裁判官、家族の「日常」聞いてみた 転勤は?子育ては?」には以下の記載があります。
松山地裁民事部の寺田さや子判事(43)と、松山家裁の寺田利彦判事(46)。中学1年生と4歳の息子さんと、家族4人で松山に住んでいます。
(中略)
――寺田さん夫婦は、どのような転勤をされてきましたか?
利彦さん「私たちは同期なので、2人とも2001年10月に任官し、私は初任地が仙台の民事部でした」
さや子さん「私は初任は仙台の刑事部でした」
利彦さん「初任地で知り合って、2005年、初任明けの次の任地で結婚しました。私は奈良地裁」
さや子さん「私は大阪地裁堺支部です」

寺田さや子裁判官(54期)の経歴

生年月日 S51.8.3
出身大学 不明
定年退官発令予定日 R23.8.3
R4.4.1 ~ 横浜家裁判事
H31.4.1 ~ R4.3.31 松山地家裁判事
H29.4.1 ~ H31.3.31 東京家裁家事第5部判事(遺産分割部)
H25.4.1 ~ H29.3.31 岡山地家裁判事
H23.10.17 ~ H25.3.31 東京家地裁立川支部判事
H22.4.1 ~ H23.10.16 東京家地裁立川支部判事補
H19.4.1 ~ H22.3.31 札幌地家裁判事補
H16.4.1 ~ H19.3.31 大阪地家裁判事補
H13.10.17 ~ H16.3.31 仙台地裁判事補

*0 54期の寺田利彦裁判官及び54期の寺田さや子裁判官の勤務場所は任官当初から似ています。
*1 以下の記事も参照してください。
・ 地方裁判所支部及び家庭裁判所支部
*2 withnews HP「夫婦で裁判官、家族の「日常」聞いてみた 転勤は?子育ては?」には以下の記載があります。
松山地裁民事部の寺田さや子判事(43)と、松山家裁の寺田利彦判事(46)。中学1年生と4歳の息子さんと、家族4人で松山に住んでいます。
(中略)
――寺田さん夫婦は、どのような転勤をされてきましたか?
利彦さん「私たちは同期なので、2人とも2001年10月に任官し、私は初任地が仙台の民事部でした」
さや子さん「私は初任は仙台の刑事部でした」
利彦さん「初任地で知り合って、2005年、初任明けの次の任地で結婚しました。私は奈良地裁」
さや子さん「私は大阪地裁堺支部です」

伊東満彦裁判官(49期)の経歴

生年月日 S45.10.2
出身大学 早稲田大
退官時の年齢 34 歳
H17.3.31 依願退官
H14.4.1 ~ H17.3.30 東京地裁判事補
H11.4.1 ~ H14.3.31 山形地家裁判事補
H9.4.10 ~ H11.3.31 浦和地裁判事補

*1 平成17年5月に仙台弁護士会で弁護士登録をしました(仙台そよかぜ法律事務所HP「弁護士・司法書士紹介」参照)。
*2 山形マット死事件(平成5年1月13日,山形県新庄市の中学1年生の男子生徒の遺体が体育館用具室内において,巻かれて縦に置かれた体育用マットの中に逆さの状態で発見された事件)に関して,山形地裁平成14年3月19日判決(判例秘書に掲載。裁判長は22期の手島徹裁判官であり,陪席裁判官は41期の石橋俊一裁判官及び49期の伊東満彦裁判官)は,保護処分が確定した加害少年7人に対する遺族の損害賠償請求を棄却しました。
    仙台高裁平成16年5月28日判決(判例秘書に掲載。裁判長は22期の小野貞夫裁判官)は,山形地裁平成14年3月19日判決を取り消した上で,加害少年7人に対し,元金だけで約5700万円の支払を命じ,最高裁平成17年9月6日決定により確定しました。
*3 山形地裁平成14年3月19日判決に関しては,「裁判官が日本を滅ぼす」(2005年10月1日出版)63頁ないし110頁に詳しい事情が書いてあります。

手島徹裁判官(22期)の経歴

生年月日 S18.2.7
出身大学 中央大
退官時の年齢 59 歳
H14.7.1 依願退官
H11.4.1 ~ H14.6.30 山形地裁民事部部総括
H9.4.1 ~ H11.3.31 秋田地裁民事部部総括
H7.4.1 ~ H9.3.31 仙台高裁秋田支部判事
H3.4.1 ~ H7.3.31 福島地家裁判事
S63.4.1 ~ H3.3.31 秋田地裁判事
S60.4.1 ~ S63.3.31 千葉地裁判事
S56.4.1 ~ S60.3.31 盛岡地家裁一関支部長
S55.4.8 ~ S56.3.31 東京地裁判事
S53.4.1 ~ S55.4.7 東京地裁判事補
S51.4.1 ~ S53.3.31 釧路地家裁帯広支部判事補
S50.4.1 ~ S51.3.31 横浜地裁判事補
S48.4.16 ~ S50.3.31 横浜家裁判事補
S45.4.8 ~ S48.4.15 仙台地裁判事補

*1 山形マット死事件(平成5年1月13日,山形県新庄市の中学1年生の男子生徒の遺体が体育館用具室内において,巻かれて縦に置かれた体育用マットの中に逆さの状態で発見された事件)関して,山形地裁平成14年3月19日判決(判例秘書に掲載。裁判長は22期の手島徹裁判官であり,陪席裁判官は41期の石橋俊一裁判官及び49期の伊東満彦裁判官)は,保護処分が確定した加害少年7人に対する遺族の損害賠償請求を棄却しました。
    仙台高裁平成16年5月28日判決(判例秘書に掲載。裁判長は22期の小野貞夫裁判官)は,山形地裁平成14年3月19日判決を取り消した上で,加害少年7人に対し,元金だけで約5700万円の支払いを命じ,最高裁平成17年9月6日決定により確定しました。
*2 山形地裁平成14年3月19日判決に関しては,「裁判官が日本を滅ぼす」(2005年10月1日出版)63頁ないし110頁に詳しい事情が書いてあります。
*3 平成14年8月1日から平成25年2月8日までの間,仙台法務局所属の公証人をしていました。
*4 以下の記事も参照してください。
 部の事務を総括する裁判官の名簿(昭和37年度以降)
 高等裁判所支部
 地方裁判所支部及び家庭裁判所支部